否認されやすい節税と説明できる節税の違い|実態・契約・資料から判断する

税金を必要以上に納める必要はありません。法令が認めている控除や特例、青色申告の特典、課税方式の選択などを、要件どおりに活用していくことは、個人の事業運営や資産管理を進めるうえで欠かせない視点です。

ただし、先に「この税額にしたい」という結論を決めてしまい、その数字に合うよう契約や説明を後から整える、という進め方はできません。

税務調査で確認されるのは、その対策に「節税」という名称が付いているかどうかではありません。次の事項が、一つの事実関係として無理なくつながっているかどうかです。

  • 適用する法令と要件
  • 実際の契約内容
  • 取引や業務の実態
  • 資金の流れ
  • 金額や割合の合理性
  • 取引当時に作成・保存された資料
  • 翌年以降も一貫している処理

形式のうえでは契約書があり、実際に振込みも行われていた場合でも、業務の実態がなければ必要経費として認められないことがあります。逆に、たとえ節税目的が含まれていても、法令上の要件を満たし、取引実態と証拠資料が整っていれば、そのことだけを理由に否認されるわけではありません。

本稿では、個別の節税手法そのものを紹介するのではなく、家事関連費、家族への給与、親族間・法人間の低額譲渡、法人成り、不動産管理会社などを題材に、否認されやすい節税と、後から説明できる節税を分ける判断軸を整理していきます。

なお、本稿は2026年6月26日現在の法令および公表情報を前提としています。実際の取扱いは、適用年分、取引当事者、契約関係、資産の種類、事業実態などによって変わることがあります。

目次

まず押さえたい結論

説明できる節税と否認されやすい節税の違いは、「税額が大きく下がるかどうか」という単純な話ではありません。

説明できる節税は、法令上の根拠、実在する取引、合理的な金額、そして当時の資料がそろっています。
否認されやすい節税は、欲しい税務上の結論から逆算し、取引実態や資料を後から合わせています。

判断軸説明できる節税否認されやすい節税
出発点事業や資産管理上の必要性を確認する減らしたい税額を先に決める
法令適用条文と要件を確認する「他の人もやっている」で進める
取引契約どおりの業務・利用・移転がある契約書だけで実際の動きがない
金額時価、相場、業務量等から算定する任意の割合や切りのよい金額にする
資金契約に沿った資金移動がある一時的な振込みや資金還流がある
資料取引時点から継続的に残している税務調査後に資料を作る
将来翌年以降や取引終了時まで検討する当年の所得税だけを見る

税額が下がること自体、あるいは節税目的があること自体によって、取引が直ちに否定されるわけではありません。税務上の否認には、必要経費を定める所得税法第37条、家事関連費を定める第45条、低額譲渡等を定める第59条、同族会社等の行為・計算の否認を定める第157条など、適用される法令と、その前提となる事実認定が欠かせません。
出典:e-Gov法令検索|所得税法

節税・租税回避・脱税を同じものとして扱わない

「節税」「租税回避」「脱税」という言葉は、日常会話ではひとくくりにされがちです。しかし実務のうえでは、それぞれを分けて考える必要があります。

区分実務上の位置づけ典型的な例
適法な節税法令が予定する選択肢を、要件どおり利用する青色申告、各種控除、適正な減価償却
否認リスクのある取引私法上の形式はあるが、実態・金額・経済合理性に問題がある実体のない管理会社、過大な管理料
脱税課税事実を隠したり、虚偽の事実を作ったりする売上除外、架空経費、偽造証憑

この区分は、すべての事案を機械的に振り分けるための法令上の定義ではありません。最終的な税務上の結論は、各税法の規定と具体的な事実に基づいて判断されます。

とりわけ注意したいのは、民法上は有効な契約であっても、それがそのまま税務上の効果として認められるとは限らない点です。同族会社との取引については、私法上の契約が実在していても、その行為や計算をそのまま容認すると所得税負担が不当に減少すると認められる場合には、所得税法第157条により、通常あるべき取引へ引き直して計算されることがあります。

公表されている裁決事例のなかには、所得税法第157条の適用にあたり、納税者の租税回避意図や所得税を減らす意図までは必要ないと判断されたものもあります。したがって、「節税目的ではなかった」という説明だけでは、取引条件の不合理性に対する答えにはなりません。
出典:国税不服審判所|平成10年6月23日裁決
出典:国税不服審判所|平成12年12月20日裁決

否認されたからといって、直ちに重加算税になるわけではない

経費の一部が認められなかった、所得区分が修正された、時価評価が訂正された——こうした事実だけで、当然に重加算税が課されるわけではありません。

重加算税では、過少申告等に加えて、課税標準や税額の基礎となる事実の隠蔽または仮装が問題になります。国税庁の事務運営指針では、二重帳簿、帳簿書類の破棄・隠匿・改ざん、虚偽記載、相手方と通謀した虚偽証憑、意図的な売上除外などが例示されています。

そのため、税法解釈や経費割合について見解が分かれる場面と、そもそも存在しない取引を作り出した場面とは、はっきり分けて整理しなければなりません。
出典:国税庁|申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
出典:e-Gov法令検索|国税通則法

説明できる節税を支える6つの層

節税策を検討するときは、領収書の有無だけで判断するのではなく、次の6つの層を順に確認していきます。

1.法令上の根拠

まず確認すべきは、「何条に基づいて、どの要件を満たすから税務上の効果が生じるのか」という点です。

制度によっては、事前届出、適用期限、継続適用、帳簿保存、確定申告書への記載などが要件になります。取引実態があっても、届出期限を過ぎてしまえば使えない制度もあります。

「一般的に経費になるらしい」で済ませるのではなく、どの所得の計算上、どの支出が、どの条文によって控除されるのかを、一つずつ確かめておく必要があります。

2.契約上の権利と義務

契約書には、少なくとも次の内容が具体的に記載されている必要があります。

  • 誰が誰に対して何を行うのか
  • 業務・資産・役務の対象
  • 対価と算定方法
  • 支払時期
  • 費用や危険の負担
  • 契約期間
  • 解約・変更条件

ただし、契約書があることは出発点にすぎません。税務上は、その契約が実際に履行されたかどうかまで確認されます。

3.取引の実態

説明できる節税には、必ず現実の変化が伴います。

法人化であれば、法人が契約主体となり、法人の口座で入出金を管理し、法人が業務上の責任を負います。不動産管理会社であれば、入居者対応、契約管理、修繕手配、入金確認など、会社が実際に行った業務があります。

契約書だけを作り、従来どおり個人がすべての業務を行っているのであれば、契約と実態が一致していないことになります。

4.資金の流れ

契約に沿った金額が、契約当事者間で実際に支払われているかを確認します。

帳簿のうえだけ経費計上して支払っていない場合や、いったん振り込んだ資金が短期間で本人へ戻っている場合には、その理由を説明できるようにしておく必要があります。

現金払いが直ちに否定されるわけではありません。しかし、親族間・同族会社間で高額な現金取引を行い、受領記録も資金使途も残っていないとなると、支払実態を立証することは難しくなります。

5.金額の相当性

実際に業務が行われていても、その金額が無制限に認められるわけではありません。

家族への給与、同族会社への管理料、親族間売買の価格、業務委託料などは、次の要素から相当性を検討します。

  • 業務量と責任
  • 作業時間
  • 必要な資格・経験
  • 第三者へ依頼した場合の価格
  • 同種取引の相場
  • 資産の時価
  • 受託者側の原価と利益
  • 取引条件や負担するリスク

「利益の30%」「家賃の20%」といった、税額から逆算した割合だけでは、金額の説明にはなりません。

6.取引時点の資料

税務調査が始まってから作成した説明書よりも、取引当時に作成されたメール、見積書、作業記録、日程表、振込記録などのほうが、事実を直接に物語ります。

大切なのは書類の量ではなく、次の流れを再現できることです。

検討・意思決定
→ 契約
→ 業務・資産利用
→ 請求
→ 支払
→ 帳簿記録
→ 確定申告

否認されやすい節税に共通する兆候

次のような状況が見られるときは、税額計算へ進む前に、取引の前提そのものを見直したほうがよいでしょう。

兆候問題になりやすい理由
税額だけが先に決まっている事実ではなく結論に数字を合わせている
契約書を年末や申告時にまとめて作る当時の合意や履行を示しにくい
業務内容を説明できない支払と事業との関係が不明確
金額が毎年同じ切りのよい数字算定根拠がない可能性がある
親族・同族会社だけで完結する第三者間価格との比較が必要になる
支払後すぐ本人へ資金が戻る支払の経済的実質が問われる
領収書だけで経費判断している支出目的や利用実態が分からない
所得税しか試算していない消費税、贈与税、法人税等へ波及する
翌年以降の運用を考えていない単年だけ不自然な処理になりやすい
「税務署には分からない」と説明される制度要件ではなく発覚可能性が前提になっている

ここからは、とくに判断を誤りやすい場面を、具体的に見ていきます。

ケース1 自宅・車・通信費などの家事関連費

個人事業では、一つの支出が事業と生活の両方に関係することがしばしばあります。

所得税法上、純粋な家事費は必要経費になりません。一方で、自宅兼事務所の家賃、車両費、通信費、水道光熱費といった家事関連費は、取引記録や利用実態に基づいて、業務遂行上直接必要な部分を明確に区分できる場合に限り、その部分を必要経費に算入できます。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
出典:e-Gov法令検索|所得税法

否認されやすい整理

  • 自宅家賃を一律50%経費にする
  • 私用車を「仕事にも使う」として全額経費にする
  • 家族全員の携帯電話料金を事業経費にする
  • 水道光熱費を売上割合だけで按分する
  • 私的旅行を視察旅行として処理する
  • 相手先や目的を記録せず飲食代を交際費にする

領収書やカード明細は、支払日・支払先・金額を示してくれます。しかし、その支出が事業に必要だったことや、どの程度事業に使ったかまでを、当然に証明してくれるわけではありません。

個人事業では、事業所と居宅、事業用車両と生活用車両の境界そのものが、税務調査の対象になり得ます。

説明できる整理

支出主な按分基準残しておきたい資料
自宅家賃専用面積、共用部分、使用時間間取り図、写真、利用記録
電気代面積、設備容量、使用時間設備一覧、月別使用状況
車両費業務走行距離運行記録、訪問日程、駐車記録
通信費業務通話、契約回線、利用時間通話明細、回線契約、業務用端末
飲食費相手先、目的、内容参加者、議題、成果のメモ
旅費行程、業務目的、私用日程日程表、面談記録、訪問先資料

所得税基本通達45-2では、業務遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかが「主たる部分」の一つの判定基準とされています。ただし、必要部分が50%以下であっても、その部分を明確に区分できれば必要経費に算入できるとされています。

つまり、「50%なら安全」「50%を超えないと経費にできない」という理解は、どちらも正確ではありません。50%という数字そのものよりも、実際の使用状況と区分の根拠が問われるということです。
出典:国税庁|所得税基本通達45-1・45-2

ケース2 家族への給与・外注費

家族が実際に事業を手伝っている場合であっても、「家族へ支払えばすべて経費になる」という整理はできません。

生計を一にする配偶者その他の親族へ支払う給与は、原則として必要経費に算入されません。青色事業専従者給与や白色申告の事業専従者控除など、特別な規定の要件を満たす場合に限って、税務上の取扱いが認められます。

青色事業専従者給与については、年齢、専従性、事前届出、届出額の範囲内での支給、労務の対価としての相当性などが確認されます。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

否認されやすい整理

  • 年末に利益額を見て給与額を決める
  • 実際にはほとんど従事していない
  • 他社で常勤勤務しているのに専従者とする
  • 業務内容や勤務時間を記録していない
  • 毎月の支払をせず、決算時にまとめて未払計上する
  • 給与を振り込んだ後、生活費名目で全額を事業主へ戻す
  • 源泉徴収や給与台帳を整えていない
  • 通常の従業員と比べて著しく高額な給与にする

説明できる整理

説明できる給与には、実際の労務提供があります。

勤務日、勤務時間、担当業務、権限、成果物を記録し、給与額についても、同じ仕事を第三者へ依頼した場合の相場や、他の従業員との均衡を確認しておきます。

必要となる資料は、たとえば次のとおりです。

  • 青色事業専従者給与に関する届出書
  • 業務分掌表
  • 出勤簿・作業日報
  • 給与計算資料
  • 振込記録
  • 源泉徴収簿
  • 年末調整資料
  • 給与額の算定メモ

これは、家族であることを理由に厳しく扱うという話ではありません。第三者間であれば契約や勤務記録として自然に残る情報が、家族間ではどうしても残りにくいため、意識して整えておく必要がある、ということです。

なお、親族であっても、「生計を一にする」関係に当たるか、専従性があるかなどによって適用関係は変わります。戸籍上の関係だけで結論を出さず、居住状況、生活費の負担、職業、勤務実態まで確認します。

ケース3 親族間・法人間の低額譲渡

親族や自分の会社へ不動産、株式、事業用資産などを移すとき、「相続税評価額で売れば問題ない」「時価の半分以上なら安全」といった説明がなされることがあります。

しかし、誰から誰への譲渡か、どの資産か、どの税目を検討しているかによって、取扱いは変わってきます。

個人から個人への低額譲渡

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合には、時価と支払対価との差額が、贈与により取得したものとみなされることがあります。

この「著しく低い価額」については、法人に対する低額譲渡のような一律の2分の1基準があるわけではなく、個別の事実関係に基づいて判断されます。

個人から法人への低額譲渡

譲渡所得の基因となる資産を法人へ時価の2分の1未満で譲渡した場合には、所得税法第59条により、譲渡者側では時価で譲渡したものとして所得計算が行われることがあります。

さらに、同族会社へ時価の2分の1以上で譲渡した場合であっても、その取引が所得税法第157条の要件に該当すれば、時価相当額へ引き直される可能性があります。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
出典:国税庁|所得税基本通達59-3
出典:e-Gov法令検索|所得税法

共有持分の放棄など、民法上は通常の売買や贈与とは異なる形式であっても、税務上は無償移転として、贈与税やみなし譲渡課税が問題になる場面があります。

否認されやすい整理

  • 相続税評価額をそのまま売買時価とする
  • 固定資産税評価額だけで価格を決める
  • 価格算定日が明確でない
  • 土地と建物の価格を税務上有利になるよう任意に配分する
  • 借地権、賃貸借、共有状態などを考慮しない
  • 売買代金を実際には支払わない
  • 分割払いとしながら返済実績がない
  • 低額譲渡による譲受人、法人、株主への影響を確認していない

説明できる整理

低額譲渡や時価が問題になる取引では、少なくとも次の事項を記録しておきます。

  1. 評価基準日
  2. 資産の権利関係
  3. 利用状況
  4. 収益性
  5. 近隣・類似取引
  6. 評価方法
  7. 売買条件による調整
  8. 専門家評価の要否
  9. 実際の代金支払方法
  10. 売主・買主双方の課税関係

金額の大きい不動産や非上場株式では、単一の評価額だけに頼るのではなく、複数の評価資料を比較し、なぜその価格を採用したのかを残しておくことが重要になります。

ケース4 法人成り・不動産管理会社

法人を設立すること自体は、当然に否認される節税ではありません。

事業規模が拡大し、契約主体、従業員、資金管理、責任分担、将来承継などを法人へ移していくことには、税務以外にも経営上の意味があります。

問題になるのは、法人の存在そのものではなく、法人が何を行い、何を負担し、その対価としていくら受け取っているかです。

管理業務の実態がない場合

国税不服審判所の公表裁決事例には、同族会社が実際には不動産管理行為を行っていなかったとして、支払った管理料の全額について、所得税法第37条の必要経費算入が認められなかったものがあります。

契約書や請求書が存在していても、業務実態がなければ、そもそも不動産所得を得るための費用とは認められない、という整理です。

業務実態はあるが、管理料が過大な場合

別の公表裁決事例では、管理業務が存在していても、管理料が同業者の水準等と比べて過大であり、所得税負担を不当に減少させる結果となるとして、所得税法第157条による否認が認められています。

つまり、管理会社については、次の二段階で確認されるということです。

  1. 管理会社が実際に業務を行ったか
  2. 業務対価が合理的な範囲か

出典:国税不服審判所|不動産管理料
出典:国税不服審判所|同族会社の行為又は計算の否認

説明できる不動産管理会社の要素

確認項目整理すべき内容
契約管理業務、責任、報酬、期間
業務入居者対応、契約更新、修繕手配、入金確認
人員誰が、いつ、何を行ったか
報酬業務量、原価、相場、責任から算定
資金法人口座での受払、請求・入金
設備事務所、電話、システム等の利用
記録管理日報、メール、報告書、修繕記録
リスク未収、損害、契約責任等を誰が負担するか
継続性翌年以降も同じ運用をしているか

「管理料を払えば個人所得を法人へ移せる」という順序ではなく、まず法人が担う管理機能を設計し、その業務量と責任に見合う報酬を決める——この順番が大切です。

法人成りは税率差だけで判断しない

法人成りでは、所得税と法人税の税率差だけでなく、次の事項も併せて確認します。

  • 個人から法人へ移す資産の時価
  • 売却、賃貸、現物出資等の移転方法
  • 消費税
  • 役員報酬
  • 社会保険
  • 法人の維持費
  • 個人と法人の資金分離
  • 借入契約や許認可
  • 廃業・解散・個人成り時の課税
  • 将来の事業承継

法人化した年だけ税額が下がっても、資産移転時や、法人から個人へ資金を戻すときに課税が生じることがあります。単年度の比較ではなく、設立から運営、そして出口までを通算して判断する必要があります。

契約書があることと、取引実態があることは違う

否認リスクのある節税では、「契約書も請求書もあります」という説明がよく聞かれます。

しかし、契約書はあくまで合意内容を示す資料であって、契約が履行されたことまで自動的に証明してくれるものではありません。請求書も、請求したという事実は示しますが、請求対象となる業務が実際に行われたかどうかは、また別の問題です。

説明可能性を高めるには、資料を次のように役割別に整理しておきます。

証明したい事項主な資料
取引条件契約書、見積書、注文書
意思決定検討メモ、議事録、メール
業務の実施作業日報、管理報告書、成果物
資産の利用写真、利用記録、運行記録
金額の相当性相場資料、比較見積り、計算書
請求請求書、精算書
支払通帳、振込明細、領収書
帳簿処理総勘定元帳、仕訳資料
税務判断適用条文、要件確認表、専門家意見

資料は、後からまとめて大量に作ればよい、というものではありません。

取引時点で残した日程表、メール、チャット、作業記録、振込記録は、当時の事実をそのまま映し出します。日々の記録が適時に残されていれば、税務署だけでなく、金融機関や将来の事業承継者に対しても説明しやすくなります。

税額が減ることと、手元資金が増えることは同じではない

節税策を評価するときは、減少する税額だけでなく、支出額と将来の負担まで確認します。

仮に、100万円の支出が全額その年の必要経費となり、限界的な税負担率を30%と仮定した場合、税額の減少は概算で30万円です。もし事業上不要なものを購入したのであれば、税金は減っても、手元資金は差引き70万円減ることになります。

そのため、節税策は次のように分けて考えます。

効果内容注意点
税負担の恒久的減少控除や非課税制度等により最終負担が減る適用要件を確認する
課税の繰延べ当年の税を将来へ移す将来の課税と資金を準備する
経費支出支出に伴い所得が減る支出自体に事業価値が必要
資産への転換現金が設備等へ変わる減価償却、売却、廃棄を管理する
所得の移転家族・法人等へ所得が移る労務、契約、時価、相当性が必要

節税額だけを見せる提案では、支出後の資金繰り、住民税、事業税、国民健康保険、消費税、法人維持費といった負担が見落とされがちです。

本当に確認すべきなのは、「いくら税金が下がるか」だけではありません。取引後にどれだけ資金が残り、何の資産・権利・事業機能を得られるかまで含めて見ておくことです。

実行前に確認したい10の質問

節税策を実行する前に、次の質問へきちんと答えられるかを確認してみてください。

質問回答できない場合の主なリスク
1.どの法令に基づくか根拠のない経費・控除になる
2.適用要件をすべて満たすか届出・期限・保存要件を落とす
3.税務以外の事業目的は何か取引の経済合理性を説明しにくい
4.契約によって何が変わるか形式だけの契約になる
5.誰が実際に業務を行うか業務実態がない
6.金額をどう算定したか過大経費・低額譲渡となる
7.資金はどのように動くか支払実態や資金還流を疑われる
8.当時の資料を何で残すか後付け説明に依存する
9.他の税目や翌年へどう影響するか全体では不利になる
10.終了時にどう戻すか売却・解散・承継時の課税を見落とす

10項目のうち一つでも重要な前提が未確認のままであれば、税額試算を確定させる前に、まず事実関係を整理しておくべきです。

すでに実行した節税策に不安がある場合

すでに取引を行い、確定申告も済ませている場合には、契約書を差し替えたり、過去の日付で資料を作り直したりしてはいけません。

まずは、現在残っている原本・電子データを保全したうえで、次の順に整理していきます。

  1. 取引を検討した経緯
  2. 契約締結日
  3. 実際に行われた業務・資産移転
  4. 請求と支払
  5. 帳簿への記録
  6. 確定申告上の処理
  7. 現在までの継続状況
  8. 誤りがある場合の影響税額

そのうえで、単なる資料不足なのか、経費性や時価について見解が分かれるのか、それとも取引実態そのものがないのかを切り分けます。

誤りに気づいた場合には、調査で指摘されるまで放置するのではなく、修正申告等による是正を検討します。ただし、提出時期や税務署からの連絡状況によって加算税の取扱いが変わることがあるため、手続きの前に確認しておく必要があります。

とりわけ、次のような行為は避けなければなりません。

  • 契約日を過去へ遡らせる
  • 実際には行っていない業務の記録を作る
  • 相手方と説明内容を合わせる
  • 電子データを削除・上書きする
  • 帳簿と異なる証憑を作る
  • 資金移動を後から見せかける

経費否認や時価修正そのものと、隠蔽・仮装の認定とは、別の問題です。しかし、誤りを隠すために虚偽資料を作ってしまえば、当初の税務判断よりも大きな問題へと発展するおそれがあります。
出典:国税庁|申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

早い段階で専門家へ相談したい場面

すべての確定申告を、必ず税理士へ依頼しなければならないわけではありません。

一方で、次のような取引は、単なる入力作業ではなく、法令、契約、実態、時価、複数税目を横断した判断が必要になります。

  • 親族や同族会社との取引
  • 家族への高額な給与・外注費
  • 自宅、車両、別荘等の大幅な経費算入
  • 不動産管理会社の設立
  • 個人事業の法人成り
  • 不動産、非上場株式、事業用資産の低額譲渡
  • 多額の赤字を給与所得等と通算する申告
  • 過年度分の契約書を後から整えようとしている場合
  • 所得税、贈与税、法人税、消費税が同時に関係する取引
  • すでに税務署から資料提出や説明を求められている場合

ご相談の際は、「この節税はできますか」と結論だけをお尋ねになるよりも、契約、資金の流れ、業務内容、資産利用、関係者、実施時期まで共有していただいたほうが、判断の精度は上がります。

専門家から「その経費は難しい」「その法人には実態が足りない」「その価格では説明できない」と指摘を受けることもあるでしょう。その指摘を、実行してしまう前に受けられること——そこにこそ、専門家へ相談する大きな価値があります。

重要事項の振り返り

論点否認されやすい整理説明できる整理主な確認資料
節税の出発点税額を先に決める事業目的と制度要件から検討する検討メモ、適用要件表
必要経費領収書だけで判断する事業との直接関係を確認する契約、成果物、支払記録
家事関連費一律割合で按分する面積、時間、距離等で区分する間取り、利用・運行記録
家族給与利益に合わせて支給する労務実態と相当額に基づく届出、出勤簿、給与台帳
低額譲渡評価額を一つだけ採用する当事者・税目・時価を確認する評価書、相場資料、契約書
法人成り税率差だけで決める運営、資産移転、出口まで見る移転一覧、事業計画
管理会社契約書と請求書だけ作る管理業務と報酬根拠を残す管理日報、報告書、相場資料
資料保存調査後に説明を作る取引時から継続的に残すメール、日程表、通帳
重加算税否認と同じだと考える隠蔽・仮装の有無を分ける原始記録、訂正履歴
節税効果所得税の減少額だけ見る手元資金と将来負担を見る複数年資金・税額試算

説明できる節税へ整理したい方へ

節税策の安全性は、「有名な方法かどうか」「多くの人が行っているかどうか」で決まるものではありません。ご自身の取引実態に法令を当てはめ、契約、入出金、利用状況、金額の相当性を後から再現できるかどうかで決まります。

とりわけ、家事関連費、家族への支払、親族・同族会社間の取引、不動産管理会社、法人成り、資産の低額譲渡といった場面は、申告書の作成段階になってからでは、前提を修正できないことがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、節税効果だけを切り出すのではなく、取引の目的、実態、契約、資金の流れ、必要資料、他税目への影響、翌年以降の運用までを確認し、税務署・金融機関・将来のご自身に説明できる形へと整理します。

実行を検討している節税策に不明点がある方、また、すでに行った取引の説明可能性を確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

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