業績連動給与・株式報酬・インセンティブ設計の税務|役員報酬を成果と連動させる前に確認すべきこと

役員や幹部に、会社の成長に応じた報酬を渡したい。売上、利益、株価、企業価値、あるいはIPOやM&A、事業承継といった成果に連動させることで、経営陣のモチベーションを高めたい。

こうした目的から検討されるのが、業績連動給与、株式報酬、ストックオプションといったインセンティブ報酬です。

ただし、この領域を「節税策」という一点だけで眺めると、判断を誤りやすくなります。とりわけ役員に対する報酬は、法人税法上、損金算入が認められる範囲が厳しく制限されているからです。

しかも、論点はそれだけにとどまりません。会社法上の報酬決議、株式発行や新株予約権発行の手続、所得税や源泉徴収、会計処理、株主構成、希薄化、さらには金融機関や投資家への説明まで、幅広く絡み合ってきます。

うまく設計すれば、業績連動給与や株式報酬は、経営目標と報酬を結びつける有効な仕組みになります。その一方で、形式だけを整えて「利益が出たら役員に多く払う」「株式を渡せば節税になる」「ストックオプションなら税金を先送りできる」といった発想で進めてしまうと、税務上も経営上も危うい結果を招きかねません。

この記事では、業績連動型報酬を導入する前に、何を確認し、どこで判断を分けるべきなのかを、順を追って整理していきます。

目次

業績連動給与は「利益が出たら役員賞与を出す制度」ではない

まず押さえておきたいのは、法人税法上の「業績連動給与」が、一般的な意味での成果報酬とは別物だということです。

たとえば、業績が良かったから役員に賞与を出す。代表者の判断で、今期の利益に応じて役員報酬を上乗せする。幹部の貢献度を見て、期末に報酬額を決める。

これらは、経営判断としてはごく自然に映るかもしれません。しかし、役員給与の損金算入という観点から見ると、そのまま認められるわけではないのです。

法人税法上、役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与などに該当しない限り、原則として損金に算入できません。業績連動給与として損金算入するには、業績指標、算定方法、決定手続、開示、交付時期、損金経理といった要件を満たす必要があります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

つまり、税務上の業績連動給与とは、「利益に応じて自由に払える役員賞与」ではありません。「あらかじめ客観的に定めた算定方法に従い、透明性のある手続で支給する役員報酬」を指します。

ここを取り違えると、会社としては費用に計上したつもりでも、法人税の申告では損金不算入となり、期待した節税効果は得られません。

まず整理すべき報酬類型

インセンティブ報酬を考えるときは、最初に「何を渡すのか」をはっきりさせておく必要があります。

報酬類型主な内容税務上の主な論点
金銭賞与業績や目標達成に応じて金銭を支給する役員給与の損金算入要件、源泉徴収、社会保険、支給時期
業績連動給与利益・株価・売上等の指標に基づき算定される役員給与客観的算定方法、適正手続、開示、交付期限、同族会社制限
譲渡制限付株式一定期間譲渡できない株式を付与する会社法手続、所得税の課税時期、法人側損金算入、株式価値
パフォーマンス・シェア業績条件達成後に株式を交付する業績連動給与該当性、交付時期、会計処理、開示
ストックオプション一定価格で株式を取得できる新株予約権を付与する税制適格・非適格、権利行使時課税、法人側損金、希薄化
ファントムストック株価や企業価値に連動した金銭を支給する実質は金銭報酬であり、業績連動給与・源泉徴収等が問題
従業員・幹部向けインセンティブ役員ではない従業員への賞与、株式報酬、SO等役員給与制限とは別に、給与課税・源泉徴収・労務管理が問題

同じ「成果報酬」であっても、金銭で払うのか、株式を渡すのか、新株予約権を付与するのかによって、税務・会計・会社法・資本政策の論点は大きく変わってきます。

さらに、それが役員に対するものか、従業員・幹部に対するものかによっても、法人税上の制限は異なります。役員については、会社の利益調整に使われやすいという事情があるため、損金算入の要件がとりわけ厳しく設計されています。

業績連動給与を損金にするための基本要件

業績連動給与として損金に算入するには、単に業績指標を置くだけでは足りません。

国税庁の質疑応答事例では、損金算入できる業績連動給与について、利益・株価・売上高などの指標を基礎とした客観的な算定方法であること、確定額または確定数を限度とすること、適正な手続を経ること、内容が開示されること、一定期間内に交付されること、損金経理をすることなどが求められています。
出典:国税庁|業績連動指標の数値が確定した日(業績連動給与)
出典:国税庁|算定方法の内容の開示(業績連動給与)

実務では、次のように分解して考えると理解しやすくなります。

要件実務で確認すべきこと
対象法人同族会社の場合、損金算入できる業績連動給与の対象法人に該当するか
対象役員業務執行役員に対する給与か
全員要件他の業務執行役員すべてについて要件を満たす制度になっているか
業績指標利益、株価、売上高など、法令上認められる指標を使っているか
客観的算定方法代表者の裁量ではなく、算式により金額・株式数が決まるか
上限設定確定額または確定数を限度としているか
決定手続報酬委員会等、法令上要求される適正な手続を経ているか
開示有価証券報告書等により、算定方法の内容が開示されているか
交付時期金銭・株式・新株予約権の区分に応じた期限内に交付されるか
損金経理会計上も適切に費用処理されているか
不相当高額性要件を満たしても、過大部分がないか

法人税法上の業績連動給与は、支給の透明性と適正性を確保し、恣意的な利益調整を排除するために設けられた制度です。支給時期や支給額への恣意性を排除したうえで、はじめて損金算入の余地を与える。そこに制度の趣旨があります。

この趣旨に照らすと、「今期は利益が出たから、代表者の判断で役員賞与を増やす」という処理は、業績連動給与とは呼びにくいものです。むしろ、制度が防ごうとしている利益調整に近いものとして見られてしまいます。

オーナー会社・非上場同族会社では特に慎重に考える

中小企業やオーナー会社で最も意識しておきたいのは、業績連動給与の損金算入制度が、通常の同族会社に広く開かれた制度ではない、という点です。

国税庁は、損金算入となる業績連動給与について、同族会社の場合には、非同族会社との間にその法人による完全支配関係があるものに限る、と説明しています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

言い換えれば、多くのオーナー経営の非上場同族会社では、役員に対する業績連動型の金銭報酬を法人税上の損金にすること自体が難しい場面が少なくありません。

ここで陥りやすいのが、上場会社や大企業の役員報酬制度を見て、「自社でも同じように業績連動報酬を導入すれば損金にできる」と考えてしまうことです。

オーナー会社では、株主と経営者が一致しやすく、役員報酬を利益調整に用いる余地が大きくなります。だからこそ、税務上の制限はより強く意識しておく必要があります。

会社の状況業績連動給与の検討上の注意点
オーナー社長が大株主の非上場会社通常、業績連動給与としての損金算入は慎重に判断する必要がある
上場会社開示・報酬委員会・ガバナンス体制と連動して制度設計する
非同族会社の完全子会社要件を満たせば業績連動給与の検討余地がある
IPO準備会社上場前後で、税務・会計・開示・資本政策を一体で見直す必要がある
スタートアップストックオプション税制やSOプール制度の活用可能性を別途検討する
事業承継段階の会社株式報酬よりも株主構成・議決権・相続税への影響を優先して確認する

したがってオーナー会社では、まず定期同額給与、事前確定届出給与、役員退職給与、配当、内部留保、従業員向け賞与制度といった、他の選択肢との比較から入ることをおすすめします。

「業績連動給与」という名称の響きに引っ張られないことが肝心です。

業績指標は「税務上使えるか」だけでなく「経営実態に合うか」で選ぶ

業績連動給与では、どの指標を使うかが大きな分かれ道になります。

税務上は、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標、売上高の状況を示す指標などが論点になります。国税庁の質疑応答事例でも、業績連動給与の算定方法は、職務執行期間開始日以後に終了する事業年度の利益、株式市場価格、売上高の状況を示す指標を基礎とした客観的なものであることが求められています。
出典:国税庁|業績連動指標の数値が確定した日(業績連動給与)

とはいえ、税務上は形式的に使える指標だとしても、経営実態に合っていなければ、インセンティブとしては機能しません。

指標向いている場面注意点
売上高成長フェーズ、営業拡大を重視する場合利益率や回収可能性を無視した売上拡大を招く可能性
営業利益本業収益力を重視する場合一時的な費用削減で将来投資が抑制される可能性
EBITDAM&A・投資家目線で収益力を見たい場合税務上の指標として使えるか、開示・算定方法を慎重に確認
経常利益金融機関対応や通常収益力を重視する場合営業外損益の影響を受ける
株価上場会社・上場親会社がある場合市場価格がある株式でなければ制度上の制約が大きい
企業価値M&A・IPOを見据える場合評価方法が主観的になりやすく、税務上の客観性に注意
キャッシュフロー資金繰りを重視する場合法令上の業績指標として組み込めるか慎重な整理が必要

インセンティブ設計では、短期の利益を伸ばすための報酬が、かえって長期の会社価値を損なってしまうことがあります。

たとえば、営業利益に連動した報酬にすると、研究開発や人材採用、広告宣伝、設備投資を抑えようとする誘因が働くことがあります。売上高に連動させれば、採算の悪い案件や回収リスクの高い取引を増やしてしまうおそれもあります。

節税を考える前に、まず「その指標は、会社が本当に伸ばしたい行動を促すものになっているか」を確かめておきたいところです。

算定方法は「後から説明できる式」になっているか

業績連動給与で最も危ういのは、算定方法に裁量が入り込みすぎることです。

たとえば、次のような設計には注意が必要です。

危険な設計問題点
代表取締役が総合的に判断して決める客観的な算定方法とは言いにくい
利益水準を見て取締役会が後から決める事後的な利益調整と見られやすい
「貢献度に応じて支給」とだけ定める金額の算定根拠が不明確
KPIの達成度を後から修正できる恣意性が残る
特別損益や一時費用を都合よく除外する調整項目の客観性が問われる
算定上限がない確定額または確定数を限度とする要件に抵触する可能性

業績連動給与の算定方法については、確定額または確定数を限度としていること、他の業務執行役員に対する算定方法と同様であることなどが求められます。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

算定式は、税務調査の場で、次のように説明できる必要があります。どの指標を使ったのか。なぜその指標を選んだのか。誰が、いつ、その算定方法を決めたのか。その算定方法は、全業務執行役員に整合的に適用されているのか。実際の支給額や株式数は、算式から機械的に導き出せるのか。そして、後から数字を調整していないか。

ここで大切なのは、算定式が複雑かどうかではありません。後から見て、第三者が同じ資料を使えば同じ結果にたどり着けるかどうか、という点です。

開示要件は「上場会社だけの話」と軽く見ない

業績連動給与では、算定方法の内容が開示されていることも要件のひとつです。

国税庁の質疑応答事例によれば、業績連動給与の算定方法の開示は、業務執行役員のすべてについてそれぞれ行う必要があり、算定の基礎となる業績連動指標、限度額または限度数、客観的な算定方法の内容を開示することが求められます。もっとも、個人名まで開示する必要はなく、肩書き別に算定方法の内容が明らかであれば足りるとされています。
出典:国税庁|算定方法の内容の開示(業績連動給与)

この要件は、オーナー会社にとっては大きな壁になります。そもそも有価証券報告書を提出していない非上場会社では、税務上想定される開示要件を満たせるかどうか、慎重に見極めておく必要があります。

報酬制度の透明性は、税務上だけの問題ではなく、ガバナンス上も重要です。JPXの上場会社向けFAQでも、コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-2①について、報酬制度の設計や具体的報酬額の決定は、取締役会の責任の下で、客観性・透明性のある手続によって行うことが求められると説明されています。
出典:日本取引所グループ|上場会社向けナビゲーションシステム FAQ

上場会社やIPO準備会社では、税務上の要件と、コーポレートガバナンス上の説明責任とが重なり合います。

一方で、非上場のオーナー会社では、外部開示の要件を満たせないまま、社内資料だけで業績連動給与を設計してしまうというリスクが残ります。

支給時期・交付時期の管理を誤ると制度が崩れる

業績連動給与では、いつ支給・交付するかという時期も重要です。

国税庁のタックスアンサーによれば、金銭による業績連動給与は、業績連動指標の数値が確定した日の翌日から1か月を経過する日までに交付され、または交付される見込みであること、株式や新株予約権による給与は、同じく確定日の翌日から2か月を経過する日までに交付され、または交付される見込みであることなどが求められます。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

また、業績連動指標の数値が確定した日について、国税庁は、原則として定時株主総会で計算書類が承認された日とし、会計監査人設置会社で会社法439条の適用を受ける場合には、取締役が計算書類の内容を定時株主総会へ報告した日としています。
出典:国税庁|業績連動指標の数値が確定した日(業績連動給与)

ここで気をつけたいのは、業績指標の確定、株主総会、報酬委員会、取締役会、支給日、株式交付日、源泉徴収、会計処理が、すべて連動して動くということです。

制度設計の段階では、少なくとも次のようなスケジュール表を用意しておきたいところです。

時点確認すべきこと
事業年度開始前後報酬制度の目的、対象者、KPI、算定方法を設計
職務執行期間開始業務執行役員の範囲、報酬方針を確認
会計期間開始から一定期間内算定方法の決定手続を完了
決定後遅滞なく必要な開示を行う
期末業績指標の実績値を確定する準備
定時株主総会計算書類承認・報告、業績指標確定日を確認
指標確定後金銭・株式・新株予約権の区分に応じた期限内に支給・交付
申告時損金経理、申告調整、別表処理を確認
調査対応時議事録、算定資料、開示資料、支給記録を説明

業績連動給与は、決算が終わってから思いつきで作れる制度ではありません。事業年度の早い段階から、制度設計・決議・開示・支給までを逆算しておく必要があります。

株式報酬は「現金が出ない節税」ではない

株式報酬は、現金支出を抑えながら役員や幹部にインセンティブを与えられる制度として、しばしば注目されます。

ただし、「現金が出ないから安全」「会社の費用になるから節税」といった単純な制度ではありません。

株式報酬には、おもに次のような類型があります。

類型概要主な論点
譲渡制限付株式(RS)株式を付与し、一定期間譲渡を制限する譲渡制限解除時の課税、勤務条件、無償取得条項
パフォーマンス・シェア(PS)業績条件を満たした場合に株式を交付する業績連動給与該当性、算定方法、交付時期
事後交付型株式報酬一定期間後・条件達成後に株式を交付する権利確定条件、会計処理、税務上の費用計上
株式交付信託信託を通じて株式を交付する信託設計、会計処理、税務処理、開示
ファントムストック実際の株式ではなく株価連動金銭を支給する実質は金銭報酬であり、業績連動給与要件が問題

会社法改正を受け、上場会社が取締役等の報酬として金銭の払込み等を要しないで株式を交付する取引について、ASBJは実務対応報告第41号を公表しています。ここでASBJは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を、会社法202条の2に基づき、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする取引と定義しています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第41号 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い

株式報酬は、現金支出がない代わりに、株主構成や議決権、希薄化、資本政策に影響を及ぼします。

とりわけ非上場会社では、株式を渡すことが「お金を払う」以上に重い意味を持つことがあります。株主になった役員や幹部が退職した場合、その株式をどう買い戻すのか。M&Aの際に同意を得られるのか。相続が発生したとき、株式が親族に移転してしまわないか。少数株主問題に発展しないか。

こうした点を整理しないまま株式報酬を導入すると、将来の事業承継やM&Aの障害になりかねません。

譲渡制限付株式は課税時期と所得区分を確認する

譲渡制限付株式では、交付時、譲渡制限解除時、株式譲渡時のどこで課税されるかが重要になります。

所得税基本通達では、特定譲渡制限付株式等が交付法人との雇用契約またはこれに類する関係に基因して交付されたと認められる場合、譲渡制限解除時の所得は原則として給与所得とされます。ただし、譲渡制限が退職に基因して解除されたと認められる場合には、退職所得とされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第23条から第35条まで(各種所得)共通関係

株式報酬の税務では、「株式を渡した日」だけを見ていては足りません。

時点確認すべきこと
付与・交付時会社法上の決議、株式発行・自己株式処分、契約内容
譲渡制限期間中勤務条件、退職時の取扱い、無償取得事由
譲渡制限解除時所得税の課税時期、所得区分、源泉徴収
株式譲渡時譲渡所得、取得価額、株価算定
退職時給与所得か退職所得か、実質退職性との整合
M&A時譲渡制限解除・買取・承継の取扱い
相続時株式の評価、相続人への移転、議決権分散

譲渡制限付株式では、「いつ権利が確定するのか」「どの時点で経済的利益が実現するのか」を、制度設計の段階で明確にしておく必要があります。

また、役員給与として損金算入できるかどうかは、事前確定届出給与、業績連動給与、退職給与、不相当高額性といった判定と結びついてきます。特定譲渡制限付株式等による役員給与についても、事前確定届出給与に該当するか、業績連動給与に該当するか、そしてその要件を満たすかによって、損金算入の可否が分かれることになります。

ストックオプションは「税制適格かどうか」で個人課税が大きく変わる

ストックオプションは、スタートアップや成長企業でよく使われるインセンティブです。

ただし税務上は、税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションとで、課税関係が大きく異なります。

国税庁は、ストックオプションを、会社が自社または子会社の従業員・役員等に対して付与する、自社株式を一定期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入できる権利、と説明しています。税制非適格ストックオプションの場合は、権利行使時と株式譲渡時の段階で課税されるとされています。
出典:国税庁|No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について

一方、税制適格ストックオプションについて、国税庁は、権利行使時の経済的利益への課税を繰り延べ、株式譲渡時にその経済的利益とキャピタルゲインを合わせて譲渡所得等として申告分離課税の対象とするもの、と説明しています。
出典:国税庁|No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合

整理すると、次のようになります。

区分付与時権利行使時株式譲渡時主な注意点
税制適格SO原則課税なし課税繰延べ譲渡所得等として課税要件を満たす契約・行使・保管等が必要
税制非適格SO通常は付与時課税なし経済的利益が給与所得等として課税譲渡所得として課税権利行使時に納税資金が必要になる
有償SO適正時価で取得すれば取得時課税なしと整理されることがある設計により異なる譲渡所得等が問題評価、発行価額、条件設定の合理性が重要
信託型SO等個別論点が多い個別判断個別判断最新の国税庁Q&A・実務動向の確認が必要

税制適格ストックオプションは、個人側にとって大きなメリットとなる場合があります。しかし法人側から見ると、必ずしも「会社の損金になる制度」ではありません。税制適格ストックオプションのように、役員等に給与所得その他の勤労性所得として課税される事由が生じない場合には、新株予約権を対価とする役務提供費用について損金算入できない、と整理されるからです。

ここは大切なところです。

ストックオプションは、個人の課税繰延べや、人材の採用・定着のためには有効であっても、会社側の法人税を減らすための制度とは限らない、ということです。

スタートアップでは最新制度の確認が欠かせない

ストックオプション税制は、近年、改正や制度整備が続いています。

国税庁は、令和6年11月13日付で「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂し、今後の参考として公表しています。
出典:国税庁|ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)

また経済産業省は、社外高度人材に対するストックオプション税制について、社内の取締役・従業員等に加えて、高度な知識または技能を有する社外高度人材にまで適用対象を広げる制度として説明しています。一定の要件を満たす株式会社が計画認定を受けることで、その計画に沿った新事業に従事する社外高度人材へのストックオプションについて、課税繰延べ等の税制優遇措置が適用されるとされています。
出典:経済産業省|社外高度人材に対するストックオプション税制

さらに経済産業省は、産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行、いわゆるストックオプション・プール制度について、経済産業大臣・法務大臣の確認を得たスタートアップを対象に、一定の範囲でストックオプションの柔軟かつ機動的な発行を可能とする制度と説明しています。
出典:経済産業省|募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)に関する制度

スタートアップでは、税制適格ストックオプション、社外高度人材向け制度、SOプール、IPO時の資本政策、M&A時の取扱いが、いくつも重なり合ってきます。

そのため、次のような資料は必ず整えておきたいところです。

資料確認目的
資本政策表希薄化、SOプール、投資家持分、創業者持分を確認
株主名簿既存株主、潜在株式、議決権構成を確認
新株予約権原簿付与対象者、個数、行使価額、行使期間を管理
付与契約書税制適格要件、譲渡制限、退職時取扱いを確認
株主総会・取締役会議事録会社法上の発行手続を確認
株価算定資料行使価額、発行価額、有償SO評価の合理性を確認
税制適格要件チェック付与時・行使時・譲渡時の要件充足を管理
M&A時の取扱い条項取得、消滅、承継、加速行使の取扱いを確認

ストックオプションは、導入時に間違えると、後から修正しにくい制度です。とくに税制適格性は、付与契約、決議、行使条件、管理方法が密接に関係しているため、はじめの設計が肝心になります。

インセンティブ設計では「役員」と「従業員」を分けて考える

実務では、役員、執行役員、従業員幹部、外部顧問、業務委託先を、まとめて「キーマン」として扱ってしまいがちです。

しかし税務上は、この区分がとても重要になります。

対象者主な税務・法務論点
取締役・監査役会社法上の報酬決議、法人税法上の役員給与制限
業務執行役員業績連動給与の対象判定、全員要件、開示
社外取締役業務執行役員該当性、報酬の性質
執行役員会社法上の役員か、使用人か、契約内容を確認
従業員幹部給与・賞与・退職金・SOの課税、労務管理
業務委託先給与か外注費か、源泉徴収、消費税、ストックオプションの適格性
社外高度人材計画認定、税制適格SOの対象者要件

法人税基本通達では、業務執行役員について、法人の業務を執行する役員をいうとされ、代表取締役以外の取締役のうち業務を執行する取締役として選定されていない者、社外取締役、監査役、会計参与は含まれない、とされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第5款 損金の額に算入される業績連動給与

この区分を曖昧にしたままでは、次のような問題が生じかねません。役員給与として損金不算入になる。従業員賞与として処理したものが、役員給与と見られてしまう。業務委託先への報酬が給与と認定され、源泉徴収漏れや消費税の仕入税額控除否認につながる。ストックオプションの対象者要件を満たさない。社会保険や労務管理の処理が整合しなくなる。

インセンティブ設計では、まず対象者の法的地位を確認すること。ここが出発点になります。

会社法手続を軽視すると、税務上も説明が弱くなる

役員に対する報酬は、税務上だけでなく、会社法上の手続も欠かせません。

会社法361条では、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益について、定款に定めがない場合には、株主総会の決議によって定めるものとされています。報酬等のうち、額が確定していないものについては具体的な算定方法を、募集株式や募集新株予約権についてはその数の上限その他法務省令で定める事項を、定める必要があります。
出典:e-Gov法令検索|会社法

インセンティブ報酬では、次のような会社法上の確認が必要になります。

手続確認すべきこと
定款役員報酬・株式発行・新株予約権に関する定め
株主総会決議報酬枠、算定方法、株式・新株予約権の上限
取締役会決議具体的割当、発行条件、対象者、契約内容
報酬委員会・任意委員会上場会社・IPO準備会社での客観性・透明性
募集株式発行手続発行価額、払込、現物出資、無償交付の適用可否
新株予約権発行手続行使価額、行使期間、取得条項、退職時取扱い
株主間契約譲渡制限、買取、ドラッグ・タグ、M&A時取扱い
登記・原簿管理新株予約権原簿、株主名簿、登記事項の管理

税務調査では、税法上の要件だけでなく、「本当にその報酬制度が事前に意思決定されていたか」という点が確認されます。

議事録がない。議事録と契約書の内容が食い違っている。株主総会決議では総額しか定めておらず、個別の算定方法がわからない。取締役会で後から金額を調整している。ストックオプション契約が税制適格要件と整合していない。

こうした状態では、後から説明できる処理とはいえません。

税務調査で見られるポイント

業績連動給与・株式報酬・ストックオプションは、税務調査で資料の整合性が問われやすい領域です。

とくに見られるのは、次の点です。

調査で見られる資料確認されるポイント
株主総会議事録報酬決議、算定方法、株式・新株予約権の上限
取締役会議事録個別支給・割当の決定、発行条件
報酬委員会資料算定方法の客観性、決定手続
有価証券報告書等開示要件を満たしているか
報酬規程支給基準、KPI、上限、対象者
算定シート算式どおりに支給額・株式数が計算されているか
会計処理資料損金経理、費用計上時期、引当処理
給与台帳・源泉徴収簿個人課税・源泉徴収との整合性
株主名簿・新株予約権原簿実際の付与・行使・譲渡状況
株価算定資料行使価額・発行価額・公正価値の妥当性
契約書退職時、M&A時、譲渡制限、没収条項
資本政策表希薄化、潜在株式、支配権への影響

業績連動給与は、業務執行役員の一部が要件を満たさない場合には、すべての業績連動給与が損金算入できないと整理される点にも、注意が必要です。

また、株式または新株予約権による業績連動給与の場合、損金算入が可能となるのは、市場価格のある株式、またはその行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権を交付するものに限られます。そのため、同族会社が発行する株式または新株予約権による給与は損金算入の対象外になると整理されています。

この点は、非上場のオーナー会社が特に誤りやすい部分です。

インセンティブ報酬を導入する前の判断順序

業績連動給与や株式報酬は、制度名から入ると失敗します。

先に決めるべきなのは、報酬制度の目的です。

1. 何を実現したいのか

まずは、目的を言葉にしてみます。

目的向きやすい制度
毎月の生活資金を安定して支給したい定期同額給与
年1回・半年ごとに役員賞与を支給したい事前確定届出給与
上場会社で業績と役員報酬を連動させたい業績連動給与
幹部に中長期の企業価値向上を意識させたい株式報酬、ストックオプション
スタートアップで現金報酬を抑えつつ人材を採用したい税制適格ストックオプション等
退任時に大きな報酬を支給したい役員退職給与
後継者に経営権を移したい種類株式、持株会社、信託、事業承継設計

報酬制度は、税金を減らすためだけに作るものではありません。会社がどの行動を評価し、誰にどのようなリスクを負わせ、どの期間の成果を見たいのか。それを明確にしておく必要があります。

2. 役員報酬か、従業員報酬かを分ける

役員に対する制度なのか、従業員・幹部に対する制度なのかによって、法人税上の取扱いは変わります。

役員であれば、法人税法34条の損金算入制限を確認します。従業員であれば、給与課税、源泉徴収、労務管理、就業規則、賞与規程を確認します。業務委託先であれば、給与認定、源泉徴収、消費税、外注実態を確認します。

ここを混同すると、制度全体が崩れてしまいます。

3. 会社の属性を確認する

次に、会社の属性を確認します。

上場会社か。非上場会社か。同族会社か。非同族会社の完全子会社か。IPO準備会社か。スタートアップか。事業承継段階か。将来M&Aを想定しているか。

この属性によって、業績連動給与の使いやすさ、株式報酬の設計、ストックオプション税制の適用可能性、開示義務、投資家対応が変わってきます。

4. 税務・会計・会社法・資本政策を同時に確認する

インセンティブ報酬は、税務だけで決められるものではありません。

領域確認すべきこと
法人税損金算入できるか、不相当高額部分がないか
所得税給与所得、退職所得、譲渡所得、雑所得の区分
源泉徴収支給・権利確定・行使時の源泉徴収義務
社会保険金銭賞与・報酬としての取扱い
会社法株主総会決議、取締役会決議、発行手続
会計費用計上時期、公正価値、開示
資本政策希薄化、議決権、SOプール、株主構成
労務就業規則、退職時取扱い、従業員間公平
金融機関対応利益水準、純資産、返済能力への影響
M&A・IPO潜在株式、権利確定、買収時処理
事業承継後継者、少数株主、相続税評価への影響

税務上は損金にできても、株主構成を複雑にして将来のM&Aを難しくしてしまうなら、経営判断としては失敗かもしれません。個人側の課税を繰り延べられても、退職時や権利行使時に納税資金が不足するようでは、制度として不十分です。

5. 税務調査で説明できる資料を残す

最後に、資料です。

インセンティブ報酬では、制度設計時の資料が、後になって重要な意味を持ちます。

最低限、次の資料は残しておきたいところです。

資料残すべき内容
報酬制度設計メモ導入目的、対象者、報酬類型、税務上の前提
KPI設計資料指標の選定理由、算定式、上限、対象期間
株主総会議事録報酬決議、株式・新株予約権の上限、算定方法
取締役会議事録個別割当、発行条件、契約内容
開示資料有価証券報告書、事業報告、社内開示資料
契約書譲渡制限、退職時、M&A時、没収、行使条件
株価算定書行使価額、公正価値、発行価額の根拠
会計処理資料費用計上、損金経理、申告調整
源泉徴収資料課税時期、所得区分、源泉税
資本政策表付与前後の株主構成、潜在株式、希薄化
専門家検討メモ税務・会社法・会計上の検討経緯

「制度はある」というだけでは不十分です。なぜその制度を導入し、なぜその対象者に付与し、なぜその金額・株式数になったのか。後から説明できることが重要になります。

危険なインセンティブ設計の典型例

次のような設計には、特に注意が必要です。

危険な設計問題点
非上場同族会社で、代表者の判断により利益連動賞与を損金処理する業績連動給与としての損金算入要件を満たさない可能性が高い
業績指標を後から調整できる制度にする客観性が弱く、利益調整と見られやすい
株式報酬を導入したが退職時の買取条項がない退職者・相続人が株主として残る可能性
ストックオプションの税制適格要件を契約で確認していない権利行使時に想定外の給与課税が生じる可能性
有償SOの評価を簡易に済ませる有利発行、給与課税、株主間価値移転が問題になる可能性
M&A時の取扱いを決めていない買収交渉で潜在株式が障害になる可能性
税務だけを見て会計費用を見ていない利益、純資産、金融機関対応、投資家説明に影響
役員・従業員・外部人材の区分が曖昧給与認定、源泉徴収、消費税、役員給与制限が問題になる
株主総会決議が報酬総額だけで制度内容が不明会社法手続・税務上の事前確定性の説明が弱い
税務調査時に算定資料が残っていない支給額・株式数の根拠を説明できない

これらは、制度そのものが危険なわけではありません。設計目的、手続、資料、実態が伴わないことこそが危険なのです。

業績連動給与・株式報酬は「節税」より「設計」が先にある

業績連動給与、株式報酬、ストックオプションは、会社の成長にとって有効な制度になり得ます。

ただし、その本質は節税ではありません。

経営陣にどの行動を促すのか。幹部にどの期間の成果を意識させるのか。現金報酬と株式報酬をどう配分するのか。短期利益と中長期価値をどう両立させるのか。株主、金融機関、投資家、後継者にどう説明するのか。そして税務調査の場で、制度の目的と資料をどう示すのか。

こうした点を整理したうえで、結果として税務上も認められる制度を設計していく。その順番が大切です。

特にオーナー会社では、「上場会社がやっているから」「スタートアップで流行っているから」「ストックオプションなら税金が安いから」といった理由だけで導入すべきではありません。

役員報酬は、会社と個人の間のお金の移動です。株式報酬は、会社の支配構造に影響します。ストックオプションは、将来の株主構成と出口戦略に影響します。

税金だけでなく、会社の将来に耐えられる設計かどうかを見極めること。それが、正しいインセンティブ設計の出発点になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

業績連動給与、株式報酬、ストックオプションは、制度名だけで判断できるものではありません。

会社が同族会社か、上場会社か、IPO準備会社か、スタートアップか。対象者が役員か、従業員か、外部人材か。金銭で支給するのか、株式で付与するのか、新株予約権を発行するのか。将来、事業承継やM&Aを予定しているのか。

こうした前提の違いによって、最適な設計は大きく変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、インセンティブ報酬を単なる節税策としてではなく、役員報酬設計、法人税・所得税、会社法手続、会計処理、資本政策、税務調査対応、そして将来の承継・M&Aまでを含めた経営判断として整理いたします。

「役員に成果連動報酬を出したいが、損金になるか不安がある」。「ストックオプションを導入したいが、税制適格要件に不安がある」。「幹部に株式を持たせたいが、将来の退職・相続・M&Aが心配だ」。「上場会社やスタートアップの制度を、自社に当てはめてよいか判断したい」。

このようなお悩みをお持ちの場合は、制度を導入する前に、現在の株主構成、役員報酬、資本政策、決算書、将来計画を整理したうえで検討することが重要です。

ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。

この記事の振り返り

重要論点押さえるべきポイント
業績連動給与の本質利益に応じて自由に払える役員賞与ではなく、客観的算定方法・手続・開示を前提とする制度
役員給与の損金算入定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与などに該当しない役員給与は原則損金不算入
同族会社の注意点多くの非上場オーナー会社では、業績連動給与として損金算入できるか慎重な確認が必要
業績指標利益、株価、売上高などを使う場合でも、経営実態に合うか、客観性があるかを確認する
算定方法後から代表者が裁量で決めるのではなく、第三者が同じ資料で同じ結果に到達できる算式が必要
開示要件業務執行役員ごとの算定方法が明らかになる形での開示が必要になる
支給・交付時期金銭、株式、新株予約権ごとに、業績指標確定後の交付期限を確認する
株式報酬現金支出がない代わりに、株主構成、希薄化、退職時買取、M&A、相続に影響する
譲渡制限付株式譲渡制限解除時の課税、所得区分、無償取得条項、退職時の扱いが重要
ストックオプション税制適格か非適格かにより、個人課税・法人側損金・納税資金が大きく変わる
スタートアップ税制適格SO、社外高度人材、SOプールなど、最新制度の確認が欠かせない
会社法手続株主総会決議、取締役会決議、株式・新株予約権発行手続を税務と一体で確認する
税務調査対応議事録、算定資料、契約書、開示資料、会計処理、源泉徴収、資本政策表を整える
最終判断軸節税効果だけでなく、資金繰り、説明可能性、信用、承継、将来の選択肢に耐えるかで判断する
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