不動産所得の申告で多くの方が悩まれるのは、「家賃収入から、いったい何を差し引けるのか」という点です。
借入金の返済、固定資産税、管理会社への管理料、マンションの管理費や修繕積立金、火災保険料、修繕費、そして減価償却費。実際に不動産を経営していると、家賃が入ってきても、借入返済や固定資産税、修繕、管理費に回るうちに、手元の資金が思ったほど残らないことがあります。固定資産税・都市計画税等の負担に借入金返済が重なり、そこへ空室による資金繰りの不安まで加わると、「収入はあるのに現金が残らない」という状況が起こりやすくなります。ここは見落とせないところです。
もっとも、所得税の計算では、お金が出ていけばそのすべてが必要経費になるわけではありません。逆に、まだ支払っていなくても、債務が確定していれば必要経費になるものもあります。不動産所得の必要経費は、「資金が出ていったかどうか」ではなく、「不動産収入を得るために必要で、かつ家事上の支出と明確に区分できる費用かどうか」という観点から整理していきます。
この記事では、借入金利子、固定資産税、管理費等を中心に、不動産所得の必要経費をどう判断し、どの資料を残しておくべきかを整理してお伝えします。
まず押さえておきたい基本|必要経費は「支払った金額」ではなく「不動産収入に対応する費用」
不動産所得の金額は、不動産収入から必要経費を差し引いて計算します。
必要経費とされるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものです。その主なものとして、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費が挙げられています。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
また、事業所得・不動産所得・雑所得の必要経費に算入できるのは、総収入金額を得るために直接要した費用や、その年に生じた業務上の費用です。ここで注意したいのは、必要経費となる金額は原則としてその年に債務が確定した金額であり、単に支払ったかどうかだけで判断するものではない、という点です。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
こうした考え方を踏まえると、不動産所得の経費判断は、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。
- その支出は、賃貸物件や貸付業務に関係しているか
- 自宅や家計、個人的な利用に対応する部分が混ざっていないか
- 支払った年ではなく、その年に債務が確定しているか
- 資産の取得価額に含めるべきものではないか
- 修繕費ではなく、資本的支出として減価償却すべきものではないか
- 消費税の課税仕入れ・非課税・対象外を、所得税と混同していないか
- 将来の売却、相続、税務調査で説明できる資料が残っているか
「経費にしたい」という希望からではなく、貸付収入との対応関係、契約、請求、支払、利用の実態から整理していく。これが判断の土台になります。
借入金利子|経費になるのは原則「利子部分」であり、元本返済ではない
不動産投資で最も誤解されやすいのが、借入金の返済です。
毎月、金融機関からローンの返済額が引き落とされていると、その全額を経費にしたくなるものです。しかし、不動産所得の必要経費になるのは、原則として借入金の利子部分にとどまります。元本返済は、借りたお金を返しているだけであり、必要経費にはなりません。
この点は、国税庁の収支内訳書(不動産所得用)の手引きでも明確です。賃貸している建物等を取得するための借入金の利子は必要経費の例として示される一方で、返済額のうち元本に相当する部分は必要経費にならない、と記されています。
出典:国税庁|令和6年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方
たとえば毎月の返済額が15万円で、その内訳が元本12万円、利息3万円だとします。この場合、必要経費として検討するのは3万円の利息部分だけです。元本12万円は、所得税の必要経費にはなりません。
ここを取り違えると、所得を過少に計算してしまうだけでなく、資金繰りの見え方まで狂ってしまいます。元本返済は税務上の経費ではない一方で、現金は確実に出ていくからです。減価償却費は現金支出を伴わない経費、元本返済は現金支出を伴うのに経費ではない支出。この二つの違いは、納税資金を管理するうえで、ぜひ押さえておきたいところです。
借入金利子で確認しておきたい資料
借入金利子を必要経費にする際、通帳からローン返済が引き落とされている事実だけでは、根拠として十分ではありません。
少なくとも、次のような資料は確認しておきたいものです。
- 金銭消費貸借契約書
- 返済予定表
- 返済実績明細
- 金融機関の残高証明書
- 借入金の使途が分かる資料
- 物件取得時の売買契約書
- 土地・建物の取得価額の内訳
- 借換えがある場合の借換契約書、旧借入金との対応資料
- 自宅兼賃貸の場合の按分資料
- 固定資産台帳、物件別収支表
借入金利息については、借入残高、利率、金銭消費貸借契約書、そして未払計上の根拠を確認しておくことが実務上も大切になります。申告書を作成するときだけでなく、後から説明を求められた際にも耐えられるよう、借入金の残高・利率・契約内容を確認した事跡を残しておくと安心です。
とくに複数の物件を所有している場合、借入金がどの物件に対応しているのかを分けておかないと、物件別の収支、譲渡時の取得費、相続時の債務整理、金融機関への説明といった場面で、いずれ困ることになります。
取得前・賃貸開始前の借入金利子は、別扱いになることがある
借入金利子は、それが「いつの期間の利子か」によって扱いが変わります。
土地・建物などの固定資産を取得するための借入金利子のうち、借入日からその固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分は、原則として取得費に含めることとされています。業務用資産の取得のための借入金利子は、その業務に係る各種所得の必要経費になりますが、使用開始日までの期間に対応する部分については取得費に含めることができます。さらに、業務を開始する前の期間に対応する利子は、取得費に含めます。
出典:国税庁|No.3264 借入金の利子が取得費になるとき
不動産所得で問題になりやすいのは、たとえば次のような場面です。
- 物件を購入した後、リフォームしてから賃貸を開始した
- 空き家を取得し、しばらく募集の準備をしていた
- 建築中のアパートについて借入利息が発生した
- 自己使用していた物件を賃貸用に転用した
- 購入から賃貸開始までの期間が長い
こうした場合には、利子をすべてその年の不動産所得の経費とするのではなく、賃貸開始前の期間、使用開始日、そして取得費への算入の可否を確認する必要があります。
「借入金利子だから経費」という一律の処理ではなく、「どの資産の、どの期間に対応する利子なのか」を丁寧に整理する。ここが分かれ目になります。
土地取得に係る借入金利子は、赤字の損益通算で制限される
不動産所得に赤字が出た場合、給与所得など他の所得と損益通算できることがあります。ただし、すべての赤字が通算できるわけではありません。
不動産所得の損失のうち、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、損益通算の対象になりません。
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
これは、不動産投資の節税効果を考えるうえで、非常に重要な点です。
かりに不動産所得が赤字になったとしても、その赤字の原因に土地取得のための借入金利子が含まれている場合、その部分は他の所得との通算の対象から除かれます。建物部分の借入利子と土地部分の借入利子を区分する必要があるため、土地・建物の取得価額の内訳、借入金の対応関係、返済予定表の整理が欠かせません。
「不動産投資で赤字を出せば給与と相殺できる」といった説明は、少なくともこの制限を無視している限り、実務判断としては不十分だと言わざるを得ません。不動産所得の赤字をどう扱うかは、必要経費の計上だけでなく、第9テーマの損益通算・損失の論点にもつながっていきます。
固定資産税・都市計画税|賃貸物件に対応するものは必要経費になり得る
賃貸している土地・建物に係る固定資産税や都市計画税は、不動産所得の必要経費になり得ます。
業務の用に供される資産に係る固定資産税、登録免許税、不動産取得税などの租税は、各種所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。
出典:国税庁|No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合
ただし、ここでも確認しておきたいのは「物件との対応」です。
固定資産税の納税通知書には、複数の土地・家屋がまとめて記載されていることがあります。その中に自宅、空き地、賃貸物件、親族使用物件、事業用物件が混在している場合には、賃貸物件に対応する金額だけを不動産所得の必要経費とします。
固定資産税を経費にする際には、次のような資料を保存しておきます。
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書
- 課税明細書
- 物件別の課税標準額、税額の内訳
- 賃貸借契約書
- 自宅兼賃貸の場合の面積按分資料
- 共有不動産の場合の持分資料
- 納付書、口座振替記録、通帳
固定資産税は、実際に納付した金額だけでなく、「いつの年分の必要経費とするか」も確認が必要です。固定資産税のように分割の納期が定められている賦課課税方式の租税については、各納期の税額を、納期開始日の属する年分に計上することも、実際に納付した日の属する年分に計上することもできるとされています。
出典:国税庁|No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合
購入時の固定資産税等清算金は、その年の必要経費とは限らない
不動産を購入すると、売主との間で固定資産税・都市計画税の清算を行うことがあります。
この清算金を「固定資産税」と同じように扱い、購入年の不動産所得の必要経費にしてしまう。これは、よく見られる誤りのひとつです。実際には、賃貸用アパートを購入した際に売主へ支払った固定資産税等清算金は、購入した賃貸用アパートの取得価額に算入されるため、その全額を購入年分の不動産所得の必要経費に算入することはできない、とされています。
出典:国税庁|賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて
これは、この清算金が買主自身に課された固定資産税ではなく、売買契約上の合意に基づく購入代価の一部と考えられるためです。
同じ「固定資産税」という言葉が出てきても、納税通知書に基づいて自分が納付した固定資産税なのか、売買のときに売主へ支払った清算金なのかで、処理は変わります。
管理費・管理委託料|貸付業務との対応関係を確認する
管理会社に支払う管理委託料、賃貸管理手数料、入居者募集に関する手数料、家賃集金の代行手数料などは、不動産収入を得るために直接必要な費用として、必要経費になり得ます。
ただし、「管理費」という名称には、複数の意味が含まれています。
不動産所得の実務では、少なくとも次のものを分けて確認します。
- 管理会社に支払う賃貸管理委託料
- マンション管理組合に支払う管理費
- 修繕積立金
- 入居者から受け取る共益費
- オーナーが負担する共用部の電気代・水道代・清掃費
- サブリース会社や不動産会社への手数料
- 親族や関係会社に支払う管理料
管理会社への支払であれば、管理委託契約書、毎月の管理明細、送金明細、請求書、領収書、通帳を確認します。親族や自身の法人に管理料を支払っている場合には、金額の相当性、実際の業務内容、契約、支払の実態を、さらに慎重に見ていく必要があります。
管理料という名目で支払っていても、実態がない、金額が過大である、業務内容がはっきりしない、契約書がない、支払記録が曖昧――こうした状態では、必要経費としての説明力はどうしても弱くなってしまいます。
マンション管理費と修繕積立金は分けて考える
区分マンションを賃貸している場合、毎月、管理組合に管理費と修繕積立金を支払うのが一般的です。
このうち管理費は、共用部分の管理、清掃、管理人業務、設備点検など、日常的な管理運営に対応するものです。賃貸物件に対応する部分であれば、不動産所得の必要経費として整理しやすい支出だと言えます。
一方、修繕積立金には注意が必要です。賃貸用マンションの修繕積立金は、原則として、実際に修繕等が行われ、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になります。ただし、区分所有者に支払義務があること、返還されないこと、将来の修繕等のみに使用されること、長期修繕計画に基づいて合理的に算出されていることなど、一定の要件を満たす場合には、支払期日の属する年分の必要経費に算入して差し支えないとされています。
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い
そのため、区分マンションでは、次の資料を保存しておくことが大切になります。
- 管理規約
- 長期修繕計画
- 管理費・修繕積立金の請求明細
- 管理組合の総会資料
- 修繕積立金の返還の有無に関する規定
- 大規模修繕に関する資料
- 管理会社からの支払明細
「毎月引き落とされているから経費」という処理ではなく、管理費と修繕積立金を分けたうえで、修繕積立金については要件を確認しておく。この一手間が、後々の安心につながります。
損害保険料|賃貸期間・保険対象・自宅部分との区分を確認する
賃貸物件に係る火災保険料、施設賠償責任保険料、家賃保証保険料などは、不動産所得の必要経費になり得ます。
ただし、保険料では期間対応が問題になります。
たとえば5年分の火災保険料を一括で支払った場合、支払った年に全額を必要経費にするのではなく、保険期間に応じて各年に配分する検討が必要です。また地震保険料については、賃貸物件に係るものは不動産所得の必要経費に、自宅に係るものは所得控除である地震保険料控除の対象になり得るなど、用途によって処理が分かれます。
ここで確認しておきたいのは、保険証券、保険料の領収書、保険期間、対象物件、保険料の内訳、そして賃貸部分と自宅部分の区分です。
修繕費・減価償却費との関係
修繕費と減価償却費は、前回の記事「4-4. 修繕費・資本的支出・減価償却の判断」で詳しく扱う論点ですが、不動産所得の必要経費を整理するうえでは避けて通れません。
建物、建物附属設備、構築物などの取得価額は、原則として減価償却により、複数年にわたって必要経費化していきます。外壁塗装、設備の交換、リフォームなどは、修繕費としてその年の必要経費になる部分と、資本的支出として資産計上し減価償却すべき部分とに分かれることがあります。
ここで大切なのは、修繕費、消耗品費、雑費などの中に、減価償却資産や資本的支出が紛れ込んでいないかを確認することです。決算・申告の実務でも、経費科目の中に資本的支出がないか、固定資産台帳と帳簿上の取得価額・減価償却累計額が一致しているかを確認しておくことが重要になります。
税理士報酬・司法書士報酬・登記費用・仲介手数料の扱い
不動産に関係する専門家報酬や手数料も、その内容によって処理が変わります。
不動産所得の申告書作成、帳簿作成、不動産所得に関する税務相談に係る税理士報酬は、不動産所得の必要経費になり得ます。ただし、相続税申告、譲渡所得申告、家計相談、資産運用相談などが混在している場合には、不動産所得に対応する部分を区分する必要があります。
一方、賃貸用の土地建物を購入した際の仲介手数料については、土地および建物の取得価額に算入されるため、その全額を支払年分の必要経費に算入することはできないとされています。建物に対応する部分は建物の取得価額に含まれ、減価償却費として必要経費化されます。土地に対応する部分は、土地の取得価額に含まれます。
出典:国税庁|賃貸用の土地建物を購入した際に支払った仲介手数料の取扱いについて
登記費用や登録免許税も、税目や資産の内容により、必要経費になるものと、取得価額に含めるものとがあります。固定資産税や登録免許税等の扱いについては、資産の種類別に整理されています。
出典:国税庁|No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合
自宅兼賃貸・賃貸併用住宅では按分が必要になる
自宅の一部を賃貸している場合や、賃貸併用住宅を所有している場合には、支出の全額を不動産所得の必要経費にできるとは限りません。
建物の一部を貸し付けている場合、その建物について支払った地代、火災保険料、固定資産税、修繕費などのうち、自用部分に対応する費用や、水道料・電気料・燃料費などに含まれる家事分は、必要経費になりません。家事分と業務分は、貸付面積や保険金額など、適切な基準で按分して計算します。
按分にあたって確認しておきたい資料は、次のとおりです。
- 建物の平面図
- 賃貸部分と自宅部分の面積
- 賃貸借契約書
- 固定資産税の課税明細
- 保険証券
- 水道光熱費の使用実態
- 賃貸部分専用設備の有無
- 按分基準を継続して用いているか
ここで重要なのは、毎年都合よく按分割合を変えないことです。面積、使用時間、契約範囲、設備の専用性など、事実に基づく合理的な基準を一度定めたら、それを継続して使っていく必要があります。
共有不動産では「誰が支払ったか」だけでなく「誰の所得か」を確認する
共有不動産では、収入も経費も、共有持分や実質的な収益の帰属に応じて整理していく必要があります。
たとえば、兄弟で共有する賃貸物件について、固定資産税を長男が全額支払っている場合であっても、そのまま長男だけの必要経費にできるとは限りません。共有者間でどのように負担する合意があるのか、賃料収入を誰が受け取っているのか、持分割合はどうなっているのか、精算しているのか。こうした点を確認していきます。
共有不動産は、収益不動産の経費分担や、相続直後の賃料収入の分配、管理方法などをめぐって、紛争になりやすい典型的な論点でもあります。税務上も、経費の帰属を支払口座だけで判断するのではなく、権利関係と実際の収益の帰属を確認することが欠かせません。
相続直後の賃貸不動産では、遺産分割の前後で、賃料収入や経費の帰属が変わることがあります。固定資産税、修繕費、管理費、借入金利子を誰が負担し、誰が申告するのか。これは、できるだけ早い段階で整理しておきたいところです。
消費税では「所得税の必要経費」と「仕入税額控除」を分けて考える
不動産所得の支出には、所得税では必要経費になっても、消費税では課税仕入れにならないものがあります。
不動産賃貸業では、固定資産税、借入金利子、減価償却費など、課税仕入れとならないものが必要経費の大半を占めることも珍しくありません。消費税の申告では、この点を取り違えると、納付税額に大きく影響します。
整理すると、たとえば次のようになります。
- 固定資産税・都市計画税は、所得税では必要経費になり得るが、消費税の課税仕入れではない
- 借入金利子は、所得税では必要経費になり得るが、消費税の課税仕入れではない
- 減価償却費は、所得税では必要経費になるが、減価償却費そのものは消費税の課税仕入れではない
- 管理会社への管理委託料、修繕費、清掃費などは、課税仕入れになる場合がある
- 住宅賃貸は消費税の非課税売上であり、事務所・店舗・駐車場等とは取扱いが異なる
インボイス制度のもとでは、課税事業者が仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書等の保存が重要になります。とくに家賃、リース料、定額報酬など、これまで請求書が交付されないこともあった取引についても、仕入税額控除を受けるために何をインボイスとして保存するのか、確認しておく必要があります。
この記事は所得税の必要経費を中心に扱っていますが、課税事業者である不動産オーナーは、消費税の区分も同時に整理しておくことをおすすめします。
経費判断でよくある誤り
借入返済額を全額経費にしている
元本返済は必要経費になりません。返済予定表で元本部分と利息部分を分け、利息部分のみを不動産所得の必要経費として検討します。
固定資産税の納税通知書を物件別に分けていない
自宅、賃貸物件、空地、共有物件が混在している場合、納税通知書の合計額をそのまま経費にすると誤りになります。課税明細書で物件別に整理しましょう。
購入時の固定資産税等清算金を租税公課にしている
売買のときに売主へ支払う固定資産税等清算金は、買主自身の納税義務に基づく固定資産税ではなく、取得価額に算入するものとされています。購入年の必要経費にする処理には注意が必要です。
出典:国税庁|賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて
管理費と修繕積立金を区分していない
管理組合への支払は、管理費と修繕積立金とで性質が異なります。修繕積立金については、支払年の必要経費にできるかどうか、要件を確認する必要があります。
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い
自宅部分まで不動産所得の経費にしている
賃貸併用住宅、自宅兼賃貸、親族使用部分がある場合には、賃貸部分と家事部分を分ける必要があります。按分基準を残していないと、後から説明するのが難しくなります。
修繕費・消耗品費に資産取得が混在している
エアコン、給湯器、外構設備、防犯カメラ、宅配ボックスなど、内容によっては固定資産や資本的支出として整理すべきものがあります。固定資産台帳との整合を確認しましょう。
税理士報酬や専門家費用を一括で不動産所得の経費にしている
不動産所得の申告に対応する報酬であれば経費になり得ますが、相続税、譲渡所得、法人化相談、家計相談などが混在する場合には、内容を区分します。
税務署・金融機関に説明できる資料の整理
不動産所得の必要経費は、経費科目を入力すれば終わり、というものではありません。
不動産オーナーが後から説明できる状態をつくるには、物件別、支出別、契約別に資料を整理しておく必要があります。
保存しておきたい資料は、次のとおりです。
- 賃貸借契約書
- 管理委託契約書
- 管理会社の月次明細
- 家賃入金明細
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書、課税明細書
- ローン契約書、返済予定表、残高証明書
- 火災保険・地震保険等の保険証券
- 修繕費・設備投資の見積書、請求書、領収書
- 修繕前後の写真
- 管理組合の管理規約、長期修繕計画
- 修繕積立金の明細
- 固定資産台帳
- 借入金台帳
- 物件別収支表
- 自宅兼賃貸の場合の按分資料
- 共有不動産の場合の持分、合意書、精算記録
- 消費税区分、インボイス、請求書
帳簿書類の整理では、請求書だけでなく、注文書、見積書、契約書、領収書といった取引関係書類、さらに借入金台帳、未払金台帳、固定資産台帳なども漏れなく洗い出しておくことが大切です。
クラウド会計を使っていても、資料の保存と判断のメモがなければ、数字の根拠はどうしても弱くなります。電子取引やスキャナ保存では、取引年月日、取引金額、取引先などで検索できる状態を整えておくことも、実務上は重要になります。
不動産所得の必要経費は、納税資金の判断にも直結する
不動産所得の経費判断は、税額を下げるためだけの作業ではありません。
借入金利子、固定資産税、管理費、修繕費、減価償却費を正しく整理していくと、次のことが見えてきます。
- 家賃収入に対して、実際にどの程度の経常経費がかかっているか
- 元本返済を終えたあとに、現金が残るか
- 固定資産税や修繕費を支払う資金を準備できているか
- 空室が出た場合に、返済を継続できるか
- 修繕積立や大規模修繕に備えられているか
- 所得税、住民税、事業税、消費税の負担に耐えられるか
- 将来売却したときの取得費や減価償却を説明できるか
- 金融機関に、物件別の収支を説明できるか
不動産経営では、会計上の利益、所得税上の所得、そして手元資金の残り方が、必ずしも一致しません。とくに、減価償却費は現金支出を伴わない一方で、借入元本の返済は経費にならない現金支出です。この差を理解しないまま申告だけを進めてしまうと、「黒字なのにお金がない」「赤字なのに税務上の説明ができない」といった状態に陥りやすくなります。
専門家に相談した方がよい場面
次のような場合には、不動産所得の必要経費について、申告の前に専門家へ相談されることをおすすめします。
- 借入金が複数あり、どの物件に対応するのか整理できていない
- 土地建物を一括で購入しており、土地・建物の取得価額や借入利子の区分が不明である
- 不動産所得が赤字で、損益通算を予定している
- 土地等の取得に係る借入金利子がある
- 購入時の固定資産税等清算金や仲介手数料をどう処理すべきか分からない
- 区分マンションの管理費、修繕積立金の扱いに不安がある
- 自宅兼賃貸、賃貸併用住宅で按分が必要になる
- 共有不動産で、収入・経費の帰属が曖昧である
- 親族や自身の法人に管理料を支払っている
- 消費税の課税事業者で、不動産収入や経費の消費税区分も確認したい
- 固定資産台帳や借入金台帳が整っていない
- 金融機関向けに、物件別の収支を整理したい
不動産所得の経費判断は、支出を経費に「入れるか、入れないか」だけの問題ではありません。物件ごとの採算、納税資金、将来の修繕、売却、相続、法人化、そして金融機関への説明まで、幅広くつながっていく判断です。
不動産所得の経費整理でお悩みの方へ
借入金利子、固定資産税、管理費、修繕積立金、損害保険料、減価償却費は、不動産所得の申告で毎年出てくる項目です。しかし、毎年出てくるものだからこそ、自己流の処理が積み重なり、後から修正しにくくなってしまうことがあります。
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重要ポイントの振り返り
| 論点 | 基本的な考え方 | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 必要経費の基本 | 不動産収入を得るために直接必要で、家事上の支出と明確に区分できるもの | 契約書、請求書、領収書、通帳、帳簿 | 支払っただけでは経費にならない |
| 債務確定 | 原則として、その年に債務が確定した金額を必要経費にする | 請求書、契約書、支払予定、未払明細 | 未払いでも債務確定していれば経費になる場合がある |
| 借入金利子 | 利子部分は必要経費になり得る | ローン契約書、返済予定表、残高証明書 | 元本返済は必要経費にならない |
| 賃貸開始前の利子 | 使用開始前の期間に対応する利子は取得費に含める処理を確認 | 借入日、取得日、賃貸開始日、返済表 | すべてを当年経費にしない |
| 土地取得借入金利子 | 必要経費になっても、赤字の損益通算では制限されることがある | 土地建物内訳、借入対応資料 | 不動産所得の赤字を単純に給与と相殺できるとは限らない |
| 固定資産税・都市計画税 | 賃貸物件に対応するものは必要経費になり得る | 納税通知書、課税明細書、納付記録 | 自宅や非賃貸部分を除く |
| 固定資産税等清算金 | 購入時に売主へ支払う清算金は取得価額に算入 | 売買契約書、精算書 | 購入年の租税公課にしない |
| 管理委託料 | 賃貸管理に直接関係するものは必要経費になり得る | 管理委託契約書、管理明細 | 親族・関係会社への支払は実態と相当性を確認 |
| マンション管理費 | 日常管理に対応する部分は必要経費になり得る | 管理費明細、管理規約 | 修繕積立金と分ける |
| 修繕積立金 | 原則は修繕完了年の必要経費。ただし一定要件で支払年処理もあり得る | 管理規約、長期修繕計画、管理組合資料 | 要件確認なしに自動的に経費処理しない |
| 損害保険料 | 賃貸物件に対応する保険料は必要経費になり得る | 保険証券、保険料領収書 | 複数年契約は期間対応を確認 |
| 減価償却費 | 建物等の取得価額を耐用年数で配分する | 固定資産台帳、取得資料 | 現金支出と経費計上時期が一致しない |
| 自宅兼賃貸 | 賃貸部分と自宅部分を合理的に按分 | 間取り図、面積資料、契約書 | 家事部分は必要経費にならない |
| 共有不動産 | 持分、収益帰属、負担関係を整理 | 登記、共有持分、精算資料 | 支払者だけで経費帰属を決めない |
| 消費税 | 所得税の必要経費と仕入税額控除は別判断 | インボイス、請求書、帳簿 | 固定資産税・借入金利子・減価償却費は課税仕入れではない |
| 資料保存 | 後から説明できる資料を物件別に整理する | 借入金台帳、固定資産台帳、物件別収支表 | 会計ソフト入力だけでは説明が弱い |
出典・参考情報
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
出典:国税庁|令和6年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方
出典:国税庁|No.3264 借入金の利子が取得費になるとき
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
出典:国税庁|No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合
出典:国税庁|賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて
出典:国税庁|賃貸用の土地建物を購入した際に支払った仲介手数料の取扱いについて
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い