不動産収入がある場合、確定申告でまず考えるべきなのは、「家賃がいくら入ったか」だけではありません。
不動産所得は、賃貸借契約、入金の流れ、敷金・礼金・更新料の性質、管理会社の精算内容、修繕や借入金の扱い、減価償却、青色申告、損益通算、消費税、さらには将来の売却や相続まで、いくつもの論点が連なる所得区分です。
家賃収入がある方の中には、管理会社から届く年間明細や通帳の入金額だけを見て、「これをそのまま申告すればよい」と考えていらっしゃる方もおられます。ところが税務上は、実際の入金額と総収入金額が一致しないことも少なくありません。管理手数料や修繕費が差し引かれたうえで振り込まれている場合、通帳に入った金額だけを収入として処理してしまうと、収入と経費の双方を正しく整理できなくなってしまうのです。
この記事では、不動産所得をこれから初めて整理される方、不動産収入の確定申告に不安をお持ちの方、そして不動産の活用を将来の資産形成や承継まで見据えて考えたい方に向けて、不動産所得の全体像をお話しします。
なお、本稿は「4-1. 不動産所得の全体像」として、不動産収入というテーマの入口にあたる位置づけです。事業的規模、収入計上時期、修繕費と資本的支出、共有不動産、不動産収入と消費税、不動産管理会社、長期管理といった個々の論点については、後続の記事であらためて掘り下げてまいります。
不動産所得とは何か
所得税では、収入の種類に応じて所得区分を分け、それぞれ計算していきます。このうち不動産所得とは、原則として、土地や建物などの不動産の貸付け、借地権など不動産の上に存する権利の設定・貸付け、そして船舶や航空機の貸付けから生じる所得を指します。ただし、その所得が事業所得または譲渡所得に該当するものは、ここから除かれます。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
ここで押さえておきたいのは、「不動産に関係する収入だから、すべて不動産所得になる」とは限らない、という点です。
たとえば、土地や建物を貸して得る家賃収入は、通常は不動産所得の入口になります。一方で、不動産そのものを売却した場合には、不動産所得ではなく、原則として譲渡所得の問題になります。また、民泊、駐車場、レンタル収納、サービス付きの施設利用などは、単なる不動産の貸付けなのか、それとも役務提供を伴う事業なのかによって、所得区分や消費税の扱いが変わることがあります。
つまり、不動産所得かどうかを判断するにあたっては、まず次の点を確認しておく必要があります。
- 何を貸しているのか
- 誰に貸しているのか
- どのような契約になっているのか
- 貸付けなのか、サービス提供なのか
- 売却ではなく、保有・運用から生じた収入なのか
- 収入の帰属者は誰なのか
表面的な名称ではなく、契約内容、利用の実態、入出金、管理の実態まで確認していくことが大切です。
不動産収入と不動産所得は違う
不動産所得の金額は、次の算式で計算します。
不動産所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費
ここでいう「不動産収入」と「不動産所得」は、同じものではありません。家賃や礼金などの総収入金額から必要経費を差し引いた後の、利益部分が不動産所得にあたります。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
この違いは、申告が必要かどうかを考えるうえでも重要になってきます。給与所得者の方の場合、給与を1か所から受けていて、その給与が源泉徴収の対象であるときには、給与所得・退職所得を除く各種所得金額の合計額が20万円を超えると、原則として確定申告が必要になります。ここで見るのは、家賃収入そのものではなく、原則として必要経費を差し引いた後の所得金額です。
出典:国税庁|No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
ただし、「20万円以下なら常に何もしなくてよい」と単純に考えてしまうのは危険です。医療費控除や住宅ローン控除の初年度などで確定申告をする場合には、他の所得も含めて申告が必要になることがあります。さらに、住民税、国民健康保険、扶養の判定、金融機関への説明など、所得税だけでは完結しない影響もあります。
不動産所得では、「収入があるか」ではなく、「税務上の所得がどう計算されるのか」「他の所得や控除と合わせて申告が必要になるのか」を確認していく必要があるのです。
総収入金額に含めるもの
不動産所得の総収入金額には、家賃や地代だけでなく、さまざまな名目の収入が含まれます。
典型的には、次のようなものです。
- 土地や建物の賃貸料
- 名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受け取るもの
- 礼金
- 敷金や保証金のうち、返還を要しないもの
- 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代、掃除代など
国税庁も、不動産所得の総収入金額には、貸付けによる賃貸料収入のほか、名義書換料、承諾料、更新料、返還を要しない敷金・保証金、共益費名目で受け取る水道光熱費などが含まれる旨を示しています。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
実務のうえで見落としやすいのは、やはり家賃以外の収入です。
たとえば管理会社の年間精算書では、家賃、共益費、駐車場代、更新料、原状回復費の精算、広告料、管理手数料、修繕費といった項目が、一つの明細に混在していることがあります。こうした場合には、通帳に振り込まれた純額だけを見るのではなく、「総収入」「控除された経費」「実際の入金額」を分けて確認しておく必要があります。
不動産所得の申告では、管理会社からの入金額をそのまま売上として計上するのではなく、精算書の内訳をきちんと確認し、収入に含めるべきものと経費にすべきものとを整理していくことが大切です。
収入をいつ計上するか
不動産所得では、「実際に入金された日」だけで収入の計上時期を判断するわけではありません。
地代、家賃、共益費などは、契約や慣習で支払日が定められている場合には、その定められた支払日を原則として収入計上時期とします。支払日が定められていない場合には、実際に支払を受けた日が基準になります。
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期
また、権利金や礼金のように一時に受け取るものについては、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しの日、引渡しを必要としないものは契約の効力が発生する日に収入計上します。敷金や保証金は本来預り金ですので、受け取っただけでは収入になりませんが、返還を要しないことが確定した金額は、その確定した日に収入へ計上します。
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期
こうした事情から、申告にあたっては、通帳だけでなく、賃貸借契約書、更新契約書、管理会社の精算書、敷金・保証金の返還条件、滞納状況などまで確認しておく必要があります。
「入金されていないから収入ではない」とも、「入金されたからすべて収入」とも限りません。契約上いつ支払われるべきものなのか、返還義務があるのか、そして何の対価なのかを確認したうえで整理していきます。
必要経費の基本は「貸付収入との関連性」と「家計との区分」
不動産所得の必要経費にできるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものです。主なものとしては、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが挙げられます。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
また、所得税の必要経費一般については、総収入金額を得るために直接要した費用、そしてその年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用が対象となります。必要経費の算入時期は、原則としてその年に債務が確定した金額であり、支払済みかどうかだけで決まるものではありません。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
不動産所得で必要経費になりやすい支出としては、次のようなものがあります。
- 貸付物件に係る固定資産税・都市計画税
- 損害保険料
- 管理会社への管理委託料
- 入居者募集の広告費
- 修繕費
- 減価償却費
- 借入金利子
- 賃貸部分に対応する水道光熱費や清掃費
- 税理士報酬のうち、不動産所得の申告に対応する部分
- 物件確認や管理に必要な交通費
一方で、次のような支出は、そのまま必要経費にできるとは限りません。
- 借入金の元本返済部分
- 所得税や住民税
- 家計上の生活費
- 自宅部分に対応する支出
- 不動産の価値を高める大規模改良
- 家族に支払った対価のうち、税務上の要件を満たさないもの
- 貸付収入との関連性を説明できない支出
とりわけ注意しておきたいのは、資金繰り上の支出と税務上の必要経費は一致しない、という点です。
借入金の返済で多額の資金が出ていっていても、元本の返済部分は原則として必要経費にはなりません。他方で、建物の取得価額は購入時に全額が経費になるわけではなく、減価償却によって各年に配分しながら必要経費にしていきます。減価償却資産の取得費は、取得時に全額が必要経費になるのではなく、使用可能期間にわたって分割し、必要経費へ配分していく手続です。
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
そのため、手元資金は苦しいのに税務上は利益が出る、あるいは現金の支出が少ないのに減価償却費で所得が圧縮される、といったことが起こります。不動産所得を見るときには、税額だけでなく、借入返済、修繕の予定、空室リスク、固定資産税の納付時期まで含めて捉えていく必要があります。
修繕費と資本的支出は早い段階で分けて考える
不動産所得では、修繕費の扱いが一つの要になります。
貸付けや事業の用に供している建物などについて、通常の維持管理や修理のために支出される修繕費は、必要経費になります。一方で、資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価値を高めたりする支出は資本的支出とされ、修繕費とは区別されます。資本的支出となる金額は、原則として減価償却を通じて各年分の必要経費へ算入していきます。
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定
ここで避けたいのは、「工事業者の請求書に修繕と書いてあるから修繕費」「リフォームだから全額経費」といった処理です。
税務上は、名称ではなく実質を見ます。原状回復や維持管理なのか、それとも用途の変更や価値の増加なのか、耐用年数を延ばすものなのかを確認していきます。工事の内容が複数に分かれている場合には、請求書の明細、見積書、工事写真、施工内容の説明を保存しておくことが重要です。
不動産所得の申告では、修繕費かどうかの判断を申告の段階で初めて行うのでは、遅くなってしまうことがあります。大規模な工事を予定している場合には、契約前あるいは支払前の段階で、税務上の処理の見込みを確認しておくことをおすすめします。
事業的規模かどうかで扱いが変わる
不動産所得は、不動産の貸付けが事業として行われているかどうかによって、所得金額の計算上の取扱いが変わることがあります。
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかは、原則として、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断します。建物の貸付けについては、貸間・アパートなどであれば貸与可能な独立室数がおおむね10室以上、独立家屋であればおおむね5棟以上であれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
事業的規模に該当するかどうかは、単なる呼び方の問題ではありません。次のような取扱いに影響してきます。
- 賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失の扱い
- 賃貸料等の回収不能による貸倒損失の扱い
- 青色事業専従者給与や、白色申告の事業専従者控除の適用可否
- 青色申告特別控除の金額
国税庁も、事業的規模の場合とそれ以外の場合の主な相違点として、資産損失、貸倒損失、専従者給与・専従者控除、青色申告特別控除の取扱いを示しています。
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
したがって不動産所得の申告では、「不動産所得である」ことを確認したうえで、さらに「事業的規模かどうか」を分けて整理しておく必要があります。
ただし、事業的規模かどうかの判断は、5棟10室という形式基準だけで機械的に片づくものではありません。貸付物件の規模、収入金額、管理体制、継続性、実態などを含めて確認すべき場合があります。この点については、後続記事「4-2. 不動産所得の事業的規模と税務上の違い」で詳しく取り上げます。
青色申告は「控除額」だけで判断しない
不動産所得がある場合には、青色申告を検討することがあります。
青色申告というと、どうしても特別控除の金額だけに目が向きがちです。けれども本質的には、帳簿を整え、収入・経費・資産・負債を説明できる形にしておくための制度です。
不動産の貸付けを始めた年分から青色申告をしようとする場合には、原則として、開業の日から2か月以内に「所得税の青色申告承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。1月15日以前に開業した場合は、3月15日までが期限です。
出典:国税庁|No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など
青色申告特別控除については、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、正規の簿記の原則により記帳し、貸借対照表・損益計算書などを添付して期限内に申告するといった要件を満たす場合に55万円の控除があり、さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告などの要件を満たす場合には、65万円の控除が認められます。
出典:国税庁|No.2072 青色申告特別控除
ただし、不動産の貸付けが事業的規模でない場合には、青色申告特別控除の扱いが異なり、最高10万円の控除にとどまる点には注意が必要です。
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
また、令和9年分以後の所得税については、簡易簿記による10万円の青色申告特別控除について、要件の変更が予定されています。国税庁の周知資料では、事業所得または不動産所得に係る収入金額が一定額を超える場合の取扱い、複式簿記とe-Tax、一定の優良な電子帳簿の作成・保存による最大75万円控除などについて案内されています。
出典:国税庁|10万円控除要件が変わります!
不動産所得の青色申告では、控除額だけでなく、次の点を確認しておくことが重要です。
- 青色申告承認申請書を期限内に提出しているか
- 不動産の貸付けが事業的規模かどうか
- 複式簿記で記帳しているか
- 貸借対照表を作成できる状態か
- 物件別の収支が分かるか
- 固定資産台帳を整備しているか
- 借入金残高と帳簿残高が整合しているか
- 電子保存やe-Taxの要件に対応しているか
青色申告は、節税のための制度であると同時に、不動産経営を数字で管理していくための仕組みでもあるのです。
不動産所得の赤字は、すべて給与などと相殺できるわけではない
不動産所得が赤字になった場合には、その赤字を給与所得など他の所得と相殺できるかどうかが問題になります。
不動産所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算し、その結果として不動産所得に損失が生じた場合には、他の黒字の所得金額から差し引くことができます。これを損益通算といいます。ただし、不動産所得の損失のうち、一定のものは損益通算の対象になりません。
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
損益通算の対象にならない代表的なものとしては、主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る損失、そして不動産所得の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の損失が挙げられます。
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
ここで気をつけたいのが、不動産投資の資料などで「赤字にして節税」と説明される場面です。
税務上の赤字が発生したとしても、土地取得に係る借入金利子部分の損益通算の制限、事業的規模かどうか、減価償却費の計算、修繕費と資本的支出の区分、管理会社の精算の処理、将来売却したときの取得費への影響などを確認しなければ、正しい判断はできません。
また、税務上の赤字があるからといって、資金繰りが楽になるとは限りません。借入金の元本返済、固定資産税、修繕、空室、管理費、そして将来の大規模修繕まで含めて、不動産所得は「税額」と「現金」の両面から見ていく必要があります。
不動産収入と消費税は別の判断軸で考える
この記事の中心は所得税における不動産所得ですが、不動産収入がある場合には、消費税の確認も欠かせません。
消費税では、土地の譲渡や貸付けは原則として非課税とされます。ただし、貸付期間が1か月に満たない場合や、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合には、非課税にはなりません。また、事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃は課税の対象となり、住宅の貸付けは、一定の場合を除いて非課税とされています。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
駐車場についても、単なる土地の貸付けなのか、それとも駐車場など施設の利用に伴って土地が使用される場合なのかで、扱いが変わります。国税庁は、駐車している車両の管理を行っている場合や、地面の整備、フェンス、区画、建物の設置などをして駐車場として利用させる場合には、消費税が課される旨を示しています。
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など
不動産所得の申告では、所得税上の所得区分と、消費税上の課税・非課税の判断とを混同しないことが大切です。
たとえば、所得税では不動産所得として整理される収入であっても、消費税では、住宅家賃、事務所家賃、駐車場、土地貸付け、民泊などによって取扱いが変わってきます。インボイス登録をしている場合や、事業用物件の賃貸、駐車場収入、民泊収入、大規模な設備投資がある場合には、所得税だけでなく消費税の判断も、早めに確認しておくべきでしょう。
不動産所得で整理すべき資料
不動産所得を正しく申告するためには、申告期限の直前に慌てて資料を集めるのではなく、物件ごとにあらかじめ資料を整理しておくことが重要です。
最低限、次の資料は確認しておきたいところです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約書 | 賃料、共益費、敷金・礼金、更新料、用途、契約期間 |
| 管理会社の精算書 | 総収入、控除された管理料・修繕費、実際の入金額 |
| 通帳・入出金明細 | 家賃入金、借入返済、経費支払、未収・前受の有無 |
| 固定資産税・都市計画税の納税通知書 | 貸付物件に対応する税額 |
| 借入金返済予定表 | 元本返済と利息の区分、年末残高 |
| 火災保険・地震保険等の資料 | 対象物件、保険期間、保険料 |
| 修繕・工事の請求書・見積書 | 修繕費か資本的支出かの判断 |
| 取得時資料 | 売買契約書、仲介手数料、登記費用、建物・土地の区分 |
| 固定資産台帳 | 建物、附属設備、構築物、器具備品等の管理 |
| 入居者別・部屋別の一覧 | 空室、滞納、更新料、退去精算の確認 |
| 過年度申告書 | 前年からの継続処理、減価償却、青色申告の状況 |
とりわけ、土地と建物を一括で購入した場合、取得価額をどう区分したかは、減価償却や、将来売却したときの譲渡所得に影響します。建物、建物附属設備、構築物、土地、仲介手数料、固定資産税等の精算金などをどのように整理したのか、後から説明できるようにしておく必要があります。
不動産所得でよくある誤り
不動産所得では、次のような誤りが起こりやすいものです。
管理会社からの振込額だけを収入にしている
管理手数料や修繕費が差し引かれて入金されている場合、通帳の入金額だけを収入にしてしまうと、総収入金額が不足することがあります。本来は、総収入と経費とを分けて整理する必要があります。
敷金・保証金をすべて収入、またはすべて預り金にしている
敷金や保証金は、返還義務がある限り原則として預り金ですが、返還を要しないことが確定した部分については、収入に計上する必要があります。
借入金返済を全額経費にしている
借入金返済のうち、元本部分は原則として必要経費にはなりません。必要経費になるのは、原則として貸付業務に対応する利息部分です。ただし、土地等を取得するために要した負債の利子については、損益通算の制限にも注意が必要です。
修繕費と資本的支出を分けていない
大規模なリフォームや設備の更新には、修繕費ではなく資本的支出となる部分が含まれることがあります。工事内容の明細を残しておかなければ、申告時や税務調査の際に説明が難しくなってしまいます。
自宅部分と賃貸部分を区分していない
自宅兼賃貸、賃貸併用住宅、親族が利用している不動産では、家事上の支出と貸付業務上の支出とを区分する必要があります。面積、使用の実態、契約、入金状況などを確認し、合理的な按分の根拠を残しておくことが大切です。
事業的規模を確認せずに青色申告特別控除を判断している
不動産の貸付けが事業的規模かどうかによって、青色申告特別控除、専従者給与、資産損失、貸倒損失の扱いが変わることがあります。物件数や室数だけでなく、実態の確認が必要です。
所得税だけを見ている
不動産収入には、消費税、住民税、個人事業税、固定資産税、償却資産、不動産取得税、将来の譲渡所得、そして相続・贈与との接点が出てくることがあります。所得税だけで判断してしまうと、全体の資金負担や将来のリスクを見落としかねません。
不動産所得は「単年の申告」で終わらない
不動産所得は、一見すると毎年の確定申告で完結するように見えます。しかし実際には、長い視野に立った判断が求められます。
不動産は、取得、保有、賃貸、修繕、借入返済、空室対応、売却、相続、共有の解消、法人化といったように、長い時間軸の中で税務判断が生じていきます。
今年の申告で修繕費として処理した支出が、将来の税務調査で説明を求められることもあるかもしれません。建物の取得価額や減価償却の処理は、将来売却したときの譲渡所得にも影響します。青色申告を選ぶかどうかは、帳簿体制や損失の扱いとも関わってきます。不動産管理会社や法人化を検討する場合には、管理の実態、報酬の相当性、資産の移転、消費税、相続までを含めた判断が必要になります。
不動産所得の申告で大切なのは、税額を一時的に下げることだけではありません。
本当に大切なのは、次のような状態をつくっておくことです。
- 物件ごとの収支が分かる
- 収入と入金額の差を説明できる
- 経費にした理由を説明できる
- 家計部分と貸付部分を区分できる
- 借入金の元本と利息を区分できる
- 修繕費と資本的支出の判断根拠がある
- 青色申告の要件を満たしている
- 赤字や損益通算の扱いを説明できる
- 消費税や固定資産税への影響を把握している
- 将来の売却や相続に備えた資料が残っている
こうした状態が整っていれば、税務署への説明はもちろん、金融機関への説明、家族への承継、不動産の売却の判断にも役立ちます。
専門家に相談した方がよい場面
不動産所得は、単純な家賃収入だけであれば、ご自身で整理できる場合もあります。とはいえ、次のような場合には、早めに専門家へ相談された方がよいでしょう。
- 初めて不動産収入が発生した
- 相続した不動産から賃料収入がある
- 共有不動産の収入や経費を、誰が申告するか迷っている
- 敷金、保証金、礼金、更新料の扱いが分からない
- 管理会社からの精算書の見方が分からない
- 大規模修繕やリフォームを行った
- 借入金で物件を取得した
- 不動産所得が赤字になっている
- 給与所得と損益通算できるか確認したい
- 青色申告にすべきか迷っている
- 事業的規模に該当するか不安がある
- 駐車場、民泊、レンタル収納など、通常の賃貸以外の活用がある
- 消費税やインボイスの影響がある
- 将来の売却、相続、法人化を見据えて整理したい
とりわけ不動産所得は、一度処理を誤ると、翌年以降の減価償却、青色申告、損益通算、そして売却時の譲渡所得にまで影響が残ることがあります。申告期限の直前に数字だけを合わせるのではなく、早い段階で契約、資料、入出金、物件ごとの収支を整理しておくことが大切です。
不動産所得の確定申告でお悩みの方へ
不動産所得の申告は、家賃収入と経費を集計するだけで終わるものではありません。
収入の性質、所得区分、必要経費、青色申告、事業的規模、損益通算、消費税、資料の保存、そして将来の売却や相続まで含めて、後から説明できる形に整えていく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産収入のある個人の方について、単なる申告書の作成にとどまらず、物件ごとの収支整理、必要経費の確認、青色申告の検討、そして将来の税務リスクを踏まえた判断のご支援を行っています。
不動産所得の申告に不安をお持ちの方、あるいは不動産収入を今後どのように管理していくべきか整理したいとお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 不動産所得の範囲 | 土地・建物等の貸付けによる所得か | 売却は原則として譲渡所得の論点 |
| 総収入金額 | 家賃、更新料、礼金、返還不要の敷金・保証金、共益費など | 通帳入金額だけで判断しない |
| 収入計上時期 | 契約上の支払日、引渡日、返還不要確定日 | 入金日だけで判断しない |
| 必要経費 | 不動産収入を得るために直接必要で、家事費と区分できるもの | 借入元本や所得税・住民税は原則として経費ではない |
| 減価償却 | 建物・設備などを使用期間に応じて費用配分する | 土地は減価償却しない |
| 修繕費 | 通常の維持管理・原状回復か | 価値増加・耐用年数延長部分は資本的支出になり得る |
| 事業的規模 | 社会通念上の規模、5棟10室基準など | 青色申告特別控除、専従者給与、資産損失等に影響 |
| 青色申告 | 承認申請、帳簿、貸借対照表、期限内申告 | 控除額だけでなく帳簿体制が重要 |
| 赤字・損益通算 | 他の所得と通算できる赤字か | 別荘等や土地取得借入金利子部分など制限あり |
| 消費税 | 住宅、事務所、土地、駐車場、民泊などの区分 | 所得税の不動産所得とは別の判断軸 |
| 資料保存 | 契約書、精算書、通帳、借入明細、修繕資料、固定資産台帳 | 税務署・金融機関・将来の売却時に説明できる形で保存 |
| 将来判断 | 売却、相続、共有解消、法人化、長期修繕 | 単年の節税だけで判断しない |
出典・参考情報
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
出典:国税庁|No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など
出典:国税庁|No.2072 青色申告特別控除
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
出典:国税庁|No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など
出典:国税庁|10万円控除要件が変わります!