不動産貸付業等と対象外事業の整理|個人版事業承継税制で賃貸不動産・駐車場が対象外となる理由

個人版事業承継税制を検討するとき、最初につまずきやすいのが「不動産を持っている個人事業主でも、この制度を使えるのか」という点です。

そもそも個人版事業承継税制とは、個人事業主が事業用資産を後継者へ承継する際に、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税を猶予し、その後の一定の事由によって免除する制度です。対象となる資産には、宅地等、建物、一定の減価償却資産が含まれます。

ただし、ここでいう「事業」は何でもよいわけではありません。制度上は、たとえ青色申告に係る事業であっても、不動産貸付業等は対象から除かれています。国税庁も、この制度の前提として、青色申告に係る事業のうち「不動産貸付業等を除く」事業を営んでいた方から、その事業に係る特定事業用資産のすべてを取得した場合、という整理を示しています。

出典:国税庁|No.4442 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除
出典:国税庁|No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除

そのため、賃貸不動産、月極駐車場、コインパーキング、貸倉庫、貸店舗、貸工場などを所有している場合には、確認すべきことが二つあります。一つは、その資産が「事業用資産」といえるかどうか。もう一つは、その事業自体が個人版事業承継税制の対象事業に含まれるかどうかです。

本稿では、不動産貸付業等がなぜ対象外になるのか、どのような資産が貸付用資産として除外されやすいのか、そして事業所得・不動産所得・資産の利用実態をどう整理すべきかを解説します。なお、不動産所得の申告実務全般、土地評価の詳細、小規模宅地等の特例の全体像、法人成りの具体的な手続については、別稿で改めて取り上げます。

目次

個人版事業承継税制は「不動産を承継する制度」ではなく「事業を承継する制度」である

個人版事業承継税制は、個人が所有する不動産の相続税・贈与税を広く猶予してくれる制度ではありません。

制度の中心にあるのは、あくまで個人事業そのものの承継です。先代事業者が営んでいた対象事業に使われていた特定事業用資産を、後継者が引き継ぎ、その後も事業を継続していく。この一連の流れこそが、制度が支援しようとしている構造です。

事業承継は、単に財産を移せば完結するものではありません。広く捉えれば、後継者への経営の承継、事業用資産の承継、そして経営理念・信用・従業員の技術・取引先との関係といった知的資産の承継までを含むものです。

こうした視点に立つと、不動産貸付業等が対象外とされている意味も見えてきます。制度が後押ししようとしているのは、後継者が事業活動そのものを引き継ぎ、事業用資産を使って営業・製造・サービス提供などを続けていく承継です。単に賃貸不動産を保有し、賃料収入を得るという資産承継とは、制度が目指すところが異なるのです。

もちろん、不動産貸付業も立派な経済活動であり、相続対策や資産承継の観点からは重要です。しかし、個人版事業承継税制の対象事業としては、別のものとして扱われます。

不動産貸付業等には何が含まれるか

国税庁の法令解釈通達では、個人版事業承継税制において贈与者の事業から除かれるものとして、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業が挙げられています。しかも、これらについては規模、設備の状況、営業形態等を問わず、すべて適用対象となる事業には当たらないとされています。

出典:国税庁|措置法第70条の6の8関係 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除

整理すると、次のようになります。

区分個人版事業承継税制での基本的な扱い注意点
不動産貸付業対象外アパート、マンション、貸店舗、貸倉庫、貸地などは慎重に確認
駐車場業対象外月極駐車場、コインパーキング等は規模にかかわらず対象外となる方向で確認
自転車駐車場業対象外駐輪場収入を得る事業も対象外
下宿等不動産貸付業等に当たらない場合がある部屋の使用と食事提供等が一体となる事業は実態確認が必要

ここで特に押さえておきたいのは、「事業的規模かどうか」は決め手にならない、という点です。

所得税の実務では、不動産貸付けが事業的規模かどうかを、いわゆる5棟10室基準などを手がかりに検討する場面があります。しかし個人版事業承継税制では、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業について、規模・設備・営業形態等を問わず対象外と整理されています。

つまり、「かなり大きな賃貸経営だから対象になる」「青色申告で貸借対照表を作っているから対象になる」「従業員を雇って管理しているから対象になる」とは限らない、ということです。

「不動産所得であること」と「対象外事業であること」は分けて考える

個人版事業承継税制では、対象資産が、贈与または相続等の時期に応じて、前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていることが重要になります。

一方で、不動産貸付による所得は、所得税の所得区分上、一般に不動産所得として整理される場面が多くあります。この場合、たとえ青色申告をしていても、「事業所得に係る事業用資産」として制度の対象になるかどうかは、また別の問題です。

ただし、所得区分の名称だけで機械的に判断すれば足りる、というわけでもありません。実務では、実際にどのような活動をしているのかを、一つずつ確認していく必要があります。

確認項目確認する理由
申告上の所得区分事業所得か、不動産所得か、その他の所得かを確認する
収入の内容商品・サービス提供の対価か、単なる賃料・地代・駐車料かを確認する
資産の使われ方自らの事業に使っているか、第三者に貸しているかを確認する
提供しているサービス場所の貸付けにとどまるか、人的サービス・食事提供・運営サービスがあるかを確認する
許認可・契約関係旅館業、飲食、倉庫、運送など別の事業実態があるかを確認する
帳簿処理事業所得の貸借対照表、固定資産台帳、減価償却明細と整合するかを確認する

たとえば、単に建物を貸して賃料を得ている場合と、宿泊・食事・人的サービスを組み合わせて運営している場合とでは、事業の実態がまったく異なります。国税庁通達でも、下宿等のように、部屋を使用させるとともに食事を供する事業は、不動産貸付業等には当たらないとされています。

出典:国税庁|措置法第70条の6の8関係 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除

したがって、名称だけにとらわれず、収入の性質、サービス提供の実態、帳簿処理、許認可、契約内容を組み合わせて判断していくことが大切です。

貸付用資産は「事業に関係する資産」でも制度対象外になりやすい

個人事業主が不動産を所有している場合、その不動産が事業に関係しているかどうかだけでは、判断材料として十分ではありません。

本当に重要なのは、その資産が対象事業の用に供されているかどうかです。

国税庁通達では、特定事業用資産に該当するかどうかは、特例対象贈与の直前において現実に事業の用に供されていたかどうかで判定するとされています。さらに、贈与者の事業の用に供されていた宅地等であっても、他に貸し付けられていた宅地等で、その貸付けが不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業に該当する場合には、贈与者の事業の用に供されていた宅地等には当たらないとされています。

出典:国税庁|措置法第70条の6の8関係 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除

このため、次のような切り分けが必要になります。

資産の使われ方個人版事業承継税制での確認方向
自ら営む店舗・工場・作業場として使用対象事業の用に供されている可能性がある
自ら営む事業の倉庫・資材置場として使用実態に応じて対象資産になり得る
第三者に貸して賃料を得ている建物不動産貸付業として対象外となる方向で確認
月極駐車場として貸している土地駐車場業として対象外となる方向で確認
コインパーキング運営地駐車場業として対象外となる方向で確認
店舗の一部を第三者に貸している自己使用部分と貸付部分の区分が必要
事業用建物の余剰スペースを一時的に貸している継続的な貸付事業か、付随的・一時的利用かを確認

「自分の事業に関係する不動産だから対象になるはずだ」と考えるのではなく、「その不動産から得ている収入の性質は何か」「その不動産を後継者が対象事業に使い続けるのか」を、一つひとつ確認していくことが求められます。

駐車場は特に誤解が多い

駐車場は、個人版事業承継税制のなかでも、とりわけ誤解が生じやすい資産です。

駐車場には、大きく分けて二つの性格があります。

一つは、駐車場そのものを貸して収入を得る事業です。月極駐車場、時間貸し駐車場、コインパーキング、駐輪場などが典型でしょう。この場合は、制度上、駐車場業・自転車駐車場業として対象外になる方向で確認していきます。

もう一つは、対象事業に付随して利用される駐車スペースです。たとえば、店舗、工場、作業場、事務所の利用者・従業員・業務車両のために設けられている駐車場などが、これにあたります。この場合は、駐車場業として収入を得ているわけではなく、対象事業の用に供されている資産として整理できる余地があります。

ただし、この線引きは決して簡単ではありません。

駐車場の状態確認すべき論点
外部利用者から駐車料金を受け取っている駐車場業に該当しないか
月極契約を結んでいる継続的な貸付事業と評価されないか
コインパーキング会社に一括貸ししている土地貸付または駐車場業の実態がないか
店舗来客用として無料開放している対象事業に付随する利用といえるか
店舗利用者と一般利用者が混在している事業用部分と貸付部分を区分できるか
一部だけ貸している面積・収入・契約・利用実態の按分が必要

駐車場については、看板、料金体系、契約書、精算機、管理委託契約、舗装・区画線、固定資産税上の扱い、青色申告上の収入区分まで、丁寧に確認していく必要があります。

「駐車場は土地だから対象になる」という判断は、危ういと言わざるを得ません。駐車場は、土地である以前に、制度上はその利用の実態が問われるからです。

店舗兼住宅・賃貸併用物件では利用部分の区分が必要になる

個人事業主の不動産では、店舗兼住宅、事務所兼自宅、賃貸併用建物、作業場併用住宅のように、複数の用途が混在していることがよくあります。

このような場合、建物全体・土地全体をひとまとめにして対象か対象外かを判断するのではなく、利用部分ごとに分けて検討していく必要があります。

利用区分基本的な考え方
自己の対象事業に使う部分特定事業用資産として検討対象になり得る
居住用部分個人版事業承継税制の対象外
第三者への賃貸部分不動産貸付業等として対象外となる方向で確認
遊休部分現実に事業の用に供されているか確認
共用部分合理的な按分・利用実態の説明が必要

こうした物件では、面積按分、利用実態、収入区分、減価償却、固定資産税課税明細、図面、賃貸借契約書、使用貸借関係、写真などを、あらかじめ整理しておくことが欠かせません。

とりわけ相続税・贈与税の申告では、後から「なぜこの部分を対象資産としたのか」を説明できる資料が、ものを言います。事業用と貸付用が混在している不動産ほど、制度を適用する前の整理が重要になるのです。

不動産貸付業等であれば、小規模宅地等の特例を別に検討する

不動産貸付業等が個人版事業承継税制の対象外だからといって、相続税上、何の制度も使えないわけではありません。

不動産貸付業等に使われていた宅地等については、小規模宅地等の特例のうち、貸付事業用宅地等として検討する余地があります。国税庁は、小規模宅地等の特例において、貸付事業用宅地等について200㎡まで50%減額される区分を示しています。また、ここでいう貸付事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業が含まれるとされています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:国税庁|No.4124 小規模宅地等の特例Q&A

この点は、制度を選ぶうえでとても重要です。

制度不動産貸付業等の扱い主な効果
個人版事業承継税制不動産貸付業等は対象外特定事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予
小規模宅地等の特例・特定事業用宅地等不動産貸付業等を除く事業用宅地等が対象400㎡まで80%減額
小規模宅地等の特例・貸付事業用宅地等不動産貸付業等が対象になり得る200㎡まで50%減額
通常の相続対策制度対象外資産も含めて検討遺言、遺産分割、納税資金、売却方針等を整理

個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例は、そもそも制度の性格が異なります。

個人版事業承継税制は、納税の猶予・免除を前提とする制度であり、適用後も長期にわたる事業継続・資産保有が問われます。これに対して小規模宅地等の特例は、相続税の課税価格を減額する制度です。

さらに、個人版事業承継税制の適用を受ける特定事業用宅地等と、小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等との間には、併用制限があります。国税庁は、個人版事業承継税制の適用を受ける特例事業相続人等に係る被相続人から相続等により取得した特定事業用宅地等については、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできないとしています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:国税庁|No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除

賃貸不動産を持つ個人事業主の場合、個人版事業承継税制を使えるかどうかだけでなく、小規模宅地等の特例、通常の相続税対策、売却・法人化・信託まで含めて比べてみる必要があります。

「本業」と「貸付業」が混在する場合は、事業ごとに整理する

個人事業主のなかには、本業を営みながら、別に賃貸不動産や駐車場を保有している方がいらっしゃいます。

このような場合、本業が対象事業になり得るからといって、賃貸不動産や駐車場まで個人版事業承継税制の対象に含められるわけではありません。

たとえば、製造業、飲食業、小売業、サービス業などの対象事業を営み、その店舗・工場・事務所・設備を後継者に承継するのであれば、その対象事業に係る特定事業用資産を検討します。一方で、同じ個人が所有するアパート、月極駐車場、貸倉庫、貸店舗などは、別の貸付事業として対象外になる方向で整理していくことになります。

実務上は、次のように事業単位で分解して考えます。

整理対象確認する内容
対象事業不動産貸付業等を除く事業か
貸付事業不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業に該当しないか
共通資産どの事業に使用されているか
共通経費どの事業に対応するか
貸借対照表事業所得に係る資産と不動産所得に係る資産が区分されているか
後継者対象事業と貸付事業を同じ後継者が承継するのか、別にするのか

とりわけ、青色申告決算書の貸借対照表で資産が一体管理されている場合には注意が必要です。制度の適用を検討するにあたっては、対象事業に係る資産と、貸付事業に係る資産を、いったん整理し直しておくことが求められます。

資産保有型事業・資産運用型事業にも注意する

個人版事業承継税制では、不動産貸付業等そのものが対象外になる、という話だけにとどまりません。

一見すると対象事業に見える場合であっても、資産構成や収入構成によっては、資産保有型事業・資産運用型事業として問題になることがあります。

国税庁通達では、個人版事業承継税制における資産保有型事業について、一定期間のいずれかの日に、貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額等に対する特定資産の割合が70%以上となるかどうかで判定するとされています。また、資産運用型事業については、一定期間のいずれかの年に、総収入金額に対する特定資産の運用収入の割合が75%以上となるかどうかで判定するとされています。

出典:国税庁|措置法第70条の6の8関係 個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除

この論点は、法人版事業承継税制でよく知られていますが、個人版でも、不動産や金融資産を多く持つ事業では注意しておきたいところです。類似の実務論点として、法人版でも、不動産会社や特定資産が多い会社では、資産保有型会社・資産運用型会社の判定が重要になります。

個人事業で問題になりやすいのは、たとえば次のような場合です。

状況注意点
本業とは別に多額の賃貸不動産を保有している資産構成が制度上の判定に影響しないか
事業用資金よりも預金・有価証券が大きい特定資産の割合を確認する
本業収入よりも不動産賃料・運用収入が大きい資産運用型事業に該当しないか
事業転換前後で遊休不動産が増えている適用時点だけでなく承継後管理も確認する
承継前に不動産を売却して資金化する売却対価・資金使途・判定期間を確認する

制度の適用前には、青色申告書、貸借対照表、固定資産台帳、収入明細、不動産賃貸契約、有価証券明細、預金残高を確認し、資産保有型・資産運用型の判定が問題にならないかを見ておくことが大切です。

不動産貸付業等かどうかを判断する実務上の視点

不動産貸付業等に該当するかどうかは、表面的な名称だけで判断できるものではありません。

実務では、次の順番で整理していくと、誤判定を防ぎやすくなります。

第一に、収入の発生原因を確認します。賃料、地代、駐車料、使用料、管理料、宿泊料、サービス料など、収入の名目と実態を突き合わせていきます。

第二に、契約関係を確認します。賃貸借契約、使用貸借契約、駐車場利用契約、管理委託契約、宿泊約款、業務委託契約など、誰に何を提供しているのかを見極めます。

第三に、資産の利用実態を確認します。自らの事業で使っているのか、第三者に貸しているのか、家事用部分があるのか、遊休部分があるのかを整理します。

第四に、帳簿処理を確認します。事業所得の貸借対照表に計上されている資産か、不動産所得の資産か、資産ごとの減価償却明細はどうなっているかを見ていきます。

第五に、後継者の承継後の利用方針を確認します。後継者がその資産を対象事業に使うのか、貸付を続けるのか、それとも売却・転用・法人成りを予定しているのかを確かめます。

こうした確認を積み重ねることで、制度の対象にできる資産、対象外となる資産、別制度を検討すべき資産が、はっきりと見えてきます。

対象外事業を含む場合に整理すべき資料

不動産貸付業等が絡む場合、資料の整理が不十分だと、制度適用の可否だけでなく、相続税申告、小規模宅地等の特例、遺産分割、納税資金計画にまで影響が及びます。

最低限、次の資料はそろえておきたいところです。

資料確認する内容
青色申告決算書事業所得・不動産所得の区分、貸借対照表の内容
固定資産台帳土地・建物・構築物・設備の計上状況
不動産登記事項証明書所有者、共有持分、地目、建物の種類
固定資産税課税明細書土地・建物の評価、用途、課税区分
賃貸借契約書誰に、何を、どの条件で貸しているか
駐車場契約・管理委託契約駐車場業・貸付業の実態
図面・利用区分資料事業用・居住用・貸付用の面積区分
収入明細本業収入、賃料収入、駐車料収入、サービス収入
現地写真実際の利用状況、看板、設備、区画
後継者の事業計画承継後に対象事業として継続できるか

中小企業・個人事業の承継では、経営者個人が所有している土地・建物などを事業に使っているケースが多く、個人財産や債務まで含めて整理しておく必要があります。事業に必要な個人所有資産や契約書類をあらかじめリストアップしておくことは、制度の適用以前に、承継準備そのものとしても大きな意味を持ちます。

「対象外だから終わり」ではなく、承継方針を組み直す

不動産貸付業等に該当し、個人版事業承継税制の対象外になったとしても、そこで検討が終わるわけではありません。

むしろ、そこからが本当の承継判断の始まりです。

賃貸不動産や貸付用資産は、相続財産のなかで大きな割合を占めることがあります。後継者が事業を継ぐ場合であっても、他の相続人との財産配分、納税資金、借入金、担保、賃貸収入の帰属、将来売却の可否を、一つずつ整理していかなければなりません。

考えられる検討軸は、次のとおりです。

検討軸内容
小規模宅地等の特例貸付事業用宅地等、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等の適用可能性
通常の相続対策遺言、遺産分割、代償金、生命保険、納税資金
生前贈与暦年贈与、相続時精算課税、通常贈与の税負担
売買後継者・法人・第三者への売却、譲渡所得、時価
法人成り個人事業を法人化する場合の資産移転・法人版との関係
信託認知症対策、資産管理、承継先指定
売却・組替え将来の資産処分、買換え、資金化
継続保有賃貸収入、管理負担、修繕費、相続人間の共有回避

個人版事業承継税制は強力な制度ですが、万能ではありません。とりわけ不動産貸付業等を含む個人事業では、「税制が使えるか」という問いよりも、「どの資産を誰が承継し、どの制度を使い、承継した後にどう管理していくか」を組み立てることのほうが、はるかに重要になります。

制度適用前に確認すべき判断軸

不動産貸付業等が関係する個人版事業承継税制の検討では、次の順番で確認していくと、判断を整理しやすくなります。

第一に、承継対象となる事業が、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業に該当しないかを確認します。

第二に、対象事業に使われている資産と、貸付用資産を分けます。土地、建物、構築物、駐車場、設備、備品を、利用実態ごとに整理していきます。

第三に、申告上の所得区分と帳簿を確認します。事業所得に係る貸借対照表に計上されているか、それとも不動産所得の資産として整理されていないかを見極めます。

第四に、混在資産を按分します。店舗兼住宅、賃貸併用建物、店舗併設駐車場などは、面積、収入、利用実態を分けて整理します。

第五に、資産保有型・資産運用型の判定リスクを確認します。不動産や金融資産が多い場合には、対象事業であっても、別の要件で問題が生じる可能性があります。

第六に、個人版事業承継税制以外の制度を比較します。小規模宅地等の特例、通常の相続対策、贈与、売買、法人成り、信託を、同じテーブルに並べて検討します。

この順番で整理しておけば、「使える・使えない」という単純な判断にとどまらず、後継者が事業を続けられるか、他の相続人に説明できるか、そして将来の売却・廃業・法人成りにも対応できるかまで、見通すことができます。

不動産貸付業等を含む個人事業の承継でお困りの方へ

不動産貸付業等がある個人事業では、個人版事業承継税制の判断はどうしても複雑になりがちです。

不動産を所有しているから制度の対象になる、というものではありません。かといって、不動産があるからすべて対象外になる、というわけでもありません。大切なのは、その事業が不動産貸付業等に該当するのか、その資産が対象事業の用に供されているのか、帳簿と現実の利用実態が整合しているのかを、資料に基づいて一つずつ確認していくことです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、個人版事業承継税制について、対象事業の判定、事業用資産と貸付用資産の区分、青色申告書・固定資産台帳との突合、小規模宅地等の特例との比較、そして承継後の事業継続・資産保有リスクまで含めて、整理を支援しています。

賃貸不動産、駐車場、貸店舗、店舗兼住宅、事業用土地を含む個人事業の承継を検討されている場合は、当事務所ホームページのお問い合わせページからご相談ください。制度を使えるかどうかを急いで判断する前に、まずは「本当に承継すべき事業」と「単に保有している資産」を切り分けること。ここから始めることが、何よりも重要だと考えています。

この記事の振り返り

論点重要な確認事項
個人版事業承継税制の対象青色申告に係る事業のうち、不動産貸付業等を除く事業が前提
不動産貸付業等不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業は対象外
規模の誤解事業的規模、設備、営業形態を問わず対象外となる方向で確認
下宿等部屋の使用と食事提供等が一体の事業は、不動産貸付業等に当たらない場合がある
貸付用資産賃貸建物、貸地、月極駐車場、貸倉庫などは対象外資産として慎重に区分
自己使用資産店舗、工場、作業場、事務所など対象事業に使う資産は検討対象になり得る
駐車場駐車場業か、対象事業に付随する駐車スペースかを区分
混在不動産店舗兼住宅、賃貸併用物件は事業用・居住用・貸付用に按分
所得区分事業所得か不動産所得か、帳簿・収入・契約内容を確認
資産保有型・資産運用型不動産や金融資産が多い場合、70%・75%判定に注意
小規模宅地等の特例貸付事業用宅地等として別途検討できる場合がある
相談前資料青色申告決算書、固定資産台帳、不動産資料、契約書、図面、収入明細、現地資料を整理する
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