IFRS第16号におけるリース期間は、契約書に記載された契約期間をそのまま採用すれば足りる、というものではありません。
リース期間とは、借手が原資産を使用する権利を有する期間を指します。この期間は、使用権資産とリース負債の測定にとどまらず、短期リースの判定、減価償却期間、リース料の範囲、割引計算、開示、そして監査対応にまで直接影響していきます。
実務で悩ましくなりやすいのは、延長オプションや解約オプションが付された契約です。自動更新の条項があるもの、いつでも解約できるとされているもの、更新を前提に使い続けている店舗・工場・オフィス・設備の契約、そして借手が多額の内装や造作、改良を施している契約などでは、判断に一段の検討を要します。
IFRS第16号では、リース期間を次のように決定します。すなわち、リースの解約不能期間に、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である場合の延長期間と、借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実である場合の解約オプション対象期間を加えた期間です。IFRS第16号第18項も、リース期間をこのように定義しています。IFRS財団が公表するIFRS第16号本文においても、解約不能期間に、合理的に確実な延長オプション期間と、合理的に確実に行使しない解約オプション期間を加える旨が示されています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
本稿では、IFRS第16号におけるリース期間とオプション判断を、単なる期間計算としてではなく、契約条件、経済的インセンティブ、経営判断、監査証拠、開示説明へとつながる実務判断として整理していきます。
リース期間は、なぜ実務上重要なのか
リース期間は、IFRS第16号の借手会計における測定前提の中核に位置します。
契約にリースが含まれるかを識別し、リース構成部分と非リース構成部分を区分したうえで、借手はリース開始日に使用権資産とリース負債を認識します。このとき、どの期間のリース料を現在価値へ割り引くかを決める基礎となるのが、リース期間です。
リース期間が長くなれば、通常はリース負債も使用権資産も大きくなります。損益計算の面でも、減価償却費と利息費用の配分に影響が及びます。短期リースの免除を適用できるかどうかも、やはりリース期間の判断に左右されます。
ただし、リース期間は単なる会計処理上の期間ではありません。企業がその資産をどの程度使うと見込んでいるか、事業計画上どれだけその拠点や設備に依存しているか、契約更新が経済的にどこまで合理的か。こうした実態を映し出す判断でもあるのです。
だからこそ、監査上もリース期間は重点的に確認されやすい論点になります。「契約書では何年か」という形式にとどまらず、なぜその期間を採用すると判断したのか、延長・解約オプションをなぜ含めた(あるいは含めなかった)のか、その判断が事業計画や投資意思決定と整合しているのか。こうした点が問われることになります。
リース期間の基本式
IFRS第16号におけるリース期間は、次のように整理できます。
リース期間= 解約不能期間 + 借手が延長オプションを行使することが合理的に確実な場合の延長期間 + 借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実な場合の解約オプション対象期間
ここで押さえておきたいのは、借手の意思だけでは足りず、「合理的に確実」といえるだけの経済的根拠が求められる、という点です。
「経営者が延長するつもりである」と説明するだけでは、判断の裏づけにはなりません。契約条件、代替資産の有無、移転コスト、設備投資、造作・内装、事業計画、過去の利用実績、立地、操業上の重要性。こうした事情を踏まえ、借手にとって延長する、あるいは解約しない経済的インセンティブが実際に存在するのかを検討する必要があります。
実務上も、リース期間が契約書上の期間と一致することは多いものです。とはいえ、延長オプションや解約オプションがある場合には、あらためてリース期間そのものを検討しなければなりません。
まず確認すべきは「強制可能期間」である
リース期間を判断するとき、いきなり「合理的に確実か」を検討し始めるのは、実は順序が逆です。先に確認しておくべきことがあります。
それが、契約が強制可能である期間です。
IFRS第16号では、契約は強制可能な権利と義務を生じさせる場合に存在すると考えます。したがって、リース期間に含められる期間は、借手が原資産を使用する権利を有し、貸手との間で契約上または実質上の強制力がある期間に限られます。
IFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定でも、この点が示されています。リース期間の判断にあたっては契約が強制可能である期間を見極める必要があり、借手と貸手の双方が相手方の許可なく、僅少を超えるペナルティなしに契約を終了できる場合には、そのリースはもはや強制可能ではない、という整理です。
出典:IFRS Foundation|IFRS 16 – 2021 Issued IFRS Standards (Part A)
そこで、実務上は次の順序で検討を進めると整理しやすくなります。
はじめに、契約上の解約不能期間を確認します。続いて、通知期間や中途解約条項を確認します。そのうえで、借手と貸手のどちらが解約権・延長権を持っているかを見極めます。さらに、解約や不更新に伴うペナルティが、契約上の違約金にとどまらず、経済的な損失まで含めて僅少といえるかどうかを検討します。最後に、強制可能な期間の範囲内で、借手が延長する、または解約しないことが合理的に確実かを評価する、という流れです。
強制可能期間を超える期間は、たとえ経営者が使用継続を予定していても、IFRS第16号上のリース期間には含められません。逆に、形式上は短期解約が可能に見えても、解約すれば重大な経済的不利益が生じる場合には、契約が実質的にはより長く強制可能であると判断されることもあります。
「ペナルティ」は違約金だけではない
リース期間の判断で特に注意したいのは、「ペナルティ」を狭く捉えすぎないことです。
契約書に中途解約違約金がない、あるいは違約金が少額である。それだけをもって、直ちにリース期間が短くなるわけではありません。
IFRS解釈指針委員会は、IFRS第16号B34項を適用するにあたり、契約上の終了支払だけでなく、契約のより広い経済性を考慮すべきことを示しています。たとえば、借手が解約によって造作・内装・設備改良を放棄または撤去するコストを負担する場合、それが僅少を超えるペナルティを示す可能性がある、という考え方です。
出典:IFRS Foundation|Lease Term and Useful Life of Leasehold Improvements (IFRS 16 and IAS 16)
この点は、実務では非常に重みを持ちます。
店舗、工場、物流拠点、オフィス、医療施設、データセンター、研究開発施設。こうした場所では、借手が多額の内装、造作、設備改良、IT設備、原状回復を伴う投資を行っていることがあります。契約上は短期間で解約できるとしても、実際に解約すれば、投資の未回収、移転コスト、営業停止、顧客の喪失、代替拠点の確保、原状回復、撤去費用といった経済的不利益が生じかねません。
このような場合には、「契約書上はいつでも解約可能」という説明だけで、リース期間を短くすることはできません。
確認すべきは、借手と貸手の双方が、相手方の許可なく、僅少を超えるペナルティなしに終了できるかどうかです。IFRS解釈指針委員会は、片方の当事者だけがそのような終了権を有している場合には、その当事者が終了できる日を超えて契約が強制可能である、と整理しています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 16 – 2021 Issued IFRS Standards (Part A)
貸手だけが解約権を有する場合
リース期間を判断するうえでは、貸手の解約権をどう扱うかも見落とせません。
IFRS第16号B35項では、借手だけがリースを解約する権利を有する場合、その解約権は借手の解約オプションとして考慮されます。一方、貸手だけがリースを解約する権利を有する場合には、その権利の対象期間は解約不能期間に含まれます。
これは、リース期間が「借手が原資産を使用する権利を有する期間」を基礎としているためです。貸手だけが解約できるということは、借手には自ら契約を終了できる権利がないということでもあります。したがって、借手の観点からは、その期間は解約不能期間に含まれることになります。
実務資料でも、同様の整理がなされています。貸手のみが解約権を有する場合、その解約オプションはリース期間の決定上は考慮されず、借手にとっての解約不能期間には貸手が解約可能な期間が含まれる、という考え方です。
そのため、契約上「貸手は一定の通知で解約できる」と記載されていても、それだけを理由に借手のリース期間を短縮することは、通常はできません。
延長オプションを含めるかどうかの判断
延長オプションとは、借手がリース期間を延ばす権利のことです。
IFRS第16号では、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である場合に、その延長期間をリース期間へ含めます。
ここでの判断は、経営者の主観的な予定ではなく、借手が延長する経済的インセンティブを生み出すすべての関連事実と状況に基づきます。IFRS第16号第19項も、延長オプションを行使する、あるいは解約オプションを行使しないことが合理的に確実かどうかを評価する際には、借手に経済的インセンティブを生じさせるすべての関連する事実と状況を考慮するよう求めています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
典型的な検討要素としては、次のようなものが挙げられます。
- オプション期間のリース料が、市場相場と比べて有利か
- 延長しない場合の移転コストが大きいか
- 代替資産や代替拠点を容易に確保できるか
- 借手が原資産に重大な改良・内装・設備投資を行っているか
- その改良が、オプション行使時点でなお重大な経済価値を有するか
- 原資産が事業上重要か
- その場所や設備が、営業許認可、顧客アクセス、物流、製造工程、研究開発、IT環境に組み込まれているか
- 過去に同種資産について延長オプションを行使してきた実績があるか
- 経営計画や取締役会資料における使用予定期間と整合しているか
- 延長後に購入オプションがあるか
- 残価保証や最低支払保証など、延長しない場合でも実質的な負担が生じる条項があるか
- 契約上の条件が満たされる可能性が高いか
実務書などでも、オプションの行使可能性を評価する際の検討要素として、オプション対象期間の契約条件、変動リース料・解約ペナルティ・残価保証、延長期間後に行使可能な購入オプション、賃借物件に対する重大な改良などが整理されています。
解約オプションを行使しないことが合理的に確実か
解約オプションとは、借手が一定時点でリースを終了できる権利です。
IFRS第16号では、借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実である場合に、その解約オプションの対象期間をリース期間へ含めます。
延長オプションと解約オプションは、形式こそ異なりますが、実質的には同じ問題を扱っています。延長オプションが「追加期間を使う可能性」を評価するものであるのに対し、解約オプションは「途中でやめない可能性」を評価するものです。いずれも、借手が原資産をどの程度使用すると合理的に見込まれるかを見定めるための判断だといえます。
実務でこの判断が難しくなるのは、契約書上「いつでも解約可能」とされている契約や、「一定の通知により解約可能」とされている契約です。
解約できるという権利があるだけでは、リース期間が短くなるとは限りません。借手がその権利を行使しないことが合理的に確実である場合、あるいは解約すれば僅少を超える経済的不利益が生じる場合には、より長いリース期間を認識する必要があります。
この判断にあたっては、契約上の違約金だけでなく、移転コスト、営業停止、代替物件の確保、設備投資の未回収、顧客・従業員への影響、許認可、サプライチェーン、原状回復、解約による取引関係への影響などまで含めて検討していきます。
購入オプションとの関係
リース契約には、延長オプションや解約オプションに加えて、購入オプションが含まれることがあります。
借手が原資産を購入することが合理的に確実である場合には、リース期間やリース料の測定に影響が及びます。IFRS第16号のリース料には、借手が購入オプションを行使することが合理的に確実である場合の購入オプション行使価格が含まれるためです。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
購入オプションがある場合には、延長オプションや解約オプションの判断とも連動します。
たとえば、延長期間の末に割安な購入オプションがあるとしましょう。その購入オプションが借手に重大な経済的インセンティブを与え、結果として延長オプションを行使することが合理的に確実である、という判断につながることがあります。
また、借手がリース期間終了時に原資産を実質的に取得すると見込まれる場合には、使用権資産の償却期間や、貸手側のリース分類にも影響します。
このように、購入オプションは「購入するかどうか」という単独の論点ではなく、リース期間、リース料、償却、分類、開示を含む一連の判断として整理していく必要があります。
フリーレント期間もリース期間に含める
リース契約では、契約開始後の一定期間について賃料が免除される、いわゆるフリーレントが設定されることがあります。
IFRS第16号では、リース期間はリース開始日に始まり、貸手が借手に提供したフリーレント期間もそこに含まれます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
したがって、フリーレント期間について「支払がないからリース期間ではない」と扱うことはできません。
借手が原資産を使用する権利を有している期間であれば、リース期間に含める必要があります。これは、使用権資産とリース負債の測定、費用配分、開示にも影響してきます。
短期リース免除との関係
短期リースの免除を検討する場面でも、リース期間の判断が重要になります。
短期リースとは、リース開始日においてリース期間が12か月以内であるリースを指します。ただし、購入オプションを含むリースは、短期リースには該当しません。
ここでいうリース期間は、単なる契約書上の当初期間ではありません。借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である場合、あるいは解約オプションを行使しないことが合理的に確実である場合には、その期間まで含めて12か月以内かどうかを判定します。
そのため、契約書上は1年契約であっても、実態として長期利用が合理的に確実であれば、短期リース免除を適用できない可能性があります。
とりわけ、毎年更新される店舗、オフィス、倉庫、機械設備、IT設備の利用契約では、形式上の契約期間だけで短期リースと判断してしまうことは避けるべきでしょう。
リース期間がリース料に与える影響
リース期間の判断は、リース料の範囲にも影響します。
借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である場合には、延長期間に関する支払がリース料に含まれます。反対に、解約不能期間を超えて延長することが合理的に確実とはいえない場合には、その解約不能期間後の支払はリース料に含まれません。
また、借手が解約オプションを行使することを反映してリース期間を決定している場合には、解約ペナルティの支払がリース料に含まれることもあります。
つまり、リース期間は、使用権資産の償却期間を決めるだけの前提ではありません。どの支払をリース負債の測定に含めるかを決める前提でもあるのです。
リース期間を短く判断すれば、リース負債に含める支払は少なくなります。一方、リース期間を長く判断すれば、将来の支払をより多くリース負債へ取り込むことになります。
この意味で、リース期間の判断は、財務諸表に対して定量的に大きな影響を及ぼします。
リース期間は「会計上の見積り」であり、判断過程が重要である
リース期間の判断には、将来の使用見込み、経済的インセンティブ、事業計画、契約更新方針、代替資産の入手可能性など、多くの見積りと判断が含まれます。
会計上の見積りとは、将来事象に依存するために正確には測定できない金額や期間を、合理的に概算する行為です。そこには経営者の仮定や不確実性が伴い、監査上も重要な論点になります。
リース期間についても、当初の判断と実際の結果が異なること自体が、直ちに誤りになるわけではありません。大切なのは、リース開始日において入手可能な情報を踏まえ、その時点で合理的な判断を行っていたかどうかです。
たとえば、当初は延長しないと判断していたものの、その後の事業戦略の変更によって延長することになった場合を考えてみます。それが当初時点では予見できなかった事情に基づくものであれば、当初判断の誤りとは限りません。
反対に、当初から重要な設備投資や長期の事業計画が存在していたにもかかわらず、それを考慮せずに短いリース期間を採用していた場合には、当初判断の妥当性そのものが問われることになります。
リース開始後にリース期間を見直す場合
IFRS第16号では、リース開始後であっても、一定の場合にはリース期間を見直す必要があります。
借手は、延長オプションを行使すること、または解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかについて、借手の支配下にある重大な事象または状況の重大な変化が生じ、その判断に影響する場合に再評価します。IFRS第16号第20項が、このような再評価を求めています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
また、IFRS第16号第21項は、解約不能期間に変化がある場合にリース期間を改訂するよう求めています。たとえば、借手が当初リース期間に含めていなかったオプションを行使する場合や、反対に当初含めていたオプションを行使しない場合などが、これにあたります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
具体的に、再評価の契機となり得るものとしては、次のような事項が考えられます。
- リース開始日には想定していなかった重大な賃借物件改良を行った場合
- 原資産に重大な改造・カスタマイズを行った場合
- 従前のリース期間を超える期間にわたるサブリースを開始した場合
- 補完的資産のリースを延長する意思決定を行った場合
- 代替資産を処分する意思決定を行った場合
- 使用権資産が利用される事業単位を処分または継続する意思決定を行った場合
IFRS第16号B41項も、借手の支配下にある重大な事象または状況変化の例として、重大な賃借物件改良、原資産の重要な改造・カスタマイズ、従前のリース期間を超えるサブリース、オプション行使に直接関連する事業上の意思決定を挙げています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
ただし、リース期間の見直しは、市場賃料の変動や外部環境の変化だけで機械的に行うものではありません。あくまで、借手の支配下にある重大な事象または状況変化であり、かつオプション判断に影響するかどうかを確認する必要があります。
契約変更とリース期間の見直しを混同しない
リース開始後にリース期間が変わる場面には、大きく分けて二つがあります。
一つは、既存契約の範囲内で、オプション判断や解約不能期間の変化によってリース期間を見直す場合です。もう一つは、契約条件そのものが変更される場合です。
たとえば、借手が既存契約に含まれていた延長オプションを行使する場合は、リース期間の見直しとして整理されます。一方、当初契約に含まれていなかった追加スペースや追加設備を新たに借りる場合、あるいは契約対価や範囲が交渉によって変更される場合には、リースの条件変更として検討すべき可能性があります。
本稿では契約変更の詳細な処理までは扱いませんが、実務上は、リース期間の再評価なのか、リースの条件変更なのかを切り分けることが重要になります。
この区分を誤ると、リース負債の再測定、使用権資産の調整、損益認識、割引率の見直し、開示に影響が及びます。
リース期間判断で確認すべき資料
リース期間とオプション判断を、監査対応に耐える形で整理していくには、契約書だけでは足りません。
少なくとも、次の資料・情報を確認しておく必要があります。
- 契約書、覚書、更新条項、解約条項
- 延長オプション・解約オプション・購入オプションの条件
- 通知期間
- 違約金、解約金、原状回復条項
- リース料の市場相場との比較
- 代替資産・代替物件の入手可能性
- 移転・撤去・再設置コスト
- 賃借物件改良、造作、設備投資の内容と残存経済価値
- 社内稟議、投資計画、事業計画
- 店舗・工場・拠点・設備の重要性
- 過去の同種契約における更新実績
- 貸手との交渉履歴
- 関連するサブリース契約
- グループ会社・事業部門の利用計画
- 監査人からの指摘事項
リース期間の判断は、契約法務、事業計画、設備投資、財務報告が交差する論点です。
そのため、経理部門だけで完結させるのではなく、事業部門、法務、購買、総務、不動産管理、IT、経営企画といった各所から情報を集めていく必要があります。
監査対応資料として残すべき内容
リース期間の判断メモでは、結論だけでなく、そこに至る判断過程を明確に残しておくことが重要です。
少なくとも、次の項目を整理しておくとよいでしょう。
- 対象契約の概要
- リース開始日
- 原資産の内容
- 契約上の期間
- 解約不能期間
- 延長オプションの有無と条件
- 解約オプションの有無と条件
- 購入オプションの有無と条件
- 借手・貸手それぞれの解約権
- 通知期間
- 契約上の違約金・解約ペナルティ
- 契約上のペナルティ以外の経済的不利益
- 強制可能期間の判断
- 合理的に確実かどうかの判断
- 考慮した経済的インセンティブ
- 考慮しなかった要素とその理由
- リース期間の結論
- リース料・リース負債・使用権資産への影響
- 短期リース免除への影響
- 見直しが必要となる事象
- 開示への影響
監査対応では、リース期間が何年かという結果そのものよりも、なぜその期間が合理的なのかが問われます。
とりわけ、契約書上の期間より長いリース期間を採用する場合や、反対に契約書上は長期利用が想定されるように見えるにもかかわらず短い期間を採用する場合には、判断根拠を明確にしておくことが欠かせません。
開示との関係
IFRS第16号では、リースに関して財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが求められます。
延長オプションや解約オプションは、リース負債に含まれていない将来支払や、企業が今後どの程度リースを継続する可能性があるかに関わります。そのため、重要な開示論点になります。
IFRS第16号B50項は、延長オプションまたは解約オプションに関する追加情報として、借手がそれらのオプションを用いる理由や普及度、リース料に含まれるオプション支払との相対的な規模などが、状況によっては開示目的を満たすために必要となり得ることを示しています。
出典:IFRS Foundation|IFRIC Update November 2019
このように、リース期間の判断は、内部の測定計算にとどまるものではありません。財務諸表利用者に対して、企業がどのような柔軟性や制約を有しているかを説明する基礎ともなります。
リース期間の判断が重要でありながら、それが会計方針や重要な判断の開示と整合していない。そうした状態になると、財務諸表全体の説明力が低下してしまいます。
日本基準との差異確認で注意すべきこと
日本基準でも、リース会計基準の改正により、リース期間、延長オプション、解約オプションの考え方はIFRS第16号に近づいてきています。
ただし、IFRS適用企業や、IFRSの任意適用を検討している企業では、IFRS第16号上のリース期間を優先して整理する必要があります。
特に注意したいのは、従来の日本基準におけるファイナンス・リースや再リース期間の実務感覚を、そのままIFRS第16号に持ち込まないことです。IFRS第16号では、延長オプションの行使だけでなく、解約オプションを行使しないことについても、合理的に確実かどうかを検討する場合があります。
したがって、日本基準との差異を整理する場合でも、「契約期間」「再リース」「更新予定」といった表面的な比較にとどめてはいけません。強制可能期間、合理的に確実な判断、重大な経済的インセンティブ、測定・開示への影響を、それぞれ分けて整理していく必要があります。
リース期間は、契約・事業・会計をつなぐ判断である
IFRS第16号におけるリース期間の判断は、単なる期間計算ではありません。
それは、企業がその資産をどの程度使うと合理的に見込まれるかを、契約上の権利義務と経済的実態に基づいて財務報告へ反映する判断です。
契約書上の期間が短くても、借手が重大な経済的インセンティブを有していれば、より長いリース期間を採用すべき場合があります。反対に、経営者が長く使うつもりであっても、その期間が強制可能でなければ、リース期間に含めることはできません。
この判断には、契約条件、解約権、更新権、購入権、賃料条件、代替可能性、設備投資、造作、移転コスト、事業計画、過去実績、内部統制、開示が関係してきます。
リース期間を適切に整理することは、使用権資産とリース負債を正しく測定するだけにとどまりません。監査上も説明可能な財務報告判断を構築するための、基礎そのものになります。
まとめ
IFRS第16号におけるリース期間は、解約不能期間を出発点とし、そこに借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である場合の延長期間、および借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実である場合の期間を加えて決定します。
ただし、その前提として、契約が強制可能である期間を見極める必要があります。借手と貸手の双方が、相手方の許可なく、僅少を超えるペナルティなしに終了できる場合には、その後の期間は強制可能ではありません。一方、契約上の違約金が少額であっても、内装・造作・移転・営業停止などの経済的不利益が僅少を超える場合には、契約がより長く強制可能であると判断される可能性があります。
延長・解約オプションの判断では、経営者の意向だけでなく、経済的インセンティブを生み出すすべての関連事実と状況を整理することが求められます。
リース期間の判断は、リース負債、使用権資産、短期リース免除、減価償却、リース料、割引計算、注記、監査対応にまで影響します。重要な契約については、契約書だけでなく、事業計画、投資計画、過去の更新実績、代替可能性、移転コスト、内装・設備投資の経済価値まで含めて、判断メモとして整理しておくことが望まれます。
IFRS第16号におけるリース期間や延長・解約オプションの判断について、重要契約の整理、監査対応資料の作成、リース負債への影響分析、短期リース判定、開示への反映を検討されている場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページよりご相談ください。契約条件と取引実態を踏まえ、説明可能な財務報告判断として整理するための初期検討から対応いたします。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の確認事項 | 判断上の注意点 |
|---|---|---|
| リース期間の基本 | 解約不能期間に、合理的に確実な延長期間・解約しない期間を加える | 契約書上の期間をそのまま採用しない |
| 強制可能期間 | 借手・貸手の権利義務が強制可能な期間を確認する | 強制可能でない期間はリース期間に含めない |
| ペナルティ | 契約上の違約金だけでなく、経済的不利益を確認する | 内装・造作・移転コスト・営業停止影響も考慮する |
| 貸手の解約権 | 貸手だけが解約権を有する場合の扱いを確認する | 貸手の解約権は借手のリース期間を短縮するとは限らない |
| 延長オプション | 借手が延長することが合理的に確実かを判断する | 経営者の意向だけでなく経済的インセンティブを見る |
| 解約オプション | 借手が解約しないことが合理的に確実かを判断する | 解約可能という権利の存在だけで短期化しない |
| 購入オプション | 行使が合理的に確実かを確認する | リース料・償却期間・分類判断に影響する |
| 短期リース免除 | オプションを反映したリース期間が12か月以内か確認する | 形式的な1年契約でも短期リースとは限らない |
| リース料への影響 | オプション期間の支払をリース料に含めるか判断する | リース期間判断とリース負債測定を整合させる |
| 見直し | 借手の支配下にある重大な事象・状況変化を確認する | 単なる外部環境変化だけで機械的に再評価しない |
| 監査対応 | 契約条件、経済的根拠、事業計画、証拠資料を整理する | 結論だけでなく判断過程を文書化する |
| 開示 | 延長・解約オプションが財務諸表利用者の理解に重要か確認する | 測定結果と注記説明を一体で整える |