福利厚生費は、節税の話題でよく取り上げられる科目です。社宅を用意する、食事を補助する、慰安旅行を実施する、慶弔見舞金を支給する、永年勤続者に記念品を渡す。こうした取り組みは、会社が人材を確保し、働く環境を整え、従業員との関係を維持するうえで意味のある支出です。
適切に設計されていれば、会社側では事業上必要な費用として処理でき、従業員側でも給与課税されない、あるいは給与課税を抑えられる場合があります。
ただし、福利厚生費は「会社が払えば何でも経費になる」科目ではありません。たとえば、次のような場合です。
- 特定の役員だけが利益を受けている
- 親族や一部の従業員だけが対象になっている
- 実態は私的支出に近い
- 社内規程はあるが、運用が伴っていない
- 金額が社会通念上の範囲を超えている
- 資料が残っておらず、後から説明できない
こうしたケースでは、福利厚生費として処理していても、役員給与、従業員給与、交際費、私的支出、認定賞与などとして問題になることがあります。
福利厚生を使った節税で大切なのは、「税金が減るか」だけではありません。その制度が、従業員施策としての実態を持ち、社内で公平に運用され、税務調査で説明でき、将来も同じ基準で続けられるかどうかです。
福利厚生費は「従業員施策」であって、利益移転の道具ではない
福利厚生費として整理しやすい支出には、共通点があります。会社の事業活動に必要な人材施策として、一定の対象者に公平に提供され、金額や内容が通常の範囲に収まっていることです。
逆に、福利厚生費として処理していても、実態として特定の役員、親族、特定従業員だけに利益を与える支出であれば、税務上は給与や役員給与の問題に近づきます。
福利厚生費を判断するときは、まず次の3つを分けて考える必要があります。
1つ目は、会社のための支出かという点です。採用、定着、労働環境、健康管理、業務上の必要性など、事業との関係を説明できるかを確認します。
2つ目は、対象者が公平かという点です。全従業員、一定の職場、一定の勤続年数、一定の職務上必要な者など、合理的な基準で対象者が定められているかを確認します。
3つ目は、私的利益が過大でないかという点です。会社の制度に見えても、特定の個人の生活費、趣味、家族利用、過大な便益になっていないかを確認します。
ここを曖昧にしたまま「福利厚生費」として処理すると、勘定科目名だけで実態を覆い隠しているように見えてしまいます。
給与課税と法人側の損金性は別に考える
福利厚生費の判断で混同しやすいのが、会社側の経費処理と、役員・従業員側の給与課税です。
会社が支出した費用について、法人側で損金になるかどうか。そして、その支出により役員や従業員が受けた経済的利益について、個人側で給与課税されるかどうか。この2つは関連しますが、同じ問題ではありません。
特に役員については注意が必要です。法人が役員等に支給する給与には、金銭だけでなく、債務免除その他の経済的利益も含まれます。居住用の土地・家屋を無償または低額で提供した場合の差額、役員等の個人的費用の負担額、役員等が負担すべき社交団体の会費なども、経済的利益の例に挙げられます。
また、役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち、利益額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し得ます。一方で、それ以外のものは定期同額給与に該当せず、損金算入できないことがあります。役員に対する経済的利益が不相当に高額な場合や、隠蔽・仮装して経理した場合には、損金算入が否認されることもあります。
出典:国税庁|No.5202 役員等に対する経済的利益
つまり、従業員向けには福利厚生として自然に見える制度でも、役員だけを対象にした場合や、役員に過大な便益が集中している場合には、まったく違う税務判断になります。
実務でも、役員に対する家屋の低額提供、個人的費用の会社負担、社交クラブ費用の会社負担などは、役員に対する経済的利益として整理すべき論点になります。
社宅は「会社契約なら安全」ではない
社宅は、福利厚生と節税の両面でよく検討される制度です。会社が住宅を借り上げ、役員や従業員に貸与することで、会社側では家賃を費用として処理し、個人側では一定の自己負担をすることで給与課税を避けられる場合があります。
ただし、社宅は非常に誤解されやすい制度でもあります。会社契約にしている、会社が家賃を払っている、社宅規程を作っている――これだけで安全になるわけではありません。
従業員社宅の判断
使用人に社宅や寮を貸与する場合、使用人から1か月当たり一定額の家賃、具体的には賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、給与として課税されません。賃貸料相当額は、建物・敷地の固定資産税の課税標準額などを基に計算します。会社が所有している社宅だけでなく、他から借りて貸与する場合にも、この賃貸料相当額の計算が必要です。
ここで重要なのは、会社が家主に支払っている実際の家賃だけで判断するわけではない、という点です。他から借り受けた社宅であっても、貸主等から固定資産税の課税標準額などを確認し、賃貸料相当額を計算する必要があります。
また、従業員が直接契約している住宅の家賃を会社が負担したり、現金で住宅手当を支給したりする場合は、社宅の貸与とは認められず、給与として課税されます。
出典:国税庁|No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
したがって、従業員社宅を福利厚生として運用するなら、少なくとも次の点を整えておく必要があります。
- 会社が契約主体になっているか
- 対象者の基準が合理的か
- 社宅規程があるか
- 賃貸料相当額を計算しているか
- 従業員負担額を給与天引き等で継続的に徴収しているか
- 固定資産税の課税標準額など、計算根拠を保存しているか
役員社宅の判断
役員社宅は、従業員社宅より慎重に扱う必要があります。
役員に社宅を貸与する場合も、役員から一定額の家賃、すなわち賃貸料相当額を受け取っていれば、給与として課税されません。ただし役員社宅では、社宅の床面積により小規模住宅とそれ以外に分けて賃貸料相当額を計算します。また、いわゆる豪華社宅については通常の算式を使うことができず、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。
小規模でない役員社宅を他から借り受けて貸与する場合には、会社が家主に支払う家賃の50%相当額と、所定の算式で算出した賃貸料相当額のいずれか多い金額が、賃貸料相当額になります。
出典:国税庁|No.2600 役員に社宅などを貸したとき
このため役員社宅では、「会社が借りているのだから、従業員社宅と同じ感覚でよい」と考えるのは危険です。特に注意したいのは、次のような場面です。
- 役員だけが利用している
- 役員の家族利用が中心になっている
- 社宅の規模や仕様が通常の社宅といえない
- 賃貸料相当額を計算していない
- 本人負担額を決めているが、実際には徴収していない
- 家具・家電・光熱費・駐車場などの負担関係が曖昧である
家具等を貸与した場合の経済的利益については、社宅の賃貸料相当額とは原則として区分して評価する必要があります。自社所有の家具等であれば減価償却費相当額や維持管理費相当額を基礎に合理的に見積もり、リース品であればリース料相当額を経済的利益として考えます。
出典:国税庁|社員に家具等を貸与した場合の経済的利益
社宅制度は、適切に設計すれば有効な制度です。しかし、役員個人の住宅費を会社に付け替える発想で運用すると、給与課税や役員給与の損金算入制限に直結します。
食事補助は「現物支給」と「現金補助」を分ける
食事補助も、福利厚生として検討されることが多い支出です。社員食堂、弁当支給、勤務中の食事補助、残業時の食事、宿日直の食事など、実務上の形態はさまざまです。
ここで最も重要なのは、食事そのものを支給しているのか、現金で補助しているのかを分けることです。
役員や使用人に支給する食事は、次の2つの要件をどちらも満たしていれば、給与として課税されません。1つ目は、役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。2つ目は、食事の価額から役員や使用人の負担額を差し引いた会社負担額が、1か月当たり7,500円、消費税および地方消費税を除く金額で以下であることです。
この7,500円という基準は、令和8年4月1日以後に支給する食事から適用されます。令和8年3月31日に国税庁が法令解釈通達を改正し、改正前の月額3,500円から引き上げられたものです。
食事の価額は、弁当などを購入して支給する場合には業者への購入金額、社員食堂などで会社が作った食事を支給する場合には材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額とされています。
一方で、食事を支給するのではなく、現金で食事代を補助する場合には、深夜勤務者に夜食を支給できないために1食当たり650円以下の金額を支給する場合を除き、補助額の全額が給与として課税されます。
出典:国税庁|No.2594 食事を支給したとき
改正の内容は、国税庁の案内でも確認できます。
出典:国税庁|食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて
現金支給の取扱いについては、国税庁の質疑応答事例も参考になります。使用人等が飲食店で食事代を支払い、その後、会社が食事代の50%相当額を金銭で振り込む制度については、食事という現物ではなく金銭を支給するものであるため、食事の現物支給に関する取扱いには該当せず、給与所得の収入金額になるとされています。
出典:国税庁|使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合
つまり食事補助は、「金額が7,500円以下ならよい」という制度ではありません。確認は、次の順序で行います。
- 会社が食事を支給しているのか
- 役員・従業員が半額以上を負担しているのか
- 会社負担額が月額7,500円以下か
- 税抜で判定しているか
- 現金補助になっていないか
- 残業・宿日直・深夜勤務の取扱いを混同していないか
- 対象者や利用記録を保存しているか
実務上も、食事の提供は、職務上不可欠なものを除き、基本的には現物給与の問題として扱われます。以前は月額3,500円が基準でしたが、現行では令和8年4月1日以後の支給分から、月額7,500円基準に読み替えて運用する必要があります。
慰安旅行は「4泊5日以内・50%以上」だけでは足りない
慰安旅行やレクリエーション行事も、福利厚生費として処理される代表例です。ただし慰安旅行についても、形式的な要件だけで判断してはいけません。
従業員レクリエーション旅行については、旅行の企画立案、主催者、目的、規模、行程、参加割合、使用者および参加従業員等の負担額・負担割合などを総合的に勘案します。そのうえで、社会通念上一般に行われているレクリエーション旅行と認められ、少額不追求の趣旨を逸脱しないものについては、旅行費用を参加者の給与としなくてもよいとされています。
その目安として、原則として給与課税しなくてよい旅行には、旅行期間が4泊5日以内であること、海外旅行では外国での滞在日数が4泊5日以内であること、参加人数が全体の50%以上であることが示されています。
出典:国税庁|No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行
しかしここで大切なのは、「4泊5日以内で、50%以上参加なら必ず福利厚生費」という意味ではない、ということです。
所得税基本通達36-30は、使用者が役員または使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われている会食、旅行、演芸会、運動会等の費用を負担する場合について定めています。参加しなかった者に代替金銭を支給する場合や、役員だけを対象として費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えないとされています。
出典:国税庁|給与等に係る経済的利益
また、役員だけで行う旅行、取引先に対する接待・供応・慰安等のための旅行、実質的に私的旅行と認められる旅行、金銭との選択が可能な旅行は、従業員レクリエーション旅行には該当しません。これらは給与や交際費などとして適切に処理する必要があります。
したがって慰安旅行では、次の点を確認する必要があります。
- 全従業員または合理的な単位の従業員を対象にしているか
- 役員だけ、親族だけ、一部の特定者だけになっていないか
- 参加割合が50%以上か
- 4泊5日以内か
- 会社負担額が社会通念上通常の範囲か
- 観光・私的旅行が主目的になっていないか
- 不参加者に金銭を支給していないか
- 行程表、参加者名簿、会社負担額、従業員負担額が残っているか
慰安旅行は、従業員の慰労や組織づくりとして有効な制度になり得ます。ただし、「旅行代を会社で落とす」という発想が先に立つと、給与課税や交際費、私的支出の問題に変わります。
研修旅行は「研修の実体」が問われる
慰安旅行と似ているものに、研修旅行があります。
研修旅行については、会社の業務を行うために直接必要な場合には、その費用は給与として課税されません。しかし、業務に直接必要でない場合には、研修旅行の費用が給与として課税されます。旅行費用の中に業務に直接必要な部分とそうでない部分がある場合には、直接必要でない部分が参加者の給与として課税されます。
研修旅行として処理するなら、旅行先、研修内容、講師、資料、スケジュール、成果物、参加者の職務との関係を説明できる必要があります。単に「研修」という名目を付けるだけでは足りません。
- 業務上必要な研修か
- 観光や慰安が主目的ではないか
- 研修時間と自由時間のバランスはどうか
- 会社の業務と直接関係する内容か
- 研修資料、報告書、参加記録が残っているか
ここを整理できなければ、福利厚生費や研修費として処理していても、実態は給与、交際費、私的旅行費と判断される可能性があります。
慶弔見舞金は「規程」と「社会通念上相当な金額」が重要
従業員や役員に対する慶弔見舞金も、福利厚生費として検討される支出です。ただし慶弔見舞金は、会社が規程を作ればいくらでも経費にできるわけではありません。
個人が支払を受ける葬祭料、香典、災害等の見舞金で、その金額が受贈者の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、課税されません。会社が、従業員や役員と被災した親族との関係、被災の程度に応じた一定の基準で見舞金を支給し、その金額が社会通念上相当であれば、給与として源泉徴収する必要はありません。
出典:国税庁|13 源泉所得税の取扱い
ここで重要なのは、次の2点です。
1つ目は、慶弔見舞金規程があることです。誰に、どのような場合に、いくら支給するのかが、合理的な基準として定められている必要があります。
2つ目は、金額が社会通念上相当であることです。規程があっても、金額が過大であれば、給与や役員賞与として問題になります。
特に役員への見舞金は注意が必要です。実務上、社会通念上相当と認められる金額を超える部分は、使用人であれば給与、役員であれば臨時的な給与として、損金算入が否認される可能性があります。
また弔慰金については、死亡退職金との区分も問題になります。被相続人の死亡によって雇用主などから弔慰金等の名目で受け取った金銭のうち、実質上退職手当金等に該当すると認められる部分は、相続税の対象となります。弔慰金等に相当する金額を超える部分も、退職手当金等として相続税の対象になります。
出典:国税庁|No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
慶弔見舞金は、福利厚生として自然な制度です。しかし、保険金の受取額に合わせて高額な見舞金を支給する、役員だけ高額にする、規程と異なる特別支給をする、といった運用は危険です。
記念品・永年勤続表彰は「現金化できるもの」に注意する
創業記念品や永年勤続表彰も、福利厚生費として扱われることがあります。
創業記念で支給する記念品や永年勤続者への記念品などについては、一定の要件をすべて満たしていれば、給与として課税しなくてもよいとされています。ただし、記念品の支給や旅行・観劇への招待費用の負担に代えて現金や商品券を支給する場合には、その全額が給与として課税されます。また、本人が自由に記念品を選択できる場合にも、その記念品の価額が給与として課税されます。
創業記念などの記念品では、記念品としてふさわしいものであること、処分見込価額による評価額が10,000円、消費税および地方消費税を除く金額で以下であること、創業記念のように一定期間ごとに行うものはおおむね5年以上の間隔で支給するものであることが求められます。
永年勤続者への記念品や旅行・観劇への招待費用では、その人の勤続年数や地位などに照らして社会一般的に相当な金額以内であること、勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること、同じ人を2回以上表彰する場合には前回からおおむね5年以上の間隔があることが求められます。
出典:国税庁|No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき
この分野で危険なのは、「記念品」と言いながら、実質的には現金に近いものを支給することです。商品券、自由に選べるカタログ、換金性の高い物品、高額な旅行券などは、給与課税の問題になりやすくなります。
記念品や永年勤続表彰を福利厚生として設計するなら、次の点を確認してください。
- 現金・商品券ではないか
- 自由選択性が高すぎないか
- 記念品としてふさわしいか
- 金額が基準や社会通念上の範囲に収まっているか
- 対象者の勤続年数や表彰間隔が明確か
- 社内規程や表彰記録が残っているか
表彰制度は、従業員の定着やモチベーションに資する制度です。しかし、単なる現金支給を福利厚生費に見せる処理は、税務上弱くなります。
福利厚生費として安全に運用するための判断軸
福利厚生費を安全に運用するには、支出ごとの個別要件を見る前に、共通の判断軸を持つことが重要です。
1. 対象者の公平性
福利厚生費として最も重要なのは、対象者の公平性です。
- 全従業員を対象にしているか
- 一定の職場単位で合理的に区分しているか
- 勤続年数、職務内容、勤務地、勤務形態などに応じた合理的な基準があるか
- 役員、親族、特定従業員だけが利益を受けていないか
福利厚生費は、全員一律でなければならないわけではありません。しかし、対象者を限定するなら、限定する理由が必要です。
2. 通常性・社会通念
福利厚生費は、金額や内容が通常の範囲に収まっている必要があります。
- 社宅の規模が過大でないか
- 食事補助が制度上の範囲に収まっているか
- 慰安旅行が過度に豪華でないか
- 見舞金が社会通念上相当な範囲か
- 記念品が換金性の高いものになっていないか
「福利厚生」という名目があっても、社会通念上不相当な支出は、給与や役員給与として見直される可能性があります。
3. 私的利益性
福利厚生費で最も危険なのは、実質的に私的利益の供与になっている場合です。
- 役員の自宅家賃
- 役員家族の利用
- 私的旅行
- 個人の食事代
- 特定者だけの高額見舞金
- 役員だけのレクリエーション
これらは、形式上は会社が支出していても、実質的には個人への利益移転と見られやすい支出です。
4. 規程と運用の一致
福利厚生制度では、社内規程が重要です。しかし、規程があるだけでは足りません。規程どおりに運用されているかが問われます。
- 社宅規程、食事補助規程、旅費・慰安旅行規程、慶弔見舞金規程、表彰規程などが整備されているか
- 対象者、支給条件、本人負担額、承認手続、資料保存方法が明確か
- 実際の支出が規程に沿っているか
- 役員や親族だけを例外的に優遇していないか
規程と実態が違う場合、規程はむしろ、税務調査で矛盾を示す資料になってしまいます。
5. 証拠資料
福利厚生費は、資料が残っていないと説明が難しくなります。
社宅であれば、賃貸借契約書、社宅規程、賃貸料相当額の計算資料、本人負担額の徴収記録が必要です。
食事補助であれば、食事の提供方法、対象者、食事の価額、本人負担額、会社負担額、支給日、請求書、利用記録が必要です。
慰安旅行であれば、案内文、参加者名簿、行程表、旅行費用、会社負担額、従業員負担額、不参加者への対応記録が必要です。
慶弔見舞金であれば、慶弔見舞金規程、申請書、事由を確認できる資料、支給額の決定根拠、支給記録が必要です。
記念品であれば、表彰規程、対象者一覧、勤続年数、支給品の内容、金額、支給日、過去の表彰履歴が必要です。
税務調査では、申告書や帳簿だけでなく、実態を示す原始資料が確認されます。業種別の調査実務でも、取引や支出の背景を示す原始資料の整合性が重視されます。
福利厚生費を「節税目的」だけで設計してはいけない
福利厚生費は、適切に使えば、会社にも従業員にも意味のある制度です。社宅は、採用や転勤対応に役立ちます。食事補助は、労働環境の改善につながります。慰安旅行やレクリエーションは、組織づくりに資することがあります。慶弔見舞金は、会社と従業員の信頼関係を支える制度になります。永年勤続表彰は、長期勤務への感謝を形にする制度になります。
しかし、これらを「税金を減らすための支出」としてだけ見ると、判断を誤ります。
福利厚生費は、多くの場合、実際に資金が外に出る支出です。税金が減っても、それ以上に会社の現金が減れば、資金繰りは悪化します。制度を作った後は、継続運用のコストも発生します。対象者間に不公平があれば、社内不満にもつながります。役員や親族だけに利益が偏れば、税務上だけでなく、金融機関や後継者への説明も難しくなります。
正しい節税として福利厚生制度を使うには、次の視点が必要です。
- 会社にとって本当に必要な制度か
- 従業員施策として意味があるか
- 税務上の要件を満たしているか
- 本人負担や給与課税を整理しているか
- 資金繰りに耐えられるか
- 将来も同じ基準で運用できるか
- 税務調査で資料を示して説明できるか
福利厚生費は、経費化の手段ではなく、会社の制度設計の一部です。
専門家に相談すべき福利厚生費
次のような場合は、実行前または制度設計の段階で、専門家へ相談したほうが安全です。
- 役員社宅を導入したい
- 役員や親族も福利厚生制度の対象に含めたい
- 社宅の本人負担額をどう決めるべきか分からない
- 食事補助を現金支給や精算方式で設計しようとしている
- 社員食堂、弁当支給、提携飲食店方式を導入したい
- 慰安旅行やレクリエーション費用を会社負担にしたい
- 研修旅行と慰安旅行の区分に迷っている
- 慶弔見舞金規程を整備したい
- 役員への見舞金や弔慰金の金額が大きい
- 記念品や永年勤続表彰で商品券・旅行券・選択制ギフトを使いたい
- 過去の福利厚生費処理を税務調査で説明できるか不安がある
福利厚生費は、制度を作ってから修正するより、導入前に設計するほうが安全です。本人負担額、対象者、規程、資料保存、給与課税、役員給与の損金算入制限まで含めて整理しておけば、福利厚生制度は会社にとって有効な仕組みになります。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
福利厚生費、社宅、食事補助、慰安旅行、慶弔見舞金、記念品の判断は、単なる勘定科目の問題ではありません。従業員施策としての合理性、対象者の公平性、役員・親族への利益移転の有無、本人負担額、給与課税、源泉徴収、社内規程、証拠資料、そして税務調査での説明可能性まで、一体で整理する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、福利厚生費を「経費にできるか」だけでなく、「会社の制度として無理なく運用できるか」「税務調査で説明できるか」「金融機関や後継者に見せても違和感のない数字になるか」という観点から整理します。
福利厚生制度の導入、役員社宅の設計、食事補助や慰安旅行の運用、慶弔見舞金規程・表彰規程の整備に不安がある場合は、当事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。制度の趣旨と税務上の要件が一致するよう、実行前の段階から判断論点を整理します。
この記事の振り返り
| 論点 | 判断軸 | 注意点 |
|---|---|---|
| 福利厚生費全般 | 対象者の公平性、通常性、私的利益性 | 役員・親族・特定者だけに利益が偏ると、給与課税や役員給与の問題になりやすい |
| 従業員社宅 | 賃貸料相当額の50%以上を本人から徴収しているか | 住宅手当や本人契約の家賃負担は、社宅貸与ではなく給与課税の対象になり得る |
| 役員社宅 | 小規模住宅・非小規模住宅・豪華社宅を区分し、賃貸料相当額を計算しているか | 従業員社宅と同じ感覚で処理すると危険。豪華社宅は通常使用料相当額が問題になる |
| 家具・設備 | 社宅の賃貸料相当額と別に経済的利益を評価しているか | 家具・家電・リース品は、社宅家賃に含めてよいとは限らない |
| 食事補助 | 食事の現物支給か、現金補助か | 令和8年4月1日以後の支給分は月額7,500円基準。現金補助は原則として給与課税 |
| 残業・宿日直の食事 | 業務上必要な食事提供か | 残業・宿日直の食事は、通常の食事補助と取扱いが異なる |
| 慰安旅行 | 社会通念上一般的な旅行か、4泊5日以内か、参加割合50%以上か | 役員だけの旅行、接待旅行、私的旅行、金銭選択可能な旅行は、福利厚生として弱い |
| 研修旅行 | 業務に直接必要な研修か | 観光目的や実質的な慰安旅行は、給与課税や私的支出の問題になる |
| 慶弔見舞金 | 規程に基づき、社会通念上相当な金額か | 役員への過大支給は、臨時的給与・損金不算入になり得る |
| 記念品・永年勤続表彰 | 現物支給か、金額・勤続年数・表彰間隔が要件に合うか | 現金、商品券、自由選択制の記念品は、給与課税になりやすい |
| 資料保存 | 規程、計算資料、参加者名簿、利用記録、支給記録が残っているか | 「福利厚生費」と入力しただけでは、税務調査で説明できない |
| 節税判断 | 税額軽減、資金流出、制度運用、社内公平、将来の説明可能性を総合する | 不要な福利厚生支出は、節税ではなく資金流出になる |
出典・参考情報
- 出典:国税庁|No.2594 食事を支給したとき
- 出典:国税庁|食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて
- 出典:国税庁|使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合
- 出典:国税庁|No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
- 出典:国税庁|No.2600 役員に社宅などを貸したとき
- 出典:国税庁|社員に家具等を貸与した場合の経済的利益
- 出典:国税庁|No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行
- 出典:国税庁|所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)の運用について
- 出典:国税庁|給与等に係る経済的利益
- 出典:国税庁|No.2591 創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき
- 出典:国税庁|13 源泉所得税の取扱い
- 出典:国税庁|No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
- 出典:国税庁|No.5202 役員等に対する経済的利益
- 出典:国税庁|第2款 経済的な利益の供与