個人事業者の確定申告では、まず所得税の計算に目が向きます。売上はいくらか、必要経費はいくらか、青色申告特別控除は使えるか、事業所得か雑所得か不動産所得か。こうした点はもちろん重要です。
ただ、個人事業者や不動産収入のある方が所得税だけを見ていると、意外に見落としやすいのが消費税の「課税事業者・免税事業者」の判定です。
消費税は、所得税のように「利益が出たかどうか」だけで決まる税金ではありません。事業者が国内で事業として行う課税取引を前提に、一定の判定基準を満たすと、消費税の申告・納税義務が生じます。国内取引については、事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡・貸付け・役務提供に消費税の納税義務が生じる、というのが基本的な考え方です。
ここで大切なのは、「前年の利益が少なかったから消費税は関係ない」「開業したばかりだから必ず免税」「売上が1,000万円以下だから常に免税」といった単純な判断をしないことです。
消費税の納税義務は、基準期間、特定期間、インボイス登録、課税事業者選択届出、相続による事業承継、高額な設備投資など、複数の要素を組み合わせて判断します。
この記事では、個人事業者を中心に、課税事業者・免税事業者の判定をどの順番で確認すべきかを整理します。消費税額の具体的な計算方法や申告書の作成手順ではなく、まず「自分は消費税申告が必要なのか」を判断するための全体像を扱います。
課税事業者と免税事業者の違い
消費税の「課税事業者」とは、消費税の申告・納税義務を負う事業者です。これに対して「免税事業者」とは、一定の小規模事業者について、消費税の納税義務が免除されている事業者を指します。
ここで誤解しやすいのは、免税事業者は「消費税と無関係な人」ではない、という点です。
免税事業者であっても、事業として課税取引を行っていることはあります。単に、その課税期間について納税義務が免除されているだけです。ですから、翌年以降に課税事業者になる可能性、インボイス登録の影響、取引先との価格交渉、将来の設備投資、消費税の還付可否などを考えるうえでは、免税事業者である期間も課税売上高の管理が欠かせません。
事業者免税点制度では、基準期間における課税売上高等が一定額以下の事業者について、課税事業者を選択した場合や適格請求書発行事業者として登録を受けている場合を除き、原則として納税義務が免除されます。
判定は「今年の売上」だけでは決まらない
消費税の納税義務判定でまず押さえておきたいのは、原則として「その年の売上」ではなく、「過去の一定期間の課税売上高」で判定するという点です。
個人事業者の場合、消費税の課税期間は原則として暦年、つまり1月1日から12月31日までです。そして、その年に課税事業者になるかどうかは、原則としてその年の前々年である「基準期間」の課税売上高で判定します。
たとえば、ある年の消費税申告が必要かどうかを判断するときは、その年の売上だけを見るのではなく、前々年の課税売上高を確認します。
個人事業者の基準期間は前々年であり、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、一定の場合を除いて消費税の納税義務は免除されます。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
したがって、消費税の判定では、次の順番で確認していくことになります。
- 自分が事業者として課税取引を行っているか
- インボイス発行事業者として登録しているか
- 課税事業者を選択する届出を出しているか
- 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているか
- 特定期間の課税売上高等が1,000万円を超えているか
- 相続、法人成り、高額資産取得などの特例に該当しないか
この順番を飛ばして「売上が1,000万円を超えたかどうか」だけを見てしまうと、判定を誤ることがあります。
基準期間とは何か
個人事業者の基準期間は、その年の前々年です。たとえば令和8年分について消費税の納税義務を判定する場合、原則として令和6年分の課税売上高を確認します。
このとき見るのは、所得税の利益ではありません。また、青色申告決算書の売上金額をそのまま使えば足りる、とも限りません。確認するのは、あくまで「課税売上高」です。
課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上高を中心に整理する概念です。非課税売上や不課税収入を含めるかどうかは、取引の内容によって判断します。
ここで、所得税の収入金額と消費税の課税売上高がずれることがあります。
たとえば不動産収入がある場合、所得税では不動産所得の収入としてまとめて整理していても、消費税では、住宅の貸付け、事務所・店舗の貸付け、駐車場、土地の貸付け、設備利用料などを分けて見る必要があります。
補助金、保険金、損害賠償金、助成金、事業用資産の売却、委託販売、プラットフォーム収入なども、所得税上の収入区分と消費税上の課税売上高の整理が一致しないことがあります。
課税事業者判定では、「入金があったか」ではなく、「その入金が消費税上の課税売上高に含まれる性質のものか」を確認することが欠かせません。
基準期間が免税事業者だった場合の課税売上高
基準期間の課税売上高を計算するとき、実務でよく問題になるのが、基準期間に免税事業者だった場合の取扱いです。
免税事業者が取引先から「消費税相当額」を含む金額を受け取っていたとしても、消費税法上は、その売上に消費税は含まれていないものとして扱われます。そのため、基準期間が免税事業者であった場合には、その課税資産の譲渡等の対価の額、つまり課税売上金額そのものが基準期間の課税売上高になります。
出典:国税庁|基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定
ここは、非常に間違えやすいところです。
たとえば請求書上で「本体価格」と「消費税相当額」を分けて記載していたとしても、基準期間が免税事業者であったなら、その消費税相当額を控除して税抜処理するのではなく、受け取った課税売上金額をそのまま基準期間の課税売上高として判定します。
一方、基準期間に課税事業者であった場合は、原則として税抜金額で課税売上高を整理します。
つまり、同じ売上規模に見えても、基準期間に課税事業者だったか免税事業者だったかによって、課税売上高の判定方法が変わることがあるのです。
これは、単なる計算上の細部ではありません。1,000万円の判定に直結し、翌々年に消費税申告が必要になるかどうかを左右します。
特定期間による判定
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、それだけで免税事業者と確定するわけではありません。次に確認すべきなのが「特定期間」です。
個人事業者の場合、特定期間とは、その年の前年1月1日から6月30日までの期間を指します。この特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、納税義務は免除されません。なお、この特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額によって行うこともできます。
この判定では、次の点が重要になります。
まず、前年の上半期の課税売上高を確認します。次に、必要に応じて、給与等支払額による判定が使えるかを確認します。そして、課税売上高と給与等支払額のどちらで判定するかを整理します。
特定期間の判定は、実務上、見落としやすい論点です。とくに、開業翌年、売上が急に伸びた年、外注中心から従業員雇用へ移行した年、インボイス登録を検討した年は注意が必要です。
なお、令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、国外事業者について、特定期間の1,000万円判定を給与等支払額により行うことはできないとされています。国内の一般的な個人事業者とは異なる取扱いになりますので、非居住者や国外事業者に該当する可能性がある場合には、別途確認が必要です。
開業したばかりの個人事業者は必ず免税なのか
新たに開業した個人事業者は、その年について基準期間がありません。したがって、原則として、開業年は免税事業者になります。
開業翌年についても、通常は基準期間となる前々年がないため、原則として免税事業者と考える場面が多いでしょう。
ただ、ここで注意しておきたいのが、特定期間とインボイス登録です。
開業した個人事業者は、基準期間における課税売上高がない場合には原則として納税義務が免除されますが、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合など一定の場合には課税事業者になります。なお、前年の途中で開業した個人事業者の特定期間の課税売上高について、6か月分に換算する必要はありません。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
そのため、開業初年度の売上が急速に伸びた場合には、翌年の特定期間判定に注意が必要です。
さらに、開業したばかりでも、インボイス発行事業者として登録した場合や、設備投資の還付を受けるために課税事業者を選択した場合には、免税事業者のままとは限りません。
「開業後2年間は必ず消費税が不要」という理解は、現在の実務では危険だといえます。
インボイス登録をしている場合は、基準期間だけでは判定しない
インボイス制度の開始後、課税事業者・免税事業者の判定で最も注意すべきなのが、適格請求書発行事業者の登録です。
適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者として登録を受けた課税事業者は、基準期間の課税売上高にかかわらず、消費税の納税義務は免除されません。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
さらに、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日を含む課税期間中に免税事業者が登録を受けた場合には、登録を受けた日からインボイス発行事業者となることができる経過措置が設けられています。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
こうしたことから、インボイス登録をした個人事業者は、次の点を確認しておく必要があります。
登録日はいつか。登録日が属する課税期間はいつか。その年の消費税申告が必要になる期間はどこからどこまでか。登録取消しをする場合、いつまでに届出が必要か。登録を取りやめても、直ちに免税事業者に戻れるのか。
届出書・申請書の案内では、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合には、登録開始日から課税事業者となり、登録に当たって消費税課税事業者選択届出書の提出は不要とされています。
出典:国税庁|令和8年2月 税務署 提出が必要な届出書・申請書
インボイス登録は、単に登録番号を取得する手続ではありません。消費税の申告・納税、請求書の記載、帳簿保存、納税資金管理を開始する、という判断でもあります。
2割特例・3割特例は「納税義務の有無」を消す制度ではない
インボイス制度に関連して、2割特例や3割特例という言葉を耳にした方も多いと思います。
ここで押さえておきたいのは、これらは「消費税申告が不要になる制度」ではない、という点です。
2割特例や3割特例は、一定の要件を満たす小規模事業者について、消費税の納付税額を簡便に計算できる制度です。課税事業者・免税事業者の判定そのものを不要にするものではありません。
令和8年度税制改正特集では、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者について、令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告で、納付税額を売上税額の3割とすることができる特例が示されています。
出典:国税庁|令和8年度 税制改正特集
つまり、インボイス登録により課税事業者になった場合、申告義務は発生します。そのうえで、要件を満たすなら、2割特例や3割特例、簡易課税、一般課税のうち、どの計算方法を用いるかを検討していきます。
「特例があるから消費税を考えなくてよい」のではなく、「課税事業者になった後の税額計算方法として特例を検討する」と理解しておくことが大切です。
課税事業者選択届出書を出している場合
基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、本来は免税事業者になれる場合でも、自ら課税事業者を選択することがあります。これが「消費税課税事業者選択届出書」です。
課税事業者を選択する典型的な場面は、設備投資が大きい場合や、輸出取引などにより消費税の還付を受ける可能性がある場合です。設備投資が多額にあった場合や、輸出業者のように還付が生じる事業者については、免税事業者であっても課税事業者を選択することで、消費税の還付を受けることができます。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
ただし、課税事業者選択届出書は、出せばよいというものではありません。
提出時期を誤ると、希望する年から課税事業者になれないことがあります。適用開始課税期間を誤ると、想定と異なる年から課税事業者になることがあります。課税事業者を選択すると、一定期間は免税事業者に戻れないこともあります。さらに、調整対象固定資産や高額特定資産を取得すると、追加の制限がかかることもあります。
課税事業者選択届出書を提出した場合、原則として、提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後から納税義務が免除されなくなります。事業開始日の属する課税期間など一定の場合には、その課税期間から課税事業者になれます。なお、翌課税期間から課税事業者を選択したいときは、課税期間の末日が休日等であっても、提出期限は翌平日に延長されません。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除
消費税の実務では、届出書の提出期限や適用開始課税期間の誤りが、還付不可や想定外の申告義務につながることがあります。届出は「申告時に考えればよいもの」ではなく、事業計画や設備投資の前に確認しておくべき論点です。
高額な設備投資をした場合の判定
課税事業者・免税事業者の判定では、高額な設備投資にも注意が必要です。とくに、課税事業者が一般課税で高額特定資産を取得した場合には、一定期間、事業者免税点制度の適用や簡易課税制度の選択が制限されることがあります。
課税事業者が、簡易課税制度および2割特例の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合、その翌課税期間から一定期間、事業者免税点制度は適用されません。ここでいう高額特定資産とは、一の取引単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。
出典:国税庁|No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
ここで注意したいのは、「基準期間の課税売上高が1,000万円以下に戻ったから、翌年は免税に戻れる」と単純には判断できない場合があることです。
建物、機械装置、車両、設備、器具備品などの取得がある場合、所得税では減価償却や必要経費の論点として見ますが、消費税では、納税義務や計算方法の制限に影響します。
届出書・申請書の案内でも、課税事業者選択届出書を提出した事業者が一定期間中に調整対象固定資産を取得した場合には、原則として3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、課税事業者選択不適用届出書や簡易課税制度選択届出書を提出できないとされています。
出典:国税庁|令和8年2月 税務署 提出が必要な届出書・申請書
設備投資をする年は、所得税の減価償却だけでなく、消費税の納税義務、還付可否、一般課税・簡易課税の選択、インボイス特例との関係を事前に確認しておく必要があります。高額資産を取得した場合の「3年縛り」や届出不可期間は、実務上もミスが生じやすい論点です。
相続で事業を引き継いだ場合
個人事業者の消費税判定で見落としやすいのが、相続により事業を引き継いだ場合です。
所得税では、被相続人の準確定申告、相続人の不動産所得や事業所得、遺産分割などに目が向きます。しかし消費税では、被相続人の課税売上高を踏まえて、相続人の納税義務を判定する必要があります。
相続があった年については、その年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超える場合、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間の納税義務は免除されません。
出典:国税庁|No.6602 相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について
これは、不動産賃貸業を相続した場合などに特に重要になります。
相続が発生すると、相続税、遺産分割、不動産登記、賃料の帰属、固定資産税、借入金などの整理に意識が向きます。しかし、消費税の納税義務判定も同時に確認しなければなりません。
相続があった年の翌年・翌々年については、相続人自身の基準期間における課税売上高と、被相続人の基準期間における課税売上高との関係を確認する必要があります。相続財産が未分割の場合や、複数の相続人が関係する場合には、収入の帰属や事業承継の実態も含めて、慎重に整理しておくべきです。
法人成りした場合
個人事業が成長すると、法人成りを検討することがあります。法人成りの場面では、所得税、法人税、社会保険、役員報酬、資産移転、時価、消費税を一体で検討する必要があります。
消費税の納税義務判定では、個人事業者であった期間の課税売上高が、新たに設立した法人の基準期間の課税売上高に当然に含まれるわけではありません。個人事業者が法人成りにより新規に法人を設立した場合、個人事業者であった期間の課税売上高は、その法人の基準期間の課税売上高には含まれないとされています。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
もっとも、だからといって「法人化すれば必ず消費税を回避できる」という単純な話ではありません。
新設法人については、資本金、特定新規設立法人、特定期間、インボイス登録、課税事業者選択届出、設備投資などを確認する必要があります。とくに、法人設立直後に大きな設備投資を行う場合には、還付を受けるために課税事業者を選択するのか、簡易課税を選ぶのか、インボイス登録をいつ行うのかによって、数年分の税務判断が変わってきます。
法人成りは、所得税と法人税の税率差だけで判断するものではありません。個人事業の資産・負債・契約・取引先・インボイス登録・消費税届出を含めて整理する必要があります。
不動産収入がある場合の注意点
不動産収入がある個人は、課税事業者・免税事業者の判定で特に注意が必要です。
所得税では不動産所得として一括して整理する場面でも、消費税では、収入の内容を細かく分けて確認します。
住宅の貸付けは、原則として非課税取引です。事務所や店舗の貸付けは、課税取引となる場合があります。駐車場の貸付けも、契約内容や土地の状態により課税関係を確認する必要があります。土地の貸付けは、一定の場合を除き非課税取引として扱われます。
民泊、トランクルーム、レンタルスペース、太陽光発電、設備利用料などは、単なる不動産所得の収入としてまとめず、消費税上の取引区分を確認する必要があります。
ここで問題になるのは、所得税の「不動産所得」と消費税の「課税売上高」が一致しないことです。賃料収入の合計額だけを見て1,000万円判定を行うと、課税売上高を過大または過小に判定してしまう可能性があります。
不動産収入がある場合は、物件ごとに、用途、契約書、借主、共益費、駐車場、設備利用料、管理委託、サブリースの有無を整理しておくことが重要です。
課税事業者になった場合に生じる実務負担
課税事業者になると、単に消費税を納めるだけではありません。次のような実務対応が必要になります。
売上を課税、非課税、不課税、免税に区分する。軽減税率対象取引がある場合は、税率ごとに区分する。仕入れ・経費について、課税仕入れ、非課税仕入れ、不課税支出を分ける。インボイスの有無を確認する。一般課税、簡易課税、2割特例、3割特例の適用可否を確認する。消費税の納税資金を準備する。消費税申告書を提出する。帳簿・請求書・領収書・契約書を保存する。
免税事業者から課税事業者に変わった年は、会計ソフトの設定、請求書の記載、消費税区分、納税資金管理を早めに見直しておく必要があります。
所得税の申告だけを前提に帳簿を作っていると、消費税申告の段階で、売上区分や仕入区分の確認に時間がかかることがあります。
よくある判定ミス
課税事業者・免税事業者の判定では、次のようなミスが起こりやすいものです。
所得税の売上金額だけで判定してしまう
消費税では、課税売上高を確認します。所得税の売上・収入金額と一致するとは限りません。
住宅家賃、土地の貸付け、補助金、保険金、事業用資産の売却、委託販売、非課税取引、不課税取引を区分しないと、判定を誤る可能性があります。
基準期間が免税事業者だったのに税抜処理してしまう
基準期間に免税事業者であった場合、売上に消費税は含まれていないものとして扱われるため、その課税売上金額をそのまま判定に用います。
請求書上で消費税相当額を分けていたからといって、当然に税抜処理できるわけではありません。
特定期間を見落とす
前々年の課税売上高が1,000万円以下でも、前年上半期の特定期間により課税事業者になることがあります。
開業翌年、売上急増、事業拡大、従業員雇用の開始がある場合は、特に注意が必要です。
インボイス登録をしているのに免税と考えてしまう
インボイス発行事業者として登録を受けている場合、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、消費税の納税義務は免除されません。
登録日、登録取消し、経過措置、2割特例・3割特例の適用可否を確認する必要があります。
課税事業者選択届出書の効果を理解していない
課税事業者を選択すると、一定期間は免税に戻れません。
また、提出期限や適用開始課税期間を誤ると、還付を受けられなかったり、想定外の年から課税事業者になったりします。
高額資産取得の制限を見落とす
設備投資や不動産取得をした場合、高額特定資産や調整対象固定資産の規定により、免税事業者に戻る時期や簡易課税の選択が制限されることがあります。
相続や法人成りを単純に考えてしまう
相続による事業承継では、被相続人の課税売上高を踏まえた判定が必要です。
法人成りでは、個人時代の課税売上高が法人の基準期間に当然に引き継がれるわけではありませんが、新設法人の特例、インボイス、届出、設備投資の影響を確認する必要があります。
判定のために整理すべき資料
消費税の課税事業者・免税事業者を判断するには、次の資料を整理しておくと、判断が具体的になります。
過去3年分程度の所得税確定申告書。青色申告決算書または収支内訳書。売上先別・取引別の売上明細。請求書、領収書、契約書、入金明細。
不動産収入がある場合は、物件別の賃貸借契約書、家賃明細、用途、借主、駐車場・共益費の内訳。
インボイス登録通知書、登録申請状況、登録日。消費税課税事業者選択届出書、選択不適用届出書、簡易課税制度選択届出書など、過去に提出した届出書。設備投資や不動産取得の契約書・請求書・支払明細。
相続により事業を引き継いだ場合は、被相続人の過去の申告書、賃料明細、事業承継日、遺産分割の状況。法人成りをした場合は、個人事業の廃業日、法人設立日、資産移転資料、インボイス登録状況。
消費税の判定は、申告書だけで完結しません。契約、入金、取引内容、届出、登録状況、資産取得の資料を組み合わせて確認する必要があります。
消費税の判定は、早めに行うべき税務判断である
消費税の課税事業者・免税事業者の判定は、申告期限直前に確認するものではありません。消費税には、事前の届出や登録が将来の税額に大きく影響する場面が多いからです。
インボイス登録をいつ行うか。課税事業者を選択するか。簡易課税を選択するか。設備投資をいつ行うか。法人成りをいつ実行するか。不動産収入の用途変更をどう扱うか。相続後の事業承継を誰がどのように行うか。
これらは、申告書を作る段階ではなく、取引や事業判断の前に検討すべき論点です。
消費税は、所得税の申告に付随する「追加作業」ではありません。事業の取引構造、価格設定、納税資金、帳簿保存、将来の投資判断に関わる税務判断です。
消費税の判定に不安がある方へ
課税事業者・免税事業者の判定で不安がある場合、まず確認すべきなのは「消費税を払いたいか、払いたくないか」ではありません。確認すべきなのは、次の事実です。
どの年の判定をしているのか。基準期間はどの年か。その基準期間の課税売上高はいくらか。基準期間に免税事業者だったか課税事業者だったか。特定期間の課税売上高と給与等支払額はいくらか。インボイス登録をしているか。課税事業者選択届出書を出しているか。高額資産を取得していないか。相続や法人成り、事業承継がないか。不動産収入の中に課税売上と非課税売上が混在していないか。
これらを整理すると、消費税申告の要否だけでなく、納税資金、インボイス対応、帳簿保存、翌年以降の事業判断も見えやすくなります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、個人事業者・不動産収入のある方の確定申告について、所得税だけでなく、消費税の課税事業者判定、インボイス登録、届出期限、納税資金、帳簿・資料保存まで含めて整理します。
「自分がいつから課税事業者になるのか分からない」
「インボイス登録をした後の消費税申告が不安」
「不動産収入の一部が消費税の課税売上になるのか確認したい」
「課税事業者選択届出書を出すべきか判断したい」
「設備投資や法人成りの前に消費税の影響を確認したい」
こうした場合は、申告期限直前ではなく、早めに資料と事実関係を整理しておくことが大切です。
消費税の判定を曖昧にせず、説明できる申告と納税資金の見通しを整えたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。
この記事の振り返り
| 項目 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 課税事業者 | 消費税の申告・納税義務を負う事業者 |
| 免税事業者 | 一定の小規模事業者として、その課税期間の納税義務が免除される事業者 |
| 基準期間 | 個人事業者は原則として判定対象年の前々年 |
| 基準期間の課税売上高 | 原則として1,000万円を超えると課税事業者 |
| 免税事業者だった基準期間 | 売上に消費税は含まれないものとして、その課税売上金額をそのまま判定に使う |
| 特定期間 | 個人事業者は前年1月1日から6月30日まで |
| 特定期間判定 | 課税売上高または給与等支払額により1,000万円判定を行う |
| 開業直後 | 基準期間がなければ原則免税だが、特定期間、インボイス登録、課税選択に注意 |
| インボイス登録 | 登録を受けた課税事業者は、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務が免除されない |
| 課税事業者選択届出書 | 還付目的などで課税事業者を選ぶ制度だが、届出期限と継続適用に注意 |
| 高額資産取得 | 高額特定資産や調整対象固定資産により、免税復帰や簡易課税選択が制限される場合がある |
| 相続 | 被相続人の基準期間の課税売上高を踏まえて相続人の納税義務を判定する |
| 法人成り | 個人時代の課税売上高は法人の基準期間に当然には含まれないが、新設法人特例・届出・インボイスを確認する |
| 不動産収入 | 住宅、事務所、駐車場、土地、設備利用料などを分けて課税売上高を整理する |
| 相談前資料 | 過年度申告書、売上明細、契約書、届出書、インボイス登録資料、設備投資資料を準備する |
主な出典・参照情報:
出典:国税庁|No.6121 納税義務者
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
出典:国税庁|No.6602 相続で事業を引き継いだ場合の納税義務につい
出典:国税庁|No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
出典:国税庁|No.6613 免税事業者と仕入税額の還付
出典:国税庁|基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定
出典:国税庁|令和8年度 税制改正特集
出典:国税庁|令和8年2月 税務署 提出が必要な届出書・申請書