不動産所得の申告のなかでも、税務上の判断が難しく、そのうえ金額への影響も大きいのが「修繕費」と「資本的支出」の区分です。
賃貸アパートの外壁塗装や屋上防水、給湯器の交換、キッチン・浴室の入替え、退去後の原状回復、空き家を賃貸に出す前のリフォーム。こうした工事は、見積書や請求書のうえでは、まとめて「修繕工事」「リフォーム工事」と記載されていることが少なくありません。
ところが税務上は、名称が「修繕」だからといって、そのまま一括で経費にできるわけではないのです。通常の維持管理や原状回復のための支出であれば、その年分の必要経費となる修繕費になり得ます。一方で、建物の価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたり、用途変更・増築・大幅な改良に当たったりする部分は、資本的支出として資産に計上し、減価償却によって複数年にわたり必要経費にしていくことになります。国税庁も、修繕費と資本的支出の区別は、「修繕」「改良」という名目ではなく、実質によって判定するとしています。
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定
本稿では、不動産所得における修繕費・資本的支出・減価償却の判断について、単なる節税テクニックとしてではなく、後から税務署にも金融機関にも、そして将来の自分にも説明できる数字を整えるという観点から解説します。
まず確認すべきこと|「何のための工事か」で結論が変わる
リフォーム費用を一括で経費にできるかどうかは、金額の大小だけで決まるものではありません。
最初に確認していただきたいのは、その支出が「何のために行われたものか」という点です。
たとえば同じ外壁工事でも、経年劣化した塗装を従前と同程度の状態に戻すだけの工事であれば、修繕費に近い判断になります。これに対して、外観を大幅に変更するもの、断熱性能や耐久性を大きく高める高機能外壁材への変更、建物の用途変更を伴う改装、賃料増額を目的としたグレードアップ工事などであれば、資本的支出としての検討が必要になってきます。
判断の入口となるのは、次の三つの視点です。
一つ目は、壊れたもの・劣化したものを元の状態に戻すための支出かどうか。
二つ目は、建物や設備の価値・性能・耐久性を高める支出かどうか。
三つ目は、既存資産の修理ではなく、新しい資産の取得や増設に当たる支出かどうか。
この整理をしないまま、「リフォーム費用」「修繕工事」「原状回復費」といった名称だけで処理してしまうと、いざ税務調査となったときに説明が難しくなります。
修繕費とは|通常の維持管理・原状回復のための支出
修繕費とは、業務の用に供している固定資産について、通常の維持管理のため、あるいは損傷した固定資産を原状回復するために支出した費用をいいます。
国税庁の通達でも、業務用固定資産の修理・改良等のために支出した金額のうち、通常の維持管理または原状回復のために要したと認められる部分の金額は、修繕費になるとされています。
出典:国税庁|所得税基本通達37-11 修繕費に含まれる費用
不動産所得で修繕費になりやすいものとしては、次のようなものが挙げられます。
- 雨漏りを直すための屋根補修
- 外壁のひび割れ補修、従前と同程度の外壁塗装
- 壊れた給湯器・エアコン・換気扇などの同等品への交換
- 退去後のクロス張替え、畳の表替え、床の補修
- 水漏れ箇所の配管補修
- 破損した建具・窓・ドア・鍵の修理
- 共用部の通常清掃、軽微な補修
- 災害等で損傷した部分を従前の状態に戻すための支出
もっとも、これらが常に修繕費になるとは限りません。たとえばクロス張替えと同時に、間取り変更や造作の追加、設備のグレードアップを行っている場合には、修繕費部分と資本的支出部分を分けて検討する必要があります。
資本的支出とは|価値を高める、または耐久性を増す支出
資本的支出とは、固定資産の価値を高めたり、その耐久性を増したりする支出のことです。
所得税基本通達37-10では、業務用固定資産の修理・改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の価値を高め、または耐久性を増すと認められる部分に対応する金額が、資本的支出になるとされています。具体例としては、建物の避難階段の取付け、用途変更のための模様替え・改造・改装、通常品より品質・性能の高い部品への取替えにおける通常取替費用を超える部分などが挙げられています。
出典:国税庁|所得税基本通達37-10 資本的支出の例示
不動産所得で資本的支出になりやすいものには、次のようなものがあります。
- 建物の増築
- 用途変更のための大規模改装
- 住居を店舗・事務所・民泊用施設などに転用するための改装
- 間取り変更を伴う全面リノベーション
- 古い設備を高性能・高機能設備へ大幅にグレードアップする工事
- 防音・断熱・耐震・防火性能を大きく向上させる工事
- 従前になかった設備を新たに設置する工事
- エレベーター、避難階段、給排水設備、電気設備などの新設
- 建物附属設備や構築物に該当する設備の新規取得
こうした支出は、支払った年に全額を修繕費として必要経費にするのではなく、いったん資産として計上し、法定耐用年数に基づく減価償却を通じて必要経費化していきます。
減価償却とは|一括経費ではなく、使用期間にわたって必要経費にする処理
建物、建物附属設備、構築物、機械装置、器具備品などは、通常、時間の経過や使用によって価値が減っていきます。こうした資産を減価償却資産といいます。
減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時点で全額が必要経費になるわけではありません。その資産の使用可能期間にわたって配分し、必要経費化していきます。国税庁も、減価償却を「減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続」と説明しています。
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
不動産所得では、資本的支出とされた金額も、事業所得や不動産所得の計算上、減価償却によって各年分の必要経費に算入していきます。平成19年4月1日以後に行った資本的支出については、原則として、その資本的支出を行った減価償却資産と種類・耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとみなし、資本的支出の金額を取得価額として減価償却します。
出典:国税庁|No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却
ここで押さえておきたいのは、資本的支出になったからといって「経費にならない」わけではない、ということです。変わるのは、経費になる時期です。
修繕費であれば、原則としてその年に必要経費になります。資本的支出であれば、資産として計上したうえで、耐用年数にわたって減価償却費として必要経費になっていきます。したがって、単年度の税額だけでなく、翌年以降の所得や損益通算、納税資金、さらには金融機関への説明にまで影響が及ぶのです。
金額基準だけで判断してはいけない
修繕費と資本的支出の判断には、実質による判断のほかに、一定の形式基準も設けられています。
まず、一つの修理・改良等が、金額20万円未満である場合、またはおおむね3年以内の周期で行われることが明らかな場合には、その支出を修繕費として処理して申告しているときに、修繕費として認める取扱いがあります。
出典:国税庁|所得税基本通達37-12 少額又は周期の短い費用の必要経費算入
また、資本的支出か修繕費か明らかでない金額について、その金額が60万円未満である場合、またはその固定資産の前年末取得価額のおおむね10%相当額以下である場合には、修繕費として処理して申告しているときに、修繕費として認める形式基準があります。
出典:国税庁|所得税基本通達37-13 形式基準による修繕費の判定
さらに、資本的支出か修繕費か明らかでない金額について、一定の場合には、継続して、その金額の30%相当額と、その固定資産の前年末取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする、という区分の特例もあります。
出典:国税庁|所得税基本通達37-14 資本的支出と修繕費の区分の特例
ただし、注意していただきたいのは、これらの形式基準を「何でも修繕費にするための抜け道」と考えないことです。
とくに60万円基準や10%基準は、あくまで「資本的支出か修繕費か明らかでない金額」がある場合の取扱いにすぎません。明らかに増築・新設・用途変更・大幅な性能向上に該当する支出まで、形式基準だけで修繕費にできると考えるのは、危険な発想です。
不動産所得でよくある工事別の考え方
外壁塗装・屋上防水
外壁塗装や屋上防水は、不動産所得の実務でよく問題になる支出です。
経年劣化した外壁や屋上防水を、従前と同程度の機能に戻すための工事であれば、修繕費として整理しやすい支出といえます。一方で、外壁材そのものを高性能素材に変更する、断熱性能を大きく高める、建物の外観や機能を大幅に向上させる、屋上を新たな用途に使えるようにする、といった工事が含まれる場合には、資本的支出としての検討が必要になります。
請求書に「外壁改修工事一式」とだけ記載されているようなときは、塗装・補修・防水・足場・下地補強・外壁材交換・断熱工事といった内訳まで確認しておくことが欠かせません。
給湯器・エアコン・設備交換
壊れた給湯器やエアコンを同等品に交換する支出は、修繕費として整理しやすいものです。
ただし、従前より大幅に高性能な設備へ変更した場合には、通常の取替えに要する金額を超える部分が資本的支出に当たる可能性があります。所得税基本通達37-10でも、品質・性能の高い部分品への取替えについて、通常の取替費用を超える部分を資本的支出の例として示しています。
出典:国税庁|所得税基本通達37-10 資本的支出の例示
設備交換にあたっては、「同等品への交換なのか」「性能向上部分があるのか」「その設備自体が独立した減価償却資産なのか」を、それぞれ分けて考えることが大切です。
キッチン・浴室・トイレの入替え
水回りの入替えは、判断が分かれやすい支出です。
老朽化した設備を同程度のものに交換するだけであれば、修繕費として検討できる余地があります。他方、グレードの高いシステムキッチンへの変更、浴室の拡張、追焚き機能・浴室乾燥機・高性能設備の追加、間取り変更を伴う工事などになると、資本的支出や建物附属設備の取得として整理すべき部分が含まれてくる可能性があります。
このような場合は、「水回り工事一式」でまとめてしまうのではなく、撤去費・既存補修・設備本体・配管工事・電気工事・内装工事・追加機能部分を、できる限り分けて把握しておくことが重要です。
退去後の原状回復工事
退去後のクロス張替え、床補修、畳の表替え、ハウスクリーニングなどは、通常の賃貸運営に伴う原状回復費として、修繕費になりやすい項目です。
ただし、退去を機に、和室を洋室へ変更する、間取りを変更する、設備を高級化する、賃料アップを目的に全面リノベーションする、といった場合には、原状回復を超える部分を資本的支出として分ける必要があります。
退去精算書、賃貸借契約書、原状回復工事の見積書、入居前後の写真などを残しておくと、修繕費部分の説明がしやすくなります。
空き家・実家を賃貸に出す前のリフォーム
空き家や実家を賃貸に出す前のリフォームは、とくに注意が必要な場面です。
もともと自宅や空き家として使っていた建物を、賃貸用に転用するために行う工事は、賃貸中の通常の修繕とは性質が異なります。賃貸用として使える状態にするための初期改修、用途変更、設備更新、大規模リフォームが含まれる場合には、建物の取得価額や資本的支出、あるいは減価償却資産として整理する部分が生じやすくなります。
また、非業務用から業務用へ転用する場合には、減価償却の基礎となる未償却残高の計算も必要になります。業務用期間における減価償却の方法は、転用日ではなく、資産の取得年月日によって判断する点にも注意が必要です。
出典:国税庁|No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却
「一式」の請求書では説明が弱い
修繕費と資本的支出の判断において、資料の残し方は非常に重要です。
実務上、税務調査で確認されやすいのは、請求書や領収書に記載された金額そのものというより、「その支出の中身」です。修繕費や消耗品費、減価償却費のなかに資本的支出に該当するものが紛れていないか、固定資産台帳と帳簿上の取得価額・減価償却累計額が整合しているか。こうした点の確認は、決算・申告のレビューにおいて欠かせない項目だと考えています。
たとえば「リフォーム工事一式 300万円」という記載だけでは、通常の維持補修なのか、価値向上なのか、それとも設備取得なのかを、うまく説明できません。
残しておきたい資料としては、次のようなものが挙げられます。
- 工事請負契約書
- 見積書、請求書、領収書
- 工事項目別の内訳明細
- 施工前・施工後の写真
- 管理会社からの修繕報告書
- 入居者からの修繕依頼記録
- 退去立会記録、原状回復精算書
- 建物図面、間取り変更図
- 設備の型番、仕様書、カタログ
- 保険金や補助金を受けた場合の資料
- 固定資産台帳
- 減価償却計算資料
電子取引やクラウド会計を利用している場合であっても、帳簿や書類の整理はやはり重要です。帳簿書類を洗い出す際には、契約書・領収書・見積書といった取引関係書類に加えて、減価償却資産については固定資産台帳まで整理しておくことをおすすめします。
修繕積立金は「支払った年に必ず経費」とは限らない
分譲マンションを賃貸している場合、管理組合に修繕積立金を支払うことがあります。
修繕積立金は、将来の大規模修繕等に充てるために積み立てるものです。そのため、実際に修繕等が行われていない限り、原則として支払期日の属する年分の必要経費には算入されません。実際に修繕等が行われ、その費用に充てられた部分について、修繕等が完了した年分の必要経費に算入するのが原則となります。
もっとも、管理規約に基づき返還されないこと、将来の修繕等にのみ使用されること、長期修繕計画に基づき合理的に算出されていることなど、一定の事実関係を満たす場合には、支払期日の属する年分の必要経費に算入して差し支えないとされています。
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い
したがってマンション賃貸では、管理費、修繕積立金、特別修繕負担金、大規模修繕一時金を、それぞれ区分して確認しておく必要があります。
保険金・補助金を受けた場合も支出だけを見ない
台風、火災、水漏れ、地震などにより賃貸物件を修繕し、保険金や補助金を受け取ることがあります。
こうした場合には、修繕費の支出だけでなく、保険金・補助金の収入処理もあわせて確認しなければなりません。災害により被害を受けた固定資産について、被災前の効用を維持するための補強工事や排水、土砂崩れ防止等の費用を修繕費として処理している場合には、一定の取扱いがあります。一方で、被災資産の復旧に代えて新たな資産を取得したり、特別の施設を設置したりする場合には、新たな資産の取得価額に含める点に注意が必要です。
出典:国税庁|所得税基本通達37-12の2 災害の復旧費用の必要経費算入
災害や事故にともなう修繕では、「原状回復なのか」「機能向上を含むのか」「保険金で補填された部分をどう扱うのか」を、それぞれ整理しておくことが求められます。
共有不動産では、誰が負担したか、誰の経費かも確認する
相続した不動産を共有している場合や、兄弟姉妹で共有している賃貸物件では、修繕費の税務処理に加えて、権利関係の整理も必要になります。
共有不動産では、固定資産税や修繕費といった管理費用を誰が支払ったのか、共有者間でどのように負担するのかが問題になります。実際、共有不動産をめぐる場面では、固定資産税・都市計画税や、台風被害にともなう屋根の修復費用などが、「共有物の管理費用」として共有者間の負担問題に発展しやすいと感じています。
税務上も、単に通帳から支払った人の経費とするのではなく、共有持分、収益の帰属、経費負担の実態、共有者間の精算状況を、あわせて確認する必要があります。
とくに相続直後の不動産では、遺産分割の前後で収入・経費の帰属が変わることがあります。修繕費の支払時期、遺産分割協議の成立時期、共有持分、賃料収入の入金口座を整理しておくことが大切です。
自宅兼賃貸・賃貸併用住宅では按分が必要になる
賃貸併用住宅や、自宅の一部を賃貸しているようなケースでは、修繕費や資本的支出の全額を、そのまま不動産所得の経費にできるとは限りません。
賃貸部分と自宅部分が混在している場合には、その支出がどの部分に関するものかを確認します。
- 賃貸専用部分の修繕か
- 自宅専用部分の修繕か
- 共用部分の修繕か
- 建物全体に関する工事か
- 面積・使用実態・収益への対応から合理的に按分できるか
たとえば、賃貸部分の給湯器交換であれば不動産所得に関係しますが、自宅部分の設備交換は家事費です。建物全体の外壁塗装であれば、賃貸部分と自宅部分を、合理的な基準で按分することになります。
ここでもやはり、面積図、賃貸借契約書、間取り図、使用実態、工事範囲の写真が重要な資料になります。
消費税・インボイスにも影響する
不動産所得の修繕費・資本的支出の判断は、所得税だけで完結するものではありません。
課税事業者である不動産オーナーが、事務所・店舗・駐車場など、課税売上に関係する物件について修繕や設備投資を行う場合には、消費税の仕入税額控除が関係してきます。インボイス制度の開始後は、仕入税額控除の適用を受けるために、原則として適格請求書等の保存や帳簿への記載が重要になります。消費税の基本構造として、事業者は売上に係る消費税から、仕入や経費に係る消費税を控除して納付税額を計算します。そのため、支出の内容、取引先、請求書の保存は、所得税とは別に確認すべき論点となります。
また、固定資産を取得した場合には、取得した課税期間に課税仕入れとして扱う一方で、その後の減価償却費は消費税の計算には関係しません。不動産賃貸では、固定資産税、借入金利子、減価償却費など、消費税の課税仕入れにならない支出も多くあります。したがって、所得税上の必要経費と、消費税上の仕入税額控除とを混同しないことが重要です。
本稿では消費税の詳細な計算までは扱いませんが、修繕費・資本的支出の判断をする際には、消費税の区分、インボイス、課税売上割合、簡易課税の有無についても、別途あわせて確認しておくべきです。
税務調査で確認されやすいポイント
修繕費と資本的支出は、税務調査で確認されやすい項目です。
その理由は明確です。修繕費として一括で必要経費にすれば、その年の不動産所得は大きく下がります。逆に、本来は資本的支出として減価償却すべきものを修繕費にしていると、その年の必要経費が過大になってしまうからです。
とくに確認されやすいのは、次のような支出です。
- 100万円を超えるリフォーム工事
- 外壁・屋根・屋上防水などの大規模工事
- 水回り設備の全面更新
- 間取り変更を伴うリノベーション
- 退去後に行った大規模な原状回復
- 空き家を賃貸用にするための初期改修
- 購入直後・相続直後に行った改修
- 「一式」表示で内訳が不明な請求書
- 修繕費勘定に多額の支出がある年
- 修繕費と消耗品費に設備取得が混在している場合
税務調査への対応を意識するのであれば、申告の時点で「なぜ修繕費と判断したのか」「どの部分を資本的支出として資産計上したのか」を説明できるメモを残しておくことをおすすめします。
よくある誤り
リフォーム費用をすべて修繕費にしている
もっとも多い誤りは、リフォーム会社の請求書に「修繕工事」「原状回復工事」と書いてあるからと、全額を修繕費にしてしまうケースです。
税務上は、名称ではなく実質で判断します。工事内容のなかに、設備の新設、グレードアップ、間取り変更、用途変更、増築が含まれていないかを確認する必要があります。
見積書・請求書の内訳が粗い
「内装工事一式」「設備工事一式」といった記載だけでは、修繕費部分と資本的支出部分を区分できません。
工事業者に対して、可能な範囲で内訳を分けてもらうことが重要です。後から分解しようとしても、資料が残っていなければ、やはり説明が難しくなります。
現金支出と必要経費を混同している
支払った年にお金が出ていくため、全額を経費にしたくなる。その心理はごく自然なものです。
しかし所得税では、資本的支出は支払った年に全額を経費にするのではなく、減価償却を通じて必要経費にしていきます。資金繰りと所得計算は、必ずしも一致しないのです。
減価償却資産を固定資産台帳に登録していない
資本的支出や設備取得を資産計上した場合には、固定資産台帳に登録し、取得価額、取得日、事業供用日、耐用年数、償却方法、減価償却累計額を管理していく必要があります。
固定資産台帳と帳簿が一致していないと、将来の売却、除却、相続、そして金融機関への説明の場面でも支障が出てきます。
自宅部分まで不動産所得の経費にしている
賃貸併用住宅や自宅兼賃貸では、自宅部分の修繕費を不動産所得の経費に含めてしまっていないか、確認が必要です。
建物全体の工事であれば、賃貸部分と自宅部分を、合理的に按分することになります。
専門家に相談した方がよい場面
次のような場合には、修繕費・資本的支出・減価償却の判断について、申告前に専門家へ相談されることをおすすめします。
- リフォーム費用が高額である
- 請求書が「一式」表示で内訳が分からない
- 外壁・屋根・屋上防水・設備更新など、大規模な工事がある
- 空き家や実家を、賃貸に出す前に改修した
- 購入直後・相続直後に大きな工事をした
- 自宅兼賃貸・賃貸併用住宅で按分が必要になる
- 共有不動産で、誰が経費を負担したか整理できていない
- 保険金や補助金を受け取っている
- 消費税の課税事業者で、インボイスや仕入税額控除も関係する
- 過去の申告で、多額の修繕費を一括経費にしている
- 固定資産台帳が整っていない
大切なのは、「経費にできるかどうか」を最後に決めることではありません。工事を依頼する段階、見積書を受け取る段階、支払う段階のそれぞれで、後から説明できる資料を整えておくことです。
不動産修繕・リフォーム費用の整理でお悩みの方へ
不動産所得における修繕費・資本的支出・減価償却の判断は、単なる勘定科目の選択にとどまりません。
それは、物件をどう維持し、どこに投資し、どの期間で費用化していくか。そして、将来の税務調査・売却・相続・金融機関への説明にどう備えるか。不動産オーナーの長期的な管理そのものに関わる判断です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産所得の申告について、修繕費の一括経費処理だけでなく、資本的支出の区分、減価償却、固定資産台帳、物件別収支、消費税区分、資料保存まで含めて、整理のお手伝いをしています。
「このリフォーム費用を修繕費にしてよいか不安」「資本的支出として分けるべき金額が分からない」「固定資産台帳や過年度の申告を見直したい」という方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 基本的な考え方 | 確認すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | 通常の維持管理・原状回復のための支出は、その年分の必要経費になり得る | 見積書、請求書、写真、修繕報告書 | 名称ではなく実質で判断する |
| 資本的支出 | 資産価値を高める・耐久性を増す支出は、資産計上し減価償却 | 工事内訳、仕様書、図面、設備資料 | 一括経費にしない |
| 減価償却 | 資産の取得価額を、耐用年数にわたり必要経費化する | 固定資産台帳、取得日、事業供用日、耐用年数 | 資金支出と必要経費の時期は一致しない |
| 20万円未満・3年周期 | 一定の場合、修繕費として認められる取扱いがある | 過去工事履歴、請求書 | 大規模改良を形式基準だけで処理しない |
| 60万円未満・10%基準 | 資本的支出か修繕費か明らかでない場合の形式基準 | 固定資産の取得価額、工事明細 | 「明らかでない」ことが前提 |
| 30%・10%特例 | 継続適用を前提に、修繕費部分と資本的支出部分を区分できる | 継続処理の記録、固定資産台帳 | 毎年都合よく変えない |
| 外壁・屋上防水 | 原状回復なら修繕費、性能向上なら資本的支出を検討 | 工事内容、施工前後の写真 | 「外壁工事一式」では説明が弱い |
| 水回り設備 | 同等品交換は修繕費寄り、グレードアップや追加機能は資本的支出を検討 | 設備型番、仕様書、見積内訳 | 設備本体と補修部分を分ける |
| 空き家の賃貸前リフォーム | 賃貸用に使える状態にする初期改修は、資本的支出になりやすい | 取得資料、転用時資料、工事明細 | 非業務用から業務用への転用計算も確認 |
| 修繕積立金 | 原則は実際に修繕が完了した年分。ただし一定要件で支払年の必要経費もあり得る | 管理規約、長期修繕計画、管理組合資料 | 管理費と混同しない |
| 自宅兼賃貸 | 賃貸部分と自宅部分を合理的に按分 | 間取り図、面積資料、使用実態 | 自宅部分は不動産所得の経費にしない |
| 共有不動産 | 持分、収益帰属、経費負担を確認 | 登記事項証明書、共有持分、支払資料 | 支払者だけで経費帰属を決めない |
| 消費税 | 所得税の必要経費と仕入税額控除は別判断 | インボイス、請求書、帳簿、課税区分 | 減価償却費自体は消費税計算に関係しない |
| 税務調査対応 | 判断過程と資料を残すことが重要 | 工事写真、判断メモ、固定資産台帳 | 後から説明できない処理はリスクが高い |
出典・参考情報
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定
出典:国税庁|所得税基本通達37-10 資本的支出の例示
出典:国税庁|所得税基本通達37-11 修繕費に含まれる費用
出典:国税庁|所得税基本通達37-12 少額又は周期の短い費用の必要経費算入
出典:国税庁|所得税基本通達37-13 形式基準による修繕費の判定
出典:国税庁|所得税基本通達37-14 資本的支出と修繕費の区分の特例
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
出典:国税庁|No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却
出典:国税庁|No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い