3年後・5年後の医療機関を数字で描く|中期計画で資金・人材・投資・承継を見通す

日々の医療機関経営では、目の前の患者さんへの対応に始まり、スタッフ管理、診療報酬、設備更新、税務申告、資金繰りと、やるべきことが途切れません。そうしたなかで、3年後・5年後を落ち着いて考える時間を確保するのは、なかなか難しいものです。

しかし、医療機関の経営は「今日の診療」だけで成り立っているわけではありません。たとえば、次のような問いが頭をよぎることはないでしょうか。

  • 3年後に患者数は維持できているのか
  • 5年後に設備更新の資金は残っているのか
  • 看護師・医療事務・コメディカルの採用は間に合うのか
  • 院長の診療時間に依存しすぎていないか
  • 医療法人化、分院、在宅医療、承継、M&Aといった選択肢を残せているのか

こうした問いに、感覚だけで答えることは、年々難しくなってきています。

医療機関の中期計画は、立派な冊子を作るためのものではありません。3年後・5年後に、自院がどのような診療機能を持ち、どの患者層に選ばれ、どの人員体制で、どの設備を使い、どの程度の資金余力を残しているのか。それを数字で説明できるようにするための、いわば足元と将来をつなぐ資料です。

前回の記事「医療機関に事業計画が必要な理由」では、事業計画は融資のためだけのものではなく、経営判断の共通言語であると整理しました。今回は、その次の段階として、3年後・5年後の医療機関をどのように数字で描くべきかを、順を追ってお話しします。

目次

中期計画は「将来の売上予想」ではない

中期計画というと、将来の売上と利益を表にまとめるもの、とイメージされることが多いように思います。

もちろん、売上計画や利益計画は欠かせません。ただ、それだけでは医療機関の中期計画として十分とはいえません。

医療機関の3年計画・5年計画では、少なくとも次の要素を、切り離さずに一体で見る必要があります。

  • 売上、患者数、診療単価、診療圏
  • 診療科・機能別の採算
  • 人員体制と人件費
  • 設備投資
  • 借入返済と資金繰り
  • 医療法人運営
  • 税務負担
  • 承継可能性

売上だけを伸ばす計画を立てても、スタッフが足りなければ実行できません。逆に人を採用しても、患者数や診療単価が伸びなければ、人件費の負担が重くのしかかります。設備投資をしても、稼働率が低ければ資金繰りを圧迫します。医療法人化したとしても、法人運営や役員報酬、社会保険、承継の設計が伴わなければ、期待したほどの効果が出ないこともあります。

経営計画というものは本来、経営理念や経営ビジョン、外部環境・内部環境の分析、経営目標、経営方針、目標利益計画、主要施策、行動計画をつなげて作るものです。数値を並べるだけにとどめず、その目標をどう実現するのかという施策と行動計画にまで落とし込むことが大切だと考えています。

これを医療機関に置き換えると、中期計画とは、次のような問いに答える資料だといえます。

  • 「3年後、自院はどの診療領域を中心に伸ばすのか」
  • 「5年後、院長が今と同じ稼働を続けられなくなっても、診療体制は維持できるのか」
  • 「設備更新と借入返済を同時にこなせる資金繰りになっているのか」
  • 「将来、後継者や金融機関、買い手候補に説明できる経営状態になっているのか」

つまり中期計画は、将来を楽観的に描くための資料ではありません。将来の選択肢を失わないために、現在から何を整えるべきかを明らかにするための資料なのです。

なぜ3年後・5年後を描く必要があるのか

医療機関の経営判断は、短期では完結しない

医療機関の重要な意思決定は、その多くが1年では回収できません。たとえば、次のようなものです。

  • 医療機器の導入
  • 内装の更新
  • 電子カルテや予約システムの入替え
  • 看護師や事務長候補の採用
  • 在宅医療の立ち上げ
  • 分院や移転
  • 医療法人化
  • 後継者への承継準備

これらを、実行した年度だけで判断すると、判断を誤りやすくなります。

たとえば看護師を1名採用した場合、採用初年度は人件費が先行し、すぐには利益が増えないこともあります。しかし、診療枠の拡大、検査対応、患者満足度の改善、院長の負担軽減、在宅医療への展開につながるのであれば、2年目・3年目になって効果が表れてくることがあります。

一方、医療機器の導入は、初年度に売上が伸びても、借入返済、保守費用、減価償却、固定資産税、そして更新費用まで含めると、長期的には資金負担が重くなる場合があります。

診療所経営では、外来患者数、初診率、診療圏、人件費率、設備投資、借入金、在宅医療などを、それぞれ単独で見るのではなく、互いに関連づけて捉える必要があります。診療所の平均患者数、収支、損益分岐点、人件費、設備投資、在宅医療の採算などは、いずれも経営判断の前提となる代表的な数値です。

だからこそ、単年度の決算だけでなく、3年後・5年後の見通しが必要になるのです。

外部環境の変化が、医療機関経営に直接影響する

医療機関の経営は、一般の事業以上に外部環境の影響を受けます。

  • 診療報酬改定
  • 人口動態と高齢化
  • 医療人材の不足
  • 物価上昇
  • 医療DX
  • 外来・在宅・介護の連携
  • 地域医療構想
  • 医師の働き方改革

いずれも、院長の努力だけで変えられるものではありません。しかし、事業計画に織り込むことはできます。

厚生労働省は、新たな地域医療構想について、2040年に向けて、外来・在宅、介護との連携、人材確保などを含めた医療提供体制を策定・推進していく方向性を示しています。これからの医療機関経営では、外来だけでなく、在宅医療や介護連携、医療機関機能、地域内での役割分担までを中期計画に織り込んでおく必要があると考えています。
出典:厚生労働省|新たな地域医療構想等に関する検討会

また、医師の働き方改革については、2024年4月から新しい制度が施行され、厚生労働省から、医療機関が行うべき手続きや勤務環境の改善に関する情報が公表されています。これは勤務医を雇用する医療機関だけの問題ではありません。院長自身の過重労働に依存している診療所にとっても、将来の診療体制を考えるうえで避けて通れない論点です。
出典:厚生労働省|医師の働き方改革

3年後・5年後を描くということは、こうした外部環境の変化を、自院の経営判断に翻訳していく作業でもあるのです。

金融機関・行政・後継者・買い手に説明できる状態を作る

中期計画は、内部管理のためだけのものではありません。

  • 金融機関に設備投資や運転資金を説明するとき
  • 医療法人の理事会・社員総会で将来方針を共有するとき
  • 後継者に引き継ぐ経営状態を示すとき
  • M&Aや第三者承継を検討する際に、将来の収益力とリスクを説明するとき

こうした場面で、中期計画は重要な役割を果たします。

金融機関は、過去の決算書だけでなく、今後の返済原資、資金使途、投資効果、月次管理の状況までを見ています。後継者も、過去の利益だけでなく、設備更新、借入返済、人員体制、患者基盤に目を向けます。買い手候補であれば、譲渡価格だけでなく、将来キャッシュ・フロー、スタッフの定着、施設基準、税務・労務リスクを確認するでしょう。

中期計画を持たない医療機関は、第三者に説明する際、「過去の数字」は見せられても、「将来の前提」を説明しにくくなります。

3年計画と5年計画は、役割が違う

3年計画と5年計画は、同じものを期間だけ延ばしたものではありません。それぞれに担う役割があります。

3年計画は、実行計画に近い

3年計画は、比較的具体的に描ける期間です。

  • 1年目に何を整えるか
  • 2年目に何を実行するか
  • 3年目にどの数字へ到達するか

この程度の期間であれば、患者数、人員、設備投資、借入返済、月次利益、資金残高について、ある程度の前提を置いて計画に落とし込めます。

経営計画の期間については、1年では短期的すぎ、3年を超えると環境変化によって計画と現実が大きく乖離しやすくなります。そのため、3年を一つの妥当な期間として捉え、毎年ローリングしながら見直していく考え方が有効だと考えています。

医療機関でいえば、3年計画は次のような判断に向いています。

  • 月次決算体制の整備
  • 資金繰り表の運用
  • 採用計画
  • 人件費率の管理
  • 既存設備の更新
  • 公式サイトや広報の見直し
  • 在宅医療の小規模な導入
  • 自由診療メニューの整理
  • 医療法人化の検討
  • 金融機関への説明資料の整備

3年計画は、院長・理事長が「実際に動かす計画」です。実行できない理想を掲げるのではなく、現在の人員、資金、診療時間、地域需要を前提に、どこまで進めるかを決めていくことが大切です。

5年計画は、選択肢を残すための設計図

5年計画になると、3年計画よりも不確実性が高くなります。診療報酬、採用環境、物価、地域人口、競合、院長の年齢、スタッフ構成といった要素が、いずれも変わっていくからです。

そのため、5年計画では、細かい月次数値を追うよりも、将来の選択肢を設計しておくことが重要になります。

  • 外来中心で続けるのか
  • 在宅医療を柱に加えるのか
  • 分院を持つのか
  • 移転するのか
  • 医療法人化するのか
  • 後継者を育成するのか
  • 第三者承継やM&Aを視野に入れるのか
  • 院長依存を下げるのか

5年計画は、「将来こうなる」と断定する資料ではありません。将来あり得る選択肢を並べて比較し、いまから準備すべきことを明らかにする資料です。

特に、50代後半以降の院長・理事長であれば、5年計画には承継可能性を入れておくべきだと考えます。承継を決めていなくても、承継できる状態に整えておくことは可能だからです。

中期計画で最初に見るべき数字

3年後・5年後を描く前に、まずは現在地を確認する必要があります。現在地が曖昧なまま将来計画を作っても、それは希望的観測の域を出ません。

売上は「患者数×診療単価×来院頻度」に分解する

医療機関の売上計画を、単に「前年比5%増」と置くのは避けたいところです。

売上は、少なくとも次の要素に分解して考えます。

  • 患者数(初診・再診の内訳)
  • 診療単価
  • 来院頻度
  • 保険診療と自由診療の割合
  • 検査・処置・医学管理料等の構成
  • 在宅医療件数
  • 健診・予防接種・産業医等の周辺収入

たとえば同じ「売上を増やす計画」でも、患者数を増やすのか、診療単価を上げるのか、再診継続を改善するのか、在宅医療を加えるのかによって、打つべき施策はまったく変わってきます。

厚生労働省の社会医療診療行為別統計は、診療行為の内容、調剤行為、薬剤の使用状況などを明らかにし、医療保険行政に必要な基礎資料を得ることを目的とした統計です。診療行為別の点数や構成を確認するための公的な手がかりになります。
出典:厚生労働省|令和6年社会医療診療行為別統計の概況

ただし、統計はあくまで全体の傾向を示すものです。自院の計画では、診療科、地域、患者層、診療時間、院長の専門性、スタッフ体制を踏まえて、自院の実績から組み立てていく必要があります。

利益は「固定費」と「変動費」に分ける

中期計画では、売上以上に、利益構造の確認が重要になります。

医療機関の費用には、売上に連動して動きやすい費用と、売上が減っても下がりにくい費用があります。

材料費、検査委託費、薬剤費などは、診療内容に応じて変動します。一方、家賃、人件費、リース料、保守料、借入返済、減価償却費は、売上が落ちても簡単には下がりません。

損益分岐点を見ないまま計画を作ると、売上が少し下がっただけで利益が大きく減る構造を、見落としてしまいます。

特に注意したいのは、固定費が増える施策です。

  • 常勤スタッフの採用
  • 広い物件への移転
  • 高額医療機器の導入
  • 分院開設
  • 在宅医療の24時間体制
  • 事務長や管理職の採用

これらは将来の成長に必要な投資である一方、固定費を押し上げます。中期計画では、固定費が増えた後の採算ラインを、必ず確認しておく必要があります。

資金繰りは「利益」と別に作る

医療機関の中期計画で最も見落とされやすいのが、資金繰りです。

損益計画上は黒字でも、借入返済、納税、設備投資、賞与支払、社会保険料、未収金の増加などによって、資金が不足することがあります。

中期計画では、少なくとも次の流れを分けて確認します。

  • 営業利益
  • 減価償却費
  • 税金支払
  • 借入返済
  • 設備投資支出
  • リース料
  • 賞与支払
  • 運転資金の増減
  • 期末現預金残高

中小企業の資金調達においても、資金不足の原因を把握し、貸借対照表や損益計算書から資金の動きを読むことが基本とされます。医療機関でも、利益計画と資金計画を分けて作ることが欠かせません。

中期計画で重要なのは、利益が出るかどうかだけではありません。

  • 借入返済後に資金が残るか
  • 設備更新資金を確保できるか
  • 賞与・納税の時期に資金が不足しないか
  • 売上が未達の場合に何か月耐えられるか
  • 追加借入に依存しすぎていないか

ここを確認することで、成長投資が「無理な拡大」なのか、それとも「説明可能な投資」なのかが見えてきます。

3年後・5年後の売上計画をどう作るか

売上計画は、医療機関の中期計画の入口です。ただし、希望ではなく、前提条件の積み上げで作るものだと考えてください。

現在の売上を分解する

まずは、現在の売上を分解します。

  • 保険診療収入
  • 自由診療収入
  • 健診・予防接種
  • 産業医・学校医
  • 在宅医療
  • 介護関連収入
  • 物販・その他収入

そのうえで、保険診療収入をさらに分解します。

  • 外来患者数
  • 診療単価
  • 初診率・再診率
  • 検査・処置の構成
  • 医学管理料の算定状況
  • 診療日数・診療時間

売上総額だけを眺めていても、将来計画は作れません。たとえば同じ「売上が増えている」状態でも、患者数が増えているのか、単価が上がっているのか、診療日数が増えているのかによって、将来の持続性はまったく異なります。

3年後の売上は「施策別」に置く

3年後の売上計画は、施策ごとに組み立てます。たとえば、次のような考え方です。

  • 初診患者を月20人増やす
  • 再診継続率を改善する
  • 生活習慣病管理を強化する
  • 健診後のフォロー外来を設計する
  • 在宅医療を月20件から月50件へ増やす
  • 自由診療を月100万円から月150万円へ伸ばす
  • 診療日数を増やさず、予約枠の運用を改善する

このとき、売上だけでなく、必要な人員と費用も同時に見ます。

売上増の施策には、ほぼ必ず現場負荷が伴うからです。スタッフの追加採用、教育、システム導入、診療時間の調整、広報、説明資料、院内オペレーション。こうした手当てが、どこかで必要になります。

5年後の売上は「構成比」で見る

5年後については、細かい月次売上よりも、売上構成の変化に目を向けるべきです。

  • 外来依存度はどの程度か
  • 在宅医療は売上の何割を占めるのか
  • 自由診療はどこまで増やすのか
  • 健診・予防・産業医収入は安定収益になるのか
  • 分院がある場合、本院と分院の売上構成はどうなるのか
  • 院長以外の医師による売上割合はどの程度か

5年後の売上計画で大切なのは、金額そのものよりも、「自院が何で稼いでいる医療機関になっているか」です。

  • 外来だけに依存するのか
  • 外来と在宅の二本柱にするのか
  • 専門性の高い診療で広域から集患するのか
  • 地域密着のかかりつけ機能を強めるのか
  • 自由診療を収益の一部として組み込むのか

この構成が定まらないと、人員計画も設備計画も資金計画も作れません。

人員計画は、売上計画と同時に作る

医療機関の中期計画では、売上計画と人員計画を別々に作ると、つまずきやすくなります。

売上を伸ばすには、人が必要です。人を採用すれば、固定費が増えます。固定費が増えれば、必要な売上も増えます。

この循環を見ないまま採用してしまうと、忙しさは改善しても利益が残らない、あるいは人件費を恐れて採用を控え、院長と既存スタッフが疲弊する——そのどちらかに陥りがちです。

職種別に必要人数を考える

人員計画では、「スタッフを増やす」とひとくくりにせず、職種別に整理します。

  • 医師
  • 看護師
  • 医療事務・受付
  • 臨床検査技師・放射線技師
  • 歯科衛生士
  • 訪問診療同行スタッフ
  • 管理部門・事務長候補

それぞれの職種について、次の点を確認します。

  • 現在の人数と、常勤・非常勤の内訳
  • 年齢構成と退職リスク
  • 採用難易度と教育期間
  • 売上への直接貢献、業務効率への貢献
  • 患者満足への影響、院長負担の軽減効果

スタッフの採用にあたっては、採用計画、採用基準、面接手順、就業規則、院内ルール、育成・定着の仕組みを、あらかじめ整えておくことが重要です。医療機関では、採用後のミスマッチや離職が、経営計画の実行を大きく妨げる要因になりがちだからです。

人件費率だけで判断しない

人件費率は重要な指標です。しかし、人件費率だけで採用の可否を決めてしまうと、本来必要な投資まで止めてしまうことがあります。

人件費率に加えて、次の指標も併せて見ておきたいところです。

  • 職種別の生産性、医師1人当たり患者数
  • 診療枠の稼働率、予約待ち日数
  • 患者満足度、離職率、残業時間
  • 院長の診療外業務時間
  • 採用後の売上増加余地、採用しない場合の機会損失

たとえば、看護師を採用して人件費率が一時的に上がったとしても、診療枠の拡大、検査対応、在宅医療の導入、患者さんへの説明の充実につながるのであれば、中期的には必要な投資といえるかもしれません。

反対に、売上計画のない採用は、固定費だけを増やしてしまう可能性があります。

人員計画とは、「人件費を下げる計画」ではなく、「必要な人材を、資金繰りに耐えられる範囲で確保する計画」なのです。

設備投資は、5年計画で必ず見える化する

医療機関では、設備投資が避けられません。医療機器、電子カルテ、予約システム、内装、空調、検査機器、車両、レントゲン、CT・MRI、歯科ユニット、リース物件——挙げればきりがありません。

これらの投資は、単年度の損益だけでは判断できないものです。

更新投資と成長投資を分ける

設備投資には、大きく分けて2種類あります。

一つは、現状を維持するための更新投資です。老朽化した医療機器の更新、電子カルテの入替え、内装・空調の修繕、法令・安全性への対応などが当たります。

もう一つは、成長するための投資です。新たな検査機器、在宅医療用の車両、診療スペースの拡張、分院の内装、自由診療機器、オンライン診療やWeb問診のシステムなどです。

更新投資を怠れば、診療の継続そのものに支障が出ます。一方、成長投資を誤れば、資金繰りを圧迫します。中期計画では、この2つを分けて管理することが大切です。

投資回収だけでなく、借入返済後の資金を見る

設備投資では、投資回収期間を見ることが基本です。ただ、医療機関ではそれだけでは足りません。

借入で設備投資をする場合、損益計算書上の減価償却費と、実際の借入返済額は一致しません。そのため、損益上は利益が出ていても、借入返済によって資金が減っていくことがあります。

そこで中期計画では、次の順番で確認します。

  • 投資額はいくらか
  • 自己資金と借入の割合をどうするか
  • 導入後の売上増加見込みはあるか
  • 追加費用は発生するか
  • 借入返済は何年続くか
  • 減価償却と税金への影響はどうなるか
  • 返済後も資金残高は安全か
  • 投資効果が出ない場合の修正策はあるか

病院経営においても、CT・MRIなどの高額医療機器、病院建設単価、借入金、設備更新は、経営に大きな影響を与える論点として扱われます。診療所でも、規模こそ異なりますが、投資額、稼働率、返済負担、更新時期を中期計画に入れておくことが重要です。

借入返済は、売上ではなくキャッシュ・フローで見る

医療機関の中期計画では、借入返済能力を必ず確認します。

売上が大きくても、返済原資がなければ借入は重くのしかかります。利益が出ていても、納税や設備投資で資金が減れば、返済余力は小さくなります。

借入一覧を作る

まずは、すべての借入を一覧化します。

  • 借入先
  • 当初借入額・現在残高
  • 金利、固定・変動の別
  • 返済期間・月次返済額・最終返済日
  • 担保・保証
  • 資金使途
  • 繰上返済の可否

この一覧がないままでは、3年後・5年後の資金繰りは作れません。

返済原資を確認する

次に、返済原資を確認します。

  • 税引後利益
  • 減価償却費
  • 役員報酬調整後の法人利益
  • 設備投資後の余剰資金
  • 運転資金の増減

借入返済は、損益計算書上の費用ではありません。だからこそ、損益計画とは別に、資金計画のなかで確認する必要があります。

中期計画では、次のような問いを置いてみてください。

  • 3年後、借入残高はどこまで減っているか
  • 5年後、追加借入の余力はあるか
  • 設備更新が重なる時期に、返済負担が集中していないか
  • 院長退職金や承継資金を考える余地はあるか
  • 売上が未達の場合でも、返済を継続できるか

金融機関への対応を考えるうえでも、将来の返済原資を示せる計画が必要になります。

医療法人化・法人運営を中期計画に入れる

個人開業医の場合、3年後・5年後の計画には、医療法人化を検討するかどうかも含めておくべきです。

ただし、医療法人化は、節税だけで判断するものではありません。

  • 役員報酬、社会保険
  • 法人税、所得税
  • 法人運営手続、事業報告
  • 社員・理事・監事
  • 役員退職金
  • 承継、持分
  • 資金の自由度

これらを総合して判断する必要があります。

医療法人では、事業報告書等、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監事監査報告書など、法人として作成・届出・閲覧の対象となる資料があり、法人運営における説明責任が重みを増します。
出典:厚生労働省|医療法人における事業報告書等の様式について

3年後に医療法人化を検討するなら、現在から次のような準備が必要です。

  • 個人事業の収益安定
  • 役員報酬シミュレーション
  • 社会保険負担の確認
  • 設備・借入の承継整理
  • 賃貸借契約の確認
  • 家族・後継者の関与方針
  • 法人設立認可のスケジュール
  • 法人化後の資金繰り

5年後に承継を考えるなら、法人化が有利か不利かも含めて、早めに整理しておくことをおすすめします。

承継・M&Aを5年計画から外してはいけない

まだ引退を考えていない院長であっても、5年計画には承継可能性を入れておくべきだと考えます。

承継は、決断してから準備するものではありません。準備しておくことで、選択肢を残すものです。

承継できる医療機関には、説明できる数字がある

後継者や買い手候補が見るのは、過去の売上だけではありません。

  • 月次試算表は整っているか
  • 患者数の推移は見えるか
  • 診療単価は安定しているか
  • スタッフは定着しているか
  • 設備更新の予定は明確か
  • 借入返済の見通しはあるか
  • 税務・労務・法人手続に未整備がないか
  • 施設基準やレセプト管理に問題はないか

医業承継では、過去3期分の財務データ、損益、財政状態、資金繰り、診療圏、施設基準、後継者の類型などを整理し、承継方法を検討していく流れが重要になります。

5年計画を作る段階で、承継やM&Aを「まだ先の話」として外してしまうと、いざというときに必要な資料が整わないまま、時間だけが過ぎていきます。

院長依存度を数字で見る

承継可能性を考えるうえで欠かせないのが、院長依存度です。

  • 院長が診療しなければ売上が立たない
  • 院長しか患者さんへの説明ができない
  • 院長しか採用判断ができない
  • 院長しか金融機関対応ができない
  • 院長しか会計・税務の内容を把握していない

こうした状態では、後継者や買い手が引き継ぎにくくなります。

5年計画では、院長依存度を下げるために、次の数字を確認します。

  • 院長以外の医師による売上割合
  • スタッフの定着率
  • 事務長・管理者の有無
  • マニュアル化された業務の割合
  • 月次資料の整備状況
  • 患者さんへの説明資料の有無
  • 採用・労務ルールの整備状況

承継は、税務だけの問題ではありません。組織と数字の引継ぎでもあるのです。

中期計画は「強気」「標準」「慎重」の3パターンで作る

3年後・5年後の計画は、1本だけでは十分とはいえません。

医療機関の経営には、どうしても不確実性がつきまといます。診療報酬改定、採用難、患者数の減少、物価上昇、競合、スタッフの退職、院長の健康状態——計画どおりに進まない要素が、いくつもあります。

そのため、中期計画では、少なくとも3つのシナリオを用意しておくと有効です。

標準シナリオ

標準シナリオは、最も現実的な前提です。

現在の患者数や単価をもとに、実行可能な施策を織り込みます。大幅な売上増は期待せず、現状の強みを活かしながら、少しずつ改善していく計画です。

強気シナリオ

強気シナリオは、成長投資が想定どおりに機能した場合の姿です。

  • 在宅医療が伸びる
  • 自由診療が拡大する
  • 分院が軌道に乗る
  • 採用が順調に進む
  • 広報施策が機能する

ただし、強気シナリオは、金融機関に見せるための楽観計画ではありません。投資判断の上限を確認するためのシナリオです。

慎重シナリオ

慎重シナリオは、売上未達や費用増を想定した計画です。

  • 患者数が伸びない
  • 採用が遅れる
  • 人件費が上がる
  • 材料費が増える
  • 設備投資の効果が遅れる
  • 借入返済負担が重い

慎重シナリオで資金繰りが大きく崩れるようであれば、標準シナリオの投資計画にも注意が必要だ、というサインになります。

中期計画では、うまくいく前提だけでなく、うまくいかなかった場合にどこで止まるか、どの費用を抑えるか、どの投資を延期するかまで、あらかじめ決めておくことが大切です。

中期計画を作る手順

第1段階:現在の数字を整える

まずは、現在の数字を整えます。

  • 直近3期分の決算書
  • 直近12か月の月次試算表
  • 患者数、診療単価、初診率、再診率、診療日数
  • 人件費、材料費、固定費
  • 現預金残高
  • 借入一覧、リース一覧
  • 固定資産台帳、設備更新予定
  • スタッフ一覧、未収金一覧

ここで数字が揃わない場合は、中期計画以前に、まず月次決算と資料管理を整えるところから始める必要があります。

第2段階:3年後の経営目標を決める

次に、3年後の目標を決めます。

  • 売上高、営業利益
  • 現預金残高、借入残高
  • 人件費率
  • 患者数、診療単価
  • 在宅件数、自由診療売上
  • スタッフ数、設備投資額

ただし、目標は数値だけでは十分ではありません。

  • どの診療機能を強化するのか
  • どの患者層に選ばれるのか
  • どのスタッフ体制にするのか
  • どの業務を院長から移すのか

ここまで決めて、はじめて3年後の姿が見えてきます。

第3段階:5年後の選択肢を整理する

5年後については、より大きな選択肢を整理します。

  • 外来中心を継続する
  • 在宅医療を柱にする
  • 分院を作る、移転する
  • 医療法人化する
  • 後継者を育成する
  • 第三者承継を検討する
  • M&Aの買い手になる
  • 診療科・業態を絞る

5年後の計画では、「何をするか」だけでなく、「何をしないか」も重要です。

  • 無理に分院をしない
  • 高額設備投資を先送りする
  • 外来患者数を追いすぎない
  • 自由診療を広げすぎない
  • 院長依存のまま拡大しない

やらないことを決めることもまた、中期計画の重要な役割です。

第4段階:損益計画と資金計画を作る

続いて、3年分または5年分の損益計画と資金計画を作ります。

損益計画では、売上、変動費、固定費、利益を見ます。資金計画では、税金、借入返済、設備投資、資金残高を見ます。

この2つを分けて作ることで、「黒字なのに資金が減る」という状態を、早めに発見できるようになります。

第5段階:主要施策と行動計画へ落とす

最後に、主要施策と行動計画へ落とし込みます。

たとえば、3年後に在宅医療を伸ばすのであれば、次のような行動計画が必要になります。

  • 対象患者層の整理
  • 訪問診療の同意書・説明資料の整備
  • 診療報酬・施設基準の確認
  • 看護師・同行スタッフの体制確認
  • 車両・機器・ICTの準備
  • 連携先の整理
  • 月次採算の確認
  • 24時間対応の可否判断

在宅医療では、往診と訪問診療の違い、在宅患者訪問診療料、同意書、在宅療養計画、24時間対応の有無など、制度と運用の両面で確認すべき点があります。

採用、設備投資、分院、法人化、承継についても、同じように、それぞれの行動計画が必要です。

中期計画でよくある失敗

売上だけを伸ばす計画にしてしまう

売上計画だけを作ると、実行方法が見えてきません。

「3年後に売上1.2倍」と書いても、患者数を増やすのか、単価を上げるのか、診療時間を増やすのか、自由診療を伸ばすのか、在宅医療を加えるのか——その道筋が分からなければ、現場は動けません。

数値計画だけで作られた経営計画は、何をどうすれば達成できるのかが分からず、いわゆる「絵に描いた餅」になりがちです。

人員計画を後回しにする

医療機関では、人員計画を後回しにすると、計画そのものが実行できなくなります。

患者数を増やすには、受付、看護師、医師、検査、会計、予約管理が必要です。在宅医療を始めるには、同行体制、連携体制、電話対応、書類管理が必要です。分院を作るには、管理者、スタッフ、法人運営、教育体制が必要です。

人員計画のない売上計画は、現場負荷を無視した計画になってしまいます。

設備投資の時期が重なる

医療機関では、設備更新が同じ時期に重なることがあります。

  • 電子カルテ更新
  • 内装更新
  • 医療機器更新
  • 車両更新
  • リース満了

これらが同じ時期に集中すると、資金繰りに大きな影響が出ます。5年計画では、設備更新の時期を一覧化し、投資が一時に集中しないよう調整しておく必要があります。

借入返済を軽く見る

「利益が出ているから返済できる」という見方は、危険をはらんでいます。

借入返済は、税引後の資金から行うものです。設備投資や納税、賞与支払が重なれば、返済余力はみるみる小さくなります。

中期計画では、返済後の現預金残高を必ず確認しておくべきです。

承継を先送りする

承継は、決めてから準備していては、間に合わない場合があります。

  • 後継者候補がいるか
  • 非医師の相続人との調整が必要か
  • 医療法人の持分があるか
  • 役員退職金の支払余力があるか
  • 借入の経営者保証をどうするか
  • スタッフが承継後も残るか

これらは、数年単位で準備しておくべき論点です。

3年後・5年後を数字で描くための実務チェック

中期計画を作るときは、次の問いを順番に確認していくと、頭の中が整理しやすくなります。

3年後について確認する問い

  • 現在の売上を、患者数・単価・診療日数に分解できているか
  • 初診率、再診率、来院頻度を把握しているか
  • 人件費率と職種別人員を把握しているか
  • 3年以内に更新すべき設備はあるか
  • 借入返済額は毎月いくらか
  • 月次資金繰り表はあるか
  • 採用計画は売上計画とつながっているか
  • 主要施策は3つ程度に絞れているか
  • 毎月確認すべきKPIは決まっているか

5年後について確認する問い

  • 院長の稼働は、今と同じ前提でよいか
  • 後継者候補はいるか
  • 医療法人化を検討すべきか
  • 分院・移転・在宅医療・自由診療の方向性は決まっているか
  • 設備更新と借入返済が重ならないか
  • スタッフの年齢構成と退職リスクを把握しているか
  • 金融機関に将来計画を説明できるか
  • 承継・M&A時に必要な資料は整っているか
  • 将来、地域の中でどの医療機能を担うのか

この問いに答えられない部分こそ、今後整えていくべき経営管理の課題だといえます。

中期計画は、毎年作り直すものではなく、毎年育てるもの

3年計画・5年計画は、一度作って終わりではありません。むしろ、作った後の運用こそが大切です。

  • 毎月の試算表
  • 資金繰り表
  • 患者数、診療単価、人件費
  • 採用状況
  • 設備投資の進捗
  • 借入残高
  • 主要施策の進捗

これらを確認しながら、計画との差異を見ていきます。

計画を下回ったときには、なぜ下回ったのかを掘り下げます。

  • 患者数の問題か
  • 診療単価の問題か
  • 人員不足か
  • 広報の問題か
  • 設備投資の効果が遅れているのか
  • 外部環境の変化か
  • そもそも計画の前提が甘かったのか

中期計画は、未来を正確に当てるための資料ではありません。未来とのズレを早く見つけ、判断を修正していくための資料です。

まとめ:3年後・5年後を数字で描ける医療機関は、判断の質が変わる

医療機関の中期計画は、売上予想表ではありません。

3年後・5年後に、自院がどの診療機能を持ち、どの患者層に選ばれ、どの人員体制で、どの設備を使い、どの程度の資金余力を持ち、どのような承継可能性を残しているのか——それを説明するための資料です。

3年計画では、実行可能な施策と数字を具体化します。5年計画では、将来の選択肢を残すための方向性を整理します。

中期計画を作ることで、次のような判断がしやすくなります。

  • 採用してよいか
  • 設備投資してよいか
  • 借入を増やしてよいか
  • 在宅医療を始めてよいか
  • 分院を検討してよいか
  • 法人化すべきか
  • 承継準備を始めるべきか
  • M&Aを選択肢に入れるべきか

もちろん、医療機関経営に単純な正解はありません。診療科、地域、患者層、法人形態、院長の年齢、スタッフ体制、借入状況によって、適切な計画は変わります。

それでも、確認すべき論点は整理できます。

  • 売上を患者数と単価に分解する
  • 利益を固定費と変動費で見る
  • 資金繰りを利益と分けて作る
  • 人員計画を売上計画と同時に作る
  • 設備投資を更新投資と成長投資に分ける
  • 借入返済後の資金残高を見る
  • 法人運営と承継可能性を計画に入れる

これらを整えておくことが、医療機関を守り、次の挑戦を現実的に進めていくための基盤になります。

3年計画・5年計画を整えたい医療機関の方へ

3年後・5年後の医療機関を数字で描くには、単に売上予測を作るだけでは足りません。

月次決算、資金繰り、借入返済、人件費、設備投資、医療法人運営、税務、承継可能性——これらを一体で整理していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の経営者の方が、自院の状態を数字で説明し、将来の投資・採用・法人化・承継について冷静に判断できるよう、会計・税務・財務・経営管理の観点から、中期計画の整理をご支援しています。

  • 「売上はあるが、資金が残らない」
  • 「採用したいが、人件費が不安だ」
  • 「設備投資や分院を考えているが、数字で判断できない」
  • 「医療法人化や承継を見据えて、今から何を整えるべきか分からない」

このような課題をお持ちの場合は、現在の決算書、月次試算表、借入一覧、資金繰り、患者数、人員体制をもとに、まずは3年後・5年後の見通しを整理するところから始めるとよいでしょう。

医療機関の中期計画、資金繰り、投資判断、法人運営、承継準備について、専門家の視点で整理したいとお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからお気軽にご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点確認すべきこと中期計画での意味
3年計画売上、患者数、人員、設備投資、資金繰りを具体化できているか実行可能な施策と数字を結びつける
5年計画法人化、分院、在宅医療、承継、M&Aなどの選択肢を残せているか将来の方向性と準備課題を明確にする
売上計画患者数、診療単価、来院頻度、診療科・機能別収入に分解できているか希望ではなく根拠ある売上見通しを作る
利益計画固定費、変動費、人件費、材料費、減価償却費を分けて見ているか採算ラインと利益構造を把握する
資金繰り借入返済、納税、設備投資後に資金が残るか黒字でも資金不足になるリスクを防ぐ
人員計画職種別人数、採用時期、人件費率、教育期間を織り込んでいるか売上計画を実行できる組織体制を作る
設備投資更新投資と成長投資を分け、投資回収と返済負担を見ているか無理な投資と必要な投資を切り分ける
借入返済借入一覧、返済額、金利、最終返済日を把握しているか金融機関に説明できる返済計画を作る
医療法人運営事業報告、役員報酬、法人手続、社会保険、承継を織り込んでいるか法人としての説明責任に耐える
承継・M&A後継者、院長依存度、月次資料、税務・労務・契約資料を整えているか将来の出口戦略を早期に準備する
シナリオ管理標準・強気・慎重の3パターンを検討しているか不確実性に耐える判断材料を持つ
月次モニタリング計画と実績の差異を毎月確認しているか計画を作って終わりにせず、改善につなげる

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