定期同額給与で失敗しないための判断軸|役員報酬をいつ・どう変更すべきか

役員報酬は、オーナー会社にとって最も身近な税務論点のひとつです。

会社に利益が出そうであれば、役員報酬を増やして法人税を抑えたい。資金繰りが厳しくなれば、役員報酬を下げて会社に資金を残したい。法人化したあとは、会社と個人を合わせて手取りが最も多く残る水準にしたい。

こうした発想そのものは、ごく自然なものだと思います。役員報酬は、法人税、所得税、住民税、社会保険料はもちろん、資金繰りや金融機関対応、さらには将来の退職金や事業承継にまで影響していくからです。

ただ、役員報酬を「利益に合わせて自由に増減できるもの」と捉えてしまうと、税務上は大きな失敗につながりかねません。

法人が役員に支給する給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しない場合、原則として損金に算入できません。そして、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分については、やはり損金になりません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

本記事では、役員給与のなかでも最も基本となる「定期同額給与」を取り上げます。単なる制度の説明にとどまらず、実務で失敗しないための判断軸を整理していきます。

なお、事前確定届出給与や業績連動給与については、それぞれ別の記事で扱うべき論点です。ここでは、毎月支給する役員報酬を「いつ」「どのように」決め、「どのような場合に変更できるのか」という点に絞ってお話しします。

目次

定期同額給与は「毎月同額なら何でもよい」わけではない

定期同額給与とは、簡単にいえば、一定期間ごとに同額で支給される役員給与のことです。

ただ、実務で本当に大切なのは、「毎月同じ金額を払っているか」だけではありません。定期同額給与は、役員の職務執行の対価として、あらかじめ定められた支給基準に基づき、規則的・継続的に支給されることが前提になります。

法人税基本通達では、支給時期が1か月以下の一定期間ごとである給与について、あらかじめ定められた支給基準に基づき、毎日・毎週・毎月のように1か月以下の期間を単位として、規則的に反復・継続して支給されるものと整理されています。逆にいえば、非常勤役員に年1回または年2回支給する年俸・期間俸のようなものは、たとえ月額を基礎に算定されていても、定期同額給与には該当しません。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

こうして見ていくと、定期同額給与の本質は、次のような点にあることがわかります。

観点確認すべきこと
支給時期1か月以下の一定期間ごとに、規則的に支給されているか
支給額原則として、各支給時期の支給額が同額か
事前性職務執行期間の開始時点で、報酬額が適切に決められているか
継続性利益の状況を見て、途中で恣意的に増減していないか
手続定款、株主総会、取締役会等の決定手続が整っているか
実態議事録、給与台帳、源泉徴収、社会保険、振込記録が一致しているか

特にオーナー会社では、「会社の利益を見てから役員報酬を調整したい」という誘惑が生じやすいものです。定期同額給与という制度は、そうした後出しの利益調整を認めないための仕組みでもある、と捉えておくとよいと思います。

役員報酬を変更できるのは、原則として決められたタイミングだけ

役員報酬は、一度決めたら絶対に変えられない、というものではありません。

ただし、定期同額給与として損金算入を維持しようとする以上、変更できる場面は限られています。大きく分けると、次の三つです。

改定類型内容実務上の注意点
通常改定事業年度開始後、原則として一定期間内に行う定期的な改定毎期の役員報酬設計の中心
臨時改定職制上の地位変更、職務内容の重大な変更等による改定単なる業績好調や気分的な変更では足りない
業績悪化改定経営状況の著しい悪化等により、やむを得ず減額する改定一時的な資金繰りや目標未達だけでは足りない

制度上は、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた改定、役員の職制上の地位変更や職務内容の重大な変更等による改定、そして経営状況の著しい悪化等による減額改定が認められています。ただし、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことは、業績悪化改定の事由には含まれません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

実務でも、定期同額給与は、通常改定・臨時改定・業績悪化改定という改定事由ごとに、改定前後の期間を区分して判定していくのが基本になります。

ここで本当に大切なのは、「変更できるかどうか」ではありません。「なぜ、その時点で変更するのか」を、あとから説明できるかどうかです。

通常改定は、毎期の役員報酬設計の基本になる

通常改定とは、毎期の定時株主総会後など、一定の時期に行う役員報酬の改定を指します。

多くの中小企業・オーナー会社では、決算後に定時株主総会を開き、次の職務執行期間に係る役員報酬を決める、という運用が一般的です。このタイミングで、会社の利益水準、資金繰り、役員の職務内容、個人側の手取り、社会保険料、そして将来の退職金や承継方針までを踏まえて、役員報酬を設定していくことになります。

通常改定で押さえておきたいのは、次の二つです。

ひとつ目は、改定の時期です。

原則として、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにされた改定が、通常改定として扱われます。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

ふたつ目は、改定前後の支給額の同額性です。

改定があった場合には、改定前の期間と改定後の期間を分けたうえで、それぞれの期間で支給額が同額かどうかを確認します。

たとえば、定時株主総会で役員報酬を改定し、改定前の期間は旧報酬額で同額、改定後の期間は新報酬額で同額に支給されていれば、通常はそれぞれの期間について定期同額給与として整理できます。定時株主総会の翌月以降に増額改定を反映するようなケースでも、改定前後の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与に該当する、という考え方が示されています。
出典:国税庁|役員給与に関するQ&A

ここで失敗しやすいのが、定時株主総会で報酬を決めたつもりになっているものの、実際の支給開始月、給与台帳、源泉徴収、社会保険の届出が噛み合っていない、というケースです。

議事録上は6月から増額したことになっている。けれども、実際の振込は7月から変わっている。源泉徴収簿では旧報酬額のまま処理されている。社会保険の標準報酬月額の変更も行われていない。

こうした状態では、あとから「いつ、どの金額に改定したのか」を説明することが難しくなってしまいます。

定期同額給与で大切なのは、議事録だけではなく、会社の実際の処理が一貫していることです。

臨時改定は、職務内容の実質的な変化がある場合に限られる

臨時改定とは、通常改定の時期以外に、役員の職制上の地位変更、職務内容の重大な変更、その他これに類するやむを得ない事情によって行う改定です。

典型的には、代表者の交代、役員の昇格、病気や死亡等による職務分担の大幅な変更、合併等に伴う職務内容の変更などが考えられます。

法人税基本通達では、臨時改定事由の例として、定時株主総会後、次の定時株主総会までの間に社長が退任し、副社長が社長に就任する場合や、合併に伴い役員の職務内容が大幅に変更される場合などが挙げられています。また、ここでいう役員の職制上の地位とは、定款等の規定、あるいは総会・取締役会決議等により付与されたものとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

ここで重要なのは、「職務内容が本当に変わったのか」という点です。

単に売上が伸びた。担当部署の業績がよかった。資金に余裕が出た。経営者の貢献に報いたい――。

こうした理由だけでは、臨時改定の事由としては不十分です。役員報酬の増額そのものに経営上の合理性があったとしても、税務上の定期同額給与として認められるかどうかは、また別の問題だからです。

臨時改定を行う際には、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。

確認事項実務上のポイント
変更前の職務改定前にその役員が担っていた職務内容
変更後の職務改定後に追加・変更された職務内容
変更の原因退任、就任、組織変更、合併、病気、死亡などの具体的事情
決定手続株主総会、取締役会等で正式に決議しているか
支給開始時期職務変更と報酬改定のタイミングが対応しているか
資料議事録、辞任届、就任承諾書、組織図、職務分掌表等が残っているか

臨時改定でつまずきやすいのは、報酬額だけを変更して、職務内容の変化を資料の面でも実態の面でも説明できない、というケースです。

税務調査では、議事録に「職務内容の変更により増額」と書いてあるかどうかだけでなく、実際に何が変わったのかまで見られます。

業績悪化改定は、単なる資金繰り悪化や目標未達では足りない

業績悪化改定は、経営状況が著しく悪化したこと等により、役員報酬を減額する場合の改定です。

まず注意しておきたいのは、業績悪化改定はあくまで「減額改定」に限られる、という点です。業績がよかったから期中に増額する、という方向では使えません。

そして、業績悪化改定は、単に「今月の資金繰りが厳しい」「予算に届かなかった」「利益率が思ったより低い」というだけでは足りません。業績悪化改定の事由とは、経営状況が著しく悪化したことなど、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情をいうものとされており、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどは、これに含まれないとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

一方で、すでに数値が悪化している場合だけが対象になるわけではありません。現状では売上などの数値的指標が悪化しているとまではいえない場合であっても、客観的な状況から今後著しく悪化することが避けられないと認められ、役員給与の減額などの経営改善策を講じる必要があるときには、業績悪化改定の事由に該当し得る、という考え方が示されています。ただし、客観的な状況を伴わない単なる将来の見込みによる減額は、業績悪化改定の事由には当たりません。
出典:国税庁|役員給与に関するQ&A

したがって、業績悪化改定では、次のような説明資料が重要になってきます。

確認事項残しておきたい資料
悪化した事実月次試算表、資金繰り表、売上推移表、受注状況、借入返済予定表
悪化が不可避である事情主要取引先の状況、契約打切り通知、受注減少資料、外部環境資料
減額の必要性経営改善計画、金融機関提出資料、資金繰り改善策
決定手続株主総会議事録、取締役会議事録、役員報酬改定決議
減額後の支給実態給与台帳、振込記録、源泉徴収、社会保険手続

業績悪化改定は、税務上の形式だけでなく、経営判断としての合理性まで問われる領域です。

「資金が苦しいので下げた」という説明だけでは、やはり足りません。「どの数値が、どのように悪化し、なぜ役員報酬の減額が必要だったのか」を示せる状態にしておくことが求められます。

期末の未払役員給与は、特に疑われやすい

定期同額給与で特に注意が必要なのが、期末になってから役員給与を未払計上する処理です。

利益が出そうなので、期末に役員給与を追加で未払計上する。本当はもっと高い役員報酬にしていたことにして、過去に遡って増額する。議事録の日付を過去に合わせる。実際には支給していないのに、決算のうえだけで役員給与を計上する。

こうした処理は、税務調査で強く問題視されます。

実務でも、期末に代表者への未払給与が計上されている場合には、その正当性が疑われやすくなります。過去に遡って増額した役員給与について、定期同額給与として損金算入された部分まで含めて問題になり得る、という点は意識しておきたいところです。

ここで押さえておきたいのは、未払計上そのものが常に否認されるわけではない、ということです。

ただ、役員給与については、一般の未払費用や使用人賞与とは異なり、法人税法上の損金算入制限があります。定期同額給与として認められるためには、職務執行期間の開始前、あるいは適切な改定時期に支給額が決まり、その後は同額で支給されることが前提になります。

そのため、期末の未払役員給与については、次のような点が厳しく見られます。

確認される点問題になりやすい状態
決議時期決議が実際には期末後に行われている
支給義務期中に確定した支給義務が説明できない
源泉徴収未払額を含めた源泉徴収・年末調整が行われていない
社会保険報酬改定に伴う社会保険手続と整合しない
支給実態実際の振込がなく、資金移動が伴っていない
議事録実態と異なる内容で後日作成された疑いがある

定期同額給与の判断では、仕訳だけでは足りません。会社の意思決定、給与処理、源泉徴収、社会保険、資金移動が、ひとつのストーリーとしてつながっていることが求められます。

遡及増額は、定期同額給与にならないリスクが高い

定時株主総会で役員報酬を増額すること自体は、通常改定として認められる余地があります。

しかし、増額を期首に遡って行い、過去の数か月分の増額差額をまとめて支給するような処理は、危険です。

実務でも、定時株主総会で役員給与を期首に遡及して増額し、過去分の増額分を後日一括支給するようなケースでは、その一括支給分は定期同額給与に該当せず、損金算入できないと整理されます。すでに終了した職務に対して、事後的に給与額を増額して支給したものは、事前に定められた定期同額給与とはいえないからです。

ここでの判断軸は、はっきりしています。

役員報酬は、過去の利益を見て、あとから増やすものではありません。将来の職務執行に対して、事前に決めるものです。

もちろん実務では、定時株主総会の開催時期と給与支給日の関係で、どの月から改定後の金額を適用すべきか迷う場面もあります。その場合は、改定決議日、支給日、給与計算締日、実際の支給日を整理したうえで、改定前後の期間で同額性が保たれているかを確認していく必要があります。

「4月に遡って増額したことにする」というような安易な処理は、定期同額給与の制度趣旨とは合いません。

支給額が変わった場合、全額否認とは限らないが、安心してよいわけではない

定期同額給与で支給額が途中で変わった場合でも、常にその事業年度の全額が損金不算入になるわけではありません。

改定前後の期間ごとに同額性を判定し、損金算入できる部分とできない部分を区分する、という考え方が取られる場合があります。たとえば、通常改定のあとに、臨時改定事由や業績悪化改定事由に該当しない増額・減額を行ったとしても、一定額の部分については、継続的に支給されている定期給与として整理できることがあります。

ただし、この点をもって「多少変えても大丈夫」と考えるのは危険です。

実務上の判断は、改定の時期、改定理由、支給額の推移、決議の有無、支給実態によって変わってきます。特に、役員報酬を利益調整目的で動かしたと見られる場合や、議事録と支給実態が合わない場合には、単なる一部損金不算入にとどまらず、重加算税や源泉所得税の問題にまで発展する可能性があります。

定期同額給与では、「どこまで損金にできるか」をあとから考えるのではなく、「最初から損金算入要件を満たす形で設計する」ことが大切です。

会社法上の決定手続も欠かせない

役員報酬は、法人税法だけで完結する論点ではありません。

会社法では、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益について、定款に定めがない場合には、株主総会の決議によって定めることとされています。
出典:e-Gov法令検索|会社法

ですから、役員報酬を決める際には、税務上の定期同額給与の要件だけでなく、会社法上の決定手続もあわせて確認しておく必要があります。

実務では、定款または株主総会で役員報酬の総額を決め、その範囲内で各役員への具体的な配分を取締役会や代表取締役に委任する、という運用もよく見られます。ただし、その場合でも、決定権限、決議内容、実際の支給額が整合していなければなりません。

役員給与の実務においても、会社法等の法令に従って役員給与の額を決議しておくことが、大前提になります。

税務調査で見られるのは、単に「議事録があるか」だけではありません。議事録の作成日、決議機関、決議内容、支給開始月、給与台帳、源泉徴収簿、社会保険手続、預金振込記録が、きちんと一致しているかが確認されます。

形式だけの議事録は、かえって危険です。あとから作成した議事録や、実際の支給と合わない議事録は、税務調査でむしろ不自然さを際立たせてしまいます。

定期同額給与を決めるときの、実務上の判断順序

定期同額給与を安全に設計するには、税額から逆算するのではなく、次の順序で考えていくことをおすすめします。

1. 会社に残すべき資金を確認する

役員報酬を増やせば、会社の損金は増えます。法人税は下がる方向に働きます。

ただ、その分だけ会社から資金が流出することも、忘れてはいけません。

会社には、運転資金、借入返済、納税資金、設備投資、採用費、予備資金が必要です。法人税を減らすために役員報酬を増やした結果、会社の資金繰りが悪化してしまうのであれば、それは健全な節税とはいえません。

2. 経営者個人に必要な資金を確認する

反対に、役員報酬を低く抑えすぎると、会社には資金が残るものの、経営者個人の生活資金や税負担に支障が出ることがあります。

オーナー会社では、会社と個人の資金を一体のように考えてしまいがちです。けれども、税務上は明確に別の財布です。会社にお金が残っていても、それを経営者が自由に使えるわけではありません。

3. 法人税・所得税・住民税・社会保険料を合わせて見る

役員報酬を増やすと、法人税は下がる可能性がある一方で、個人側の所得税・住民税・社会保険料は増える可能性があります。

ですから、役員報酬の水準は、法人税だけでなく、会社と個人を合わせた手残りで判断する必要があります。社会保険料を含めた総負担を見落としてしまうと、想定していた節税効果と、実際の資金残高とが大きくずれてしまうこともあります。

4. 職務内容と報酬水準の合理性を確認する

定期同額給与に該当していても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。

したがって、役員報酬は、職務内容、会社の収益状況、使用人給与とのバランス、同業類似法人との比較などを踏まえて、きちんと説明できる水準であることが求められます。

オーナー会社では、「自分の会社だから自由に決められる」と考えてしまいがちですが、税務上は、あくまで職務執行の対価として相当かどうかが問われます。

5. 決定手続を整える

報酬額を決めたら、会社法上の手続を整えます。

定款で定めるのか。株主総会で総額を決議するのか。取締役会で個別額を決めるのか。代表取締役に一任する場合、その委任の根拠と範囲は明確になっているか。

役員報酬は、税務だけでなく、会社の意思決定としてもきちんと記録されるべきものです。

6. 支給実態と資料を一致させる

最後に、決定した内容どおりに支給し、資料を整えます。

議事録、給与台帳、源泉徴収簿、振込記録、社会保険手続、試算表が一致しているかを確認します。

役員報酬の税務調査では、この整合性が何より重要です。「決めたこと」「払ったこと」「申告したこと」が一致していなければ、あとから説明することが難しくなってしまいます。

定期同額給与で残しておくべき資料

定期同額給与は、実行したあとに説明できることが重要です。

そのため、次の資料を毎期そろえておくと、税務調査でも金融機関対応でも、説明がしやすくなります。

資料確認する目的
定款役員報酬の決定方法を確認する
株主総会議事録役員報酬総額や改定内容の決議を確認する
取締役会議事録個別報酬額や支給開始時期の決定を確認する
職務分掌表・組織図職務内容と報酬水準の合理性を確認する
給与台帳毎月の支給額が同額であるか確認する
源泉徴収簿所得税処理、年末調整との整合性を確認する
預金振込記録実際の支給が行われているか確認する
社会保険関係資料標準報酬月額等との整合性を確認する
月次試算表報酬水準と会社の収益状況を確認する
資金繰り表報酬支給後の資金繰りを確認する
経営改善計画業績悪化改定を行う場合の根拠を確認する

これらの資料は、税務調査のためだけに作るものではありません。役員報酬を経営判断として説明するための資料です。

金融機関に対しても、後継者に対しても、役員報酬の決め方をきちんと説明できる会社は、数字の管理体制が整っている会社として見られやすくなります。

誤った定期同額給与の典型パターン

定期同額給与で失敗しやすいのは、次のような処理です。

誤った処理問題点
期末利益を見て役員報酬を増額する事後的な利益調整と見られやすい
過去に遡って増額し、差額を一括支給する事前に定めた定期同額給与といえない可能性が高い
議事録だけ過去日付で作成する支給実態、源泉徴収、社会保険と不一致になりやすい
資金繰り都合だけで期中減額する業績悪化改定事由に該当しない可能性がある
業績好調を理由に期中増額する臨時改定事由に該当しない可能性がある
非常勤役員に年1回まとめて支給する定期同額給与ではなく、別の給与類型の検討が必要
親族役員に実態の乏しい報酬を支給する職務内容、勤務実態、過大給与が問題になりやすい
役員個人の支出を会社負担にする経済的利益、認定賞与、源泉税の問題が生じ得る

定期同額給与は、制度としてはシンプルに見えます。

しかし実務では、改定時期、改定理由、支給実態、議事録、源泉徴収、社会保険、資金繰りが複合的に絡み合ってきます。

「毎月同額だから大丈夫」と考えるのではなく、「なぜその金額なのか」「なぜその時期に改定したのか」「あとから資料で説明できるか」を確認していくことが欠かせません。

税務調査で見られるポイント

税務調査では、定期同額給与について、次のような点が確認されます。

調査で見られる項目確認される内容
株主総会・取締役会議事録改定時期、決議内容、支給開始時期
給与台帳毎月の支給額が同額か
源泉徴収簿実際の支給額と税務処理の整合性
年末調整資料未払給与を含めた処理が適切か
預金通帳・振込記録実際に支給されているか
社会保険手続報酬改定との整合性
試算表・決算書期末に不自然な未払計上がないか
職務内容資料報酬水準が役員の職務に見合っているか
経営改善資料業績悪化改定の客観的根拠があるか

調査官は、単に「同じ金額で支払われているか」だけを見るわけではありません。決議のタイミング、支給額の推移、会計処理、税務処理、資金移動、会社の業績、役員の職務内容までを総合して確認していきます。

特に、利益が大きく増えた期に、期末で未払役員給与が計上されている場合や、過去に遡って増額したように見える場合は、重点的に確認されやすい論点です。

定期同額給与を安全に設計するための、実行前チェック

役員報酬を決める前、あるいは変更する前には、次の項目を確認しておくことをおすすめします。

チェック項目確認内容
変更の目的税額調整だけが目的になっていないか
変更の時期通常改定、臨時改定、業績悪化改定のいずれに該当するか
変更の理由職務内容、経営状況、資金繰り上の必要性を説明できるか
会社法手続定款、株主総会、取締役会等の手続を満たしているか
支給開始月決議日と実際の支給開始月が整合しているか
支給額の同額性改定前後の各期間で支給額が同額か
源泉徴収給与台帳・源泉徴収簿と一致しているか
社会保険標準報酬月額等の手続と整合しているか
資金繰り会社に必要な運転資金・納税資金が残るか
将来影響退職金、承継、株価、金融機関対応への影響を確認したか

このチェックを行うと、役員報酬の判断が「いくらにすれば税金が少ないか」から、「会社と経営者にとって、説明できる資金配分か」へと変わっていきます。

それが、本シリーズでいう「正しい節税」の考え方です。

定期同額給与は、毎期の経営判断として設計する

定期同額給与は、単なる税務上の形式要件ではありません。

会社にどれだけ利益を残すのか。経営者個人へどれだけ資金を移すのか。将来の役員退職金をどう考えるのか。金融機関にどのような利益水準を説明するのか。後継者にどのような会社を引き継ぐのか。

こうした判断のすべてが、役員報酬の金額に表れてきます。

だからこそ、定期同額給与は、決算直前に慌てて考えるものではありません。事業年度の早い段階で、月次の数字、資金繰り、個人の手取り、社会保険料、そして将来の退職金・承継方針を見ながら、腰を据えて設計していく必要があります。

税金を減らすために役員報酬を動かすのではなく、会社と経営者の資金配分を整えた結果として、税務上も説明できる形にしておく。

この順序を間違えないことこそが、定期同額給与で失敗しないための、最も重要な判断軸だと考えています。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

定期同額給与は、一見すると「毎月同額で支給するだけ」の制度に見えます。

しかし実際には、通常改定の時期、臨時改定の理由、業績悪化改定の客観的根拠、会社法上の決議、そして給与台帳・源泉徴収・社会保険・振込記録の整合性まで確認して、はじめて安全な設計になります。

特に、役員報酬を大きく増減させたい場合、期中で変更したい場合、資金繰りや金融機関対応に影響がある場合、あるいは将来の役員退職金や事業承継まで見据えたい場合には、実行する前の整理がとても重要になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、役員報酬を単なる節税額としてではなく、会社と経営者の資金配分、月次管理、税務調査での説明可能性、そして将来の退職金・承継・金融機関対応までを含めた経営判断として整理していきます。

役員報酬の設定や見直しについて、「このタイミングで変更してよいのか」「税務調査で説明できる形になっているか」「会社と個人を合わせた手残りを整理したい」と感じておられる方は、現在の決算書・試算表・役員報酬の決議資料・給与台帳などをもとに、早めに論点を整理しておくことをおすすめします。

ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。

この記事の振り返り

重要論点押さえるべきポイント
定期同額給与の本質毎月同額という形式だけでなく、事前に定めた職務執行の対価として規則的に支給されることが重要
通常改定原則として事業年度開始後の一定期間内に行う、毎期の基本的な改定
臨時改定職制上の地位変更や職務内容の重大な変更など、やむを得ない事情が必要
業績悪化改定経営状況の著しい悪化等により、やむを得ず減額する場合に限られる
一時的な資金繰り一時的な資金繰りの都合や単なる目標未達だけでは、業績悪化改定事由になりにくい
遡及増額期首に遡って増額し、過去分を一括支給する処理は、定期同額給与に該当しないリスクが高い
期末未払給与利益調整目的と見られやすく、議事録・源泉徴収・支給実態との整合性が重要
会社法手続定款、株主総会、取締役会等の決定手続を整える必要がある
税務調査対応議事録、給与台帳、源泉徴収簿、振込記録、社会保険手続が一致していることが重要
正しい判断順序税額ではなく、資金繰り、個人手取り、社会保険、将来設計、説明可能性から考える

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