減損テストは、回収可能価額を算定すれば終わり、というものではありません。
実務で本当に問われるのは、その先です。減損損失をどの資産に、どの順序で、どこまで配分するのか。翌期以降の償却や税効果をどう直すのか。状況が改善したときに戻入れが必要になるのか。そして、その判断を財務諸表利用者にどの粒度で開示するのか。ここまで見通して、はじめて一連の手続が完結します。
IAS第36号では、資産または資金生成単位(CGU)の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識します。もっとも、IFRSの減損会計は「損失を出すか、出さないか」だけを問う論点ではありません。認識後の会計処理、CGU内での配分、のれんの戻入禁止、戻入れの上限、表示科目、セグメント開示、主要仮定と感応度分析、そして監査証拠の整備まで、これらを一体のものとして整理する必要があります。
本稿では、IAS第36号における減損損失、戻入れ、開示を、基準本文の確認にとどめず、決算実務・監査対応・経営説明に耐える判断プロセスとして整理していきます。
減損損失の認識は「回収可能価額を下回った事実」を財務諸表に反映する手続である
IAS第36号では、資産の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合に限り、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その差額を減損損失として扱います。減損損失は、原則として直ちに純損益へ認識します。
ただし例外もあります。その資産がIAS第16号やIAS第38号の再評価モデルに基づいて再評価額で計上されている場合には、再評価剰余金との関係で、その他の包括利益に認識される部分があり得ます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
ここで押さえておきたいのは、減損損失は「将来見通しが悪いから保守的に積む」処理ではない、という点です。IAS第36号の減損損失は、帳簿価額が回収可能価額を超えているという測定上の状態を、そのまま財務諸表に映し出す処理にほかなりません。
ですから、次のような説明では足りません。
- 「業績が悪いので減損した」
- 「監査上、保守的に減損した」
- 「翌期以降の損益を軽くするために今回処理した」
- 「M&A時ののれんが大きいので、念のため減損した」
実務上は、次の順序で説明できることが求められます。
- 減損の兆候、または年次テストの対象を識別した
- 対象資産またはCGUの帳簿価額を確定した
- 回収可能価額を測定した
- 回収可能価額が帳簿価額を下回ることを確認した
- 減損損失の金額を算定した
- 個別資産、またはCGU内の資産に配分した
- 減損後の帳簿価額、償却、税効果、表示・開示を更新した
この流れが資料として残っていなければ、たとえ減損損失の金額そのものが正しくても、監査上の説明や開示の整合性でつまずくことになります。
CGUの減損損失は、まずのれんに配分し、その後に他の資産へ按分する
個別資産の回収可能価額を単独で見積れない場合、IAS第36号ではCGU単位で減損テストを行います。
CGUまたはCGUグループの回収可能価額が帳簿価額を下回るとき、減損損失はまず、当該CGUまたはCGUグループに配分されたのれんの帳簿価額を減額します。そのうえで、残額をCGU内の他の資産の帳簿価額に比例して配分していきます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
この順序は、実務では見過ごせないポイントです。のれんを含むCGUで減損が生じたとき、経営者が「特定の機械設備の収益性が落ちた」と考えていたとしても、CGU全体で減損損失を認識する局面では、まずのれんへ配分しなければなりません。
もちろん、CGU内の個別資産について先に減損の兆候があり、個別資産あるいは小さなCGUの回収可能価額を先に検討すべき場合もあります。要は、個別資産の減損とCGU全体の減損を混同しないことです。
さらに、CGU内の他の資産へ減損損失を配分する場合でも、帳簿価額を無制限に減額できるわけではありません。IAS第36号は、個別資産の帳簿価額を、処分コスト控除後の公正価値、使用価値、ゼロのうち最も高い金額を下回るまで減額してはならないとしています。ここで配分しきれなかった減損損失は、CGU内の他の資産へ比例配分することになります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
実務上の検討表では、少なくとも次の列をそろえておきたいところです。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 資産区分 | のれん、有形固定資産、無形資産、使用権資産、共用資産など |
| 減損前帳簿価額 | 減損テスト日現在の帳簿価額 |
| 減損損失配分前のCGU帳簿価額 | のれん・共用資産の配分後の総額 |
| 回収可能価額 | 使用価値、または処分コスト控除後の公正価値 |
| 減損損失総額 | 帳簿価額と回収可能価額の差額 |
| のれんへの配分額 | 最初に減額される金額 |
| 他資産への配分額 | 帳簿価額比例による配分 |
| 配分上限 | FVLCD、使用価値、ゼロのうち最も高い金額 |
| 配分後帳簿価額 | 減損後のBS金額 |
| 翌期以降の償却基礎 | 残存耐用年数・残存価額を踏まえた改訂後償却額 |
減損損失の認識、CGUへの配分、配分限度、のれんの減損、戻入れ、そして開示。これらは実務上、切り離せない一連の検討領域として整理しておく必要があります。
減損損失を認識した後は、償却・税効果・内部管理数値まで更新する
減損損失を認識すると、資産の帳簿価額が変わります。
IAS第36号は、減損損失の認識後、改訂後の帳簿価額から残存価額を控除した金額を、残存耐用年数にわたり規則的に配分するよう、減価償却費または償却費を将来期間で調整することを求めています。あわせて、改訂後の帳簿価額と税務基準額を比較し、IAS第12号に基づいて関連する繰延税金資産または繰延税金負債を検討することになります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
したがって、減損仕訳を切って終わり、というわけにはいきません。実務上は、次の後続処理が続きます。
- 固定資産台帳の帳簿価額を更新する
- 減損後の償却可能額を再計算する
- 耐用年数、残存価額、償却方法の見直し要否を確認する
- 税務基準額との差異を把握する
- 繰延税金資産・負債を見直す
- 管理会計・KPI・セグメント情報との整合性を確認する
- 減損損失の表示科目を決定する
- 注記に必要な情報を抽出する
- 監査調書用の証拠を保管する
減損損失は、損益計算書に一度表示されて終わる処理ではありません。翌期以降の減価償却費、税効果、セグメント損益、EBITDA調整、財務制限条項、M&A後の業績評価にまで影響が及びます。とりわけM&A直後ののれん減損や無形資産の減損では、買収時の投資判断、PPA、PMIの進捗、そして経営者の説明責任と密接に結びついてきます。
戻入れは「業績が良くなったから」ではなく、見積りの変更がある場合に検討する
IFRSと日本基準の大きな違いの一つが、減損損失の戻入れです。日本基準では、固定資産の減損損失の戻入れは原則として認められていません。一方IFRSでは、のれんを除き、過去に認識した減損損失がもはや存在しない、または減少している兆候がある場合に、回収可能価額を見積り、一定の要件を満たせば戻入れを認識します。IFRSではのれんを除いて戻入れの可能性があるという点は、両者の差異として実務上とくに意識しておきたいところです。
IAS第36号は、各報告期間末に、のれん以外の資産について、過去に認識した減損損失がもはや存在しない、または減少している兆候がないかを評価するよう求めています。
兆候としては、外部情報であれば資産価値の著しい上昇、技術・市場・経済・法的環境の有利な変化、市場金利等の低下などが例示されています。内部情報であれば、資産の使用方法の有利な変化、改善投資、リストラクチャリング、内部報告における経済的成果の改善などが挙げられています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
ただし、業績が改善しただけで戻入れが自動的に認識されるわけではありません。IAS第36号は、過去に減損損失を認識した後、回収可能価額の算定に用いた見積りに変更があった場合に限り、のれん以外の資産について減損損失を戻し入れるとしています。具体的には、回収可能価額の基礎が変わった、使用価値に用いる将来キャッシュ・フローや割引率が変わった、処分コスト控除後の公正価値の構成要素が変わった、といった事情が該当し得ます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
なお、単なる時間の経過による割引の巻戻しは、資産のサービス・ポテンシャルの増加ではありません。したがって、戻入れの理由にはなりません。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
実務で戻入れを検討する際は、次のように整理しておくと判断がぶれにくくなります。
| 検討項目 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 戻入れの兆候 | 外部環境・内部業績・使用方法・金利・市場価格の変化 |
| 見積りの変更 | キャッシュ・フロー、割引率、成長率、処分価額、評価技法の変更 |
| 単なる時間経過との区別 | 割引の巻戻しのみでないか |
| 戻入対象 | のれん以外の資産か |
| 戻入上限 | 減損がなかった場合の償却後帳簿価額を超えていないか |
| 認識科目 | 純損益か、再評価資産の場合はOCIとの関係か |
| 後続償却 | 戻入後の帳簿価額に基づき償却を再計算しているか |
| 開示 | 戻入れの事象・状況・金額・表示科目を説明しているか |
戻入れは損益を改善させる処理になり得るため、監査上も経営者バイアスが入りやすい領域です。戻入れを認識するのであれば、減損損失を認識した当時の前提、直近の事業計画、実績推移、外部市場データ、割引率の変化を突き合わせ、「何が変わったのか」を明確に説明できることが欠かせません。
戻入れの上限は「過去に減損していなかった場合の帳簿価額」である
IAS第36号は、のれん以外の資産について減損損失を戻し入れる場合でも、戻入後の帳簿価額が、過去に減損損失を認識していなかったとした場合の償却後または減価償却後の帳簿価額を超えてはならないとしています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
この上限は、実務でしばしば見落とされます。
たとえば、過年度に機械装置を100まで減損し、その後、回収可能価額が150まで回復したとします。それでも、過去に減損がなかった場合の当期末帳簿価額が130であれば、戻入後の帳簿価額は130を超えられません。もし150まで戻せば、過去に認識した減損損失の戻入れを超えて、実質的に再評価を行ったことになってしまいます。
CGU単位で戻入れを行う場合は、戻入額を、のれんを除くCGU内の資産に帳簿価額比例で配分します。その際、各資産の戻入後帳簿価額は、個別資産の回収可能価額と、過去に減損損失を認識していなかった場合の償却後帳簿価額の、いずれか低い金額を超えてはなりません。配分しきれなかった戻入額は、のれんを除く他の資産へ比例配分します。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
実務上も、CGUの戻入れ配分ではのれんへの戻入れは行わず、各資産について回収可能価額と、減損がなかった場合の償却後帳簿価額を上限として配分する、という整理になります。
のれんの減損損失は戻し入れない
IAS第36号は、のれんについて認識した減損損失を、後の期間に戻し入れてはならないとしています。仮に減損後にのれんの回収可能価額が増加したとしても、それは取得したのれんの減損損失の戻入れではなく、自己創設のれんの増加である可能性が高い、という考え方が示されています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
この点は、M&A後の業績回復局面で問題になりやすい論点です。
買収直後に業績が振るわず、のれんを減損した。その後、PMIが進み、収益性が改善してきた——。経営者としては「当初の買収価値が戻った」と説明したくなるかもしれません。しかしIAS第36号のもとでは、過去にのれんへ配分した減損損失を戻し入れることはできません。
この判断を誤ると、次のような問題が生じます。
- のれんの戻入れを認識してしまう
- のれんに配分すべき減損損失を他資産に配分し、将来の戻入可能性を残してしまう
- CGU全体の回収可能価額の改善を、のれん以外の資産の戻入れとして過大に配分してしまう
- M&A後の内部業績評価とIFRS上の会計処理を混同してしまう
のれん減損は、財務諸表上の一度限りの損失というより、M&A投資の説明責任に関わる処理です。減損後に事業が改善したとしても、その改善を、のれんの帳簿価額として復活させることはできません。
減損損失の表示は、損益計算書のどこに出すかまで検討する
IAS第36号は、減損損失の認識そのものを定めていますが、損益計算書上の表示科目は、企業の表示方針や費用分析の方法とも関係してきます。大切なのは、減損損失をどの表示科目に含めたのかを、注記ときちんと整合させることです。
IAS第36号は、資産の種類ごとに、当期に純損益で認識した減損損失の金額と、それが包括利益計算書のどの表示科目に含まれているかを開示するよう求めています。純損益で認識した戻入額とその表示科目、再評価資産に係るOCIで認識した減損損失・戻入額も、同じく開示の対象です。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
そのため、次のような判断は、あらかじめ整理しておく必要があります。
- 減損損失を売上原価に含めるのか
- 販売費及び一般管理費に含めるのか
- その他の費用として表示するのか
- 重要な収益・費用項目として分解表示、または注記するのか
- セグメント損益に含めるのか
- 管理上の調整後利益から除外するのか
- 再評価資産の場合、OCIと純損益のどちらに認識されるのか
減損損失の表示は、会計システム上の勘定科目をどう決めるか、という問題にとどまりません。投資家・金融機関・監査人が、その損失をどのような性質のものとして受け止めるかにも影響していきます。
セグメント開示との整合性を軽視してはいけない
IAS第36号は、IFRS第8号に基づいてセグメント情報を報告している企業に対し、報告セグメントごとに、当期に認識した減損損失および戻入額を開示するよう求めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
ここで実務上の悩みどころになるのが、CGU、事業管理単位、報告セグメントが、必ずしも一致しないという点です。
CGUは、独立したキャッシュ・インフローを生み出す最小単位です。これに対し、報告セグメントは、最高経営意思決定者への内部報告単位を基礎にします。両者が異なる場合には、減損損失をどのセグメントに帰属させるか、CGU単位の開示とセグメント別開示をどう整合させるかを、あらかじめ整理しておかなければなりません。
とりわけ、のれんが複数CGUに配分されている場合、共用資産を含む場合、海外子会社を含む場合、M&A後に管理単位を変更した場合には、開示上の説明が難しくなります。IAS第36号は、CGUの識別における資産の集約方法が前回の見積りから変更された場合、現在および過去の集約方法と、その変更理由の説明も求めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
CGUを変更した場合には、「組織変更に伴う変更」で済ませず、次の点まで説明できるようにしておくことをおすすめします。
- 変更前のCGUは何を基礎としていたか
- 変更後のCGUはどの内部管理単位と対応しているか
- 独立したキャッシュ・インフローの識別がどう変わったか
- のれん・共用資産の配分がどう変わったか
- 変更により、減損損失または戻入れの金額がどう影響を受けたか
- 変更が、恣意的な減損回避や損失認識の先送りに見えないか
減損または戻入れを認識した資産・CGUは、事象と状況を説明する
IAS第36号は、当期に減損損失または戻入れを認識した個別資産またはCGUについて、認識または戻入れに至った事象・状況、金額、個別資産の性質、属する報告セグメント、CGUの記述、資産クラス別・セグメント別の金額、回収可能価額、そして回収可能価額が使用価値なのか処分コスト控除後の公正価値なのか、といった点の開示を求めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
この開示は、形式的な定型文では不十分です。
たとえば、次のような開示は、財務諸表利用者にとって情報価値が乏しくなりがちです。
- 「事業環境の悪化により減損損失を認識した」
- 「収益性の低下により帳簿価額を回収可能価額まで減額した」
- 「将来キャッシュ・フローの見直しにより減損損失を計上した」
これだけでは、何が変わったのか、どの事業に関するものか、どの仮定が影響したのか、今後の不確実性がどこにあるのかが、まったく伝わりません。
より実務的には、次のような情報を整理します。
- どの事業・地域・製品ライン・店舗群・子会社に関する減損か
- どの外部環境が悪化したか
- 価格、数量、顧客解約率、原材料費、人件費、為替、規制、金利のどれが影響したか
- 経営計画のどの前提を見直したか
- 回収可能価額は使用価値か、処分コスト控除後の公正価値か
- 主要仮定は何か
- どの資産クラスに損失を配分したか
- 戻入れの場合、どの見積りが改善したか
- 翌期以降の償却・利益率・セグメント損益にどう影響するか
減損損失は、資本市場に対して「過去の投資判断と現在の回収可能性をどう評価したか」を語る場面でもあります。開示は、単なる基準対応ではなく、経営説明の一部として設計したいところです。
のれん・耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUでは、主要仮定と感応度が中心になる
IAS第36号は、のれん、または耐用年数を確定できない無形資産が配分されたCGUまたはCGUグループについて、当該金額が企業全体ののれんや当該無形資産の帳簿価額に比して重要である場合に、回収可能価額の算定に用いた見積りに関する詳細な開示を求めています。
使用価値に基づく場合には、主要仮定、その値の決定方法、過去実績や外部情報との整合性、予算・予測期間、5年を超える場合の正当化理由、長期成長率、割引率を開示します。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
処分コスト控除後の公正価値に基づく場合も、評価技法、主要仮定、その値の決定方法、外部情報との整合性、公正価値ヒエラルキーのレベル、評価技法変更の理由などが開示の対象となります。割引キャッシュ・フローを用いるときは、予測期間、成長率、割引率も加わります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
さらに、主要仮定について合理的に起こり得る変動が生じるとCGUの帳簿価額が回収可能価額を上回る場合には、回収可能価額が帳簿価額を上回る金額、主要仮定の値、そしてどの程度変動すれば回収可能価額と帳簿価額が等しくなるかを開示します。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets
この感応度開示は、実務上きわめて重要です。のれんを含むCGUでは、減損損失を認識していなくても、回収可能価額に余裕が小さいと、主要仮定のわずかな変動で減損が生じかねません。そのとき財務諸表利用者は、「減損なし」という結論だけでなく、どの仮定がどの程度変わると結論が変わるのかまで知りたいはずです。
開示ドラフトは、減損モデルを作った後ではなく、同時に作る
減損注記は、決算の最後に開示チェックリストを見ながら作るものではありません。減損モデルを作成する段階で、開示に必要な情報を同時に抜き出しておくべきものです。
理由ははっきりしています。開示で求められる情報は、モデルの中核的な前提そのものだからです。
- CGUの説明
- 回収可能価額
- 使用価値か、処分コスト控除後の公正価値か
- 主要仮定
- 予測期間
- 成長率
- 割引率
- 評価技法
- 公正価値ヒエラルキー
- 感応度
- 事象・状況
- セグメント
- 資産クラス別の金額
これらを後から拾い集めようとすると、モデル、経営会議資料、評価報告書、監査説明メモ、開示ドラフトの間で、不整合が生じやすくなります。
そこで実務上は、減損テスト資料の中に、あらかじめ「開示抽出シート」を設けておくことをおすすめします。注記に転記すべき数値、記述、仮定、感応度、表示科目をそこに整理しておけば、監査レビューと開示レビューの双方で、格段に説明しやすくなります。
監査対応では「結論」よりも「判断過程」と「反証可能性」が見られる
減損損失・戻入れ・開示は、会計上の見積りの中でも、監査上の重点領域になりやすい論点です。会計上の見積りは将来事象に依存し、経営者の仮定によって財務諸表に大きな影響を与え得るため、監査上も詳細な説明が求められることが多いのです。
監査対応で、とくに確認されやすいのは次の点です。
- 減損兆候の識別に漏れがないか
- CGUの識別が内部管理と整合しているか
- のれん・共用資産の配分が合理的か
- 回収可能価額の測定モデルが基準に整合しているか
- 減損損失の配分順序がIAS第36号に従っているか
- 配分上限を考慮しているか
- のれんの戻入れを行っていないか
- 戻入れが見積りの変更に基づくものか
- 単なる時間経過を戻入理由にしていないか
- 戻入上限を超えていないか
- 減損後または戻入後の償却が更新されているか
- 税効果が検討されているか
- 表示科目と注記が整合しているか
- 感応度分析が実態に即しているか
- 開示が企業固有の情報になっているか
監査人に対しては、「減損損失は○○百万円です」「戻入れは不要です」とだけ伝えるのではなく、次の構造で資料化しておくと有効です。
| 資料 | 含めるべき内容 |
|---|---|
| 論点整理メモ | 対象資産・CGU、論点、基準、結論、未解決事項 |
| 減損兆候判定資料 | 外部要因、内部要因、時価総額、予実比較 |
| CGU整理資料 | 管理単位、キャッシュ・インフロー、セグメントとの関係 |
| 回収可能価額モデル | 使用価値またはFVLCD、主要仮定、感応度 |
| 減損配分表 | のれん、他資産、配分上限、配分後帳簿価額 |
| 戻入検討表 | 戻入兆候、見積り変更、上限、のれん除外 |
| 償却再計算表 | 減損後・戻入後の将来償却費 |
| 税効果検討表 | 帳簿価額と税務基準額、一時差異、DTA・DTL |
| 開示抽出シート | IAS第36号注記項目、数値、文章、表示科目 |
| 経営者承認資料 | 事業計画、予算、取締役会・経営会議資料 |
減損会計では、モデルを作る力だけでなく、その判断を説明可能な形にまとめる力が問われます。
実務で起こりやすい誤り
1. 減損損失をCGU内の資産に自由配分してしまう
CGUの減損損失は、まずのれんに配分し、その後に他の資産へ帳簿価額比例で配分するのが基本です。特定の資産にだけ恣意的に配分する処理は、IAS第36号の配分順序と整合しないおそれがあります。
2. 配分上限を確認していない
各資産は、処分コスト控除後の公正価値、使用価値、ゼロのうち最も高い金額を下回るまで減額することはできません。配分上限を確認しないままでは、個別資産を過大に減額してしまう危険があります。
3. のれんの戻入れを実質的に行っている
のれんに配分した減損損失は、戻し入れできません。CGU全体の回収可能価額が改善した場合でも、それをのれん以外の資産へ過大に配分することで、実質的にのれん戻入れに近い効果を生んでいないか、確認が必要です。
4. 戻入れを「業績改善」だけで認識している
戻入れには、回収可能価額の見積りに用いた前提の変更が欠かせません。売上が一時的に改善しただけで、長期的なキャッシュ・フロー、割引率、成長率、処分価額の見積りに変更がなければ、戻入れの根拠としては弱いといえます。
5. 戻入上限を超えている
戻入後の帳簿価額は、過去に減損損失を認識していなかった場合の償却後帳簿価額を超えられません。この上限を超えれば、減損損失の戻入れではなく、再評価に近い処理になってしまいます。
6. 減損後の償却を更新していない
減損損失を認識した後は、改訂後の帳簿価額に基づき、残存耐用年数で償却を再計算します。固定資産台帳や連結パッケージの更新漏れは、翌期以降の誤謬につながります。
7. 開示が一般論にとどまっている
「事業環境の悪化」「収益性の低下」といった抽象的な表現だけでは、利用者に十分な情報を届けられないことがあります。主要仮定、事業単位、回収可能価額の測定基礎、感応度を、企業固有の言葉で説明する必要があります。
減損損失・戻入れ・開示は、経営判断を財務報告に変換する工程である
IAS第36号の減損会計は、事業計画や将来キャッシュ・フローを用いるため、経営判断と深く結びついています。とはいえ、財務報告上の減損損失や戻入れは、経営者の意図をそのまま映すものではありません。基準に従い、回収可能価額、帳簿価額、CGU、のれん、資産クラス、表示、開示を、整合的に処理していく必要があります。
減損損失を認識する局面では、投資の回収可能性をどう評価したかが問われます。戻入れを認識する局面では、何が改善し、どの見積りが変わったのかが問われます。そして開示では、その判断を財務諸表利用者が理解できる形で語ることが求められます。
その意味で、減損損失・戻入れ・開示は、単なる決算処理ではありません。
経営者の事業評価を、IFRSに基づく説明可能な財務報告へと変換する工程なのです。
IFRS減損会計の処理・戻入れ・開示でお困りの方へ
減損損失の認識、CGU内での配分、のれんの取扱い、戻入れの要否、戻入上限、主要仮定・感応度分析、開示ドラフトの作成——これらは、基準本文を確認するだけでは判断しにくい領域です。
とくに、M&A後ののれんを含むCGU、海外子会社、複数事業にまたがる共用資産、事業再編、売却予定資産、業績回復局面での戻入れ検討では、会計処理、評価、税効果、開示、監査対応を、一体として整理する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに基づく減損損失の認識・配分、戻入れ検討、開示資料、監査対応メモ、のれん・無形資産・CGUに関する論点整理について、事実関係と基準に基づいた、説明可能な形での整理を支援しています。減損会計の判断や監査対応に不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の判断軸 | 確認すべき資料・証拠 |
|---|---|---|
| 減損損失の認識 | 回収可能価額が帳簿価額を下回るか | 回収可能価額モデル、帳簿価額一覧 |
| 個別資産の処理 | 帳簿価額を回収可能価額まで減額する | 個別資産の回収可能価額、固定資産台帳 |
| CGUの減損 | CGUまたはCGUグループ単位で判定する | CGU整理資料、内部管理資料 |
| 減損損失の配分 | まずのれん、次に他資産へ帳簿価額比例で配分 | 減損配分表、資産クラス別帳簿価額 |
| 配分上限 | FVLCD、使用価値、ゼロのうち最も高い金額を下回らない | 個別資産評価、使用価値、処分価額 |
| 減損後償却 | 改訂後帳簿価額を残存耐用年数で配分する | 償却再計算表、耐用年数見直し資料 |
| 税効果 | 改訂後帳簿価額と税務基準額を比較する | 一時差異一覧、DTA・DTL検討表 |
| 戻入れの兆候 | のれん以外の資産について毎期末に評価する | 外部環境資料、予実比較、内部報告 |
| 戻入れの要件 | 回収可能価額算定に用いた見積りの変更が必要 | 前回モデルとの比較、仮定変更表 |
| 単なる時間経過 | 割引の巻戻しだけでは戻入れ不可 | 割引計算、サービス・ポテンシャル分析 |
| 戻入上限 | 減損がなかった場合の償却後帳簿価額を超えない | 仮想帳簿価額計算表 |
| CGUの戻入配分 | のれんを除く資産へ比例配分し、上限を確認する | 戻入配分表、個別資産上限 |
| のれんの戻入れ | 認識済みののれん減損は戻入禁止 | のれん減損履歴、CGU別のれん残高 |
| 表示 | 純損益、OCI、表示科目を整理する | 勘定科目、包括利益計算書、OCI明細 |
| セグメント開示 | 報告セグメントごとの減損・戻入額を整合させる | セグメント情報、CGU対応表 |
| 個別資産・CGU開示 | 事象・状況、金額、CGU説明、回収可能価額を開示する | 開示抽出シート、注記ドラフト |
| 主要仮定 | のれん・耐用年数不確定無形資産を含むCGUで重要 | 事業計画、成長率、割引率、外部データ |
| 感応度分析 | 合理的に可能な仮定変動で減損が生じるか確認する | 感応度表、ヘッドルーム分析 |
| 監査対応 | 結論だけでなく判断過程を資料化する | 論点整理メモ、承認資料、評価資料 |
| 経営説明 | 減損・戻入れを経営判断と財務報告の両面から説明する | 取締役会資料、投資判断資料、PMI資料 |