副業や一時的な取引で赤字が出たとき、「給与所得と相殺できるのではないか」「確定申告をすれば税金が戻るのではないか」とお考えになる方は少なくありません。
ただ、所得税の世界では、赤字であれば何でも他の所得と相殺できるわけではないのです。損益通算の対象となる所得は限られています。雑所得や一時所得の損失は、原則として給与所得、事業所得、不動産所得といった他の各種所得から差し引くことはできません。
損益通算の対象となる所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の四つに限られています。配当所得、給与所得、一時所得、雑所得については、その計算上たとえ損失が生じたとしても、その損失を他の各種所得から控除することはできない、というのが制度上の整理です。
出典:国税庁|No.2250 損益通算
本稿では、「雑所得や一時所得の赤字をどう扱うか」を、単なる申告書入力の話としてではなく、所得区分、取引実態、資料保存、翌年以降への影響まで含めて整理していきます。
まず押さえておきたい結論
雑所得・一時所得の損失については、最初に次の整理を頭に置いておくと、判断がぐっと進めやすくなります。
| 項目 | 基本的な扱い |
|---|---|
| 雑所得全体で損失が出た場合 | 他の所得とは損益通算できない |
| 雑所得内の個別取引の赤字 | 他の雑所得の黒字と通算できる場面はある |
| 一時所得の損失 | 他の所得とは損益通算できない |
| 一時所得内の内部通算 | 一定の範囲で可能。ただし収入金額がないものは内部通算できない |
| 生活用動産の売却損 | そもそも通常は非課税所得の領域であり、損失も税務上使えない |
| 趣味・娯楽・保養・鑑賞目的の資産の損失 | 原則として損益通算できない |
| 暗号資産取引の損失 | 現行の一般的整理では雑所得の損失として、給与所得等とは通算不可 |
| 先物取引に係る雑所得等の損失 | 別枠の申告分離課税制度により、同じ先物取引に係る雑所得等との通算・3年繰越が可能な場合あり |
| 事業所得の赤字 | 要件を満たせば損益通算・純損失の繰越等の対象になり得る |
| 不動産所得の赤字 | 原則通算対象になり得るが、土地取得借入金利子など制限あり |
ここで大切なのは、「赤字があるかどうか」ではありません。「その赤字が、どの所得区分で生じたものか」という点です。
同じ副業であっても、実態によっては事業所得となる場合もあれば、雑所得にとどまる場合もあります。同じ一時的な入金でも、一時所得、雑所得、譲渡所得、非課税所得のいずれに整理すべきかによって、赤字や支出の扱いは変わってきます。
損益通算とは何か
損益通算とは、ある所得区分で生じた損失を、一定の順序に従って他の黒字所得から差し引く制度です。
たとえば事業所得の赤字や不動産所得の赤字は、一定の要件を満たせば、給与所得など他の所得と通算できることがあります。青色申告者であれば、純損失の繰越控除など、翌年以降に影響する制度も用意されています。
もっとも、青色申告は単なる節税の仕組みではありません。帳簿書類を備え付け、取引を忠実に記載し、きちんと保存する。それを前提として、純損失の繰越控除などの特典が認められている制度です。
ですから、雑所得や一時所得の赤字を、後から都合よく事業所得の赤字に置き換えるようなことはできません。所得区分は、申告したい結論から逆算して決めるものではないのです。取引の実態、継続性、独立性、営利性、帳簿・資料、資金の流れ。こうした事実から判断していくものです。
雑所得の損失は、他の所得と損益通算できない
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも該当しない所得を指します。
典型的なものとしては、次のような収入が挙げられます。
- 事業所得とまではいえない副業収入
- 原稿料、講演料、業務委託収入のうち事業性が弱いもの
- 暗号資産取引による所得
- 公的年金等
- 個人年金保険の年金
- 還付加算金
- 一定の雑多な収入
雑所得の計算上生じた損失は、他の所得の金額と損益通算することができません。
出典:国税庁|No.1500 雑所得
たとえば、給与所得者の方が副業として動画編集を行い、収入が20万円、機材費や通信費などの必要経費が50万円だったとします。この副業が雑所得に該当する場合、差額30万円の赤字を給与所得から差し引くことはできません。
ここでよく見かける誤解が、「経費が多ければ税金が戻る」というものです。たとえ必要経費として認められる支出があったとしても、その所得区分が雑所得である限り、雑所得全体として生じた赤字を給与所得などにぶつけることはできないのです。
雑所得内での通算と、他の所得との損益通算は別物
雑所得については、もう一段階の整理が必要になります。
「雑所得の損失は他の所得と通算できない」という話と、「雑所得の内部で複数の収入・支出をどう集計するか」という話は、別のものだからです。
ある雑所得の取引で赤字が出たとしても、他に雑所得の黒字があれば、雑所得の金額を計算する過程で通算される場面があります。たとえば暗号資産交換業者から金銭補償を受けた場合の取扱いでは、補償金の基礎となった暗号資産の価額が取得単価より低いときに雑所得の計算上損失が生じ、その損失を他の雑所得の金額と通算できるとされています。
出典:国税庁|No.1525 暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合
そこで、次のように分けて考えます。
| 判断する場面 | 取扱い |
|---|---|
| 雑所得の内部で複数の雑所得を集計する場面 | 通算できる場面がある |
| 雑所得全体が赤字になった後、その赤字を給与所得等から差し引く場面 | 原則として不可 |
| 雑所得の赤字を翌年へ繰り越す場面 | 原則として不可。ただし先物取引に係る雑所得等など別制度あり |
実務では、この区別をしないまま、「雑所得の赤字は一切使えない」あるいは「雑所得内なら何でも自由に相殺できる」と、両極端に理解してしまうことがあります。
正しくは、雑所得の内部計算、他所得との損益通算、翌年以降への繰越。この三つを分けて確認していく必要があります。
副業の赤字を給与所得と相殺したい場合に確認すべきこと
副業の赤字を給与所得と相殺したい、というご相談では、多くの場合、問題は「赤字の金額」ではなく「所得区分」にあります。
副業が事業所得に該当するのであれば、損益通算や青色申告の論点が出てきます。一方、副業が雑所得に該当するのであれば、その赤字を給与所得と通算することはできません。
では、何を確認すればよいのでしょうか。主な要素は次のとおりです。
| 確認事項 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 継続性 | 単発か、反復継続して行っているか |
| 営利性 | 利益を得るための計画・価格設定・改善活動があるか |
| 独立性 | 会社の延長ではなく、自分の計算と責任で行っているか |
| 事業規模 | 収入規模、取引数、顧客数、時間投入が事業として説明できるか |
| 帳簿・資料 | 請求書、契約書、入出金、経費資料を整理しているか |
| リスク負担 | 在庫、外注、設備、広告、損害賠償リスクなどを負っているか |
| 家計との区分 | 事業用と生活用の支出を区別できているか |
赤字を通算したいから事業所得にする、という順序ではありません。取引実態を確認した結果として、事業所得と説明できるかどうかを判断していく。そういう流れです。
とりわけ、年末にまとめて経費だけを集め、売上や請求、契約、入金の流れが整理されていないような場合には、事業所得としての説明は難しくなります。
暗号資産取引の損失は、現行実務では特に誤解が多い
暗号資産取引は、利益が出た年だけでなく、損失が出た年にもご相談の多い領域です。
現行の一般的な取扱いでは、暗号資産を売却または使用することで生じる利益は、事業所得等に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得に区分されます。取引で損失が出た場合も同様で、雑所得の計算上生じた損失を、給与所得など他の所得から差し引くことはできません。
出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
たとえば会社員の方が暗号資産取引で100万円の損失を出したとしても、その損失を給与所得から差し引いて所得税の還付を受けることは、通常できません。
暗号資産の証拠金取引についても同様です。外国為替証拠金取引、いわゆるFXと同様の先物取引に係る申告分離課税の特例は適用されず、総合課税により申告する、という整理が示されています。
出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
なお、暗号資産については、令和8年度税制改正の大綱において、金融商品取引法等の改正を前提に、改正金商法の施行日の翌年1月以降、一定の暗号資産取引から生じる所得を総合課税から分離課税へ変更する方向が示されています。したがって暗号資産取引については、申告対象年分、取引所、取引形態、対象となる暗号資産の範囲を、その都度、最新の法令・公表情報で確認する必要があります。
出典:金融庁|「令和8年度税制改正の大綱」の概要―金融庁関係の主要項目について―
本稿は雑所得・一時所得の損失というテーマに絞るため、暗号資産税制改正の詳細な適用時期や対象取引の判定までは扱いません。実際の申告にあたっては、対象年分ごとの制度確認が欠かせない、という点だけ押さえておいてください。
先物取引に係る雑所得等は、一般の雑所得と同じに扱わない
「雑所得」という名称が含まれていても、すべてが同じ取扱いになるわけではありません。
一定の先物取引に係る雑所得等については、申告分離課税の特例があります。その計算上生じた損失は、他の先物取引に係る雑所得等との損益通算が可能です。さらに一定の要件のもとで、翌年以後3年間にわたり繰越控除できる制度も設けられています。ただし、先物取引に係る雑所得等以外の所得との損益通算はできません。
出典:国税庁|No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例
ここで注意したいのは、「雑所得」という言葉だけで判断してしまわないことです。
| 区分 | 主な扱い |
|---|---|
| 一般的な雑所得 | 総合課税。赤字は他の所得と通算不可 |
| 先物取引に係る雑所得等 | 申告分離課税。一定範囲内の通算・3年繰越あり |
| 暗号資産取引の所得 | 現行実務では原則として総合課税の雑所得。ただし制度改正動向に注意 |
金融商品、暗号資産、FX、CFD、先物、オプション。これらは、名称や取引画面の表示ではなく、税法上どの制度に入るのかを確認する必要があります。
一時所得の損失も、他の所得とは通算できない
一時所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時的な所得で、労務や役務の対価、あるいは資産の譲渡による対価としての性質を持たないものをいいます。
代表的なものとしては、次のような収入が挙げられます。
- 懸賞や福引きの賞金品
- 競馬、競輪、オートレース、ボートレースなど公営競技の払戻金
- 生命保険の一時金
- 損害保険の満期返戻金等
- 法人から贈与された金品
- 遺失物拾得者が受ける報労金
一時所得は、原則として、総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し、さらに最高50万円の特別控除を差し引いて計算します。そのうえで、算出された所得金額の2分の1に相当する金額を、給与所得など他の所得と合計して総所得金額を求めます。
出典:国税庁|No.1490 一時所得
ただし、一時所得の計算上損失が生じても、その損失を他の所得から控除することはできません。先ほど確認したとおり、損益通算制度の対象所得に一時所得が含まれていないためです。
出典:国税庁|No.2250 損益通算
つまり一時所得は、黒字であれば総所得金額に反映されますが、赤字だからといって給与所得や事業所得を減らすために使えるものではない、ということになります。
一時所得内の内部通算は可能な場面がある
一時所得については、「他の所得との損益通算はできない」という点だけでなく、「一時所得内の内部通算はどうなるか」も確認しておく必要があります。
一時所得内の内部通算は可能とされています。たとえば、ある一時所得について収入より支出が多く、別の一時所得については収入が多いという場合、一時所得の金額を計算する際に、一定の範囲で合算して計算します。
出典:国税庁|一時所得の金額の計算(一時所得内の内部通算の可否)
ただし、定期保険の保険期間が満了した場合のように、そもそも収入金額がないものについては、内部通算できないとされています。
出典:国税庁|一時所得の金額の計算(一時所得内の内部通算の可否)
実務上は、次のように整理します。
| 状況 | 取扱いの方向性 |
|---|---|
| 一時所得Aは黒字、一時所得Bは赤字 | 一時所得内で内部通算できる場面あり |
| 収入金額がない保険満了など | 内部通算できない |
| 一時所得全体でマイナス | 他の所得とは損益通算できない |
| 一時所得の黒字 | 2分の1を総所得金額に算入 |
このように、一時所得においても、内部計算と他所得との損益通算は別の問題として捉える必要があります。
公営競技の払戻金は、所得区分と必要経費の範囲が重要
競馬など公営競技の払戻金については、「外れ馬券も全部経費にできるのか」という形でご相談を受けることがあります。
競馬の馬券の払戻金の所得区分は、馬券購入の期間、回数、頻度、態様、利益発生の規模、期間などの事情を総合的に考慮して区分することになります。一定の購入パターンに従い、年間を通じてほぼすべてのレースで馬券を購入し、年間収支で多額の利益を上げ、回収率が購入行為の期間全体として100%を超えるように購入し続けてきた。そうしたことが客観的に明らかな場合には、雑所得に該当すると考えられます。一方、一般の競馬愛好家については、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できないとされています。
出典:国税庁|競馬の馬券の払戻金に係る課税について
この論点は、単に「競馬だから一時所得」「回数が多いから雑所得」と機械的に決められるものではありません。
確認すべきなのは、次のような事実です。
- 購入の期間
- 購入回数、頻度
- 購入方法
- システム利用の有無
- 購入パターン
- 年間収支の状況
- 利益発生の規模
- 記録の保存状況
- 払戻金と購入費の対応関係
特に払戻金が高額な場合、税務署は入金額を確認できます。銀行口座、JRA等の取引履歴、購入記録、払戻金の明細。これらを説明できないと、所得区分や必要経費の範囲で問題になり得ます。税務調査の場面では、入金事実や取引履歴が端緒となって、申告内容が確認されることがあります。
生活用動産の売却損は、そもそも税務上使えない
不要になった家具、家電、衣類、通勤用自動車などを売却したとき、「買ったときより安く売ったのだから損失だ」とお考えになることがあります。
しかし、生活に通常必要な動産の譲渡による所得は、原則として所得税が課税されません。家具、じゅう器、通勤用自動車、衣服といった生活に通常必要な動産の譲渡による所得は非課税とされています。ただし、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、宝石、書画、骨とうなどは、この非課税の対象から除かれます。
出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
非課税になるということは、利益が出ても課税されない一方で、損失が出ても税務上は利用できない、ということでもあります。
たとえば30万円で買った家庭用家具を5万円で売ったとしても、その25万円の損失を給与所得や事業所得から差し引くことはできません。
「売却損がある」という家計上の感覚と、「所得税の計算で使える損失」は、別のものなのです。
趣味・娯楽・保養・鑑賞目的の資産の損失は通算制限がある
生活用動産とは別に、生活に通常必要でない資産の損失についても、注意が必要です。
生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上生じた損失は、競走馬の譲渡に係る一定の場合を除き、他の各種所得と損益通算できません。ここでいう「生活に通常必要でない資産」としては、競走馬など射こう的行為の手段となる動産、主として趣味・娯楽・保養・鑑賞目的で所有する不動産、ゴルフ会員権等、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう等が挙げられています。
出典:国税庁|No.2250 損益通算
たとえば次のような損失は、安易に他の所得と通算することができません。
- 別荘の売却損
- ゴルフ会員権の売却損
- 趣味目的で保有していた高額美術品の売却損
- 30万円を超える貴金属・書画・骨とう等の売却損
- 保養目的の不動産に係る損失
これらは、家計の上では確かに損失です。しかし所得税では、生活・趣味・娯楽・保養・鑑賞に近い支出や資産損失を、給与や事業の黒字から差し引くことを、広くは認めていません。
源泉分離課税の所得は、確定申告で損失調整できない
一時所得に近いもののなかには、源泉分離課税で課税関係が完結するものがあります。
たとえば、懸賞金付預貯金等の懸賞金等、一時払養老保険や一時払損害保険などの差益で一定の要件を満たすもの、一定の金融類似商品の補てん金等が、源泉分離課税の対象です。これらの所得については、収入金額等の20.315%などが源泉徴収される仕組みになっています。
出典:国税庁|No.2230 源泉分離課税制度
一時所得の側から見ても同じで、懸賞金付預貯金等の懸賞金等や、一定の一時払養老保険・一時払損害保険等の差益等については、20.315%の源泉分離課税が適用され、確定申告を行うことはできないとされています。
出典:国税庁|No.1490 一時所得
したがって、源泉分離課税で完結する所得については、確定申告で他の損失と調整する、あるいはその所得のなかに損失を持ち込む、という考え方は基本的に採れません。
非課税所得に対応する損失は、税務上の控除材料にならない
非課税所得についても、損失の扱いを誤りやすいところです。
たとえば、生活用動産の譲渡益は非課税ですが、売却損もまた税務上は利用できません。非課税所得は所得税の課税対象から除外されるため、その収入に対応する損失だけを都合よく課税所得の計算に持ち込むことはできないのです。
損失を使えるかどうかは、「現実に損をしたか」だけで決まるものではありません。税法上、その収入や資産が課税対象として扱われるのか、その損失が損益通算の対象所得に属するのか。そこまで確認する必要があります。
「通算できない損失」の典型例
実務上ご相談の多いものを整理すると、次のようになります。
| 損失の内容 | 所得区分・性質 | 他所得との通算 |
|---|---|---|
| 事業性が弱い副業の赤字 | 雑所得 | 不可 |
| 暗号資産取引の赤字 | 雑所得が原則。ただし制度改正動向に注意 | 現行一般論では給与等とは不可 |
| 個人年金の雑所得計算上の赤字 | 雑所得 | 不可 |
| 一時的な保険満了・解約で支出超過 | 一時所得または雑所得等の判断が必要 | 所得区分により確認。少なくとも一時所得の赤字を他所得には通算不可 |
| 競馬等の一般的な払戻金に係る支出超過 | 一時所得が原則 | 不可 |
| 一般の外れ馬券購入費 | 一時所得では控除不可 | 不可 |
| 家庭用家具・衣類の売却損 | 生活用動産・非課税 | 不可 |
| 通勤用自動車の売却損 | 生活用動産・非課税 | 不可 |
| 別荘の売却損 | 生活に通常必要でない資産 | 原則不可 |
| ゴルフ会員権の売却損 | 生活に通常必要でない資産 | 原則不可 |
| 高額な貴金属・書画・骨とうの売却損 | 譲渡所得になり得るが通算制限あり | 原則不可 |
| 源泉分離課税の金融類似商品 | 源泉分離で完結 | 申告調整不可 |
この表で重要なのは、損失の「名称」ではありません。損失が生じた収入・資産・取引の性質です。
「雑所得ではなく事業所得にしたい」と考える前に確認すること
雑所得の損失が通算できないと知ると、「では事業所得にできないか」とお考えになる方がいらっしゃいます。
この発想自体は、実態確認の入口としてはあり得るものです。ただし、結論を先に決めてしまうのは危険です。
事業所得として説明できるかどうかは、次のような事実を積み上げて判断します。
- 開業届を出しているか
- 青色申告承認申請をしているか
- 帳簿を作成しているか
- 取引先との契約があるか
- 継続的な売上があるか
- 広告、営業、顧客対応を行っているか
- 専用口座や事業用カードで資金を管理しているか
- 生活費と事業経費を区分しているか
- 赤字の原因を説明できるか
- 将来黒字化に向けた事業活動があるか
単に経費を多く入れて赤字にしているだけでは、事業所得としての説明は困難です。特に、家事関連費、趣味性の強い支出、自己啓発的支出、投資的支出が混在している場合には、経費性の根拠を丁寧に整理しておく必要があります。
申告書の作成にあたっては、取引の網羅性、実在性、適法性をどのように確認したか。重要な収入・経費・損失について、どの証憑で確認したか。これらを具体的に残しておくことが、後日の説明可能性につながっていきます。
通算できない損失でも、資料を捨ててよいわけではない
通算できない損失だからといって、資料保存が不要になるわけではありません。
むしろ、通算できない損失ほど、次のような説明が求められます。
- なぜその所得区分にしたのか
- なぜ必要経費として控除したのか
- なぜ他所得と損益通算していないのか
- 所得金額がゼロまたは少額になる根拠は何か
- 翌年以降に同様の取引が続くのか
- 事業所得ではなく雑所得と判断した理由は何か
- 一時所得ではなく雑所得、または譲渡所得と判断した理由は何か
資料がなければ、損失を使えないというだけでは済みません。収入の申告漏れや所得区分の誤りを疑われることもあります。
最低限、次の資料は保存しておきたいところです。
| 取引 | 保存すべき資料 |
|---|---|
| 副業収入 | 契約書、請求書、入金明細、プラットフォーム明細 |
| 副業経費 | 領収書、カード明細、用途メモ、按分根拠 |
| 暗号資産 | 年間取引報告書、取引履歴、ウォレット記録、取得価額計算表 |
| 公営競技 | 払戻金明細、購入履歴、計算書、入出金記録 |
| 保険金・返戻金 | 保険証券、支払通知書、払込保険料明細 |
| 生活用資産売却 | 売却明細、購入時資料、用途の説明 |
| 高額資産 | 購入契約、鑑定資料、売買契約、保有目的の説明 |
| 先物取引等 | 年間損益計算書、取引報告書、申告付表 |
| 過年度申告 | 確定申告書控え、付表、計算明細書 |
「通算できないから申告しない」ではなく、「申告しない理由を説明できるか」「申告する場合にどの所得区分で説明するか」を整理しておくこと。ここが肝心です。
よくある判断ミス
1. 副業の赤字を給与所得と相殺してしまう
事業所得として説明できない副業を雑所得として整理すべき場合、その赤字を給与所得と相殺することはできません。収入の規模、継続性、帳簿、取引先、営業活動を確認します。
2. 暗号資産の損失を給与と通算できると思い込む
現行の一般的な暗号資産取引は、原則として雑所得に整理されます。雑所得の損失は給与所得等と通算できません。制度改正の動向はありますが、対象年分と対象取引を確認する必要があります。
3. 一時所得の赤字を他の所得にぶつける
一時所得は、黒字の場合に2分の1を総所得金額に算入しますが、赤字を他の所得に通算することはできません。
4. 一時所得内の内部通算と、他所得との損益通算を混同する
一時所得内での内部通算が可能な場面はあります。しかし、それは他の所得から赤字を差し引けるという意味ではありません。
5. 外れ馬券をすべて経費にしてしまう
一般の競馬愛好家の払戻金は一時所得とされ、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できません。雑所得に該当するかどうかは、購入態様や収支状況等を総合的に考慮します。
6. 生活用動産の売却損を申告に入れてしまう
生活に通常必要な動産の譲渡益は原則非課税であり、売却損も税務上は利用できません。
7. ゴルフ会員権や別荘の損失を給与と通算してしまう
生活に通常必要でない資産に係る損失は、原則として損益通算できません。
8. 先物取引・FX・暗号資産を同じ投資損失として扱う
税務上は、商品や制度ごとに課税方式が異なります。申告分離課税の先物取引に係る雑所得等と、総合課税の雑所得は、分けて考える必要があります。
判断するときの実務フロー
雑所得・一時所得の損失については、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。
1. まず収入の性質を確認する
収入の名称ではなく、何に対する対価なのかを確認します。
- 労務や役務の対価か
- 資産の譲渡対価か
- 一時的な利益か
- 継続的な収入か
- 非課税所得か
- 源泉分離課税で完結する所得か
2. 所得区分を判断する
事業所得、雑所得、一時所得、譲渡所得、不動産所得。このどれに該当するかを整理します。
3. その所得区分で損失が生じるかを確認する
計算上赤字になるのか、そもそも非課税所得で損失を認識しない領域なのかを確認します。
4. 損益通算の対象かを確認する
損益通算の対象となるのは、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の損失に限られます。しかも、それぞれに制限があります。
5. 同じ所得区分内で内部通算できるかを確認する
雑所得内、一時所得内、先物取引に係る雑所得等の内部計算など、同一所得区分・同一制度内での調整を確認します。
6. 繰越控除の有無を確認する
雑所得や一時所得の一般的な赤字は、翌年に繰り越せません。ただし、先物取引に係る雑所得等など、別制度がある場合は確認が必要です。
7. 住民税・国保・扶養への影響を確認する
申告する所得が増えると、住民税や国民健康保険料、扶養判定に影響することがあります。所得税だけで判断しないこと。これも大切な視点です。
専門家に相談した方がよいケース
次のような場合は、ご自身で処理を進める前に、専門家へ相談することをおすすめします。
- 副業の赤字を事業所得として申告してよいか迷っている
- 雑所得と事業所得の境界が分からない
- 暗号資産、FX、先物、海外取引所の損益が混在している
- 一時所得と雑所得の区分に迷う収入がある
- 保険金、解約返戻金、個人年金の課税関係が分からない
- 公営競技の払戻金が高額で、所得区分や必要経費に不安がある
- 生活用動産、高額な貴金属、美術品、会員権を売却した
- 赤字を他の所得と通算できると聞いて申告しようとしている
- 過去の申告で損益通算してしまった可能性がある
- 税務署から問い合わせが来ている
- 資料が不足しており、取得費や必要経費の根拠が弱い
損失の扱いは、税額を下げるためのテクニックではありません。所得区分、取引実態、資料、資金の流れから、税務上どの損失として扱えるのかを判断していく領域です。
まとめ
雑所得や一時所得の損失は、読者の方にとって、なかなか納得しにくい結論になることがあります。
実際にお金を失っているのに、税金計算では使えない。副業で赤字なのに、給与所得と相殺できない。競馬や暗号資産で損をしているのに、所得税の還付にはつながらない。
しかし所得税では、家計上の損失、投資上の損失、税務上通算できる損失を、それぞれ別のものとして整理します。
大切なのは、都合のよい結論に数字を合わせることではありません。
- その収入は何の対価か
- どの所得区分に該当するか
- 必要経費として説明できる支出か
- 損益通算の対象所得か
- 同一所得内の内部通算にとどまるのか
- 翌年以降に繰り越せる制度があるのか
- 住民税や国保に影響しないか
- 資料で後から説明できるか
ここまで整理して、はじめて申告書に反映すべき数字が見えてきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、雑所得・一時所得・副業収入・暗号資産・保険金・一時的収入などについて、単に申告書へ入力するのではなく、所得区分、損益通算の可否、資料保存、翌年以降への影響まで確認したうえで整理いたします。
副業や一時的な取引で損失が出ているものの、給与所得や他の所得と通算できるかどうか不安をお持ちの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。申告前の段階で、どの損失を使えるのか、どの損失は使えないのかを整理しておくことが、後から説明できる確定申告につながります。
主な出典・参考情報
出典:国税庁|No.2250 損益通算
出典:国税庁|No.1500 雑所得
出典:国税庁|No.1490 一時所得
出典:国税庁|一時所得の金額の計算(一時所得内の内部通算の可否)
出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
出典:金融庁|「令和8年度税制改正の大綱」の概要―金融庁関係の主要項目について―
出典:国税庁|No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例
出典:国税庁|No.1525 暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合
出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
出典:国税庁|競馬の馬券の払戻金に係る課税について
出典:国税庁|No.2230 源泉分離課税制度
振り返り
| 論点 | 重要ポイント | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 損益通算の対象 | 不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の損失が基本 | 雑所得・一時所得は対象外 |
| 雑所得の損失 | 他の所得と通算できない | 給与所得との相殺は不可 |
| 雑所得内の内部通算 | 同じ雑所得内で通算できる場面あり | 他所得との損益通算とは別 |
| 副業の赤字 | 雑所得なら給与と通算不可 | 事業所得と説明できる実態・帳簿が必要 |
| 暗号資産の損失 | 現行一般論では雑所得として給与等と通算不可 | 令和8年度改正動向により対象年分ごとの確認が必要 |
| 先物取引に係る雑所得等 | 申告分離課税で別制度 | 一定範囲で通算・3年繰越が可能な場合あり |
| 一時所得の損失 | 他の所得と通算不可 | 黒字の場合は原則2分の1課税 |
| 一時所得内の内部通算 | 可能な場面あり | 収入金額がないものは内部通算不可 |
| 公営競技払戻金 | 一時所得か雑所得かは実態判断 | 一般の外れ馬券は一時所得では控除不可 |
| 生活用動産 | 譲渡益は原則非課税 | 売却損も税務上使えない |
| 生活に通常必要でない資産 | 別荘、ゴルフ会員権、高額骨とう等 | 損失は原則通算不可 |
| 非課税所得 | 課税対象から除外される | 損失だけを課税所得に持ち込めない |
| 源泉分離課税 | 源泉徴収で課税関係が完結 | 確定申告で損失調整できない |
| 資料保存 | 通算不可でも資料は必要 | 申告しない理由・所得区分の根拠を残す |
| 相談が必要な場面 | 副業、暗号資産、保険、公営競技、高額資産売却 | 所得区分と通算可否を申告前に整理する |