診療圏・患者動向・競合環境をどう読むか

患者数が減ったとき、医療機関の経営者の方はすぐに「集患が弱いのではないか」「競合に患者を取られているのではないか」と考えがちです。

確かに、その可能性はあります。ただ、患者数の増減は、自院の広報や診療体制だけで説明できるものではありません。診療圏の人口構成、年齢階層、通勤・通学の動線、競合医療機関の変化、地域の高齢化、生活習慣病を抱える方の増減、在宅医療の需要、受診行動の変化。こうした要素が複合的に影響します。

大切なのは、患者数の増減を「感覚」で判断しないことです。

  • 「今月は患者が少ない」
  • 「近くにクリニックができたから厳しい」
  • 「高齢者が増えているから在宅医療を始めた方がよい」
  • 「駅前だから集患しやすいはずだ」

いずれも一部の事実を捉えているのかもしれません。しかし、経営判断の根拠とするには不十分です。診療圏、患者動向、競合環境を読むとは、自院の患者数や売上を、地域の構造と結びつけて説明できる状態にすること。私はそう考えています。

本稿では、医療機関が診療圏・患者動向・競合環境をどのように整理し、月次管理、集患、採用、設備投資、在宅医療、分院、承継・M&Aの判断へどうつなげていくべきかを解説します。

目次

診療圏は「地図上の円」ではなく、患者が実際に来院する範囲である

診療圏という言葉から、医院を中心に半径1km、3km、5kmの円を描くイメージを持つ方は多いと思います。入口としては、これは有効です。

外来診療所であれば、目安として都心部で半径1〜3km、郊外で半径3〜5kmを考えることがあります。特に都心の診療圏は徒歩10分前後、郊外では車や自転車での移動時間を意識して捉える必要があります。

ただ、診療圏は単なる距離ではありません。患者さんが実際に来院できる範囲であり、来院したいと思える範囲であり、継続して通える範囲です。

同じ半径1kmでも、駅前、幹線道路沿い、住宅街、オフィス街、坂道の多い地域、バス便が中心の地域では、その意味は変わってきます。東京都内であっても、千代田区・中央区・港区のように昼間人口の影響が大きいエリアと、世田谷区・練馬区・足立区のように住宅地としての性格が強いエリアでは、同じ「人口」でも患者属性が異なります。オフィス街では平日昼間の受診需要が、住宅地では小児・高齢者・生活習慣病・在宅医療の需要が、それぞれより重みを持つことがあります。

東京で診療圏を読むのであれば、区市町村単位だけでなく、可能な限り町丁別・年齢別の人口構成まで確認しておきたいところです。東京都が公表している住民基本台帳ベースの人口統計には、令和8年1月1日時点の都内世帯数、町丁別人口、年齢別人口などが整理されています。
出典:東京都総務局統計部|住民基本台帳による東京都の世帯と人口 令和8年1月

つまり、診療圏を読む第一歩は、「自院から何km以内か」ではなく、次の問いに答えることです。

  • 自院の患者は、実際にはどの町丁目・駅・生活圏から来ているのか
  • 徒歩、自転車、自動車、公共交通機関のどれで来院しているのか
  • 体調不良のときでも通える距離か
  • 高齢の方や小児連れの方でも通いやすいか
  • 昼間人口と常住人口のどちらを主な患者基盤としているのか
  • 平日昼間、夜間、土曜、日曜のどの時間帯に需要があるのか
  • 診療圏内の患者さんにとって、自院は「近い医院」なのか、それとも「選んで行く医院」なのか

診療圏は、固定された円ではありません。診療科、専門性、患者属性、交通手段、診療時間、評判によって変わる、経営上の仮説だと捉えてください。

まず行うべきは、自院の患者分布を地図で見ること

診療圏分析で最初に行うべきことは、一般的な商圏レポートを読むことではありません。自院の患者がどこから来ているかを、自分の手で確認することです。

レセプト、問診票、予約情報、電子カルテ、患者台帳などから、患者住所を町丁目単位で集計します。個人情報の取扱いには十分に注意し、経営分析では個人を特定する必要のない形に加工したうえで進めます。そのうえで、外来患者、初診患者、再診患者、健診・予防接種患者、自由診療患者、在宅患者などを分けて、地図上に落とし込んでいきます。

診療圏は、実際の来院エリアを地図にプロットすることで初めて見えてきます。診療圏内の住民数と自院患者数を比べれば、自院の「地域内シェア」という考え方も持てるようになります。

この分析では、単に「患者が多い地域」を見るだけでは足りません。次のように分けて確認します。

  • 初診患者が多い地域
  • 再診患者が安定している地域
  • 以前は多かったが減っている地域
  • 高齢患者が多い地域
  • 小児患者が多い地域
  • 生活習慣病患者が多い地域
  • 健診・予防接種の利用が多い地域
  • 自由診療や専門外来の患者が来ている地域
  • 在宅医療の依頼が発生しやすい地域
  • 紹介元・連携先が多い地域

こうして分けると、同じ患者数の増減でも意味が変わってきます。

たとえば、全体の患者数は横ばいでも、初診患者が減り、慢性疾患の再診患者に依存している場合、将来の患者基盤は弱くなっている可能性があります。反対に、患者数は一時的に減っていても、初診患者や若年層の来院が増えているのであれば、長期的にはむしろ改善の兆しかもしれません。

診療圏分析は、地図を眺める作業ではありません。自院の患者基盤がどのように形づくられ、どこに弱さがあるのかを確認する作業です。

背景人口は「人数」ではなく、年齢構成と疾患構造で読む

診療圏内に人口が多ければ患者数が増えるかというと、そうとは限りません。

医療機関にとって重要なのは、単なる人口ではなく、診療科に合った受療需要を持つ人口です。内科であれば、高血圧、糖尿病、脂質異常症、呼吸器疾患などの継続管理需要が重要になります。小児科であれば、15歳未満人口、出生数、保育園・学校の分布、感染症流行時の受診行動が影響します。整形外科であれば、高齢者人口、リハビリ需要、就労世代の慢性疼痛、交通事故・労災などが関係してきます。精神科・心療内科では、人口の多寡よりも、予約枠、通院継続性、職場・学校との関係、紹介経路が重要になります。

こうした需要を読むうえでは、公的統計を自院の診療科・患者層に合わせて読み替える視点が欠かせません。厚生労働省の患者調査には、推計患者数、受療率、傷病分類別の患者数、在宅医療の状況などが整理されています。
出典:厚生労働省|令和5年(2023)患者調査の概況

実務では、背景人口を次のような順序で確認していきます。

  • まず、診療圏内の総人口を押さえる
  • 次に、年齢階層別の人口を確認する
  • そのうえで、自院の診療科に関係する受療率や疾患構造を重ねる
  • さらに、競合医療機関の数と強さを確認する
  • 最後に、自院が現実的に獲得できる患者数を見積もる

診療科ごとの受療率と地域の年齢分布を組み合わせることで、必要な背景人口が見えてきます。一般的な外来患者数の目安や損益分岐点を踏まえながら、診療圏内の人口だけでなく、診療科目ごとの受療需要まで確認しておくことが大切です。

ここで気をつけたいのが、「人口があるから患者が来る」という発想です。

人口1万人の診療圏でも、その中に評判の高い医療機関が複数あれば、自院が獲得できる患者数は限られます。反対に、人口がさほど大きくなくても、既存医療機関の高齢化、後継者不足、診療時間の不便さ、専門性の不足があれば、自院にとっての機会が残っていることもあります。背景人口が同じ1万人でも、競合の評判や集患力によって、残された患者需要は大きく変わるのです。

背景人口は、診療圏の「市場規模」を知るための入口にすぎません。経営判断に使うには、年齢、疾患、競合、交通、診療科、評判、時間帯を重ねて読む必要があります。

将来人口を見なければ、いまの患者数を誤って読む

現在の患者数が安定していても、将来の診療圏まで安定しているとは限りません。

高齢化が進む地域では、しばらくは外来需要が維持される一方で、通院が難しくなる方や在宅医療の需要が増えていくことがあります。若年層が減る地域では、小児科や産婦人科、予防接種、学校医関連の需要が変化します。生産年齢人口が減る地域では、オフィスワーカーを対象にした診療時間や健診需要が変わっていく可能性があります。

診療圏を読む際には、現在の人口だけでなく、5年後・10年後の年齢構成まで確認しておくことが重要です。国立社会保障・人口問題研究所は、令和2年国勢調査をもとに、令和32年(2050年)までの都道府県別・市区町村別、男女・5歳階級別の将来推計人口を公表しています。
出典:国立社会保障・人口問題研究所|日本の地域別将来推計人口 令和5(2023)年推計

将来人口を見るときの実務上のポイントは、次の3つです。

1つ目は、総人口よりも年齢階層を見ることです。総人口が横ばいでも、15歳未満人口、15〜64歳人口、65歳以上人口、75歳以上人口の構成が変われば、医療需要は変わります。

2つ目は、患者数の増減を「自然な地域変化」と「自院の経営課題」に分けることです。地域全体で小児人口が減っているのに、小児患者数の減少をすべて自院の集患不足と捉えてしまうと、誤った投資判断につながります。逆に、高齢者人口が増えているのに生活習慣病や在宅関連の患者が伸びていない場合は、自院の受け皿や広報、連携体制に課題があるのかもしれません。

3つ目は、将来需要を設備投資・採用・承継と結びつけることです。5年後に高齢者需要が増えるからといって、すぐに在宅医療へ進出すべきとは限りません。人員、24時間対応、連携先、診療報酬、資金繰り、院長の負担を踏まえて判断する必要があります。人口動態は、成長投資の根拠であると同時に、撤退・縮小・機能転換を考える根拠にもなります。

競合は「近くの同じ診療科」だけではない

競合環境を見るとき、多くの医療機関は近隣の同じ診療科を意識します。内科なら近隣の内科、整形外科なら近隣の整形外科、小児科なら近隣の小児科、という具合です。

もちろん、それは重要です。ただ、医療機関の競合はそれだけではありません。患者さんにとっての選択肢という視点で見ると、競合は次のように広がっていきます。

  • 同じ診療科の近隣クリニック
  • 専門性の高い遠方クリニック
  • 総合病院・大学病院・専門病院
  • オンライン診療を提供する医療機関
  • 健診センター
  • 自由診療専門クリニック
  • 在宅医療専門クリニック
  • ドラッグストア、薬局、検査サービス
  • 介護事業者、訪問看護、地域包括支援センター
  • 患者さんが「受診しない」という選択そのもの

特に東京のように医療機関が多い地域では、距離だけで競合を判断すると見誤ります。患者さんは、近さだけでなく、予約の取りやすさ、待ち時間、説明の丁寧さ、専門性、口コミ、公式サイトの情報、医師との相性、診療時間、キャッシュレス対応、アクセス、紹介先との連携などで、受診先を選んでいます。

競合環境を整理する際には、公的な情報も確認対象になります。厚生労働省と都道府県が運営する医療情報ネット(ナビイ)は、診療日、診療科目、対応可能な疾患・治療内容、提供サービスなどから全国の医療機関を検索できるシステムで、令和6年4月から全国統一的な情報提供システムとして運用されています。
出典:厚生労働省|医療機能情報提供制度について

また、医療情報ネットでは、病院・診療所・歯科診療所・薬局等の一部データがオープンデータとして提供されています。ただし、掲載情報は報告内容を原則そのまま掲載しているため、時点によっては最新でない情報や誤りが含まれる可能性があります。重要な判断の場面では、現地確認や複数情報との照合が欠かせません。
出典:厚生労働省|医療情報ネットのオープンデータ

競合分析では、単に「何件あるか」ではなく、次の点を確認します。

  • 診療科目
  • 標榜内容
  • 診療時間
  • 休診日
  • 予約方法
  • 患者導線
  • 医師の専門性
  • 検査・処置・設備
  • 在宅医療の有無
  • 自由診療の有無
  • 公式サイトの情報量
  • 口コミの傾向
  • 病院・介護・薬局との連携
  • 院長年齢、承継可能性
  • 直近の開院・閉院・移転
  • 患者にとっての通いやすさ

競合は、敵として見るだけのものではありません。紹介先、逆紹介先、病診連携先、在宅医療の連携先、承継・M&Aの候補にもなり得ます。競合環境を読むことは、自院が地域の中でどの機能を担うのかを考えることでもあるのです。

患者数の増減は、自院要因と地域要因に分ける

患者数が減ったとき、まず確認すべきなのは、自院の問題なのか、地域全体の変化なのか、という点です。たとえば、次のようなケースを分けて考えます。

地域の高齢者人口は増えているのに、自院の慢性疾患患者は減っている。この場合、自院の診療体制、継続管理、予約導線、説明、待ち時間、競合との違いに課題がある可能性があります。

地域の小児人口が減っており、小児患者も減っている。この場合は、単なる集患不足ではなく、診療科としての将来需要そのものを見直す必要があります。

初診患者が減っているが、再診患者は維持されている。これは、既存の患者基盤は残っている一方で、新規の流入が弱くなっている可能性があります。公式サイト、来院動機、口コミ、診療時間、競合開院の影響を確認しましょう。

再診患者が減っているが、初診患者は維持されている。この場合は、患者満足、説明、継続管理、次回予約、待ち時間、スタッフ対応に課題があるのかもしれません。

患者数は増えているのに、利益が残らない。診療単価、材料費、人件費、委託費、診療時間、稼働率、部門別採算を見ていく必要があります。

患者数は減っているが、診療単価は上がっている。高度な診療や慢性疾患管理へシフトしている可能性もあれば、軽症の患者が離れ、重症・複雑な患者だけが残っている可能性もあります。

このように、患者数の増減だけで経営判断はできません。初診率、再診率、診療単価、来院頻度、患者年齢、疾患構成、住所分布、来院動機、予約経路を合わせて読んでいきます。

来院動機を取らなければ、集患施策の効果は読めない

患者動向を読むうえで、意外に軽視されがちなのが来院動機です。

患者さんがなぜ自院を選んだのかを確認しなければ、公式サイト、Google、口コミ、紹介、看板、駅近、家族紹介、職場、学校、地域連携のどれが効いているのかが分かりません。

問診票を活用して来院動機を知ること、公式サイトからの来院割合やアクセス数を把握すること。これらは、広報を感覚ではなく数字で確認するうえで重要です。

来院動機は、細かすぎると現場の負担になります。実務上は、次のような選択肢で十分です。

  • 家族・知人からの紹介
  • 他院からの紹介
  • 勤務先・学校から近い
  • 自宅から近い
  • 看板を見た
  • 公式サイトを見た
  • Google検索・Googleマップを見た
  • 口コミを見た
  • SNSを見た
  • 以前から通院している
  • 健診・予防接種で来院した
  • 病院から逆紹介された
  • その他

この情報を月次で集計すると、患者数の増減を具体的に説明しやすくなります。

たとえば、公式サイト経由の初診が増えているなら、情報発信が機能している可能性があります。紹介患者が減っているなら、病院・介護・薬局との連携に変化が生じているのかもしれません。口コミ経由が多いなら、患者満足が集患に効いている可能性があります。近隣からの来院が減って遠方の患者が増えているなら、専門性の訴求が効いている一方で、地域のかかりつけ機能が弱くなっているとも読めます。

来院動機は、単なるマーケティング情報ではありません。診療圏内で自院がどのように認識されているかを示す、立派な経営資料です。

診療圏分析を月次数字に接続する

診療圏や競合を調べても、月次の経営数字とつながらなければ意味がありません。診療圏分析は、少なくとも次の数字と接続させます。

  • 延べ患者数
  • 実患者数
  • 初診患者数
  • 再診患者数
  • 診療単価
  • 来院頻度
  • 年齢別患者数
  • 住所別患者数
  • 診療科・診療内容別患者数
  • 紹介患者数
  • 逆紹介患者数
  • 在宅患者数
  • 健診・予防接種患者数
  • 自由診療患者数
  • 人件費率
  • 材料費率
  • 広告費
  • 固定費
  • 損益分岐点
  • 現預金残高

この接続ができると、経営判断の質が変わります。

たとえば、診療圏内の高齢者人口が増えているのに生活習慣病管理の患者が伸びていない場合、診療内容、患者説明、再診予約、紹介経路、公式サイトの疾患ページを見直す根拠になります。

診療圏内の小児人口が減っている場合は、診療時間の拡張や小児向けの設備投資を安易に進めるのではなく、予防接種、発熱外来、親世代の内科需要、家族単位のかかりつけ機能まで含めて考える必要があります。

外来患者が減少し、高齢化が進んでいる地域では、在宅医療や訪問診療への展開が選択肢になります。ただし、在宅医療は外来の延長ではありません。同意書、訪問計画、24時間対応の有無、診療報酬、スタッフ体制、移動時間、連携先などを含む、別の事業モデルです。導入の判断は、患者需要だけでなく、採算と運用負荷を合わせて確認する必要があります。

診療圏分析は、外部環境を見るためだけのものではありません。月次決算、損益分岐点、部門別採算、事業計画に接続して初めて、経営判断に使える資料になります。

東京で診療圏を読むときの注意点

東京で診療圏を読む場合、地方や郊外と同じ発想では不十分です。

東京では、人口密度が高い一方で、医療機関も多く、患者の選択肢が広い地域があります。駅前立地だから有利とは限りません。駅前は認知されやすい反面、競合も多く、家賃や人件費が高く、患者の入れ替わりも大きくなりやすいからです。

一方、住宅街では、認知されるまでに時間はかかるものの、かかりつけ医としての信頼を得られれば、継続患者や家族単位の来院が安定することがあります。駅前・住宅街・オフィス街では、患者属性、診療時間、スタッフ採用、薬局連携、広告の打ち方が変わってきます。

東京で特に注意したいのは、次の点です。

  • 昼間人口と常住人口を分けて見る
  • 駅利用者、勤務者、居住者、高齢者、子育て世帯を分ける
  • 徒歩圏・自転車圏・電車圏を分ける
  • 診療科によって遠方集患の可能性を判断する
  • 競合数だけでなく、競合の診療時間・予約導線・専門性を見る
  • 家賃、人件費、広告費を損益分岐点に織り込む
  • 公式サイト、Googleマップ、口コミの影響を無視しない
  • 外国人患者、企業健診、産業医、自由診療など、地域特有の収益機会を確認する
  • 高齢化地域では在宅医療・介護連携を見込む
  • 若年層の流入地域では小児・婦人科・メンタル・予防医療の需要を確認する

東京は「人口が多いから大丈夫」な地域ではありません。むしろ人口が多いからこそ、患者の選択基準も競合環境も厳しくなります。

競合開院・閉院をどう読むか

近隣に新しいクリニックが開院した場合、すぐに「患者を奪われる」と身構える必要はありません。影響は、診療科、患者層、診療時間、専門性、予約体制、広告力、立地によって異なります。

競合開院の影響を見るときは、次の数字を確認します。

  • 開院前後の初診患者数
  • 開院前後の再診患者数
  • 住所別患者数の変化
  • 年齢別患者数の変化
  • 疾患別患者数の変化
  • 診療単価の変化
  • 来院動機の変化
  • Google検索・公式サイト経由の変化
  • 紹介患者数の変化
  • 患者の離脱理由

競合開院によって最初に影響を受けやすいのは、既存の患者よりも新規の患者です。長年通っている患者さんはすぐには離れない一方で、引っ越してきた患者さん、新たに発症した患者さん、初めて受診先を探す患者さんは、新しいクリニックを選ぶ可能性があります。

ですから、競合開院後に見るべきなのは、全体の患者数だけでなく初診患者数です。全体の患者数がまだ維持されていても、初診患者が減っていれば、将来の患者基盤は弱くなっている可能性があります。

反対に、近隣の医療機関が閉院する場合も、単純にチャンスと見るだけでは不十分です。患者が自院へ流入する可能性はありますが、高齢患者の引継ぎ、処方内容、紹介状、カルテ情報、待ち時間、スタッフ負荷が問題になることがあります。受け入れ体制が整っていなければ、患者満足が低下し、既存の患者にも悪影響が及びかねません。

競合の変化は、売上の機会であると同時に、運用負荷と説明責任の問題でもあるのです。

診療圏分析を成長戦略に使う

診療圏分析は、現在の患者数を説明するためだけのものではありません。将来の成長戦略を考えるためにも使います。たとえば、次のような判断に活用できます。

  • 診療時間を延長すべきか
  • 土曜・日曜診療を行うべきか
  • Web予約やWeb問診を導入すべきか
  • 公式サイトの診療科ページを強化すべきか
  • 健診・予防接種を伸ばすべきか
  • 生活習慣病管理を強化すべきか
  • 自由診療を導入すべきか
  • 在宅医療を始めるべきか
  • 分院を出すべきか
  • 移転すべきか
  • 採用を増やすべきか
  • 高額医療機器を導入すべきか
  • 承継・M&Aを検討すべきか

ただし、診療圏に需要があるからといって、すぐに投資すべきとは限りません。需要、採算、人材、資金繰り、管理体制の4つを合わせて見る必要があります。

たとえば、在宅医療の需要がある地域でも、医師・看護師・事務スタッフの体制、移動時間、夜間対応、連携先、診療報酬、車両費、ICT、資金繰りを確認しなければ、採算や現場の負荷を見誤ります。

分院についても同じです。候補地の人口や競合だけで判断するのではなく、本院の院長依存度、管理者候補、採用可能性、固定費、借入返済、撤退条件、法人運営体制まで確認する必要があります。

診療圏分析は、攻めの判断を支える資料です。しかし、攻めるためには守りの数字が欠かせません。月次決算、部門別採算、資金繰り表、契約管理、労務管理が整っていなければ、外部環境の分析は投資判断に結びつかないのです。

診療圏分析で使う主な資料

実務で診療圏・患者動向・競合環境を整理する場合、次の資料を準備しておくと分析が進めやすくなります。

  • 自院の月次患者数
  • 初診数・再診数
  • 実患者数・延べ患者数
  • 患者住所の町丁目別集計
  • 患者年齢別集計
  • 診療内容・疾患別集計
  • 来院動機
  • 紹介元・逆紹介先
  • キャンセル率
  • 診療単価
  • 公式サイト・Google・広告経由の指標
  • 地域の町丁目別人口
  • 年齢階層別人口
  • 将来推計人口
  • 患者調査の受療率
  • 医療施設調査の診療科目別施設数
  • 医療情報ネットの競合医療機関情報
  • 競合の診療時間・予約方法・診療内容
  • 公共交通、駅、バス、道路、駐車場の状況
  • 学校、保育園、介護施設、企業、商業施設の分布
  • 地域包括支援センター、訪問看護、薬局、病院との連携状況
  • 直近の開院・閉院・移転情報
  • 自院の月次損益、固定費、資金繰り

診療圏を地図で把握する際には、基礎資料としてjSTAT MAPが活用できます。総務省統計局のjSTAT MAPでは、小地域や地域メッシュ統計を地図上に表示でき、統計グラフの作成やエリア作成などの機能を利用できます。
出典:総務省統計局・e-Stat|jSTAT MAP

また、競合環境を全国・都道府県単位で把握する際には、医療施設調査・病院報告が基礎資料になります。厚生労働省の同調査には、施設種類別、開設者別、病床規模別、診療科目別の施設数などが整理されています。
出典:厚生労働省|令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況

資料は、多ければよいというものではありません。大切なのは、自院の意思決定に必要な資料を、同じ前提で継続的に確認していくことです。

専門家に相談する前に整理しておきたい問い

診療圏や競合環境について専門家に相談する場合、事前に次の問いを整理しておくと、相談の質が高まります。

  • 自院の患者は、どの地域から来ているか
  • 患者数が減っているのは、どの地域・年齢・診療内容か
  • 初診が減っているのか、再診が減っているのか
  • 診療単価は変化しているか
  • 来院頻度は変化しているか
  • 競合の開院・閉院・移転の影響はあるか
  • 診療圏内の人口構成はどう変化しているか
  • 5年後・10年後に需要が伸びる診療領域は何か
  • 逆に縮小する診療領域は何か
  • 自院の強みは、地域の需要と合っているか
  • 診療時間・予約・導線・広報は、患者属性に合っているか
  • 在宅医療、自由診療、健診、分院などを検討する根拠はあるか
  • その投資を支える人員・資金・管理体制はあるか
  • 金融機関や後継者に説明できる数字になっているか

診療圏分析は、開業時だけの作業ではありません。既存の医療機関こそ、定期的に見直すべき経営管理の資料です。

患者数の増減を「何となく」で受け止めるのではなく、地域要因、自院要因、競合要因、制度要因、組織要因に分けて整理する。そこから、集患、採用、投資、資金繰り、承継の判断へつなげていく。この流れを作ることが、医療機関を長く安定して経営するための基盤になります。

まとめ:診療圏を読むことは、自院の将来を説明すること

診療圏・患者動向・競合環境を読む目的は、単に「患者を増やす方法」を探すことではありません。

自院がどの地域の、どの患者層に、どの医療機能を提供し、どの競合や連携先と関係しながら、どのように継続していくのか。それを説明できるようにすることが目的です。

人口が多い地域でも、競合が強ければ患者は集まりません。人口が減る地域でも、機能を絞れば役割を果たせることがあります。高齢化は在宅医療の機会である一方、外来通院の減少リスクでもあります。競合開院は脅威であると同時に、自院の強みを見直す機会でもあります。公式サイトや口コミは広報の手段であると同時に、患者さんが自院をどう見ているかを示す情報でもあります。

診療圏分析は、外部環境を見る作業でありながら、最終的には自院の経営管理力を問う作業です。月次の数字、患者情報、地域統計、競合情報をつなげて読める医療機関は、売上や患者数の増減に振り回されにくくなります。

最後に、本稿の重要事項を振り返ります。

確認項目見るべき内容経営判断上の意味
診療圏半径距離だけでなく、徒歩・自転車・車・電車での移動時間を見る患者が実際に通える範囲を把握する
患者分布住所、年齢、初診・再診、診療内容別に地図化する自院の患者基盤と弱い地域を確認する
背景人口総人口、年齢階層、昼間人口、常住人口を見る診療科に合った需要を見極める
将来人口5年後・10年後の年齢構成を見る採用、設備投資、在宅医療、承継の判断に使う
患者動向初診率、再診率、来院頻度、診療単価を確認する患者数減少の原因を分解する
来院動機紹介、公式サイト、Google、口コミ、看板、近隣などを把握する集患施策の効果と患者行動を確認する
競合環境近隣同科だけでなく、病院、専門クリニック、在宅、健診等を見る自院のポジションと連携先を整理する
開院・閉院動向競合の新規開院、移転、閉院、承継可能性を見る初診患者・再診患者への影響を早期に把握する
月次数字との接続患者数、売上、利益、固定費、資金繰りと結びつける外部環境分析を経営判断に使う
成長戦略への活用診療時間、採用、設備、在宅、分院、自由診療を検討する攻めの判断を、需要・採算・資金・組織で支える
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