賃上げ促進税制・投資税制・税額控除を節税に活かす考え方|税額控除を「使える制度」で終わらせない判断軸

決算対策を考えるとき、多くの経営者がまず思い浮かべるのは「何を経費にできるか」ではないでしょうか。

ただ、法人税の節税には、もう一つ見落とせない領域があります。税額控除です。

損金算入は、あくまで課税所得を減らす処理です。たとえば100万円の経費を計上しても、税率を30%と仮定すれば、税額への影響はおおむね30万円にとどまります。

これに対して税額控除は、一定の要件を満たした場合に、法人税額そのものから直接差し引ける制度です。控除できる部分については、課税所得を減らすよりも税額へのインパクトが大きくなることがあります。

だからこそ、賃上げ促進税制、投資税制、研究開発税制などは、うまく活用できれば強力な節税策になり得ます。

ただし、ここで一つ注意しておきたい点があります。

税額控除は、「制度名を知っている」だけでは使えません。賃上げ、教育訓練、設備投資、研究開発といった実際の経営行動があり、その行動が制度要件に合致し、資料が残り、申告書上も正しく表現されて、はじめて適用できるものです。

税額控除は、小手先の節税テクニックではありません。人件費、設備投資、研究開発、そして成長戦略を、税制の面から後押しするための制度です。

そのため、判断の順番を誤ると、次のような結果を招きかねません。「税金は減ったが、資金繰りを悪化させた」「設備を買ったが、要件を満たさなかった」「賃上げしたが、計算対象から外れる給与だった」「申告書への添付や届出を失念し、控除を受けられなかった」——いずれも、実務で実際に起こり得る話です。

本記事では、賃上げ促進税制・投資税制・税額控除を、単なる制度紹介としてではなく、経営判断としてどう活かすべきかという視点から整理していきます。

目次

税額控除は「税金を直接減らす制度」だが、必ず使い切れるわけではない

税額控除の最大の特徴は、法人税額から直接控除される点にあります。

損金算入、特別償却、税額控除は、一見似ているようで、その効果は異なります。整理すると次のとおりです。

区分税務上の効果資金繰りへの見方
通常の損金算入課税所得を減らす支出額に税率を掛けた分だけ税負担が軽くなる
特別償却減価償却費を前倒しする多くの場合、課税の繰延べ効果が中心
税額控除法人税額から直接控除する控除できた部分は税額を直接減らす
補助金設備投資等の資金負担を補助する入金はあるが、圧縮記帳や収益計上など別途確認が必要

税額控除は強力ですが、決して万能ではありません。

第一に、控除できる上限があります。多くの制度では、法人税額の一定割合を上限としています。税額が少ない会社、赤字の会社、繰越欠損金で法人税がほとんど出ない会社では、制度上の控除額を計算できても、当期に使い切れないことがあります。

第二に、繰越しが認められるかどうかは、制度ごとに異なります。中小企業向け賃上げ促進税制では、令和6年度改正により、中小企業について控除しきれなかった金額を5年間繰り越せるようになりました。ただし、繰越しには明細書添付などの管理が欠かせません。令和8年度改正後の概要でも、中小企業は賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰り越せるとされています。
出典:経済産業省|令和8年度改正後の賃上げ促進税制の概要

第三に、税額控除は、申告書上の記載・明細書添付・資料保存を前提に設計されています。制度によっては、後から「使えるはずだった」と気付いても、適用が制限される場合があります。実務でも、賃上げ促進税制では付表で給与等支給額や比較給与等支給額等を計算し、その結果をもとに別表で適用可否と税額控除額を判定していく流れになります。

つまり税額控除は、「要件を満たせば勝手に税金が減る制度」ではないということです。税務判断、会計処理、申告書作成、証拠資料、社内の意思決定。これらすべてがつながっていて、はじめて機能します。

賃上げ促進税制は「人件費を増やせば得」という制度ではない

賃上げ促進税制は、一定の要件を満たして給与等の支給額を増やした場合に、その増加額の一部を法人税額から控除できる制度です。

中小企業向けの賃上げ促進税制について、中小企業庁は次のように説明しています。青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たしたうえで前年度より給与等の支給額を増やした場合、その増加額の一部を法人税または所得税から税額控除できる、という制度です。
出典:中小企業庁|中小企業向け「賃上げ促進税制」

ここで押さえておきたいのは、賃上げ促進税制は「人件費を増やせば得をする制度」ではない、ということです。

人件費は、毎期継続して発生する、固定的な負担になりやすい支出です。とりわけ基本給の引上げは、賞与や社会保険料、退職金の計算、採用市場での賃金水準、そして翌期以降の人件費計画にまで影響が及びます。

税額控除だけを見て賃上げを決めてしまうと、次のような問題が起こり得ます。

判断ミス起こり得る問題
税額控除率だけを見て賃上げする翌期以降の固定人件費が重くなる
一時的な賞与で要件を満たそうとする翌期の比較給与が高くなり、次年度の要件判定に影響する
役員報酬や親族給与も対象になると思い込む国内雇用者の範囲から外れ、計算誤りになる可能性
助成金・補填額の処理を確認しない調整後の給与等支給額を誤る可能性
赤字でも控除できると思い込む当期に控除できず、繰越管理が必要になる
制度改正を確認しない適用期間・上乗せ要件を誤る

賃上げ促進税制を検討するときは、まず「その賃上げが事業上必要か」を確認するところから始めます。

人材定着のためか。採用競争力を高めるためか。技能者を確保するためか。最低賃金の上昇への対応か。管理職層の処遇改善か。あるいは、教育訓練と連動した処遇設計か。

こうした事業上の目的がないまま、税額控除だけを目的に賃上げをしてしまうと、制度適用以前に、経営判断そのものとして危ういものになります。

令和8年度改正後は、適用事業年度の開始日に特に注意する

賃上げ促進税制は、改正のたびに適用対象や上乗せ要件が変わります。

令和8年7月時点で特に気をつけたいのは、法人の適用事業年度がいつ始まるかによって、使える制度や上乗せ要件が異なる点です。

経済産業省の公表内容によれば、全企業向け税制について、法人は令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度が対象とされ、この全企業向け税制は令和7年度末をもって廃止されました。あわせて、教育訓練費に係る上乗せ措置も、令和7年度末をもって廃止されています。
出典:経済産業省|賃上げ促進税制

同じ資料では、中堅企業向け税制についても言及があります。令和8年度分の適用要件等が変更され、令和6年4月1日から令和8年3月31日までに開始する事業年度と、令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度とで、要件が異なるとされています。
出典:経済産業省|賃上げ促進税制

令和8年度改正後の概要では、中堅企業は全雇用者の給与等支給額の増加額について最大30%、中小企業は最大35%の税額控除が示され、控除上限額は法人税額等の20%とされています。
出典:経済産業省|令和8年度改正後の賃上げ促進税制の概要

こうした事情を踏まえると、賃上げ促進税制では、次の順番で確認していくのが実務的です。

確認順序確認内容
1法人か個人事業主か
2適用事業年度・適用年がいつか
3中小企業者等か、中堅企業か、旧全企業向けの対象期間か
4青色申告書を提出しているか
5対象となる給与等支給額の範囲は正しいか
6比較対象年度の給与等支給額を正しく計算しているか
7助成金・補填額・役務提供対価などの調整が必要か
8上乗せ要件が適用できる期間か
9法人税額の控除上限にかからないか
10控除しきれない金額の繰越管理が必要か

「昨年使えたから、今年も同じはず」という感覚で臨むと、改正年度では誤りが生じやすくなります。

特に令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、全企業向け税制や教育訓練費上乗せ措置の扱いが変わります。事業年度の開始日を起点に、あらためて確認しておきたいところです。

賃上げ促進税制で残すべき資料

賃上げ促進税制の実務で本当に重要になるのは、給与計算そのものよりも、対象者と対象金額をきちんと説明できる資料です。

少なくとも、次の資料は整理しておきたいところです。

資料確認目的
賃金台帳・給与明細給与等支給額の基礎資料
総勘定元帳・給与手当元帳損金算入額との整合性
法定福利費資料賃上げによる社会保険料影響の確認
雇用保険資格取得・喪失資料継続雇用者判定の確認
入退社一覧途中入社・退職者の判定
役員・親族関係者一覧対象外となる者の確認
助成金・補助金の資料給与等に充てるため支払を受けた金額の確認
教育訓練費明細旧制度で教育訓練費上乗せを検討する場合
くるみん・えるぼし等の認定資料子育て・女性活躍支援上乗せの確認
マルチステークホルダー方針資料対象法人で必要となる公表・届出確認
税額控除計算表申告書別表・付表との整合性
取締役会・稟議資料賃上げの経営判断としての根拠

給与等支給額は、税額控除のために後から作る数字ではありません。毎月の給与計算、雇用管理、助成金管理、会計処理を、一つひとつ積み上げた結果です。

申告直前に給与総額だけを比較して「増えているから使える」と判断するのではなく、期中から対象者と対象額を把握しておくことが大切です。

投資税制は「設備を買えば節税」ではない

投資税制もまた、決算前によく検討される制度です。

代表的なものとしては、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制が挙げられます。

中小企業投資促進税制は、中小企業者等が機械装置等の対象設備を取得・製作等した場合に、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除を選択できる制度です。ただし、税額控除を選べるのは、個人事業主または資本金3,000万円以下の法人に限られます。適用期限は2026年度末、すなわち2027年3月31日までとされています。
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制

対象設備としては、一定額以上の機械装置、測定工具・検査工具、一定のソフトウェア、一定の貨物自動車、内航船舶などが示されています。一方で、中古品、貸付の用に供する設備、一定のコインランドリー設備などは対象外とされています。
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制

もう一方の中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて対象設備を取得等した場合に、即時償却、または取得価額の10%の税額控除を選択できる制度です。資本金3,000万円超の法人では、税額控除率は7%となります。適用期限は2027年3月31日までとされています。
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制

ここで押さえておきたいのは、投資税制は「購入した事実」だけでは適用できない、という点です。

特に中小企業経営強化税制では、設備の類型に応じて、工業会証明書、経済産業大臣確認書、経営力向上計画の認定といった、設備取得の前に進めておくべき手続があります。中小企業庁も、工業会等による証明書や経済産業大臣による確認書は設備取得前に申請する必要があり、計画申請の前に証明書または確認書を取得する必要があると案内しています。
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制

A類型では、設備メーカーに証明書の発行を依頼し、その証明書を添付して経営力向上計画を申請し、認定を受けてから設備を取得する、という流れが示されています。またB類型・D類型では、投資計画について税理士または公認会計士の事前確認書を取得したうえで、経済産業局に確認申請書を提出する手続が必要とされています。
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制

つまり、決算月になってから「この設備に経営強化税制を使えますか」と相談しても、取得時期や認定手続の順序によっては、間に合わないことがあります。

投資税制は、決算対策というより、投資前の制度設計だと考えておくのが実務に即しています。

特別償却と税額控除は、どちらがよいかを分けて考える

投資税制のなかには、特別償却と税額控除を選べる制度があります。

この選択は、単純に「税額控除の方が有利」と決めてしまえるものではありません。

比較項目特別償却税額控除
効果減価償却費を前倒しする法人税額を直接減らす
性質課税繰延べの性格が強い控除できた部分は直接的な税額軽減
利益への影響当期利益が下がりやすい会計利益への影響は制度設計・会計処理により異なる
法人税額が少ない場合所得があれば使いやすい場合がある控除上限で使い切れない場合がある
金融機関対応利益減少の説明が必要税効果の説明が必要
将来影響翌期以降の償却費が減る繰越しの可否・期間は制度ごとに確認

設備投資の節税判断では、次の3つを分けて考えてみてください。

第一に、その設備投資自体が、そもそも必要か。

第二に、設備投資をするなら、通常償却、特別償却、税額控除のどれが適切か。

第三に、税額控除を選ぶ場合、それを当期に使い切れるか。

たとえば、利益が大きく、法人税額も十分にある会社であれば、税額控除を選んだ方が、税額への直接効果が大きい場合があります。

一方で、当期利益を圧縮したい、資金繰りを翌期に持ち越したい、法人税額が少なく税額控除を使い切れない、金融機関への説明上は利益をある程度残しておきたい——このように、会社の状況によって判断は変わってきます。

中小企業等経営強化法に基づく支援措置の手引きでは、中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制の控除税額の合計について、その事業年度の法人税額または所得税額の20%を上限とし、限度額を超える金額は翌事業年度に繰り越せるとされています。

出典:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き

投資税制は、税額だけでなく、投資回収、資金調達、金融機関対応、固定資産管理まで含めて判断すべき制度だといえます。

設備投資で残すべき資料

設備投資税制を使う場合、税務調査では「その設備が本当に制度の対象か」「取得時期・事業供用時期・手続の順序が正しいか」が確認されます。

そのため、次の資料を残しておく必要があります。

資料確認目的
投資計画・稟議書なぜその設備を導入するのか
見積書・発注書対象設備の内容・金額の確認
契約書取得条件、納期、所有権移転時期
工業会証明書A類型などで要件を満たす設備であること
経済産業大臣確認書B類型・D類型などで投資計画の確認
経営力向上計画認定書経営強化税制の前提
納品書・検収書取得・引渡しの事実
設置写真・稼働記録事業供用の事実
固定資産台帳資産計上・償却管理
請求書・領収書・支払記録取得価額と資金流出の確認
補助金交付決定通知圧縮記帳や取得価額調整の確認
申告書別表・明細書税額控除・特別償却の申告根拠

「納品書がある」「固定資産台帳に載っている」だけでは、十分とはいえません。

制度によっては、取得前の証明書・確認書・計画認定が重要な意味を持ちます。資料の順番が崩れてしまうと、実際に設備が稼働していても、税制を適用できないことがあります。

研究開発税制は、経費処理ではなく「研究開発活動の証拠化」が重要になる

税額控除の対象は、賃上げや設備投資だけではありません。研究開発に関する制度もあります。

国税庁の説明によれば、研究開発税制は、一般試験研究費の額に係る税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制、特別試験研究費の額に係る税額控除制度の3つで構成されています。このうち、一般試験研究費の制度と中小企業技術基盤強化税制は、同時に選択することはできません。
出典:国税庁|No.5441 研究開発税制について(概要)

一般試験研究費の制度は、青色申告法人の各事業年度において試験研究費の額がある場合に、その額に一定割合を乗じた金額を法人税額から控除できる制度です。
出典:国税庁|No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度

この制度で大切なのは、単に「開発っぽい費用」を集計することではありません。

製品の製造、技術の改良、考案、発明、新たな知見の獲得、利用可能な知見の新たな応用など、制度上の試験研究費に該当する活動かどうかを、一つひとつ確認していく必要があります。対象となる人件費についても、専門的な知識をもって試験研究業務に専ら従事する者に係るものかどうかなど、その範囲を見極めることが求められます。
出典:国税庁|No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度

研究開発税制で残しておきたい資料は、次のようなものです。

資料確認目的
研究開発テーマ一覧何を目的に研究開発しているか
開発計画書技術課題、仮説、工程
研究日報・作業記録実際に研究開発を行った証拠
開発会議議事録意思決定と進捗管理
原材料・試作品資料試験研究に使用した物品の確認
人件費集計表専従者・兼務者の区分
委託契約書委託研究費の内容
成果物・試験結果研究開発活動の実在性
会計仕訳・原価資料損金算入額との整合性
税額控除計算明細申告書記載額との整合性

税額控除は、会計上の科目名だけで判断されるものではありません。

「研究開発費」という勘定科目に入っていても、制度上の試験研究費に該当しないものがあります。反対に、製造原価や外注費のなかに、試験研究費に該当するものが含まれている場合もあります。

研究開発税制は、経理部だけで完結する話ではありません。開発部門、製造部門、経営企画、経理、税務担当が連携し、活動内容と費用を丁寧に結び付けていく必要があります。

組織再編・グループ通算がある会社は、税額控除の計算を単体で見ない

税額控除は、組織再編やグループ通算がある会社では、とりわけ複雑になります。

賃上げ促進税制では、合併・分割があっても、要件を満たせば適用できます。ただし、組織再編の種類に応じて、一定の調整計算が必要になります。たとえば合併の場合には、比較雇用者給与等支給額や継続雇用者比較給与等支給額の計算にあたって、適用年度の合併により増加した被合併法人に係る給与等の支給額に相当する分を加算調整する、という実務があります。

また、グループ通算制度では、研究開発税制の計算が単体法人だけで完結しない場合があります。国税庁は、通算法人における一般試験研究費の税額控除について、通算グループを一体として計算した税額控除限度額と控除上限額のうち少ない金額を、各通算法人の調整前法人税額の比であん分すると説明しています。
出典:国税庁|通算法人における一般試験研究費の額に係る税額控除の計算

こうした事情から、次のような会社では、早めに税額控除への影響を確認しておきたいところです。

状況注意点
合併を行った比較給与、継続雇用者、事業年度月数の調整
会社分割を行った承継事業の給与・設備・研究費の帰属
子会社を買収した買収前後の給与・投資・研究開発費の整理
グループ通算を適用している控除限度額や税額配分が単体で完結しない
通算グループに加入・離脱した時価評価、欠損金、税額控除への影響
組織再編と設備投資が同時にある計画認定、資産承継、事業供用の確認
グループ内で研究開発機能を移した研究費の負担者、成果帰属、委託契約の確認

税額控除は、通常時にはシンプルに見えても、再編・M&A・グループ管理が絡んだ途端に、一気に難しくなります。

「去年と同じ別表を作ればよい」という発想は、ここでは危険です。

税額控除を検討するときの判断順序

税額控除を安全に活用するには、制度ごとにバラバラに考えるのではなく、共通の判断順序を持っておくことが有効です。

1. 事業目的を確認する

賃上げなら人材戦略、投資税制なら設備投資計画、研究開発税制なら開発テーマ。まずは、そこを確認します。

税額控除のために行動するのではなく、事業上必要な行動が、たまたま税制の対象になるかどうかを確認する、という順序が基本です。

2. 適用対象法人か確認する

資本金、従業員数、青色申告、適用除外事業者、大規模法人との関係、平均所得金額、通算制度、対象業種などを確認します。

中小企業者等に見えても、大規模法人からの出資関係や過去の所得によって、対象外となる場合があります。中小企業等経営強化法に基づく手引きでも、同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人、2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人、前3事業年度の所得金額の平均額等が15億円を超える法人などは、対象外になると示されています。
出典:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き

3. 対象支出・対象設備・対象者を確認する

給与、教育訓練費、設備、研究開発費など、それぞれに制度上の対象範囲があります。

役員給与、使用人兼務役員、役員の特殊関係者、補助金で補填される金額、対象外設備、中古資産、貸付用資産など、除外されるものを先に確認しておくことが大切です。

4. 事前手続の有無を確認する

投資税制では、証明書、確認書、経営力向上計画の認定など、取得前に進めておくべき手続があります。

賃上げ促進税制でも、対象法人によっては、マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要になる場合があります。令和8年度税制改正により、令和8年4月1日以降に開始する適用事業年度については、マルチステークホルダー方針の届出書様式が変更されているため、最新様式の確認も欠かせません。
出典:経済産業省|賃上げ促進税制

5. 控除上限と繰越可否を確認する

税額控除では、計算上の控除額と、実際に使える控除額とが異なることがあります。

法人税額の20%、25%といった控除上限、繰越しの可否、繰越期間、そして繰越時の明細書添付要件を確認します。

中小企業向け賃上げ促進税制の繰越控除については、未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に、繰越税額控除限度超過額の明細書を添付する必要があります。明細書が提出されていない場合には、未控除額が繰り越されない、という実務上重要な点にも注意が必要です。

6. 他制度との重複適用・選択適用を確認する

同じ支出や設備について、複数の税制を重複して適用できるとは限りません。

たとえば研究開発税制では、一般試験研究費の制度と中小企業技術基盤強化税制を、重複して適用することはできません。
出典:国税庁|No.5441 研究開発税制について(概要)

中小企業投資促進税制でも、中小企業経営強化税制のE類型の適用を受ける場合には、E類型の投資計画期間中は中小企業投資促進税制を受けられない、と示されています。
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制

7. 申告書・明細書・資料保存まで確認する

税額控除は、最終的に申告書の別表で表現されます。

制度要件を満たしていても、申告書への記載、明細書の添付、資料の保存を誤ると、税務調査や適用漏れの問題につながります。

税額控除で起こりやすい適用漏れ

税額控除は、適用できれば効果が大きい反面、適用漏れも起こりやすい分野です。

理由はシンプルで、制度要件が税理士だけでは完結しないからです。

賃上げは人事・労務の情報を、投資税制は現場・購買・設備メーカーの情報を、研究開発税制は開発部門の情報を必要とします。経理部門だけで判断しようとすると、必要な資料が集まらないまま、申告期限を迎えてしまうことがあります。

適用漏れが起こりやすい場面は、次のとおりです。

適用漏れの原因具体例
制度の存在を知らない賃上げや設備投資をしたが税額控除を検討していない
期末に初めて検討する証明書・確認書・計画認定が間に合わない
部門間連携がない人事・購買・開発情報が経理に届かない
控除上限を見ていない計算上の控除額と実際の控除額を混同する
繰越明細を添付しない将来控除できるはずの未控除額を失う
類似制度の選択を誤る特別償却と税額控除、投資促進税制と経営強化税制の選択を誤る
組織再編を反映しない比較給与・研究費・税額控除限度額の調整を失念する
申告書レビューが不足する別表添付漏れ、金額転記ミス、対象法人判定ミス

税額控除は、申告作業の最後に「使えそうなものを探す」制度ではありません。期首から、投資前から、賃上げ前から管理していく制度だと捉えておきたいところです。

税額控除を安全に活用するための社内管理表

税額控除を継続的に活用している会社では、制度ごとに管理表を用意しておくと役立ちます。

管理項目記載内容
制度名賃上げ促進税制、中小企業経営強化税制、研究開発税制など
適用年度事業年度開始日・終了日
対象法人判定資本金、従業員数、青色申告、出資関係
対象支出給与、設備、研究開発費、教育訓練費など
対象外項目役員給与、中古資産、貸付用資産、補助金充当額など
事前手続証明書、確認書、認定、届出、公表
手続期限取得前、事業年度終了日、終了後45日以内など
控除率基本控除率、上乗せ控除率
控除上限法人税額の何%か
繰越可否繰越可能か、期間は何年か
添付書類申告書別表、明細書、付表
保存資料証明書、給与台帳、契約書、稼働記録、研究記録
担当部署経理、人事、購買、開発、総務
レビュー者税理士、公認会計士、経理責任者
判断メモなぜ適用できると判断したか

この管理表は、節税額を最大化するためだけのものではありません。

税務調査で説明するため。担当者が変わった後も資料を引き継ぐため。金融機関に投資理由を説明するため。そして、後継者に経営判断の経緯を残すため。こうした場面でも、大きな意味を持ちます。

税務調査では「制度名」ではなく「事実と資料」が確認される

税務調査では、「この制度を適用しました」と説明するだけでは足りません。

調査で確認されるのは、制度の名前ではなく、制度要件に該当する事実そのものです。

賃上げ促進税制であれば、給与等支給額の計算根拠、対象者、助成金等の控除、雇用保険の状況、役員・親族の除外、比較年度の数字が見られます。

投資税制であれば、対象設備、取得価額、取得日、事業供用日、証明書、計画認定、稼働の実態、そして対象外資産でないことが見られます。

研究開発税制であれば、研究開発活動の実態、対象費用、人件費の専従性、委託研究の契約内容、成果物、費用集計の根拠が見られます。

つまり、税額控除を守るためには、次の3つが揃っている必要があります。

必要なもの内容
制度理解どの制度のどの要件を満たすか
事実整理賃上げ・投資・研究開発の実態があるか
証拠資料帳簿、契約、証明書、計画、稼働記録、明細書が残っているか

「要件は満たしているはず」という説明ではなく、「この資料から、この要件を満たしている」と説明できる状態にしておくことが求められます。

税額控除を節税に活かすための実行前チェック

税額控除を検討する際は、次のチェックを行ってみてください。

賃上げ促進税制のチェック

チェック項目確認内容
事業年度令和6年度改正前後、令和8年度改正後のどちらか
会社区分中小企業、中堅企業、旧全企業向け対象期間か
青色申告青色申告書を提出しているか
対象者国内雇用者、継続雇用者の範囲は正しいか
除外者役員、使用人兼務役員、役員特殊関係者を除外したか
給与等支給額損金算入額と一致しているか
補填額助成金、給与補填、役務提供対価を調整したか
上乗せ要件適用可能な期間・認定・届出を確認したか
控除上限法人税額の20%上限にかからないか
繰越未控除額の繰越明細を添付したか

投資税制のチェック

チェック項目確認内容
制度選択投資促進税制か、経営強化税制か
対象法人中小企業者等に該当するか
対象業種対象業種か
対象設備設備種類、金額基準、対象外資産でないか
取得時期適用期限内か
事業供用期末までに事業の用に供しているか
証明書工業会証明書等を取得したか
計画認定経営力向上計画の認定を受けたか
取得前手続取得後申請になっていないか
控除上限法人税額の上限と繰越可否を確認したか

研究開発税制のチェック

チェック項目確認内容
制度区分一般試験研究費、中小企業技術基盤、特別試験研究費のどれか
青色申告青色申告法人か
対象活動試験研究に該当する活動か
対象費用原材料費、人件費、経費、委託費などの範囲は正しいか
人件費専ら従事する者の人件費か
委託研究契約書と成果物があるか
補助金補助金等で充当された金額を控除したか
重複適用選択適用・重複不可を確認したか
グループ通算通算グループでの調整が必要か
明細書申告書記載・明細書添付がされているか

「税金が減るからやる」ではなく「やるなら税制も取りこぼさない」

税額控除は、正しく使えば、非常に有効な制度です。

しかし、税額控除のために賃上げをする、税額控除のために設備を買う、税額控除のために研究開発費を作る——こうした発想は、やはり危険です。

正しい順番は、次のとおりです。

まず、事業上必要な賃上げを行う。その賃上げが制度要件に合うなら、賃上げ促進税制を取りこぼさない。

必要な設備投資を行う。その設備投資が対象になるなら、投資税制を事前に設計しておく。

実際の研究開発活動がある。その活動と費用が対象になるなら、証拠資料とともに研究開発税制を適用する。

税額控除は、経営判断の後から付いてくる制度です。

制度を使うこと自体が目的になってしまうと、資金繰り、固定費、投資回収、税務調査、金融機関対応を見誤ります。

一方で、制度を知らないまま経営判断を進めてしまうと、本来受けられたはずの税額控除を取りこぼします。

大切なのは、制度ありきでもなく、制度無視でもない、ということです。

「この賃上げ・投資・研究開発は、事業として必要か」

「必要であれば、税制上どの制度を使えるか」

「使うなら、要件・資料・申告書をどう整えるか」

この順番で考えていくことが、結局はいちばん確かな道だと考えています。

主な出典

出典:経済産業省|賃上げ促進税制
出典:経済産業省|令和8年度改正後の賃上げ促進税制の概要
出典:中小企業庁|中小企業向け「賃上げ促進税制」
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制
出典:中小企業庁|中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き
出典:国税庁|No.5441 研究開発税制について(概要)
出典:国税庁|No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度
出典:国税庁|通算法人における一般試験研究費の額に係る税額控除の計算

税額控除を検討している方へ

賃上げ促進税制、投資税制、研究開発税制などは、制度要件を満たせば大きな節税効果が期待できる制度です。その一方で、適用時期、対象法人、対象支出、事前手続、控除上限、繰越管理、申告書添付を一つでも誤ると、使えるはずの制度を使えなくなってしまうことがあります。

特に、次のような状況では、決算直前ではなく、早い段階で整理しておくことをおすすめします。

  • 賃上げを予定している
  • 設備投資を検討している
  • 経営力向上計画や工業会証明書が必要か確認したい
  • 研究開発費が税額控除の対象になるか判断したい
  • 組織再編・M&A・グループ通算が絡んでいる
  • 税額控除の適用漏れがないか確認したい
  • 申告書添付や資料保存に不安がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税額控除を単なる申告書作成上の論点としてではなく、賃上げ・投資・研究開発・資金繰り・税務調査対応まで含めた経営判断として整理します。

「この制度を使えるか」だけでなく、「使うべき前提が整っているか」「資金繰りや金融機関対応に無理がないか」「後から資料で説明できるか」まで確認したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからお気軽にご相談ください。

振り返り

論点誤りやすい判断実務上の確認ポイント
税額控除の性質法人税額を必ず全額減らせる控除上限、税額の有無、繰越可否を確認する
損金算入との違い経費化と同じ感覚で考える税額控除は法人税額から直接控除される
賃上げ促進税制人件費を増やせば得をする翌期以降の固定人件費、社会保険料、採用戦略を確認する
適用事業年度昨年と同じ要件で使える令和8年度改正後は事業年度開始日で要件が変わる
教育訓練費上乗せいつでも使える令和7年度末廃止後の事業年度では適用可否を確認する
対象給与給与総額をそのまま使う役員・特殊関係者・助成金等の調整を確認する
中小企業の繰越控除赤字なら何もしなくてよい未控除額が発生した年度以後、明細書添付を継続する
投資税制設備を買えば適用できる対象設備、対象業種、事前手続、事業供用を確認する
経営強化税制取得後に申請すればよい証明書・確認書・経営力向上計画は取得前の順序が重要
特別償却と税額控除税額控除が常に有利法人税額、利益、金融機関対応、翌期影響を比較する
研究開発税制研究開発費勘定なら対象活動内容、専従人件費、委託契約、成果物を確認する
重複適用複数制度を同時に使える選択適用・重複不可・他制度との調整を確認する
組織再編単体の前年比較でよい合併・分割・グループ通算時の調整計算を確認する
申告書添付後から資料を出せばよい別表・付表・明細書の添付漏れを防ぐ
税務調査対応制度名を説明すれば足りる要件に該当する事実と証拠資料を残す
経営判断税金が減るなら実行する賃上げ・投資・研究開発の事業目的を先に確認する
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