会計不正・粉飾決算の主要類型|収益・費用・資産評価・負債・開示に現れる不正リスク

会計不正や粉飾決算を理解するうえで大切なのは、「どのような手口があるか」を暗記することではありません。

監査実務で問われるのは、その不正が財務諸表のどの項目に、どのアサーションで、どの内部統制の弱点を通じて、どのような説明不能性として現れるのかを整理できているかどうかです。

不正は、売上、費用、棚卸資産、固定資産、引当金、税効果、退職給付、金融商品、連結範囲、関連当事者、注記、記述情報といった領域に分散して現れます。

表面的には会計処理の誤りに見えるものであっても、その背景に経営者の意図、業績プレッシャー、内部統制の無効化、証憑の後付け、開示回避があるのなら、監査上の意味はまったく変わってきます。

監査基準報告書240では、財務諸表の虚偽表示は不正又は誤謬から生じるものとされ、両者はその原因となる行為が意図的であるか否かによって区別されます。そして、監査上取り扱う不正には、不正な財務報告、いわゆる粉飾と、資産の流用があると整理されています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

本稿では、会計不正・粉飾決算の主要類型を、リスク評価、監査証拠、内部統制評価、開示、監査意見形成へと接続できる形で整理していきます。

目次

会計不正は「粉飾決算」と「資産の流用」だけで単純に分けきれない

会計不正は、大きく見れば粉飾決算と資産の流用に分けられます。

粉飾決算は、財務諸表利用者を欺くために、財務諸表や関連する開示に意図的な虚偽表示を行うものです。売上を過大に見せる、費用を隠す、資産を過大に計上する、負債を過小に表示する、注記を省略する。こうした形で現れます。

一方の資産の流用は、会社の現金、預金、棚卸資産、固定資産、情報資産などを、役職員等が私的に取得・使用するものです。横領、架空請求、キックバック、在庫の横流し、会社資産の私的利用などが含まれます。

ただし、この両者は明確に切り分けられるとは限りません。

資産の流用を隠すために帳簿を改竄すれば、財務諸表上の虚偽表示が生じます。架空仕入を利用して資金を流出させれば、資産流用と費用不正が同時に発生します。棚卸資産の横流しを隠すために実地棚卸差異を調整すれば、資産の流用が棚卸資産の過大計上として財務諸表に現れます。

実務上も、会計不正は主に粉飾決算と資産の流用に整理されるものの、両者には重なり合う領域があり、粉飾決算には資産流用を伴うものと伴わないものがあると理解しておく必要があります。

ですから監査人は、「これは横領だから財務諸表監査の論点ではない」「これは会計処理の誤りだから不正リスクではない」と、早い段階で分類してしまってはいけません。重要なのは、その事象が財務諸表の金額、表示、注記、内部統制報告、開示にどう波及するのかです。

粉飾決算の基本構造は「利益を大きく見せる」だけではない

粉飾決算と聞くと、利益を過大に表示する行為が想起されがちです。たしかに、売上の架空計上、費用の先送り、資産の過大計上、負債の過小計上は典型的といえます。

しかし、粉飾決算の目的は、常に利益の過大表示とは限りません。

利益を平準化するために、好業績期にあえて利益を過小表示することがあります。将来の損失処理に備えて、過大な引当金を計上することもあります。業績連動報酬、金融機関との財務制限条項、上場審査、株価、配当、税務、事業再編、買収価格、経営者交代。会社が置かれた状況に応じて、財務諸表を歪める方向は変わってくるのです。

したがって、粉飾決算の類型を理解するには、「利益を増やす手口」を押さえるだけでは足りません。

監査上は、少なくとも次の方向を意識しておく必要があります。

  • 売上又は収益を過大にする
  • 費用又は損失を過小にする
  • 資産を過大にする
  • 負債を過小にする
  • 収益又は費用の期間帰属を操作する
  • 会計上の見積りを経営者に有利な方向へ偏らせる
  • 連結範囲又は関連当事者取引を利用して実態を見えにくくする
  • 注記又は記述情報を省略・不明瞭化する
  • 業績指標、財務制限条項、上場審査、資金調達に都合のよい表示を行う

粉飾決算は、単なる仕訳の誤りではありません。企業が外部に見せたい財務報告像を作り込む行為として理解する必要があります。

類型1 不適切な収益認識

会計不正のなかで、最も典型的であり、監査上の重要性も高くなりやすいのが、不適切な収益認識です。

監査基準報告書240では、不正な財務報告による重要な虚偽表示に対するリスク対応手続の例として、収益に関する分析的実証手続、契約条件や付帯契約の確認、検収条件・引渡条件・支払条件・返品権・解約条項等の検討、期末日近くの売上と出荷への質問、売上や棚卸資産のカットオフ手続などが挙げられています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

不適切な収益認識は、主に次のような形で現れます。

  • 架空売上
  • 売上の前倒し計上
  • 未出荷売上
  • 検収前売上
  • 返品・取消・値引を無視した売上計上
  • 循環取引
  • 本人・代理人判定の誤りによる総額表示
  • リベート、ポイント、変動対価の不適切処理
  • 複数履行義務の識別誤り
  • 長期契約の進捗度操作
  • 関連当事者又は実体の乏しい取引先を利用した売上計上

現在の収益認識基準のもとでは、収益は、契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の履行義務への配分、履行義務の充足というステップで判断されます。収益認識の「単位」「金額」「タイミング」は、従来実務から変わる可能性があり、この三つはいずれも不正リスクの着眼点になります。

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示について定めることを目的としており、同基準の範囲に定める収益については、企業会計原則より優先して適用されるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

収益認識不正で監査人が見るべきこと

収益認識不正では、「請求書があるか」「入金があるか」だけでは足りません。

請求書は作成できます。入金は循環取引や資金還流で作れます。契約書も、後付けで整備されることがあります。

監査人が見るべきなのは、収益認識の前提となる経済実態です。

契約は実在するか。
相手先は実体を有しているか。
商品又はサービスは本当に移転しているか。
支配は移転しているか。
検収条件は満たされているか。
返品権、解約条項、買戻し、再販売保証はないか。
入金は最終的に会社に帰属しているか。
取引先との間で、逆方向の仕入、外注費、広告費、協賛金、貸付、保証がないか。
期末日近くの売上が翌期に取り消されていないか。
売上と売上原価、在庫、物流、請求、入金、債権回収が整合しているか。

不正リスクの高い収益認識では、売上単体を見ても不十分です。売上、債権、入金、在庫、原価、契約、物流、関連当事者、開示をつなげて見る必要があります。

類型2 費用・負債の隠蔽

粉飾決算では、売上を増やすだけでなく、費用や負債を隠すことも行われます。

費用・負債の隠蔽には利益を過大に見せる効果があるため、業績悪化局面、赤字回避、財務制限条項への抵触回避、上場審査、資金調達、配当維持といったプレッシャーがある場合に、問題になりやすい類型です。

典型的には、次のような形で現れます。

  • 未払費用の未計上
  • 買掛金・未払金の未計上
  • 仕入・外注費・販管費の翌期計上
  • 引当金の未計上又は過小計上
  • 偶発債務の非開示
  • 債務保証や損失補填契約の非開示
  • リース、借入、ファイナンス取引の不適切処理
  • 子会社又は関連会社への損失の付け替え
  • 仕入先からの請求書未着を理由とした費用計上の遅延
  • 訴訟、行政処分、補償、返品、品質問題に関する損失の見送り

購買・仕入債務管理の実務では、不適切な仕入先選定による不正、架空仕入や値引・リベートによる粉飾、仕入に関連したキックバック・横領などが、購買プロセス上のリスクとして整理されます。

費用・負債の隠蔽が難しいのは、「記録されていないもの」を監査しなければならない点です。帳簿に計上されている仕訳を検証するだけでは、未計上負債や簿外債務は見つかりません。

費用・負債隠蔽で見るべきこと

監査上は、次の観点が重要になります。

  • 期末日後の支払から、期末日前の債務を遡及して確認する
  • 仕入先別元帳、買掛金元帳、未払金元帳に異常残高やマイナス残高がないかを見る
  • 請求書未着、検収遅れ、締日ズレを理由に未計上になっていないかを確認する
  • 稟議書、契約書、発注書、検収記録、納品書、メール、支払予定表と会計記録を照合する
  • 弁護士確認、訴訟一覧、クレーム一覧、品質保証、補償契約、債務保証を確認する
  • 取引先との残高確認だけでなく、取引先一覧の網羅性を見る
  • 子会社、関連会社、特別目的会社、関連当事者を利用した損失移転がないかを確認する

簿外債務は、取引先残高確認だけで十分に把握できるとは限りません。取引先一覧にそもそも載っていない債務、契約上は存在するが会計記録に反映されていない債務、関連当事者を通じた隠れた負担などがあるためです。

類型3 費用・収益の期間帰属操作

費用・収益の期間帰属操作は、一見すると単なるカットオフ誤りに見えることがあります。

しかし、期末日近くの取引に集中している、経営者の業績目標や財務制限条項と結びついている、翌期に反対仕訳や取消が行われている。こうした場合には、不正リスクとして扱うべき可能性があります。

期間帰属操作には、主に次のようなものがあります。

  • 売上の前倒し計上
  • 出荷基準の恣意的適用
  • 検収前売上
  • 未出荷売上
  • 期末直前の押し込み販売
  • 費用の翌期送り
  • 広告宣伝費、研究開発費、保守費、外注費の資産計上又は未計上
  • 仕入や原価のカットオフ操作
  • 返品、値引、キャンセルの翌期処理
  • 決算整理仕訳による利益調整

期間帰属操作では、期末日前後の数日間だけを見るのでは足りないことがあります。取引条件、検収条件、返品条件、支払条件、そして出荷・納品・検収・請求・入金の流れを確認しなければ、売上認識の時点を説明できないからです。

監査基準報告書240も、期末日又は期末日近くに発生する重要かつ通例でない取引について、関連当事者との取引の可能性や資金移動の裏付けを調査すること、売上や棚卸資産のカットオフ手続を実施することなどを、不正リスク対応手続の例として示しています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

期間帰属操作で重要なのは、「年度末に近いから危険」という形式論ではありません。

なぜその時期に取引が集中しているのか。
翌期に取消、返品、値引、再交渉が生じていないか。
売上と原価、棚卸資産、物流、入金、債権回収が整合しているか。
取引の経済実態より、会計処理上の効果が強調されていないか。

こうした観点から、期間帰属を財務報告リスクとして捉える必要があります。

類型4 棚卸資産の過大計上・評価損未計上

棚卸資産は、粉飾決算が現れやすい領域です。

理由は三つあります。

第一に、実在性の確認には現場性が求められ、監査人がすべての在庫を直接確認することはできません。第二に、評価には滞留、陳腐化、販売可能性、原価計算、正味売却価額といった判断が含まれます。第三に、売上原価と利益に直接影響するため、在庫を過大にすれば利益を過大に表示できてしまいます。

棚卸資産に関する粉飾決算の代表例は、在庫の過大計上と評価損の未計上です。棚卸資産に関連する不正は、個人レベルから組織ぐるみまで幅広く、なかでも組織ぐるみの粉飾決算は発見が非常に困難になり得ます。

具体的には、次のような形で現れます。

  • 架空在庫の計上
  • 実地棚卸数量の水増し
  • 棚札の重複、未使用棚札の悪用
  • 他社預け在庫、外部倉庫在庫の水増し
  • 不良品・滞留品・陳腐化品の評価損未計上
  • 原価計算の操作
  • 仕掛品残高の水増し
  • カットオフ操作による在庫・売上原価の調整
  • 在庫の横流し又は盗難の隠蔽
  • 子会社又は海外拠点在庫の実態不明

監査基準報告書240でも、棚卸数量に関する不正への対応として、在庫記録の査閲、予告なしの棚卸立会、一斉カウント、期末日又は期末日近くの棚卸、箱詰品の内容や積み方、品質の確認、棚卸資産の種類・区分・所在場所別の比較、CAATによる棚札番号の検証などが例示されています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

棚卸資産不正で見るべきこと

棚卸資産では、数量と評価を分けて考える必要があります。

数量については、実在性、網羅性、所有権、保管場所、カットオフ、棚札管理が中心になります。評価については、滞留、陳腐化、正味売却価額、原価計算、評価ルールの継続適用が中心です。

実地棚卸を実施していても、それだけで十分とは限りません。棚卸実施要領が形式的である、棚札管理が弱い、外部倉庫の確認が不十分である、滞留在庫リストが経営者に都合よく作成されている、原価計算の配賦基準が恣意的である。こうした場合には、在庫の実在性又は評価に関する不正リスクが残ります。

類型5 固定資産・減損・リースの不適切処理

固定資産領域では、費用の資産計上、減価償却の操作、減損損失の未計上、リース取引の不適切処理などが問題になります。

典型的には、次のような形です。

  • 修繕費を資本的支出として資産計上する
  • 研究開発費や広告宣伝費を不適切に資産化する
  • 取得原価に含めるべきでない費用を資産に含める
  • 減価償却方法、耐用年数、残存価額を恣意的に設定する
  • 遊休資産、低収益資産、撤退予定資産の減損兆候を無視する
  • 減損テストにおける将来キャッシュ・フローを楽観的に見積もる
  • 資産グルーピングを恣意的に設定する
  • リース識別やリース期間を不適切に判断する
  • セール・アンド・リースバックや非定型資産取引を利用する

固定資産は、取得原価を耐用年数にわたって費用配分する性質を持ちます。そのため、資産計上すべきか費用処理すべきか、どの期間で費用配分するか、減損が必要か。これらの判断が利益に大きく影響します。有形固定資産は、原則として長期に使用する目的で所有し、具体的形態を有する資産であり、償却資産、減耗性資産、非償却資産、建設仮勘定などに分けられます。

減損領域では、会計上の見積りと経営者バイアスが、とりわけ問題になります。事業計画、成長率、利益率、割引率、撤退予定、資産グルーピングの判断が、損失認識を左右するからです。

監査人は、固定資産の会計処理だけを見るのではなく、取締役会資料、事業計画、予算実績差異、設備稼働状況、撤退・統合・遊休化の情報、減損兆候、資金繰り、そして開示との整合を確認する必要があります。

類型6 会計上の見積りを利用した利益操作

会計上の見積りは、会計不正が最も見えにくい領域の一つです。

見積りには、そもそも不確実性があります。将来の結果が見積額と異なったとしても、それだけで誤謬や不正になるわけではありません。しかし、見積り時点で当然考慮すべき情報を無視していた場合、あるいは経営者に有利な仮定が一貫して採用されていた場合には、監査上、慎重な検討が必要になります。

会計上の見積りは、財務諸表作成者である経営者が将来事項を予測して期末に金額を見積もるものであり、そこには経営者の偏向の可能性と見積りの不確実性が伴います。見積額と実績が乖離した場合には、乖離そのものではなく、乖離が生じた原因を慎重に検討する必要があります。

会計上の見積りを利用した粉飾には、次のようなものがあります。

  • 貸倒引当金の過小計上
  • 返品、値引、リベート、ポイントに関する見積り不足
  • 棚卸資産評価損の未計上
  • 減損損失の未計上
  • 繰延税金資産の過大計上
  • 退職給付債務の前提操作
  • 引当金の未計上又は過小計上
  • 偶発債務の非開示
  • 金融商品の時価評価の恣意性
  • 継続企業の前提に関する見通しの楽観化

監査基準報告書540は、会計上の見積りに係るアサーションが重要な虚偽表示となる可能性について、見積りの不確実性、複雑性、主観性、その他の固有リスク要因の影響を受けることがあるとしています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」

見積り不正を見抜くうえで重要なのは、個別の見積りだけでなく、見積り全体の方向性を見ることです。

減損では楽観的、税効果でも楽観的、貸倒引当金も少ない、棚卸評価も甘い、引当金も少ない。こうした全体傾向が見て取れる場合には、個々の見積りに一定の説明があったとしても、経営者バイアスとして評価する必要があります。

類型7 金融商品・時価・デリバティブ・ヘッジ会計の不適切処理

金融商品領域では、分類、時価評価、減損、信用リスク、デリバティブ、ヘッジ会計、注記が複雑に絡み合います。

不正又は重要な虚偽表示は、次のような形で現れます。

  • 有価証券の分類誤り
  • 時価評価の恣意的算定
  • 評価損の未計上
  • 非上場株式や投資有価証券の実質価額低下の見落とし
  • デリバティブの簿外化
  • ヘッジ会計の要件未充足
  • ヘッジ有効性評価の不備
  • 金融商品のリスク注記の不足
  • 関連当事者を通じた金融取引の非開示
  • 資金循環取引や実質的融資の売買取引化

金融資産には、現金預金、金銭債権、有価証券、デリバティブ取引により生じる正味の債権などが含まれます。金融商品は、金融資産、金融負債、デリバティブ取引に係る契約の総称として整理されます。

時価領域では、評価技法、インプット、第三者価格、関連当事者間取引、そして秩序ある取引かどうかが問題になります。金融商品の時価は、単に評価額を入手すればよいというものではありません。その評価が市場参加者の仮定、取引市場、評価単位、インプットの信頼性と整合しているかを検討する必要があります。

デリバティブでは、取引の存在、時価、評価差額、ヘッジ指定、ヘッジ対象、文書化、有効性評価が監査上の焦点になります。デリバティブ取引は、原則として時価評価され、評価差額が損益処理されます。そのため、取引を簿外化したり、ヘッジ会計を不適切に適用したりすると、財務諸表に重要な影響が生じます。

類型8 税効果・退職給付・引当金の不適切判断

税効果、退職給付、引当金は、負債・費用・資産評価・見積りが交差する領域です。

税効果会計

税効果会計では、繰延税金資産の回収可能性が、不正リスクと結びつきやすい論点になります。

将来課税所得を楽観的に見積もれば、繰延税金資産を過大に計上できます。逆に、将来の業績悪化、事業撤退、税務上の繰越欠損金、スケジューリング不能差異、税務調査リスクを適切に反映しなければ、資産と利益が過大になる可能性があります。

税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と、課税所得計算上の資産又は負債の額との相違を調整対象とし、法人税等と税引前当期純利益を合理的に対応させる手続です。

退職給付

退職給付では、割引率、昇給率、退職率、死亡率、年金資産の公正価値、数理計算上の差異、制度変更などが財務諸表に影響します。退職給付債務は将来給付の割引現在価値であり、前提の設定によって負債額や費用額が変わります。

引当金

引当金では、将来の特定の費用又は損失であること、その発生が当期以前の事象に起因すること、発生可能性が高いこと、金額を合理的に見積もれること。これらが中心的な論点になります。引当金は、費用又は損失を当期に見越計上するためのものであり、過小計上すれば利益を過大にし、過大計上すれば利益を将来へ繰り延べる効果を持ちます。

これらの領域では、経営者の説明だけでなく、過年度実績、外部データ、取締役会資料、資金計画、法務資料、専門家報告書、感応度、開示内容との整合を確認する必要があります。

類型9 連結範囲・組織再編・特殊取引を利用した粉飾

連結範囲や組織再編は、粉飾決算が現れやすい高難度領域です。

典型的には、次のような形で現れます。

  • 損失を抱える子会社を連結範囲から除外する
  • 実質支配している会社を非連結とする
  • 関連会社又は持分法適用の判断を恣意的に行う
  • 特別目的会社を利用して負債や損失を移転する
  • 企業結合、事業分離、会社分割を利用して損益を作る
  • グループ内取引を通じて売上や利益を作る
  • 関連当事者取引を第三者取引のように表示する
  • 組織再編の会計処理を形式に寄せて実態を隠す

連結範囲や組織再編では、法的形式と経済実態がずれることがあります。株式保有割合だけでなく、役員派遣、資金提供、契約上の支配、意思決定権、リスクと便益の帰属まで検討しなければなりません。

会計不正の類型としても、連結除外、特殊な金融取引、関連当事者取引は、財務諸表利用者に企業集団の実態を見誤らせる可能性があります。

監査基準報告書240は、重要かつ通例でない取引、とりわけ期末日又は期末日近くの取引について、関連当事者との取引の可能性や資金移動の裏付けを調査することを例示しています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」

類型10 開示不備・注記省略・記述情報との不整合

会計不正は、財務諸表本体の金額だけでなく、注記や開示にも現れます。

粉飾決算は、計上すべき金額を計上しないことだけでなく、財務報告に必要な開示を行わないことも含むものとして理解すべきです。

開示不備には、次のようなものがあります。

  • 関連当事者取引の非開示
  • 偶発債務の非開示
  • 継続企業の前提に関する注記不足
  • 会計上の見積りの開示不足
  • 収益認識に関する注記不足
  • セグメント情報の不適切表示
  • 金融商品リスクの開示不足
  • 重要な後発事象の非開示
  • 内部統制の不備に関する開示不足
  • 記述情報と財務諸表の不整合
  • 適時開示が必要な事実の開示漏れ

企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」では、会計上の見積りとは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出することとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」

見積りの不確実性が高い領域では、金額の監査だけでは不十分です。財務諸表利用者が、不確実性、主要な仮定、翌年度への影響を理解できるように開示されているかを確認する必要があります。

上場会社では、適時開示との関係も重要になります。適時開示実務では、決算情報、決定事実、発生事実、開示時期、開示漏れの防止、不適正な開示への措置などが重要な論点です。

金融商品取引法は、投資家が適切に情報を入手できる環境を整備し、不公正な取引や人為的な価格操作を防ぐことにより、投資家保護を図る制度です。

したがって、会計不正の検討は、財務諸表本体の修正だけで終わらせるわけにはいきません。有価証券報告書、決算短信、適時開示、内部統制報告書、監査報告書、KAM、監査役等への報告まで見通す必要があります。

類型11 資産の流用とその隠蔽

資産の流用は、粉飾決算とは異なる目的で行われることがあります。

しかし、資産流用を隠蔽するために帳簿を操作すれば、それは財務諸表の虚偽表示に直結します。

主な類型は、次のとおりです。

  • 現金預金の横領
  • 売上入金の着服
  • 小口現金の不正使用
  • 架空請求による支払
  • 水増し請求によるキックバック
  • 在庫の横流し
  • 固定資産の私的利用又は無断処分
  • コーポレートカードの私的利用
  • 実態のない外注費、業務委託費、広告費の支払
  • 役員又は従業員関係者への不適切支払

内部監査の観点では、不正は大別して汚職、資産の不正流用、不正な報告に分類され、不正な報告には財務関連の粉飾決算、脱税、違法配当などが含まれます。

資産流用は、金額が少額であれば監査上の重要性は低いと見られることがあります。しかし、関与者が上位者である、長期間継続している、内部統制が無効化されている、関連当事者が関与している、開示や内部統制報告に影響する。こうした場合には、質的重要性が高くなります。

類型12 仮装経理・税務への波及

粉飾決算は、税務上は仮装経理として問題になることがあります。

仮装経理とは、会計処理基準や事実に反して故意に利益を計上し、経営成績や財政状態を法人にとって都合のよい姿に変えて、株主、投資家、金融機関等に開示することと整理されます。

粉飾決算では、会計上の利益を過大に表示するため、結果として法人税を過大に申告・納付していることがあります。しかし、仮装経理に基づく過大申告では、通常の過大納付と同じように直ちに全額が還付されるとは限りません。修正経理や後続事業年度での控除など、税務上の特有の取扱いが問題になります。

本稿では税務上の詳細な取扱いには踏み込みませんが、監査上は、粉飾決算が財務諸表だけでなく、税務申告、繰延税金資産、税効果、過年度訂正、開示、責任問題にまで波及することを意識しておく必要があります。

会計不正の類型は、財務諸表項目ではなく「アサーション」で整理する

会計不正の類型を理解するうえで、勘定科目別の整理だけでは不十分です。

監査上は、アサーションに落とし込む必要があります。

類型主な勘定科目問題になりやすいアサーション
架空売上売上高、売掛金実在性、発生、正確性、期間帰属
売上前倒し売上高、契約資産、売掛金期間帰属、発生、表示
費用先送り売上原価、販管費、未払金網羅性、期間帰属
簿外債務未払金、引当金、偶発債務網羅性、表示、注記
棚卸資産過大棚卸資産、売上原価実在性、評価、期間帰属
評価損未計上棚卸資産、固定資産、投資有価証券評価、表示
見積り操作引当金、税効果、減損、退職給付評価、網羅性、注記
連結除外子会社、関連会社、連結財務諸表網羅性、表示、開示
関連当事者非開示注記、売上、費用、債権債務表示、注記、実在性
開示不備注記、記述情報、内部統制報告表示、注記、完全性

この整理を欠いたままでは、会計不正の類型は単なる手口一覧にとどまってしまいます。

「架空売上」と聞いたときに、売上高の発生だけでなく、売掛金の実在性、入金の実在性、在庫の減少、売上原価、取引先の実体、関連当事者性、収益認識注記、KAM候補まで接続できること。それが監査上の判断力です。

会計不正の兆候は、財務数値だけでなく業務プロセスに現れる

会計不正は、財務諸表の異常値として現れる前に、業務プロセスの違和感として現れることがあります。

販売プロセスであれば、期末日近くの大量出荷、検収遅れ、返品増加、特定取引先への依存、請求と入金のズレが兆候になります。

購買プロセスであれば、特定仕入先への集中、架空外注、キックバック、取引先マスタの不自然な追加、検収証憑の弱さが兆候です。

棚卸プロセスであれば、実地棚卸差異、外部倉庫在庫、滞留在庫、棚札管理、原価計算の配賦基準が兆候になります。

決算プロセスであれば、締切後仕訳、トップサイド仕訳、経営者指示による修正、根拠資料の後付け、監査依頼後の説明変更が兆候です。

業務フローを理解することは、内部統制上のリスクを識別する前提になります。現実的にも、あるべき業務フローを知らずにリスクを特定することは困難です。典型的な業務フローを理解したうえで、なぜその内部統制が必要なのかを考えることが有用です。

会計不正の類型を監査計画にどう反映するか

会計不正の類型整理は、監査計画に反映されなければ意味を持ちません。

監査における不正リスク対応基準では、監査人は不正リスクを適切に評価するため、企業及び当該企業が属する産業を取り巻く環境を理解するにあたり、公表されている主な不正事例や、不正に利用される可能性のある一般的及び産業特有の取引慣行を理解しなければならないとされています。また、経営者、監査役等、必要な場合には関連するその他の企業構成員に不正リスクに関連する事実を質問し、監査計画に反映することが求められています。
出典:金融庁・企業会計審議会|監査における不正リスク対応基準

監査計画への反映にあたっては、次の問いを立てる必要があります。

  • この会社で最も操作されやすい財務指標は何か
  • 経営者にどのような動機・プレッシャーがあるか
  • どの業務プロセスに統制の弱点があるか
  • どの勘定科目が不正リスクと結びつくか
  • どのアサーションに重要な虚偽表示リスクがあるか
  • 通常の監査手続で足りるか
  • 外部証拠、確認、立会、再実施、データ分析、専門家利用が必要か
  • 監査役等や内部監査との連携が必要か
  • 開示、内部統制報告、監査報告に波及する可能性があるか

「不正リスクあり」と書くだけでは、監査計画にはなりません。どの類型の不正が、どの財務諸表項目に、どの証拠不足として現れるのかまで具体化する必要があります。

内部統制評価との関係

会計不正は、内部統制の不備と結びつきます。

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準では、内部統制は、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全という四つの目的が達成されているとの合理的保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスであるとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

不正類型と内部統制の関係を整理すると、次のようになります。

  • 不適切な収益認識は、契約管理、出荷、検収、請求、入金、返品管理、収益認識判断の統制と関係する
  • 費用・負債隠蔽は、発注、検収、請求書受領、未払計上、契約管理、弁護士確認の統制と関係する
  • 棚卸資産不正は、実地棚卸、棚札管理、外部倉庫管理、受払管理、評価ルール、原価計算の統制と関係する
  • 見積り不正は、事業計画、経営者レビュー、専門家利用、仮定承認、感応度分析の統制と関係する
  • 連結除外は、子会社管理、投資管理、関連当事者管理、取締役会報告の統制と関係する
  • 開示不備は、開示基礎資料、開示チェック、法務・経理・IR連携、監査役等報告の統制と関係する

内部統制に不備があるからといって、直ちに不正があるとは限りません。しかし、不正が発生した場合には、なぜその不正を防止又は発見できなかったのかを、内部統制の観点から評価する必要があります。

会計不正の類型を監査調書にどう残すか

会計不正の類型整理は、監査調書上も説明可能なものでなければなりません。

単に「不適切な収益認識に留意した」「棚卸資産の評価を検討した」「見積りに問題なし」と記載するだけでは、監査判断の説明としては不十分です。

調書では、次の流れが見える必要があります。

  • 会社の事業、業績、資金繰り、外部環境から、どの不正類型が想定されるか
  • その類型はどの財務諸表項目、アサーション、開示に影響するか
  • 内部統制上、どこに機会があるか
  • 経営者の動機、プレッシャー、姿勢、過年度の会計処理傾向はどうか
  • 監査チーム内でどのような不正シナリオを討議したか
  • 選択した監査手続は、識別した不正類型に対応しているか
  • 入手した証拠に矛盾はないか
  • 未解消の疑義がある場合、監査意見、開示、監査役等報告にどう影響するか

監査調書は、手続を実施した記録ではありません。リスク評価、証拠形成、判断過程を、後から説明するための文書です。

会計不正の類型を整理する目的も、手口を網羅することにはありません。監査人が、なぜその不正リスクを識別し、なぜその証拠で十分と判断し、なぜ監査意見に至ったのかを説明できる状態にすることです。

会計不正・粉飾決算の主要類型を一言で整理する

会計不正・粉飾決算は、次のように整理できます。

売上を作る。
費用を消す。
資産を膨らませる。
負債を隠す。
期間をずらす。
見積りを偏らせる。
連結範囲を操作する。
関連当事者を見えにくくする。
開示を省く。
資産流用を帳簿で隠す。

監査人に求められているのは、これらを個別の手口として記憶することではありません。

どの類型が、その会社の事業、業績、内部統制、経営者判断、開示制度と結びつくのかを見極めることです。

不正リスク対応の本質は、「不正があるかどうか」を勘で判断することにはありません。不正による重要な虚偽表示が、どこに、どのように、なぜ生じ得るのかを説明できる監査判断へと落とし込むことです。

会計不正・粉飾決算の類型整理に関するご相談について

会計不正・粉飾決算の検討では、不正事例や手口を知るだけでは足りません。

自社又は監査対象会社の事業構造、内部統制、決算プロセス、会計上の見積り、関連当事者、開示体制、監査役等との連携を踏まえ、どの類型の不正がどの財務諸表項目に影響し得るのかを整理する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法定監査、内部統制、財務報告、開示、不正リスク、会計上の見積りに関する論点整理について、後から説明できる判断過程の構築を重視して支援しています。

不正リスクの評価、会計不正類型の整理、内部統制不備の評価、監査役等への説明、開示・訂正対応の前提整理に課題がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。初回のご相談では、まず論点の所在、財務諸表への影響、関係者への説明上の課題、そして専門家が関与すべき範囲を整理いたします。

重要事項の振り返り

論点実務上の要点
会計不正の基本分類不正な財務報告、いわゆる粉飾と、資産の流用に分けられるが、両者は重なり合う。
不適切な収益認識架空売上、前倒し計上、未出荷売上、循環取引、リベート・返品・履行義務の誤りに注意する。
費用・負債の隠蔽未払費用、買掛金、引当金、偶発債務、損失補填契約、簿外債務の網羅性を見る。
期間帰属操作期末日前後の売上、出荷、検収、返品、費用先送り、締切後仕訳を確認する。
棚卸資産不正在庫の過大計上、架空在庫、棚札操作、外部倉庫、滞留品、評価損未計上に注意する。
固定資産・減損費用の資産化、耐用年数、減損兆候、将来キャッシュ・フロー、グルーピングを検討する。
見積り不正貸倒、減損、税効果、引当金、退職給付などで経営者バイアスの全体傾向を見る。
金融商品・時価分類、時価評価、デリバティブ、ヘッジ会計、リスク注記の複雑性に注意する。
連結範囲・関連当事者形式的な持株比率だけでなく、実質支配、資金関係、取引実態、開示の網羅性を見る。
開示不備財務諸表本体だけでなく、注記、有報、適時開示、内部統制報告、監査報告への波及を見る。
資産流用横領やキックバックであっても、隠蔽処理により財務諸表の虚偽表示につながる。
監査調書化類型、アサーション、内部統制、証拠、判断過程を後から説明できる形で残す。
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