購買・棚卸・医薬品・固定資産の管理体制|医療機関のコスト・資産・投資判断を守る内部統制

医療機関の内部管理というと、まず窓口現金やレセプト請求に目が向きがちです。しかし、経営数字を実際に大きく左右しているのは、日々購入している「物」の管理です。医薬品、診療材料、検査試薬、消耗品、医療機器、IT機器、内装、リース資産——こうしたものをどう扱うかが、経営の土台を静かに支えています。

医療機関では、診療の質を守るために、必要な物品を必要な時に確保しなければなりません。その一方で、物品管理が属人的になると、さまざまなほころびが生まれます。過剰在庫、期限切れ、廃棄ロス、価格条件の不透明化、発注漏れ、二重発注、支払誤り、固定資産台帳の未整備、リース契約の見落とし、税務処理の誤り。いずれも、現場では気づきにくいまま積み重なっていくものです。

購買・棚卸・固定資産管理は、単なる節約の話ではありません。医療安全、コスト管理、不正防止、税務申告、償却資産申告、資金繰り、設備更新、そして承継・M&Aに耐える説明資料づくりまで、幅広くつながっていく論点です。

本稿では、クリニック・診療所・医療法人が、購買、棚卸、医薬品・診療材料、医療機器、固定資産、リース資産をどのように管理すべきかを、経営判断に使える形で整理してみたいと思います。

目次

購買・棚卸・固定資産は、別々の事務ではなく一つの流れで見る

医療機関の物品管理は、本来、次のような一本の流れとしてつながっています。

段階主な内容管理が弱い場合に起こる問題
購買依頼現場が必要な物品を申請する本当に必要か、数量が妥当か分からない
承認院長・事務長等が購入を承認する高額品や例外購入が属人的に決まる
発注業者へ注文する二重発注、価格条件の不透明化、キックバックリスク
納品・検収届いた物品を確認する請求書だけで支払い、未納・数量違いに気づかない
使用・払出診療現場で消費する使用量、診療件数、請求内容との対応が見えない
棚卸期末・月次・四半期で実在庫を確認する期限切れ、過剰在庫、紛失、棚卸漏れが起こる
支払請求書に基づき支払う架空請求、重複支払、承認漏れが起こる
会計処理費用・棚卸資産・固定資産に区分する利益、税務、資産残高が歪む
廃棄・除却期限切れ、故障、更新、廃棄を処理する台帳上は残っているが実物がない、廃棄証跡がない

この流れを途中で分断して考えてしまうと、問題はとたんに見えにくくなります。

たとえば、医薬品を購入した時点では「費用」のように見えます。しかし、期末に未使用で残っていれば、それは棚卸資産です。医療機器を購入した時点では「支払」が発生しますが、会計・税務上は固定資産として減価償却するものなのか、少額資産として処理できるものなのか、あるいは修繕費か資本的支出か——その区分を確認する必要があります。リース契約で導入した医療機器も同様に、会計・税務・契約管理・保守管理の対象になります。

つまり、購買管理とは「安く買うこと」だけを指すのではありません。必要性、価格、納品、使用、在庫、支払、会計、税務、廃棄に至るまでを、後から第三者に説明できる状態にしておくこと。それが本質だと考えています。

購買承認は「金額」と「リスク」で分ける

小規模なクリニックでは、院長が口頭で「それ買っておいて」と指示し、受付や看護師が発注する、という場面が珍しくありません。日常消耗品であれば、それで十分に回ることもあるでしょう。

ただ、医療機関で扱う物品の中には、価格が高いもの、保管管理が必要なもの、診療報酬や施設基準に関係するもの、税務処理に影響するものが含まれます。そのため、購買承認を「何円以上は院長承認」とだけ決めておくのでは不十分です。金額とリスクを組み合わせて考える必要があります。

購買区分承認の考え方
日常消耗品事務用品、清掃用品、一般消耗品月次予算内で事務長・担当者が承認
通常診療材料ガーゼ、注射針、検査用品、包帯等使用量・在庫水準を確認し、担当責任者が承認
医薬品投薬用薬品、注射薬、ワクチン、検査試薬等保管条件・期限・発注単位・使用見込みを確認
高額診療材料インプラント、カテーテル、高額処置材料等診療予定・請求可能性・在庫リスクを確認
医療機器エコー、内視鏡、レントゲン、検査機器等投資額、保守、償却、資金繰り、投資回収を確認
IT・システム電子カルテ、予約システム、サーバー、PC等契約期間、保守、データ管理、資産計上を確認
内装・設備診察室改修、処置室、空調、看板等修繕費か資本的支出か、賃貸借契約との関係を確認

ここで大切なのは、現場が必要と感じるものを否定することではありません。その必要性を、きちんと説明できる形にすることです。

診療材料が不足すれば、診療の質と患者さんへの対応に影響します。逆に、過剰に抱えれば、資金がそのまま在庫に寝てしまいます。高額な医療機器を導入すれば診療価値が上がる可能性はありますが、稼働率や採算が伴わなければ、減価償却費、リース料、借入返済が経営を圧迫することになります。

購買承認は、現場を縛るための仕組みではありません。診療上の必要性と、経営上の説明可能性を両立させるためのものだと捉えています。

発注と検収を同じ人だけに任せない

購買管理で最も基本となる内部統制は、発注、納品確認、支払承認を分けることです。

理想をいえば、発注担当者、検収担当者、支払担当者を別々に置きます。とはいえ、小規模な診療所で完全な職務分掌を実現するのは難しいでしょう。それでも、最低限の牽制は必要です。

業務最低限の確認
発注発注者、発注日、品目、数量、業者、見積額を記録する
納品納品書と実物を照合し、数量・品番・期限を確認する
請求請求書が納品済みのものか確認する
支払納品書・請求書・承認記録を見て支払う
月次確認業者別支払額、単価変動、高額購入、返品・値引きを確認する

特に注意したいのが、「請求書が来たから支払う」という運用です。請求書は、あくまで支払依頼の資料であって、納品の事実を証明する資料ではありません。納品書、検収記録、発注記録と照合してはじめて、数量違い、未納、二重請求、返品未反映といったずれに気づくことができます。

また、医薬品卸、検査会社、医療機器業者、リース会社、システム会社との取引では、取引条件が長期にわたって固定化しやすい傾向があります。単価改定、値引条件、リベート、保守料、消耗品価格、契約更新条件を定期的に確認しておかないと、コストがじわじわと上がっていても気づきにくくなります。

業者選定は価格だけでなく、医療継続リスクも見る

医療機関の購買では、価格の安さだけで業者を選ぶわけにはいきません。

医薬品や診療材料であれば、供給安定性、納期、緊急対応、保管条件、返品対応、ロット管理、代替品情報も重要です。医療機器であれば、保守対応、故障時の代替機、修理期間、点検体制、操作研修、消耗品の供給が、選定の判断を左右します。

その一方で、「昔からの付き合いだから」「担当者がよくしてくれるから」という理由だけで取引を続けるのも危険です。価格条件が不透明になり、過剰発注や特定業者への依存が起こりやすくなるからです。

業者選定にあたっては、次のような基準を持っておくとよいでしょう。

観点確認すべきこと
価格単価、値引条件、送料、保守料、消耗品価格
供給欠品時対応、代替品提案、納期、緊急配送
品質医療安全上の問題、不具合情報、使用実績
契約契約期間、自動更新、解約条件、保守範囲
内部統制見積書、発注書、納品書、請求書の整合性
関係者取引院長・役員・親族・MS法人等との関係

高額な医療機器やITシステムについては、相見積もりを形式的に取るだけでは足りません。初期費用、保守料、消耗品、更新費用、リース料、解約違約金、データ移行費用まで含めた総コストで判断する必要があります。

棚卸資産は「買ったもの」ではなく「まだ使っていないもの」を見る

医療機関の棚卸管理でよくある誤解が、「医薬品や診療材料は買った時点で費用」というものです。

確かに、会計処理上、重要性が低い少額消耗品については、購入時または払出時に費用処理することがあります。しかし、期末時点で未使用の医薬品、診療材料、高額材料、検査試薬、歯科材料、未装着の技工物などは、本来、翌期以降の診療に対応する資産として把握すべきものです。

この点は、医療法人会計基準の運用指針でも整理されています。棚卸資産の評価基準・評価方法は重要な会計方針に該当し、先入先出法、移動平均法、総平均法を原則としつつ、期間損益の計算上著しい弊害がない場合には最終仕入原価法も用いることができるとされています。また、棚卸資産のうち重要性の乏しいものについては、重要性の原則により買入時または払出時に費用処理する方法も認められています。
出典:厚生労働省|医療法人会計基準適用上の留意事項並びに財産目録、純資産変動計算書及び附属明細表の作成方法に関する運用指針

棚卸資産の管理が甘いと、利益が正しく見えなくなります。

期末直前に大量購入した医薬品や診療材料をすべて当期費用にしてしまえば、利益は実態より低く見えます。逆に、期限切れや使用不能の在庫を棚卸資産として残したままにすれば、利益も資産も実態より高く見えてしまいます。どちらの数字も、後から第三者に説明しにくいものです。

医薬品・診療材料は「場所」と「責任者」で管理する

医療機関の在庫は、必ずしも1か所にまとまっているとは限りません。

病院であれば、薬剤部、病棟、手術室、外来、中央材料室、検査室、内視鏡室、救急外来などに分散します。診療所であっても、受付、処置室、診察室、検査室、ワクチン用冷蔵庫、訪問診療用バッグ、分院・サテライト拠点などに分かれていることがあります。

そのため在庫管理では、品目だけでなく、保管場所と管理責任者まで明確にしておく必要があります。

在庫区分主な管理ポイント
医薬品使用期限、保管温度、ロット、払出記録、返品・廃棄
ワクチン冷蔵管理、温度記録、ロット、接種記録、廃棄記録
診療材料使用部署、発注点、使用量、期限、診療件数との対応
高額材料患者別使用、診療報酬請求、未使用返品、滞留確認
歯科材料・技工物未装着品、患者別対応、外注先保管、収益との対応
検査試薬使用期限、検査件数、機器連動、保管条件
貯蔵品少額器具、事務用品、燃料、日常消耗品

ここで意識したいのは、すべての品目を同じ精度で管理しようとしないことです。金額が大きいもの、期限切れリスクがあるもの、転用・紛失リスクがあるもの、診療報酬請求や患者別管理と結びつくものから、優先して管理していきます。

たとえば、ガーゼや一般消耗品であれば、発注点管理で十分なこともあります。一方で、高額な注射薬、インプラント、カテーテル、特殊検査試薬、ワクチン、麻薬等については、数量、期限、保管、使用、廃棄の記録までしっかり残しておく必要があります。

実地棚卸は、決算作業ではなく管理水準の点検である

実地棚卸は、決算のためだけに行うものではありません。

実際にどれだけ在庫があるか、帳簿や管理表と一致しているか、期限切れ・破損・滞留がないか、保管場所は適切か。これらを確認するための、れっきとした管理作業です。

棚卸を行うときは、次の点を明確にしておきます。

項目確認内容
棚卸日月末・四半期末・決算日など、基準日を決める
対象範囲医薬品、診療材料、検査試薬、貯蔵品、ワクチン、高額材料等
保管場所薬剤部、処置室、検査室、手術室、訪問診療バッグ等
カウント担当実際に数える担当者
立会・承認事務長、院長、管理責任者による確認
評価方法最終仕入原価法、総平均法等、自院の方針
差異処理帳簿との差異、原因、修正処理
廃棄予定期限切れ、破損、開封済み、滞留品
証跡保存棚卸表、承認印、廃棄記録、写真等

棚卸で重要なのは、差異をゼロに見せかけることではありません。差異が出たときに、その原因を分析し、次の発注・保管・使用ルールへ反映していくことです。

実在庫が帳簿より少なければ、使用記録の漏れ、廃棄記録の漏れ、紛失、持ち出し、入力誤りなどが考えられます。逆に実在庫が帳簿より多ければ、納品未記録、返品未処理、棚卸漏れ、複数場所での重複管理などが疑われます。

差異を「棚卸減耗損」として処理するだけでは、管理の改善にはつながりません。医療機関の経営においては、棚卸差異を会計処理だけで終わらせず、業務手順の問題として見直していくことが大切です。

期限切れ・滞留・破損在庫を放置しない

医薬品や診療材料の在庫管理で、特に重要になるのが期限管理です。

期限切れ在庫は、資産価値がなくなるだけではありません。誤使用のリスク、廃棄コスト、保管スペースの圧迫、そして診療安全上の問題にもつながります。ワクチンや冷所保存薬では、期限だけでなく温度管理も欠かせません。開封済み、破損、汚損した在庫についても、評価や廃棄の判断が必要になります。

期限切れ・滞留在庫については、あらかじめ次のようなルールを決めておくべきでしょう。

管理項目実務上のポイント
期限管理期限別リストを作成し、短いものから使用する
発注点使用量と納期を踏まえ、過剰発注を防ぐ
滞留品一定期間動きがない品目をリスト化する
廃棄承認担当者だけで廃棄せず、責任者承認を残す
廃棄証跡廃棄日、品目、数量、理由、承認者を記録する
会計処理評価減、廃棄損、棚卸減耗を月次・決算で処理する

「いつか使うかもしれない」と思って抱えている在庫は、実際には使われないまま期限切れになることが少なくありません。高額材料や特殊薬剤については、発注の前に、診療予定、患者別使用予定、代替可能性、返品条件を確認しておく必要があります。

麻薬・向精神薬等は一般在庫とは別管理にする

麻薬、向精神薬、毒薬・劇薬などは、通常の医薬品在庫とは別の管理が求められます。特に麻薬については、帳簿、受払記録、施用記録、廃棄、事故届など、一般在庫とは異なる厳格な管理が必要です。

厚生労働省のマニュアルでも、麻薬管理者等が麻薬診療施設に帳簿を備え付け、譲受、廃棄、譲渡、施用、事故届等について品名、数量、年月日等を記載する必要があるとされています。あわせて、診療録にも、患者さんの情報、病名・主症状、麻薬の品名・数量、施用・交付年月日等を記載することが求められています。
出典:厚生労働省|病院・診療所における麻薬管理マニュアル

麻薬等の管理は、税務・会計以前に、医療安全と法令遵守の問題です。ただし、受払帳簿、実在庫、診療録、棚卸表、廃棄記録が整合していなければ、内部管理上も大きな問題になります。

「薬剤師に任せている」「看護師が分かっている」では済みません。院長・理事長・事務長も、どの帳簿がどこにあり、誰が確認し、差異が出た場合にどう対応するのかを把握しておく必要があります。

感染性廃棄物・医療廃棄物は廃棄証跡まで管理する

医薬品、診療材料、注射針、血液付着物、検査資材などの廃棄は、通常の事業ごみと同じ感覚で扱うことはできません。感染性廃棄物に該当するのか、産業廃棄物・特別管理産業廃棄物としてどう処理すべきか、委託契約、マニフェスト、保管方法を確認しておく必要があります。

環境省の感染性廃棄物処理マニュアルでは、感染性廃棄物について、管理体制、管理規程、帳簿記載・保存、分別、梱包、保管、表示、委託契約、マニフェスト等が整理されています。
出典:環境省|廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル

棚卸資産を廃棄した場合、内部管理上は「捨てた」という事実だけでは足りません。何を、いつ、どれだけ、なぜ廃棄し、誰が承認し、どの業者が処理したのか。そこまで記録しておく必要があります。会計上も、廃棄損、棚卸減耗、評価減として処理すべきものがないかを確認します。

廃棄証跡がないと、税務調査や承継・M&Aの場面で、在庫の実在性、廃棄損の妥当性、医療廃棄物処理の適正性を説明しにくくなります。

医療機器・固定資産は「買った後」の管理が重要である

医療機器や内装設備は、購入時の稟議や融資手続に注目が集まりがちです。しかし、内部管理で本当に重要なのは、買った後です。

固定資産台帳には、少なくとも次の情報を記録しておきます。

項目記録する理由
資産名称何の資産かを明確にする
型式・製造番号実物確認、保守、売却、廃棄時に必要
取得日・使用開始日減価償却、税務、保証期間に影響
取得価額資産計上、減価償却、償却資産申告に必要
設置場所実物確認、分院管理、移転時に必要
管理責任者保守・使用・廃棄の責任を明確にする
耐用年数・償却方法会計・税務処理に必要
リース・借入の有無契約管理、資金繰りに影響
保守契約点検、修理、故障対応に必要
補助金・助成金処分制限、返還リスク、圧縮記帳等に影響
廃棄・売却・除却日台帳からの削除、会計処理に必要

固定資産台帳がない医療機関では、さまざまなずれが生じます。実物はあるが帳簿に載っていない。帳簿にはあるが実物がない。リース契約があるのに管理台帳がない。補助金で取得した設備の処分制限が確認されていない——こうした状態は、後々大きな問題につながります。

とりわけ承継・M&Aの場面では、固定資産台帳と実物の照合が重要になります。譲渡対象に含まれるのか、リース物件なのか、借入担保に入っているのか、保守契約が引き継げるのか、処分制限があるのか。これらによって、価格や契約条件が変わってくるからです。

医療機器は安全使用・保守点検の記録も必要になる

医療機器は、会計上の固定資産であると同時に、医療安全上の管理対象でもあります。購入したかどうか、減価償却しているかどうかだけでは足りません。

厚生労働省の通知では、医療機器の保守点検計画に、医療機器名、製造販売業者名、型式、保守点検予定時期・間隔・条件等を記載すること、保守点検記録には医療機器名、製造販売業者名、型式・型番・購入年、保守点検の年月日・概要・点検者名、修理記録等を記録することなどが示されています。さらに、外部委託する場合であっても、医療機器安全管理責任者は保守点検の実施状況等の記録を保存し、管理状況を把握することが求められています。
出典:厚生労働省|医療機器に係る安全管理のための体制確保に係る運用上の留意点について

これは、経営管理にも直結する話です。

保守点検の記録がなければ、故障時の責任関係や更新時期が判断しにくくなります。修理が頻発している機器は、更新投資を検討すべき対象です。稼働率が低い機器は、採算や診療方針との整合性を見直す必要があります。逆に、使用頻度が高く、診療価値が高い機器であれば、更新・増設・リースバックといった資金判断にもつながっていきます。

医療機器台帳は、会計台帳と保守点検台帳を別々に作るのではなく、相互に参照できる状態にしておくのが望ましいといえます。

固定資産の税務処理は「金額」だけで判断しない

固定資産の税務処理では、どうしても取得価額の金額基準に注目しがちです。確かに、10万円未満、20万円未満、一括償却資産、中小企業者等の少額減価償却資産の特例など、金額による処理の違いはあります。

国税庁は、減価償却資産について、事業に用いる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などは時の経過等で価値が減少する資産であり、取得に要した金額は取得時に全額が必要経費になるのではなく、使用可能期間にわたって分割して必要経費にするものと説明しています。あわせて、使用可能期間が1年未満または取得価額10万円未満のもの、取得価額10万円以上20万円未満の一括償却資産の扱いも示されています。
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし

法人税実務では、少額資産の判定単位にも注意が必要です。たとえばカーテンのように、1枚で機能するのではなく、部屋ごとに複数枚が組み合わされて機能するものは、部屋ごとの合計額で判定するという考え方が示されています。
出典:国税庁|No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示

さらに、令和8年度税制改正を踏まえ、中小企業者等の少額減価償却資産の特例については、一定の要件の下で、取得価額40万円未満の減価償却資産を合計300万円まで全額損金算入可能とする内容が中小企業庁から示されています。適用対象者、取得時期、申告手続、他制度との関係については、取得時点の最新情報で確認しておく必要があります。
出典:中小企業庁|少額減価償却資産の特例を拡充しました

ただし、固定資産管理で重要なのは、金額基準だけではありません。

同じ30万円、40万円の支出であっても、診療用消耗品なのか、医療機器なのか、内装改修なのか、ソフトウェアなのか、既存資産の修理なのか、あるいは価値や耐久性を高める改良なのか。それによって処理は変わってきます。税務上の処理を判断するには、請求書の金額だけでなく、実際に何を取得し、どのような機能を持ち、どこで使い、どの資産と一体になっているのかまで確認する必要があります。

修繕費と資本的支出は、設備更新判断にも影響する

医療機関では、内装、空調、給排水、電気設備、レントゲン室、処置室、看板、電子カルテ周辺機器など、修理・改修・更新が頻繁に発生します。

そこで問題になるのが、修繕費と資本的支出の区分です。

国税庁は、通常の維持管理や修理のための支出は修繕費となる一方、資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする部分の支出は資本的支出となり、修繕費とは区別されるとしています。そして、その区別は「修繕」「改良」といった名目ではなく、実質によって判定するものとされています。
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定

これは、税務処理だけの問題にとどまりません。

修繕費として一時費用処理されるものは、当期利益に大きく影響します。一方、資本的支出として資産計上されるものは、減価償却を通じて将来期間に費用配分されます。どちらになるかで、月次損益、資金繰り、設備更新計画、金融機関への説明が変わってくるのです。

そのため、修繕・改修のたびに、次の資料を残しておくべきでしょう。

資料確認する理由
見積書工事内容、部材、範囲、金額を確認する
請求書実際の支払内容を確認する
工事前後の写真原状回復か機能向上かを確認する
図面・仕様書資産単位や改修範囲を確認する
稟議書経営上の目的、承認者、判断理由を残す
賃貸借契約テナント工事、原状回復、造作の帰属を確認する

「税務上どちらが有利か」だけで決めるのではなく、実態に即して、後から説明できる処理を選ぶ。これが基本姿勢だと考えています。

償却資産申告を固定資産台帳と連動させる

医療機関が医療機器、器具備品、内装設備、看板、厨房設備、IT機器などを所有している場合、固定資産税のうち償却資産申告が必要になることがあります。

東京都23区では、1月1日現在で23区内に償却資産を所有している方は、資産所在区の都税事務所へ申告する必要があると案内されています。令和8年度分では提出期限が2月2日とされていますが、提出期限や様式は年度ごとに確認しておく必要があります。
出典:東京都|1月は固定資産税(償却資産)の申告月です

償却資産申告で問題になりやすいのは、法人税・所得税の固定資産台帳と、固定資産税の償却資産申告対象とが、完全には一致しない点です。

たとえば、税務上は一括償却資産や少額減価償却資産として処理した資産であっても、償却資産申告上の扱いは別途確認する必要があります。リース資産についても、契約形態によって申告者や課税関係が異なります。内装・建物附属設備についても、家屋評価に含まれるものか、償却資産として申告すべきものかを確認しなければなりません。

固定資産台帳を整えていないと、償却資産申告のたびに、請求書や過去資料を探し回ることになります。逆に、固定資産台帳を日常的に更新していれば、償却資産申告、減価償却、設備更新計画、M&A資料を、同じ土台の上で作ることができます。

リース資産・保守契約・サブスクも一覧化する

近年の医療機関では、購入ではなく、リース、レンタル、保守契約、月額利用契約、クラウドサービスで設備・システムを導入するケースが増えています。

リースやサブスクは、初期支出を抑えられる一方で、契約総額が見えにくくなるという面があります。毎月の支払額は小さく見えても、契約期間全体で見れば大きな固定費です。解約違約金、自動更新、データ移行費用、保守範囲、消耗品の指定購入条件が、経営上の制約になることもあります。

管理すべき契約には、たとえば次のようなものがあります。

契約種類管理ポイント
医療機器リース期間、月額、残価、所有権、保守、解約条件
検査機器契約機器使用料、試薬購入条件、最低使用量
電子カルテ月額料、保守、データ移行、契約更新
予約・問診システム利用料、患者データ、連携機能、解約条件
複合機・電話・通信リース期間、保守、通信費、更新時期
保守契約点検内容、対象機器、緊急対応、追加費用

これらは、会計上の固定資産台帳には載らないことがあります。しかし経営上は固定費であり、資金繰りに影響します。承継やM&Aでは、引継ぎ可能性や解約条件が確認対象になります。

「資産台帳」と「契約台帳」を別々に作っても構いません。ただし、医療機器・IT・内装・リース・保守・サブスクを一覧で確認できる状態にしておくことが大切です。

除却・廃棄をしないと、台帳と現場がずれていく

固定資産管理で意外に多いのが、除却漏れです。

古いレントゲン機器を撤去した。故障した検査機器を廃棄した。古いPCを処分した。内装改修で既存設備を撤去した。リース契約が終了して機器を返却した。こうした事実が会計担当へ共有されないと、台帳上は資産が残り続けてしまいます。

固定資産を廃棄・売却・返却・移設した場合には、次の記録を残しておきます。

処理必要な資料
廃棄廃棄申請書、承認記録、廃棄証明、写真
売却売買契約、請求書、入金記録、譲渡益・譲渡損計算
返却リース終了通知、返却確認、原状回復確認
移設移設日、移設先、費用、設置場所更新
除却実物不存在の確認、除却損計算、承認記録

特にPC、サーバー、電子カルテ関連機器、検査機器などは、廃棄時の情報管理も重要です。患者情報や院内データが残っている可能性があるため、単に物理的に廃棄するだけでなく、データ消去・記録保存・委託先管理まで確認しておく必要があります。

院長・理事長が毎月見るべき管理指標

購買・棚卸・固定資産の細かな処理を、院長・理事長がすべて見る必要はありません。しかし、経営判断に必要な指標は、毎月確認しておくべきです。

指標見る理由
医薬品費・診療材料費の売上比率コスト構造の変化を把握する
業者別支払額特定業者への依存や単価変動を把握する
高額購買一覧例外的な支出と承認状況を確認する
棚卸資産残高在庫が資金を圧迫していないか確認する
期限切れ・廃棄額発注・使用・期限管理の課題を把握する
棚卸差異紛失、記録漏れ、管理不全の兆候を確認する
固定資産取得額設備投資と計画の整合性を確認する
修繕費・保守料老朽化や更新時期を判断する
リース料・サブスク費固定費化している契約を把握する
除却・廃棄資産台帳と実物の整合性を確認する

これらの数字は、経費削減のためだけに見るものではありません。診療体制を守りながら、どこに資金を使い、どの設備を更新し、どの在庫を減らし、どの契約を見直すべきか——その判断材料として活かすものです。

管理体制を整える現実的な順番

購買・棚卸・固定資産管理を整えるといっても、いきなり大規模病院のようなシステムを導入する必要はありません。まずは、現場で運用できる水準から始めていくのが現実的です。

第1段階:高額品・期限管理品から見える化する

最初に整えるべきは、金額が大きいもの、期限切れリスクがあるもの、紛失・転用リスクがあるものです。高額薬剤、ワクチン、インプラント、特殊材料、検査試薬、麻薬等、主要医療機器をリスト化することから始めます。

第2段階:発注・納品・支払の照合を始める

発注記録、納品書、請求書を照合し、支払前に確認する流れを作ります。相見積もりや稟議書は、高額品や例外取引から始めれば十分です。

第3段階:棚卸表と廃棄記録を整える

月次または四半期で棚卸を行い、棚卸表に担当者・承認者・差異理由を残します。期限切れ・破損・開封済み・滞留品については、廃棄承認と廃棄証跡を残します。

第4段階:固定資産台帳を実物と照合する

固定資産台帳に、資産名称、取得日、取得価額、設置場所、管理責任者、保守契約、リース有無を追加します。古い台帳がある場合は、現場を回って実物確認を行います。

第5段階:月次決算と接続する

購買、棚卸、廃棄、固定資産取得、修繕費、リース料を、月次試算表とつなげます。会計上の数字と現場の管理表が一致しているかを確認します。

第6段階:設備更新計画に反映する

修理が増えている機器、保守期限が近い機器、稼働率が高い機器、逆に使われていない機器を整理し、設備投資計画、資金繰り表、事業計画に反映します。

この順番で整えていくと、管理体制は「事務負担」ではなく、「次の投資判断の材料」へと変わっていきます。

よくある失敗

「院長が見ているから大丈夫」になっている

院長がすべてを把握している状態は、一見すると安心に見えます。しかし、院長が忙しい日、分院展開した後、事務長が交代した後、そして承継の局面では、その属人的な管理は機能しません。管理は、個人の記憶ではなく、資料と手順に落とし込む必要があります。

請求書だけで会計処理している

請求書だけでは、納品されたのか、使用されたのか、期末に残っているのか、固定資産にすべきものなのかが分かりません。納品書、検収記録、棚卸表、固定資産台帳とつなげていく必要があります。

高額材料を患者別に追えていない

高額材料は、誰の診療に使ったか、請求したか、未使用なら返品できるかを確認すべきものです。患者別に追えていないと、収益との対応や在庫差異の説明が難しくなります。

医療機器の保守記録と会計台帳が分かれている

会計上は資産として載っているが、保守点検状況が分からない。あるいは、保守記録はあるが、取得価額やリース契約が分からない。この状態では、更新判断やM&A時の確認が難しくなります。

期限切れ廃棄を「仕方ない」で終わらせている

廃棄は、一定程度どうしても発生します。しかし、毎月同じ品目が廃棄されているのであれば、発注点、発注単位、診療件数、保管場所、使用順序のどこかに問題があります。廃棄額は、経営改善のヒントでもあるのです。

まとめ|物品管理は、守りの内部統制であり、攻めの投資判断の基盤である

購買・棚卸・医薬品・固定資産の管理は、医療機関の日常業務の中では、どうしても地味な領域です。しかし、ここが整っていないと、利益、資金繰り、税務、医療安全、設備更新、承継・M&Aの判断が、いずれも不安定になってしまいます。

医薬品や診療材料は、必要な時に必要な量を確保しなければなりません。その一方で、過剰在庫や期限切れは資金を失わせます。医療機器や内装は、診療価値を高める投資になり得ますが、台帳、保守、償却、リース、償却資産申告、除却まで管理しなければ、後から説明できない数字になってしまいます。

内部統制は、現場を縛るためのものではありません。院長・理事長が、診療の質を守りながら、どこに資金を使い、どの設備を更新し、どのコストを見直し、将来の承継・M&Aに向けて何を整えるべきかを判断するための仕組みです。

購買ルール、棚卸表、廃棄記録、固定資産台帳、リース契約一覧、月次試算表がつながると、自院の経営状態は格段に説明しやすくなります。

医薬品・診療材料の棚卸、固定資産台帳、医療機器の保守契約、リース契約、償却資産申告、修繕費・資本的支出の区分について、自院の管理水準を一度整理しておきたいという場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。現在の資料の流れを確認したうえで、現場負荷を踏まえた実行可能な管理体制づくりを、一緒に整理してまいります。

重要ポイントの振り返り

論点重要な理由まず確認すべきこと
購買承認不要・過剰・高額購入を防ぐ金額基準、承認者、例外購入ルール
発注・検収二重発注、未納、請求誤りを防ぐ発注書、納品書、請求書の照合
業者選定価格条件と供給安定性に影響する相見積もり、契約条件、関係者取引
棚卸資産利益と資産残高を正しくする棚卸範囲、評価方法、棚卸表
医薬品医療安全・期限管理・廃棄に関わる使用期限、保管条件、ロット、責任者
高額材料採算と請求内容に影響する患者別使用、未使用返品、請求確認
麻薬等法令遵守と受払管理が必要帳簿、施用記録、廃棄・事故対応
廃棄棚卸資産と会計処理に影響する廃棄承認、廃棄証明、写真、会計処理
医療機器設備投資・医療安全・保守管理に関わる台帳、保守点検記録、更新時期
固定資産減価償却・償却資産申告・M&A資料になる取得価額、設置場所、耐用年数、除却
修繕費・資本的支出税務処理と月次損益に影響する工事内容、写真、見積書、実質判断
リース・保守契約固定費と解約条件に影響する契約一覧、期間、月額、解約条件
月次確認経営判断に使える数字になる在庫残高、廃棄額、修繕費、投資額

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