株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも株式を用いて支配関係を形成し、あるいは変更するための組織再編手法です。
現金による買収と異なり、買収会社側のキャッシュ・アウトを抑えながら、完全子会社化、持株会社化、株式対価M&Aを実行できる。ここに、これらの手法の大きな特徴があります。
もっとも、会計処理を検討する場面になると、事情はやや違ってきます。「株式対価だから資本取引」「株式交換だから簿価」「グループ内だから影響なし」といった短絡的な整理は、実務では危険です。
日本基準が問うのは、法形式そのものではありません。取得なのか、共同支配企業の形成なのか、共通支配下の取引なのか、非支配株主との取引なのか。まずこの判定を行い、そのうえで個別財務諸表と連結財務諸表の処理を分けて検討していく必要があります。
企業結合適用指針も、企業結合の会計上の分類ごと、かつ、合併、会社分割、事業譲渡・譲受、株式交換、株式移転といった代表的な組織再編形式ごとに、個別財務諸表上及び連結財務諸表上の会計処理を示す構成を採っています。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
本稿では、株式交換、株式移転、株式交付について、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの実務で問題となりやすい論点、すなわち個別・連結処理、取得・共通支配下取引、増加資本、税効果、開示・監査対応を整理します。
なお、TOB規制や買付手続そのものの詳細は本稿の対象外とし、会計処理と決算・開示対応に焦点を当てます。
まず3つの制度を同じ箱に入れない
株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも株式を用いる再編です。しかし、会社法上の制度目的はそれぞれ異なります。
| 手法 | 会社法上の基本構造 | 典型的な利用目的 | 会計上の入口 |
|---|---|---|---|
| 株式交換 | ある株式会社の発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させる | 完全子会社化 | 取得、逆取得、共通支配下取引、非支配株主との取引 |
| 株式移転 | 1又は2以上の株式会社の発行済株式の全部を新設する株式会社に取得させる | 持株会社化、共同持株会社設立 | 取得、共同支配企業の形成、共通支配下取引 |
| 株式交付 | 株式会社が他の株式会社を子会社とするため、その株式を譲り受け、譲渡人に自社株式を交付する | 完全子会社化を前提としない株式対価M&A | 株式取得による支配獲得、企業結合、金融商品、純資産処理の組合せ |
会社法上、株式交換は「株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させること」、株式移転は「一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させること」、そして株式交付は「株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、譲渡人に対価として自社株式を交付すること」と位置づけられています。
出典:e-Gov法令検索|会社法
この違いは、そのまま会計処理に直結します。
株式交換と株式移転は、対象会社の発行済株式の「全部」を取得させる制度です。これに対して株式交付は、他の株式会社を「子会社」とするための制度であり、完全子会社化を必ずしも前提としません。
つまり株式交付は、株式交換の単なる部分版ではないということです。株式取得型のM&Aとして、支配獲得の時点、取得原価、連結範囲、そして対象会社株主側の処理を、別途検討する必要があります。
判断の順序:法形式より先に「会計上の取引類型」を確定する
株式対価型再編の判断メモでは、少なくとも次の順序で整理していきます。
| 順序 | 確認事項 | 判断を誤った場合の影響 |
|---|---|---|
| 1 | 法形式は株式交換、株式移転、株式交付のどれか | 手続・当事会社・対価の整理を誤る |
| 2 | 支配を獲得した取得企業は誰か | 取得原価、PPA、のれん、段階取得損益を誤る |
| 3 | 共通支配下取引又は非支配株主との取引か | 簿価引継ぎか時価処理かを誤る |
| 4 | 個別財務諸表の処理か、連結財務諸表の処理か | 子会社株式、資本、のれん、連結消去が混同される |
| 5 | 新株発行か、自己株式処分か、現金等を含むか | 払込資本、自己株式処分差額、損益処理を誤る |
| 6 | 新株予約権・新株予約権付社債をどう扱うか | 取得原価、純資産、負債、利益処理を誤る |
| 7 | 税効果・開示・監査対応へどう接続するか | 注記漏れ、適時開示漏れ、監査調整につながる |
被取得企業又は取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します。
支払対価が株式の交付等である場合には、支払対価となる財の時価と、被取得企業又は取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価によることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
そして、支払対価として取得企業の株式が交付された場合の取得の対価は、原則として当該株式の企業結合日における時価により算定します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
株式交換の会計処理:完全子会社化でも「取得企業」は別途判定する
株式交換は、完全親会社が完全子会社の発行済株式全部を取得する法形式です。
ただし会計上は、株式交換完全親会社が常に取得企業になるとは限りません。株式交換完全子会社のほうが取得企業となる「逆取得」も、十分にあり得ます。
取得とされた株式交換
取得とされた株式交換では、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社株式を取得します。
このとき、株式交換完全親会社が取得する株式交換完全子会社株式の取得原価は、取得の対価に付随費用を加算して算定します。取得の対価の具体的な算定は、企業結合適用指針の取得原価算定の規定に準じることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
実務上は、次のように分けて考えると整理しやすくなります。
| 項目 | 個別財務諸表上の処理 | 連結財務諸表上の処理 |
|---|---|---|
| 株式交換完全親会社が取得する株式 | 子会社株式として取得原価を算定 | 投資と資本を相殺消去 |
| 新株を発行した場合 | 払込資本の増加 | 資本連結手続へ反映 |
| 自己株式を処分した場合 | 増加すべき株主資本額と自己株式簿価との差額を払込資本の増減として処理 | 自己株式処分差額の整理が必要 |
| 自社株式以外の財産を交付した場合 | 交付財産の時価と帳簿価額との差額を損益処理 | 連結上の資本取引・取得処理との整合を検討 |
| 既保有株式がある場合 | 株式交換日前日の帳簿価額で子会社株式に振替 | 時価評価差額が段階取得損益となる場合がある |
| 新株予約権等を交付・承継する場合 | 子会社株式の取得原価に加算し、純資産又は負債に計上 | 取得原価配分・資本連結に反映 |
株式交換完全親会社が新株を発行した場合、企業結合の対価としての株式発行は払込資本、すなわち資本金又は資本剰余金の増加として会計処理し、その内訳項目は会社法の規定に基づいて決定します。
自己株式を処分した場合には、増加すべき株主資本額から処分した自己株式の帳簿価額を控除した額を、払込資本の増加又はその他資本剰余金の減少として処理します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
また、株式交換完全親会社が自社株式以外の財産を交付した場合には、交付財産の時価と企業結合日前日の適正な帳簿価額との差額を、株式交換日に損益として計上します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
ここでの実務上のポイントは、子会社株式の取得原価、増加資本、株式交付費を混同しないことです。
企業結合の際の株式交付に伴って発生する費用は、取得原価には含めません。別途、株式交付費として会計処理します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
その株式交付費は、原則として支出時に営業外費用として処理します。
ただし、企業規模の拡大のためにする資金調達などの財務活動に係る株式交付費、組織再編の対価として株式を交付する場合を含むものについては、繰延資産に計上することができます。この場合は、株式交付時から3年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法により償却します。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第19号 繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い
株式交換後の連結処理
株式交換による企業結合が取得とされた場合、連結財務諸表上は、株式交換完全親会社の投資と株式交換完全子会社の資本を相殺消去し、その消去差額であるのれん又は負ののれんを認識します。
株式交換完全親会社が、株式交換完全子会社となる企業の株式をすでに保有していた場合はどうでしょうか。この場合は、株式交換日の時価に基づいて子会社株式に振り替えて取得原価に加算し、その時価と適正な帳簿価額との差額は、段階取得に係る損益として処理されます。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
したがって株式交換では、個別財務諸表上の「子会社株式の取得」と、連結財務諸表上の「企業結合としての取得原価配分」を、分けて管理する必要があります。
子会社株式の帳簿価額だけを見ていると、連結上のPPAや段階取得損益を見落としかねません。ここは注意が必要なところです。
整理すると、取得とされた株式交換では、個別財務諸表上は株式交換完全子会社株式を取得し、連結財務諸表上は株式交換完全子会社から受け入れた識別可能資産・負債の時価を基礎として取得原価を配分し、その差額をのれんとして処理する。これが実務上の基本形となります。
逆取得となる株式交換:法的な親会社が会計上の取得企業とは限らない
株式交換で特に注意しておきたいのが、逆取得です。
逆取得とは、一般に、企業結合の対価として株式を交付した企業が取得企業とならない企業結合をいいます。株式交換においては、株式交換完全親会社が被取得企業となり、株式交換完全子会社が取得企業となる場合がこれにあたります。
逆取得となる株式交換では、株式交換完全親会社の個別財務諸表上、取得する株式交換完全子会社株式の取得原価を、株式交換日前日における株式交換完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本額に基づいて算定します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
一方、連結財務諸表上は、株式交換完全子会社が株式交換完全親会社を被取得企業として、パーチェス法を適用することになります。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
実務上は、次のように整理しておくと見通しがよくなります。
| 観点 | 通常の取得とされた株式交換 | 逆取得となる株式交換 |
|---|---|---|
| 法的な完全親会社 | 取得企業であることが多い | 被取得企業となる |
| 会計上の取得企業 | 株式交換完全親会社 | 株式交換完全子会社 |
| 完全親会社個別財務諸表 | 子会社株式を時価ベースで取得 | 取得企業株式を帳簿価額ベースで取得 |
| 連結財務諸表 | 完全親会社を頂点に取得処理 | 完全子会社の連結財務諸表が継続しているように表示 |
| 監査上の争点 | 取得原価、PPA、段階取得 | 取得企業判定、表示の継続性、資本構成 |
逆取得では、法的な親会社の連結財務諸表を作成しているように見えても、実質的には取得企業である完全子会社の連結財務諸表が継続しているものとして表示されます。
これは、投資家説明の場面でも誤解を招きやすい論点です。
株式交換後の支配構造、議決権比率、取締役構成、経営陣、事業規模、株主構成を丁寧に整理し、なぜ逆取得と判定したのかを監査人に説明できる形で文書化しておく。ここまでを一連の作業として考えておきたいところです。
共通支配下・非支配株主との取引としての株式交換
グループ内で株式交換を利用する場合、取得会計ではなく、共通支配下の取引等として処理されることがあります。
共通支配下の取引等には、共通支配下の取引と、非支配株主との取引が含まれます。
このうち共通支配下の取引は、親会社の立場から見れば内部取引と考えられるため、個別財務諸表上は移転元の適正な帳簿価額を基礎として会計処理し、連結財務諸表上は消去されます。他方、非支配株主との取引は、親会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する取引等に適用されます。
たとえば、最上位の親会社が既存子会社を株式交換完全子会社とするために、非支配株主に対価を支払う場合を考えてみます。
個別財務諸表上は、追加取得する子会社株式の取得原価を、非支配株主に交付した株式交換完全親会社株式の時価に付随費用を加算して算定し、増加する資本は払込資本として処理します。
これに対して連結財務諸表上は、支配が継続している子会社株式の追加取得ですから、取得会計ではなく資本取引として整理されます。追加取得した株式の時価と減少する非支配株主持分との差額は、のれんではなく資本剰余金として処理される。この点が重要です。
落とし穴はここにあります。個別財務諸表では時価ベースで子会社株式を追加取得しているように見える一方、連結財務諸表では資本取引となる。個別と連結で処理の見え方が変わるため、会計メモでは次のように切り分けておくべきでしょう。
| 論点 | 個別財務諸表 | 連結財務諸表 |
|---|---|---|
| 非支配株主からの追加取得 | 子会社株式の取得 | 資本取引 |
| 取得原価 | 交付株式の時価等を基礎 | 非支配株主持分の減少額と比較 |
| 差額 | 子会社株式の帳簿価額に反映 | 資本剰余金 |
| のれん | 個別では発生しない | 原則として発生しない |
| 開示 | 子会社株式・株主資本等変動 | 非支配株主持分・資本剰余金の変動 |
株式移転の会計処理:持株会社化は「形式上の新設会社」に惑わされない
株式移転は、新たに完全親会社を設立し、その下に株式移転完全子会社を置く手法です。
単独株式移転によって既存会社が持株会社体制へ移行する場合もあれば、複数会社が共同持株会社を設立する場合もあります。
株式移転では、新設される株式移転設立完全親会社が法的には新会社となるため、形式だけを見ていると「新会社が取得企業」と考えたくなります。
しかし会計上は、取得企業の決定基準に従い、いずれかの株式移転完全子会社を取得企業として取り扱うことがあります。
取得とされた株式移転では、株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社株式の取得原価を、取得企業株式と被取得企業株式に分けて算定します。
取得企業株式については、株式移転日前日における取得企業の適正な帳簿価額による株主資本額を基礎とします。被取得企業株式については、取得の対価に付随費用を加算して算定します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
また、株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は払込資本とし、資本金、資本準備金、その他資本剰余金の内訳は、会社法の規定に基づいて決定します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
取得とされた株式移転の整理
| 項目 | 取得企業となる株式移転完全子会社 | 被取得企業となる株式移転完全子会社 |
|---|---|---|
| 新設親会社個別財務諸表上の取得原価 | 株式移転日前日の適正な帳簿価額による株主資本額 | 取得の対価を基礎として算定 |
| 新設親会社連結財務諸表上の処理 | 帳簿価額を継続 | 取得原価配分を実施 |
| のれん | 原則として発生しない | 発生し得る |
| 段階取得損益 | 通常は問題になりにくい | 既保有株式がある場合に発生し得る |
| 資本金 | 新設親会社の会社法上の資本金 | 連結上は資本剰余金との振替整理が必要な場合がある |
株式移転による企業結合が取得とされた場合、連結財務諸表上、取得企業については投資と資本の消去差額は生じません。被取得企業については取得原価配分を行い、のれん又は負ののれんを認識します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
さらに連結財務諸表上、株式移転設立完全親会社は、取得企業である株式移転完全子会社の資産及び負債の適正な帳簿価額を、原則としてそのまま引き継ぎます。ただし、取得企業が連結財務諸表を作成している場合には、その連結財務諸表上の帳簿価額で受け入れることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
単独株式移転とグループ内持株会社化
単独株式移転では、既存会社が自らの完全親会社を新設し、持株会社体制へ移行します。
この場合、事業の支配が外部に移転したわけではありません。実質的には、組織構造の変更ということになります。
単独株式移転により株式移転設立完全親会社を設立した場合、新設親会社が取得する旧親会社株式の取得原価は、株式移転日前日における旧親会社の適正な帳簿価額による株主資本額により算定する。これが原則的な取扱いです。
このため単独株式移転は、買収プレミアムやのれんを認識する取引ではなく、株主持分の継続性を重視した処理になります。
ただし、それで終わりというわけにはいきません。連結財務諸表上の表示、資本金と資本剰余金の振替、株主資本等変動計算書、1株当たり情報、セグメント情報、税効果への波及を、あらためて確認しておく必要があります。
株式移転で共同持株会社を設立する場合
複数の独立企業が共同持株会社を設立する株式移転では、取得と判定される場合もあれば、共同支配企業の形成と判定される場合もあります。
共同支配企業の形成と判定するためには、共同支配投資企業が複数の独立企業から構成され、共同支配契約等を締結していることに加えて、支払対価のすべてが原則として議決権のある株式であること、支配関係を示す一定の事実が存在しないことなどの要件を満たす必要があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
共同持株会社の設立で重要なのは、単に「対等合併的な説明をしているか」ではありません。
会計上確認するのは、支配を示す事実、株主構成、取締役会構成、経営陣、議決権比率、契約上の拒否権、そして重要な意思決定の仕組みです。
| 確認事項 | 取得と判定される方向に働く事情 | 共同支配企業の形成と判定される方向に働く事情 |
|---|---|---|
| 議決権比率 | 一方の株主が明確に支配的 | 複数当事者が共同で重要事項を決定 |
| 取締役構成 | 一方が過半を指名 | 共同支配契約に基づく均衡 |
| 経営陣 | 一方の経営陣が主導 | 双方からの共同運営 |
| 契約 | 一方に実質的な支配権 | 重要事項に共同承認が必要 |
| 取引目的 | 一方による買収 | 共同事業体の形成 |
| 対価 | 現金等を含む | 原則として議決権株式 |
共同支配企業の形成とされた場合、移転する資産・負債は、移転直前の適正な帳簿価額により計上されます。
取得とされた場合と比べると、PPA、のれん、段階取得損益の取扱いが大きく異なります。だからこそ、初期段階での判定が極めて重要になるわけです。
株式交付の会計処理:制度は新しいが、会計判断は「支配獲得」から考える
株式交付は、令和元年会社法改正により創設され、令和3年3月1日に施行された制度です。
改正会社法により、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社株式を当該他の株式会社の株主に交付することができる制度が設けられました。
出典:法務省|会社法の一部を改正する法律について
株式交付は、完全子会社化を前提としない株式対価M&Aのための制度です。株式交付制度を用いて買収会社が自社株式を買収対価としてM&Aを行う場合については、対象会社株主の株式譲渡益課税の繰延べ制度も設けられています。
出典:経済産業省|税制について(株式対価M&A)
株式交付は株式交換と何が違うか
| 観点 | 株式交換 | 株式交付 |
|---|---|---|
| 目的 | 完全子会社化 | 子会社化 |
| 取得対象 | 発行済株式の全部 | 子会社化に必要な株式 |
| 対象会社 | 発行済株式全部を取得される会社 | 株式交付子会社となる会社 |
| 対価 | 完全親会社株式等 | 株式交付親会社株式を含む対価 |
| 対象会社自身の会計 | 株主構成の変動が中心 | 通常、株式の譲渡人との取引であり対象会社自身の資産・負債は直接変動しない |
| 会計上の検討軸 | 完全子会社化に伴う企業結合 | 株式取得による支配獲得、株式対価、連結範囲 |
株式交付は、株式交換と同様に株式対価で子会社化を図る手法です。ただし、完全子会社化までは予定していない場合に利用できる点が異なります。
実務上も、株式交付は株式交換と現物出資の間にあった制度上の隙間を埋めるものとして位置づけられています。
出典:EY Japan|株式交付制度の概要とポイント~令和元年会社法の改正を受けて
株式交付の会計処理で置くべき出発点
株式交付については、企業結合適用指針における株式交換・株式移転のように、詳細な専用節が体系的に整備されているわけではありません。
そのため実務では、次の順序で処理を組み立てていくことになります。
- 株式交付により、株式交付親会社が株式交付子会社に対する支配を獲得したか
- 支配を獲得した場合、企業結合会計基準上の取得に該当するか
- 株式交付親会社の個別財務諸表上、取得した株式を子会社株式としてどう測定するか
- 連結財務諸表上、取得原価配分、のれん、段階取得損益をどう処理するか
- 株式交付親会社の新株発行又は自己株式処分に伴う払込資本・自己株式処分差額をどう処理するか
- 対価に現金等が含まれる場合、譲渡人側・親会社側の処理、税務上の取扱いをどう整理するか
- 株式交付子会社自身に会計処理が必要となる特殊条件がないか
株式交付制度については、株式交付親会社と株式交付子会社の株主に会計処理が生じ、株式交付子会社自身は株主が変動するのみである、という整理が示されています。
もっとも、これは個別制度・契約条件によって変わり得ます。株式交付子会社が新株予約権等を発行している場合、契約変更がある場合、支配獲得と同時に再編を行う場合には、追加の検討が必要です。
出典:EY Japan|株式交付制度の概要とポイント~令和元年会社法の改正を受けて
株式交付で特に注意すべき会計論点
| 論点 | 実務上の検討ポイント |
|---|---|
| 支配獲得日 | 株式交付の効力発生日、株式取得日、議決権行使可能日を確認する |
| 取得原価 | 交付する株式の時価、現金等の対価、直接付随費用を区分する |
| 既保有株式 | 支配獲得前から保有していた株式の帳簿価額・時価差額を検討する |
| 連結範囲 | 子会社化の判定、みなし取得日の可否、決算日差異を検討する |
| 増加資本 | 新株発行か自己株式処分かにより、払込資本・自己株式処分差額を整理する |
| 税効果 | 子会社株式の一時差異、売却予定、税務上の課税繰延べを検討する |
| 開示 | 企業結合注記、適時開示、業績影響、未確定事項を整理する |
| 監査対応 | 株式価値算定、取得企業判定、支配獲得の根拠、対価の公正性を文書化する |
株式交付は、制度上は会社法上の組織再編に位置づけられます。しかし会計上は、「株式を対価とする株式取得」としての側面が強くなります。
したがって、株式交換の処理をそのまま当てはめるのではなく、企業結合会計、連結会計、金融商品会計、自己株式会計、税効果会計を組み合わせて検討する姿勢が求められます。
株式対価型再編に共通する「資本」の論点
株式交換、株式移転、株式交付では、取得原価やのれんだけでなく、純資産の部の処理も重要になります。
純資産の部は、大きく株主資本とそれ以外に分けられ、株主資本は資本金、資本剰余金、利益剰余金に区分されます。資本金は会社法上の資本金額と同額であり、個別財務諸表では資本剰余金が資本準備金とその他資本剰余金に区分されます。
会社法の計算規定は、株主及び会社債権者への財務情報の提供と、剰余金分配規制を目的としています。
つまり、組織再編で資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益剰余金をどう動かすかは、単なる表示科目の問題ではありません。会社法計算、分配可能額、株主資本等変動計算書、株主説明にまで影響が及びます。
株式対価型再編では、特に次の点を切り分けておく必要があります。
| 論点 | 判断の軸 |
|---|---|
| 取得対価としての株式時価 | 企業結合会計上の取得原価 |
| 新株発行による増加資本 | 会社法上の資本金・資本準備金・その他資本剰余金 |
| 自己株式処分差額 | 払込資本の増減、その他資本剰余金の増減 |
| 株式交付費 | 取得原価ではなく、原則費用又は繰延資産 |
| 連結上の資本剰余金 | 非支配株主との取引、持分変動差額 |
| 個別と連結の差異 | 子会社株式の取得価額と連結上の資本連結の差異 |
「株式を交付したから資本が増える」という理解だけでは、やはり不十分です。どの財務諸表で、どの資本項目が、どの基準に基づいて増減するのか。そこまで明確にしておきたいところです。
税効果会計:子会社株式の一時差異は機械的に認識しない
株式交換や株式移転では、個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額と、税務上の帳簿価額に差異が生じることがあります。
このとき、税効果を機械的に認識するわけではありません。
株式交換完全親会社が受け入れた子会社株式に係る一時差異については、取得のときから生じていたものに限り、原則として税効果を認識しないこととされています。
ただし、予測可能な期間に当該子会社株式を売却する予定がある場合、又は売却その他の事由により当該子会社株式がその他有価証券として分類されることとなる場合には、当該一時差異に対する税効果を認識します。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
株式移転設立完全親会社が受け入れた子会社株式に係る一時差異についても、株式交換完全親会社の取扱いに準じます。
出典:企業会計基準委員会|企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
実務上は、次のように整理していきます。
| 論点 | 検討内容 |
|---|---|
| 子会社株式の会計簿価 | 株式交換・株式移転・株式交付による取得原価 |
| 税務簿価 | 適格・非適格、課税繰延べ、株主側処理との整合 |
| 一時差異 | 会計簿価と税務簿価の差額 |
| 売却予定 | 予測可能な期間で売却予定があるか |
| その他有価証券化 | 子会社・関連会社でなくなる見込みがあるか |
| 回収可能性 | 繰延税金資産を認識する場合の回収可能性 |
| 開示 | 税率差異、重要な会計上の見積り、企業結合注記との整合 |
税効果会計は、資産又は負債の会計上の金額と課税所得計算上の金額の相違を調整し、法人税等と税引前利益を合理的に対応させる手続です。
株式対価型再編では、個別財務諸表上の子会社株式、連結上ののれん、税務上の課税繰延べ、将来の売却方針が複雑に絡み合います。会計メモと税務メモを分離せず、相互に参照できる形で整備しておくことが望まれます。
開示・適時開示:会計処理が未確定でも、投資判断情報は先に問われる
株式交換、株式移転、株式交付は、上場会社にとって投資判断に重要な影響を与える可能性が高い取引です。
決算で会計処理を確定する前に、適時開示、決算短信、有価証券報告書、場合によっては臨時報告書の検討が必要になります。
適時開示が求められる会社情報とは、有価証券の投資判断に重要な影響を与える、会社の業務、運営又は業績等に関する情報を指します。
出典:日本取引所グループ|適時開示が求められる会社情報
また、TDnetは公平・迅速かつ広範な適時開示を実現するためのシステムであり、上場会社が会社情報の適時開示を行う場合には、TDnetを利用することが上場規程により義務付けられています。
出典:日本取引所グループ|TDnetの概要
株式対価型再編では、開示時点でPPA、取得原価配分、条件付対価、税効果、業績影響が未確定であることも少なくありません。
その場合でも、未確定事項を整理し、確定予定時期と見込まれる影響範囲を説明する必要があります。
| 開示論点 | 検討事項 |
|---|---|
| 取引概要 | 目的、法形式、当事会社、効力発生日 |
| 対価 | 交付株式数、交換比率、現金等の有無、自己株式処分の有無 |
| 会計処理 | 取得、共通支配下、共同支配、非支配株主との取引 |
| 業績影響 | のれん償却、負ののれん、段階取得損益、取得関連費用 |
| 財政状態 | 総資産、純資産、自己資本比率、1株当たり情報 |
| 税効果 | 一時差異、繰延税金資産・負債、税務上の課税繰延べ |
| 未確定事項 | PPA未了、株式価値算定、条件付対価、監査人協議 |
| 投資家説明 | 再編目的、シナジー、リスク、資本政策との整合 |
適時開示の実務では、決定事実、発生事実、決算情報の区分、開示時期、業績への影響、そして開示漏れの防止が重要になります。
会計処理の結論が未確定であっても、「何が未確定か」を明確にすること自体が、投資家にとって重要な情報です。
監査対応:監査人が見ているのは仕訳ではなく判断過程
株式交換、株式移転、株式交付において、監査人は単に仕訳の正誤だけを確認しているわけではありません。
監査上の中心にあるのは、取引の実態、支配獲得、取得企業判定、取得原価、PPA、資本処理、税効果、そして開示の整合性です。
会計上の見積りは、経営者が将来の事項を予測して期末時点で金額を見積もるものであり、そこには経営者の偏向や見積りの不確実性が含まれます。
監査で問題になるのは、見積額との乖離そのものだけではありません。見積時点で当然考慮すべき事項を考慮していたか、楽観的な仮定に基づいていないか。ここが問われます。
株式対価型再編の監査対応で準備すべき資料は、次のとおりです。
| 資料 | 監査上の確認ポイント |
|---|---|
| 組織再編スキーム図 | 取引前後の支配関係、議決権比率、連結範囲 |
| 株式交換契約・株式移転計画・株式交付計画 | 法形式、対価、効力発生日、条件 |
| 取締役会資料・株主総会資料 | 再編目的、意思決定日、経営者説明 |
| 取得企業判定メモ | 支配獲得、逆取得、共同支配、共通支配下 |
| 株式価値算定書 | 交換比率、交付比率、時価、算定前提 |
| 子会社株式取得原価メモ | 個別財務諸表上の取得原価、付随費用 |
| 連結PPA資料 | 識別可能資産・負債、のれん、負ののれん |
| 資本処理メモ | 資本金、資本準備金、その他資本剰余金、自己株式 |
| 税効果メモ | 一時差異、売却予定、回収可能性、税務処理 |
| 開示チェック | 企業結合注記、適時開示、決算短信、有報 |
| 未確定事項一覧 | PPA、税務、条件付対価、監査人協議事項 |
特に株式対価の時価算定では、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチといった評価技法や、第三者評価の利用が問題になります。
PPA実務では、被取得企業の資産・負債を時価評価し、取得原価から識別可能資産・負債の時価を差し引いた残余を、のれん又は負ののれんとして認識します。であればこそ、株式対価の算定とPPAは、切り離して考えることができないのです。
実務上の落とし穴
1. 「完全子会社化だから取得」と決めつける
株式交換は完全子会社化の制度です。しかし会計上は、共通支配下取引や非支配株主との取引に該当する場合があります。また、逆取得となる場合もあります。
法的に完全親会社となる会社が、会計上も常に取得企業とは限りません。
2. 株式移転設立完全親会社を取得企業と誤解する
株式移転では、新設親会社が形式上の親会社になります。ただし、会計上の取得企業は、既存の株式移転完全子会社のいずれかです。
単独株式移転では、株主持分の継続性を前提に、旧親会社の帳簿価額による株主資本を基礎として処理します。
3. 株式交付を株式交換の簡便版として処理する
株式交付は、完全子会社化を前提としない制度です。
取得対象、支配獲得日、対象会社自身の会計処理、対象会社株主側の処理、税務上の課税繰延べが、株式交換とは異なります。
企業結合会計に準じる場面が多いとしても、株式交換の規定をそのまま置き換えるのではなく、取引の実質から判断する必要があります。
4. 個別処理と連結処理を混同する
個別財務諸表では子会社株式を取得原価で認識していても、連結財務諸表では投資と資本を消去し、PPA、のれん、段階取得損益、非支配株主持分を処理します。
個別と連結の処理差異を整理しないまま開示資料を作ると、監査調整や注記修正につながりやすくなります。
5. 資本剰余金と利益剰余金の整理を後回しにする
株式交換・株式移転・株式交付では、資本金、資本準備金、その他資本剰余金、自己株式処分差額が発生し得ます。
これらは会社法計算、分配可能額、株主資本等変動計算書、開示に影響します。会計処理の最後に形式的に当てはめるのではなく、スキーム設計の時点から確認しておくべき論点です。
判断メモに含めるべき項目
株式交換・株式移転・株式交付の会計処理を、後から説明できる形にしておく。そのためには、次の項目を判断メモとして残すことが有効です。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 取引概要 | 取引目的、当事会社、効力発生日、取引前後の資本関係 |
| 法形式 | 株式交換、株式移転、株式交付の別 |
| 会計類型 | 取得、共同支配企業の形成、共通支配下、非支配株主との取引 |
| 取得企業判定 | 議決権比率、取締役構成、経営陣、取引主導者、逆取得の有無 |
| 対価 | 新株発行、自己株式処分、現金等、新株予約権、条件付対価 |
| 個別処理 | 子会社株式の取得原価、増加資本、自己株式処分差額 |
| 連結処理 | 投資と資本の消去、PPA、のれん、負ののれん、段階取得損益 |
| 税効果 | 子会社株式の一時差異、売却予定、回収可能性、税務上の課税繰延べ |
| 開示 | 適時開示、企業結合注記、決算短信、有価証券報告書 |
| 監査対応 | 監査人協議事項、外部評価、未確定事項、経営者確認 |
この判断メモは、会計担当者だけの内部資料ではありません。
経営者、監査役等、開示担当者、IR担当者、税務担当者、外部専門家が、同じ前提に立って議論するための共通資料です。
専門家に相談すべき場面
株式交換・株式移転・株式交付は、スキーム設計、会計処理、税務、会社法、開示、監査が密接に結びつく領域です。
特に次のような場合には、早い段階で論点整理を行っておくことが望まれます。
| 相談が必要になりやすい場面 | 理由 |
|---|---|
| 取得企業判定が明確でない | 逆取得、共同支配、共通支配下の判定に影響する |
| 株式交換で非支配株主が存在する | 個別では取得、連結では資本取引となる可能性がある |
| 株式移転で共同持株会社を設立する | 取得か共同支配企業の形成かが争点になる |
| 株式交付を利用する | 専用の詳細会計処理が限定的で、関連基準の組合せ判断が必要 |
| 既保有株式がある | 段階取得損益、評価差額、税効果に影響する |
| 自己株式を対価とする | 自己株式処分差額、資本剰余金、株式交付費が問題になる |
| 新株予約権等が存在する | 取得原価、純資産、負債、利益計上に影響する |
| PPAが必要 | 無形資産評価、のれん、償却、減損に波及する |
| 適時開示が必要 | 会計処理未確定でも投資判断情報の開示が必要になる |
| 監査人協議前である | 取引類型判定と証拠資料を先に整える必要がある |
犬飼公認会計士・税理士事務所では、株式交換・株式移転・株式交付を含む株式対価型再編について、会計処理の結論だけでなく、取得企業判定、個別・連結処理、増加資本、自己株式、税効果、PPA、注記・適時開示、監査対応までを含めた論点整理を重視しています。
取締役会決議前、再編契約・計画の作成前、監査人協議前、決算・開示作業前に、会計処理と開示影響を整理しておきたい。そうお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上の要点 |
|---|---|
| 株式交換 | 完全子会社化の制度だが、取得・逆取得・共通支配下・非支配株主取引の判定が必要 |
| 株式移転 | 持株会社化の形式でも、新設親会社ではなく既存会社のいずれかが取得企業となる |
| 株式交付 | 完全子会社化を前提としない株式対価M&Aであり、株式交換の単純な部分版ではない |
| 取得原価 | 株式対価の場合、原則として交付株式の企業結合日における時価を基礎にする |
| 個別処理 | 子会社株式の取得原価、増加資本、自己株式処分差額を整理する |
| 連結処理 | 投資と資本の消去、PPA、のれん、負ののれん、段階取得損益を検討する |
| 逆取得 | 法的な親会社が会計上の取得企業とは限らず、連結表示の継続性が争点になる |
| 共通支配下 | 個別では帳簿価額を基礎に処理し、連結では内部取引として消去するのが基本 |
| 非支配株主との取引 | 支配継続下の追加取得では、連結上、差額はのれんではなく資本剰余金となる |
| 増加資本 | 資本金、資本準備金、その他資本剰余金は会社法計算と連動する |
| 株式交付費 | 取得原価ではなく、原則費用又は一定の場合に繰延資産として処理する |
| 税効果 | 子会社株式の取得時一時差異は原則として税効果を認識しないが、売却予定等があれば検討する |
| 開示 | 適時開示、企業結合注記、有報注記、業績影響、未確定事項を一体で整理する |
| 監査対応 | 仕訳だけでなく、取得企業判定・評価・税効果・開示の判断過程を文書化する |