個別論点別の一時差異整理|減損・貸倒・退職給付・資産除去債務・評価差額の税効果会計

税効果会計で一時差異を整理するとき、実務上の失敗は「税務調整項目を一覧化すること」そのものにあるわけではありません。

問題はむしろ、その一覧が、会計上の論点と税務上の解消パターンを結び付けていないところにあります。

同じ将来減算一時差異であっても、実務上の判断軸は項目ごとに異なります。賞与引当金のように翌期に比較的明確に解消するもの、貸倒引当金のように債務者の状況や税務上の貸倒要件に依存するもの。あるいは、減損損失のように償却資産か非償却資産かでスケジューリングの考え方が変わるもの、その他有価証券評価差額金のように損益ではなく純資産に対応するもの。いずれも、同じ「将来減算」という括りでは片付きません。

そもそも税効果会計における一時差異とは、連結貸借対照表・個別貸借対照表に計上されている資産・負債の金額と、課税所得計算上の資産・負債の金額との差額です。そして財務諸表上の一時差異は、解消時に課税所得を減額する将来減算一時差異と、課税所得を増額する将来加算一時差異とに分類されます。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

本稿では、前稿「9-2. 一時差異・永久差異・税効果対象の判定」を前提に、個別論点別に一時差異をどう整理すべきかを扱います。取り上げるのは単体・個別財務諸表上の一時差異を中心とし、連結固有の税効果会計については必要な範囲で触れるにとどめます。連結税効果の詳細は、別稿「9-8. 連結税効果会計の基本論点」で扱う領域です。

なお、ASBJは2026年7月7日に、改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」、改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等を公表しています。実務適用にあたっては、対象事業年度、早期適用の有無、そして関連する回収可能性適用指針・グループ通算制度の取扱いを確認しておく必要があります。
出典:ASBJ|改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等の公表

目次

個別論点別に整理する意味

一時差異は、単に「加算項目」「減算項目」として集計するだけでは足りません。

税効果会計で必要なのは、次の問いに答えられる状態をつくっておくことです。

  • その差異は、どの会計論点から発生しているのか
  • 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債は、どのようにずれているのか
  • その差異は、将来どの事象によって解消するのか
  • 解消時に課税所得を減額するのか、それとも増額するのか
  • 繰延税金資産を計上する場合、回収可能性をどの根拠で説明するのか
  • 相手勘定は法人税等調整額なのか、評価・換算差額等なのか、その他の包括利益なのか
  • 監査人に対して、どの資料で説明するのか

この整理がないまま税効果計算を行っても、税率を乗じた金額だけは出てきます。しかし監査対応や開示対応の場面では、「なぜこの項目は繰延税金資産にしているのか」「なぜこの項目は評価性引当額を控除しているのか」「なぜこの評価差額は法人税等調整額ではなく純資産に対応しているのか」といった説明ができません。

個別論点別の整理とは、税効果会計を計算表から判断資料へ引き上げる作業なのです。

一時差異整理の基本フレーム

個別論点に入る前に、どの論点にも共通する整理軸を確認しておきます。

一時差異を整理する際は、少なくとも次の項目を明確にしておく必要があります。

整理項目実務上の確認内容
発生源泉どの会計処理・税務処理の差から生じたか
会計上の資産・負債財務諸表上、どの資産・負債に反映されているか
税務上の資産・負債課税所得計算上、どの簿価・負債額として扱われるか
差異区分将来減算一時差異か、将来加算一時差異か
解消事由支払、回収、売却、除却、償却、時価評価の洗替えなど
解消時期スケジューリング可能か、不能か
税効果の認識繰延税金資産・繰延税金負債を計上するか
相手勘定法人税等調整額、評価・換算差額等、その他の包括利益など
根拠資料税務申告書、別表、会計仕訳、契約書、評価資料、事業計画など

回収可能性適用指針では、スケジューリング不能な一時差異について、将来の一定の事実や企業の意思決定・実施計画等がなければ税務上の益金・損金算入要件を満たすことが見込まれない一時差異とされています。そして、スケジューリング可能な一時差異とは、それ以外の一時差異という位置づけです。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

つまり、一時差異を把握しただけでは不十分ということです。その差異がいつ、どのように解消するかまで整理して、はじめて回収可能性の検討に進むことができます。

貸倒引当金・債権評価に係る一時差異

貸倒引当金は、税効果会計で頻出する将来減算一時差異です。

会計上、債権の回収可能性に応じて貸倒引当金を計上したとしても、税務上その全額が当期の損金に算入されるとは限りません。税務上の損金算入限度額を超える部分、あるいは税務上の損金算入要件を満たしていない部分は、会計上は費用処理済みである一方、税務上はまだ損金処理されていない状態になります。

この場合、将来、貸倒損失として税務上損金算入される、または債権が回収・処分されることによって差異が解消する可能性があります。そのため、税務上の損金算入限度超過額は、通常、将来減算一時差異として整理されます。適用指針においても、貸倒引当金の損金算入限度超過額は将来減算一時差異の例示に含まれています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

ただし、実務上はここで止まってはいけません。

貸倒引当金に係る一時差異は、債権の区分によって回収可能性の説明が変わります。一般債権に対する貸倒実績率による見積りなのか、貸倒懸念債権に対する個別見積りなのか、破産更生債権等に対する担保・保証控除後の回収不能見込額なのか。この違いによって、将来の損金算入時期や証拠資料が異なってくるためです。

また、税務上の貸倒引当金制度は、法人の属性や債権の性質によって取扱いが異なります。したがって、会計上の貸倒引当金をそのまま税効果対象額に置き換えることはできません。法人税法上も貸倒引当金に関する規定が置かれていますので、適用要件や損金経理・明細記載等を確認する必要があります。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

実務上の整理では、少なくとも次の資料をそろえておくべきでしょう。

  • 債権明細
  • 債務者区分資料
  • 担保・保証の評価資料
  • 回収予定表
  • 貸倒引当金計算資料
  • 税務上の損金算入可否の検討メモ
  • 別表四・別表五(一)との対応関係

とりわけ、長期間回収不能状態が続いている債権については、会計上の貸倒見積り、税務上の貸倒損失、繰延税金資産の回収可能性、内部統制上の債権管理が一体で問われます。単に「貸倒引当金だからDTA」と処理して済ませるのではなく、どの事象で税務上損金算入されるのかを説明できるようにしておく必要があります。

棚卸資産評価損に係る一時差異

棚卸資産評価損も、将来減算一時差異になりやすい代表的な項目です。

会計上、収益性の低下により棚卸資産の帳簿価額を切り下げたとしても、税務上その評価損が当期に損金算入されるとは限りません。税務上損金として認められない棚卸資産評価損については、会計上の棚卸資産簿価が税務上の簿価を下回ることになり、将来、販売・廃棄・処分等により差異が解消する可能性があります。適用指針でも、会計上費用として計上された棚卸資産評価損のうち税務上損金として認められないものは、将来減算一時差異の例示に含まれています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

棚卸資産評価損で重要なのは、評価損の会計上の妥当性と、税務上の解消見込みを分けて整理することです。

会計上は、正味売却価額、滞留状況、陳腐化、販売見込、廃棄方針などをもとに評価損を判断します。一方、税効果会計で問題になるのは、その評価損が将来どの時点で税務上損金算入されるのかという点です。販売で解消するのか、廃棄で解消するのか、あるいは評価損として税務上認容されるのか。これによってスケジューリングの考え方が変わってきます。

実務上は、次のように整理しておくと監査対応がしやすくなります。

  • 売却予定が明確な棚卸資産は、販売時期と売却見込額を確認する
  • 廃棄予定がある棚卸資産は、廃棄承認、廃棄予定日、廃棄実績を確認する
  • 長期滞留品は、販売計画が実態を伴っているかを確認する
  • 評価損が税務上当期損金となるのか、将来損金となるのかを確認する
  • 評価損が戻入れられる可能性がある場合、会計方針と税務処理の整合性を確認する

棚卸資産評価損は、金額だけを見れば単純な評価論点に見えます。しかし税効果会計では、販売計画・在庫管理・廃棄方針・税務上の損金算入時期をつなげて説明することが求められます。

賞与引当金・未払事業税・その他の短期解消項目

賞与引当金や未払事業税は、比較的スケジューリングしやすい一時差異です。

会計上、当期の勤務実績や課税所得に対応して費用・負債を計上していても、税務上の損金算入時期が翌期以降になる場合には、将来減算一時差異が生じます。適用指針でも、賞与引当金および未払事業税は将来減算一時差異の例示に含まれています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

この領域における論点は、「一時差異かどうか」よりも「解消時期を適切に管理しているか」にあります。

賞与引当金については、支給対象期間、支給予定日、支給見込額、そして税務上の損金算入時期を確認します。未払事業税については、翌期に損金算入される見込額と、法定実効税率の計算における事業税の取扱いを整合させておく必要があります。

これらの項目は通常は短期で解消されるため、繰延税金資産の回収可能性に大きな争点が生じにくい場合もあります。しかし、業績悪化局面では話が別です。翌期の課税所得が見込めないのであれば、短期解消項目であっても回収可能性の検討が必要になります。

一時差異の性質が単純であることと、繰延税金資産を当然に計上できることは、同じではありません。

固定資産の減価償却・除却・減損に係る一時差異

固定資産に係る税効果会計では、減価償却、除却、減損を分けて整理する必要があります。

減価償却については、会計上の耐用年数・償却方法と税務上の償却限度額に差がある場合、会計上の資産簿価と税務上の資産簿価がずれます。会計上の減価償却費が税務上の償却限度額を超過しているときは、その超過額が将来減算一時差異となります。反対に、税務上の特別償却などにより税務上の簿価が会計上の簿価を下回る場合には、将来加算一時差異が生じます。適用指針でも、税務上の特別償却により生じる個別貸借対照表上の資産額と課税所得計算上の資産額との差額は、将来加算一時差異の例示に含まれています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

減損損失については、さらに注意が必要です。

会計上、固定資産の減損損失を認識しても、税務上は直ちに損金算入されないことが多くあります。この場合、会計上の資産簿価は減額される一方で、税務上の簿価は減損前の簿価を基礎として残るため、将来減算一時差異が生じます。

ただし、減損損失に係る将来減算一時差異は、償却資産か非償却資産かで整理が異なります。

償却資産については、会計上の帳簿価額が減損により下がる一方、税務上の簿価との差額は、将来の減価償却または除却・売却を通じて解消していくことが想定されます。そのため、解消スケジュールを作成できる場合があります。実務上も、償却資産の減損損失に係る将来減算一時差異は減価償却計算を通じて解消されるため、スケジューリング可能な一時差異として扱う考え方が定着しています。

一方、土地のような非償却資産についてはどうでしょうか。売却や処分の意思決定がなければ、いつ税務上の損金算入が生じるかを見積もることは困難です。その場合、将来減算一時差異には該当しても、スケジューリング不能な一時差異として扱われ、繰延税金資産の回収可能性が問題になります。減損会計の実務においても、償却資産と非償却資産とで、減損損失に係る将来減算一時差異の取扱いは異なるものとして整理されています。

減損損失に係る税効果会計では、次の点を明確にしておく必要があります。

  • 減損対象資産は償却資産か非償却資産か
  • 税務上、減損損失は当期損金になるのか、将来損金になるのか
  • 将来の解消は減価償却、売却、除却、用途廃止のいずれによるのか
  • 事業計画上、売却・撤退・除却の意思決定があるのか
  • 回収可能性判断に用いる課税所得見積りと、減損判断に用いた将来キャッシュ・フローは整合しているか

特に業績悪化局面では、減損、繰延税金資産、継続企業の前提が、同じ事業計画を参照することになります。減損では慎重な将来キャッシュ・フローを使い、税効果では楽観的な課税所得を使う。そのような整理は、監査上、説明が難しくなります。

資産除去債務に係る一時差異

資産除去債務は、税効果会計上、複数の一時差異が同時に発生しやすい論点です。

会計上は、法令または契約等に基づく除去義務について、資産除去債務を負債として認識し、対応する除去費用を関連する有形固定資産の帳簿価額に加算します。その後、資産除去債務は時の経過により増加し、対応する資産計上額は減価償却により費用化されていきます。除去費用を有形固定資産に加算し、時の経過による資産除去債務の増加や資産計上した除去費用の減価償却を行うという処理が、その基本的な流れです。

税務上、同じタイミングで負債認識や資産計上が認められない場合には、主に次の2つの一時差異が生じます。

  • 資産除去債務という会計上の負債に係る将来減算一時差異
  • 対応する除去費用を加算した会計上の資産に係る将来加算一時差異

資産除去債務の負債側は、将来実際に除去支出が発生し、税務上損金算入されることによって解消する可能性があります。そのため、通常は将来減算一時差異として整理されます。

一方、対応する除去費用を有形固定資産に加算した部分について、税務上の資産簿価に同額が含まれない場合はどうなるか。会計上の資産簿価が税務上の資産簿価を上回ることになり、将来加算一時差異が生じます。会計上は減価償却費として費用化されるものの、税務上は同じタイミングで損金算入されないためです。

この領域で避けるべきなのは、負債側の将来減算一時差異と資産側の将来加算一時差異を、単純に相殺して終わらせてしまうことです。

両者は発生源泉こそ同じ資産除去債務ですが、解消パターンが異なります。負債側は除去支出の発生時に解消する可能性が高く、資産側は償却や減損、除却を通じて解消します。したがって、解消時期、法定実効税率、回収可能性、表示科目を分けて整理する必要があります。

資産除去債務では、次の資料が重要になります。

  • 除去義務の根拠となる法令・契約
  • 除去対象資産の一覧
  • 除去時期の見積り
  • 除去費用の見積資料
  • 割引率・見積変更資料
  • 会計上の資産計上額と減価償却スケジュール
  • 税務上の損金算入時期の検討資料

資産除去債務は、会計処理だけでなく、減損会計、固定資産管理、賃貸借契約、環境法令、税務上の損金算入時期が交差する論点です。税効果会計上も、負債側・資産側・減損との関係を分けて説明できる形にしておくべきでしょう。

退職給付に係る一時差異

退職給付は、個別財務諸表と連結財務諸表で整理が変わるため、税効果会計でも注意が必要です。

個別財務諸表では、退職給付引当金が会計上負債として計上される一方、税務上は支払時や拠出時など、損金算入のタイミングが会計上の費用認識と異なる場合があります。この場合、退職給付引当金に係る将来減算一時差異が生じます。適用指針でも、退職給付引当金は将来減算一時差異の例示に含まれています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

退職給付に係る一時差異は、長期にわたって解消することが多いため、解消スケジュールと課税所得見積りの整合性が重要になります。

退職一時金制度であれば、退職給付債務、退職率、支給見込、過去勤務費用、制度変更の影響を確認します。年金制度を有する場合には、年金資産、掛金拠出、退職給付に係る資産または負債、制度資産の状況も影響します。退職給付会計は退職一時金と企業年金制度を包括して取り扱う会計であり、確定給付制度では、退職給付債務から年金資産を控除した額を負債または資産として計上するという考え方に立っています。

連結財務諸表では、未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用の処理により、その他の包括利益・その他の包括利益累計額との関係も生じます。適用指針でも、連結財務諸表における退職給付に係る負債または資産については、個別財務諸表上の退職給付引当金または前払年金費用に係る一時差異に、連結修正項目である未認識項目の会計処理により生じる一時差異を合算し、一定の場合にはその他の包括利益を相手勘定として繰延税金資産または繰延税金負債を計上する取扱いが示されています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

本稿は個別論点別の一時差異整理を中心としているため、連結上の詳細処理には踏み込みません。ただし実務では、個別の退職給付引当金だけを見て税効果会計を完結させてしまうと、連結上の税効果・OCI・注記との整合性が崩れることがあります。

退職給付に係る税効果では、次の整理が必要です。

  • 個別財務諸表上の退職給付引当金または前払年金費用の有無
  • 税務上の損金算入時期
  • 将来の退職給付支払・年金拠出見込
  • 制度変更・大量退職・清算の有無
  • 連結上の未認識項目とOCIへの影響
  • 繰延税金資産の回収可能性に用いる課税所得見積りとの整合性

退職給付では、どうしても数理計算に目が向きがちです。しかし税効果会計では、「負債がいつ税務上損金化するのか」を説明することが求められます。

その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益に係る一時差異

評価差額等に係る一時差異は、損益項目から発生する一時差異とは性質が異なります。

その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益は、会計上の評価差額が純資産に直接計上される領域です。そのため税効果会計でも、繰延税金資産・繰延税金負債の相手勘定は法人税等調整額ではなく、評価・換算差額等となるのが基本です。

適用指針では、その他有価証券の評価差額に係る一時差異について、回収可能性適用指針に従って繰延税金資産または繰延税金負債を計上し、その相手勘定を純資産の部の評価・換算差額等とすることが示されています。また、繰延ヘッジ損益に係る一時差異についても、純資産の部の評価・換算差額等を相手勘定として処理することが示されています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

その他有価証券では、評価差益であれば将来加算一時差異、評価差損であれば将来減算一時差異が生じ得ます。ただし、評価差損に係る繰延税金資産については、売却時期や企業分類との関係で回収可能性が問題になります。実務上も、その他有価証券の純額の評価差益は将来加算一時差異として繰延税金負債を計上する一方、純額の評価差損はスケジューリング不能な将来減算一時差異として、慎重な回収可能性判断を要するものと整理されます。

さらに、過年度に減損処理したその他有価証券の時価がその後回復した場合には、単純に新たな評価差益として扱うのではなく、減損処理により生じた将来減算一時差異の戻入れとして管理すべき場合があります。減損処理後の時価回復は、将来加算一時差異の発生ではなく、将来減算一時差異の戻入れとして個別に管理する必要がある、ということです。

評価差額等に係る一時差異では、次の点が重要になります。

  • 評価差額の相手勘定が損益か純資産か
  • 税効果の相手勘定も同じ発生源泉に対応しているか
  • 銘柄ごとに管理すべき差異か、一括管理が認められる差異か
  • 評価差損に係る繰延税金資産の回収可能性をどう説明するか
  • 減損処理済み銘柄の時価回復をどのように管理しているか
  • 繰延ヘッジ損益について、ヘッジ会計・税務上の処理・純資産表示が整合しているか

評価差額等に係る税効果は、法人税等調整額だけを見ていては把握できません。株主資本等変動計算書、包括利益計算書、その他の包括利益累計額、金融商品注記との整合性まで確認すべき領域です。

金融商品・有価証券の評価損に係る一時差異

金融商品・有価証券の評価損は、会計上の評価と税務上の損金算入要件の差から一時差異が生じやすい領域です。

会計上、時価の著しい下落や実質価額の著しい低下により評価損を計上したとしても、税務上の損金算入が認められるかどうかは別問題です。税務上損金算入されない評価損については、会計上の資産簿価が税務上の簿価を下回るため、将来減算一時差異となる可能性があります。

ただし、金融商品・有価証券の評価損では、どの資産に係る評価損かによって整理が異なります。

  • 売買目的有価証券
  • その他有価証券
  • 満期保有目的の債券
  • 子会社株式・関連会社株式
  • 非上場株式
  • 投資事業組合等への出資

たとえば、子会社株式や関連会社株式の評価損については、将来売却や清算が予定されていない場合、税務上の損金算入時期を見積もることが難しいことがあります。その場合、将来減算一時差異には該当しても、スケジューリング不能として扱う必要が生じます。

また、金融商品の評価には、時価算定、レベル分類、第三者評価、実質価額、事業計画、減損との関係が複合します。ここで対象となる金融資産には、現金預金、金銭債権、株式その他の出資証券、有価証券、デリバティブ取引により生じる正味の債権等が含まれます。

税効果会計では、評価損そのものの会計上の妥当性だけでなく、将来の税務上の出口があるかを確認します。売却予定があるのか、清算予定があるのか、投資先の実質価額回復見込みがあるのか、税務上の損金算入要件をいつ満たすのか。この点を明確にしておく必要があります。

株式報酬・ストック・オプションに係る一時差異

株式報酬は、税効果会計の対象判定を誤りやすい領域です。

会計上は費用処理される場合でも、税務上将来にわたって損金算入されないのであれば、将来減算一時差異は生じません。反対に、将来の権利行使時や給与等課税事由発生時に法人側で損金算入されるのであれば、付与時点で将来減算一時差異が生じる可能性があります。

適用指針では、税制適格ストック・オプションについて、法人において役務提供に係る費用の額が損金算入されないため将来減算一時差異に該当せず、税効果会計の対象とはならないことが示されています。他方、税制非適格ストック・オプションについては、権利行使時に法人で損金算入される場合、付与時に将来減算一時差異に該当し、税効果会計の対象となるものとされています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

この論点では、会計上の費用認識だけを見て税効果を判断してはいけません。

確認すべきなのは、税務上、法人側で将来損金算入されるかどうかです。役員向けの株式報酬、譲渡制限付株式、業績連動型株式報酬、株式交付信託などについては、制度設計、対象者、税務上の損金算入要件、会社法・金商法開示との関係を分解して検討する必要があります。

上場企業では、株式報酬制度がコーポレートガバナンス、役員報酬開示、株主総会決議、評価実務と接続します。役員報酬制度は会社法・コーポレートガバナンスの変化を背景に大きく変化してきており、株式報酬を活用した役員報酬制度については、継続的に制度動向へ注意を払っておく必要があります。

税効果会計では、株式報酬制度の「会計上の費用」と「税務上の損金」が一致するとは限らない、という前提に立って、制度ごとに整理することが求められます。

収益認識・契約負債・返品・ポイントに係る一時差異

収益認識基準の適用により、契約資産、契約負債、返金負債、返品資産、ポイント負債など、会計上の表示・測定は従来より詳細になっています。

これらの項目についても、会計上の収益認識時期や負債認識時期と、税務上の益金・損金算入時期が異なる場合には、一時差異が生じる可能性があります。

たとえば、顧客に付与したポイントについて、会計上は重要な権利として履行義務を識別し、契約負債を認識する場合があります。一方、税務上の取扱いが会計処理と同じタイミングで認められないとすれば、会計上の負債と税務上の負債に差額が生じる可能性があります。

ポイント制度は、顧客囲い込み、新規顧客獲得、提携効果などを目的として導入され、キャッシュレス決済や共通ポイント制度の拡大とともに複雑化してきました。

収益認識関連の税効果では、次の点を確認します。

  • 会計上、契約負債・返金負債・返品資産などを認識しているか
  • 税務上、その負債または資産に対応する益金・損金算入時期はいつか
  • ポイント失効見積り、返品見積り、リベート見積りに合理的な根拠があるか
  • 会計上の見積りと税務上の処理が混同されていないか
  • 将来解消時に課税所得を減額するのか、増額するのか

収益認識関連の一時差異は、販売施策や契約条件によって大きく変わります。したがって、勘定科目名だけで判断するのではなく、契約書、販売条件、ポイント規約、返品実績、税務処理方針を確認する必要があります。

リース会計に係る一時差異

新リース会計基準の適用により、借手側では使用権資産とリース負債の認識が広がります。ASBJは2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号を公表しており、借手の財務諸表に使用権資産とリース負債を表示する考え方が示されています。改正の背景には、国際的な基準の動向を踏まえ、リースを資産使用権と支払義務として捉える使用権モデルがあります。

リース会計に係る税効果では、会計上の使用権資産・リース負債と、税務上の資産・負債の認識・測定が一致するかを確認する必要があります。

税務上の処理が会計上の使用権資産・リース負債の認識と異なる場合には、一時差異が発生します。特に、リース期間、割引率、リース料の範囲、変動リース料、短期・少額リースの取扱い、契約変更がある場合には、会計上の測定と税務上の処理がずれる可能性があります。

リース会計に係る税効果では、次の整理が必要です。

  • 会計上の使用権資産と税務上の資産認識の差
  • 会計上のリース負債と税務上の負債認識の差
  • 会計上の償却費・利息費用と税務上の損金算入時期の差
  • 契約変更時の再測定と税務処理の差
  • 短期リース・少額リースの会計方針と税務処理の整合性

リース会計の税効果は、今後の新基準適用に伴い、契約棚卸やシステム対応と一体で検討すべき領域です。会計上のオンバランス額だけを試算しても、税効果・法定実効税率・注記影響まで見なければ、決算影響を十分に把握したとはいえません。

子会社株式・関連会社株式の評価損に係る一時差異

子会社株式・関連会社株式の評価損は、個別財務諸表上の税効果会計で慎重な検討が必要な項目です。

会計上、子会社株式や関連会社株式について評価損を計上したとしても、税務上その評価損が損金算入されるとは限りません。税務上損金算入されない場合、会計上の投資簿価は減額される一方、税務上の投資簿価は減額されないため、将来減算一時差異が生じる可能性があります。

しかし、子会社株式・関連会社株式は、売却や清算の意思決定がなければ、税務上の損金算入時期を合理的に見積もることが難しい場合があります。そのため、将来減算一時差異に該当しても、繰延税金資産の回収可能性については慎重な判断が必要です。

ここで重要なのは、投資先の事業計画と税効果会計上の判断を混同しないことです。

投資先の業績悪化により会計上の評価損を認識することと、税務上将来損金算入される時期を見積もることは、別の判断です。前者は投資価値の低下に関する会計判断であり、後者は税務上の損金算入事由と解消時期に関する判断です。

実務上は、次の資料を整理しておく必要があります。

  • 投資先の財務諸表
  • 実質価額の算定資料
  • 評価損計上の根拠資料
  • 投資先の事業計画
  • 売却・清算・再編の意思決定または実施計画の有無
  • 税務上の損金算入可能性の検討資料
  • 回収可能性判断におけるスケジューリング資料

連結財務諸表では、個別財務諸表上の子会社株式評価損が資本連結手続により消去され、連結固有の一時差異が生じる場合があります。適用指針でも、個別財務諸表において子会社株式の評価損を計上した場合の連結財務諸表における取扱いが示されています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

ただし、本稿の主対象は個別論点別の一時差異整理です。連結上の詳細な税効果処理は、連結税効果の論点として別に整理すべき領域です。

租税特別措置法上の準備金・圧縮積立金等に係る一時差異

租税特別措置法上の準備金や圧縮積立金は、将来加算一時差異を生じさせる代表的な項目です。

税務上、一定の政策目的から損金算入や課税繰延が認められる場合、会計上の資産・負債の額と税務上の資産・負債の額に差が生じます。この差異は、将来取り崩される時点で課税所得を増額する効果を持つため、将来加算一時差異として繰延税金負債の計上対象になります。

適用指針でも、積立金方式による租税特別措置法上の諸準備金、税務上の特別償却により生じた資産簿価差額、資産または負債の評価替えにより生じた評価差益などが、将来加算一時差異の例示として挙げられています。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針

この領域で重要なのは、税務上の課税繰延を「節税効果」とだけ捉えないことです。

税効果会計上は、将来課税される負担を繰延税金負債として認識する必要があります。つまり、当期の税金支払額が減少していても、財務報告上は将来の税金負担を負債として表示することになります。

圧縮積立金や特別償却準備金を扱う場合には、次の整理が必要です。

  • 税務上の課税繰延制度の適用根拠
  • 会計上の処理方法
  • 税務上の簿価・積立金残高
  • 取崩予定
  • 将来加算一時差異の残高
  • 法定実効税率
  • 繰延税金負債の相手勘定

この領域では繰延税金負債の計上漏れが起こりやすいため、別表五(一)の利益積立金額と、会計上の純資産項目・固定資産台帳を突合しておくことが重要です。

一時差異一覧表は「勘定科目別」だけでは不十分

一時差異一覧表は、多くの会社で勘定科目別に作成されています。

しかし、勘定科目別の一覧だけでは、判断資料としては不十分です。なぜなら、同じ勘定科目に複数の発生源泉が混在することがあるためです。

たとえば固定資産に関する差異には、減価償却超過額、減損損失、資産除去債務対応資産、圧縮記帳、税務上の特別償却、除却損の否認などが含まれ得ます。これらを単に「固定資産」とまとめてしまえば、解消時期も、繰延税金資産か繰延税金負債かも、相手勘定も見えなくなります。

同様に、投資有価証券に関する差異にも、その他有価証券評価差額金、減損処理、子会社株式評価損、税務上の簿価修正、組織再編に伴う差異などが混在します。

実務上は、少なくとも次の3軸で一覧表を作ることが望まれます。

  • 勘定科目別
  • 発生源泉別
  • 解消パターン別

この3軸を持つことで、一時差異一覧表は単なる税率乗算表ではなく、監査対応資料・開示基礎資料・経営者説明資料として機能します。

回収可能性判断との接続

個別論点別に一時差異を整理した後は、繰延税金資産の回収可能性判断に接続します。

回収可能性適用指針では、将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性について、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断するものとされています。その判断要素となるのは、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得、タックス・プランニング、将来加算一時差異の十分性などです。
出典:ASBJ|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

ここで重要なのは、回収可能性判断は一時差異の分類とは別のステップであるということです。

ある項目が将来減算一時差異に該当するからといって、直ちに繰延税金資産を計上できるわけではありません。逆に、繰延税金資産を計上しないからといって、一時差異そのものが存在しないわけでもありません。

実務上は、次のように整理する必要があります。

  • まず、一時差異として存在するかを判定する
  • 次に、将来減算か将来加算かを分類する
  • そのうえで、将来減算一時差異について回収可能性を判断する
  • 回収可能性がない部分は評価性引当額として控除する
  • 控除した理由を注記・監査資料と整合させる

このステップを分けておかないと、「DTAを計上しない項目を一覧表から除外する」という誤った処理につながります。繰延税金資産を計上しない場合であっても、その発生原因、差異額、評価性引当額、そして回収可能性がないと判断した根拠は管理すべきものです。

監査対応で問われる資料

個別論点別の一時差異整理では、監査人から次のような確認を受けやすくなります。

  • 会計上の処理と税務上の処理の差異をどの資料で確認したか
  • 別表四・別表五(一)と一時差異一覧表が整合しているか
  • 評価差額等に係る税効果を法人税等調整額に誤って含めていないか
  • 減損・貸倒・子会社株式評価損など、スケジューリング不能となり得る項目を識別しているか
  • 将来加算一時差異を繰延税金資産の回収可能性判断にどう利用しているか
  • 同じ事業計画を用いる減損・税効果・継続企業の前提に矛盾がないか
  • 税務上の繰越欠損金や税額控除を、一時差異とは別に管理しているか
  • 重要な税効果注記に反映すべき発生原因別内訳を整理しているか

特に、減損損失、貸倒引当金、退職給付、資産除去債務、その他有価証券評価差額金は、監査上も重要な見積りやKAM候補となり得る論点と接続します。会計上の見積りという観点でも、繰延税金資産の計上や固定資産の減損は、期末時点における将来事象を合理的に見積もる代表的な項目であり、経営者の仮定や見積りの不確実性が監査上重要な論点となります。

したがって、一時差異整理は税務担当者だけの作業ではありません。会計論点担当、固定資産担当、債権管理担当、人事・年金担当、財務・開示担当、連結担当が関与して、発生源泉と解消パターンを共有する必要があります。

実務で使える整理の型

最後に、個別論点別の一時差異を整理する際の、実務上の型を示します。

  • まず、会計処理ごとに発生源泉を分ける
  • 次に、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債を対応させる
  • その差額が将来減算か将来加算かを判定する
  • 解消事由と解消時期を記載する
  • スケジューリング可能か不能かを区分する
  • 繰延税金資産については、回収可能性判断への接続を記載する
  • 繰延税金負債については、例外的に計上しない場合の根拠を明示する
  • 相手勘定が損益か、純資産か、その他の包括利益かを明確にする
  • 注記への影響を確認する
  • 監査人に提示する根拠資料を紐付ける

この型で整理しておけば、一時差異一覧表は決算直前の税率乗算表ではなく、通期で管理できる会計論点管理表になります。

まとめ

個別論点別の一時差異整理では、「何が一時差異か」を把握するだけでは不十分です。

重要なのは、各一時差異について、発生源泉、会計上の資産・負債、税務上の資産・負債、解消事由、解消時期、相手勘定、回収可能性、監査資料を一体で整理することです。

貸倒引当金、棚卸資産評価損、減損損失、資産除去債務、退職給付、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、株式報酬、リース、子会社株式評価損。いずれも「税率を掛けるだけ」では説明できない論点です。

特に上場企業・IPO準備企業・大規模グループでは、税効果会計は決算・開示・監査対応に直結します。一時差異の入口判定を誤れば、繰延税金資産の回収可能性、法人税等調整額、純資産、注記、KAM、場合によっては訂正リスクにまで波及します。

個別論点別の一時差異整理について、減損、貸倒、退職給付、資産除去債務、評価差額、株式報酬、リースなどが複合し、社内だけで判断過程を整理しきれない場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所までご相談ください。会計処理の結論だけでなく、税務上の解消パターン、回収可能性、監査人への説明資料、開示への影響まで含めて、後から説明できる税効果会計の整理を支援します。

振り返り:個別論点別の一時差異整理

個別論点生じやすい一時差異実務上の確認ポイント
貸倒引当金将来減算一時差異税務上の損金算入要件、債務者区分、回収可能性資料
棚卸資産評価損将来減算一時差異販売・廃棄・評価損認容の時期、滞留在庫資料
賞与引当金将来減算一時差異支給予定、税務上の損金算入時期、短期解消性
未払事業税将来減算一時差異翌期損金算入見込、法定実効税率との整合性
減価償却超過額将来減算一時差異会計耐用年数と税務償却限度額の差、解消スケジュール
特別償却将来加算一時差異税務上の先行償却、将来の課税所得増加効果
固定資産減損主に将来減算一時差異償却資産か非償却資産か、売却・除却計画の有無
資産除去債務負債側は将来減算、資産側は将来加算となり得る除去義務、除去時期、対応資産の償却、税務上の損金時期
退職給付将来減算または将来加算退職給付引当金、前払年金費用、支払・拠出見込、連結OCI
その他有価証券評価差額金評価差益は将来加算、評価差損は将来減算相手勘定は評価・換算差額等、回収可能性判断に注意
繰延ヘッジ損益将来減算または将来加算ヘッジ会計、税務処理、純資産表示との整合性
株式報酬制度により異なる税制適格・非適格、法人側の将来損金算入可否
リース使用権資産・リース負債と税務処理の差新基準適用、契約棚卸、税務上の資産・負債認識
子会社株式評価損将来減算一時差異となり得る売却・清算予定、スケジューリング不能性、連結上の消去
圧縮積立金・特別償却準備金等将来加算一時差異税務上の課税繰延、将来取崩し、繰延税金負債の計上
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