税務調査が進むと、税務署は納税者本人の帳簿や領収書だけでなく、取引先、金融機関、不動産管理会社、決済事業者など、周囲が保有する資料まで確認していくことがあります。
さらに、納税者本人や家族、従業員が調査官へ説明した内容が、質問応答記録書として文書に残される場合もあります。
この段階でまず意識していただきたいのは、調査を止めるための言い回しを探すことではありません。確認すべきは、申告書、帳簿、契約、入出金、電子データ、当時の行動、そして調査時の説明が、一つの事実関係として整合しているかどうかです。
たとえば、本人は「業務委託」と説明しているのに、取引先では「アルバイト給与」として処理されている、といったことがあります。家賃収入についても、本人の帳簿には管理会社からの入金額しか計上されていない一方で、管理会社側には控除前の家賃総額が記録されている、というケースは珍しくありません。
こうした不一致が、直ちに申告誤りを意味するわけではありません。ただし、なぜ不一致が生じたのかを資料に基づいて説明できなければ、税務署側の資料や関係者の説明を土台として事実認定が進んでしまう可能性があります。
本稿では、税務調査の一般的な流れそのものではなく、次の実務論点に絞ってお話しします。
- 取引先等に対する反面調査
- 銀行等に対する金融機関調査
- 帳簿書類や電子データの提示・提出
- 原本等の留置き
- 質問応答記録書の確認・訂正・署名
- 税理士の立会いと役割
税務調査の事前通知や全体の進行については「11-6. 税務調査の流れと事前通知」、所得区分や経費などの個別論点については「11-7. 税務調査で確認されやすい所得区分・経費・資料」で整理しています。
なお、本稿は2026年6月26日現在の法令および国税庁の公表情報を前提としています。実際の調査対応では、対象税目、対象年分、調査方法、提出済みの税務代理権限証書などを、その都度確認する必要があります。
反面調査・資料提出・質問応答記録書の違い
はじめに、それぞれが何を指すのかを切り分けておきます。
| 手続・行為 | 主な内容 | 納税者が確認すべきこと |
|---|---|---|
| 反面調査 | 取引先等に契約・請求・支払等を確認する | 本人資料との不一致の有無 |
| 金融機関調査 | 銀行、証券会社等の取引記録を確認する | 口座の用途、資金移動、名義と帰属 |
| 資料の提示 | 調査官が内容を確認できる状態にする | 対象範囲、閲覧方法 |
| 資料の提出 | 調査官へ資料の占有を移す | 提出物、提出日、対象期間 |
| 留置き | 提出した原本等を税務署等で預かる | 必要性、預り証、返還 |
| 質問応答記録書 | 質問と回答の要旨を文書化する | 事実、表現、訂正、署名 |
| 税理士立会い | 税務代理人が調査対応に関与する | 委任税目・期間、代理権限 |
これらは、それぞれ独立しているようでいて、実は互いに深く関係しています。
反面調査で得られた資料と本人の帳簿に差異があれば、その理由を確かめるために追加資料が求められ、そこから質問応答記録書が作成されることもあります。ですから、一つひとつを別々に処理するのではなく、調査で問題となっている争点を軸にして整理していく必要があります。
反面調査とは何か
反面調査とは、納税者本人ではなく、取引先などの第三者に対して行われる税務調査です。
国税庁は、取引先等への調査を行わなければ納税者の申告内容に関する正確な事実を把握することが困難と認められる場合に、反面調査を行うことがあるとしています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
具体的には、次のような事項が確認されます。
- 取引の有無
- 契約内容
- 商品の引渡しや役務提供の時期
- 請求金額
- 実際の支払金額
- 源泉徴収税額
- キャンセルや返金の有無
- 外注先が行った業務の内容
- 不動産管理会社が回収した家賃総額
- 資産の売買条件
- 誰が実質的に取引を行ったか
反面調査は、必ずしも「納税者の説明を信用していないから行う」ものとは限りません。本人の資料だけでは取引内容が完結しない場合や、第三者側の資料と照らし合わせなければ計上時期や総額を確認できない場合にも行われます。
反面調査に本人の承諾は必要か
反面調査は、納税者本人の承諾を得なければ実施できない、という手続ではありません。
反面調査先に対する法定の事前通知制度もありません。ただし、国税庁の運用上は、原則として反面調査の対象者へあらかじめ連絡し、反面調査であることを明らかにしたうえで実施するとされています。ここでいう事前連絡の相手は、調査を受けている納税者本人ではなく、反面調査を受ける取引先等です。したがって、納税者が知らないうちに、取引先等への確認が進んでいることもあり得ます。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
反面調査については、まず本人調査を尽くした後でなければ許されないのか、という「補充性」をめぐる議論があります。一方で、裁判例には、反面調査の時期、方法、対象者の選択は、必要性があり、納税者等の私的利益との衡量において社会通念上相当な範囲にとどまる限り、調査官の合理的裁量に委ねられる、とするものもあります。
したがって、本人調査より先に反面調査が行われたという一点だけをもって、当然に違法と結論づけることはできません。問題とすべきは、具体的な必要性、対象資料との関連性、調査方法、そして信用や秘密への影響などです。
反面調査が行われても、不正が確定したわけではない
反面調査が行われたこと自体は、売上除外や架空経費が認定されたことを意味しません。
税務署側が申告内容を確認するための、資料収集の段階であることも多くあります。
ただし、取引先の説明や資料が本人の説明と食い違えば、その差異が次の調査論点へとつながっていきます。
| 本人側の処理 | 取引先側の資料 | 確認すべき事項 |
|---|---|---|
| 入金額を売上計上 | 手数料控除前の総額を記録 | 総額・純額処理の根拠 |
| 外注費として計上 | 給与として処理 | 契約と働き方の実態 |
| 翌年売上として計上 | 年内に検収完了 | 収入計上時期 |
| 借入金として処理 | 相手方は贈与と認識 | 返済義務と返済実績 |
| 自分の経費として計上 | 家族が支払った | 誰が負担したか |
| 管理会社入金額を家賃収入 | 家賃総額から経費控除 | 家賃総額と控除明細 |
| 個人間売買と説明 | 法人が代金を負担 | 実際の取引当事者 |
差異が見つかったときは、どちらか一方の資料へ無理に合わせにいくのではなく、契約、請求、納品、支払、会計処理という順序で、事実を一つずつたどっていきます。
金融機関調査で確認されること
金融機関調査は、広い意味では反面調査の一種です。
対象は銀行にとどまらず、信用金庫、証券会社、保険会社などへの調査も金融機関調査に含まれます。
個人の所得税調査では、次のような目的で行われることがあります。
- 申告した売上と入金額の照合
- 申告されていない口座の確認
- 口座間の資金移動の確認
- 家族名義口座の実質的な管理者の確認
- 借入金・贈与・預り金の区分
- 不動産売却代金や証券取引代金の確認
- 海外送金の内容確認
- 現金引出し後の使途確認
- 資産の取得原資の確認
口座に入金があるからといって、そのすべてが売上になるわけではありません。
自分の別口座からの振替、借入金、立替金の精算、敷金、預り金、贈与、相続財産、資産売却代金なども、そこには含まれ得ます。
そのため、金融機関調査への対応では、ただ「売上ではありません」と説明するのではなく、入金の一件ごとに、その原因を示す資料を用意しておくことが大切です。
| 入出金の内容 | 主な確認資料 |
|---|---|
| 自分の口座間の振替 | 両口座の明細 |
| 借入金 | 金銭消費貸借契約書、返済記録 |
| 家族からの立替金 | 支払資料、精算表 |
| 敷金・預り金 | 契約書、預り金台帳 |
| 資産売却代金 | 売買契約書、引渡資料 |
| 贈与 | 贈与契約、資金移動の経緯 |
| 売上 | 請求書、売上台帳、入金消込 |
| 不動産収入 | 賃貸借契約、管理会社明細 |
「家族口座だから事業とは無関係」「私用口座だから税務署には見せなくてよい」とは限りません。事業関連性や所得の帰属が疑われる場合には、個人名義の口座についても提示・提出を求められることがあります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
反面調査が始まったときに避けたい「口裏合わせ」
取引先への反面調査が分かると、すぐに相手方へ連絡して「このように説明してほしい」と依頼したくなるかもしれません。
しかし、税務調査では、それぞれが手元に持っている当時の資料と記憶をもとに、独立して事実を確認していくことに意味があります。
もちろん、通常の事務確認や、契約書・請求書の再発行を依頼することまで否定されるわけではありません。ただし、次のような対応は避けるべきです。
- 税務署への回答内容を指定する
- 当時存在しなかった契約書を過去日付で作成する
- 実際と異なる請求書や領収書を再発行してもらう
- 相手方の帳簿を本人側の申告に合わせて修正させる
- メールやチャット履歴を削除する
- 事実と異なる説明を関係者間で統一する
必要なのは、説明をそろえることではありません。事実を確定し、差異が生じた原因を明らかにすることです。
たとえば、本人側では外注費、相手側では給与と認識している場合、名称をどちらかへ合わせるだけでは解決しません。指揮命令、勤務時間、代替性、報酬計算、設備負担、成果物など、実際の働き方を確認していく必要があります。
資料の「提示」「提出」「留置き」は別の行為
税務調査で資料を求められたときは、それが提示なのか、提出なのか、留置きなのかを、その場で確認します。
国税庁の通達では、提示とは、資料の内容を調査官が確認できる状態にして示すこと、提出とは、資料の占有を調査官へ移すことと整理されています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第1章
| 区分 | 具体例 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 提示 | 帳簿を画面や紙で閲覧させる | 閲覧対象と期間を確認する |
| 提出 | コピー、PDF、CSV等を渡す | 提出控えと一覧を残す |
| 留置き | 原本等を税務署で預かる | 預り証と返還を管理する |
「見せるだけ」と「渡すこと」は、同じではありません。
調査官から「この資料を見せてください」と言われたのか、「コピーを提出してください」と言われたのか、それとも「原本を預からせてください」と言われたのか。ここを曖昧にしないことが、後々の混乱を防ぎます。
提示・提出要求を受けたときに確認する事項
資料を求められたら、少なくとも次の点は整理しておきます。
- 対象税目
- 対象年分・課税期間
- 対象となる取引や勘定科目
- 求められている資料の名称
- 提示か、写しの提出か、原本の提出か
- 紙か電子データか
- 提出期限
- 提出先と担当者
- 追加説明資料が必要か
- 個人情報・第三者情報が含まれるか
これは、調査を拒む行為ではありません。
むしろ、要求された資料を漏れなく、かつ必要な範囲で正確に提出するための、前向きな確認です。
一方で、正当な理由なく資料の提示・提出に応じないことや、虚偽の記録を提出することは、国税通則法上の罰則対象となり得ます。対象範囲に疑問がある場合も、無回答や一律拒否で臨むのではなく、必要性、対象期間、提出方法を調査官や税理士と確認していくのが適切です。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
資料を提出するときは「提出一覧」を作る
税務調査で資料を提出する場合は、渡した資料を後から再現できるようにしておきます。
提出一覧には、次の事項を記録します。
| 項目 | 記録内容 |
|---|---|
| 提出番号 | 資料ごとの通し番号 |
| 資料名 | 契約書、総勘定元帳等 |
| 対象期間 | 2024年1月~12月など |
| 形式 | 原本、コピー、PDF、CSV |
| ページ・件数 | 10ページ、125件など |
| 提出日 | 調査官へ渡した日 |
| 提出方法 | 手交、郵送、e-Tax等 |
| 提出先 | 税務署、部門、担当者 |
| 関連論点 | 売上計上、外注費等 |
| 備考 | 一部マスキング、追加提出等 |
提出一覧を作る目的は、資料を出し惜しみするためではありません。
後日、調査官から「以前提出された資料では」と指摘されたときに、それがどの資料を前提としているのかを正確に確かめるためです。
また、申告時のデータと調査提出時のデータが異なる場合には、いつ、何を、なぜ修正したのかも残しておきます。会計ソフトから元帳を再出力したところ摘要が更新されていた、取引先コードを修正した、重複仕訳を削除した——こうした変更があるとき、その経緯が分からなければ、後から改変したのではないか、という疑問につながりかねません。
原本を預ける「留置き」への向き合い方
提出した帳簿書類等を税務署や国税局で預かることを、留置きといいます。
留置きは、調査場所に十分なスペースがない、大量の資料を確認する必要がある、コピー設備がないなど、税務署内で確認するほうが合理的な場合に行われます。
国税庁の事務運営指針では、留置きの必要性を説明したうえで、資料を提出した者の理解と協力の下で承諾を得ること、預り証を交付すること、善良な管理者の注意をもって管理すること、必要がなくなれば遅滞なく返還することが示されています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第2章
留置きに応じる前には、次の点を確認します。
- なぜ原本を預ける必要があるのか
- コピーでは足りないのか
- どの資料を預けるのか
- 冊数、ページ数、ファイル数は正しいか
- 預り証に資料名が具体的に記載されているか
- 日常業務で使用する資料ではないか
- 返還を急ぐ資料はないか
- 預ける前に控えを保存したか
預り証に「帳簿一式」としか書かれていない場合には、総勘定元帳1冊、売上日報12冊、賃貸借契約書20件など、可能な範囲で内容を具体化してもらいます。
事業運営に欠かせない資料であれば、預ける前にコピーやスキャンを取っておきます。後から返還を求めるときも、「必要だから返してほしい」とだけ伝えるのではなく、仕入先への確認、金融機関への提出、決算処理など、業務上いつ・なぜ必要になるのかを添えて説明します。
国税庁は、留置きは承諾なく強制的に行わないこと、返還の求めがあった場合には調査上の特段の支障がない限り速やかに返還することを公表しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
なお、調査対応のために新たに作成したコピーを提出し、返還を予定していない場合は、通常、法令上の留置きには当たりません。原本等を預ける場合と、提出用コピーを渡す場合とは、区別して管理しておきます。
電子データを提出するときの注意点
帳簿、請求書、決済明細、メール、クラウド会計データなどが電子データで保存されている場合、提示は画面上で確認できる状態にして行い、提出は印刷物、記録媒体へのコピー、e-Tax、オンラインストレージ等により行われることがあります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
電子データでは、「何を出したか」が、紙以上に見えにくくなりがちです。
そこで、次の情報を残しておくことが重要になります。
- 出力したシステム名
- 出力日時
- 対象期間
- 抽出条件
- ファイル形式
- ファイル名
- 件数
- 並び順
- 除外した項目
- 加工・集計の有無
- 提出前の原データ保存先
- 提出後の送信結果
CSVをExcelで開いて上書き保存すると、日付、先頭のゼロ、桁数、文字コードなどが変わってしまうことがあります。原データはそのまま保存し、加工したファイルは別名で管理してください。
また、クラウドサービスのIDとパスワードをそのまま渡すのではなく、どの期間・どの項目の確認が必要なのかを確かめたうえで、画面提示やデータ出力など、適切な方法を検討します。
e-Taxによる提出
国税庁の2025年9月版マニュアルでは、調査関係書類をPDFまたはCSVでe-Tax送信できるとされています。送信には担当職員から案内される提出先調査部門等番号が必要で、個人番号が記載されたデータは、原則としてマスキングまたは削除したうえで送信するよう案内されています。
出典:e-Tax|e-Taxによる調査関係書類提出マニュアル(令和7年9月)
e-Taxで提出した場合も、送信したファイル、送信日時、提出先、受信通知は保存しておきます。
単に「送信済み」で終わらせず、提出一覧とひも付けておくことで、追加提出や差替えがあったときにも経緯を追えるようになります。
個人情報や職業上の秘密を含む資料
医療、法律、士業、カウンセリングなどの業務では、税務資料に顧客や患者さんの機微な情報が含まれることがあります。
職業上の守秘義務があるからといって、税務調査で一切の資料提示を拒めるとは限りません。とはいえ、調査目的との関係を確かめないまま、関係のない情報まで広範囲に提出すべきでもありません。
国税庁は、職業上の秘密に関する資料についても調査上必要な範囲で提示・提出を求める場合がある一方、守秘義務等の法令上の定めにも十分留意すること、税務職員にも調査で知った秘密を漏らしてはならない義務があることを示しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
このような資料については、次の順で検討します。
- 調査で確認したい税務上の事項を確認する
- その事項を確認できる代替資料がないか検討する
- 氏名等を伏せても税務目的を達成できるか確認する
- 提出範囲と保管方法を調査官と協議する
- 提出内容を一覧化する
- 必要に応じて税理士、弁護士等へ相談する
守秘義務を理由とした一律拒否でもなく、調査協力を理由とした無制限提出でもなく、税務上の必要性と秘密の保護、その双方を整理していく姿勢が求められます。
質問応答記録書とは何か
質問応答記録書とは、税務調査において行われた質問と回答の要旨を、調査官が文書にまとめたものです。
日常会話のメモとは異なり、その後の更正処分、加算税の判断、不服申立て、訴訟などの場面で、証拠資料として扱われる可能性があります。
国税庁の質問応答記録書作成手引では、調査官が記録書を作成した後、回答者に読み上げ、回答者自身にも閲読させ、内容を確認したうえで署名を求める、という流れが示されています。署名を拒否した場合も、その経緯を記録する運用とされています。
質問応答記録書は、必ずしも一言一句の録音反訳ではありません。回答の要旨が調査官の文書として整理されるため、回答者が意図した意味と、記載された意味との間に、ずれが生じる可能性があります。
たとえば、次の二つは、税務上の意味がまったく異なります。
「事業のために使っていました」
「平日は主に事業に使っていましたが、休日には家族も使用していました」
後者のように説明したにもかかわらず、前者だけが記録されれば、私用部分がないと説明したかのように読めてしまいます。
大切なのは、文章が短く読みやすいかどうかではありません。事実を正確に表しているかどうかです。
質問を受けたときは「知っている事実」と「推測」を分ける
調査官から質問を受けると、すぐに答えなければ不利になると考え、記憶が曖昧なまま推測で答えてしまうことがあります。
しかし、推測が記録書へ断定的に書き残されると、後になって資料と矛盾する可能性があります。
回答するときは、次の状態を区別しておきます。
| 自分の認識 | 回答の考え方 |
|---|---|
| 自分が直接経験し、明確に覚えている | 事実として説明する |
| おおよそ覚えているが日付等が曖昧 | 曖昧な点を明示する |
| 資料を見なければ分からない | 確認後に回答すると伝える |
| 他人から聞いただけ | 誰から聞いた情報か明示する |
| 通常はそうしていたと思う | 個別取引の記憶とは分ける |
| 税務上の評価を聞かれた | 事実と法令解釈を分ける |
| 質問の意味が分からない | 質問の対象や期間を確認する |
「分かりません」「記憶していません」と答えること自体は、問題ではありません。
むしろ、覚えていないのに断定してしまうこと、資料で確認できるのに確認せずに答えてしまうことのほうが、後の説明を難しくします。
適切な回答は、たとえば次のようなものです。
その支出があったことは覚えていますが、誰と会食したかは、現時点では正確に思い出せません。日程表とメールを確認して回答します。
当時は家賃収入だと考えていましたが、契約上の法的評価までは検討していませんでした。契約内容は資料で確認してください。
通常は管理会社から月末に送金されていましたが、この入金について同じ処理だったかは、管理明細を確認しなければ分かりません。
このように、事実、記憶の程度、確認可能な資料を分けて説明していきます。
質問応答記録書へ署名する前に確認すべきこと
質問応答記録書への署名を求められたときは、全文に目を通します。
確認すべきは、誤字脱字だけではありません。
1.質問の前提
質問の対象となる年、取引、物件、口座、取引先が正しいかを確認します。
「この口座」と書かれていても、どの金融機関・支店・口座番号を指すのかが文書上で分からなければ、後から別の口座を意味すると読まれてしまう可能性があります。
2.日付・金額・固有名詞
記憶だけで答えた日付や金額が、資料と一致するかを確認します。
特に次の事項は、一桁の違いでも事実認定へ影響します。
- 契約日
- 引渡日
- 入金日
- 業務開始日
- 物件取得日
- 売却代金
- 外注費
- 家族への支払額
- 事業使用割合
3.断定の強さ
自分が「おそらく」「記憶では」「資料を確認しなければ分からない」と説明したのに、記録書では断定表現になっていないかを確認します。
4.省略された事情
回答の一部だけが記載され、結論を左右する事情が抜け落ちていないかを確認します。
たとえば、「家族が業務を手伝っていた」という回答だけでは、従事日数、業務内容、他の勤務、給与支払が分かりません。
5.事実と税務判断の混同
「事業だと思っていた」という主観と、「税法上の事業所得に該当する」という結論は、同じではありません。
質問応答記録書では、本人が経験した事実と、所得区分等の法令解釈とを、分けておく必要があります。
6.訂正・追記の反映
読み上げや閲読の段階で誤りを見つけたら、訂正や追記を申し出ます。訂正を申し出た事実だけでなく、最終的にどのような文章になったかまで確認します。
7.全ページの確認
本文の末尾だけでなく、各ページ、ページ番号、余白処理、差込み、訂正箇所まで確認します。
納得できないまま署名しない
質問応答記録書に事実と異なる記載がある場合は、まず具体的な箇所を示して訂正を求めます。
「全体的に違う」と伝えるよりも、次のように修正内容を明確にするほうが伝わります。
「毎日使用していた」とありますが、私が説明したのは「平日のうち週3日程度」です。
「契約書は作成していない」とありますが、「調査当日は見つけられなかった」と回答しました。
「家族に給与を支払っていない」とありますが、現金で支給しており、振込記録がないと説明しました。
それでも重要な誤りが解消されない場合には、内容に納得できないまま署名することは避けるべきです。
ただし、署名しなければ質問応答記録書が存在しなくなるわけではありません。回答者の署名がない記録書も、その後の争訟における証拠となる可能性があるとされています。署名を拒否した理由や経緯も、調査官側の記録に残されます。
したがって、次のいずれかに偏るべきではありません。
- 調査官が作った文書だから、そのまま署名する
- 署名すると不利だから、内容に関係なく必ず拒否する
判断の基準は、記載内容が事実を正確に表しているか、この一点です。
訂正が反映されないまま署名しなかった場合には、どの箇所に、どのような異議があったのかを、自分側でも書面に残しておきます。必要に応じて、後日、資料を添えて説明書を提出します。
調査時の発言は自分側でも記録する
税務調査では、調査官側の記録だけに任せるのではなく、納税者側でも調査経過を記録しておくことが重要です。
最低限、次の事項は残しておきます。
- 調査日時
- 場所
- 出席者
- 質問者
- 質問の内容
- 自分の回答
- 回答時に参照した資料
- 回答を保留した事項
- 訂正した事項
- 提出した資料
- 次回までの確認事項
- 調査官から示された見解
自分用の記録は、調査官を監視するためのものではありません。
複数日にわたる調査で、前回の回答と今回の回答がなぜ違うのか、追加資料によって何が判明したのかを、自分の言葉で説明するためのものです。
特に、「その場では覚えていなかったが、後から契約書が見つかった」「当初は自分の支払だと思っていたが、家族口座から支払われていた」といった変化については、理由と確認資料をあわせて残しておきます。
回答を後から訂正するときの考え方
調査時に説明した内容が誤っていたことに気づいたときは、その誤りを放置すべきではありません。
ただし、結論だけを差し替えてしまうと、説明が変遷していると受け止められかねません。
次の順で整理します。
- 最初に何と回答したか
- なぜその回答をしたか
- その後、どの資料を確認したか
- 何が新たに判明したか
- 正しい事実は何か
- 申告内容へどのように影響するか
たとえば、次のように説明します。
調査当日は、入金日が役務完了日だと記憶していたため、2025年の売上と回答しました。その後、納品メールと検収書を確認したところ、役務は2024年12月に完了し、入金のみが2025年1月であることが分かりました。このため、収入計上時期について再検討が必要です。
最初の回答をなかったことにするのではなく、変更の理由を資料で示していきます。
税理士立会いの役割
税務調査に税理士が立ち会う場合は、対象税目と対象期間について税務代理権限証書が提出されているかを確認します。
過去の確定申告書を作成した税理士であっても、調査対象となる税目・期間について、現在も税務代理権限があるとは限らないためです。
税理士の役割は、納税者の代わりに都合のよい事実を作ることではありません。
立会い前、調査中、調査後で、その役割は次のように分かれます。
| 段階 | 税理士の主な役割 |
|---|---|
| 調査前 | 申告書、帳簿、契約、通帳等の照合 |
| 調査前 | 想定論点と不足資料の整理 |
| 調査中 | 質問の対象・前提の確認 |
| 調査中 | 税法上の見解と事実関係の切り分け |
| 調査中 | 提出資料の範囲・方法の調整 |
| 調査中 | 質問応答記録書の内容確認 |
| 調査後 | 追加資料、意見書、計算資料の提出 |
| 調査後 | 調査結果と修正申告の要否の検討 |
本人しか知らない事実については、本人が説明する必要があります。
税理士は、その説明が質問と対応しているか、帳簿・資料と整合しているか、税法上の結論と混同されていないかを確認していきます。
質問応答記録書についても、立ち会った税理士自身が回答者として署名するものではありません。とはいえ、記載内容に疑義があれば訂正や説明を求め、その記録書が証拠資料として使用される可能性を納税者へ伝えることが大切です。
また、2024年4月1日以後の税務代理権限証書には、「調査の終了の際の手続に関する同意」欄が設けられています。所定の同意が確認できる場合には、調査結果の内容説明等を、納税者に代えて税務代理人へ行うことができます。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
調査対応を「事実・資料・税務判断」に分ける
反面調査や質問応答記録書への対応では、すべての論点を次の三層に切り分けて考えます。
事実
実際に何が行われたかを整理します。
- 誰が契約したか
- 誰が業務を行ったか
- いつ納品・引渡しをしたか
- 誰が代金を支払ったか
- 誰が資金を管理したか
- 資産をどのように使用したか
資料
事実を裏付ける資料を確認します。
- 契約書
- 請求書
- 納品書
- メール
- 通帳
- 決済明細
- 日程表
- 業務日報
- 写真
- 固定資産台帳
税務判断
確定した事実へ、法令を適用します。
- 事業所得か雑所得か
- 給与か外注費か
- 必要経費か家事費か
- 修繕費か資本的支出か
- 売上計上時期はいつか
- 消費税の課税取引か
- 誰に所得が帰属するか
この順序を逆にしてはいけません。
「事業所得にしたいから事業らしい事実を選ぶ」「経費にしたいから業務目的を後から作る」——こうした整理をしてしまうと、反面調査資料や当時の電子記録との間に、必ず矛盾が生じます。
実務上の対応手順
反面調査や資料提出、質問応答記録書への対応は、次の順に進めると整理しやすくなります。
第1段階 関連データを保全する
メール、チャット、クラウド会計、決済サービス、通帳データ等を、削除・上書きせず、その時点の状態で保存します。
調査連絡後に帳簿を修正する場合は、修正前データ、修正後データ、修正理由を残します。
第2段階 調査対象を確認する
対象税目、年分、取引、勘定科目、関係者を確認します。
反面調査が行われたことを知った場合には、分かる範囲で対象先と確認事項を把握します。ただし、調査官が保有する情報のすべてが開示されるとは限りません。
第3段階 時系列表を作る
契約、役務提供、請求、入金、記帳、申告を、一つの時系列に並べます。
| 日付 | 出来事 | 金額 | 資料 | 帳簿処理 |
|---|---|---|---|---|
| 4月1日 | 契約締結 | ― | 契約書 | ― |
| 5月20日 | 納品 | ― | 納品書 | 売上計上 |
| 5月31日 | 請求 | 550,000円 | 請求書 | 売掛金 |
| 6月30日 | 入金 | 498,950円 | 通帳 | 源泉税差引 |
| 翌年3月 | 確定申告 | ― | 申告書 | 事業所得 |
第4段階 本人資料と第三者資料を照合する
取引先、管理会社、金融機関等の資料と、本人側の帳簿を比較します。
差異があるときは、差額、日付、名義、処理方法に分けて、その理由を確認します。
第5段階 提出資料一覧を作る
提出する資料に番号を付け、論点と対応させます。
口頭説明だけに頼らず、どの資料がどの事実を裏付けるのかを、いつでも示せる状態にしておきます。
第6段階 質問への回答を準備する
暗記した回答文を作るのではなく、次の点を確認しておきます。
- 自分が直接知っている事実
- 記憶が曖昧な事項
- 資料で確認する事項
- 他の関係者しか知らない事項
- 税理士へ確認する法令解釈
第7段階 質問応答記録書を確認する
記載内容、断定の強さ、日付、金額、固有名詞、省略された事情を確認します。
誤りがあれば、署名前に訂正を求めます。
第8段階 調査後の記録を作る
その日に行われた質問、回答、提出資料、次回までの確認事項を記録します。
新たな資料によって回答を訂正する場合には、変更の経緯もあわせて整理しておきます。
早い段階で専門家へ相談したいケース
次のような状況では、調査当日のみ税理士へ立会いを依頼するのではなく、資料提出や回答を行う前の段階から相談する意味があります。
- 主要な取引先への反面調査が行われている
- 銀行、証券会社等への金融機関調査が行われている
- 家族名義・第三者名義の口座を使用している
- 事業用と私用の口座・カードが混在している
- 外注費と給与の区分が問題となっている
- 現金売上やプラットフォーム収入が多い
- 不動産管理会社の送金額だけを収入計上している
- 共有不動産や相続直後の賃料収入がある
- 電子データの提出範囲が広い
- 職業上の秘密や機微な個人情報を含む
- 原本の留置きを求められている
- 質問応答記録書への署名を求められている
- 調査官から「虚偽」「隠蔽」「仮装」等の指摘がある
- 複数年分・複数税目への影響が見込まれる
- 申告を担当した税理士とは別の視点で確認したい
特に、質問応答記録書の作成後や調査結果の説明後では、すでに一定の事実認定が形成されていることがあります。
相談の時期が早ければ、申告内容、資料、実態、本人の記憶を、調査前に照合しておくことができます。遅い段階でも対応は可能ですが、最初の説明を訂正する場合には、その理由を追加資料で説明する作業が必要になります。
重要事項の振り返り
| 論点 | 重要な考え方 | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 反面調査 | 本人以外の取引先等から事実を確認する | 本人資料との不一致を分析する |
| 本人への事前連絡 | 本人に必ず事前通知される制度ではない | 知った後に慌てて説明を合わせない |
| 金融機関調査 | 口座名義だけでなく資金の原因・帰属を見る | 入出金ごとに根拠資料を整理する |
| 資料の提示 | 内容を確認できる状態にする | 閲覧範囲と対象期間を確認する |
| 資料の提出 | 資料の占有を調査官へ移す | 提出一覧と提出控えを残す |
| 留置き | 原本等を税務署等で預かる | 必要性、預り証、控え、返還を確認する |
| 電子データ | 抽出条件や加工で内容が変わり得る | 原データと提出データを分けて保存する |
| 機微情報 | 一律拒否・無制限提出のいずれも避ける | 必要性、範囲、代替資料を検討する |
| 質問への回答 | 記憶・推測・伝聞を区別する | 不明事項は資料確認後に回答する |
| 質問応答記録書 | 後の事実認定で使われ得る | 全文を読み、誤りは署名前に訂正する |
| 署名拒否 | 署名しなくても記録が消えるわけではない | 拒否理由と正しい説明を自分側でも残す |
| 税理士立会い | 税理士は事実を作るのではなく整理する | 対象税目・期間の代理権限を確認する |
反面調査や質問応答記録書への対応に迷っている方へ
取引先や金融機関への照会が始まったとき、本当に重要なのは、税務署へどのような印象を与えるかではありません。
申告書、帳簿、契約書、通帳、電子データ、当時の利用実態、そして調査時の説明を照合し、どこまでが確認済みの事実で、どこからが税務上の判断なのかを、丁寧に整理していくことです。
資料を出すべきかどうかだけでなく、どの資料を、どの範囲で、どの形式により提出し、その資料が何を示しているのか。そこまで検討して初めて、適切な調査対応につながります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査の連絡内容、過年度申告書、帳簿、契約、入出金、電子データ等を確認し、反面調査で確認され得る事実、資料提出の範囲、質問への回答、質問応答記録書の留意点を整理します。
取引先や金融機関への反面調査が分かり、何から確認すべきか迷っている場合や、資料提出・質問応答記録書への対応を事実と根拠から点検したい場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。