譲渡収入・取得費・譲渡費用の整理|不動産売却の税額を左右する資料と判断軸

不動産を売却したときの税金は、「いくらで売れたか」だけで決まるものではありません。

土地や建物の譲渡所得は、基本的に次の流れで計算します。

譲渡収入 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額 = 課税譲渡所得金額

このうち、この記事で中心に扱うのは「譲渡収入」「取得費」「譲渡費用」の三つです。

不動産売却のご相談では、売買契約書に記された売却金額だけを見て、「利益が出た」「損が出た」と判断されているケースを少なからず目にします。しかし実際には、固定資産税等の精算金、建物の減価償却費相当額、購入時の諸費用、改良費、取壊し費用、仲介手数料、立退料、相続で引き継いだ取得費まで整理して初めて、譲渡所得の金額は正しく見えてきます。

とりわけ注意が必要なのは、次のような場面です。

  • 購入時の契約書や領収書が見つからない
  • 相続した不動産を売却した
  • 建物付き土地を購入したあと、建物を取り壊している
  • 売却前にリフォーム、測量、解体、残置物撤去を行っている
  • 売却代金からローン返済や諸費用が差し引かれて入金されている
  • 固定資産税・都市計画税の精算金を受け取っている
  • 共有不動産を売却し、代金や費用を共有者で分けている
  • 賃貸物件や事業用建物を売却した
  • 親族間や同族会社との売買で、時価との関係が気になる

譲渡所得の計算は、税額を下げるために数字を作る作業ではありません。売却という大きな資産取引について、契約、登記、入出金、取得時の資料、保有中の利用実態、売却時の支出を、後から自分の言葉で説明できる形に整えていく作業です。

この記事では、不動産譲渡所得の計算の中核となる「譲渡収入・取得費・譲渡費用」を、実務のうえでどう整理していくべきかをお伝えします。居住用財産の3,000万円特別控除、空き家特例、買換え特例、譲渡損失の損益通算といった個別特例は別の記事で扱うため、ここではその前提となる金額の整理に絞ってお話しします。

目次

譲渡所得計算の出発点は「手残り」ではなく「収入・取得費・譲渡費用」

不動産を売却したとき、通帳に入金される金額は、売却代金そのものとは限りません。

決済の場では、売買代金、固定資産税等の精算金、仲介手数料、登記関係費用、ローン返済、抵当権抹消費用、管理費・修繕積立金の精算、司法書士報酬などが一度に処理されます。その結果、通帳に表示されるのは「最終的に残った金額」だけになります。

けれども、譲渡所得は、この通帳の残額から直接計算するものではありません。

まず、買主から受け取る譲渡の対価を「譲渡収入」として整理し、そこから取得費と譲渡費用を差し引いていきます。国税庁も、土地や建物を売ったときの譲渡所得は、売った金額である収入金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するとしています。
出典:国税庁|No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

この考え方を整理すると、次のようになります。

区分意味よくある資料
譲渡収入不動産を譲渡した対価として受け取る金額売買契約書、決済明細書、精算書、通帳
取得費売却した不動産を取得するためにかかった金額等取得時契約書、建築請負契約書、領収書、登記資料
譲渡費用不動産を売るために直接かかった費用仲介手数料領収書、測量費、印紙、立退料、解体費
特別控除一定の要件を満たす場合に控除できる金額住民票、登記事項証明書、特例関係書類

ここで押さえておきたいのは、「お金が出ていったもの」がすべて取得費や譲渡費用になるわけではない、という点です。ローン元本の返済、固定資産税、修繕費、引越費用、家具家電の購入費、売却代金の取立費用などは、税務上の位置づけを一つひとつ分けて考える必要があります。

譲渡収入は、売買契約書の売買代金だけとは限らない

譲渡収入とは、通常、土地や建物の譲渡の対価として買主から受け取る金銭の額を指します。

ただし実務では、「売買契約書に記載された売買代金」だけを見て終えてしまうと、収入金額がずれてしまうことがあります。

国税庁は、土地建物の譲渡所得の収入金額について、通常は買主から受け取る金銭の額としたうえで、未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合には、その額を譲渡価額に算入するとしています。あわせて、金銭の代わりに物や権利などを受け取った場合には、その時価も収入金額になります。
出典:国税庁|No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額

譲渡収入を整理するときは、少なくとも次の資料を確認します。

  • 売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 決済明細書
  • 固定資産税・都市計画税の精算書
  • 管理費・修繕積立金等の精算書
  • 仲介会社や司法書士からの精算資料
  • 通帳の入出金明細
  • 借入金返済明細
  • 共有者間の代金分配資料
  • 代物弁済、交換、現物出資等がある場合の契約書

そのうえで、譲渡収入は次の要素を分けて考えることが大切です。

売買契約上の売買代金 + 固定資産税・都市計画税等の未経過分精算金 + 金銭以外で受け取った物・権利・経済的利益 = 譲渡収入として検討すべき金額

なお、売却代金を2年以上に分けて受け取る場合であっても、一つの契約に基づく土地などの売却代金は、その土地建物を譲渡した年の収入金額になるとされています。分割で入金されるから入金年ごとに課税される、と単純に考えないよう注意してください。
出典:国税庁|No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額

固定資産税・都市計画税の精算金は、譲渡収入に含めて整理する

不動産売買では、固定資産税・都市計画税について、売主と買主の間で日割り精算が行われることがあります。

固定資産税等は、その年の1月1日時点の所有者に課税されます。そのため売主がその年分を納付し、引渡日以後に対応する金額を買主から受け取る、という流れになります。この受取額を、実務では「固定資産税等の精算金」と呼ぶことがあります。

この精算金は、感覚的には「立替金の精算」のように見えます。しかし所得税の譲渡所得計算では、未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合、その額は譲渡価額に算入されます。
出典:国税庁|No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額

したがって、売買契約書上の売買代金だけを譲渡収入とし、固定資産税等の精算金を除外していると、申告漏れにつながるおそれがあります。

一方で、売主が負担した固定資産税そのものは、通常、その不動産を保有していたことに伴う税金です。売却のために直接かかった費用ではないため、譲渡費用とは切り離して整理します。後ほど触れるように、固定資産税など資産の維持・管理のためにかかった費用は、譲渡費用にはなりません。
出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

この点は、収入と費用を「決済明細上の差引額」でまとめて処理してしまうと、見落としやすい部分です。

代物弁済・現物出資・低額譲渡では、時価を確認する場面がある

譲渡収入は、通常の売買代金だけを考えれば足りる、というわけではありません。

国税庁は、個人が法人に対して土地建物を時価の2分の1を下回る価額で売った場合や贈与した場合には、その土地建物の時価が収入金額になるとしています。さらに、法人へ土地建物を現物出資した場合、債務の弁済のために土地建物を債権者に渡す場合、借地権など資産が消滅して補償金を受ける場合なども、譲渡があったものとして収入金額を整理する必要があります。
出典:国税庁|No.3214 土地建物を売ったときの収入金額に含める金額

とくに、親族間、同族会社間、個人から法人への移転では、売買代金が当事者間で自由に決められているように見えても、税務上は時価との関係を確認しなければならない場合があります。

この記事では低額譲渡や時価評価の詳細までは踏み込みませんが、譲渡収入を整理する段階で、次のような取引は早めに専門家へ確認しておきたい領域です。

  • 親族に安く売却した
  • 自分が経営する会社に不動産を売却した
  • 不動産を法人へ現物出資した
  • 借入金の返済代わりに不動産を渡した
  • 売買代金の一部を現金以外で受け取った
  • 借地権、地上権、立退補償、収用補償などがある
  • 契約書上の価額と実際の経済的利益が一致していない

譲渡収入の論点は、「いくら入金されたか」だけではありません。「税務上、何をいくらで譲渡したものと見るか」という問いでもあるのです。

取得費は、購入代金だけではなく取得時から保有中までの資料で組み立てる

取得費とは、売却した土地や建物を取得するためにかかった金額を指します。

国税庁は、取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか、設備費や改良費なども含まれるとしています。建物については、購入代金または建築代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額が取得費になります。
出典:国税庁|No.3252 取得費となるもの

取得費の基本構造は、次のように整理できます。

取得時の購入代金・建築代金 + 取得時の購入手数料・一定の税金・登記費用等 + 設備費・改良費等 - 建物の減価償却費相当額 = 取得費として検討する金額

取得費に含まれる可能性がある主なものとして、国税庁は次の項目を挙げています。

  • 土地や建物の購入代金
  • 建物の建築代金
  • 購入手数料
  • 設備費
  • 改良費
  • 登録免許税、登記費用、不動産取得税、印紙税など一定の取得時費用
  • 借主を立ち退かせるために支払った立退料
  • 土地の埋立て、土盛り、地ならし等の造成費用
  • 土地取得に際して支払った測量費
  • 所有権を確保するために要した一定の訴訟費用
  • 土地利用目的で建物付き土地を購入し、おおむね1年以内に建物を取り壊す場合の建物購入代金や取壊し費用
  • 土地建物を購入するための借入金利子のうち、使用開始日までの期間に対応する部分

ただし、事業所得などの必要経費に算入されたものは、取得費には含まれません。また、業務の用に供される資産の場合には、取得時の登録免許税や不動産取得税などの税金の扱いが異なることがあります。
出典:国税庁|No.3252 取得費となるもの

ここでの実務上のポイントは、取得費を「購入代金だけ」で見ないことです。

取得した時点の契約書や領収書はもちろん、その後の増改築、造成、改良、利用開始前の借入金利子、建物取壊し、過去の不動産所得申告書までさかのぼって確認しなければ、取得費の全体像は見えてきません。

建物の取得費は、減価償却費相当額を差し引く

建物を売却した場合、購入代金や建築代金をそのまま取得費にできるわけではありません。

建物は、使用や時の経過によって価値が減っていく資産です。そのため建物の取得費は、購入代金や建築代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。
出典:国税庁|No.3261 建物の取得費の計算

ここで注意したいのは、事業用・賃貸用の建物と、自宅など非業務用の建物とで、減価償却費相当額の考え方が異なる点です。

事業に使われていた建物は、取得してから売却するまでの毎年の減価償却費の額を合計します。仮に毎年の減価償却費を必要経費としていない部分があっても、毎年の減価償却費の額を合計することに変わりはないとされています。
出典:国税庁|No.3261 建物の取得費の計算

一方、事業に使われていなかった建物については、一定の方法で減価償却費相当額を計算します。国税庁は、非業務用建物について、建物の耐用年数の1.5倍の年数に対応する旧定額法の償却率を用い、取得価額、償却率、経過年数から減価償却費相当額を計算する方法を示しています。
出典:国税庁|No.3261 建物の取得費の計算

このため、建物の取得費を整理する際には、次の点を確認しておく必要があります。

  • 建物の取得価額はいくらか
  • 土地建物を一括購入した場合、土地と建物の価額をどう区分するか
  • 建築代金、設備代、設計料、工事費の資料があるか
  • 自宅、賃貸用、事業用、併用のどれか
  • 賃貸や事業に使っていた期間があるか
  • 過去の減価償却費を必要経費にしていたか
  • 固定資産台帳や不動産所得の決算書があるか
  • 増改築や資本的支出があるか
  • 建物を取り壊して土地を売却しているか

「建物は古いから価値はゼロ」「固定資産税評価額が低いから取得費も低い」といった感覚的な判断ではなく、取得価額と減価償却費相当額を、資料に基づいて丁寧に整理することが大切です。

土地建物を一括購入している場合は、土地と建物の区分が必要になる

土地と建物を一括で購入している場合、契約書に「土地いくら、建物いくら」と明確に記載されていないことがあります。

しかし譲渡所得の計算では、土地と建物を分けて考える場面が出てきます。とくに建物は減価償却費相当額を差し引くため、土地建物を一括で取得したケースでも、取得時の土地価額と建物価額の区分が問題になります。

区分を検討する際には、次の資料を確認します。

  • 取得時の売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 固定資産税評価証明書
  • 消費税額の記載
  • 建物の建築請負契約書
  • 登記事項証明書
  • 不動産取得税の通知書
  • 当時の不動産業者作成資料
  • 住宅ローン資料
  • 過去の確定申告書や減価償却明細

土地と建物の区分は、「固定資産税評価額で按分すればよい」と機械的に決められるものではありません。契約書上の内訳、消費税の記載、当時の取引実態、建物の状態、取得後の利用状況を総合し、合理的に説明できる方法を選ぶ必要があります。

この区分を誤ると、建物の減価償却費相当額、譲渡所得、消費税、事業用資産の処理にまで影響が及びます。売却時だけでなく、保有中の不動産所得申告との整合性も確認しておきたいところです。

概算取得費は便利だが、安易に使うと税額が大きくなることがある

取得費が分からない場合には、概算取得費の取扱いがあります。

国税庁は、売った土地建物が先祖伝来のものであったり、買い入れた時期が古かったりして取得費が分からない場合には、売った金額の5%相当額を取得費とすることができるとしています。また、実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合にも、5%相当額を取得費とすることができます。
出典:国税庁|No.3258 取得費が分からないとき

概算取得費は、資料がない場合の救済的な取扱いとして、実務上とても重要です。ただし、納税者にとって常に有利とは限りません。

たとえば、実際には高額で購入した不動産であっても、契約書や領収書が見つからないために売却価額の5%しか取得費にできないとなると、譲渡所得が大きくふくらみ、税負担が重くなってしまうことがあります。

ですから、取得費が分からない場合でも、すぐに概算取得費を選ぶのではなく、まず次の資料を探すことが大切です。

  • 取得時の売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 登記済権利証、登記識別情報
  • 取得時の登記関係資料
  • 不動産取得税の通知書
  • 住宅ローン契約書、返済予定表
  • 金融機関の古い通帳、借入資料
  • 不動産業者、建築会社、司法書士の控え
  • 親族が保管している取得資料
  • 相続税申告書
  • 過去の不動産所得の青色申告決算書、収支内訳書
  • 固定資産台帳、減価償却明細

とくに相続不動産では、現在の所有者本人が購入したわけではないため、取得費の資料が見つかりにくくなります。それでも、被相続人の取得資料を探すことで、概算取得費よりも実際の取得費を使える可能性が出てきます。

概算取得費を使うかどうかは、「資料がないから仕方ない」で終わらせないことです。資料探索の範囲、取得費を推定できる根拠、将来の説明可能性まで踏まえて判断すべき論点だと考えています。

相続・贈与で取得した不動産は、前所有者の取得費と取得時期を引き継ぐ

相続や贈与で取得した不動産を売却した場合、取得費の考え方はとりわけ重要になります。

国税庁は、相続や贈与によって取得した土地建物を売った場合の取得費について、被相続人や贈与者がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算するとしています。取得時期についても、被相続人や贈与者の取得時期が、そのまま相続人や受贈者に引き継がれます。
出典:国税庁|No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

つまり、相続した日や贈与を受けた日を基準に取得費を考えるのではなく、前所有者がいつ、いくらで取得したかを確認していくことになります。

相続不動産を売却するときは、次の資料が重要です。

  • 被相続人の取得時の売買契約書
  • 被相続人が建築した場合の建築請負契約書
  • 被相続人の取得時の登記資料
  • 被相続人の不動産所得の申告書
  • 固定資産台帳、減価償却資料
  • 相続税申告書
  • 遺産分割協議書
  • 相続登記関係資料
  • 取得費加算の特例を検討するための相続税資料
  • 共有者ごとの取得関係を示す資料

相続や贈与により取得した業務用ではない土地建物について、相続人や受贈者が支払った登記費用や不動産取得税も、取得費に含まれるとされています。ただし、取得費が分からないために概算取得費を使う場合には、相続人などが支払った登記費用などを取得費に含めることはできません。
出典:国税庁|No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

この点は、相続不動産の申告で見落とされやすい論点です。

また、相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などを一定期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できる特例があります。この特例は、相続や遺贈により財産を取得した人で、その財産について相続税が課税され、相続開始のあった日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることなどが要件とされています。
出典:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続した不動産を売却した場合は、「相続で取得したから取得費ゼロ」と単純に考えるのではなく、被相続人の取得費、取得時期、相続税申告の有無、取得費加算の特例まで一通り確認しておく必要があります。

譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に限られる

譲渡費用とは、不動産を売るために直接かかった費用を指します。

国税庁は、主な譲渡費用として、土地や建物を売るために支払った仲介手数料、売主が負担した印紙税、貸家を売るために借家人に明け渡してもらうときの立退料、土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額、より有利な条件で売るために既契約を解除した場合の違約金、借地権を売るときの名義書換料などを挙げています。
出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

一方で、譲渡費用に該当しないものも、はっきりと意識しておく必要があります。国税庁は、修繕費や固定資産税など、その資産の維持や管理のためにかかった費用、売った代金の取立てのための費用などは譲渡費用にならないとしています。
出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

譲渡費用の判断軸は、次のように整理できます。

支出の性質譲渡費用になりやすいか判断のポイント
売却のための仲介手数料なりやすい売るために直接支払ったか
売買契約書の印紙税なりやすい売主が負担したか
売却のための測量費なりやすい売却条件として必要だったか
貸家売却のための立退料なりやすい売却のために借家人へ支払ったか
売却のための建物取壊し費用なりやすい土地を売るための取壊しか
通常の修繕費原則としてなりにくい維持管理目的ではないか
固定資産税原則としてならない保有に伴う税金ではないか
ローン返済額原則としてならない借入金の返済であり売却費用ではない
引越費用原則として慎重判断売るために直接必要な費用か
残置物撤去費用内容により判断売却条件との関係を確認

譲渡費用を判断するときは、「売却時期に支払ったか」ではなく、「売るために直接かかったか」を確認します。

たとえば、売却前に外壁塗装や内装工事を行った場合でも、それが通常の修繕なのか、資産価値を高める改良なのか、あるいは売却条件として必要だった支出なのかによって、取得費、譲渡費用、必要経費、家事費のいずれに整理するかが変わってくる可能性があります。

売却前のリフォーム・修繕・解体は、支出目的と証拠が重要になる

不動産の売却前には、売却価格を上げるため、買主の要望に対応するため、あるいは空き家を処分するためといった理由で、リフォーム、修繕、解体、残置物撤去、測量などが行われることがあります。

こうした支出は、まとめて「売却前にかかった費用」として処理するのではなく、支出の性質ごとに分けて整理する必要があります。

判断の入口は、次の四つです。

一つ目は、資産価値を増加させる改良費・設備費として取得費に含めるべきものかどうか。

二つ目は、不動産を売るために直接かかった譲渡費用かどうか。

三つ目は、賃貸物件や事業用不動産の通常の維持管理費として、不動産所得や事業所得の必要経費にすでに含めるべきものかどうか。

四つ目は、生活上の支出や家事費として、譲渡所得計算には入れないものかどうか。

たとえば、土地を売るために建物を取り壊した場合、その取壊し費用と建物の損失額は譲渡費用に該当し得ます。
出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

これに対して、単なる維持管理のための修繕費や固定資産税は、譲渡費用にはなりません。
出典:国税庁|No.3255 譲渡費用となるもの

この区分を誤ると、譲渡所得の金額だけでなく、過年度の不動産所得、事業所得、消費税、固定資産台帳との整合性にも影響が及びます。

売却前の支出については、請求書や領収書だけでなく、支出目的を説明できる資料をあわせて残しておくことが大切です。

  • 工事契約書
  • 見積書
  • 請求書
  • 領収書
  • 工事内容の明細
  • 売買契約書上の売主負担条項
  • 買主からの要望資料
  • 解体前後の写真
  • 測量図、境界確認書
  • 仲介会社とのやり取り
  • 賃貸終了や立退きに関する合意書

「何に支払ったか」だけでなく、「なぜ支払ったか」まで説明できる資料を残しておくこと。これが、後日の税務判断を支える土台になります。

ローン返済・抵当権抹消費用・登記費用は、支出の性質を分けて考える

不動産の売却では、売却代金からローンを返済し、抵当権を抹消して買主に引き渡すことがあります。

このとき、売却代金から大きな金額が差し引かれるため、「ローンを返したから利益はほとんどない」と受け止めてしまいがちです。しかし、ローン元本の返済は、取得費や譲渡費用とは別の資金移動です。

譲渡所得の計算では、借入金の残高がいくらかを見るのではなく、あくまで譲渡収入、取得費、譲渡費用を整理していきます。

抵当権抹消に関する支出についても、すべてが自動的に譲渡費用になるわけではありません。売却のために必要な登記関連費用なのか、借入金の整理に関する費用なのかを、個別に確認する必要があります。

実務では、次の資料を分けて確認します。

  • ローン返済予定表
  • 金融機関の完済計算書
  • 抵当権抹消登記の司法書士明細
  • 売買契約上の引渡条件
  • 決済明細書
  • 登記費用の内訳
  • 取得時の借入金利子と売却時の借入金返済の区分

とくに、取得時の借入金利子のうち使用開始日までの期間に対応するものは取得費に含まれる可能性がある一方で、売却時のローン返済額は取得費・譲渡費用とは別に整理します。取得時・保有時・売却時の支出を混同しないことが、ここでは何より重要です。

共有不動産では、収入・取得費・譲渡費用を共有者ごとに整理する

共有不動産を売却した場合、譲渡所得は共有者ごとに整理する必要があります。

売買契約や決済実務では、代表者が売却代金を受け取り、そのあとで共有者間に分配することがあります。しかし税務上は、実際の権利関係、共有持分、代金分配、費用負担を確認したうえで、共有者ごとに譲渡収入、取得費、譲渡費用を整理していきます。

確認すべき事項は、次のとおりです。

  • 登記上の共有持分
  • 実際の取得資金の負担者
  • 取得費資料が共有者ごとにあるか
  • 売却代金の受取者
  • 共有者間の代金分配
  • 譲渡費用の負担者
  • 共有者ごとの居住実態
  • 共有者ごとの特例適用の可否
  • 相続直後か、遺産分割後か
  • 代償分割、換価分割、共有物分割との関係

共有不動産では、「代表者が受け取ったから代表者の所得」とは限りません。また、共有者間の代金分配が登記持分と異なる場合には、贈与税や実質所得者の問題が生じる可能性もあります。

共有者ごとの税務判断は、所得税だけでなく、相続、贈与、共有物分割、家族間の資金移動にも関わってきます。売却後に整理するのではなく、売却前または決済前の段階で、共有者ごとの持分、受取額、費用負担を明確にしておくことをおすすめします。

事業用・賃貸用不動産では、過去の申告内容との整合性を見る

賃貸アパート、貸店舗、事務所、診療所、事業用建物などを売却する場合、譲渡所得の計算だけを切り離して見ることはできません。

過去に不動産所得や事業所得の申告をしている場合には、取得費、建物価額、減価償却費、資本的支出、固定資産台帳、修繕費、借入金利子などとの整合性が重要になります。

確認すべき資料には、次のものがあります。

  • 過去の青色申告決算書
  • 収支内訳書
  • 固定資産台帳
  • 減価償却明細
  • 修繕費・資本的支出の処理資料
  • 建物附属設備・構築物の明細
  • 借入金明細
  • 賃貸借契約書
  • 消費税申告書
  • インボイス登録状況
  • 課税事業者・免税事業者の判定資料

過去に減価償却費を必要経費として計上していた建物については、その累計額が譲渡時の取得費計算に影響します。必要経費として計上していなかった減価償却費があっても、事業に使われていた建物については、毎年の減価償却費の額を合計することに変わりはないとされています。
出典:国税庁|No.3261 建物の取得費の計算

また、事業用建物や賃貸用建物の売却では、消費税の確認も必要になることがあります。所得税では譲渡所得として分離課税を考える一方、消費税では課税売上、非課税売上、課税売上割合、仕入税額控除などの判断が求められます。

所得税と消費税は、同じ不動産売却でも見ている軸が異なります。売却年だけでなく、過去の申告内容、届出、帳簿、固定資産台帳まで確認しておくことが、誤りを防ぐうえで重要です。

譲渡所得の内訳書は、資料整理のチェックリストとしても使える

不動産譲渡所得の申告では、確定申告書第三表だけでなく、土地・建物用の「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を作成することがあります。

国税庁は、令和7年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書、明細書、手引き、説明書等を公表しており、その中に譲渡所得関係の様式や令和7年分譲渡所得の申告のしかたも掲載しています。
出典:国税庁|確定申告書等の様式・手引き等(令和7年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)

譲渡所得の内訳書は、単なる添付書類ではありません。実務では、次の項目を整理していくチェックリストとしても機能します。

  • 売却した不動産の所在地
  • 土地・建物の面積
  • 取得年月日
  • 譲渡年月日
  • 譲渡価額
  • 取得費
  • 譲渡費用
  • 特別控除
  • 共有者の有無
  • 買主との関係
  • 利用状況
  • 添付資料

申告書を作成する際に数字だけを入力するのではなく、内訳書の各項目に対応する資料をそろえられるかどうかを確認しておくことが大切です。

資料が不足している場合は、推測で数字を作らない

不動産譲渡所得で最も危険なのは、資料が不足しているにもかかわらず、記憶や感覚で数字を作ってしまうことです。

取得費が分からない場合には、概算取得費の制度があります。譲渡費用かどうか判断が難しい支出については、支出目的、契約内容、領収書、売却との直接性を確認していきます。相続不動産で前所有者の取得資料がない場合には、相続税申告書や登記資料、親族の保管資料、不動産会社の控えなどを探します。

資料が不足している場合の対応は、次の順番で考えていくとよいでしょう。

  1. 原資料を探す
  2. 代替資料を探す
  3. 過去の申告書や台帳との整合性を確認する
  4. 客観的な資料で合理的に説明できるか確認する
  5. それでも不明な部分について、法令上認められる取扱いを検討する
  6. 判断過程を記録しておく

「古いから分からない」「領収書がないから何となくこの金額」と処理してしまうと、後から説明ができなくなります。

税務調査では、譲渡収入の計上漏れ、取得費の過大計上、概算取得費と実額取得費の混同、譲渡費用に該当しない支出の控除、共有者間の収入帰属、特例適用の前提事実などが確認されやすい部分です。

大切なのは、完璧な資料が残っていない場合でも、どこまで確認し、どの資料に基づき、どのような判断で申告したのかを、きちんと説明できる状態にしておくことです。

譲渡収入・取得費・譲渡費用を整理する実務手順

不動産売却後の資料整理は、次の順番で進めると論点が見えやすくなります。

1. 売却取引の全体を確認する

最初に、売買契約書、重要事項説明書、決済明細書、通帳を確認し、売却取引の全体像を把握します。

確認するのは、売却価額だけではありません。契約日、引渡日、登記日、決済日、買主との関係、固定資産税等の精算、売却代金の入金経路、ローン返済、共有者への分配まで、あわせて確認します。

2. 譲渡収入を確定する

次に、売買代金、固定資産税・都市計画税の精算金、金銭以外の対価、経済的利益を確認します。

この段階で、通帳の入金額と譲渡収入が一致しない理由を、自分の言葉で説明できるようにしておきます。

3. 取得時資料を集める

取得時の売買契約書、建築請負契約書、登記資料、領収書、不動産取得税、登録免許税、印紙税、購入手数料、取得時の借入金資料を確認します。

相続や贈与で取得した場合には、被相続人や贈与者の取得資料を探します。

4. 建物の減価償却費相当額を整理する

建物がある場合は、取得価額から減価償却費相当額を差し引く必要があります。

事業用・賃貸用の場合は、過去の減価償却明細や固定資産台帳を確認します。自宅など非業務用の場合は、非業務用建物としての計算が必要になります。

5. 改良費・設備費・資本的支出を確認する

保有中に増改築、設備更新、大規模リフォーム、造成、地ならしなどを行っている場合には、それが取得費に含まれる可能性があるかを確認します。

過去に必要経費として処理しているものとの二重計上には、とくに注意します。

6. 譲渡費用を整理する

仲介手数料、印紙税、測量費、立退料、取壊し費用、名義書換料など、売却のために直接かかった費用を整理します。

修繕費、固定資産税、ローン返済、維持管理費などと混同しないよう、費用の性質ごとに分けて考えます。

7. 共有・相続・事業用・消費税の論点を確認する

共有不動産、相続不動産、賃貸物件、事業用建物、法人との取引がある場合には、追加の論点を確認します。

共有者ごとの収入・取得費・譲渡費用、取得費加算、消費税、時価、過去申告との整合性を整理します。

8. 申告書・内訳書・添付資料に落とし込む

最後に、整理した金額を、譲渡所得の内訳書、確定申告書第三表、必要な明細書・添付資料に反映します。

この段階で、数字だけでなく、資料の所在と判断過程まで残しておくことが重要です。

よくある判断ミス

売却代金からローン返済後の手残りで利益を判断している

ローン返済額は、譲渡所得計算上の取得費や譲渡費用とは別の資金移動です。手残りが少なくても、譲渡所得が出ることがあります。

固定資産税等の精算金を譲渡収入から外している

未経過固定資産税等の精算金は、譲渡価額に算入されます。決済明細書や精算書での確認が必要です。

建物の減価償却費相当額を差し引いていない

建物の取得費は、購入代金や建築代金そのものではありません。所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります。

賃貸物件で過去の減価償却明細を確認していない

賃貸物件や事業用建物では、過去の申告書、固定資産台帳、減価償却明細との整合性が重要になります。

取得費が不明なため、すぐに5%で計算している

概算取得費は認められた取扱いですが、実際の取得費を示せれば税額が大きく変わることがあります。資料探索をせずに概算取得費を使うのは、慎重であるべきです。

譲渡費用に、維持管理費や固定資産税を含めている

譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。通常の修繕費や固定資産税などは、原則として譲渡費用にはなりません。

相続した日を取得日としている

相続や贈与で取得した土地建物は、原則として被相続人や贈与者の取得費・取得時期を引き継ぎます。

共有者ごとの計算をしていない

共有不動産では、共有者ごとに収入、取得費、譲渡費用、特例適用の可否を整理します。

重要事項の振り返り

論点確認すべきこと
譲渡所得の基本式譲渡収入から取得費・譲渡費用を差し引き、特別控除を確認する
譲渡収入売買代金、固定資産税等の精算金、金銭以外の対価、経済的利益を確認
固定資産税等の精算金未経過固定資産税等に相当する受取額は譲渡価額に算入
取得費購入代金、建築代金、購入手数料、設備費、改良費などを資料で確認
建物の取得費購入代金等から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く
土地建物の区分一括購入の場合、土地と建物の取得価額区分を合理的に整理
概算取得費取得費不明の場合などは売却金額の5%相当額を取得費にできる場合がある
相続・贈与取得被相続人・贈与者の取得費と取得時期を引き継ぐ
取得費加算相続税が課税され、一定期間内に譲渡した場合は取得費加算を検討
譲渡費用売るために直接かかった費用に限られる
譲渡費用になりやすいもの仲介手数料、売主負担の印紙税、立退料、取壊し費用、一定の違約金など
譲渡費用になりにくいもの修繕費、固定資産税、維持管理費、売却代金の取立費用、ローン返済など
共有不動産共有者ごとに収入・取得費・譲渡費用・特例を整理
事業用・賃貸用不動産過去の申告書、固定資産台帳、減価償却明細、消費税との整合性を確認
資料保存契約書、領収書、精算書、登記資料、通帳、相続資料を説明可能な形で保管

不動産売却の取得費・譲渡費用で迷っている方へ

不動産譲渡所得の申告で最も差が出やすいのは、税率そのものよりも、譲渡収入・取得費・譲渡費用の整理です。

売却代金は分かっていても、取得時の資料が足りない、建物の減価償却費相当額が分からない、リフォームや解体費が取得費なのか譲渡費用なのか判断できない、相続不動産の取得費をどう引き継げばよいのか分からない、共有者ごとの分け方に不安がある。こうした場面は、決して珍しくありません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、売買契約書、決済明細書、取得時資料、登記資料、相続関係資料、過去の申告書、通帳の流れを確認し、後から税務署や金融機関に説明できる形で、不動産譲渡所得の計算根拠を整理することを大切にしています。

「取得費が分からない」「概算取得費でよいのか確認したい」「譲渡費用に含められるか判断に迷う支出がある」「相続不動産や共有不動産の売却を整理したい」といった方は、お問い合わせページから、現在の状況とお手元の資料をお知らせください。申告期限の直前に数字を合わせるのではなく、取引の実態と資料に基づいて、きちんと説明できる申告へと整えてまいります。

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