資産超過会社・不動産保有会社の評価|収益力と資産価値のどちらを見るべきか

不動産や現預金を多く抱えた会社のM&Aでは、価格の判断が一気に難しくなります。

売主は、「これだけの不動産と純資産があるのだから、少なくとも純資産額以上の価値はある」と考えます。一方で買主は、「利益やキャッシュ・フローが小さいのなら、高い価格を払っても投資を回収できない」と考えます。

どちらの見方も、一面では正しいものです。ただ、どちらか一方だけで価格を決めてしまうと、判断を誤ります。

資産超過会社・不動産保有会社の評価で大切なのは、収益力と資産価値の「どちらが正しいか」を選ぶことではありません。保有している資産が、事業のキャッシュ・フローを生むために欠かせない資産なのか、それとも事業から切り離して処分できる資産なのか。あるいは、会社そのものが資産保有を目的としているのか。まずはこの違いを丁寧に見極めることが出発点になります。

同じ不動産であっても、工場用地、店舗、賃貸マンション、遊休地、役員社宅、駐車場、担保提供不動産では、価値評価上の意味がまったく異なります。

本稿では、資産超過会社・不動産保有会社について、収益力と資産価値をどう使い分けるべきかを、M&A・承継・資本政策・組織再編における取引価格判断の視点から整理していきます。

目次

まず結論|収益力と資産価値は「二者択一」ではなく、資産の性質ごとに分けて見る

資産超過会社・不動産保有会社の評価では、次のように考えるのが基本になります。

資産・会社の性質主に見るべき価値判断のポイント
本業が継続して利益・キャッシュ・フローを生む会社収益価値DCF、EBITDA倍率、正常収益力を重視する
本業に必要な不動産・設備を保有している会社収益価値を中心に、資産価値を補助的に見る不動産価値を別途全額加算すると二重計上になりやすい
遊休不動産・余剰現預金・投資有価証券を持つ会社事業価値+非事業資産価値本業と切り離して処分可能な資産だけを別途加算する
賃貸不動産業・不動産保有会社不動産の収益価値・時価純資産NOI、利回り、含み益、税負担、借入、修繕・空室リスクを見る
収益力が乏しく、資産処分の方が合理的な会社時価純資産・清算価値売却コスト、税負担、流動性、処分期間を控除して見る
承継・親族間・同族関係者間取引M&A価格とは別に税務上の時価も確認財産評価基本通達、法人税・所得税・相続税上の取扱いを混同しない

資産価値が大きい会社ほど、つい「収益価値か、純資産価値か」という単純な二択の議論に陥りがちです。

しかし実務では、次のように分解して考えた方が、判断はずっとしやすくなります。

株式価値 = 事業価値 + 非事業資産価値 − 有利子負債・負債類似項目 ± 税務・流動性・契約条件による調整

このうち、事業価値は将来キャッシュ・フローや正常収益力から考えます。非事業資産価値は、事業から切り離して処分できる資産の時価から、売却コストや税負担を差し引いて考えます。

企業価値評価ガイドラインでも、評価アプローチはインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つに分類されています。そのうえで、評価目的、対象会社の状況、各アプローチの特徴、業種特性などを踏まえ、適切なアプローチを選び取る必要があるとされています。

出典:日本公認会計士協会|企業価値評価ガイドライン

資産超過会社とは何か

ここでいう資産超過会社とは、貸借対照表上の純資産が厚く、現預金、不動産、有価証券、保険積立金などの資産を多く抱えた会社を指します。

ただし、ひと口に資産超過会社といっても、その実態は決して一様ではありません。

類型典型例評価上の見方
事業会社型工場、倉庫、店舗、社屋を自社保有する製造業・卸売業・小売業資産は本業を支える投下資本。収益力との関係を見る
余剰資産保有型本業とは関係の薄い遊休地、余剰現金、投資有価証券を保有本業価値とは別に非事業資産として加算を検討
不動産賃貸型賃貸マンション、オフィスビル、駐車場等を保有不動産賃貸収益と不動産時価の両面を見る
資産管理会社型オーナー一族の資産管理、株式・不動産保有が中心税務上の時価、純資産、少数株主性、流動性が重要
低収益資産保有型多額の不動産を持つが、利益・キャッシュ・フローが小さい資産処分価値、継続合理性、税負担を確認
実質休眠・清算型事業活動が乏しく、資産処分が主な価値源泉清算価値・処分価値を中心に見る

同じ「純資産が厚い会社」であっても、評価の主軸は会社ごとに変わってきます。

利益を生んでいる事業会社であれば、資産は収益を生み出すための投下資本です。遊休資産を抱えた会社であれば、その資産は本業価値とは切り離して扱う余地があります。資産管理会社であれば、会社そのものが資産を保有するためのビークルに近く、時価純資産の重要性がぐっと高まります。

不動産保有会社の評価が難しい理由

不動産保有会社の評価が難しいのは、不動産が複数の顔を持っているからです。

不動産は、事業用資産にもなれば、投資用資産にもなり、担保にも、節税・承継対策上の資産にも、そして売却可能資産にもなります。

不動産の使われ方価値評価上の意味
工場・店舗・倉庫として使用本業のキャッシュ・フローを生むための事業用資産
本社・社屋として使用事業継続に必要だが、必ずしも直接収益を生まない資産
賃貸マンション・オフィス不動産賃貸収益を生む収益不動産
駐車場・遊休地処分可能性があれば非事業資産
役員社宅・保養所事業関連性、処分可能性、役員関連取引を確認
担保提供不動産借入条件、金融機関対応、売却制約を確認
含み益のある土地税負担を控除しなければ株主に帰属する価値を過大に見る
老朽建物付き土地解体費、アスベスト、土壌汚染、修繕費を確認

不動産は、帳簿価額と時価が大きく乖離しやすい資産です。とりわけ取得時期の古い土地には、大きな含み益が生じていることが少なくありません。

その一方で建物については、帳簿価額が残っていても、実際には大規模修繕、除却、耐震補強、アスベスト対応、設備更新が必要になっているケースもあります。

ですから不動産保有会社の評価では、単純に「土地の時価を足す」のではなく、その不動産がどのようにキャッシュ・フローへ貢献しているのか、本当に処分できるのか、処分するとなれば税金とコストがどれだけかかるのかを、一つひとつ確認していく必要があります。

なお、不動産鑑定評価については、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際の統一的な基準として、国土交通省が不動産鑑定評価基準等を公表しています。重要な不動産が評価額を大きく左右する場合には、固定資産税評価額や路線価だけに頼らず、鑑定評価、不動産査定、収益還元、取引事例といった複数の視点を、目的に応じて確認しておきたいところです。

出典:国土交通省|法令・不動産鑑定評価基準等国土交通省|改正不動産鑑定評価基準等(平成26年5月1日一部改正)

収益力を見るべき場面

M&Aで買主が会社を取得する目的は、多くの場合、その会社が将来生み出すキャッシュ・フローを手に入れることにあります。

ですから、事業が継続して利益・キャッシュ・フローを生んでいる会社では、収益力が価格判断の中心になります。

収益力を重視すべき会社理由
安定した営業利益・EBITDAがある買主は将来の投資回収可能性を重視する
事業計画に合理性があるDCFやマルチプルの前提を組み立てやすい
不動産・設備が事業に不可欠資産価値は事業価値の中に織り込まれる
売却予定のない事業用不動産が中心不動産を処分すると本業が成り立たない
従業員・取引先・許認可・ブランドが価値源泉純資産だけでは価値を説明しにくい
買主がシナジーを見込む買主固有の収益改善余地が価格上限に影響する

たとえば製造業が自社工場の土地建物を保有している場合、その不動産は本業の生産活動に欠かせないものです。このとき工場用地の時価を事業価値にそのまま加算してしまうと、同じ資産を二重に評価してしまうおそれがあります。

なぜなら、DCFやEBITDA倍率で算定した事業価値には、その工場を使って生み出される利益やキャッシュ・フローが、すでに反映されているからです。

こうした場合、不動産の時価は「別途足す資産」というよりも、次のような確認のために用います。

不動産価値の使い方内容
事業継続に必要な投下資本の確認事業がどれだけの資産を使って利益を生んでいるかを見る
担保余力の確認金融機関との協議や買収資金調達に影響する
下限価値の参考収益価値が極端に低い場合に清算・売却可能性を見る
代替シナリオの検討売却、賃貸、セール・アンド・リースバック、移転の可能性を見る
修繕・更新投資の確認将来キャッシュ・フローの過大評価を防ぐ

資産を持っていること自体が価値なのではありません。その資産を使って、資本コストを上回るリターンを生み出せているかどうかが重要です。

資本効率という観点でいえば、ROICは会社の「稼ぐ力」をとらえる指標であり、事業別に投下資本と収益を対応させて見ていく考え方が大切になります。資産が大きい会社ほど、利益額そのものだけでなく、その資産を使ってどれだけのリターンを生んでいるのかを丁寧に見ていく必要があります。

資産価値を見るべき場面

一方で、資産価値を重視すべき場面も確かにあります。

特に、収益力が小さいにもかかわらず、処分可能な不動産や金融資産を多く抱えている会社では、収益価値だけを見ていると、会社の価値を過小に評価してしまうおそれがあります。

資産価値を重視すべき会社理由
遊休不動産・余剰現金が多い本業とは別に株主に帰属し得る価値がある
事業の収益力が低い継続価値より処分価値の方が合理的な場合がある
不動産賃貸業が中心不動産そのものが価値源泉
清算・廃業・事業停止が現実的清算処分価値が重要になる
資産管理会社・持株会社資産価値と税務上の時価が重要
会社分割・事業譲渡で資産を切り出す譲渡対象資産負債を個別に評価する必要がある
親族間・同族関係者間取引税務上の時価が問題になりやすい

ここで気をつけたいのは、資産価値を見る場合であっても、資産の時価をそのまま株式価値にしてよいわけではない、という点です。

不動産や有価証券に含み益があれば、売却時に税金が発生する可能性があります。不動産の売却には、仲介手数料、測量費、解体費、土壌汚染調査、登記費用、借地借家関係の整理、移転費用などがかかることもあります。売却までに時間を要する場合には、流動性や価格変動のリスクも見ておかなければなりません。

したがって、資産価値を価格判断に用いるときは、次のように考えます。

資産価値ベースの株式価値 = 資産の時価 − 売却コスト − 含み益に係る税負担 − 有利子負債 − 簿外債務・偶発債務 ± 流動性・契約制約等の調整

純資産方式や時価純資産法は、貸借対照表上の資産・負債を基礎にするため、客観性に優れた手法です。ただし、ブランド、技術、顧客基盤、組織力といった無形の価値や、将来の収益力を十分に反映しにくいという限界も抱えています。継続企業の価値を算定する場面では、他の評価手法と組み合わせて用いた方が望ましいことが多いと、私は考えています。

収益価値と資産価値が大きくズレるときの読み方

資産超過会社では、DCFやEBITDA倍率で算定した収益価値と、時価純資産法で算定した資産価値とが、大きく食い違うことがあります。

この差は、必ずしも評価の誤りを意味するものではありません。むしろ、会社の実態を読み解くための重要なサインととらえるべきです。

状況何を意味するか
収益価値 > 資産価値無形資産、顧客基盤、成長性、収益力が価値を生んでいる
収益価値 ≒ 資産価値事業収益力と資産価値が概ね整合している
収益価値 < 資産価値資産を十分に活用できていない可能性がある
収益価値がマイナス、資産価値がプラス事業継続より資産処分が合理的な可能性がある
資産価値が高いが処分できない実際の株主価値には流動性・制約ディスカウントが生じ得る
含み益が大きい税負担控除後の価値を見る必要がある

とりわけ問題になりやすいのは、収益価値が資産価値を大きく下回る場合です。

このとき買主は、「この利益水準では投資を回収できない」と考えます。一方で売主は、「資産を売ればもっと価値があるはずだ」と考えます。

この差を埋めるには、次の問いを順を追って確認していきます。

  1. その資産は本当に売却できるのか
  2. 売却すれば本業は継続できるのか
  3. 売却に必要な税金・費用・期間はどれくらいか
  4. 資産を売る意思決定権を誰が持つのか
  5. 少数株主・金融機関・取引先・従業員への影響はどうか
  6. 買主は資産処分を前提に買うのか、事業継続を前提に買うのか
  7. 売主は資産を切り離してから売る選択肢を持つのか

清算処分時価純資産法は、会社を解散・清算し、資産を処分して負債を弁済すると仮定したときの価値であり、株式価値の下限を画する意味を持つととらえることができます。ただし実際のM&A価格では、清算に要する期間、税負担、処分コスト、事業継続の必要性、株主の立場なども、あわせて考慮しなければなりません。

不動産を「事業用」「非事業用」「投資用」に分ける

不動産保有会社を評価するときは、まず不動産を次の3つに分類することから始めます。

分類評価上の扱い
事業用不動産工場、店舗、倉庫、本社、診療所、介護施設本業の収益価値に含める。別途加算は慎重に
非事業用不動産遊休地、保養所、利用していない駐車場、余剰不動産処分可能なら非事業資産として加算を検討
投資用不動産賃貸マンション、オフィスビル、貸店舗、月極駐車場賃貸収益と不動産時価の両面で評価

この分類を誤ると、評価額は大きく歪んでしまいます。

たとえば賃貸マンションを保有する会社では、その不動産は本業そのものです。賃料収入、空室率、修繕費、管理費、固定資産税、借入金、将来の大規模修繕までを織り込んで、収益不動産として評価する必要があります。

これに対して、製造会社が操業に使っていない遊休地を抱えている場合、その遊休地から本業のキャッシュ・フローは生まれていません。売却に事業上の制約がないのであれば、事業価値とは別に、非事業資産として加算する余地があります。

非事業資産は、単に「本業以外の資産」というだけでは不十分です。フリー・キャッシュ・フローの獲得に貢献しておらず、かつ処分に事業上の制約がない資産として整理する必要があります。遊休地を賃貸しており、その賃貸料をFCFに含めているのであれば、賃貸収益を通じて価値に反映させます。一方で、利用目的がなく売却制約もない資産については、処分価値を見積もったうえで非事業資産に含める。このように切り分けて考えるのが妥当です。

不動産を事業価値に「足してはいけない」典型例

資産超過会社の評価でもっとも多い誤りは、事業価値に事業用不動産の時価をそのまま足し込んでしまうことです。

たとえば、次のような会社を考えてみます。

項目金額
調整EBITDA3,000万円
EBITDA倍率4倍
事業価値1億2,000万円
工場用地・建物の時価3億円
借入金1億円

このとき、「事業価値1億2,000万円+不動産時価3億円−借入金1億円=株式価値3億2,000万円」と単純に計算してよいでしょうか。

多くの場合、ここは慎重に検討すべき場面です。

工場用地・建物が本業に不可欠で、売却すれば事業を続けられないのであれば、その不動産は本業の利益を生み出すために使われている資産です。EBITDA倍率で算定した事業価値には、その工場を使って生まれる利益が、すでに含まれています。

この場合に不動産時価を別途全額加算すると、工場を使った利益と、工場そのものとを、二重に評価してしまうおそれがあるのです。

とはいえ、不動産時価を無視してよいわけではありません。次のような検討は欠かせません。

検討項目内容
代替利用工場を売却して外部賃借・移転できるか
セール・アンド・リースバック不動産を売却し、賃借継続できるか
余剰部分敷地の一部だけ売却可能か
担保余力買収資金調達や借入条件に影響するか
老朽化建物・設備の修繕更新が必要か
固定資産税・維持費将来キャッシュ・フローに反映されているか
環境・法令リスク土壌汚染、アスベスト、消防、建築基準法等の問題がないか

つまり事業用不動産は、「足す資産」ではなく、事業価値の前提を検証するための資産として扱うのが基本になります。

不動産を事業価値に「足すべき」典型例

一方で、不動産を事業価値に加算すべき場面もあります。

その典型が、遊休不動産や余剰不動産です。

不動産の状況加算を検討できる理由
本業に使用していない事業価値のFCFに貢献していない
売却しても事業継続に影響しない株主に帰属し得る資産価値と考えやすい
賃貸しているが本業と独立している賃貸収益または処分価値を別途評価できる
長期的に利用予定がない余剰資産として扱いやすい
分筆・売却可能流動化の現実性がある
担保・契約制約がない買主が処分可能性を見込みやすい

ただしこの場合でも、加算するのは「時価そのもの」ではなく、通常は税引後・コスト控除後の価値です。

控除・調整項目確認事項
売却益課税法人税等の負担
仲介手数料不動産売却コスト
測量・境界確定売却前に必要な費用
解体・除却建物・設備の撤去費
土壌汚染・アスベスト調査・除去費用
立退き・借地借家関係賃借人対応、補償、期間
担保解除金融機関との協議
売却期間換金までの時間価値
市場流動性売り急ぎによるディスカウント

売主が「不動産の時価は5億円だ」と主張したとしても、買主が実際に受け取れる経済価値は、税金・費用・時間・リスクを差し引いた後の金額になります。

不動産賃貸会社は「不動産を持っている会社」ではなく「不動産から収益を得る事業」として見る

不動産賃貸会社の評価では、純資産価値だけでなく、不動産が生み出す収益力をしっかり見る必要があります。

賃貸不動産は、単なる保有資産ではありません。賃料収入を生み出す事業用資産です。

確認しておきたい主な項目は、次のとおりです。

項目確認内容
賃料水準市場賃料と比べて高いか低いか
空室率一時的か構造的か
賃借人属性主要テナント依存、信用力、退去可能性
契約条件普通借家、定期借家、更新料、解約条項
修繕費過去実績と将来の大規模修繕
固定資産税・管理費NOI算定上の控除項目
借入金金利、返済条件、担保
土地建物の権利関係借地、底地、共有、使用貸借
法令・環境違反建築、耐震、消防、土壌汚染
税務含み益、消費税、譲渡益課税

不動産賃貸会社では、評価方法として次の3つを併用することが多くなります。

評価方法何を見るか
収益還元・DCF賃料収入、空室、修繕、税金、将来売却価値
時価純資産法不動産時価、借入金、含み益税負担、簿外債務
類似取引・利回り比較キャップレート、地域・築年数・用途の比較

不動産賃貸会社の価値は、単なる「土地建物の時価合計」ではありません。

高い賃料を安定的に得ている物件であれば、収益価値は高くなります。反対に、土地の時価は高くても、賃料が低く、修繕費がかさみ、借入金も多ければ、株主価値は限られたものになります。

含み益は「株主価値」ではなく、税負担控除後で見る

不動産保有会社では、含み益が価格交渉の中心に据えられることがあります。

しかし、含み益はそのまま株主価値になるわけではありません。

見方問題点
土地時価 − 帳簿価額 = 株主価値増加売却時の税負担を無視している
不動産時価をそのまま株式価値に加算売却コスト・時間・流動性を無視している
相続税評価額をそのままM&A価格に使用取引目的の価格と税務評価を混同している
帳簿価額をそのまま使用含み益・含み損を無視している

株式譲渡では、対象会社が不動産を保有したまま買主へ引き継がれます。不動産を売却しない限り、含み益への課税が直ちに表面化しないこともあります。

しかし、買主が将来その不動産を売却する可能性があるのなら、その税負担は株主価値を目減りさせる要因になります。仮に将来の売却予定がなくても、資産価値をベースに価格交渉をするのであれば、税負担をまったく考慮しないままでは、買主側の投資回収判断と噛み合わなくなってしまいます。

時価純資産法における含み損益への法人税相当額の控除は、評価の目的や資産の保有目的に応じて、個別に検討する必要があります。再調達時価純資産法と清算処分時価純資産法とでは前提が異なり、売却を前提とするかどうかによって、税効果の扱いも変わってきます。

税務上の「土地保有特定会社」とM&A価格を混同しない

不動産保有会社では、税務上の非上場株式評価も重要なテーマになります。

特に、親族間や同族関係者間の取引、法人が絡む取引、自己株式の取得、組織再編、事業承継といった場面では、M&Aで合意した価格とは別に、税務上の時価が問題になることがあります。

財産評価基本通達では、取引相場のない株式について、会社規模に応じた評価方式を定めるほか、特定の評価会社の株式についても別途定めを置いています。土地保有特定会社の株式は、同通達189-4により、原則として185の純資産価額によって評価することとされています。

出典:国税庁|財産評価基本通達 189 特定の評価会社の株式

また財産評価基本通達185では、1株当たりの純資産価額について、課税時期における各資産を通達の定めにより評価した価額の合計額から、各負債の金額および評価差額に対する法人税額等相当額を控除して計算することとされています。

出典:国税庁|財産評価基本通達 185 純資産価額

ただし、ここで一つ注意しておきたい点があります。

財産評価基本通達による評価は、あくまで相続税・贈与税などを主とした税務評価の枠組みです。M&Aで第三者間取引として合意される取引価格と、常に一致するわけではありません。

M&A価格は、買主の投資回収、シナジー、リスク、契約条件、資金調達、競争環境といった要素によって決まります。一方で税務上の時価は、取引当事者、取引目的、税目、関係者間取引かどうかによって問題になります。両者は、見ている世界が異なるのです。

とりわけ、親族間・同族関係者間で不動産や非上場株式を売買する場合には、時価より著しく低い価額での譲渡や、法人が絡む低額・高額取引による課税関係が問題になり得ます。不動産の時価については、相続税評価額、固定資産税評価額、鑑定評価額、公示価格、取引価額など複数の参照値があり、取引の目的と税務上の文脈を分けて確認していく必要があります。

なお財産評価基本通達では、時価とは、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額とされています。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

資産価値を重視する場合でも、流動性を見落とさない

不動産や非上場株式は、現預金と違って、すぐに換金できるとは限りません。

特に、非上場会社が保有する不動産には、次のような制約がつきまといます。

制約価格判断への影響
担保設定金融機関の承諾が必要になる
共有共有者の同意・分割協議が必要になる
借地・底地権利関係が複雑で流動性が低い
賃借人あり立退き・契約更新・賃料改定が問題になる
市街化調整区域売却先・用途が限定される
土壌汚染・埋蔵文化財調査・対策費用が必要になる
老朽建物解体費・耐震・アスベスト対応が必要になる
用途制限・建築制限最有効使用が限定される
関係会社利用低賃料・使用貸借・契約未整備が問題になる
オーナー個人との混在所有者・使用者・費用負担の整理が必要になる

不動産の時価が高くても、実際に売却するまでに時間とコストがかかるのなら、株主価値としては相応の調整が必要になります。

特にM&Aでは、買主が取得するのは不動産そのものではなく、会社の株式であることが多いものです。この場合、買主は会社に内在する税負担、契約関係、借入、保証、法令違反、修繕負担、従業員・取引先との関係まで、まとめて引き受けることになります。

ですから資産価値を主張する場合でも、その資産の換金可能性と制約を説明できなければ、取引価格としては受け入れられにくくなります。

収益力が低い資産超過会社で確認すべきこと

資産超過会社で収益力が低い場合、価格判断はとりわけ難しくなります。

買主と売主とで価格の目線が大きくずれるため、次の論点を一つひとつ整理していきます。

確認すべき論点判断内容
収益力が低い理由一時的要因か、構造的要因か
資産の利用効率過大資産を抱えていないか
資産売却可能性売却・賃貸・用途転換が可能か
事業継続の必要性従業員、取引先、許認可、地域性
買主の改善余地シナジー、稼働率改善、賃料改定
維持更新投資修繕・設備更新・耐震対応の必要性
借入・担保返済条件、金利、担保余力
税負担含み益課税、譲渡益課税、登録免許税、不動産取得税
スキーム株式譲渡、事業譲渡、会社分割、不動産売却のどれが適切か
説明先株主、後継者、金融機関、親族、取締役会への説明

収益力が低い会社を、「純資産が大きいから高い」とだけ説明しても、買主はなかなか納得しません。反対に、買主が「利益が小さいから安い」とだけ主張しても、売主は納得できないでしょう。

このような場合には、価格を一つに決めてしまう前に、少なくとも次の3つの価値を並べて見ておくべきです。

価値見る目的
継続事業価値本業を続けた場合にどれだけの価値があるか
資産処分価値資産を売却した場合に税引後でどれだけ残るか
買主固有価値買主が取得することで収益改善・資産活用できるか

この3つを並べて見ることで、価格交渉の論点がはっきりと浮かび上がってきます。

「純資産方式の割合を高くする」だけでは説明として弱い

実務では、「収益力に比べて、不動産など処分価値のある資産を多く所有している会社では、純資産方式の割合を大きくする」と説明されることがあります。

この考え方そのものは、一定の実務感覚に合致したものです。

しかし問題は、「何%を純資産方式にするか」を理論的に決めることが、なかなか難しいという点にあります。

単純にDCF70%、純資産30%、あるいは純資産50%などと機械的に重み付けしても、その割合に合理的な根拠がなければ、第三者に説明することが難しくなってしまいます。

資産価値を重視する場合には、割合を先に決めてしまうのではなく、次の判断を先に行うべきです。

判断順序内容
1本業を継続する前提か、資産処分前提か
2対象資産は事業用か、非事業用か
3売却・賃貸・用途転換の現実性があるか
4税金・費用・時間を控除した後の価値はいくらか
5買主は資産活用を目的に買うのか、事業承継を目的に買うのか
6売主は資産を切り離してから売る選択肢があるか
7評価結果を誰に説明する必要があるか

収益性に比べて処分価値のある不動産等を多く所有する会社で、純資産方式の割合を大きくするという考え方はあります。ただし、事業を継続する事情があり、不動産等を売却できない会社にまで純資産方式の割合を高めてしまうのは、かえって不合理になり得ます。

事業用不動産を売却できるかどうかで評価は変わる

不動産保有会社の評価で実務上重要になるのは、「売れるかどうか」だけではありません。

売っても事業が成り立つのかどうかが、何より重要です。

売却可能性評価上の意味
売却できず、事業にも不可欠収益価値中心。資産価値は補助情報
売却できるが、事業移転が必要移転費用・賃借料・操業停止影響を考慮
一部売却できる売却可能部分を非事業資産として切り出す
セール・アンド・リースバック可能売却価値と将来賃料負担を同時に見る
売却予定が明確税引後処分価値を株主価値に反映
売却が買主の取得目的資産価値中心。ただし契約・税務・流動性調整が重要
売主が売却してから会社を譲渡取引前再編・税務・価格前提が変わる

たとえば、会社が広大な工場用地を持っていても、実際の操業に必要なのはそのうちの一部だけ、というケースがあります。このとき余剰部分を分筆・売却できるのであれば、事業価値とは別に、非事業資産として評価できる可能性があります。

反対に、敷地全体が操業許認可、導線、排水設備、騒音規制、近隣対応、従業員の通勤などに深く関わっていて、簡単には切り離せない場合には、時価を単純に加算すべきではありません。

借入金と担保を見ない資産評価は危険

不動産保有会社では、資産価値だけでなく、借入金にも目を配る必要があります。

不動産が多い会社は、借入金も多いことが少なくありません。評価上は、不動産の時価から借入金や負債類似項目を控除したうえで、株主価値を見ていきます。

項目確認すべき事項
借入金残高不動産価値から控除する必要
金利・返済条件将来キャッシュ・フローへの影響
担保設定不動産売却の自由度に影響
経営者保証売主・買主・金融機関間の調整が必要
財務制限条項M&Aによる期限の利益喪失リスク
不動産評価額金融機関評価とM&A評価の違い
借換可能性買収後の資金繰りに影響
修繕資金将来の借入余力・追加投資に影響

中小M&Aガイドライン第3版では、M&Aに先立つ事前準備として「見える化」「磨き上げ」が示され、その中で株式・事業用資産等の整理・集約が必要だとされています。不動産、株式、借入、担保、保証が複雑に絡み合った会社ほど、評価前の整理が価格判断に大きく影響します。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

不動産保有会社でDD上確認すべき項目

不動産保有会社・資産超過会社では、財務DD・税務DD・法務DDの発見事項が、時価純資産法だけでなく、DCFやマルチプルにも影響を及ぼします。

純資産調整項目は、時価純資産法への影響を把握しやすい一方、将来のキャッシュアウトにつながるものはDCF法にも影響します。滞留債権や回収可能性の低い運転資本などについては、事業計画上のFCFにも調整が必要になる場合があります。

確認すべき項目は、次のとおりです。

領域主な確認事項
不動産登記、所有者、共有、担保、境界、測量、固定資産税評価、鑑定評価
権利関係賃貸借、借地権、底地、使用貸借、転貸、サブリース
賃貸収益賃料水準、空室率、滞納、敷金保証金、更新条件
修繕・設備大規模修繕、耐震、消防、空調、エレベーター、給排水
環境土壌汚染、アスベスト、PCB、廃棄物、地下埋設物
法令建築基準法、都市計画、用途地域、消防法、開発許可
税務含み益、未払税金、固定資産税、消費税、登録免許税、不動産取得税
借入担保、保証、返済予定、金利、期限前弁済、財務制限条項
関連当事者オーナー利用、親族利用、低賃料、費用負担、貸付借入
保険火災保険、地震保険、保険積立金、解約返戻金
簿外債務原状回復、立退き、解体、訴訟、保証、未払修繕
スキーム株式譲渡、事業譲渡、会社分割、不動産売却の税務・会計影響

法務DDでは、重大な法的リスクが見つかれば、M&Aの実行可否やスキーム変更に影響し、取引対価の算定にも影響し得ます。たとえば、金額の特定が難しい環境汚染等の偶発債務が認識された場合には、株式譲渡ではなく会社分割等によってリスクを切り離す方法が検討されることもあります。

取引スキームによって価格判断は変わる

不動産保有会社では、株式譲渡か不動産売却か、事業譲渡か会社分割かによって、価格判断が大きく変わってきます。

スキーム価格判断上の特徴
株式譲渡会社ごと取得。含み益税負担、簿外債務、借入、契約を引き継ぐ
不動産売買不動産のみ取得。取得税・登録免許税・消費税等の確認が必要
事業譲渡譲渡対象資産負債を個別特定。契約・許認可承継を確認
会社分割事業・資産を切り出す。税務適格性、債務承継、労務等を確認
合併権利義務包括承継。税務・会計・簿外債務の影響が大きい
事前資産売却後の株式譲渡資産を現金化してから株式価値を整理。税負担が先に発生
会社清算清算価値を見る。時間・税金・解散手続・従業員対応を考慮

株式譲渡では、買主は不動産だけでなく、会社全体を取得します。借入、税務リスク、労務リスク、契約、保証、訴訟まで、すべて引き継ぐことになります。

不動産売買であれば、対象不動産だけを取得できます。ただし、不動産取得税、登録免許税、消費税、固定資産税の精算、賃貸借の承継、担保の抹消など、実務上の負担が伴います。

会社分割や事業譲渡では、リスクを切り分けやすい反面、契約・許認可・労務・税務の整理が必要になります。

ですから、「会社の価値はいくらか」を考えるだけでなく、どのスキームであれば、その価値を実際の取引価格として実現できるのかまで、あわせて考える必要があります。

買主・売主・金融機関で見るポイントは異なる

資産超過会社・不動産保有会社の価格判断では、立場によって重視するポイントが変わってきます。

立場重視する点
売主資産価値、含み益、これまで蓄積した純資産、希望価格
買主投資回収、キャッシュ・フロー、借入返済、シナジー、リスク
金融機関担保価値、返済原資、DSCR、借入余力、保証
後継者取得後の資金繰り、納税、承継後の経営負担
少数株主公正性、配分、支配権、流動性
税務当局低額譲渡・高額譲渡、時価、同族関係、課税関係
取締役会説明責任、評価手法、取引条件、利益相反

売主が資産価値を重視するのは、ごく自然なことです。しかし買主が重視するのは、資産を持った会社を取得した後に、どれだけキャッシュを生み、借入を返済し、投資を回収できるか、という点です。

金融機関は担保価値を見ますが、担保価値があるからといって、買主がその分だけ株式譲渡価格を払えるとは限りません。返済原資となるキャッシュ・フローが伴わなければ、借入による買収価格の上乗せには、おのずと限界があります。

資産超過会社の価格交渉で起きやすい誤解

資産超過会社のM&Aでは、次のような誤解がたびたび起こります。

誤解実務上の整理
純資産額がそのまま売買価格になる純資産は重要な判断材料だが、収益力・税負担・流動性も見る
不動産時価を事業価値に全額足せる事業用不動産は二重計上に注意
含み益は株主価値そのもの売却時税負担・コスト・時間を控除する
相続税評価額がM&A価格になる税務評価と取引価格は目的が異なる
収益価値が低いなら安く買える売主には資産処分という代替選択肢がある
不動産担保があるから高く買える借入返済原資はキャッシュ・フローで見る
純資産方式とDCFを平均すればよい機械的平均ではなく、前提差を説明する必要がある
不動産を売ればよい事業継続、税金、契約、従業員、金融機関の制約がある

こうした誤解を避けるには、評価額を一つに決めようとするのではなく、前提ごとに価値レンジを示すことが大切です。

たとえば、次のような整理になります。

前提価値の見方
事業継続前提DCF、EBITDA倍率、正常収益力
資産処分前提時価純資産、税引後処分価値
不動産賃貸継続前提NOI、キャップレート、修繕・空室リスク
買主シナジー前提買主固有価値、収益改善余地
税務上の時価前提財産評価基本通達、法人税・所得税・相続税上の評価
契約交渉前提価格調整、表明保証、補償、エスクロー

収益力と資産価値をどう併用するか

資産超過会社・不動産保有会社では、複数の評価手法を併用するのが一般的です。

ただし、併用する目的は「平均値を出すこと」ではありません。

それぞれの評価手法が何を見ているのかを比較し、価格判断上の論点を浮かび上がらせること。これが本当の狙いです。

評価手法見ているもの資産超過会社での使い方
DCF法将来キャッシュ・フロー事業継続価値、賃貸収益、投資回収を見る
EBITDA倍率正常収益力と市場倍率事業会社としての価格レンジを把握する
時価純資産法資産・負債の時価資産価値、下限価値、清算・処分価値を確認する
不動産収益還元NOIと利回り賃貸不動産の収益価値を確認する
取引事例法類似取引の価格市場の取引目線を参考にする
税務評価税法上の時価親族間・同族間・承継・自己株式で確認する

企業価値評価ガイドラインでは、インカム・アプローチは将来の収益獲得能力を反映する点に優れ、ネットアセット・アプローチは客観性に優れる一方で、将来の収益獲得能力を反映する点には限界がある、と整理されています。どの評価法を用いるかは、評価目的、対象会社の状況、その他の事情を加味したうえで決めていく必要があります。

出典:日本公認会計士協会|企業価値評価ガイドライン

実務では、次のように使い分けると整理しやすくなります。

状況評価手法の使い方
利益が安定している事業会社DCF・マルチプルを中心、時価純資産を下限・補助として確認
遊休資産が多い会社事業価値に税引後非事業資産価値を加算
不動産賃貸会社不動産収益還元と時価純資産を併用
赤字だが資産価値が大きい会社清算処分価値、再建可能性、資産売却可能性を確認
承継・親族間取引M&A価格と税務上の時価を分けて確認
会社分割・事業譲渡譲渡対象資産負債を個別に評価

説明可能な価格レンジを作るための実務手順

資産超過会社・不動産保有会社の価格判断では、次の順番で整理していきます。

1. 評価対象を明確にする

まず、何を評価するのかをはっきりさせます。

株式なのか、事業なのか、不動産なのか、一部持分なのか、会社分割後の新会社なのか。対象が変われば、評価のあり方も変わります。

2. 事業用資産と非事業資産を分ける

不動産、現預金、有価証券、保険積立金、関連会社株式を、事業に必要なものと余剰資産とに分けます。

3. 正常収益力を確認する

役員報酬、関連当事者取引、賃料水準、修繕費、固定資産税、減価償却、保険料、管理費などを正常化します。

4. 不動産の時価と制約を確認する

鑑定評価、査定、路線価、固定資産税評価、近隣の取引事例、収益還元、賃貸借契約、担保、法令制限を確認します。

5. 含み益税負担と売却コストを見積もる

資産売却を前提とする場合は、税負担、売却費用、解体・測量・立退き等を考慮します。

6. 有利子負債・簿外債務を控除する

借入金、保証、退職給付、リース、未払税金、環境債務、訴訟、修繕債務を確認します。

7. 複数手法でレンジを作る

DCF、マルチプル、時価純資産、不動産収益還元、税務評価を並べ、それぞれの差異が生じた理由を説明します。

8. 取引価格に接続する

最後に、価格調整、表明保証、補償、エスクロー、スキーム変更、クロージング条件へと落とし込みます。

評価は、計算で終わるものではありません。価格交渉、金融機関への説明、株主への説明、後継者への説明、そして税務上の説明可能性まで見据えておく必要があります。

資産超過会社・不動産保有会社で準備しておきたい資料

専門家に相談する前に、次の資料を整理しておくと、評価の精度も議論の効率も大きく上がります。

資料確認できる論点
決算書・申告書3〜5期分利益水準、純資産、税務申告内容
月次試算表直近期以降の変動
固定資産台帳取得価額、簿価、減価償却、資産区分
不動産登記簿所有者、担保、権利関係
固定資産税課税明細評価額、税額、土地建物区分
鑑定評価書・査定書不動産時価の根拠
賃貸借契約書賃料、期間、更新、解約、敷金保証金
借入金一覧・返済予定表有利子負債、担保、保証
修繕履歴・設備更新計画将来キャッシュアウト
保険契約・解約返戻金資料保険積立金、解約価値
有価証券明細投資目的、時価、売却制約
関係会社・役員取引資料低賃料、貸付借入、私的利用
事業計画将来収益、設備投資、運転資本
税務調査資料追徴リスク、未払税金
株主名簿支配権、少数株主、承継上の論点

資料が不十分なまま評価額だけを求めても、価格レンジは形式的なものにとどまってしまいます。特に不動産が価値の大部分を占める会社では、資産資料と契約資料の不足が、評価結果の説明力を大きく損なってしまいます。

資産価値を主張する前に、売主が整理すべきこと

売主側が資産価値を価格に反映したい場合には、次の点を整理しておく必要があります。

整理項目内容
不動産の時価根拠鑑定評価、査定、取引事例、収益還元
売却可能性売却・分筆・賃貸・用途転換が可能か
事業への影響売却しても本業が継続できるか
税負担含み益課税を控除した後の価値
借入・担保金融機関との調整が必要か
修繕・環境買主が負担する潜在コストはないか
代替案資産売却後の会社譲渡、不動産分離、会社分割
説明先株主、後継者、親族、金融機関への説明

「不動産があるから高い」という説明だけでは、十分とはいえません。

「この不動産は本業と切り離して処分でき、税引後でこれだけの価値が残る」「賃貸収益から見れば、この利回りで評価できる」「担保や契約上の制約はない」といったように、買主が経済価値として受け入れられる根拠にまで、丁寧に落とし込んでいくことが求められます。

買主が確認すべきこと

買主側では、資産価値に引きずられて高値を払ってしまわないよう、次の点を確認します。

確認項目内容
投資回収買収価格を将来キャッシュ・フローで回収できるか
借入返済不動産担保ではなく返済原資があるか
売却前提取得後に本当に不動産を売却できるか
税負担含み益課税を誰が負担するか
修繕・環境買収後に追加投資が必要ではないか
賃料水準関係者間賃料が市場水準と乖離していないか
簿外債務原状回復、立退き、保証、訴訟がないか
スキーム株式譲渡で全リスクを引き継ぐべきか
価格調整クロージング時の現預金、借入、運転資本をどう調整するか

買主にとって本当に重要なのは、「資産があるか」ではありません。その資産を取得することで、どのようなキャッシュ・フローとリスクを引き受けることになるのか。ここを見極めることです。

この記事のまとめ|資産価値は重要だが、それだけでは価格にならない

資産超過会社・不動産保有会社の評価では、資産価値を軽視してはいけません。

しかし、資産価値だけで取引価格を決めてしまうのも、また危険なことです。

本業が継続して利益を生んでいるのなら、収益価値が中心になります。遊休資産や余剰資産があるのなら、非事業資産として別途加算を検討します。不動産賃貸会社であれば、不動産時価と賃貸収益の両面を見ます。収益力が低く、資産処分の方が合理的であれば、時価純資産や清算価値が重要になります。

もっとも避けたいのは、次のような評価です。

  • 事業用不動産の時価を、事業価値に単純加算してしまう
  • 含み益を、税引前のまま株主価値とみなしてしまう
  • 純資産額を、そのまま売買価格にしてしまう
  • 相続税評価額を、M&A価格と混同してしまう
  • DCF、マルチプル、純資産の差異理由を説明しない
  • 不動産の売却制約、担保、修繕、環境、法令リスクを見落とす
  • 資産価値を理由に、投資回収できない価格を受け入れてしまう

企業価値評価とは、売主に有利な金額や、買主に有利な金額を作り上げる作業ではありません。

資産が事業のなかでどう使われ、どのキャッシュ・フローを生み、どのリスクを伴い、どの税負担・契約条件を通じて株主価値に帰属するのか。それを一つずつ整理していく作業なのです。

資産超過会社・不動産保有会社の価格判断を整理したい場合

資産超過会社・不動産保有会社のM&A、事業承継、資本政策、組織再編では、収益力、時価純資産、非事業資産、含み益税負担、不動産評価、借入・担保、簿外債務、取引スキームを、一体として整理していく必要があります。

特に、次のような場合には、価格判断の前提を早めに整理しておくことが重要です。

  • 不動産や現預金が多く、純資産額と収益価値が大きくズレている
  • 仲介会社等から提示された価格が、資産価値をどう反映しているのか分からない
  • 事業用不動産と遊休不動産の切り分けができていない
  • 含み益のある土地を保有しており、税負担をどう考えるべきか迷っている
  • 不動産賃貸会社・資産管理会社の株式価値を説明する必要がある
  • 親族間・同族関係者間・自己株式取得・組織再編で、税務上の時価も問題になる
  • 金融機関、株主、後継者、社内関係者に価格の根拠を説明する必要がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、資産超過会社・不動産保有会社の企業価値評価・株式価値評価について、収益力、時価純資産、非事業資産、含み益、税務上の時価、スキーム、価格交渉上の論点を整理し、後からきちんと説明できる価格判断を支援しています。

資産価値と収益力のどちらを、どのように価格判断へ反映すべきか整理したい場合は、お問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点重要ポイント
資産超過会社の評価純資産が厚い会社でも、収益力・資産処分可能性・税負担を分けて見る
不動産保有会社の評価事業用、非事業用、投資用に分類することが出発点
収益力を重視する場面本業が継続してキャッシュ・フローを生む会社ではDCFやマルチプルが中心
資産価値を重視する場面遊休資産、余剰資金、不動産賃貸、低収益資産保有会社では時価純資産が重要
事業用不動産本業のキャッシュ・フローに貢献しているため、時価を別途全額加算すると二重計上になりやすい
非事業用不動産事業から切り離して処分可能なら、税引後処分価値を加算検討
賃貸不動産不動産時価だけでなく、賃料、空室、修繕、NOI、利回りを見る
含み益税負担・売却コスト・処分期間を控除して株主価値を見る
税務上の時価M&A価格と財産評価基本通達等による税務評価は目的が異なる
土地保有特定会社税務評価上は純資産価額方式が重要になるが、M&A価格とは混同しない
流動性不動産はすぐ現金化できるとは限らず、担保・共有・賃貸借・法令制約を確認する
複数手法の併用平均値を出すためではなく、収益価値と資産価値の差異理由を説明するために使う
スキーム株式譲渡、不動産売買、事業譲渡、会社分割で価格前提と税務・リスク承継が変わる
売主の整理不動産時価、売却可能性、税引後価値、事業影響を説明できる状態にする
買主の整理投資回収、借入返済、修繕・環境・税務リスク、売却可能性を確認する
実務上の本質資産価値と収益力のどちらが正しいかではなく、どの前提ならどの価値になるかを説明可能にすること
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次