IFRS財務諸表における会計方針の開示は、基準書の文言を要約して並べれば済む作業ではありません。
会計方針とは、企業が取引や契約、事象、状況を財務諸表へどう反映するかを支える、認識・測定・表示・開示の考え方です。ですから、その開示は「当社はIFRSを適用しています」という形式的な宣言では足りません。財務諸表を読む人が本表の金額を理解するために必要な、その企業ならではの説明であることが求められます。
IFRSでは、収益認識やリース、金融商品、企業結合、減損、法人所得税、引当金、従業員給付、株式報酬、連結、外貨換算、公正価値測定と、実に多くの領域で取引実態に基づく判断が求められます。ここで会計方針の選択や開示を誤ると、会計処理の結論そのものは妥当であっても、利用者や監査人、経営管理部門、外部の関係者に対して「なぜその処理なのか」を説明できない、という事態を招きかねません。
本稿では、IFRSにおける重要な会計方針の開示と会計方針の選択について整理します。重要性、企業固有性、ボイラープレートの回避、基準が明確な場合とそうでない場合の切り分け、見積りや判断の開示との違い、そして監査対応まで、実務の視点から順に見ていきます。
IFRSでいう会計方針とは何か
IAS第8号は、会計方針を「企業が財務諸表を作成・表示するにあたって適用する特定の原則、基礎、慣行、規則および実務」と定義しています。同基準が扱うのは、会計方針の選択・変更・開示にとどまりません。会計上の見積りの変更や誤謬の訂正までを一連の論点として整理し、財務諸表の目的適合性、信頼性、期間ごとの比較可能性、企業間の比較可能性を高めることをねらいとしています。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
実務で会計方針を捉えるとき、まず押さえておきたいのは、会計方針が単なる「会計処理の結果」ではないということです。むしろ、ある取引や事象を、どの基準に基づき、どの認識単位で、どの測定基礎を用い、どう表示・開示するか——その一連の判断を支える土台にあたります。
たとえば、次のような事項はいずれも会計方針に関わってきます。
- 収益を一定期間で認識するのか、一時点で認識するのか
- リース構成部分と非リース構成部分を分けるのか、実務上の便法を使うのか
- 金融資産を償却原価、FVOCI、FVTPLのいずれで測定するのか
- 有形固定資産に原価モデルを用いるのか、再評価モデルを用いるのか
- 投資不動産に公正価値モデルを用いるのか、原価モデルを用いるのか
- 企業結合で非支配持分をどの測定方法で測定するのか
- 在外営業活動体の機能通貨をどのように判断するのか
- 引当金や資産除去債務をどのような認識・測定方針で処理するのか
これらは、単に「注記に書く項目」ではありません。取引の実態や契約条件、経営者の意図、内部管理、監査証拠、そして将来の開示説明とまで結びついた、実務上の判断そのものです。
IAS第8号が、会計方針の選択・適用、その変更、会計上の見積りの変更、誤謬の訂正を一続きの論点として扱っている以上、会計方針の開示だけを切り離して考えないことが大切です。
「重要な会計方針」から「重要性のある会計方針情報」へ
IFRS実務でとくに注意したいのは、会計方針開示の考え方が、従来の「重要な会計方針」から「重要性のある会計方針情報」へと整理し直されている点です。
IASBは2021年2月にIAS第1号とIFRS Practice Statement 2を改正し、「significant accounting policies(重要な会計方針)」ではなく「material accounting policy information(重要性のある会計方針情報)」を開示する方向へと舵を切りました。その後、IFRS第18号に伴う整理により、会計方針情報に関する要求事項はIAS第8号へと移されています。
出典:IFRS Foundation|Disclosure Initiative—Accounting Policies
これは、単なる言葉の言い換えではありません。
従来の実務では、「重要な会計方針」という見出しのもと、収益や棚卸資産、固定資産、金融商品、税効果、リース、引当金といった基準の文言を、広く網羅的に書き並べる開示が少なくありませんでした。ところが、そうした開示はかえって、利用者にとって本当に重要な情報を見えにくくしてしまうことがあります。
IFRS Practice Statement 2は、重要性のない取引などに関する会計方針情報は開示する必要がないとしています。その一方で、取引の性質によっては、金額が小さくても会計方針情報が重要になり得るとも述べています。重要かどうかを見極める際には、利用者が財務諸表のほかの重要な情報を理解するうえで、その会計方針情報を必要とするかどうかを考えます。
出典:IFRS Foundation|IFRS Practice Statement 2: Making Materiality Judgements
つまり、会計方針開示で問うべきは「この基準について会計方針を開示しているか」ではありません。「この会計方針情報がなければ、利用者は財務諸表の重要な情報を理解できないのか」という問いなのです。
会計方針開示で求められるのは、企業固有の説明である
会計方針情報の開示で最も問われるのは、企業固有性です。
Practice Statement 2は、取引やその他の事象・状況の特徴に関する企業固有の情報のほうが、IFRS基準の要求事項を標準的に説明したり要約したりした情報よりも、利用者にとって有用だとしています。とりわけ企業が判断を働かせた領域では、その企業ならではの会計方針情報が重要になります。
出典:IFRS Foundation|IFRS Practice Statement 2: Making Materiality Judgements
たとえば収益認識について、「顧客への財またはサービスの支配が移転した時点で収益を認識している」とだけ書いても、それはIFRS第15号の一般論をなぞっているにすぎません。利用者が本当に知りたいのは、その企業の主要な契約において、どの財やサービスを履行義務として識別し、取引価格をどう配分し、収益をどの時点で認識すると判断したのか、という点です。
リースも同じです。「使用権資産およびリース負債を認識している」とだけ記しても十分とはいえません。むしろ問われるのは、リースを含む契約をどう識別しているか、延長や解約のオプションをリース期間に含めるかどうかの判断軸は何か、非リース構成部分を分離しているか、短期・少額リースの免除をどう適用しているか、といった点です。
金融商品についても、「金融資産はIFRS第9号に従い分類している」で終わらせるわけにはいきません。企業の保有目的や事業モデル、SPPI判定、リスク管理、売却の実績、契約上のキャッシュ・フローの特性に照らして、どのように分類・測定しているのかを説明する必要があります。
企業固有性のある会計方針とは、基準本文の焼き直しではありません。「当社の取引実態に対して、IFRSをどう適用したのか」を語るものなのです。
ボイラープレート開示を避ける
会計方針開示で何よりも避けたいのが、いわゆるボイラープレート化です。
ボイラープレート開示とは、どの企業にも当てはまる一般的な文言ばかりが並び、その企業ならではの取引実態や判断が反映されていない開示を指します。Practice Statement 2は、重要性のない会計方針情報を開示する場合であっても、それが重要性のある情報を覆い隠してはならないとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS Practice Statement 2: Making Materiality Judgements
ボイラープレート開示には、実務上、次のような弊害がつきまといます。
- 重要な会計方針と重要でない会計方針の区別が見えない
- 企業固有の判断や契約条件が分からない
- 会計方針と本表金額、個別基準注記、判断開示、見積り開示の関係が不明瞭になる
- 監査人に対して、会計方針の適用根拠を説明しにくくなる
- 翌期以降、取引内容が変化しても注記が更新されず、実態と乖離する
- IFRS第18号対応時に、集約・分解や経営者業績指標との整合を取りにくくなる
たとえば、重要な投資不動産を保有していないのに投資不動産の会計方針を詳しく書き込んでいると、肝心の収益認識や減損の会計方針がそのなかに埋もれてしまいかねません。逆に、金額こそ小さくても、M&A後の条件付対価やグループ内の金融保証、関連当事者取引、重要な契約変更など、利用者の判断を左右し得る取引については、会計方針情報が欠かせない場合があります。
会計方針開示の目的は、長く書くことではなく、重要な情報を見えやすくすることにあります。
基準が明確に適用される場合の会計方針選択
IAS第8号は、ある取引や事象、状況に具体的に適用されるIFRSがある場合には、そのIFRSに従って会計方針を決めることを求めています。IFRSが定める会計方針は、そもそも関連性があり、忠実な表現をもたらすように設計されているからです。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
このとき実務上の論点は、「どの基準を適用するか」だけにとどまりません。次の順に整理していくとよいでしょう。
第一に、その取引が本当に当該基準の適用範囲に入るのかを確かめます。顧客との契約に見えても、実際にはIFRS第15号の範囲外である金融商品やリース、保険契約、金融保証が紛れ込んでいることがあります。契約書上の名称に引きずられず、取引の権利義務、決済条件、経済的実質まで見極めることが欠かせません。
第二に、その基準のなかに認められた選択肢があるかを確認します。投資不動産の公正価値モデルと原価モデル、非支配持分の測定方法、有形固定資産や無形資産の事後測定モデル、リースの実務上の便法、OCIに関する選択などが、その典型です。
第三に、選んだ方針が同種の取引へ一貫して適用されているかを確かめます。IAS第8号は、類似する取引や事象、状況については、会計方針を首尾一貫して選択・適用することを求めています。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
第四に、その会計方針情報が利用者にとって重要かどうかを判断します。選択肢がある場合、どの方針を選んだかは、たいてい利用者の理解を左右します。IFRSで代替的な処理が認められている場面ほど、どの会計方針を採ったかを開示することが、利用者にとって特に有用になると考えてよいでしょう。
ここで見落としたくないのは、「基準が明確にあるのだから開示は要らない」とはならない、という点です。基準が明確であっても、その取引が重要で、会計方針情報が本表の金額や個別基準の注記を理解するために必要なら、やはり開示が求められます。
基準が明確でない場合の会計方針選択
IFRS実務では、特定の取引に直接あてはまる基準がはっきりしない場面にも出会います。新しい取引形態やデジタル関連取引、複合契約、排出量取引、クラウドサービス、グループ内再編、共通支配下の取引、特定の規制・補助金スキームなどでは、どの個別基準がどう関わるのかを慎重に検討しなければなりません。
IAS第8号は、取引などに具体的に適用されるIFRSがない場合、経営者が判断を用いて会計方針を開発・適用することを求めています。その会計方針は、利用者の経済的意思決定にとって目的適合的であり、財政状態・財務業績・キャッシュ・フローを忠実に表現し、経済的実質を反映し、偏りがなく、慎重で、重要な点で完全な情報をもたらすものでなければなりません。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
その判断にあたっては、まず類似または関連する事項を扱うIFRSの要求事項を、次いで概念フレームワークにおける資産・負債・収益・費用の定義や認識要件、測定概念を、順に参照していきます。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
さらに、これらに反しない範囲であれば、似た概念フレームワークを用いる他の基準設定主体の最新の基準や、会計文献、一般に認められた業界実務を参考にすることもできます。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
こうした場面での会計方針選択は、監査上も論点になりやすいものです。企業としては「IFRSに明文がない」と述べるだけでは足りず、どの基準を類推し、どの概念を参照し、どの代替案をなぜ退け、その方針がなぜ目的適合的で忠実な表現といえるのかまで、筋道立てて説明する必要があるからです。
実務では、少なくとも次の事項を論点整理の資料として残しておきたいところです。
- 取引の概要、契約条件、経済的実質
- 直接適用されるIFRSがあるかどうかの検討
- 適用除外や範囲外となる基準の確認
- 類似・関連するIFRSの参照
- 概念フレームワーク上の資産、負債、収益、費用の定義との整合
- 代替的な会計方針案と、それぞれの財務諸表影響
- 選択した方針が目的適合性と忠実な表現を満たす理由
- 同種取引への一貫適用方針
- 開示すべき会計方針情報、重要な判断、見積りの不確実性
- 監査人との協議履歴と未解決事項
基準が明確でないときの会計方針は、単なる会計処理の選択ではありません。それは、財務報告上のひとつのポジションなのです。
会計方針と会計上の見積りを混同しない
会計方針開示を組み立てるうえでは、会計方針と会計上の見積りを分けて考えることが欠かせません。
IAS第8号は、会計方針を財務諸表の作成・表示に適用する原則などと定義する一方で、会計上の見積りを、測定の不確実性の影響を受ける財務諸表上の貨幣金額と定義しています。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
たとえば、減損テストを実施すること、そして回収可能価額を使用価値と処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い方で測定することは、会計方針に関わります。これに対し、使用価値を算定するときの将来キャッシュ・フローや成長率、割引率、ターミナルバリューは、見積りの領域です。
リースであれば、リース負債をリース料の現在価値で測定すること自体は会計方針です。一方、延長オプションの行使が合理的に確実かどうか、追加借入利子率をどう見積もるかは、判断や見積りの問題になります。
金融資産の分類基準は会計方針にあたりますが、ECLのPD・LGD・EADや将来予測情報は、見積りの側に属します。
会計上の見積りは、将来の事象の結果しだいで金額が確定できない場面で必要になります。経営者の仮定によって財務諸表が大きく動きうるだけに、監査上も重要な論点になりやすい領域です。
会計方針注記に見積りの詳細を盛り込みすぎると、肝心の会計方針の説明がぼやけてしまいます。反対に、見積り注記のなかへ会計方針の説明を押し込めば、測定の不確実性という核心が見えにくくなります。会計方針、重要な判断、見積りの不確実性は、たがいに関連し合いながらも、それぞれ担う役割は異なるのです。
会計方針と重要な判断をどう切り分けるか
会計方針の開示と重要な判断の開示もまた、混同されやすい領域です。
会計方針とは、企業が財務諸表を作成するために採った原則や基礎を指します。これに対して重要な判断とは、その会計方針を適用していく過程で経営者が下した判断のうち、財務諸表に認識された金額へ最も大きく影響するものを指します。
経営者が会計方針を適用するなかで行った判断のうち、財務諸表に計上された金額へ最も重要な影響を及ぼすものは、重要な会計方針やその他の注記とあわせて開示すべきものと整理できます。
たとえば、次のように切り分けて考えると、見通しがよくなります。
収益認識でいえば、IFRS第15号に基づく収益認識の方針が会計方針にあたります。そのうえで、特定の複数要素契約において履行義務をどう識別したか、本人なのか代理人なのか、一定期間にわたる認識か一時点の認識か——こうした点は重要な判断になり得ます。
連結であれば、支配を有する投資先を連結するという方針が会計方針です。その先で、議決権が過半数に満たない投資先に実質的な支配があるか、潜在的議決権が実質的といえるか、代理人か本人か、といった点が重要な判断になり得ます。
リースでは、リースの識別と、使用権資産・リース負債の認識方針が会計方針にあたります。そのうえで、契約に特定された資産が含まれているか、供給者の代替権が実質的か、顧客が使用を指図する権利をもつか、といった点が重要な判断になり得ます。
会計方針注記では「採用した処理方針」を簡潔に示し、重要な判断の注記では「その方針を当社の取引へ適用するにあたり、どこで判断を要したか」を説明する——このように役割を分けるのが望ましいといえます。
重要性の判断:開示すべき会計方針と削るべき会計方針
会計方針情報が重要かどうかは、個別基準に開示要求があるかないかだけでは決められません。
Practice Statement 2は、会計方針情報の重要性を評価する際には、利用者が財務諸表のほかの重要な情報を理解するためにその情報を必要とするかどうかを考えるべきだとしています。その判断には、定量的な要因と定性的な要因の両方が関わります。
出典:IFRS Foundation|IFRS Practice Statement 2: Making Materiality Judgements
実務のうえで、会計方針情報が重要になりやすいのは、たとえば次のような場合です。
- 関連する取引または残高が財務諸表上重要である
- IFRSが複数の会計方針を認めており、企業が選択している
- 基準の適用に重要な判断を伴う
- 複数の基準が一つの取引に関係する
- 会計処理が複雑で、方針を説明しないと本表金額を理解できない
- 同業他社と異なる方針を適用している
- 新しい取引、事業再編、M&A、海外展開、資金調達、報酬制度変更などにより、従来と異なる方針が必要になった
- 前期から方針を変更した、または未発効基準への対応が必要である
- ローカル基準との比較やIFRS移行説明において方針が重要である
反対に、思い切って削るべき会計方針情報もあります。
- 企業に存在しない取引に関する方針
- 重要性のない残高に関する詳細な方針
- IFRS基準の一般的な要約にすぎない文言
- 企業固有の適用方法がまったく含まれていない説明
- 他の注記と重複し、重要な情報を不明瞭にする説明
- 過去の取引に対応して作成したまま更新されていない方針
- 現在の契約条件や内部管理と整合しない方針
会計方針開示においては、「念のため残しておく」という発想が、かえって財務諸表の明瞭性を損なうことがあります。
主要領域ごとの会計方針開示の実務ポイント
会計方針開示では、領域ごとに見るべき焦点が変わってきます。ここでは個別基準の細部に立ち入りすぎず、領域を横断する判断の軸を示しておきます。
収益認識
収益認識では、顧客との契約の識別、履行義務、取引価格、その配分、そして収益を認識する時点が中心になります。IFRS第15号の実務は、5ステップモデルを軸に、契約・履行義務・取引価格・配分・履行義務の充足に応じた収益認識を整理するところから始まります。
会計方針としては、主要な収益の類型ごとに、履行義務の内容、収益認識の時点、変動対価、重大な金融要素、本人か代理人か、契約コストといった要素のうち、利用者の理解に必要なものを記載します。ここでも、単に「支配移転時に収益を認識する」と書くのではなく、当社の主要な契約において支配の移転をどう判断しているかを示すことが肝心です。
リース
リースでは、契約にリースが含まれるか、リース構成部分と非リース構成部分を分けるか、リース期間をどう判断するか、短期・少額リースの免除を適用するか、といった点が重要になります。IFRS第16号の実務では、特定された資産、経済的便益を得る権利、そして使用を指図する権利が、リース識別の中心に置かれます。
会計方針では、リースの識別、借手の使用権資産・リース負債の認識と測定、割引率、リース料、変動リース料、実務上の便法の適用について、企業の契約実態に即して説明します。
金融商品
金融商品では、契約上の権利義務、金融資産の分類、金融負債と資本の区分、実効金利法、認識の中止、相殺、ECL、ヘッジ会計といった論点が関わってきます。そもそも金融商品は、契約を通じて金融資産・金融負債・資本性金融商品が生じる領域ですから、契約上の権利義務を把握することが入口になります。
会計方針では、金融資産の分類・測定、事業モデル、SPPI判定、ECLの適用範囲、金融負債の分類、デリバティブ、ヘッジ会計の適用方針を整理します。ここでも分類方針を書き並べるだけでなく、企業の保有目的やリスク管理、契約条件と結びつけて示すことが求められます。
固定資産・無形資産・投資不動産
固定資産では、認識単位、取得原価、直接起因コスト、構成部分アプローチ、減価償却、耐用年数、残存価額、再評価モデル、借入コスト、そして資産除去債務との関係が問題になります。IFRSの固定資産実務では、認識規準、会計単位、構成部分への分解、直接起因コスト、廃棄コストといった論点を、一体として検討していきます。
会計方針としては、単に「有形固定資産は取得原価で測定している」で終わらせるのではなく、重要な資産の種類、測定モデル、償却方法、構成部分の分解、取得後支出の資産化方針、資産除去義務の扱いまでを説明する必要があります。
企業結合
企業結合では、取得法、取得企業、取得日、移転対価、条件付対価、取得関連費用、識別可能な資産・負債、非支配持分、のれん、測定期間が重要になります。IFRS第3号では、その取引が企業結合に該当するか、取得法をどう適用するか、識別可能な資産・負債をどう認識・測定するかが、主要な論点となります。
会計方針開示では、非支配持分の測定方法、条件付対価の当初測定と事後測定、取得関連費用の処理、のれんの測定、測定期間の修正の扱いが重要になります。とりわけ重要な条件付対価や非支配持分の測定方法は、会計方針開示上の留意点として押さえておきたいところです。
会計方針の変更は、自由な見直しではない
会計方針は、企業が任意に、都合よく変えられるものではありません。
IAS第8号は、会計方針の変更を、IFRSによって要求される場合か、あるいは変更によって、取引などの影響についてより信頼性が高く、より目的適合的な情報を財務諸表が提供できるようになる場合に限っています。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
また、これまでの取引とは実質が異なる取引に会計方針を適用すること、そして過去には発生していなかった、あるいは重要性のなかった取引に新しい会計方針を適用することは、いずれも会計方針の変更にはあたりません。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements
この線引きは、実務のうえでとても大切です。
たとえば、新しいサブスクリプション契約を始めた場合、従来の販売取引とは実質が異なるため、新たな会計方針の適用として整理される可能性があります。一方で、同じ取引についてこれまでと違う収益認識の方法を採るのであれば、それが会計方針の変更なのか、過年度の誤謬なのか、それとも見積りの変更なのかを、慎重に切り分けなければなりません。
会計方針の変更を検討する際には、少なくとも次の観点を整理しておきます。
- 変更の原因は、新基準・改正基準・解釈指針か
- 従来の会計方針に誤りがあったのか
- 取引実態が変化したのか
- 従来重要性がなかった取引が重要になったのか
- 変更により、より目的適合的で忠実な表現になるのか
- 遡及適用、将来適用、修正再表示のいずれが必要か
- 比較情報、注記、内部統制、監査対応にどのような影響があるか
会計方針の変更は、財務諸表の比較可能性に直接響きます。だからこそ、変更の理由、影響額、適用方法、そして監査証拠を、ひとつずつ丁寧に整えておく必要があります。
IFRS第18号を見据えた会計方針開示
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は、2027年1月1日以後に開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められています。この基準はIAS第1号を置き換え、財務諸表における表示・開示の全体的な要求事項を定めるものです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements
IFRS第18号は、損益計算書に新たな小計を設け、経営者が定義した業績指標や、集約・分解の原則を導入します。IFRS財団は、この基準がIAS第1号の要求事項の多くを引き継ぎつつ、財務業績の表示に焦点を当てたものだと説明しています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements
本稿ではIFRS第18号の詳細までは立ち入りませんが、会計方針開示という観点からは、次のような影響を意識しておきたいところです。
- 損益計算書の区分や小計と、収益・費用に関する会計方針が整合するか
- 経営者が定義した業績指標と、会計方針・判断・見積りの説明が矛盾しないか
- 費用分類、集約・分解、表示科目と会計方針注記の粒度が合っているか
- 過去から使っている会計方針文言が、IFRS第18号適用後の表示体系でも有用か
- 未発効基準としての影響評価を会計方針管理プロセスに組み込んでいるか
IFRS第18号への対応は、一見すると表示基準への対応にすぎないように見えます。しかし実務では、会計方針や注記、内部管理資料、投資家向けの説明資料、監査対応にまで影響が及びます。
会計方針開示を内部資料化する
会計方針の開示は、決算短信や有価証券報告書の文章を書き上げれば終わり、というものではありません。重要な会計方針については、監査対応にも耐えられる形で、内部資料として整えておく必要があります。
最低限、次のような構成で会計方針メモを作成しておくと、レビューや監査対応の場面で格段に説明しやすくなります。
- 対象取引、残高、契約類型
- 関連するIFRS基準と適用範囲
- 選択可能な会計方針の有無
- 採用した会計方針
- 採用理由
- 代替案と棄却理由
- 重要な判断と見積りとの関係
- 本表、注記、KPI、内部管理への影響
- 同種取引への一貫適用方法
- 会計方針変更に該当する可能性
- 監査証拠となる契約書、取締役会資料、管理資料、評価資料
- 注記案と開示上の留意点
こうした資料がないまま会計方針を注記してしまうと、いざ監査人から根拠を問われたときに、「文章はあるのに説明できない」という状態に陥りがちです。
会計方針は、財務諸表上の文章である前に、企業が取引をどう財務報告へ反映するかを定めた内部のルールです。だからこそ、内部資料や会計マニュアル、決算チェックリスト、子会社の報告パッケージ、監査対応資料と、首尾一貫している必要があります。
専門家に相談すべき典型場面
重要な会計方針の開示と会計方針の選択については、次のような場面で専門家の関与が力を発揮します。
- IFRS任意適用または初度適用により、会計方針体系を新たに設計する場合
- 既存の会計方針注記が長文化し、重要な情報が埋もれている場合
- 収益認識、リース、金融商品、企業結合、減損、税効果など複数基準が絡む場合
- 基準が明確でない新規取引や複合契約が発生した場合
- 会計方針変更、見積り変更、誤謬の訂正の切り分けが必要な場合
- 監査人から会計方針の根拠、重要性、企業固有性について指摘を受けている場合
- IFRS第18号対応に向けて表示、注記、業績指標、会計方針の整合を見直す場合
- グループ会社間で会計方針の適用がばらついている場合
- M&Aや海外子会社取得により、既存の会計方針では対応できない取引が増えた場合
会計方針の開示は、外部への説明であると同時に、社内の財務報告判断を統制する仕組みでもあります。判断の深い領域ほど、早い段階で論点、事実、基準、代替案、開示、監査証拠を整理しておくことが大切です。
まとめ
重要な会計方針の開示は、IFRS基準の要約ではありません。財務諸表を読む人が、本表の金額、重要な判断、見積りの不確実性、個別基準の注記を理解するために必要な、その企業ならではの会計方針情報を示すものです。
会計方針を選ぶときは、まず特定のIFRSが直接適用されるかどうかを確認します。直接適用される基準があれば、それに従いながら、選択肢の有無、一貫性、重要性を検討します。直接適用される基準がなければ、類似・関連するIFRSや概念フレームワーク、必要に応じて他の基準設定主体の基準や業界実務を参照し、目的適合性と忠実な表現を満たす会計方針を開発していきます。
そのうえで、会計方針、重要な判断、会計上の見積りを切り分け、ボイラープレート化を避けながら、企業固有の取引実態に即した開示へと落とし込んでいくことが求められます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRS財務諸表における重要な会計方針の整理、会計方針選択の論点メモの作成、注記レビュー、会計方針変更・見積り変更・誤謬の切り分け、そしてIFRS第18号を見据えた表示・開示対応について、取引の実態と監査対応を踏まえたご支援を行っています。会計方針注記が形式的になってしまっている、基準が明確でない取引の方針整理に迷っている、監査人や経営層に説明できる会計方針メモを整えたい——そうした場合は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。
振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 会計方針の意味 | 財務諸表作成・表示に適用する原則、基礎、慣行、規則、実務であり、単なる注記文言ではない |
| 開示の考え方 | 「重要な会計方針」ではなく、財務諸表理解に必要な「重要性のある会計方針情報」を開示する |
| 企業固有性 | 基準文言の要約ではなく、当社の取引実態にIFRSをどう適用したかを説明する |
| ボイラープレート回避 | 重要性のない一般的な方針が、重要な情報を不明瞭にしていないか確認する |
| 基準が明確な場合 | 該当するIFRSを適用し、選択肢、一貫性、重要性、開示必要性を検討する |
| 基準が明確でない場合 | 類似・関連するIFRS、概念フレームワーク、必要に応じて他基準や業界実務を参照する |
| 一貫性 | 類似の取引には同じ会計方針を首尾一貫して適用する |
| 会計方針変更 | IFRSが要求する場合、またはより目的適合的で忠実な表現となる場合に限定される |
| 見積りとの切り分け | 会計方針は処理方針、見積りは測定不確実性を伴う金額の仮定として整理する |
| 重要な判断との切り分け | 会計方針を適用する過程で財務諸表に重要な影響を与える判断は、別途説明する |
| IFRS第18号対応 | 表示区分、小計、MPM、集約・分解と会計方針注記の整合を確認する |
| 監査対応 | 方針、根拠、代替案、証拠、注記案を会計方針メモとして内部資料化する |