医療情報・カルテ・個人情報保護の管理体制|クリニック・診療所・医療法人が整えるべき情報管理

医療機関における情報管理は、単なる「個人情報保護」や「電子カルテのセキュリティ」の問題にとどまりません。

カルテ、検査結果、画像、紹介状、処方情報、予約情報、問診票、レセプト、窓口会計、未収金、患者さんへの説明書、同意書、スタッフのアクセスログ、委託先とのデータ連携。これらはいずれも、患者さんの安全と信頼を支える情報です。

そして同時に、医療機関の診療品質、収益管理、税務調査対応、施設基準対応、承継・M&A、金融機関への説明にも影響する、いわば経営資産でもあります。

電子カルテを導入したからといって、それだけで安全になるわけではありません。クラウド型システムを使っていても、管理責任が外部業者に移るわけではないのです。

紙カルテから電子カルテへ移行しても、アクセス権限、退職者ID、端末管理、印刷物、USB、バックアップ、委託先、事故時の対応が整っていなければ、情報管理のリスクは残り続けます。

本稿では、クリニック・診療所・医療法人が、医療情報・カルテ・個人情報保護をどのように経営管理の仕組みへ組み込み、患者さん・スタッフ・行政・金融機関・後継者・買い手に説明できる状態へと整えていくべきかを、実務の視点から解説します。

目次

医療情報は「診療記録」であると同時に「経営資産」である

医療情報は、単に診療のために残しておく記録ではありません。医療機関の経営においては、少なくとも次の5つの意味を持っています。

医療情報の役割経営上の意味
診療の継続過去の診療内容、検査結果、処方、説明、同意を引き継ぐ
患者さんへの説明責任カルテ開示、苦情、医療安全、訴訟対応の基礎になる
保険診療の根拠レセプト請求、個別指導、施設基準、返戻・査定対応に関わる
税務・会計の補助資料収入計上、未収金、保険請求、自由診療収入の裏付けになる
承継・M&Aの確認対象患者基盤、診療継続性、法務・医療法務DDで確認される

医療機関のデューデリジェンスでは、カルテ関係について保管場所や保管方法を把握しておく必要があります。カルテ等は病院運営における非常に重要な情報であり、円滑な承継のためにこそ、その管理状況を確認しておくべきものです。

つまり医療情報の管理は、守秘義務や個人情報保護だけの話ではありません。将来、分院展開、在宅医療、法人化、承継、M&A、金融機関への説明、行政対応に踏み出すとき、必ず第三者が確認する重要な管理領域なのです。

管理すべき情報を「カルテ」だけに限定しない

情報管理の第一歩は、自院がいま何を管理しているのかを棚卸しすることです。

「カルテは電子化しているので大丈夫」と考えている医療機関でも、実際には多くの情報が電子カルテの外に散らばっているものです。

情報区分具体例
診療記録診療録、検査結果、画像、処方、処置、手術記録、看護記録
説明・同意同意書、説明文書、問診票、診療計画、在宅療養計画
保険請求レセプト、返戻・査定資料、診療報酬明細、施設基準資料
窓口・会計領収書、明細書、未収金一覧、返金記録、自由診療台帳
患者接点予約情報、Web問診、メール、LINE、電話メモ、紹介状
画像・検査PACS、内視鏡画像、エックス線写真、検査会社データ
院内資料スタッフ共有メモ、カンファレンス資料、申し送り
外部連携紹介先、薬局、訪問看護、介護事業者、地域連携システム
委託先管理電子カルテベンダー、レセコン、クラウド、保守会社、外部SE
人事情報スタッフの健康情報、マイナンバー、雇用契約、労務記録

個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスでも、診療録、処方箋、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院時要約、調剤録などが、医療機関等における個人情報の例として挙げられています。
出典:個人情報保護委員会・厚生労働省|医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス

情報管理は、電子カルテの中だけを見ていては不十分です。予約システム、Web問診、クラウドストレージ、スタッフの端末、紙の同意書、外部検査会社のポータル、会計ソフト、LINE公式アカウント、メール添付資料まで含めて、どこに患者さんの情報が存在しているのかを把握する必要があります。

診療録の保存期間は「最低限」と「経営上必要な期間」を分けて考える

医師法では、医師が診療をしたときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないとされ、診療録には一定期間の保存義務が定められています。
出典:e-Gov法令検索|医師法

ここで注意したいのは、法定保存期間とは「その期間を過ぎたら必ず廃棄すべき」という意味ではない、ということです。

医療機関では、保存期間を実務上どう設計するかを、次のような観点から検討しておく必要があります。

観点確認すべきこと
法令上の保存義務診療録、処方箋、検査記録、画像、助産録等の保存期間
医療安全過去診療、薬剤アレルギー、検査履歴、慢性疾患管理
患者対応苦情、カルテ開示請求、説明責任
保険診療レセプト、個別指導、返戻・査定、施設基準
税務・会計売上、未収金、自由診療、返金、請求根拠
承継・M&A患者基盤、継続診療、診療記録の引継ぎ
システム移行旧電子カルテ、紙カルテ、スキャンデータの閲覧性
廃業・移転閉院後の保管、引継ぎ、患者さんへの案内

保存期間を考えるときは、「法律上いつまで必要か」だけでなく、「後から自院の診療・請求・説明を支えるために、どの情報を、どの状態で保管しておくべきか」という視点が欠かせません。

紙カルテを倉庫に置いているだけ、旧電子カルテの閲覧端末が壊れたまま、過去データの抽出方法をベンダー任せにしている。こうした状態では、たしかに「保存している」とは言えても、経営判断や説明責任に使える状態とは言いにくいのが実情です。

医療情報の多くは「要配慮個人情報」である

医療機関が取り扱う情報の多くは、個人情報保護法上、特に慎重な取扱いが求められるものです。

ガイダンスでは、診療録等の診療記録や介護関係記録に記載された病歴、診療や調剤の過程で医療従事者が知り得た身体状況・病状・治療等の診療情報・調剤情報、健康診断の結果、保健指導の内容などが、医療機関等で想定される要配慮個人情報として挙げられています。さらに、要配慮個人情報の取得や個人データの第三者提供には原則として本人の同意が必要であり、オプトアウトによる第三者提供は認められていません。
出典:個人情報保護委員会・厚生労働省|医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス

この点を軽く見ていると、次のような場面で誤りが起こりがちです。

場面起こりやすい誤り
家族への説明本人が望まない家族に病状を話してしまう
保険会社対応本人同意や法的根拠を確認せず診療情報を渡す
税務調査・警察対応照会の法的根拠や範囲を確認せず資料を出す
スタッフ間共有診療に必要のない患者情報まで閲覧・共有する
SNS・チャット患者名、画像、診療内容が写った画面を送信する
外部委託契約で秘密保持・再委託・事故報告を定めていない
学会・研究匿名化が不十分な症例情報を外部発表する
承継・M&A買い手候補へ過剰な患者情報を開示する

個人情報保護とは、ただ「外に漏らさない」ことだけを指すのではありません。誰が、何の目的で、どの範囲まで、どの根拠で利用・提供できるのかを決めておく。それが本来の管理です。

院内掲示や利用目的の公表を形式で終わらせない

医療機関には、診療、医療保険事務、入退院等の管理、他医療機関との連携、審査支払機関へのレセプト提出など、患者さんにとって通常想定される利用目的があります。

ガイダンスでも、医療・介護サービスを希望する患者から個人情報を取得する場合、医療・介護サービスの提供、医療・介護保険事務、入退院等の病棟管理などで利用することは患者にとって明らかと考えられる一方、それ以外の目的で利用する場合には利用目的の公表等が必要とされています。そして、通常の業務で想定される利用目的を特定し、院内掲示等で公表することが求められています。
出典:個人情報保護委員会・厚生労働省|医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス

ところが実務では、院内掲示を一度作ったきり、更新していないケースが少なくありません。

次のような変化があったときには、利用目的の掲示、プライバシーポリシー、同意取得の方法を見直しておくべきです。

変化見直すべき事項
Web問診を導入した取得項目、保管先、委託先、利用目的
オンライン診療を始めた本人確認、録音録画、決済情報、通信環境
LINE・メール予約を始めた患者情報の入力範囲、運用ルール
電子処方箋に対応した薬局連携、処方情報の送受信
在宅医療を始めた家族、訪問看護、ケアマネ等との情報共有
検査会社・クラウドを変更した委託先、保管場所、再委託、障害時対応
分院を開設した分院間の情報共有、アクセス権限
M&A・承継を検討する買い手候補への開示範囲、秘密保持、患者さんへの説明

掲示や規程は、作成すること自体よりも、実際の業務に合っていることのほうがずっと大切です。

家族・第三者・行政機関への情報提供は、判断フローを作る

医療機関では、患者さんご本人以外から情報提供を求められる場面が数多くあります。

家族、保険会社、勤務先、学校、警察、弁護士会、裁判所、税務署、行政機関、介護事業者、訪問看護、紹介先医療機関などです。

患者さんご本人以外から診療記録の開示請求を受けた場合、本人同意がなければ原則として開示は禁止されます。法令に基づく手続がある場合など、例外に該当するかどうかを慎重に確認しなければなりません。医療機関が独断で判断するのは難しい場面も多く、必要に応じて弁護士等への確認が求められます。

実務では、次のような判断フローをあらかじめ用意しておくとよいでしょう。

確認事項判断内容
請求者は誰か本人、法定代理人、家族、保険会社、行政、警察、弁護士等
本人確認はできるか身分証明、委任状、代理権、続柄
法的根拠はあるか法令に基づく照会、裁判所命令、弁護士会照会等
本人同意はあるか書面、電磁的記録、明示同意、説明済み範囲
提供範囲は限定されているか必要最小限の情報に絞れているか
記録を残すか受付日、請求者、根拠、提供範囲、対応者
専門家確認が必要か法的根拠や範囲に疑義がある場合

「家族だから」「保険会社からの依頼だから」「税務調査だから」といって、無制限に情報を出してよいわけではありません。一方で、法令上の根拠がある場合、生命・身体の保護のために必要な場合、医療提供上必要な連携の場合などには、適切に提供すべき場面もあります。

大切なのは、現場の担当者がその場の感覚で判断しないことです。

カルテ開示請求は、拒む前に手続と判断根拠を確認する

患者さんからカルテ開示を求められたとき、医療機関側が不安を覚えることがあります。

「訴訟を考えているのではないか」 「医師の記載に問題があるのではないか」 「そのまま見せると誤解されるのではないか」

しかし、患者さんご本人からの開示請求を、医療機関が一方的に拒むことはできません。厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、診療記録の開示を求め得る者は原則として患者本人とされ、法定代理人、任意後見人、本人から代理権を与えられた親族等も、一定の場合には開示を求め得る者とされています。また、医療機関の管理者は開示手続を定め、申立人が開示を求め得る者であることを証明させ、担当医師等の意見を聴いたうえで、速やかに開示の可否を決定し通知することとされています。
出典:厚生労働省|診療情報の提供等に関する指針の策定について

一方で同指針では、診療情報の提供が第三者の利益を害するおそれがある場合や、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがある場合などには、全部または一部を提供しないことができるとされています。ただし、個々の事例への適用は、あくまで個別具体的に、慎重に判断する必要があります。
出典:厚生労働省|診療情報の提供等に関する指針の策定について

医療機関では、少なくとも次の項目を規程化しておくべきです。

項目管理内容
受付窓口誰が受付し、誰に報告するか
請求者確認本人確認、代理権、委任状、続柄確認
対象資料診療録、検査結果、画像、看護記録、同意書等
開示方法閲覧、写し交付、電子媒体、郵送、オンライン
手数料実費を踏まえた合理的範囲
判断体制院長、担当医、事務長、弁護士等
非開示・一部開示判断根拠、説明内容、記録保存
対応記録受付日、通知日、交付日、交付範囲

カルテ開示への対応は、患者さんとの信頼関係に直結します。単なる防御ではなく、診療内容を後から説明できる医療機関であるかどうかが、ここで問われるのです。

死亡患者の情報・遺族対応もルール化する

患者さんが亡くなった後の診療情報提供も、現場で迷いやすい領域です。

実務上は、死亡に至るまでの診療経過、死亡原因、遺族への説明、診療録開示の範囲、ご本人の生前の意思、名誉への配慮などが問題になります。診療情報の提供等に関する指針でも、遺族に対する診療情報の提供にあたっては、患者本人の生前の意思や名誉を尊重する必要があることが示されています。

特に、次のような場面では慎重な対応が求められます。

場面確認すべきこと
配偶者・子から開示請求続柄、本人確認、対象範囲
親族間で意見が分かれる誰にどこまで説明するか
生前に本人が秘密を希望本人意思、名誉、第三者利益
医療事故・苦情がある弁護士、医療安全担当、保険会社との連携
相続・保険請求に関係診断書、死亡診断書、診療録の範囲
M&A・廃業後の照会記録保管先、開示窓口、保存期間

死亡後の情報提供は、「遺族だからすべて開示する」でも、「本人ではないから一切出さない」でもありません。あらかじめ定めたルールと、判断の記録が必要になります。

電子カルテは効率化とリスク管理を同時に考える

電子カルテには、情報共有、検索性、書類作成の効率化、分院・他医療機関・行政との連携、診療の質向上といったメリットがあります。電子カルテは紙のカルテをデータとして一括して編集・管理する情報システムであり、オーダリングシステムと連動することで業務の効率化にも寄与します。

一方で電子カルテの導入は、固定費と情報管理リスクを増やす投資でもあります。

検討項目経営判断上の注意点
初期費用導入費、移行費、端末、ネットワーク、研修費
ランニングコスト月額利用料、保守料、クラウド費用、サーバー更新
操作スキル医師、看護師、受付、非常勤医師の習熟度
業務フロー受付、診察、会計、処方、検査、予約との連動
データ移行旧カルテ、紙カルテ、画像、検査結果の引継ぎ
セキュリティID、パスワード、多要素認証、ログ、端末管理
障害対応システム停止時の診療継続、紙運用、復旧手順
ベンダー依存データ抽出、契約終了時、倒産・撤退時の対応
承継・M&Aデータ移行可否、利用契約、患者情報引継ぎ

医院のIT化では、電子カルテ・オーダリングシステムを中心に、検査、薬剤管理、医事会計等の周辺システムを連動させていくのが一般的です。ただし導入時には、コスト、スタッフの操作スキル、セキュリティリスクへの対策に十分留意する必要があります。

電子カルテは、単なる便利な道具ではありません。導入後の運用、権限、監査、障害対応、委託先管理までを含めて、投資判断として捉えるべきものです。

医療情報システムの管理責任をベンダー任せにしない

クラウド型電子カルテ、予約システム、Web問診、オンライン診療、画像管理、レセコン、会計連携。医療機関の情報システムは、いまや外部事業者との関係なしには運用できません。

しかし、外部に委託しているからといって、医療機関の責任が消えるわけではありません。

厚生労働省は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第6.0版を公表し、医療機関等に対して、医療情報システムの取扱いにおいて同ガイドラインを遵守するよう求めています。同ページでは、令和7年5月のサイバーセキュリティ対策チェックリストやチェックリストマニュアルも掲載されています。
出典:厚生労働省|医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)

医療機関側で、少なくとも確認しておきたい委託先管理の項目は次のとおりです。

管理項目確認内容
契約範囲どのシステム・データ・保守作業を委託しているか
責任分界障害、漏洩、バックアップ、復旧、脆弱性対応の責任
再委託再委託の有無、承諾手続、再委託先管理
データ保管場所国内外、クラウド、データセンター、バックアップ先
アクセス権限ベンダー作業時のID、作業記録、リモート接続
ログ誰が、いつ、どの情報にアクセスしたか
障害対応連絡先、復旧時間、代替運用、診療継続手順
契約終了時データ返却、消去証明、移行支援、形式
事故報告何時間以内に誰へ報告するか
証跡チェックリスト、監査資料、認証、規程類

総務省・経済産業省も、医療情報を取り扱う情報システム・サービス提供事業者向けに安全管理ガイドラインを公表しています。医療情報の外部保存やクラウド利用を含む委託先管理では、医療機関向けの厚生労働省ガイドラインとあわせて確認しておく必要があります。
出典:経済産業省|医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン

ベンダー選定は、価格や操作性だけで決めるべきではありません。データの出口、障害時の責任、ログ、契約終了時の移行性まで確認して、はじめて経営判断としての意味を持ちます。

アクセス権限は「信頼」ではなく「必要最小限」で設計する

情報漏洩の多くは、悪意ある外部攻撃だけで起きるわけではありません。院内のルール不備、退職者IDの放置、共有ID、過剰な権限、印刷物の放置、端末の持ち出し、スタッフ間の私的な会話、SNSへの投稿。こうした日常業務の中でこそ、漏洩は起きています。

個人情報保護委員会は医療機関に対して、個人データの漏洩等の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じること、従業者に個人データを取り扱わせる場合には必要かつ適切な監督を行うことを注意喚起しています。
出典:個人情報保護委員会|医療機関における個人情報の取扱いに関する注意喚起

アクセス権限は、次のように役割ごとに設計していきます。

役割権限設計の考え方
院長・管理者全体管理、監査、承認権限。ただし日常閲覧も目的を明確化
常勤医師担当患者・診療上必要な範囲
非常勤医師勤務日・担当患者・必要機能に限定
看護師診療補助・看護記録・指示確認に必要な範囲
受付・医事予約、会計、レセプト、保険情報に必要な範囲
検査担当検査実施・結果登録に必要な範囲
事務長管理上必要な範囲。診療内容閲覧は目的を限定
外部ベンダー作業時のみ、期間限定、ログ取得、承認制
退職者・休職者即時停止、端末回収、クラウドアカウント削除

特に避けたいのが、共有IDです。誰が閲覧・変更・出力したのかを追跡できなければ、後から説明することができません。

情報漏洩は「起きない前提」ではなく「起きたときの初動」まで決める

医療機関では、次のような情報漏洩が現実に起こり得ます。

漏洩パターン
紙資料の置き忘れ待合室、受付、診察室、車内、訪問診療先
端末紛失ノートPC、タブレット、スマートフォン
USB・外部媒体持ち帰り、紛失、暗号化なし
誤送信FAX、メール、LINE、クラウド共有リンク
画面撮影電子カルテ画面をスマホで撮影し共有
内部者漏洩スタッフが知人・家族に患者情報を話す
外部攻撃ランサムウェア、VPN機器の脆弱性、不正ログイン
委託先事故ベンダー、検査会社、クラウド事業者の漏洩
廃棄不備紙カルテ、HDD、端末、複合機データの消去漏れ

患者情報の漏洩事例としては、カルテの置き忘れ、不正プログラムによる漏洩、患者情報入りUSBメモリの紛失、スタッフが患者情報を家族に話したことによる漏洩などが挙げられています。

個人情報保護委員会は、医療機関による個人データの漏洩等が、要配慮個人情報を含む場合、不正利用により財産的被害が生じるおそれがある場合、不正な目的によるおそれがある場合、本人の数が1,000人を超える場合などには、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要であるとしています。
出典:個人情報保護委員会|医療機関における個人情報の取扱いに関する注意喚起

また厚生労働省は、医療機関等がサイバー攻撃やその疑い、医療情報システム障害等を受けた場合には、インシデント発生後速やかに厚生労働省へ連絡するよう案内しています。個人情報漏洩のおそれがある場合には、個人情報保護委員会への報告も必要です。
出典:厚生労働省|医療分野のサイバーセキュリティ対策について

情報漏洩が起きたときの初動として、少なくとも次の体制を決めておきましょう。

初動項目対応内容
受付誰が事故情報を受けるか
事実確認何が、いつ、誰の情報で、どこへ漏れたか
拡大防止アカウント停止、端末隔離、共有リンク停止
報告院長、理事長、事務長、システム担当、委託先
外部連絡厚労省、個人情報保護委員会、保健所、警察等
本人対応通知対象、説明内容、問い合わせ窓口
証拠保全ログ、メール、端末、監視記録
再発防止原因分析、規程改定、研修、システム改善
会計・資金損害、復旧費用、保険、賠償、休診影響
広報必要に応じた公表、患者さんへの説明、職員説明

事故が起きてから慌てて考えるのではなく、平時のうちに決めておくこと。これが何より重要です。

サイバーセキュリティは医療法上の管理事項でもある

医療機関のサイバーセキュリティは、IT担当者だけの問題ではありません。

医療法施行規則の改正により、病院、診療所、助産所の管理者が遵守すべき事項として、医療の提供に著しい支障を及ぼすおそれがないよう、サイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じることが追加されています。
出典:厚生労働省|医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストと立入検査の実施について

これは、経営者にとって重い意味を持ちます。

電子カルテが止まれば、診療そのものが止まりかねません。予約、会計、処方、検査、画像、在宅医療、オンライン診療、レセプト請求も、いずれも影響を受けます。サイバー攻撃は、情報漏洩だけでなく、診療継続、収益、資金繰り、スタッフの負荷、そして患者さんの信頼にまで直結するのです。

最低限、次の項目は経営会議で確認しておくべきです。

項目確認内容
システム一覧電子カルテ、レセコン、予約、画像、検査、会計
外部接続VPN、リモート保守、クラウド、院外アクセス
機器台帳PC、タブレット、サーバー、ルーター、NAS
バックアップ頻度、保管場所、復旧テスト、ランサムウェア対策
ID管理退職者、共有ID、多要素認証、管理者権限
更新管理OS、ウイルス対策、VPN機器、サポート切れ
障害時運用紙運用、処方、会計、予約、患者さんへの説明
BCP診療継続、復旧順位、連絡体制
委託先連絡先、保守範囲、事故時対応、チェックリスト
教育フィッシング、USB、SNS、画面撮影、私物端末

情報管理は、現場任せにすると属人化してしまいます。院長・理事長が、経営課題として自ら管理していく必要があります。

紙・電子・印刷物が混在する時期が最も危ない

電子カルテへの移行期や分院展開時には、紙と電子が混在します。実は、この時期こそ情報管理上のリスクが高くなります。

混在場面リスク
紙カルテをスキャンスキャン漏れ、原本廃棄時期、画像品質
旧電子カルテを閲覧専用化端末故障、ID不明、契約終了、データ抽出不可
電子カルテを印刷印刷物の置き忘れ、シュレッダー漏れ
FAX紹介状誤送信、送信先確認不足
Web問診を紙に転記転記ミス、紙の保管漏れ
在宅医療で持ち出し車内紛失、訪問先置き忘れ
分院間共有権限過大、患者誤登録
端末更新旧PC・複合機・HDDのデータ消去漏れ

紙か電子か、という二択ではありません。情報の入口、保管、閲覧、利用、出力、共有、廃棄。この一連の流れを決めておくことが大切です。

税務調査・会計・保険請求と医療情報管理はつながっている

医療情報は、税務・会計とも決して無関係ではありません。

医療機関の売上には、保険請求、窓口負担、自由診療、健診、予防接種、産業医報酬、労災・自賠責、未収金、返戻・査定などが絡み合っています。これらを説明するには、レセプト資料、日計表、カルテ、領収書、同意書、契約書、入金明細の整合性が欠かせません。

たとえば税務調査で、収入計上や自由診療収入、窓口現金、未収金を確認される場面では、カルテや診療記録が補助的に問題になることがあります。もっとも、カルテには要配慮個人情報が含まれますから、その提示範囲や方法は慎重に判断すべきです。

情報管理体制が整っていないと、次のような問題が生じます。

問題経営上の影響
診療録とレセプトが合わない個別指導・返戻・査定・返還リスク
自由診療台帳がない売上計上漏れ、消費税判断、税務調査リスク
未収金の根拠が不明貸倒処理、回収管理、月次決算の不正確化
返金記録が残っていない窓口現金管理、不正疑義
同意書が見つからない自費診療、在宅医療、説明責任
旧カルテが読めない患者対応、承継、訴訟対応

医療情報の管理は、法務・医療安全だけでなく、月次決算、税務調査、資金繰り、承継準備にまで影響していきます。

承継・M&Aでは、医療情報管理が価格と信頼に影響する

医療機関の承継・M&Aでは、患者情報やカルテの管理が重要な確認項目になります。

買い手は、患者数、診療内容、施設基準、レセプト、自由診療、在宅患者、検査履歴、スタッフ体制、未収金、法令遵守状況を確認します。その際、カルテや医療情報の管理が不十分だと、患者基盤の引継ぎ、医療の継続、価格評価、表明保証、クロージング後のPMIに影響が及びます。

ただし、M&Aの検討段階で患者情報を無制限に開示してよいわけではありません。秘密保持契約、開示範囲、匿名化・マスキング、閲覧場所、閲覧者、ログ、コピーの可否、資料の回収・廃棄を、あらかじめ決めておく必要があります。

M&A段階情報管理上の注意点
初期相談患者個人が特定される情報は原則出さない
ノンネーム診療科、所在地概要、売上規模などに限定
NDA後必要資料の範囲を段階的に開示
基本合意後DD目的に限定し、閲覧権限を管理
DD実施カルテ管理、施設基準、レセプト、未収金を確認
契約表明保証、個人情報、データ引継ぎ、補償を整理
クロージング開設主体変更、患者さんへの説明、システム移行
PMI診療継続、スタッフ教育、アクセス権限再設計

診療所の第三者承継では、カルテの引継ぎも含めて無形の財産価値が問題となり得ます。とはいえ医療情報は、個人情報保護法上の取扱いを踏まえて、慎重に扱う必要があります。

医療情報管理が弱い医療機関は、承継の場面で説明に苦労しがちです。逆に、情報の所在、保存、アクセス権限、開示履歴、委託先契約、事故対応履歴が整理されている医療機関は、買い手・後継者・金融機関に対して、ずっと説明しやすくなります。

医療情報管理台帳を作る

情報管理を属人的なものにしないためには、台帳化が有効です。

少なくとも、次の情報を一覧にまとめておきましょう。

台帳項目記載内容
情報の種類診療録、画像、検査、問診、予約、会計、レセプト等
保管場所電子カルテ、クラウド、紙倉庫、外部媒体、旧システム
管理責任者院長、事務長、医事課長、システム担当
利用目的診療、保険請求、会計、連携、研究、広報等
アクセス権限閲覧・入力・修正・出力・削除できる者
委託先ベンダー、クラウド、検査会社、保守会社
保存期間法定期間、実務保存期間、廃棄予定
バックアップ頻度、保管先、復旧確認日
開示対象カルテ開示時に対象となる資料
持ち出し可否院外利用、在宅医療、私物端末、USB
廃棄方法紙、端末、HDD、クラウドデータの消去方法
事故時対応連絡先、報告先、初動フロー

この台帳は、情報システム担当者だけのものではありません。院長・理事長・事務長が確認すべき、れっきとした経営資料です。

月次・四半期で確認すべき情報管理KPI

情報管理は、年に1回の研修だけでは機能しません。月次・四半期の管理項目へと落とし込む必要があります。

頻度確認項目
月次退職者ID停止、アクセス権限変更、端末持ち出し、システム障害
月次レセコン・電子カルテ・予約システムのバックアップ状況
月次返戻・査定、未収金、自由診療台帳との整合
四半期アクセスログのサンプル確認
四半期委託先の連絡先・保守範囲・障害時対応の確認
四半期紙資料・同意書・スキャン漏れの確認
半期情報セキュリティ研修、ヒヤリハット共有
年次個人情報保護規程、開示規程、委託契約の見直し
年次サイバーセキュリティチェックリスト、BCP、復旧訓練

すべてを高度なシステムで管理する必要はありません。小規模なクリニックであれば、Excelやチェックリストから始めても十分です。大切なのは、確認する責任者と頻度を決めておくことです。

段階的に整える優先順位

医療情報管理を、一度に完璧へ仕上げることは現実的ではありません。次の順番で進めると、実務に落とし込みやすくなります。

第1段階:情報の所在を把握する

まずは、どこに患者さんの情報があるのかを棚卸しします。

電子カルテ、紙カルテ、検査会社ポータル、予約システム、Web問診、レセコン、会計ソフト、メール、LINE、共有フォルダ、USB、旧PC、NAS、複合機、クラウドストレージ。これらを一つひとつ洗い出していきます。

第2段階:責任者と権限を決める

情報ごとに、管理責任者とアクセス権限を決めます。

退職者ID、共有ID、管理者権限、非常勤医師の権限、ベンダーのリモート保守権限は、特に優先して確認します。

第3段階:開示・第三者提供・持ち出しルールを整える

カルテ開示、家族への説明、行政照会、保険会社対応、警察・弁護士会照会、税務調査、訪問診療時の持ち出し、USB利用、メール添付、チャット利用のルールを決めます。

第4段階:委託先と契約を見直す

電子カルテ、レセコン、クラウド、予約、Web問診、検査会社、保守会社との契約を確認します。秘密保持、再委託、事故報告、データ返却、契約終了時の移行、バックアップ、障害対応を、改めて見直していきます。

第5段階:事故時対応とBCPを整える

ランサムウェア、システム停止、端末紛失、誤送信、情報漏洩、紙カルテ紛失、ベンダー障害。それぞれの初動フローを作ります。

「誰に連絡するか」「診療をどう継続するか」「患者さんにどう説明するか」「どの行政機関に報告するか」を決めておくことが重要です。

まとめ|医療情報管理は、患者信頼と経営判断を支える基盤である

医療情報・カルテ・個人情報保護の管理体制は、医療機関を守るための仕組みです。

それは、情報漏洩を防ぐためだけのものではありません。患者さんに説明できる診療記録を残すこと、保険請求の根拠を整えること、税務・会計資料と整合させること、スタッフが迷わず運用できるルールを作ること、そして承継・M&Aで第三者に説明できる情報基盤を整えること。こうしたすべてに関わってきます。

電子カルテを入れるだけでは、情報管理は完成しません。 個人情報保護規程を作るだけでも足りません。 ベンダーに任せるだけでも不十分です。

院長・理事長が、医療情報を経営資産として捉え、情報の所在、権限、保存、開示、委託、事故対応、承継時の引継ぎまでを管理していくこと。それが求められます。

医療情報・カルテ・個人情報保護の管理体制を見直したいとお考えの場合は、電子カルテ導入や委託先管理、アクセス権限、カルテ開示、情報漏洩対応、承継・M&Aに向けた資料整備を、一体で整理することが重要です。犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計・税務・内部統制・資金繰り・承継の視点を踏まえ、医療機関が後から説明できる情報管理体制づくりを支援しています。自院の情報管理に不安をお持ちの場合は、お問い合わせページからご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点重要な理由まず確認すべきこと
医療情報の位置づけ診療・請求・税務・承継に関わる経営資産であるカルテ以外の患者情報も棚卸しする
診療録保存法定保存期間だけでなく説明責任も考える必要がある保存期間、閲覧方法、旧システムの扱いを確認する
要配慮個人情報医療情報は特に慎重な取扱いが必要取得、利用、第三者提供のルールを確認する
利用目的院内掲示や公表が実態と合っていないと問題になるWeb問診、オンライン診療、外部連携時に見直す
カルテ開示患者本人からの開示請求を安易に拒めない受付、本人確認、判断、交付、記録の手順を作る
第三者提供家族、保険会社、行政、警察等への対応で迷いやすい本人同意、法的根拠、提供範囲を確認する
電子カルテ効率化だけでなく固定費・セキュリティリスクもある費用、権限、バックアップ、障害時対応を確認する
アクセス権限過剰権限や共有IDは事故時に説明できない職種別権限、退職者ID、ベンダーIDを確認する
委託先管理クラウド・保守会社任せでは責任が曖昧になる契約、再委託、事故報告、データ返却を確認する
情報漏洩対応初動を誤ると患者信頼と行政対応に影響する報告先、本人通知、証拠保全、再発防止を決める
サイバー対策医療提供の継続に直結する経営課題であるチェックリスト、BCP、復旧訓練を実施する
紙・電子混在移行期は情報の所在が不明になりやすいスキャン、旧カルテ、印刷物、廃棄方法を確認する
税務・会計との接続診療情報は収入・未収金・請求根拠にもなるレセプト、日計表、未収金、カルテの整合を確認する
承継・M&A情報管理の弱さは価格・条件・PMIに影響するカルテ保管、開示範囲、NDA、データ引継ぎを整理する

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