IFRSにおける関連当事者開示とグループ取引|関係性・取引条件・残高・経営幹部報酬の実務判断

関連当事者開示を、「親会社・役員・関連会社との取引を一覧表にまとめる注記」と受け止めている方は少なくありません。しかし、IFRSが求めている開示の本質は、そこにはありません。

財務諸表の利用者が、企業の財政状態や純損益を読み解くとき、その数字が通常の独立第三者間取引だけで形づくられているとは限りません。支配、共同支配、重要な影響力、経営幹部、グループ関係、個人の近親者──こうした関係性によって、企業の実態がどのように影響を受け得るのか。それを利用者が理解できるようにすること。ここに、関連当事者開示の目的があります。

IAS第24号の狙いも、まさにこの点にあります。関連当事者の存在、関連当事者との取引、未決済残高、コミットメントによって、企業の財政状態および純損益が影響を受けている可能性へ、利用者の注意を向ける。そのために必要な開示を財務諸表へ含めることを求めています。対象となるのは、関連当事者関係・取引の識別、未決済残高の識別、開示が求められる状況の見極め、そして開示内容の決定です。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

実務で頭を悩ませるのは、取引金額そのものよりも、その手前の判断です。誰が関連当事者にあたるのか。その取引は、通常の営業取引と同じ性質のものといえるのか。条件は独立第三者間条件だと説明できるのか。未決済残高や保証・担保・コミットメントを、どう説明すればよいのか。そして、連結上消去されるグループ内取引を、どの財務諸表で、どこまで開示するのか。悩みどころは、いつもこのあたりに集まってきます。

本稿では、IAS第24号を軸に、関連当事者開示とグループ取引の実務判断を整理していきます。会社法・税務・移転価格・金融商品取引法上の個別規制そのものを網羅する趣旨ではありませんが、IFRS財務諸表の開示、監査対応、内部資料化、グループ管理との接続という観点を重視して解説します。

目次

関連当事者開示は、取引があった場合だけの開示ではない

まず押さえておきたいのは、IAS第24号が「取引の有無」だけを問題にしているわけではない、という点です。

関連当事者関係は、通常の事業活動の中に、いわば当然のものとして存在しています。企業は、子会社や共同支配企業、関連会社を通じて事業を営みます。親会社は子会社の方針に影響を与えますし、投資者が関連会社の財務・営業方針に重要な影響力を及ぼすこともあります。こうした関係が存在するだけで、企業の取引、価格決定、研究開発、資金調達、保証、事業撤退、取引先の選定といった判断が、その影響を受ける場合があるのです。

IAS第24号は、たとえ取引が発生していなくても、関連当事者との関係が企業の純損益や財政状態に影響し得ることを明示しています。たとえば、親会社が兄弟会社を取得したことを契機に、子会社が従来の取引先との関係を終了する。あるいは、親会社からの指示によって、子会社が研究開発活動を控える。こうした事態は、実際に起こり得ます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

したがって、「取引がなかったのだから関連当事者開示は不要だ」と短絡的に判断するのは危険です。親会社と子会社の関係については、取引の有無にかかわらず開示が求められます。とりわけ、親会社の名称、最終的な支配当事者、必要に応じて公表用連結財務諸表を作成する次に上位の親会社の名称は、支配関係を理解するうえで欠かせない情報です。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

関連当事者の範囲は、形式ではなく実質で判断する

関連当事者の識別は、この開示の出発点にあたります。

IAS第24号における関連当事者とは、財務諸表を作成する企業、すなわち報告企業と関連のある個人または企業を指します。個人の場合は、その個人または近親者が報告企業を支配または共同支配しているとき、報告企業に重要な影響力を有しているとき、あるいは報告企業もしくはその親会社の主要な経営幹部であるときに、報告企業と関連があるとされます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

企業の場合は、さらに範囲が広がります。同一グループの一員、関連会社、共同支配企業、同一第三者の共同支配企業、第三者の共同支配企業と関連会社の関係、従業員のための退職後給付制度、関連当事者である個人に支配または共同支配されている企業、関連当事者である個人が重要な影響力を有する企業、経営幹部サービスを提供する企業などが、ここに含まれてきます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

ここで肝心なのは、IAS第24号が「法的形式」ではなく「関係の実質」に軸足を置いている点です。契約書上の当事者名や持株比率だけを眺めていては足りません。誰が支配・共同支配・重要な影響力を有しているのか、主要な経営幹部がどこまで関与しているのか、個人の近親者を通じて実質的な影響が及んでいないか。こうした点を、一つひとつ確かめていく必要があります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

たとえば、取締役本人が直接株式を保有していない会社であっても、油断はできません。近親者が支配している会社、ファミリー会社、資産管理会社、投資ビークル、経営幹部サービス会社、役員が実質的に影響を及ぼす取引先などは、関連当事者に該当しないかを検討すべき対象です。日本基準では近親者の範囲を明示的に捉える場面がありますが、IAS第24号はやや性格が異なります。列挙された例示だけで機械的に範囲を区切るのではなく、影響を与える、または影響を受ける可能性を、事実関係に即して判断する。この姿勢が求められる点に、注意が必要です。

「主要顧客」「大口仕入先」は、それだけでは関連当事者ではない

関連当事者の範囲を広く捉える姿勢は大切ですが、何でも関連当事者に含めればよい、という話ではありません。

IAS第24号は、通常の取引関係があるだけでは関連当事者に該当しない例も、あわせて示しています。資金提供者、労働組合、公共事業体、政府機関等は、通常の取引関係を持っているというだけでは関連当事者になりません。同じように、重要な取引量がある顧客、仕入先、フランチャイザー、販売代理店なども、経済的依存関係があるという理由だけでは関連当事者にはあたらないのです。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

この点は、実務でしばしば混同されます。

たとえば、売上の30%を占める主要顧客があるとしましょう。その存在は、IFRS第8号の主要顧客情報としての開示や、信用リスク、収益認識、契約資産、ECL、継続企業、減損といった観点からは、確かに重要になり得ます。しかし、それだけでIAS第24号上の関連当事者になるわけではありません。関連当事者に該当するかどうかは、支配、共同支配、重要な影響力、主要な経営幹部、同一グループ、退職後給付制度、経営幹部サービス提供企業といった、IAS第24号が定める関係性に照らして判断すべきものです。

逆の場合もあります。金額が小さい取引であっても、役員の近親者が支配する会社との取引、親会社からの指示に基づく取引、兄弟会社との低廉価格取引、保証・担保の提供、経営幹部サービス契約などは、関連当事者開示の対象になり得ます。見るべきは金額の大小だけではありません。関係性と取引条件の性質を、あわせて確認する必要があります。

グループ内取引は、連結財務諸表と個別財務諸表で見え方が変わる

関連当事者開示の中でも、実務で判断に迷いやすいのがグループ内取引です。

連結財務諸表では、親子会社間や兄弟会社間の取引・未決済残高は、通常、連結上で消去されます。IAS第24号もこの点を踏まえ、グループ内の関連当事者取引および未決済残高は企業の財務諸表で開示される一方、連結財務諸表の作成にあたっては、投資企業と純損益を通じて公正価値で測定される子会社との取引を除き、グループ内取引・残高が消去されると定めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

このため、連結財務諸表上で消去される親子会社間取引や兄弟会社間取引は、通常、連結財務諸表の関連当事者取引としては表示されません。ただし、これは「取引が重要でない」という意味ではありません。連結上消去されるために、連結財務諸表の一部としては残らない──それだけのことです。投資企業が子会社をFVTPLで測定する場合など、連結上消去されない関係については、あらためて関連当事者開示が問題になります。

一方で、親会社または投資者がIAS第27号に基づく個別財務諸表を表示する場合、IAS第24号は個別財務諸表にも適用されます。したがって、個別財務諸表では、子会社・関連会社・共同支配企業・兄弟会社との取引や残高が、関連当事者取引として開示対象になり得ます。連結財務諸表で消去されることと、個別財務諸表で開示が不要になることとは、決して同じではありません。

ここを取り違えると、開示漏れにつながります。とりわけ、IFRS任意適用企業が連結財務諸表をIFRSで作成しつつ、親会社の個別情報、子会社決算、海外サブグループ、上場子会社、非連結投資先などを併せて管理しているような場合には、どの財務諸表でどの関連当事者取引を開示するのかを、あらかじめ整理しておくことが欠かせません。

関連当事者取引は「対価がある取引」に限られない

IAS第24号における関連当事者取引とは、報告企業と関連当事者との間で、資源、サービスまたは債務を移転することをいいます。ここでは、対価が請求されるかどうかは問われません。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

したがって、検討の対象は広範に及びます。無償取引や低廉取引、債務の肩代わり、保証の提供、担保提供、経営指導料、出向者負担金、ロイヤルティ、研究開発費の負担、資金貸付、キャッシュ・プーリング、リース、ライセンス契約、資産譲渡、事業譲渡、債権放棄、損失補填、税務グループ内の負担調整。これらもすべて、関連当事者取引として検討の俎上にのぼります。

IAS第24号自身も、関連当事者取引の例を挙げています。棚卸資産等の売買、不動産その他資産の売買、サービスの提供・受領、リース、研究開発の移転、ライセンス契約、貸付や資本拠出を含む資金取引、保証または担保の提供、将来事象の発生・不発生を条件とするコミットメント、関連当事者のための債務決済といったものです。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

実務では、会計システム上の「売上」「仕入」「貸付金」だけを抽出しても、十分とはいえません。契約書、稟議書、取締役会議事録、保証契約、担保契約、覚書、グループ内費用配賦規程、税務上の移転価格文書、出向契約、退職給付制度、株式報酬制度、役員報酬決定資料。ここまで確認して、ようやく関連当事者取引を網羅できる、という場面もあるのです。

開示すべき情報は、取引金額だけではない

関連当事者取引があった場合、開示すべき情報は取引金額にとどまりません。

IAS第24号は、関連当事者取引があったとき、関連当事者関係の性質、取引および未決済残高、コミットメントについて、財務諸表利用者が財務諸表への潜在的影響を理解するために必要な情報を開示するよう求めています。最低限そこに含めるべきものとして、取引金額、未決済残高およびコミットメントの金額、担保の有無を含む契約条件、決済に用いられる対価の性質、付与または受領した保証の詳細、未決済残高に関連する貸倒引当金、不良債権について期中に認識した費用が挙げられます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

この要求事項は、条文だけを見ると比較的シンプルに映ります。しかし、実務に落とし込むと、かなり踏み込んだ確認が求められます。

たとえば、親会社からの借入金です。開示すべきは金額だけではありません。利率、返済期日、担保、劣後性、期限前返済条項、財務制限条項、外貨建かどうか、返済予定の有無、純投資性、貸倒・減損の評価、移転価格上の利率妥当性、資本性金融商品への該当性まで、視野に入れて確認していくことになります。

兄弟会社への売上であれば、販売価格、リベート、返品、決済条件、信用リスク、在庫リスク、本人・代理人、収益認識の履行義務、未回収残高、値引・リベートの見積りが論点になります。

役員の近親者が支配する会社との不動産賃貸借であれば、賃料水準、リース期間、更新・解約オプション、敷金、保証、使用権資産・リース負債、減損、取締役会承認、利益相反管理が問われます。

保証・担保であれば、保証料の有無、保証の対象債務、保証期間、履行可能性、金融保証契約の会計処理、偶発負債、金融リスク開示との整合性が問題になってきます。

つまり関連当事者開示とは、単に「金額表」を作る作業ではありません。取引条件が財務諸表利用者にとって意味を持つかどうかを見極め、必要な説明を添える作業です。最低限の開示項目は、あくまで出発点にすぎません。取引の目的、経済的実質、関係性、特有のリスク、財務諸表への影響を説明しなければ、利用者の理解には届かない場合があるのです。

「独立第三者間条件である」と書くには根拠が必要である

関連当事者取引の説明では、「取引条件は一般取引条件と同様である」「市場価格に基づいている」「独立第三者間条件である」といった文言が用いられることがあります。

ただ、IAS第24号はここに一線を引いています。関連当事者取引が独立第三者間取引と同等の条件で行われた旨の開示は、その条件を立証できる場合にのみ行う、と定めているのです。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

この点は、監査対応の場面でもきわめて重要になります。

市場価格と同等であると説明するのであれば、それを支える証拠が要ります。比較可能な第三者取引、外部見積り、価格表、独立鑑定、入札結果、移転価格文書、取締役会承認資料、契約交渉過程、価格改定履歴といったものです。こうした裏づけを欠いたまま「通常条件」と記載してしまえば、開示そのものの信頼性が揺らぎます。

もう一点、見落とされがちな論点があります。仮に独立第三者間条件であることが確認できたとしても、それで関連当事者開示が不要になるわけではない、ということです。関連当事者であること、取引があること、残高やコミットメントがあること自体が、利用者にとって重要な情報となる場合があるからです。独立第三者間条件かどうかは、あくまで開示内容を補強する要素にすぎません。開示の要否そのものを消し去る、万能の根拠ではないのです。

主要な経営幹部報酬は、役員報酬開示だけの問題ではない

IAS第24号では、主要な経営幹部報酬の開示も重要な柱の一つです。

主要な経営幹部とは、企業活動を直接または間接に計画し、指揮し、支配する権限と責任を有する者をいいます。業務執行者か非業務執行者かを問わず、取締役もここに含まれます。報酬の範囲についても、IAS第19号に基づく従業員給付にとどまらず、IFRS第2号が適用される株式に基づく報酬まで含まれます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

IAS第24号は、主要な経営幹部報酬を合計額で開示したうえで、短期従業員給付、退職後給付、その他の長期給付、解雇給付、株式に基づく報酬の区分ごとに開示することを求めています。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

実務でまず論点になるのは、誰を主要な経営幹部に含めるか、という線引きです。取締役、執行役、執行役員、CFO、COO、地域統括責任者、重要子会社の経営者、親会社から派遣された経営者、経営会議メンバー、委員会メンバー。このうち、企業活動の計画・指揮・支配に実質的に関与している者は誰か。ここを見極めていくことになります。

報酬の範囲も、単純な現金給与にとどまりません。賞与、非金銭給付、社宅、車両、退職給付、長期インセンティブ、株式報酬、ストック・オプション、譲渡制限付株式、業績連動報酬、解任・退任時給付といったものが関係してきます。この区分は、主要な経営幹部報酬を短期従業員給付、退職後給付、その他の長期給付、解雇給付、株式に基づく報酬へと分解して整理する、という考え方に沿ったものです。

さらに、企業が別個の経営管理企業から主要な経営幹部サービスを受けている場合には、そのサービスについて負担した金額の開示が問題になります。経営者本人への直接支払がなかったとしても、経営サービスの提供実態そのものが、財務諸表利用者にとって重要になり得るためです。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

政府関連企業には部分的免除があるが、開示不要ではない

政府関連企業については、IAS第24号に部分的な開示免除が設けられています。

報告企業が政府により支配、共同支配、または重要な影響力を受けている場合、同じ政府により支配、共同支配、または重要な影響力を受けている他の企業との関連当事者取引・未決済残高については、一定の開示要求が免除されます。ただし、この免除を適用する場合でも、なお開示すべき事項が残ります。政府の名称、報告企業との関係の性質、個別に重要な取引の性質と金額、そして個別には重要でないものの集合的に重要な取引についての定性的または定量的情報です。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

つまりこの免除は、政府関連企業に関する取引をすべて開示不要にするものではありません。とりわけ、取引規模が大きい、非市場条件で行われている、通常の日常業務の範囲外である、規制当局に報告されている、経営幹部に報告されている、株主承認の対象である──こうした事情がある場合には、開示の粒度を慎重に見定める必要があります。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

インフラ、金融、資源、運輸、電力、通信、医療、公共サービスなど、政府関与の強い業種では、政府関連企業との取引が日常的に生じます。免除規定を適用できるかどうかを判断する際には、支配・共同支配・重要な影響力の有無、取引の個別重要性、集合的重要性、非市場条件の有無、規制上の承認、補助金や料金規制との関係を、あわせて整理しておくことが求められます。

関連当事者開示は、連結・金融商品・収益・リース・税効果と交差する

関連当事者開示を、単独の注記論点として切り離して扱うと、どうしても抜けが生じます。実際には、他の基準と幾重にも交差しているからです。

親子会社間貸付や兄弟会社間貸付は、IAS第24号の開示だけでなく、IFRS第9号の分類・測定、ECL、金融保証、認識中止、実効金利法、IAS第21号の外貨建貨幣性項目、純投資性、ヘッジ会計、法人所得税や移転価格にまで接続します。

グループ内売上や関連会社との売上は、IFRS第15号の契約識別、履行義務、取引価格、本人・代理人、契約資産、変動対価、重要な金融要素、収益分解注記と整合させておく必要があります。

関連当事者とのリースは、IFRS第16号のリース識別、リース期間、延長・解約オプション、割引率、使用権資産・リース負債、セール・アンド・リースバックと関わります。

主要な経営幹部への株式報酬は、IFRS第2号の分類、付与日、公正価値、権利確定条件、条件変更と関わります。

退職後給付制度が関連当事者に該当する場合には、IAS第19号の退職給付債務、制度資産、数理計算、グループ制度の費用配分と接続します。

M&Aや組織再編の局面では、売主・買主・共同投資者・経営者・アーンアウト・再取得権・サービス契約・ロールオーバー投資が、関連当事者開示と交差してきます。

このように見てくると、関連当事者開示は、会計処理の結論を注記で後追いする作業ではないことがわかります。取引の入口で関連当事者性を把握し、会計処理、表示、注記、監査証拠、取締役会承認、IR説明までを一体で検討する。そうした構えが必要になるのです。

監査対応では、未識別の関連当事者と異常取引が重点になる

関連当事者開示は、監査の観点からもリスクの高い領域です。関連当事者取引は通常の取引の中に埋もれやすく、経営者や支配株主の意向が取引条件に影を落とすこともあります。加えて、不正リスクや利益調整、資金流出、利益相反、開示漏れといった問題と結びつきやすい性質も持っています。

IAASBのISA 550は、監査人の関連当事者関係・取引に関する責任を扱う基準です。監査人には、関連当事者関係・取引について理解し、不正による重要な虚偽表示リスクに関連する要因を識別したうえで、関連当事者関係・取引が適切に識別、会計処理、開示されているかについて、十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められます。あわせて、経営者への質問、関連当事者の識別と前期からの変更、関係の性質、期中取引の有無、内部統制、通常の事業過程外の重要取引、議事録、銀行確認、法律確認などの検討が重要とされています。
出典:IAASB|Related Parties – ISA 550

企業側の実務対応としては、次のような資料を平時から整えておくことが有効です。

  • 関連当事者リスト
  • 役員・主要な経営幹部・近親者・支配株主に関する確認書
  • グループ会社、関連会社、共同支配企業、退職後給付制度、経営幹部サービス会社の一覧
  • 主要な契約書、覚書、稟議書、取締役会議事録、株主総会資料
  • 保証、担保、コミットメント、債務引受、債権放棄に関する資料
  • グループ内取引明細、未決済残高、年齢表、貸倒評価資料
  • 移転価格文書、価格設定根拠、外部比較資料
  • 役員報酬、株式報酬、退職給付、出向者負担金に関する資料
  • 連結消去仕訳、個別財務諸表での開示対象判定表
  • 開示ドラフトと財務諸表本表・他注記との整合チェック

とりわけ注意したいのが、役員や支配株主に関連するプライベートカンパニー、ファンド、資産管理会社、親族会社、海外法人、信託、持株会、共同投資ビークルです。これらは、通常の取引先マスターだけを頼りにしていると、把握しきれないことがあります。だからこそ、関連当事者開示は経理部門だけで完結させるべきではありません。法務、総務、経営企画、人事、税務、海外子会社管理、内部監査、IRと連携し、横断的に情報を集める体制が必要になります。

実務上の整理手順

関連当事者開示を整理するときは、次の順序で検討していくと、漏れを防ぎやすくなります。

  1. 報告企業を明確にする。 連結財務諸表なのか、親会社の個別財務諸表なのか、子会社の単独財務諸表なのか。これによって、開示対象となる関係や取引が変わってきます。
  2. 支配関係を整理する。 親会社、最終的な支配当事者、公表用連結財務諸表を作成する上位親会社、子会社、兄弟会社、投資企業とFVTPL測定子会社の関係を確認します。
  3. 共同支配・重要な影響力を整理する。 関連会社、共同支配企業、共同支配事業、同一第三者を通じた関係を確認します。
  4. 個人関連の関連当事者を整理する。 支配株主、主要な経営幹部、親会社の主要な経営幹部、近親者、近親者が支配・共同支配する企業、重要な影響力を有する企業を確認します。
  5. 退職後給付制度や経営幹部サービス提供企業を確認する。 年金制度、持株会、報酬信託、外部経営管理会社などが関係する場合には、IAS第24号、IAS第19号、IFRS第2号を横断して確認します。
  6. 関連当事者取引を抽出する。 売買、サービス、リース、貸付、保証、担保、コミットメント、資産譲渡、研究開発、ライセンス、債務決済、無償取引、低廉取引、費用配賦、出向者負担などを確認します。
  7. 取引条件と残高を確認する。 金額、未決済残高、決済条件、担保、保証、貸倒引当金、不良債権費用、コミットメント、通常条件との比較可能性を整理します。
  8. 連結消去と個別開示を区分する。 連結上消去される取引か、個別財務諸表に残る取引か、投資企業例外に該当するかを確認します。
  9. 開示粒度を判断する。 類似項目の集約は可能ですが、関連当事者取引が財務諸表に与える影響を理解するために個別開示が必要な場合には、集約しすぎないようにします。IAS第24号も、類似する性質の項目は集約して開示できる一方で、財務諸表への影響を理解するために個別開示が必要な場合には個別開示を求めています。

出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

IFRS第18号適用時には、表示・注記全体との整合も確認する

関連当事者開示は、IAS第24号だけを見て完結するものではありません。

2026年版のIAS第24号では、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」による結果的修正として、第20項が改正されています。関連当事者に対する債権・債務のカテゴリー別分類は、財政状態計算書または注記で情報を表示・開示するというIFRS第18号の要求事項を、いわば拡張するものとして位置づけられました。この第20項の修正は、企業がIFRS第18号を適用する際にあわせて適用されます。
出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 24 Related Party Disclosures

したがって、IFRS第18号への対応にあたっては、損益計算書の小計や経営者定義業績指標だけに目を向けていては足りません。注記全体の集約・分解、財政状態計算書科目、関連当事者残高のカテゴリー別表示、他注記との整合まで、あわせて確認していく必要があります。

たとえば、金融商品注記では関連当事者貸付の信用リスクや公正価値が示され、IAS第24号では関連当事者との残高、条件、保証、貸倒引当金が開示される、という場面があります。こうした記載が互いに矛盾していると、財務諸表利用者にとって、かえって読み解きにくい開示になってしまいます。

まとめ

関連当事者開示は、単なる注記表の作成作業ではありません。

関連当事者の範囲を正しく識別し、取引の経済的実質、取引条件、未決済残高、保証・担保・コミットメント、貸倒評価、経営幹部報酬、連結消去、個別財務諸表での開示対象を、一体のものとして整理していく。ここに、この開示の本質があります。

とりわけ、グループ内取引には注意が必要です。連結上は消去される一方で、個別財務諸表では開示対象になることがあります。役員や支配株主の関係者、近親者、経営幹部サービス会社、退職後給付制度、共同投資ビークルなども、形式的な取引先一覧からはこぼれ落ちやすい領域です。

そして、「通常条件」「市場価格」「独立第三者間条件」といった説明は、根拠資料があって初めて説得力を持ちます。関連当事者開示とは、突き詰めれば透明性と説明責任に関する開示であり、財務諸表利用者が企業のリスク、機会、利益相反、取引条件、グループ構造を理解するための、重要な手がかりなのです。

関連当事者の範囲、グループ内取引、役員・主要経営幹部報酬、保証・担保・貸付、個別財務諸表での開示、監査対応資料の整理。こうした点に迷いが生じたときには、早い段階で関連当事者リスト、契約書、議事録、グループ内取引明細、開示ドラフトを突き合わせておくことをおすすめします。犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに関する会計処理、表示・開示、監査対応、論点整理資料の作成について、取引実態とグループ管理実態に即した形で整理を支援しています。必要に応じて、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点実務上の確認ポイント
関連当事者開示の目的関連当事者関係・取引・残高・コミットメントが財務諸表に与える影響を、利用者が理解できるようにする。
取引の有無親会社・子会社関係は、取引がなくても開示が求められる。
関連当事者の範囲支配、共同支配、重要な影響力、主要な経営幹部、近親者、同一グループ、関連会社、共同支配企業などを確認する。
実質判断法的形式だけでなく、実質的な影響力、支配関係、経営関与を確認する。
主要顧客・仕入先取引量が大きいだけでは関連当事者にはならない。支配・影響力等の関係性を別途確認する。
グループ内取引連結財務諸表では通常消去されるが、個別財務諸表では開示対象となり得る。
投資企業例外投資企業とFVTPL測定子会社との取引は、連結上消去されないため開示が問題になる。
関連当事者取引資源、サービス、債務の移転をいい、対価の有無は問わない。
開示項目取引金額、未決済残高、コミットメント、契約条件、担保、保証、貸倒引当金、不良債権費用を確認する。
通常条件の記載独立第三者間条件である旨は、立証できる場合にのみ記載する。
主要な経営幹部報酬合計額と、短期給付、退職後給付、その他長期給付、解雇給付、株式報酬の区分を確認する。
経営幹部サービス会社直接報酬を支払っていなくても、経営幹部サービスの提供金額の開示が問題になる。
政府関連企業一定の免除があるが、政府名、関係の性質、重要取引の内容・金額等の開示は必要になる。
他基準との接続IFRS第9号、IFRS第15号、IFRS第16号、IFRS第2号、IAS第19号、IAS第21号、IAS第36号と横断的に確認する。
監査対応関連当事者リスト、確認書、議事録、契約書、保証・担保資料、グループ内取引明細、価格根拠を整備する。
内部統制経理だけでなく、法務、総務、人事、税務、経営企画、海外子会社管理、内部監査と連携する。
IFRS第18号対応関連当事者残高の分類、注記の集約・分解、他注記との整合を確認する。
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