グループ会社が増えてくると、こんなご相談をいただくようになります。
「黒字会社と赤字会社があるので、グループ全体で損益を通算できないか」
「M&Aで取得した子会社の欠損金を使えないか」
「持株会社体制にした後、グループ通算制度を使うべきか」
「連結納税ではなくなったと聞いたが、今はどう管理すればよいのか」
「税効果会計上、繰延税金資産をどこまで計上できるのか」
グループ通算制度は、たしかにグループ内の黒字と赤字を一定の範囲で通算できる制度です。ただ、これを単なる「赤字会社を使った節税策」として捉えてしまうと、判断を誤ります。
この制度で見るべきものは、会社ごとの税額だけではありません。欠損金の利用可能性、開始・加入・離脱時の時価評価、通算税効果額の授受、繰延税金資産の回収可能性、修正申告時の遮断措置、電子申告、連帯納付責任、そして再編後の管理体制まで含めて判断する制度です。
つまり、入口の節税効果よりも、制度適用後にグループ全体を継続的に管理できるかのほうが重要になります。
この記事では、グループ会社間で損益を通算したい方、M&Aや組織再編後の税務管理を整えたい方、税効果会計まで含めて判断したい方に向けて、グループ通算制度と再編後管理の実務上の判断軸を整理していきます。
グループ通算制度は「赤字会社を使う制度」ではない
グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額を計算・申告しながら、その中で損益通算などの調整を行う制度です。
後発的に修正・更正の事由が生じても、原則として他の法人の税額計算には反映させない遮断措置が設けられている点、そして開始・加入時の時価評価課税や欠損金の持込みなどについて組織再編税制と整合性がとられている点が、制度の骨格として説明されています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
実務的にいえば、グループ通算制度の中心は次の5つに集約されます。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 損益通算 | 通算グループ内の黒字法人と赤字法人の所得・欠損を一定の方法で調整する |
| 欠損金の通算 | 繰越欠損金を一定のルールで通算グループ内に配分・利用する |
| 開始・加入時評価 | 制度開始時や子会社加入時に、時価評価課税や欠損金切捨てが問題になる |
| 個別申告方式 | グループ全体で一体申告するのではなく、各法人が個別に申告・納付する |
| 税効果会計 | 損益通算や欠損金通算の影響を繰延税金資産・負債に反映する |
制度の名前だけを見ると、「グループ全体で税金を減らせる制度」のように映ります。しかし実際には、赤字会社の欠損金を自由に黒字会社へ移せる制度ではありません。
とりわけM&Aや組織再編の後にこの制度を検討する場合、「赤字会社を買えば黒字会社の税金が下がる」という発想は危険です。開始・加入時の時価評価、欠損金の切捨て、特定繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の制限などを確認しておかなければ、期待していた税効果が得られないことがあります。
改めて制度の骨格を整理しておきましょう。グループ通算制度は、100%の資本関係にある企業グループ内の黒字と赤字を相殺しながら、各法人が個別に法人税額を計算・申告する制度です。損益通算、欠損金の切捨て、時価評価、地方税が対象外となる点、個別申告方式、プロラタ計算、遮断措置、SRLYルールといった点が、その主要な特徴になります。
節税効果を見る前に確認すべき全体像
この制度を検討するとき、最初に見るべきなのは「税金がいくら減るか」ではありません。
まずは、次の順番で整理していきます。
| 判断順序 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | グループ内に完全支配関係があるか |
| 2 | 親法人・子法人が適用対象法人に該当するか |
| 3 | グループ内の対象法人すべてを制度に含められるか |
| 4 | 開始・加入時に時価評価課税や欠損金切捨てが起きないか |
| 5 | 損益通算による法人税の軽減額はいくらか |
| 6 | 地方税、事業税、住民税、消費税、源泉税への影響を別途確認したか |
| 7 | 通算税効果額の授受をどう設計するか |
| 8 | 繰延税金資産の回収可能性を会計上どう判断するか |
| 9 | 各社の申告・納付・電子申告・連帯納付責任を管理できるか |
| 10 | M&A、合併、分割、株式譲渡、離脱時の影響を管理できるか |
この順番を飛ばして「赤字を使えるか」だけを見てしまうと、制度を選んだ後に管理不能に陥ります。
グループ通算制度は、あくまで法人税の制度です。対象となる税目は法人税とされています。住民税や事業税の税効果会計上の取扱いについても、これらはグループ通算制度の対象外であるため、法人税・地方法人税とは区別して税効果会計基準等を適用することとされています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
損益通算の仕組みは「赤字をそのまま移す」ものではない
グループ通算制度における損益通算は、赤字をそのまま黒字会社へ付け替える仕組みではありません。
まず、欠損法人の欠損金額の合計額が、所得法人の所得金額の比で配分され、その配分額が所得法人で損金算入されます。一方で、所得法人で損金算入された金額と同額が、今度は欠損法人の欠損金額の比で配分され、欠損法人で益金算入される。こうした二段構えの調整が行われます。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
簡単な例で考えてみましょう。
| 法人 | 通算前所得・欠損 | 損益通算のイメージ |
|---|---|---|
| 親会社P | 8,000万円の所得 | 赤字会社の欠損を一定割合で損金算入 |
| 子会社A | 4,000万円の所得 | 赤字会社の欠損を一定割合で損金算入 |
| 子会社B | 6,000万円の欠損 | 損益通算により一定額を益金算入 |
| グループ合計 | 6,000万円の所得 | 法人税上、一定範囲で通算 |
この仕組みだけを見れば、グループ全体の所得が圧縮されるように見えます。
ただ、実務ではその手前で、次の点を確認しておかなければなりません。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 赤字会社の欠損は当期欠損か、繰越欠損か | 損益通算と欠損金通算で処理が異なる |
| 欠損金は特定繰越欠損金か | 自社所得の範囲でしか使えない場合がある |
| 欠損金に切捨てリスクがあるか | 開始・加入時の評価や支配関係が影響する |
| 所得法人の所得比はどうなるか | 通算対象欠損金の配分に影響する |
| 修正申告が出た場合どうするか | 遮断措置または全体再計算の可能性がある |
| 通算税効果額を授受するか | グループ内キャッシュフローと会計処理に影響する |
「グループ全体で黒字と赤字を相殺できる」という理解は、入口としては間違っていません。しかし、それだけでは実務判断としては不十分なのです。
欠損金は「使えるか」「誰の所得で使えるか」を分ける
この制度で最も誤解されやすいのが、欠損金です。
欠損金には、大きく分けて次のような見方があります。
| 区分 | 実務上の見方 |
|---|---|
| 当期欠損 | その事業年度に発生した赤字。損益通算の対象になる |
| 繰越欠損金 | 過年度から繰り越された欠損金 |
| 特定繰越欠損金 | 一定の要件を満たす開始・加入前の欠損金等。自己の所得を限度に使う性質が強い |
| 非特定繰越欠損金 | グループ全体での通算対象になり得る欠損金 |
| 切捨てられる欠損金 | 開始・加入時のルールにより利用できなくなる欠損金 |
会計上の整理としても、特定繰越欠損金は、グループ通算制度の適用前に生じた税務上の繰越欠損金のうち、一定の要件を満たす場合に制度適用後も控除可能な欠損金等と位置づけられています。そして欠損金の通算は、通算グループ全体の特定繰越欠損金以外の繰越欠損金の合計額を、通算会社の損金算入限度額の比で配分する、といった手続で行われます。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
M&Aで赤字会社を取得する場面では、この点にとりわけ注意が必要です。
「この会社には5億円の繰越欠損金があるから、買収後に黒字会社の税金を減らせる」──そう考えて買収価格を決めてしまうと、後になって期待した税効果が得られないことがあります。制度加入時の欠損金制限や特定資産譲渡等損失の制限がかかれば、欠損金はグループ全体で自由に使えるものではなくなるからです。
節税判断として見るべきなのは、「欠損金の残高」ではなく、次の3つです。
| 見るべき数字 | 意味 |
|---|---|
| 欠損金残高 | 帳簿・申告書上いくら残っているか |
| 利用可能欠損金 | 税法上、今後本当に使えるか |
| 経済価値のある欠損金 | 将来所得・期限・制限を踏まえて実際に税負担を減らせるか |
欠損金は、貸借対照表に載っている資産ではありません。将来の課税所得と制度要件がそろって、はじめて価値を持つものです。
開始・加入・離脱時に管理すべき時価評価と切捨て
グループ通算制度では、開始時、加入時、離脱時のそれぞれに固有の論点が発生します。
| タイミング | 主な論点 |
|---|---|
| 制度開始時 | 対象法人、時価評価課税、欠損金切捨て、申請期限 |
| 子会社加入時 | 完全支配関係発生日、加入時期、時価評価、欠損金制限 |
| 子会社離脱時 | 投資簿価修正、欠損金、譲渡損益、税効果会計 |
| 合併・分割時 | 適格要件、欠損金引継ぎ、含み損制限、通算グループへの影響 |
| M&A時 | 買収前欠損金、対象会社の税務調査リスク、買収後の通算可否 |
制度上も、損益通算・欠損金通算のほかに、制度の適用開始時や、通算グループへの加入・離脱の際の時価評価課税や欠損金の切捨てなどが定められています。加えて、外国税額控除制度や研究開発税制といった個別制度についても、所要の調整が必要になります。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
ここで押さえておきたいのは、再編後の管理を「申告時」に始めてはいけない、ということです。
子会社を買収した後、決算期末になって税務担当者がようやくグループ通算制度への加入影響を検討しても、すでに手遅れになっているケースがあります。買収時点、株式譲渡契約時点、クロージング時点、完全支配関係発生日、事業年度末、申告期限──それぞれの局面で確認すべきことが違うのです。
とくに加入・離脱が想定される場合には、税務だけでなく税効果会計にも影響が及びます。会計上も、新たに通算子会社となる企業について、繰越欠損金の引継制限や特定資産に係る譲渡等損失額の損金算入制限が課される場合で、通算子会社となる可能性が高く、その事実が明らかになっていると認められるときには、その時点を含む事業年度から、損金算入が見込まれない欠損金等について繰延税金資産の回収可能性はないものとする、という取扱いが示されています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
つまり、税務上の欠損金制限は、会計上の繰延税金資産にそのまま直結するということです。
遮断措置は便利だが、過信してはいけない
グループ通算制度には、通算グループ内の一法人に修正・更正の事由が生じた場合でも、原則として、損益通算に用いる通算前所得金額・通算前欠損金額を当初申告額に固定し、他の通算法人への影響を遮断する仕組みが用意されています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
この遮断措置は、連結納税制度の時代にあった「1社の誤りがグループ全体に波及する」という実務負担を軽減するための、重要な仕組みです。
ただ、遮断措置があるからといって、申告管理を緩めてよいわけではありません。
たとえば、通算グループ全体では所得がないにもかかわらず、当初申告額に固定することで所得金額が生じてしまう法人が出るような場合には、一定の要件に該当すれば遮断措置を適用せず、グループ全体で再計算することとされています。さらに、遮断措置の濫用を防ぐ観点から、一定の場合には税務署長が通算グループ全体で再計算できることとされています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
要するに、遮断措置は「誤りがあっても他社に絶対に影響しない制度」ではないということです。
とりわけ、次のような場合には慎重な管理が求められます。
| 状況 | 注意点 |
|---|---|
| 子会社の申告誤りが大きい | 当初申告額固定により不合理な所得が出ないか |
| 欠損会社の欠損金額が過大だった | 損益通算の基礎が変わる可能性がある |
| 所得会社の所得が過少だった | 通算対象欠損金の配分に影響する |
| 意図的に誤った申告をしている | 遮断措置の濫用防止規定や重加算税リスク |
| グループ内で資料共有が遅い | 親会社が全体影響を把握できない |
| 税務調査で複数社が対象になる | 1社の処理が他社の判断材料になる |
各社が個別に申告する制度だからこそ、親会社による全体管理が重要になります。
通算税効果額は「内部精算」の設計が必要になる
グループ通算制度では、損益通算や欠損金通算によって、ある会社の赤字が別の会社の法人税負担を減らすことがあります。
このとき問題になるのが、グループ内で税効果をどう精算するか、という点です。
たとえば、子会社Bの赤字によって親会社Pの法人税が減った場合を考えてみましょう。親会社だけがその税効果を享受するのか、それとも子会社Bに通算税効果額を支払うのか。これをあらかじめ決めておく必要があります。
会計上、通算税効果額は、損益通算や欠損金の通算その他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することで減少する法人税・地方法人税の額に相当する金額として、通算会社間で授受が行われた場合に益金または損金に算入されない金額と定義されています。そして個別財務諸表上は、通算税効果額を当事業年度の所得に対する法人税および地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととされています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
ここは、節税効果と資金繰りを分けて見るべき場面です。
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| 税務 | 通算税効果額が益金・損金に算入されない範囲か |
| 会計 | 法人税等に準ずるものとして処理できるか |
| 資金 | 実際にグループ内で金銭授受を行うか |
| 契約 | 通算税効果額の算定・精算ルールを明文化しているか |
| 少数株主 | グループ外株主がいる会社で不利益が生じないか |
| 金融機関 | 子会社の税効果が親会社に吸い上げられていないか |
| 税務調査 | 税効果額の計算根拠と入出金記録が残っているか |
完全子会社だけのグループであれば、内部精算は軽視されがちです。しかし、将来M&Aで子会社を売却する場合、少数株主を入れる場合、あるいは金融機関が子会社単体の返済能力を見る場合には、通算税効果額の授受ルールが大きな意味を持ってきます。
税効果会計では「税金が減りそう」だけでは繰延税金資産を計上できない
グループ通算制度を適用すると、税効果会計の判断は一段と複雑になります。
とりわけ問題になるのが、繰延税金資産の回収可能性です。
繰延税金資産は、将来の税負担を減らす効果が見込まれる場合に資産計上されるものです。ところがグループ通算制度のもとでは、個社単独の所得、グループ全体の所得、損益通算、欠損金通算、特定繰越欠損金、そして住民税・事業税が対象外である点まで、それぞれを分けて判断しなければなりません。
会計上も、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断については、原則として回収可能性適用指針に従いつつ、通算税効果額の影響を考慮する取扱いが示されています。将来減算一時差異の解消見込額は、まず通算会社単独の将来の一時差異等加減算前通算前所得の見積額と相殺し、その後に損益通算による益金算入見積額と相殺する、といった手順が定められています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
企業の分類についても同様です。通算グループ全体の分類と通算会社の分類をそれぞれ判定し、通算会社の分類は損益通算や欠損金通算を考慮せず、自社の通算前所得または通算前欠損金に基づいて判定することとされています。そのうえで、特定繰越欠損金以外の繰越欠損金については通算グループ全体の分類に応じた判断を行い、特定繰越欠損金については通算グループ全体の課税所得と通算会社の課税所得を分けて判断する、という取扱いが示されています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
実務上は、次のように整理しておくと見通しが立ちます。
| 税効果会計の論点 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 個社分類 | 各社単独で継続的に課税所得を出せるか |
| グループ分類 | 通算グループ全体で課税所得を見込めるか |
| 将来減算一時差異 | どの年度に解消するか |
| 繰越欠損金 | 特定繰越欠損金か、それ以外か |
| 損益通算見込 | 将来年度に他社所得と通算できるか |
| 住民税・事業税 | 法人税・地方法人税と分けて回収可能性を判断しているか |
| 加入・離脱 | 将来の再編計画を税効果に反映しているか |
| 監査対応 | 予算、事業計画、税務計算、取締役会資料が整合しているか |
税効果会計で最も危ういのは、「グループ全体では黒字だから、この会社の繰延税金資産も回収できる」と短絡してしまうことです。
通算グループ全体の所得を使えるものと、個社所得でしか使えないものは、きちんと分けて考える必要があります。
投資簿価修正は、離脱・売却時の落とし穴になる
グループ通算制度では、通算子会社の離脱や株式売却が絡む場面で、投資簿価修正が問題になります。
会計上、投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額または減額する効果を持ちます。そのため、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と、税務上の簿価純資産価額との差額を、一時差異と同様に取り扱うこととされています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
これは、M&Aや子会社売却を検討する場合に、非常に重要な論点です。
たとえば、グループ通算制度の適用中に子会社株式を売却するとしましょう。このとき、株式売却損益だけでなく、投資簿価修正によって税務上の譲渡損益や税効果会計にも影響が及ぶことがあります。
| 場面 | 注意点 |
|---|---|
| 子会社売却 | 投資簿価修正後の税務上の簿価を確認する |
| 子会社離脱 | 離脱時の税効果会計への影響を確認する |
| M&A価格交渉 | 繰延税金資産・負債の認識が企業価値に影響する |
| グループ再編 | 合併・分割・株式譲渡の順番で税効果が変わる |
| 監査対応 | 投資簿価修正の見積り根拠を残す |
子会社を売却する直前になって投資簿価修正を検討し始めると、譲渡損益や税効果会計の見積りが大きく変わってしまうおそれがあります。
再編後の管理では、加入時だけでなく、離脱・売却時まで見据えた台帳管理が欠かせません。
制度開始の手続と「やめる難しさ」も判断材料になる
グループ通算制度の適用を受けるには、親法人と完全支配関係にある子法人のすべてが、国税庁長官の承認を受ける必要があります。原則として、最初に制度適用を受けようとする事業年度開始の日の3か月前の日までに、親法人および子法人すべての連名で承認申請書を提出しなければなりません。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
そして、制度をやめる場合も自由ではありません。通算法人は、やむを得ない事情があるときに国税庁長官の承認を受けて制度適用をやめることができるとされていますが、単に税負担が軽減されるといった理由で制度適用を受けないこととする場合は、この「やむを得ない事情」には該当しないとされています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
この点は、節税判断として非常に重要です。
グループ通算制度は、利益が出た年だけ使って、都合が悪くなったらやめる、というような制度ではありません。いったん適用を始めれば、毎期の税務管理、会計処理、申告体制、子会社の加入・離脱管理を、継続して回していく必要があります。
申告・納付は各社個別、ただし連帯納付責任がある
グループ通算制度では、各通算法人が個別に申告・納付を行います。あわせて、通算法人は資本金の額にかかわらず、e-Taxによって申告書を提出しなければなりません。さらに、通算法人は他の通算法人の一定の法人税について、連帯納付責任を負います。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要
この仕組みは、再編後の管理に大きく影響します。
| 管理項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 各社個別申告 | 子会社ごとに申告責任が残る |
| e-Tax義務 | 資本金1億円以下でも電子申告が必要 |
| 親会社電子署名 | 親会社が子会社申告を処理する場合の運用を確認 |
| 連帯納付責任 | 他社の法人税滞納がグループ全体のリスクになる |
| 申告期限延長 | 親法人申請による期限管理が必要 |
| 資料回収 | 全社の税務情報を親会社が期限内に集約する必要 |
| 修正申告 | 1社の誤りが遮断措置・全体再計算に関わる |
「各社が個別申告だから、各社任せでよい」という発想は危険です。
むしろ、各社が個別に申告するからこそ、親会社側にグループ税務の管理機能が必要になるのです。
再編後管理で必ず作るべき台帳
グループ通算制度を適用するグループでは、少なくとも次の台帳を整備しておくべきです。
| 台帳 | 管理する内容 |
|---|---|
| グループ法人一覧 | 法人名、所在地、資本金、決算期、事業内容、法人番号 |
| 資本関係台帳 | 株主構成、完全支配関係、取得日、離脱予定 |
| 通算加入・離脱台帳 | 加入日、離脱日、加入時特例、届出状況 |
| 欠損金台帳 | 発生年度、期限、特定・非特定、切捨て有無 |
| 時価評価台帳 | 開始・加入・離脱時の評価対象資産、評価損益 |
| 税効果台帳 | 一時差異、繰延税金資産・負債、回収可能性 |
| 通算税効果額台帳 | 各社別の税効果額、精算額、入出金日 |
| 税額控除台帳 | 研究開発税制、外国税額控除、賃上げ促進税制等 |
| 申告管理台帳 | 申告期限、電子申告、別表、添付書類、レビュー状況 |
| 税務調査対応台帳 | 過去指摘事項、修正申告、更正、質問応答記録書 |
なかでも欠損金台帳は、単に「残高」を管理するだけでは足りません。
次の項目まで踏み込んで管理します。
| 欠損金台帳の項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生法人 | どの法人で発生した欠損金か |
| 発生年度 | いつ発生した欠損金か |
| 繰越期限 | いつまで使えるか |
| 特定・非特定 | グループ全体で使えるか、自社所得限定か |
| 切捨て有無 | 開始・加入時に切り捨てられたか |
| 控除可能見込 | 将来所得で使えるか |
| 税効果計上額 | 繰延税金資産として計上しているか |
| 監査・税務根拠 | 計算根拠、申告書別表、レビュー資料 |
この台帳のないまま制度を適用してしまうと、数年後には欠損金の性質そのものが分からなくなってしまいます。
グループ通算制度が向いている場合・慎重に見るべき場合
グループ通算制度の適用が検討に値するのは、次のような場合です。
| 検討に値する場合 | 理由 |
|---|---|
| 100%グループ内で黒字会社と赤字会社が継続的に混在する | 損益通算効果が見込まれる |
| グループ全体の事業ポートフォリオを一体管理している | 事業実態と税務制度が整合しやすい |
| 親会社に税務管理機能がある | 個別申告・通算計算・税効果管理に対応できる |
| M&A後の子会社管理を整備したい | 欠損金、時価評価、加入・離脱を体系管理できる |
| 税効果会計・監査対応を含めて管理できる | 繰延税金資産の説明可能性が高まる |
一方で、慎重に見るべきなのは、次のような場合です。
| 慎重に見るべき場合 | 理由 |
|---|---|
| 赤字会社の欠損金利用だけを目的にしている | 欠損金制限・時価評価・否認リスクがある |
| 子会社の申告品質が低い | 遮断措置や修正申告管理が難しくなる |
| 近い将来、子会社売却やM&Aを予定している | 投資簿価修正、離脱時処理、税効果会計に影響する |
| グループ内に税務資料を集約する体制がない | 申告期限・電子申告・別表管理でミスが生じやすい |
| 地方税や消費税まで通算できると誤解している | 法人税以外の資金負担を見落とす |
| 繰延税金資産を大きく計上したいだけ | 回収可能性の説明が弱いと監査・金融機関対応で問題になる |
グループ通算制度は、使えば自動的に有利になる、という性質のものではありません。
制度そのものの効果よりも、その制度を維持していく管理能力のほうが、実は重要なのです。
税務調査で見られるポイント
グループ通算制度を適用している場合、税務調査では、個社の処理だけでなく、グループ全体の整合性が見られます。
とくに確認されやすいのは、次の点です。
| 調査ポイント | 確認される内容 |
|---|---|
| 完全支配関係 | 対象法人に漏れや誤りがないか |
| 加入・離脱時期 | 完全支配関係発生日、届出、特例適用が正しいか |
| 損益通算 | 通算前所得・通算前欠損金の計算が正しいか |
| 欠損金通算 | 特定・非特定の区分、控除限度、切捨てが正しいか |
| 時価評価 | 開始・加入・離脱時の時価評価課税の要否 |
| 税額控除 | 研究開発税制、外国税額控除、賃上げ促進税制等の調整 |
| 通算税効果額 | 内部精算額、入出金、会計処理の整合性 |
| 修正申告 | 遮断措置・全体再計算の判断 |
| 税効果会計 | 繰延税金資産の回収可能性の根拠 |
| 資料保存 | 各社申告書、別表、台帳、議事録、契約書 |
税務調査では、申告書の数字そのものだけでなく、その数字がどの資料から作られたのかが問われます。
グループ通算制度では、1社の申告書だけを見ても全体像は見えてきません。だからこそ、親会社側で、各社の申告書、通算計算、税効果会計、内部精算、資本関係、加入・離脱の履歴を、一体で説明できる状態にしておく必要があります。
実行前に整理すべき資料
グループ通算制度の導入や再編後管理を検討する際には、少なくとも次の資料を整理しておきます。
1. グループ構成に関する資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| グループ組織図 | 完全支配関係を確認する |
| 株主名簿 | 100%支配関係の確認 |
| 資本関係の異動履歴 | 加入・離脱時期を確認 |
| 子会社一覧 | 対象法人の漏れを防ぐ |
| 決算期一覧 | 申告スケジュールを管理する |
| 海外法人一覧 | 国内通算対象外法人との関係を確認する |
2. 税務・申告に関する資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 過去申告書一式 | 繰越欠損金・税額控除・別表を確認 |
| 勘定科目内訳明細書 | 取引実態を確認 |
| 欠損金明細 | 特定・非特定、期限、切捨てを確認 |
| 税額控除明細 | グループ調整の要否を確認 |
| 修正申告・更正履歴 | 遮断措置や調査リスクを確認 |
| 税務調査指摘事項 | 継続論点を把握する |
3. 会計・税効果に関する資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 各社決算書 | 個社所得・損益構造を把握する |
| 事業計画 | 将来課税所得の見積りに使う |
| 税効果会計資料 | 繰延税金資産・負債を確認 |
| 一時差異明細 | 回収可能性判断の基礎にする |
| 監査法人との協議資料 | 会計処理の合意状況を確認 |
| 予算実績比較 | 将来所得見積りの信頼性を確認 |
4. M&A・組織再編に関する資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 株式譲渡契約書 | 加入・離脱時期、税務補償を確認 |
| 合併契約書・分割契約書 | 適格要件・欠損金引継ぎを確認 |
| デューデリジェンス資料 | 対象会社の税務リスクを確認 |
| 株価算定資料 | 投資簿価修正や税効果に影響 |
| 買収後統合計画 | 再編後の税務管理体制を確認 |
| 取締役会議事録 | 制度選択・再編目的を説明する |
導入前に確認すべき問い
グループ通算制度を導入すべきか迷ったときは、次の問いを順番に確認してみてください。
| 問い | 判断の意味 |
|---|---|
| グループ通算制度を使う事業上の目的は何か | 税額圧縮だけでなく、グループ管理目的があるか |
| 完全支配関係にある法人を漏れなく把握しているか | 対象法人の誤りを防ぐ |
| 近い将来、子会社の買収・売却・合併・分割を予定しているか | 加入・離脱・投資簿価修正に影響 |
| 赤字会社の欠損金は本当に使えるか | 特定繰越欠損金・切捨てを確認 |
| 地方税や消費税まで含めた資金繰りを試算しているか | 法人税だけの節税判断を避ける |
| 通算税効果額をどの会社にどう精算するか | 内部資金移動と会計処理に影響 |
| 各社が期限内に正確な税務資料を提出できるか | 親会社の管理体制が問われる |
| 税効果会計上、繰延税金資産を説明できるか | 監査・金融機関対応に影響 |
| 修正申告が出た場合の対応ルールがあるか | 遮断措置・全体再計算への備え |
| 制度をやめる可能性まで考えているか | 安易な導入を防ぐ |
「導入すると税金が減るか」だけでは、判断としては足りません。
制度を導入した後、毎期、正しく計算し、申告し、説明し、そして将来のM&Aや再編にも耐えられるか。そこまで確認しておく必要があります。
まとめ
グループ通算制度は、グループ会社間の黒字と赤字を、一定の範囲で通算できる制度です。
しかし、その本質は、単年度の税額圧縮にあるのではありません。
本当に見るべきなのは、次の点です。
| 論点 | 本質 |
|---|---|
| 損益通算 | 当期の黒字と赤字を一定のルールで調整する |
| 欠損金 | 残高ではなく、使えるか、誰の所得で使えるかが重要 |
| 開始・加入時評価 | 制度適用時点で時価評価課税や欠損金切捨てが起きることがある |
| 遮断措置 | 便利だが、全体再計算や濫用防止を無視できない |
| 通算税効果額 | 税効果の内部精算と資金移動の設計が必要 |
| 税効果会計 | 個社とグループ全体の回収可能性を分けて判断する |
| 投資簿価修正 | 子会社離脱・売却時の税務と会計に影響する |
| 再編後管理 | 台帳、申告、税効果、内部精算を継続管理する必要がある |
| 税務調査 | 申告書だけでなく、根拠資料・台帳・意思決定が見られる |
グループ通算制度は、会社が成長し、子会社を持ち、M&Aや組織再編を進める段階で検討される、高度な税務制度です。
使い方によっては、グループ全体の税負担を適正化し、資金繰りを改善し、再編後の税務管理を整える効果があります。
その一方で、欠損金制限、時価評価、税効果会計、申告管理、連帯納付責任、子会社の加入・離脱、税務調査対応といった点を見落とすと、制度導入後に大きな管理負担や説明リスクを抱え込むことになります。
グループ通算制度を検討する際は、「税金が減るか」ではなく、グループ全体として、説明できる数字を作り続けられるかを基準に判断することが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A・組織再編後のグループ税務、グループ通算制度の導入判断、そして欠損金・時価評価・税効果会計・再編後申告管理の論点整理を支援しています。
グループ会社間の損益通算、子会社買収後の欠損金利用、税効果会計、再編後の申告管理に不安がある場合は、実行前に資料と数字を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 項目 | 重要ポイント | 実行前・運用時に確認すべき資料 |
|---|---|---|
| 制度の位置づけ | 節税策ではなく、グループ税務管理制度として捉える | グループ組織図、制度導入目的メモ |
| 対象法人 | 完全支配関係と適用対象法人を確認する | 株主名簿、資本関係台帳 |
| 損益通算 | 黒字・赤字を一定の配分ルールで調整する | 各社所得計算、通算前所得・欠損明細 |
| 欠損金 | 特定・非特定、切捨て、期限を分けて管理する | 欠損金台帳、申告書別表 |
| 開始・加入時評価 | 時価評価課税や欠損金切捨てが起こり得る | 時価評価資料、加入日管理資料 |
| 遮断措置 | 修正・更正時に原則他社影響を遮断するが、全体再計算もある | 修正申告履歴、遮断措置検討資料 |
| 通算税効果額 | 税効果の内部精算ルールを明文化する | 通算税効果額台帳、精算契約、入出金記録 |
| 税効果会計 | 個社とグループ全体の回収可能性を分けて判断する | 一時差異明細、事業計画、税効果資料 |
| 投資簿価修正 | 子会社離脱・売却時の税務・会計に影響する | 投資簿価台帳、子会社純資産資料 |
| 申告管理 | 各社個別申告・e-Tax・連帯納付責任を管理する | 申告管理台帳、電子申告控え |
| M&A・再編 | 買収前欠損金や加入・離脱の影響を事前に確認する | DD資料、株式譲渡契約、再編契約書 |
| 税務調査対応 | 各社処理とグループ全体計算の整合性を説明できるようにする | 申告書、別表、議事録、台帳、根拠資料 |