自社株や事業用不動産の相続では、「相続人同士でどう分けるか」という問題が、そのまま会社の経営権に直結します。
一般的な相続であれば、預貯金や不動産、有価証券などをどう配分するかが話し合いの中心になるでしょう。しかしオーナー会社の相続では、事情が少し違います。自社株は、単なる財産ではないからです。
自社株は、後継者が会社を経営していくための議決権そのものです。同時に、金融機関や取引先、役員、従業員に対して「誰が会社を承継するのか」を示す根拠にもなります。
ですから、自社株承継の場面で「公平に分ける」ことだけを優先してしまうと、後継者の経営権はかえって不安定になりかねません。とはいえ、後継者に自社株を集中させればそれで終わり、というわけでもありません。そこには、他の相続人の遺留分、代償金、相続税、納税資金、そして会社財務への影響といった課題が残ります。
この記事では、遺産分割の基本である現物分割・代償分割・換価分割を、自社株承継と事業用資産の承継という観点から整理していきます。
遺産分割は「相続人間の話し合い」であると同時に、後継者の経営権を確定させる手続です
遺言書がない場合、相続人は遺産分割協議によって、誰がどの財産を取得するかを決めることになります。民法上、共同相続人は、一定の場合を除き、協議によって遺産の全部または一部を分割でき、協議が調わないときは家庭裁判所に分割を請求できます。
ここで、自社株が相続財産に含まれている場合、遺産分割協議がまとまらない状態は、後継者にとって大きな実務リスクになります。
株式が未分割のままでは、後継者がどれだけの株式を取得するのかが確定しません。たとえ代表者として経営に関与していても、議決権の裏付けが曖昧なままでは、役員選任、定款変更、自己株式取得、組織再編、重要な資金調達、そして事業承継税制の適用判断にまで支障が及びます。
相続税の申告期限にも、注意が必要です。相続税の申告と納税は、原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。遺産分割が終わっていないことを理由に、この期限が延びるわけではないのです。未分割の場合には、民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って取得したものとして、いったん申告・納税する必要があります。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
このように考えると、自社株承継における遺産分割は、単なる財産配分ではないことがわかります。
後継者が株式を取得したこと、議決権を確保したこと、そして相続税申告や事業承継税制の認定申請に必要な前提が整ったこと——これらを期限内に説明できる状態にするための手続なのです。
自社株承継で検討する3つの分割方法
遺産分割の方法は、実務上、大きく次の3つに整理されます。
ひとつ目は、現物分割です。自社株や不動産などの財産を、そのまま特定の相続人が取得する方法です。
ふたつ目は、代償分割です。後継者など特定の相続人が自社株や事業用不動産を取得し、その代わりに、他の相続人へ代償金などを支払う方法です。
みっつ目は、換価分割です。相続財産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。
一般的な相続であれば、財産の種類や相続人の意向に応じて、この3つから選んでいきます。ただし自社株承継においては、3つを単純に横並びで比較するわけにはいきません。
後継者に経営権を集中させる必要がある場合、基本線は「後継者が自社株を取得する」ことです。そのうえで、他の相続人にどう配慮するか、代償金をどう準備するか、換価すべき財産と換価してはいけない財産をどう切り分けるか——こうした点を検討していくことになります。
現物分割|後継者に自社株を直接取得させる基本形
現物分割は、自社株を後継者がそのまま取得する方法です。
自社株承継においては最も基本的で、経営権という観点からは分かりやすい方法だといえます。後継者が株式を直接取得するため、株主名簿の書換え、議決権の確保、事業承継税制の検討、金融機関への説明を進めやすくなります。
とりわけ、法人版事業承継税制を相続で利用する場合には、後継者が相続または遺贈によって非上場株式等を取得することが制度の前提になります。この制度は、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を、後継者である相続人等が相続または遺贈で取得した場合に、一定の要件のもとで相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等によって猶予税額の納付が免除されるものです。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
ただし、現物分割には大きな課題があります。
自社株の評価額が高い場合、後継者が相続財産の大部分を取得する形になってしまいます。その結果、他の相続人が取得する財産は少なくなり、遺留分侵害額請求や代償金の問題が生じやすくなります。
また、会社が使用している土地や建物を先代経営者個人が所有しているケースもあります。この場合、自社株だけを後継者に取得させても、事業用不動産が他の相続人に渡ってしまえば、会社の事業継続に不安が残ります。工場、店舗、事務所、駐車場、倉庫——会社の事業に不可欠な不動産は、自社株と一体で承継設計を行う必要があります。
現物分割を選ぶ場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
- 後継者が取得する株式数と議決権割合
- 特別決議まで見据えた支配権の安定性
- 自社株評価額と相続税負担
- 他の相続人が取得する財産とのバランス
- 遺留分侵害額請求の可能性
- 会社が使用する土地建物の取得者
- 株主名簿、名義株、株券発行会社かどうか
- 事業承継税制の対象株式との整合性
- 相続登記や担保設定の実務
現物分割は、後継者にとって最も安定しやすい方法です。それでも、他の相続人との調整を抜きにして成立するものではありません。
代償分割|後継者に株式を集中させつつ、他の相続人へ金銭で調整する方法
自社株承継において、実務上もっとも重要になるのが代償分割です。
代償分割とは、共同相続人のうち1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が、他の相続人に対して債務を負担する分割方法をいいます。国税庁も、代償分割を「現物分割が困難な場合に行われる方法」と整理しています。
出典:国税庁|No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
自社株承継では、後継者が自社株や事業用不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う形が典型的です。
この方法のメリットは、後継者に株式を集中させながら、他の相続人にも一定の経済的配慮を行える点にあります。株式を相続人間で分散させずに済むため、承継後の議決権管理も安定しやすくなります。
一方で、代償分割の最大の問題は、後継者の資金負担です。
自社株は、評価額が高くても、換金性の低い財産です。後継者が高額な自社株を取得したからといって、その株式から直ちに現金が生まれるわけではありません。それにもかかわらず他の相続人へ代償金を支払うとなれば、後継者個人の資金繰りは大きく圧迫されます。
代償金の原資としては、次のような選択肢が検討されます。
- 後継者個人の預貯金
- 相続で取得する預貯金
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 役員退職金
- 金融機関からの借入
- 会社からの役員貸付
- 会社による自己株式取得
- 将来の役員報酬や配当による分割払い
ただし、会社資金を使う方法には注意が必要です。
会社から後継者へ貸付を行えば、役員貸付金として会社の財務内容に影響します。返済可能性、利息、金融機関の見方、役員給与との関係を確認しなければなりません。自己株式取得を利用する場合には、会社法上の財源規制、株主総会の手続、みなし配当、譲渡所得、相続人からの取得に関する税務まで検討する必要があります。
「代償金は会社から出せばよい」という発想は、危険です。個人の相続問題を会社資金で処理しようとすると、会社財務、法人税、所得税、相続税、金融機関対応がすべて連動して動き出すからです。
代償分割では、代償金の金額と評価基準を明確にする
代償分割においては、代償金をいくらにするかが重要なポイントになります。
相続税の課税価格の計算では、代償財産を交付した人は、取得した現物財産の価額から交付した代償財産の価額を控除し、代償財産を受けた人は、取得した現物財産の価額に代償財産の価額を加算します。代償財産の価額は、原則として、代償債務の相続開始時における金額となります。
出典:国税庁|No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
実務上は、相続税評価額を基準に代償金を決めるのか、それとも分割時の時価を基準にするのかで、相続人間の納得感も税務上の計算も変わってきます。
自社株の場合は、特に慎重になりたいところです。
非上場株式の相続税評価額は、会社規模、同族株主判定、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式、特定評価会社への該当性などによって、大きく変わります。一方で、相続人それぞれが感じる「会社の価値」は、必ずしも相続税評価額と一致するものではありません。
後継者は「換金できない株式を引き継ぐだけだ」と感じる。他の相続人は「価値の高い会社を後継者だけが取得する」と感じる。この認識の差が、遺産分割協議を難しくしていきます。
そのため、代償分割を行う場合には、遺産分割協議書のうえでも、少なくとも次の点を明確にしておく必要があります。
- 後継者が取得する自社株数
- 自社株評価の前提
- 代償金の金額
- 支払期限
- 分割払いの有無
- 利息の有無
- 支払不能時の対応
- 生命保険金、退職金、他財産との関係
- 遺留分侵害額請求との関係
- 代償分割であることの明示
代償分割であることが明確でないまま相続人間で金銭を移動させると、後日、贈与税や譲渡所得の問題が生じる可能性があります。
また、代償財産として後継者固有の不動産を他の相続人に交付する場合には、その資産を時価で譲渡したものとして所得税が課税される点にも注意が必要です。
出典:国税庁|No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
換価分割|売却代金を分ける方法は、自社株承継では慎重に扱う
換価分割は、相続財産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。
不動産、上場株式、利用予定のない資産などであれば、換価分割は公平性を確保しやすい方法です。相続人が現物を持ち続ける必要がなく、売却代金を割合で分配できるため、遺産分割協議そのものを進めやすくなる場面もあります。
しかし、自社株承継において、換価分割を安易に選ぶべきではありません。
自社株を換価するということは、誰かに株式を売却するということです。売却先が会社であれば自己株式取得、後継者であれば後継者による買取り、第三者であればM&Aや外部株主の参入になります。いずれも、会社法・税務・資金繰り・株主構成に大きな影響を与えます。
特に、後継者が事業承継税制を利用する前提で自社株を取得する場合には、対象株式を相続または遺贈によって取得し、その後も保有を継続することが重要になります。特例措置では、令和9年9月30日までに特例承継計画を都道府県へ提出し、令和9年12月31日までに贈与・相続によって株式を取得する必要があります。また、後継者が相続または遺贈によって取得した、議決権を行使できる株式等に係る相続税の100%が猶予される一方で、認定後は都道府県への年次報告や税務署への継続届出といった管理が求められます。
換価分割は、いわば「自社株を現金化して相続人で分ける」方法です。そのため、後継者に経営権を集中させる承継設計とは相性が悪い場面が、どうしても多くなります。
もちろん、後継者が不在の場合、廃業を予定している場合、第三者承継へ移行する場合、株式分散を整理する場合、会社による自己株式取得を行う場合などには、換価的な整理が必要になることもあります。ただしそれは、通常の遺産分割というより、M&A、自己株式取得、廃業、組織再編、納税資金対策までを含んだ、別の検討領域だとお考えください。
換価分割では、相続税だけでなく譲渡所得も確認する
換価分割で不動産や株式を売却すると、売却に伴う譲渡所得の問題が生じます。
国税庁は、譲渡所得の対象となる資産として、土地、借地権、建物、株式等などを挙げています。資産を売却すれば、相続税とは別に、所得税・住民税の譲渡所得課税を検討しなければなりません。
出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
なお、相続財産を譲渡した場合には、一定期間内の譲渡について、相続税額のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算できる特例もあります。対象となるのは、相続または遺贈によって取得した土地、建物、株式などを、相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡する場合などです。
出典:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
換価分割では、次の点を確認していく必要があります。
- 誰が売主になるのか
- 売却前に誰の名義にするのか
- 売却代金をどの割合で分けるのか
- 譲渡所得を誰が申告するのか
- 取得費が分かるか
- 取得費加算の特例を使えるか
- 売却費用を誰が負担するか
- 売却益が出るのか、売却損が出るのか
- 相続税申告と所得税申告のタイミング
- 換価代金の分配が贈与と誤認されないか
国税庁の質疑応答事例では、換価の便宜上、共同相続人の1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、その代金を調停内容に従って分配する場合について、単に換価のための便宜であり、実際にその内容どおり分配されるのであれば、贈与税の課税は問題にならないとされています。
ただし、これはあくまで「便宜上の名義変更」と「実際の分配内容」が明確であることが前提です。換価分割を行う場合には、遺産分割協議書や調停条項のなかで、換価の目的、名義変更の趣旨、売却代金の分配割合、費用負担、税務申告の方針を、はっきりさせておく必要があります。
事業用不動産の分割は、自社株以上に実務への影響が大きいことがある
自社株承継では、どうしても株式へ注目が集まりがちです。しかし、事業用不動産の分割も、同じくらい重要です。
先代経営者個人が、会社の工場、店舗、事務所、倉庫、駐車場などの土地建物を所有しているケースは少なくありません。この場合、誰がその不動産を相続するかによって、会社の事業継続が左右されます。
後継者が自社株を取得して会社を承継したとしても、事業用不動産を他の相続人が取得してしまえば、賃貸借の条件、賃料、更新、売却、担保設定、相続税評価、小規模宅地等の特例、将来の建替えや移転の判断をめぐって、対立が生じる可能性があります。
事業用不動産については、分割方法ごとに次のような判断が必要になります。
現物分割では、後継者が不動産を取得すれば事業継続は安定しやすくなりますが、その分、他の相続人との財産配分が偏りやすくなります。
代償分割では、後継者が不動産を取得しつつ、他の相続人に代償金を支払うことができます。ただし、後継者の資金負担は増えます。
換価分割では、不動産を売却して代金を分けることになります。しかし、会社が使用している不動産を売却してしまえば、事業継続そのものに影響します。
さらに、不動産については相続登記の申請義務にも注意が必要です。令和6年4月1日から、相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続開始があったことを知り、かつその不動産の所有権取得を知った日から3年以内に、相続登記を申請することが義務付けられました。遺産分割が成立した場合にも、その成立日から3年以内に、分割内容を踏まえた登記申請が必要です。
事業用不動産の承継は、相続税だけの問題ではありません。会社の営業継続、担保、金融機関への説明、相続登記、そして将来の売却可能性まで含めて判断していく必要があります。
遺産分割が遅れると、税務特例と事業承継税制の両方に影響する
遺産分割がまとまらない場合でも、相続税の申告期限は延びません。
未分割の財産がある場合には、法定相続分または包括遺贈の割合に従って相続税を計算し、申告・納税する必要があります。このとき、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などは、未分割財産について当初申告では適用できない点にも注意が必要です。一定の手続を踏むことで、後日分割が成立した場合に更正の請求等を行える場合もありますが、いずれにせよ期限管理が欠かせません。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
自社株承継においては、遺産分割の遅れがさらに深刻になります。
事業承継税制を利用するには、後継者が対象株式を取得し、都道府県知事の認定、相続税申告、担保提供、継続届出といった手続を進めなければなりません。遺産分割がまとまらず、後継者が対象株式を取得したことを明確にできない状態では、認定申請や申告実務に支障が出てしまいます。
また、相続開始から長い時間が経過すると、遺産分割の民法上の取扱いにも影響が出ます。令和3年の民法改正により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を考慮しないルールが導入されました。施行日前に相続が開始した場合にも新法のルールが適用されますが、経過措置として一定の猶予期間が設けられています。
出典:法務省|民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について
事業承継においては、後継者の会社への貢献、先代からの生前贈与、役員報酬、会社への貸付金、事業用不動産の無償利用など、特別受益や寄与分にかかわる事情が複雑になりやすいものです。遺産分割を長期間放置すれば、こうした事実関係の整理そのものが難しくなっていきます。
自社株承継では「誰に何を渡すか」より先に「何を分けてはいけないか」を決める
自社株承継の遺産分割では、最初に「どう公平に分けるか」から考えはじめると、設計を誤ることがあります。
先に確認しておきたいのは、会社を守るために分散させてはいけない財産です。
典型的には、次のものが挙げられます。
- 後継者が支配権を確保するために必要な自社株
- 会社の営業に不可欠な土地建物
- 会社に対する貸付金
- 会社借入の担保となっている不動産
- 事業承継税制の対象となる株式
- 将来の自己株式取得や組織再編に必要な株主構成
- 金融機関への説明上、後継者が保有しておくべき資産
これらを不用意に分散させてしまうと、後継者は会社を承継しても、経営上の自由度を失うことになります。
その一方で、後継者以外の相続人への配慮も欠かせません。現預金、生命保険金、死亡退職金、代償金、非事業用不動産、上場株式などをどう配分するかによって、後継者への自社株集中と、相続人間の納得形成とを両立しやすくなります。
自社株承継では、次の順序で考えていくと整理しやすくなります。
まず、後継者が取得すべき自社株数と議決権割合を決めます。
次に、会社の事業継続に不可欠な不動産・貸付金・担保関係を整理します。
そのうえで、後継者以外の相続人に配分できる財産を確認します。
もし不足があれば、代償金、生命保険、退職金、自己株式取得、借入、分割払いを検討します。
最後に、相続税、譲渡所得、事業承継税制、登記、金融機関対応、遺留分を横断して、全体の整合性を確認します。
この順序を誤ると、「相続人間では公平に見えるけれども、会社経営は不安定になる」という分割案ができあがってしまいます。
遺産分割協議書に残しておきたい実務上のポイント
遺産分割・代償分割・換価分割のいずれにおいても、協議内容を文書として残しておくことが重要です。
特に自社株承継では、後日、相続人、税務署、都道府県、金融機関、会社関係者に対して、「なぜその分割方法を選んだのか」を説明できる状態にしておく必要があります。
遺産分割協議書では、次の点を曖昧にしないようにします。
- 後継者が取得する自社株の会社名、株式数、種類
- 事業用不動産の所在、地番、建物、利用状況
- 会社への貸付金、未収金、未払金の帰属
- 代償分割の場合の代償金額、支払期限、支払方法
- 分割払いの場合の返済条件
- 換価分割の場合の売却対象、売却手続、費用負担、分配割合
- 売却代金が入金される口座、管理方法
- 譲渡所得税の申告負担者
- 事業承継税制の適用を予定している株式の範囲
- 小規模宅地等の特例や取得費加算の検討方針
- 相続登記、株主名簿書換え、代表者変更の実務
- 遺留分侵害額請求への対応方針
「後継者が自社株を取得する」「他の相続人には代償金を支払う」とだけ記載しても、実務上は不十分です。
金額、期限、支払不能時の扱い、税務上の評価、会社財務への影響——ここまで確認しておかなければ、相続後に紛争や税務トラブルが生じる可能性が残ります。
専門家へ相談すべき場面
次のような場合には、遺産分割協議を進める前に、自社株評価、相続税、会社法、事業承継税制、金融機関対応まで含めて、専門家に相談することをおすすめします。
- 相続財産の大半が自社株である
- 後継者に自社株を集中させたい
- 他の相続人への代償金が高額になる
- 自社株評価額が分からない
- 事業用不動産を先代個人が所有している
- 会社への貸付金や担保提供がある
- 事業承継税制を相続で利用したい
- 相続税申告期限までに遺産分割がまとまるか不安である
- 後継者以外の相続人が株式取得を希望している
- 自己株式取得や役員退職金を使いたい
- 将来の売却、廃業、組織再編の可能性がある
- 遺留分侵害額請求の可能性がある
- 名義株、少数株主、所在不明株主の問題がある
特に事業承継税制を使う場合は、遺産分割だけを相続人間で先に決めてしまうと、後から制度要件や申告期限、対象株式の範囲と整合しなくなることがあります。
遺産分割協議は、税務申告の前工程であると同時に、後継者の経営権を確定させる工程でもあるのです。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 遺産分割の役割 | 自社株承継では、相続人間の財産配分だけでなく、後継者の議決権と経営権を確定させる意味を持つ |
| 未分割のリスク | 相続税申告期限は延びず、未分割財産は原則として法定相続分等で申告する必要がある |
| 現物分割 | 後継者が自社株・事業用不動産を直接取得する方法。経営権確保には有効だが、他の相続人との調整が必要 |
| 代償分割 | 後継者に株式を集中させつつ、他の相続人に代償金を支払う方法。資金原資と税務処理が重要 |
| 換価分割 | 財産を売却して代金を分ける方法。自社株に使うと支配権喪失やM&A・自己株式取得の論点が生じる |
| 事業用不動産 | 後継者が株式を取得しても、事業用不動産が分散すると会社運営が不安定になる |
| 事業承継税制 | 後継者の株式取得、認定申請、相続税申告、継続管理と遺産分割内容を整合させる必要がある |
| 譲渡所得 | 換価分割や代償財産としての不動産交付では、相続税とは別に所得税の譲渡所得を検討する |
| 代償資金 | 生命保険、退職金、自己資金、借入、自己株式取得などを検討するが、会社財務への影響に注意する |
| 協議書の記載 | 株式数、代償金、支払条件、換価手続、税務申告方針、登記・株主名簿書換えまで明確にする |
後継者に株式を集中させる遺産分割は、税務・法務・財務を同時に設計する必要があります
自社株承継では、遺産分割の方法によって、後継者の経営権、他の相続人への配慮、相続税、納税資金、会社財務、そして事業承継税制の適用可能性までが変わってきます。
現物分割は、後継者に株式を集中させやすい方法です。その一方で、相続人間の公平性や遺留分への配慮が課題になります。
代償分割は、後継者に経営権を集中させる有力な方法です。ただし、代償金の資金原資と、会社財務への影響を慎重に確認しておく必要があります。
換価分割は、財産を現金化して分けるには分かりやすい方法です。しかし、自社株や事業用不動産に安易に使うと、会社の支配権や事業継続に影響してしまいます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、自社株評価、相続税試算、事業承継税制、遺産分割方針、代償金設計、事業用不動産、会社財務への影響を一体で整理し、後継者が会社を守るための承継判断を支援しています。
後継者に自社株を集中させたいけれども、他の相続人への配慮、代償金、納税資金、事業承継税制との整合に不安がある——そうした場合は、まず現在の株主構成、相続財産、自社株評価、後継者方針を整理するところから、ご相談いただければと思います。お問い合わせページより、現在のご状況とご相談内容をお知らせください。