債務超過に陥った会社の再生を検討する場面では、税務の相談が「どうすれば債務免除益に税金がかからないのか」「DESを使えば節税になるのか」「役員借入金をきれいに消せないか」といった形で持ち込まれることがあります。
たしかに、この局面で税負担を読み違えると、せっかく債務を圧縮しても納税資金が足りず、資金繰りが再び行き詰まってしまうことがあります。債務免除益、欠損金、DES、評価損益、役員借入金、株価、金融機関対応は、どれか一つだけを動かすことができず、すべて連動して動きます。
ただ、その前に一本だけ線を引いておきたいことがあります。
再生局面の税務は、節税策ではありません。会社を存続させるための、財務・税務・法務の再設計です。
DESや債権放棄は、税額を下げるための道具ではありません。過剰債務を整理し、金融機関・株主・経営者・従業員・取引先に説明できる再建計画をつくり、その計画の中で税務上の負担をどう制御していくか。あくまで、そのための一手段です。
この記事では、債務超過会社の再生や貸付金整理を検討する際に、債務免除益、DES、擬似DES、欠損金、評価、会社法手続、否認リスクを、どの順番で確認していけばよいのかを整理します。
なお本稿は、金融機関交渉そのものの実務や、法的整理の申立手続、M&A契約条項の細目までを扱うものではありません。あくまで税務・会計・会社法の論点を、実行に移す前にどう整理しておくか、という点に焦点を当てています。
まず押さえておきたい結論
債務超過・DES・再生局面では、次の順番で確認していくことが重要になります。
| 判断順序 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 会社は本当に再生可能か。事業利益、資金繰り、取引先、金融機関対応を確認する |
| 2 | 債務超過額は簿価ベースか、実態貸借対照表ベースかを分ける |
| 3 | 債務免除、DES、擬似DES、弁済猶予、組織再編のどれを使うのかを比較する |
| 4 | 債務免除益・債務消滅益がいつ、いくら発生するかを計算する |
| 5 | 繰越欠損金、期限切れ欠損金、評価損益の適用可否と控除順序を確認する |
| 6 | 債権者側で貸倒損失・寄附金・有価証券取得価額がどう処理されるかを確認する |
| 7 | オーナー貸付金の場合、みなし贈与・株価上昇・相続財産への影響を確認する |
| 8 | 会社法手続、株主総会、債権者保護、登記、資本金等の額を確認する |
| 9 | 税務調査で、再建計画の合理性、評価根拠、資金の流れを説明できる資料を残す |
再生局面では、「債務を消せるか」以上に、「消したあとに会社が生き残れるか」「税務上も会計上も説明できるか」が問われます。
債務免除益を欠損金で吸収できるかどうかだけを見て実行してしまうと、オーナー株主へのみなし贈与、債権者側の寄附金認定、DESに伴う債務消滅益、会社法上の手続不備、金融機関への説明不足といった、別の問題が後から表面化します。
債務超過とは何か
債務超過とは、会社の資産よりも負債が多い状態をいいます。
もっとも、実務では次の3つを分けて考える必要があります。
| 区分 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 帳簿上の債務超過 | 決算書上、純資産がマイナス | 金融機関、取引先、入札、許認可、株主への説明に影響 |
| 実態ベースの債務超過 | 資産・負債を時価・回収可能性で見直した後も純資産がマイナス | 再生計画、債権放棄額、DES対象額の判断に影響 |
| 資金繰り上の危機 | 債務超過でなくても支払資金が不足 | 借入返済、税金・社会保険料、仕入先支払に影響 |
再生税務で見るべきは、帳簿上の債務超過だけではありません。売掛金の回収可能性、棚卸資産の評価、固定資産の処分価値、保証債務、未計上債務、偶発債務まで反映した実態貸借対照表が重要になります。
国税庁の企業再生に関する文書回答でも、合理的な再建計画の策定過程では、資産評定基準に基づいて資産・負債を評価して実態貸借対照表を作成し、その債務超過金額をベースに債権者調整が行われる、と整理されています。
出典:国税庁|株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
つまり再生局面の第一歩は、税務スキームを選ぶことではなく、会社の本当の財政状態を把握することにあります。
再生局面で使われる主な手法
債務超過会社の再生では、おおむね次のような手法が検討されます。
| 手法 | 内容 | 主な税務論点 |
|---|---|---|
| 弁済猶予・リスケ | 返済条件を変更する | 債務免除益は通常発生しないが、再建可能性の説明が必要 |
| 債権放棄 | 債権者が債権を免除する | 債務者側は債務免除益、債権者側は貸倒損失・寄附金 |
| DES | 債権を現物出資して株式化する | 債務消滅益、債権の時価、株式取得価額、資本金等の額 |
| 擬似DES | 金銭増資後、その資金で債務を返済する | 資金移動の実態、増資価額、借入返済、株主間価値移転 |
| 減資・増資 | 資本金・資本剰余金を整理する | 会社法手続、欠損填補、株主構成、資本金等の額 |
| 合併・会社分割 | グループ内再編や第二会社方式を使う | 適格要件、欠損金制限、含み損制限、時価移転 |
| 第二会社方式 | 収益事業を別会社へ移す | 事業譲渡価額、債権者保護、詐害行為、寄附金、消費税 |
| 役員退職金相殺 | 役員退職金と役員借入金を相殺する | 退職の実態、過大退職給与、資金不足、相続対策 |
オーナー会社の場合、役員借入金を消す方法としては、債権放棄、DES、擬似DES、役員給与の減額による返済、退職金との相殺、代物弁済、第二会社方式などが候補になります。実務では、債権放棄と段階的な返済を組み合わせて整理していく例が多く、一気に片づけたいときにDESや擬似DESが検討の俎上に載ります。
一方で、保険や不動産購入を絡めて株価や資金を操作するような手法は、税務上の疑義が生じやすい領域だと考えておいた方がよいでしょう。
債務免除は「会社に利益が出る」取引である
債務免除を受ければ、会社は返済義務を免れます。
資金繰りの上では大きな助けになりますが、税務上は原則として債務免除益が発生します。
たとえば、金融機関からの1億円の借入金について5,000万円の免除を受けた場合、会計上も税務上も、原則として5,000万円の債務免除益が生じます。
| 項目 | 金額例 |
|---|---|
| 借入金残高 | 1億円 |
| 免除額 | 5,000万円 |
| 免除後の返済義務 | 5,000万円 |
| 債務者側の利益 | 5,000万円の債務免除益 |
国税庁の文書回答でも、合理的な再建計画においては、債権のうち回収不能と見込まれる部分が債務免除額となり、その債務免除額について債務者は債務免除益を計上する、とされています。
出典:国税庁|株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
したがって債務免除は、「借金が減るだけ」の処理ではありません。
債務免除益に対して課税が生じ得る取引なのです。
ここで欠損金が十分にあれば、債務免除益を欠損金で吸収できることもあります。ただし、欠損金の種類、繰越期限、控除制限、企業再生税制の適用可否を確認しないまま実行してしまうと、思わぬ税負担が残ることになります。
欠損金は「あるか」だけでなく「使えるか」を見る
再生局面では、「赤字続きの会社なのだから、債務免除益は欠損金で消せるはずだ」と考えてしまいがちです。
しかし、欠損金は、過去に赤字があったというだけでは足りません。税務上、いま使えるものなのかどうかを一つずつ確認する必要があります。
| 欠損金の種類 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 青色繰越欠損金 | 繰越期限、控除限度、申告状況を確認 |
| 期限切れ欠損金 | 法人税法59条の適用場面かを確認 |
| 組織再編で引き継ぐ欠損金 | 適格要件、支配関係、事業継続、欠損金制限を確認 |
| グループ通算の欠損金 | 開始・加入時の時価評価、SRLYルール、切捨てを確認 |
国税庁の質疑応答事例では、企業再生税制の対象となる私的整理と、それ以外の私的整理とで、税務上の取扱いが異なることが整理されています。合理的な再生計画に該当する私的整理であれば、企業再生税制の適用がない場合でも、債務者側で期限切れ欠損金の損金算入規定を適用できると考えられます。ただしこの場合、期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して控除することはできない、とされています。
出典:国税庁|企業再生税制の対象となる私的整理とそれ以外の私的整理における税務上の取扱いの違い
また、一定の私的整理に基づく資産評定が行われている場合でも、資産の評価損益規定の適用を受けていないときは、期限切れ欠損金の優先控除規定ではなく、別途の期限切れ欠損金の控除規定によることになります。この場合は、繰越欠損金控除後の所得を上限として、期限切れ欠損金を損金算入できるとされています。
出典:国税庁|一定の私的整理に基づき資産評定が行われている場合の期限切れ欠損金の損金算入について
大切なのは、欠損金の有無だけを見て安心しないことです。実際には、次の順番で税額を試算していく必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 債務免除益・債務消滅益 | いくら益金が発生するか |
| 資産評価益・評価損 | 企業再生税制の要件に該当するか |
| 青色繰越欠損金 | 期限・控除限度・申告状況 |
| 期限切れ欠損金 | 適用場面、控除順序、上限 |
| 地方税 | 法人住民税・事業税への影響 |
| 消費税・源泉税・社会保険料 | 再生とは別に資金流出する税公課 |
| 納税資金 | 税額が残る場合、いつ支払うか |
「欠損金があるから大丈夫」という判断は、再生局面ではかえって危うい、と考えておくべきです。
DESとは何か
DESとは、Debt Equity Swap、すなわち債務の株式化のことです。
典型的には、債権者が会社に対して有する貸付金債権を現物出資し、その対価として会社が株式を発行します。会社側から見れば、借入金が資本に振り替わり、負債が減って純資産が改善します。
| DES前 | DES後 |
|---|---|
| 借入金が負債に残っている | 借入金が消滅する |
| 債権者は貸付金を持っている | 債権者は株式を持つ |
| 自己資本比率が低い | 自己資本比率が改善する |
| 返済義務がある | 原則として返済義務はなくなる |
一見すると、DESは会社にとって非常に有効な再生手法に映ります。
しかし税務上は、DES対象債権の時価が問題になります。
国税庁の文書回答では、企業再生税制が適用される場面でDESが行われた場合、DES対象債権の時価は、合理的に見積もられた回収可能額に基づいて評価するのが妥当と整理されています。そして、債権金額、つまり額面と債権の時価との差額について、債務者は債務消滅益を計上するとされています。
出典:国税庁|株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
たとえば、額面1億円の貸付金をDESする場合でも、その債権の時価が4,000万円と評価されるのであれば、会社側には6,000万円の債務消滅益が生じ得ます。
| 項目 | 金額例 |
|---|---|
| DES対象債権の額面 | 1億円 |
| DES対象債権の時価 | 4,000万円 |
| 増加する資本金等の額の基礎 | 4,000万円 |
| 債務者側の債務消滅益 | 6,000万円 |
DESは借入金を資本に変える手法ですが、税務の世界では「額面どおりに資本になる」とは限らないのです。
債権者側もDESで損益が出る
DESでは、債務者側だけでなく、債権者側の税務処理も見落とせません。
国税庁の文書回答では、DESを行う債権者が現物出資により交付を受ける株式の取得価額は、現物出資債権の時価を基礎とするとされています。そして、債権の帳簿価額から、その株式の取得価額を控除した金額が、債権者における債権の譲渡損の額になると整理されています。
出典:国税庁|株式会社企業再生支援機構が買取決定等を行った債権の債務者に係る事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
つまり債権者側では、次のような整理になります。
| 項目 | 金額例 |
|---|---|
| 債権者の貸付金帳簿価額 | 1億円 |
| DES対象債権の時価 | 4,000万円 |
| 交付株式の取得価額 | 4,000万円 |
| 債権者側の譲渡損 | 6,000万円 |
ここで問われるのは、その損失が税務上の損金になるかどうかです。金融機関や第三者の債権者であれば、合理的な再建計画や回収可能性の評価を前提に、比較的整理しやすい場合があります。
一方で、親会社、兄弟会社、オーナー、親族会社が関与するケースでは、寄附金、贈与、役員給与、同族会社の行為計算否認といったリスクを、あらためて確認しておく必要があります。
擬似DESは「簡単なDES」ではない
擬似DESとは、債権を現物出資する代わりに、次のような資金移動を行う方法です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 債権者が会社へ金銭出資する |
| 2 | 会社はその金銭を受け入れて増資する |
| 3 | 会社は増資資金を使って債権者への借入金を返済する |
形式の上では、金銭出資と借入金返済という、二つの取引に分かれます。現物出資ではないため、DESとは会社法・税務・会計のいずれの処理も異なります。
ただし、擬似DESには次のようなリスクがついて回ります。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 資金循環リスク | 実際には資金が会社に残らず、即日返済されるだけになっていないか |
| 増資価額リスク | 債務超過会社の株式に出資する価額が合理的か |
| 株主間価値移転 | 既存株主と新株主の間で不当な価値移転がないか |
| みなし贈与 | オーナー・親族間で利益移転がないか |
| 同族会社リスク | 経済合理性のない取引として見られないか |
| 金融機関説明 | 自己資本改善の実態があると説明できるか |
擬似DESは、書類の上ではシンプルに見えます。しかし、資金が一瞬だけ動いてすぐ元に戻るだけで、資本増強の実態が乏しいような場合には、税務上も金融機関対応上も、説明に窮することになります。
オーナー貸付金の債権放棄は、みなし贈与に注意する
中小企業では、社長や親族が会社に多額の貸付金を持っていることが珍しくありません。会社側から見れば「役員借入金」、オーナー側から見れば「会社への貸付金」です。
この貸付金を放棄すれば、会社側では債務免除益が発生します。
さらに、会社の債務が減ることで株式価値が上昇する場合には、既存株主への利益移転が問題になってきます。
オーナーが会社に対して貸付金を放棄すると、会社では債務免除益が計上されます。通常は、繰越欠損金や所得圧縮の余地がある局面で実行されることが多い手法です。そして株価評価が上がる場合には、債権放棄をした人から既存株主へのみなし贈与課税が論点になります。
たとえば、先代社長である父が会社への貸付金1億円を放棄し、その会社の株式を後継者である子が保有しているとします。会社の債務が減った分だけ株式価値は上がりますから、この価値上昇が、父から子への経済的利益の移転と見られる可能性が出てきます。
| 状況 | 税務上の確認 |
|---|---|
| オーナーが会社貸付金を放棄 | 会社側で債務免除益 |
| 会社に繰越欠損金がある | 債務免除益を吸収できるか確認 |
| 後継者が株主 | 株価上昇によるみなし贈与リスク |
| オーナーが死亡前に放棄 | 相続税・贈与税への影響 |
| 他の株主がいる | 株主間の利益移転 |
オーナー貸付金は、放置すれば相続財産になり、消せば消したで税務上の問題が生じます。
ですから、「会社の借入金を消す」という単純な発想ではなく、法人税、贈与税、相続税、株価、後継者の資金負担までを同時に見ておく必要があります。
債権者側では寄附金認定が問題になる
債権放棄や低利貸付けを行う側では、その損失が税務上の損金になるかどうかが問題になります。
国税庁の文書回答では、私的整理に関するガイドラインに基づく再建計画により債権放棄等が行われる場合には、法人税基本通達9-4-2にいう合理的な再建計画に基づく債権放棄等に該当すると考えられ、債権者側で税務上損金算入される、と整理されています。
出典:国税庁|「私的整理に関するガイドライン」に基づき策定された再建計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
一方で、親会社や関係会社が子会社を支援する場合、その損失負担等に経済合理性がなければ、寄附金に該当する可能性があります。
国税庁の質疑応答事例では、子会社等を整理・再建する場合の損失負担等について、経済合理性があれば寄附金には該当しないとしています。その判断要素としては、子会社等が経営危機に陥っているか、支援者にとって相当な理由があるか、支援額が過剰でないか、再建管理が行われているか、支援者の範囲や支援割合に恣意性がないか、といった点を総合的に検討するものと整理されています。
出典:国税庁|合理的な整理計画又は再建計画とは
したがって、関係会社を支援する場面では、次のような資料が重要になります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 再建計画書 | 支援の必要性と再生可能性を示す |
| 実態貸借対照表 | 債務超過額・回収可能額を示す |
| 資金繰り表 | 支援しない場合の倒産リスクを示す |
| 債権者別負担表 | 特定債権者だけが不合理に負担していないことを示す |
| 支援額算定資料 | 過剰支援でないことを示す |
| 取締役会・株主総会議事録 | 支援判断の意思決定過程を示す |
| 支援後のモニタリング資料 | 再建管理を行っていることを示す |
関係会社の間で「助けるためだから」という理由だけで債権放棄をしてしまうと、債権者側で寄附金課税、債務者側で受贈益・債務免除益、株主側で価値移転と、複数の論点が一度に立ち上がることになります。
私的整理は、形式だけでは足りない
再生局面では、「私的整理にすれば税務上有利になる」と考えられることがあります。
しかし私的整理にもさまざまな種類があり、そのすべてが同じ税務上の取扱いになるわけではありません。
私的整理に関するガイドラインでは、私的整理は、法的倒産処理手続によらず、多数の債権者と債務者の合意によって集団的に債権債務を処理する手続の総称とされています。再建型といっても、弁済期日の猶予にとどまるものから、債権放棄を伴うものまで、その幅はかなり広いものです。
出典:国税庁|私的整理に関するガイドライン
また同ガイドラインは、対象企業の考え方として、過剰債務を主因として自力再建が困難であること、事業価値があり債権者の支援により再建の可能性があること、法的整理によれば信用力が低下し事業価値が毀損するおそれがあること、私的整理の方が債権者にとっても経済合理性を期待できること、などを挙げています。
出典:国税庁|私的整理に関するガイドライン
実務で問われるのは、あくまで再建計画の実質です。
| 形式だけの処理 | 問題になりやすい点 |
|---|---|
| 再建計画書の体裁だけ整える | 事業再生可能性や数値根拠がない |
| 債務超過額を簿価だけで見る | 回収不能資産や含み損を反映していない |
| 特定債権者だけが放棄する | 支援割合の合理性が説明できない |
| オーナーが責任を取らない | 金融機関・税務上の合理性が弱い |
| モニタリングしない | 再建管理がない |
| 税効果だけを目的にする | 経済合理性を疑われる |
RCC企業再生スキームでは、再生計画案に、経営困難に至った原因、事業再構築計画、将来の事業見通し、財務状況の将来見通し、資本再構築計画、資金繰りの見通し、債務弁済計画、経営者責任のあり方などを含めることが求められています。また、実質的に債務超過である場合には、原則として再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から3年以内を目途に、実質的債務超過を解消することなどが示されています。
出典:国税庁|RCC企業再生スキーム
中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順に関する国税庁の文書回答では、改定後の策定手順について、DESにより債務の消滅に係る利益が生じる場合が債務免除等に含まれること、また実質的債務超過を解消するまでの年数が、中小企業の実情等を踏まえて5年以内とされたことが説明されています。
出典:国税庁|中小企業再生支援協議会の支援による再生計画の策定手順に従って策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
なお、現在の支援機関としては、中小企業再生支援協議会は経営改善支援センターと統合され、中小企業活性化協議会として、収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジを幅広く支援する公的機関とされています。
出典:中小企業庁|中小企業活性化協議会
したがって、過去の文書回答や通達を参照する場合であっても、実行の際には、現行の支援機関名、手続、対象要件、確認手続を必ず確かめておく必要があります。
債務超過会社を合併する場合の注意点
グループ内に債務超過会社があると、合併によって損益を通算したい、管理コストを削減したい、欠損金を使いたい、といった相談が持ち上がることがあります。
合併には、管理部門の統合、権利義務の包括承継、損益通算、適格合併による含み益課税の繰延べ、一定要件を満たす場合の繰越欠損金の引継ぎなど、たしかにメリットがあります。
しかし、債務超過会社を被合併法人とする合併では、会社法上も税務上も、慎重な検討が欠かせません。
債務超過会社を被合併法人とする吸収合併は、一部に異論はあるものの、会社法上は可能と考えられています。ただし、合併法人において簡易合併を選択できないこと、合併法人の債権者の利益を害するおそれがあるため債権者異議が出る可能性があること、などが指摘されています。
ここで気をつけたいのは、合併を「欠損金を使うための処理」として組み立てないことです。
適格合併であっても、欠損金や含み損の利用には制限があります。被合併法人の事業実態、支配関係、みなし共同事業要件、特定資産譲渡等損失の制限、繰越欠損金の引継制限などを、一つずつ確認していかなければなりません。
合併を使う場合には、少なくとも次の整理が必要になります。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| 会社法 | 簡易合併の可否、債権者保護、株主総会説明、反対株主対応 |
| 税務適格 | 適格合併要件、完全支配関係、支配関係、共同事業要件 |
| 欠損金 | 引継ぎ可否、利用制限、特定資産譲渡等損失 |
| 会計 | 合併処理、のれん、負ののれん、連結影響 |
| 金融機関 | 債務者変更、保証、財務制限条項、与信判断 |
| 実態 | 事業統合の必要性、管理コスト削減、再生可能性 |
債務超過会社の合併は、税務上の欠損金利用だけで判断すべきものではありません。
DES・債務免除で否認リスクが高まる典型例
再生局面で税務否認のリスクが高まるのは、たとえば次のような場合です。
| 危険な判断 | 税務上の問題 |
|---|---|
| 実態貸借対照表を作らずに債権放棄額を決める | 支援額の合理性を説明できない |
| 債権の時価を額面で処理する | DESに伴う債務消滅益を過少計上する |
| 債務免除益を欠損金で吸収できるとだけ考える | 期限切れ欠損金・控除順序・地方税を見落とす |
| 親会社が子会社債権を放棄する | 債権者側で寄附金認定される可能性 |
| 社長が貸付金を放棄する | 会社側の債務免除益、株主側のみなし贈与 |
| 擬似DESで資金を一瞬だけ動かす | 資本増強の実態が乏しく、取引目的を疑われる |
| 不採算事業の整理をせず債務だけ消す | 再生可能性を説明できない |
| 株主責任・経営者責任が整理されていない | 金融機関・税務上の合理性が弱い |
| 債権者間の負担割合が不自然 | 特定債権者への利益供与・寄附金リスク |
| 組織再編を欠損金利用目的だけで行う | 行為計算否認、欠損金制限、含み損制限 |
とりわけ、同族会社や親族関係者が関与する場面では、形式よりも実態が見られます。債権放棄やDESが、真に再生を目的としたものなのか、それとも株価移転や相続税対策、所得移転のためのものなのかが、あらためて問われることになります。
税務調査で見られるポイント
再生局面の税務調査では、申告書の数字だけでなく、取引の背景とそれを支える資料が確認されます。
税務調査では、課税要件に該当する事実を認定するために、証拠資料の収集・保全と的確な事実認定が重要になります。
DESや債務免除が絡む場合、特に見られやすいのは次の点です。
| 調査ポイント | 確認される内容 |
|---|---|
| 債務超過の実態 | 簿価ではなく、実態貸借対照表で説明できるか |
| 債権の回収可能額 | DES対象債権の時価評価根拠があるか |
| 再建計画の合理性 | 事業再構築、収益見通し、資金繰り、弁済計画があるか |
| 債権者調整 | 債権者間の負担割合に恣意性がないか |
| 債務免除額 | 過剰な免除や特定株主への利益移転がないか |
| 欠損金処理 | 青色繰越欠損金、期限切れ欠損金、評価損益の処理が正しいか |
| オーナー関係 | 役員貸付金、親族株主、みなし贈与の検討があるか |
| 会社法手続 | 増資、現物出資、減資、合併、債権者保護手続が適正か |
| 資金の流れ | 擬似DESや増資返済に実際の資金移動があるか |
| 意思決定 | 取締役会、株主総会、金融機関説明資料があるか |
再生税務は、後から資料をそろえても、どうしても説得力が弱くなります。
債務免除やDESを実行する前に、誰が、いつ、何を根拠に、どの金額で、どの順番で実行すると決めたのか。その道筋を残しておくことが大切です。
実行前に整理すべき資料
債務超過・DES・再生局面で、実行前に整理しておきたい資料は次のとおりです。
1. 会社の財政状態に関する資料
- 直近3期分の決算書
- 直近の試算表
- 税務申告書別表
- 勘定科目内訳明細書
- 借入金明細
- 役員借入金・役員貸付金の明細
- 保証債務・偶発債務の一覧
- 未払税金・社会保険料の状況
- 資金繰り表
- 実態貸借対照表
2. 資産・負債の評価資料
- 売掛金の年齢表
- 貸倒懸念債権の一覧
- 棚卸資産の評価資料
- 固定資産台帳
- 不動産評価資料
- 保有有価証券の評価資料
- 担保設定状況
- 金融機関別債務残高
- 債権者別回収可能額の試算
3. 再建計画に関する資料
- 経営困難に至った原因分析
- 不採算事業の整理方針
- 事業再構築計画
- 売上・粗利・販管費の見通し
- 5年程度の損益計画
- 5年程度の資金繰り計画
- 債務弁済計画
- 経営者責任・株主責任の整理
- 金融機関への説明資料
- モニタリング方針
4. DES・債務免除に関する資料
- 債権者別債権残高
- 債権の時価評価資料
- 債務免除額の算定根拠
- DES対象債権の選定理由
- 増資価額の算定資料
- 発行株式数・発行価額の根拠
- 株主構成の変動表
- 資本金等の額の計算資料
- 債務消滅益・債務免除益の試算
- 債権者側の貸倒損失・寄附金判定資料
5. オーナー・親族関係に関する資料
- 株主名簿
- 親族関係図
- オーナー貸付金の発生経緯
- 貸付契約書
- 返済履歴
- 利息計上・未収利息の状況
- 債権放棄後の株価試算
- みなし贈与の検討資料
- 相続税への影響試算
6. 会社法・会計手続に関する資料
- 取締役会議事録
- 株主総会議事録
- 債権者保護手続資料
- 増資登記・減資登記資料
- 現物出資に関する資料
- 検査役調査の要否確認
- 会計仕訳案
- 税務仕訳案
- 別表調整案
これらは、税務調査に備えるためだけの資料ではありません。金融機関、株主、後継者、買主候補、支援機関に対して説明していくための資料でもあります。
相談前に確認しておきたい問い
専門家に相談する前に、次の問いを自分なりに整理しておくと、再生税務の検討がぐっと進みやすくなります。
| 問い | 確認する理由 |
|---|---|
| 債務超過は簿価ベースか、実態ベースか | 債務免除額・DES対象額の基礎になる |
| 会社は営業利益を出せる事業を持っているか | 税務以前に再生可能性の判断が必要 |
| 債権者は金融機関か、親会社か、オーナーか | 債権者側の貸倒・寄附金リスクが変わる |
| 債務免除益はいくら発生するか | 納税資金と欠損金利用の試算に必要 |
| DES対象債権の時価はいくらか | 債務消滅益・株式取得価額に影響する |
| 繰越欠損金はいつまで使えるか | 債務免除益を吸収できるか判断する |
| 期限切れ欠損金を使える場面か | 企業再生税制・私的整理要件の確認が必要 |
| オーナー貸付金を放棄するのか | みなし贈与・相続財産への影響がある |
| 擬似DESに実際の資金移動があるか | 形式だけの資本増強と見られないため |
| 債権者間の負担割合は合理的か | 寄附金・利益供与リスクを避けるため |
| 会社法手続は満たせるか | 増資・減資・合併の有効性に関わる |
| 実行後の資金繰りは成り立つか | 税金が減っても会社が続かなければ意味がない |
| 税務調査で説明できる資料はあるか | 否認・重加算税・税賠リスクを抑えるため |
まとめ
債務超過会社の再生では、税金を減らすことだけに目を奪われてはいけません。
債務免除、DES、擬似DES、組織再編、オーナー貸付金の整理は、いずれも会社の負債、資本、株主構成、金融機関対応、相続・承継、そして将来のM&Aにまで影響していきます。
とりわけ重要なのは、次の整理です。
| 論点 | 判断の本質 |
|---|---|
| 債務免除 | 借金が減る一方で、債務免除益が発生する |
| DES | 負債を資本化できるが、債権の時価と債務消滅益が問題になる |
| 擬似DES | 金銭増資と返済の実態、資金循環、株主間価値移転が問われる |
| 欠損金 | 存在するだけでなく、使えるか、どの順番で控除できるかが重要 |
| オーナー貸付金 | 法人税だけでなく、みなし贈与・相続税に影響する |
| 債権者側処理 | 貸倒損失か、寄附金か、株式取得価額かを整理する |
| 会社法 | 増資、減資、合併、債権者保護手続を確認する |
| 税務調査 | 再建計画、評価根拠、資金の流れ、意思決定過程が見られる |
正しい再生税務とは、債務免除益を欠損金で消すだけの処理ではありません。
実態貸借対照表を作り、再建計画の合理性を示し、債権者・株主・経営者の利害を整理し、税務上の課税関係を事前に試算し、実行後も説明できる資料を残していく。この一連の積み重ねが、正しい再生税務です。
債務超過、DES、擬似DES、債権放棄、オーナー貸付金の整理、再編を検討している場合には、実行の前に、税務・会計・会社法・金融機関対応を横断して整理しておく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、債務超過会社の再生、DES、債務免除益、欠損金、オーナー貸付金、組織再編を含む高難度の税務論点について、実行前の論点整理と税務リスクの確認を支援しています。
債務整理やDESを検討しているものの、税負担、みなし贈与、欠損金の利用、金融機関への説明、税務調査への対応に不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 項目 | 重要ポイント | 実行前に確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 債務超過 | 簿価と実態貸借対照表を分けて把握する | 試算表、実態貸借対照表、資産評価資料 |
| 債務免除 | 債務免除益が発生する | 債務免除契約書、再建計画、欠損金試算 |
| DES | 債権の額面ではなく時価が重要 | 債権評価資料、増資資料、株式発行資料 |
| 擬似DES | 資金移動の実態と増資価額が問われる | 入出金記録、増資議事録、返済記録 |
| 欠損金 | 青色欠損金・期限切れ欠損金・控除順序を確認 | 別表、過年度申告書、欠損金明細 |
| 役員借入金 | 債権放棄で債務免除益とみなし贈与が問題になる | 貸付契約、返済履歴、株価試算 |
| 債権者側処理 | 貸倒損失か寄附金かを確認する | 支援理由、債権者会議資料、負担割合表 |
| 関係会社支援 | 経済合理性がなければ寄附金リスク | 再建計画、支援額算定、モニタリング資料 |
| 合併・再編 | 債務超過会社の合併は会社法・税務制限を確認 | 合併契約、株主総会資料、欠損金検討資料 |
| 税務調査 | 目的・評価・資金・意思決定が見られる | 議事録、稟議書、評価書、入出金資料 |
| 金融機関対応 | 税務だけでなく返済可能性が重要 | 資金繰り表、弁済計画、金融機関説明資料 |
| 専門家相談 | 実行前の設計が否認リスクを左右する | 決算書、申告書、契約書、借入明細、再建案 |