贈与税納税猶予を受けるための認定申請|生前贈与で事業承継税制を使う実務手順と注意点

法人版事業承継税制を生前贈与で活用する場面で、最も誤解されやすいのは、「株式を贈与してしまえば、あとは税務申告で納税猶予を選べばよい」という理解です。

しかし、実務はそれほど単純ではありません。贈与税の納税猶予を受けるには、株式の贈与、都道府県知事の認定申請、贈与税申告、担保提供、そして適用後の年次報告・継続届出が、いずれも連動して動いていきます。このうち一つでも期限や要件を外してしまうと、当初想定していた納税猶予を受けられない可能性が出てきます。

法人版事業承継税制とは、後継者である受贈者が、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を贈与によって取得した場合に、その株式等に係る贈与税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、後継者の死亡等によって猶予税額の納付が免除される制度です。特に特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、納税猶予割合が100%とされるなど、踏み込んだ内容が用意されています。

出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)

ここで一点、押さえておきたいことがあります。この制度は「贈与税が消えてなくなる制度」ではありません。あくまで一定の要件を満たす限りにおいて納税が猶予され、将来の一定の事由によって免除され得る制度です。裏を返せば、適用後に要件を外れてしまえば、猶予されていた税額や利子税の納付という問題が現実のものになります。

本記事では、法人版事業承継税制のうち特例措置を前提に、生前贈与で自社株式を後継者へ移す場合の認定申請を整理していきます。贈与契約書の具体的な文案や申告書の逐条記載例には立ち入りません。むしろ、贈与の実行前後にどのような順序で、何を確認し、どこにリスクが潜んでいるのか——その流れを中心にお伝えします。

目次

贈与税納税猶予の認定申請は、税務署ではなく都道府県から始まる

「贈与税の納税猶予」という名称から、まず向かう先を税務署だと考えてしまう方は少なくありません。ところが法人版事業承継税制では、その前に、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受ける必要があります。

全体の流れを整理すると、次のようになります。

段階主な手続主な提出先・関係先実務上の意味
1特例承継計画の作成・提出都道府県特例措置を利用するための前提を整える
2自社株式の贈与贈与者・後継者・会社経営権・財産権を移す実行段階
3贈与税納税猶予の認定申請都道府県会社・贈与者・後継者・株式等の要件を確認する
4贈与税申告・担保提供税務署納税猶予を税務上適用する
5年次報告・継続届出都道府県・税務署猶予を維持するための継続管理を行う

贈与税・相続税の納税猶予を受けるには、まず都道府県知事による認定を受け、そのうえで税務申告の際に別途の手続が必要になります。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

つまり、都道府県の認定と税務署への申告は、あくまで別の手続だということです。

都道府県の認定を受けただけでは、税務署への贈与税申告が完了したことにはなりません。逆に、税務署へ申告書を提出する段階で都道府県の認定書や必要書類がそろっていなければ、納税猶予の適用そのものに支障が生じます。この二つを別々の手続として頭に置いておくことが、最初の一歩になります。

特例承継計画の提出期限と贈与期限を、先に確認する

特例措置を使うのであれば、まず確認していただきたいのが、特例承継計画の提出期限と、贈与・相続による株式取得の期限です。

現時点の公表情報では、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日までとされています。そして、特例承継計画を提出した事業者のうち、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに贈与・相続によって会社の株式を取得した経営者が、特例措置の対象になります。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

ここで注意したいのは、計画の提出期限と贈与の期限が、それぞれ別の期限だという点です。

区分期限・期間実務上の注意点
特例承継計画の提出期限令和9年9月30日まで認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた計画が必要
特例措置の対象となる贈与・相続平成30年1月1日から令和9年12月31日まで期限内に実際の株式取得が必要
贈与認定申請原則として贈与年の翌年1月15日まで都道府県に認定申請を行う
贈与税申告贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで税務署に申告し、担保提供も行う

特例承継計画は、原則として贈与の前に提出しておくことが望ましいといえます。もっとも、申請マニュアル上は、株式等の贈与後に特例承継計画を作成することも可能とされており、その場合は都道府県知事への認定申請時までに作成すればよいとされています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

とはいえ、「贈与後でも間に合う」と安易に構えるのは禁物です。特例承継計画の内容、後継者要件、株主構成、贈与株式数、税額試算、添付書類——これらを贈与後に慌てて整えようとすると、要件の不一致や書類の不備が後から発覚しやすくなります。余裕を持って準備するに越したことはありません。

生前贈与で進める場合の基本スケジュール

贈与税納税猶予の認定申請では、贈与を行う年と、その翌年の1月15日・3月15日という二つの日付が、特に重要になってきます。

申請マニュアルでは、第一種特例贈与認定中小企業者について、贈与認定申請基準日から贈与日の属する年の翌年1月15日までの間に、本社所在地の都道府県庁へ認定申請を行うものとされています。申請書には様式第7の3を用います。そのうえで、贈与日の属する年の翌年3月15日までに、所轄税務署へ贈与税の申告を行い、都道府県知事の認定書その他の必要書類を提出し、あわせて、猶予される贈与税額および利子税に見合う担保を提供する必要があります。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

なお、贈与税の申告期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。

出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

これを実務のスケジュール感に落とし込むと、おおむね次のようになります。

時期実施事項注意点
贈与前株価試算、株主構成確認、後継者要件確認、特例承継計画の確認代表者交代、議決権、贈与株数を事前に整える
贈与日自社株式の贈与、株主名簿書換、会社法手続贈与者・受贈者・株数・議決権数を一致させる
贈与年の10月15日以後都道府県への認定申請開始贈与日によって認定申請基準日が変わる
翌年1月15日まで認定申請期限書類不備があると3月15日の税務申告に間に合わないおそれがある
翌年2月1日から3月15日まで贈与税申告、認定書添付、担保提供税務署手続は都道府県認定とは別管理
申告期限後5年間年次報告・継続届出適用後の管理体制が必要

実務でとりわけ気をつけたいのが、認定申請書を1月15日の期限ぎりぎりに提出するケースです。申請後の審査には一定の期間を要するため、認定書の交付が贈与税申告期限までに間に合わないというリスクが生じます。こうした事態を避けるためにも、年内の申請を目標に準備を進めておくのが安全です。

「認定申請基準日」という考え方を理解しておく

贈与税納税猶予の認定申請には、「贈与認定申請基準日」という考え方があります。これは、申請にあたって、どの時点の株主構成、代表者、従業員数、決算情報などを確認するのか——その基準となる日を指すものです。

添付書類マニュアルによれば、第一種特例贈与認定申請基準日は、贈与日が1月1日から10月15日までの場合は原則として10月15日、贈与日が10月16日から12月31日までの場合は当該贈与日とされています。また、一定の相続が発生している場合には、別の基準日が定められます。

出典:中小企業庁|第一種特例贈与認定中小企業者の認定申請書類

実務上は、次のような整理で理解しておくとよいでしょう。

贈与日の区分認定申請基準日の考え方実務上の影響
1月1日から10月15日までの贈与原則として10月15日10月15日時点でも株式保有・代表者等の状態が維持されている必要がある
10月16日から12月31日までの贈与原則として贈与日贈与から翌年1月15日までの認定申請準備期間が短い
一定の相続発生がある場合相続開始日から一定期間を基準にする場合あり贈与者・後継者の死亡が絡む場合は個別確認が必要

とりわけ、年末に贈与を行う場合は注意が必要です。贈与日から翌年1月15日までの短い期間に、株主名簿、登記事項証明書、贈与契約書、従業員数証明書、決算書類、誓約書、戸籍関係書類などを一通り整えなければなりません。書類の取得や修正に手間取れば、そのまま認定申請の期限に追われることになります。

贈与の実行前に確認すべき主要要件

贈与税納税猶予の認定申請は、単に「贈与があったこと」を証明するだけの手続ではありません。会社、後継者、贈与者、対象株式、贈与株数、議決権、資産構成——多くの要件を一つずつ確認していく手続です。

申請マニュアルでは、第一種特例贈与認定中小企業者について、対象会社要件、後継者要件、先代経営者要件などが整理されています。会社についていえば、たとえば、中小企業者であること、上場会社等・風俗営業会社に該当しないこと、資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと、総収入金額が零を超えていること、常時使用従業員数が1人以上であること、といった点が求められます。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

主な確認項目を整理すると、次のとおりです。

区分主な確認事項実務上の注意点
会社要件中小企業者、非上場、風俗営業会社等でないこと、資産管理会社でないこと、従業員数、総収入金額不動産・有価証券・現預金が多い会社は資産保有型会社等の判定が重要
後継者要件贈与時に代表者であること、18歳以上であること、贈与直前に役員であること、議決権要件「いずれ代表になる」では足りず、贈与時点での状態が問われる
贈与者要件代表者であったこと、贈与時に代表者を退任していること、同族内筆頭等の要件先代が代表のまま贈与すると要件不充足となる可能性がある
株式要件議決権制限のない非上場株式等であること、一定数以上の贈与であること種類株式や議決権制限株式がある場合は慎重な確認が必要
継続要件贈与後も株式を継続保有すること、代表者要件等を維持すること贈与後の株式譲渡、代表退任、報告漏れが取消リスクになる

国税庁の資料でも、この制度の対象となる非上場株式等は議決権に制限のないものに限られること、そして贈与税申告期限までに担保提供が必要であることが示されています。

出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

第一種特例贈与と第二種特例贈与を、分けて考える

特例措置では、先代経営者だけでなく、先代経営者以外の株主から後継者への贈与も対象になり得ます。ただし、認定申請の場面では、「第一種特例贈与」と「第二種特例贈与」を分けて考える必要があります。

区分贈与者申請書様式実務上の位置づけ
第一種特例贈与先代経営者様式第7の3基幹的な承継。先代経営者から後継者への贈与
第二種特例贈与先代経営者以外の株主等様式第7の4随伴的な承継。親族・役員・他株主から後継者への贈与

申請手続関係書類のページでも、贈与のケースについて、先代経営者から後継者への贈与は第一種特例経営承継贈与として様式7の3、先代経営者以外の株主等から後継者への贈与は第二種特例経営承継贈与として様式7の4が示されています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定に関する申請手続関係書類

実務上の要点は、先代経営者からの第一種特例贈与が、あくまで土台になるということです。先代経営者以外の株主からの第二種特例贈与は、第一種特例贈与または第一種特例相続があることを前提として整理されます。言い換えれば、第二種特例贈与は、先代経営者からの第一種特例贈与が先行していることが必要になります。

たとえば、父が70%、母が10%、後継者が10%、その他の株主が10%を保有する会社で、まず父から後継者へ贈与し、その後に母から後継者へ贈与する場合を考えてみます。このとき、父からの贈与が第一種、母からの贈与が第二種という整理になります。

ここで重要なのは、誰から贈与を受けるかによって、申請書の様式も、確認事項も、記載内容も変わってくるという点です。株主構成が複雑な会社では、「誰が持っている株式を、どの順番で、どの後継者に移すのか」を、贈与の前に整理しておかなければなりません。

贈与株式数は、税額だけでなく議決権支配に直結する

贈与税納税猶予を使うにあたって、贈与する株式数は非常に大きな意味を持ちます。

というのも、後継者が1人の場合と、2人または3人の場合とでは、必要となる議決権の考え方が変わってくるからです。申請マニュアルでは、後継者が1人の場合、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせて総議決権数の3分の2以上となるときは、贈与後の後継者の議決権数が3分の2以上となるように贈与すること、そうでないときは先代経営者が保有する議決権株式等のすべてを贈与すること、といった整理が示されています。後継者が2人または3人の場合には、各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ一定の議決権関係を満たすことが求められます。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

贈与株式数を判断する際には、次の三つを同時に見ていく必要があります。

判断軸確認すべきこと
税務上の対象株式数納税猶予の対象となる株式数・評価額
議決権支配後継者が代表者として安定的に経営判断できる議決権を持つか
相続・親族関係後継者に株式を集中させた場合、他の相続人との関係に問題がないか

事業承継とは、後継者に経営者の地位を引き継がせるだけのものではありません。会社の支配権を裏付ける株式の移転を、必ず伴います。後継者が代表者になったとしても、議決権を安定的に確保できなければ、肝心の経営に専念しにくくなってしまいます。

したがって、贈与株式数は「税額をどこまで猶予できるか」という一点だけで決めるものではありません。後継者が将来、少数株主や親族株主、役員株主、金融機関に対してきちんと説明できる支配権設計になっているか——その視点からも確認しておく必要があります。

認定申請で必要となる主な添付書類

贈与税納税猶予の認定申請では、相当数の添付書類が求められます。

添付書類マニュアルでは、第一種特例贈与認定中小企業者の認定申請書類として、認定申請書、定款の写し、株主名簿の写し、登記事項証明書、贈与契約書および贈与税額の見込み額を記載した書類、従業員数証明書、贈与認定申請基準年度の決算書類、上場会社等および風俗営業会社に該当しない旨の誓約書、特別子会社・特定特別子会社に関する誓約書、戸籍謄本等、特例承継計画または確認書の写しなどが挙げられています。

出典:中小企業庁|第一種特例贈与認定中小企業者の認定申請書類

主な書類と、実務上の確認事項を整理すると、次のようになります。

書類確認される主な事項実務上の注意点
認定申請書会社、贈与者、後継者、贈与株式、認定区分第一種・第二種の区分を誤らない
定款の写し株式譲渡制限、種類株式、機関設計定款変更が反映されているか確認する
株主名簿贈与前後、認定申請基準日時点の株主・議決権名義株や過去の未処理株式移転に注意する
登記事項証明書代表者、役員就任、会社基本情報後継者の代表就任、先代の代表退任と整合させる
贈与契約書等贈与日、株式数、贈与者・受贈者会社法上の譲渡承認や株主名簿書換とも整合させる
贈与税額見込書類株価、贈与税見込額、納税猶予見込額自社株評価の前提を明確にする
従業員数証明書常時使用従業員数社会保険資料等との整合が必要
決算書類会社要件、資産管理会社判定、総収入金額複数期の資料が必要になる場合がある
誓約書上場会社等・風俗営業会社等に該当しないこと特別子会社・特定特別子会社も確認する
戸籍謄本等親族関係、同族関係者判定同族関係・議決権判定に影響する
特例承継計画又は確認書特例措置の前提未提出の場合は認定申請時までに要整理

納税猶予の認定申請は、特例承継計画の確認申請とは性格が異なります。多岐にわたる要件をすべて満たす必要があり、定款、株主名簿、決算書、誓約書、従業員数証明書など、数多くの書類を取りそろえなければなりません。

贈与契約書だけでなく、会社法手続との整合性も確認する

本記事では贈与契約書の具体的な文案までは扱いませんが、贈与契約書が存在するというだけで安心してしまうのは禁物です。

非公開会社の株式には、定款上、譲渡制限が付されているのが一般的です。贈与による株式移転であっても、会社法上の譲渡承認、株主名簿の書換、株券発行会社かどうかの確認といった点が問題になることがあります。

そして、贈与税納税猶予の認定申請において、株主名簿はきわめて重要な資料です。株主名簿は、贈与者が代表者であった期間の一定時点、贈与の直前、贈与の時、認定申請基準日といった、複数の時点で確認されます。添付書類マニュアルでも、贈与者の同族過半・同族内筆頭、後継者の同族過半・同族内筆頭、贈与後の継続保有などを、株主名簿によって確認することとされています。

出典:中小企業庁|第一種特例贈与認定中小企業者の認定申請書類

株主名簿・名義株・株券の管理が不十分な会社では、贈与税納税猶予を論じる以前の段階で、「そもそも誰が株主なのか」「贈与は有効に行われたのか」「議決権数を正しく判定できるのか」といった点が問題になりかねません。株主管理は、事業承継やM&Aにおいて株式の重要性が高い領域であり、名義株は後継者への株式移転時のリスクにもなります。ここは早めに足元を固めておきたいところです。

都道府県の認定後に、税務署への贈与税申告を行う

都道府県知事の認定を受けたら、次は税務署への贈与税申告です。

この段階では、次の点を確認していきます。

確認項目内容
贈与税申告書納税猶予の適用を受ける旨を記載する
認定書都道府県知事の認定書を添付する
自社株評価贈与株式の評価額を申告に反映する
納税猶予税額猶予対象となる贈与税額を計算する
猶予対象外税額自社株以外の贈与や対象外部分がないか確認する
担保提供猶予税額及び利子税に見合う担保を提供する
相続時精算課税選択の有無、贈与税額・猶予税額への影響を確認する

国税庁は、贈与税の申告期限までに、この制度の適用を受ける旨を記載した贈与税申告書と一定の書類を税務署へ提出するとともに、猶予される贈与税額および利子税の額に見合う担保を提供する必要があるとしています。

出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

担保については、この制度の適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供した場合には、猶予される贈与税額および利子税の額に見合う担保提供があったものとみなされる、という取扱いが示されています。

出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

この段階で何より大切なのは、都道府県への認定申請と税務署への申告が、同じ事実関係に基づいていることです。贈与日、贈与者、受贈者、株式数、議決権数、代表者就任日、株主名簿、評価額、税額見込——これらが一致していなければ、後から説明に窮することになります。

相続時精算課税との関係にも注意する

生前贈与で自社株式を移す場面では、相続時精算課税制度との関係を検討すべきことがあります。

事業承継税制の特例措置では、一般措置に比べて、相続時精算課税の適用対象が広がっています。国税庁のタックスアンサーでは、特例措置における相続時精算課税の適用について、60歳以上の贈与者から18歳以上の者への贈与が示されています。

出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)

ただし、相続時精算課税を使うかどうかを、「贈与税を少なくできるから」という理由だけで決めてしまうのは早計です。贈与税納税猶予は、そもそも猶予の対象となる贈与税額が存在することを前提にしています。相続時精算課税を選択した場合の贈与税額、納税猶予税額、将来の相続税への持戻し、贈与者死亡時の切替え、そして他の相続人への説明可能性——これらを一通り確認しておく必要があります。とりわけ、相続時精算課税の選択によって贈与税額が生じない場合には、贈与税納税猶予の申請が可能なのかどうかを、慎重に見極めるべき場面が出てきます。

認定申請で問題になりやすい実務論点

贈与税納税猶予の認定申請で実際につまずきやすいのは、制度の概要を知らないことではありません。会社の実態と申請書類とが、どこかで食い違ってしまうことです。

特に、次の論点は早めに確認しておくことをおすすめします。

論点問題が生じる典型例事前確認のポイント
後継者の代表就任贈与時点で後継者が代表者になっていない贈与日と代表就任日を整合させる
先代の代表退任贈与時点で先代が代表者のまま退任登記や議事録の時系列を確認する
株主名簿贈与前後の株主・議決権が不明確株主名簿、過去の株式移転、名義株を確認する
贈与株数必要株数を満たしていない後継者1人か複数かで議決権要件を確認する
第二種特例贈与先代以外の株主からの贈与を先行させてしまう第一種特例贈与との順序を整理する
種類株式議決権制限株式が混在している対象株式が議決権制限のない株式か確認する
資産管理会社判定不動産・有価証券・現預金が多い資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないか確認する
贈与税額見込株価評価や税額試算が未了申請前に評価前提と税額見込を作る
担保提供担保提供の準備が遅れる担保対象株式や必要書類を申告前に確認する
申請期限1月15日直前に申請する年内申請を目標に書類を整える

事業承継税制は、ひとつの手続漏れや評価誤りが、そのまま重大な問題へとつながりやすい制度です。税務実務の現場でも、優遇税制の適用漏れ、届出書の提出失念、土地や株式の評価誤り、資料受領の遅れなどが税賠リスクとして整理されており、複数人によるレビューやチェック体制の重要性が指摘されています。

贈与時期は、税額だけで決めない

生前贈与で事業承継税制を使うかどうかは、株価や税額だけで判断すべきものではありません。

贈与を実行すれば、後継者は株式を取得し、経営権を引き受け、代表者としての責任を負うことになります。先代経営者は、原則として代表者を退きます。それと同時に、会社の借入、経営者保証、従業員・取引先・金融機関への説明、そして他の相続人への配慮といった問題が、いっせいに動き出します。

贈与時期を判断する際には、少なくとも次の観点を整理しておきたいところです。

判断軸確認すべきこと
後継者体制後継者が代表者として経営できる状態か
株価現在株価と将来株価の見通しはどうか
議決権後継者に経営権を安定して集中できるか
先代の役割代表退任後の関与、退職金、保証解除をどうするか
親族関係他の相続人への説明、遺留分、代償財産をどう整理するか
資金繰り猶予対象外税額、担保、取消時資金をどう考えるか
将来方針売却、廃業、組織再編の可能性をどう見るか
手続余裕認定申請・申告・担保提供の期限に無理がないか

自社株の承継は、一見すると後継者個人の相続税・贈与税の問題のように見えます。しかし実際には、会社の資金繰りや後継者の経営そのものにも影響を及ぼします。自社株評価額、納税資金、後継者の負担、株主構成——こうした論点を、できるだけ早い段階から検討しておくことが大切です。

認定を受けても、制度の適用はそこで終わらない

贈与税納税猶予の認定を受け、贈与税申告と担保提供を済ませても、それで制度の適用が完結するわけではありません。

認定後は、都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を提出する必要があります。具体的には、税務申告後5年以内は毎年、6年目以後は税務署にのみ3年に一度、継続届出書を提出していく流れになります。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

適用後に管理すべき主な事項は、次のとおりです。

管理事項注意点
後継者の代表者要件原則として認定有効期間中の代表継続が重要
株式保有対象株式の譲渡・贈与・担保変更等に注意
議決権要件同族過半、筆頭株主等の関係を維持する
年次報告都道府県への提出漏れに注意
継続届出税務署への提出漏れは猶予取消リスクになる
雇用要件8割未達時の報告・認定支援機関の所見等を確認
資産構成資産保有型会社・資産運用型会社化に注意
組織再編合併、分割、株式交換等の前に制度影響を確認
贈与者死亡贈与税猶予から相続税猶予への切替えを確認

つまり贈与税納税猶予は、贈与時点の税負担を一時的に軽く見せる制度ではありません。承継後の経営継続を前提とした、長期にわたる管理制度なのです。

専門家に相談する前に、整理しておきたい資料

贈与税納税猶予の認定申請を検討される場合、初回のご相談の段階で次の資料を整えておくと、検討がスムーズに進みます。

資料確認目的
直近3期分程度の決算書・申告書株価、資産構成、収益性、会社要件の確認
株主名簿株主構成、議決権、同族関係、株式分散の確認
定款譲渡制限、種類株式、機関設計の確認
登記事項証明書代表者、役員、資本金、本店所在地の確認
株式移転履歴過去の贈与・売買・名義株の確認
後継者の役員就任状況贈与直前の役員要件、贈与時の代表者要件の確認
借入金・保証資料後継者の経営承継、金融機関説明の確認
役員退職金方針先代退任、株価、会社資金への影響確認
相続関係資料他の相続人、遺留分、代償財産の確認
特例承継計画認定申請との整合性確認
自社株評価資料贈与税額見込、納税猶予見込額、担保の確認

事業承継においては、会社の現状、経営者個人の情報、財務関連情報、契約・許認可、事業関連情報、後継者選定など、幅広い情報を把握しておくことが欠かせません。

まとめ

贈与税納税猶予を受けるための認定申請は、単なる申請書の提出にとどまるものではありません。

生前贈与で法人版事業承継税制を使う場合には、特例承継計画、株式贈与、都道府県知事の認定、税務署への贈与税申告、担保提供、そして適用後の年次報告・継続届出までが、一体となって動いていきます。

特に押さえておきたいのは、次の点です。

贈与の前に、後継者が代表者として経営を担える状態にあるかを確認すること。贈与の時点で、先代経営者が代表者を退任し、後継者が代表者となっているかを確認すること。贈与株式数が、税制の要件だけでなく、議決権支配としても十分かを確認すること。都道府県の認定申請期限と、税務署の贈与税申告期限とを混同しないこと。認定書の交付、贈与税申告、担保提供が3月15日までに間に合うよう、年内申請を目標に準備すること。そして、適用後の年次報告・継続届出・取消リスクまでを見据えておくこと。

事業承継税制は、税額を猶予する制度であると同時に、後継者の経営権、株主構成、会社財務、相続関係、将来の経営判断を固定化していく側面を持っています。だからこそ、「贈与税が猶予されるか」だけにとどまらず、「この贈与で会社を安全に承継できるか」「後から説明できる資料が残るか」「承継後も制度を維持できるか」——こうした観点から検討していく必要があります。

振り返り

項目重要ポイント
制度の性格非課税制度ではなく、一定要件のもと贈与税の納税を猶予・免除する制度
最初の手続先税務署ではなく、まず都道府県知事の認定が必要
特例承継計画特例措置では令和9年9月30日までに提出・確認が必要
贈与期限特例措置の対象となる贈与は令和9年12月31日まで
認定申請期限原則として贈与年の翌年1月15日まで
贈与税申告期限贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで
担保提供猶予税額及び利子税に見合う担保提供が必要
第一種特例贈与先代経営者から後継者への贈与。様式第7の3を使用
第二種特例贈与先代経営者以外の株主から後継者への贈与。様式第7の4を使用
対象株式議決権に制限のない非上場株式等が対象
添付書類定款、株主名簿、登記事項証明書、贈与契約書、税額見込書、従業員数証明書、決算書類等が必要
実務上の難所後継者代表就任、先代代表退任、株主名簿、議決権数、株価評価、担保提供、期限管理
適用後管理年次報告、継続届出、株式保有、代表者要件、取消事由の管理が必要
相談時の視点税額だけでなく、経営権、資金繰り、株主構成、相続関係、将来の売却・再編可能性まで整理する

贈与税納税猶予の認定申請は、贈与契約、会社法手続、自社株評価、都道府県認定、贈与税申告、担保提供が同時並行で動いていく手続です。それだけに、期限の直前で慌てて整えようとすれば、おのずとリスクが高くなります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用可否だけでなく、自社株評価、贈与株式数、株主構成、後継者要件、贈与税申告、担保提供、そして適用後の継続管理に至るまで、後から説明できる形で論点を整理する支援を行っています。

生前贈与で事業承継税制を使うべきかどうか、認定申請に向けてどの資料を整えればよいか、自社の株主構成や後継者体制で要件を満たせるか——こうした点を確認されたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

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