事業承継税制を検討するとき、議論はどうしても自社株評価や贈与税・相続税、納税猶予、特例承継計画、認定申請といった「税」の話に寄りがちです。
しかし、実際に後継者が会社を引き継ぐ場面では、税金だけでなく「借入」と「保証」の問題が、大きな判断材料として浮かび上がってきます。
後継者が代表者になり、自社株を取得し、事業承継税制によって納税猶予を受ける。そこまで進めても、会社の金融機関借入は残り、先代経営者の個人保証も残ったまま、さらに後継者には新たな保証が求められる、ということが少なくありません。
ここを整理しないまま承継を進めてしまうと、後継者は「株式」と「経営権」だけでなく、会社の借入、個人保証、担保提供、金融機関への説明、そして資金繰りの責任まで、まとめて引き受けることになります。事業承継において、後継者にとっての個人保証は大きな負担となり、承継そのものの支障になりかねない論点です。
事業承継税制は、あくまで贈与税・相続税の納税猶予・免除を中心とする制度です。法人版事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社株式等について、一定の要件のもとで相続税・贈与税の納税を猶予し、後継者の死亡等によって猶予税額の納付が免除される仕組みになっています。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
裏を返せば、事業承継税制を使ったからといって、会社の借入金が消えるわけではありません。先代経営者の保証債務が自動的に解除されるわけでもなく、後継者が金融機関から当然に無保証で融資を受けられるわけでもないのです。
ですから、事業承継税制の適用を判断する際には、税額の損得だけでなく、承継時点での金融機関対応までを含めて設計しておく必要があります。
経営者保証は、事業承継の「見えにくい負担」である
経営者保証とは、会社の借入について、代表者個人が連帯保証人になることをいいます。
中小企業では、会社の信用を補う目的で、金融機関から代表者保証を求められているケースが少なくありません。会社と経営者個人の資金が近い、決算の透明性が十分でない、財務基盤が弱い、担保余力が限られる。こうした事情があると、金融機関は個人保証を求めてくることがあります。
問題が表面化するのは、まさに事業承継の場面です。
先代経営者が代表を退任しても、過去に結んだ保証契約が直ちに消えるとは限りません。後継者が新代表に就任すれば、金融機関から後継者にも保証を求められることがあり、場合によっては、先代と後継者の双方が保証人となる「二重保証」の状態が生じます。
この状態は、関係者それぞれに重い負担を残します。
先代経営者は、経営から退いた後も会社の借入リスクを負い続けることになります。後継者は、これから経営責任を担うだけでなく、自らの個人財産までリスクにさらすことになります。後継者の配偶者や家族にとっても、生活設計に直接かかわってくる問題です。さらに、先代の相続人にとっては、保証債務や担保提供が、相続や遺産分割の不安要素として残ります。
事業承継とは、経営者の肩書きだけを移すものではありません。株式、経営権、借入、保証、担保、そして金融機関との信頼関係まで含めて、まるごと引き継いでいく営みなのです。
事業承継税制と経営者保証は、別の問題として整理する
事業承継税制を使えば、贈与税・相続税の納税猶予を受けられる可能性があります。とりわけ特例措置では、一定の要件のもと、対象株式数や猶予割合の点で、一般措置より大きなメリットが用意されています。
出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
ただ、納税猶予はあくまで「税金の支払時期」に関する制度です。
これに対して、金融機関借入は会社の返済能力と信用にかかわる問題であり、経営者保証は、会社が返済できなくなったときに代表者個人が責任を負うかどうかという問題です。性質がまったく異なります。
そこで、次のように切り分けて考えると整理しやすくなります。
| 論点 | 中心となる判断 |
|---|---|
| 事業承継税制 | 自社株等の承継に伴う贈与税・相続税の納税猶予・免除を受けられるか |
| 納税資金 | 猶予対象外税額や取消時税額に備えられるか |
| 会社借入 | 承継後も返済可能な借入構造か |
| 経営者保証 | 先代保証を解除できるか、後継者保証を求められるか |
| 担保 | 先代個人や親族の不動産担保をどう扱うか |
| 金融機関対応 | 承継後の事業計画・財務安全性を説明できるか |
事業承継税制を使うこと自体に問題があるわけではありません。気をつけたいのは、税制のメリットだけを先に決めてしまい、その後で金融機関対応に行き詰まってしまう、という順序の問題です。
後継者は「会社の借入をどう引き継ぐか」を早めに把握する
後継者がまず確認すべきは、会社の借入の全体像です。
具体的には、次のような点を一つずつ押さえていきます。
- 借入先はどこか
- メインバンクはどこか
- 信用保証協会付き借入か、プロパー融資か
- 日本政策金融公庫、商工中金、制度融資、リース債務はあるか
- 返済期限、金利、返済方法、据置期間はどうなっているか
- 保証人は誰か
- 担保に入っている資産は何か
- 財務制限条項や特約はあるか
- 代表者交代時に金融機関への事前承諾・報告が必要か
- 先代個人の不動産が担保に入っていないか
- 親族の第三者保証が残っていないか
こうして借入金明細を作成すると、金融機関ごとの借入残高、返済額、金利、保証、担保の状況を一覧で把握できます。支援の依頼先や、借換え、返済条件変更を検討するうえでも役立ちます。
この整理は、税務申告のためだけのものではありません。後継者が本当に経営を継続していけるのかを見極めるための、土台となる資料です。
承継時点で資金繰りが厳しい会社であれば、後継者に自社株を移すことよりも先に、返済計画、資金繰り表、金融機関との対話、保証・担保の見直しを優先すべき場面もあります。
先代の保証は自動的には外れない
代表者が交代しても、先代経営者の保証契約は自動的には消えません。保証契約は金融機関と保証人との間の契約であり、解除には金融機関の同意が欠かせないからです。
そのため、先代経営者が退任する場面では、次のような選択肢を検討することになります。
- 先代保証を解除する
- 後継者保証へ切り替える
- 先代保証を一部残す
- 先代・後継者の二重保証を一時的に置く
- 保証を外す代わりに、担保、保証協会、金利、財務制限、情報開示など別の方法で補完する
- 経営者保証不要の制度融資・保証制度への借換えを検討する
ここで避けたいのは、何となく後継者が保証人に加わり、先代保証も残ったまま、という曖昧な状態です。
金融庁の監督指針では、金融機関が保証契約を締結する場合や、既存の保証契約がある場合に、どの部分が十分でないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるのか、その客観的・合理的な理由を説明できる態勢が求められています。M&Aや事業承継など、主たる株主等が変更になる保証契約も、その対象として明記されています。
後継者の側も、単に「保証を外してほしい」と伝えるだけでは十分とはいえません。何を改善すれば保証解除に近づくのかを金融機関と共有しながら、財務改善や情報開示を着実に進めていく姿勢が求められます。
経営者保証ガイドラインと事業承継時の特則
経営者保証については、「経営者保証に関するガイドライン」が定められています。これは、中小企業の経営者保証に関する契約時・履行時等において、中小企業、経営者、金融機関がどう対応するかを示した自主的な準則です。
経営者保証には、資金調達を円滑にする一面がある一方で、思い切った事業展開や早期の事業再生を阻害してしまう一面もあります。全国銀行協会は、この課題への解決策の方向性を取りまとめたものが同ガイドラインであると説明しています。
さらに事業承継の場面については、これに焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則が設けられています。金融庁は、この特則を、既存の経営者保証ガイドラインを補完し、事業承継時の経営者保証の取扱いについて具体的な着眼点や対応手法を定めたものと位置づけています。
出典:金融庁|事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則の公表について
中小企業庁も、経営者保証が事業承継の阻害要因とならないよう、原則として前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない(二重徴求を行わない)ことを盛り込んだ特則が策定された、と説明しています。
出典:中小企業庁|事業承継に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則が公表されました
ただし、ここで一つ注意しておきたい点があります。
ガイドラインや特則は、金融機関に経営者保証を必ず解除させる制度ではありません。会社の財務状況、法人と経営者個人の分離、情報開示、返済能力、事業計画、担保・保全の状況などを踏まえて、総合的に判断されるものだからです。
「ガイドラインがあるのだから保証は当然に外れる」と考えるのではなく、「保証を外せる状態に会社を整えていく」という発想こそが大切になります。
保証解除に向けて会社側が整えるべき視点
経営者保証を外す方向で金融機関と協議していくには、会社の側にも整えておくべき事項があります。中心になるのは、次の三つです。
法人と経営者個人の分離
会社と経営者個人のお金が混ざり合っていると、保証解除の説明はどうしても難しくなります。
- 代表者貸付金が多額に残っている
- 役員借入金や役員貸付金が整理されていない
- 会社資産を個人で利用している
- 個人資産を会社が実質的に利用している
- 役員報酬や退職金の決定根拠が曖昧である
- 個人経費が会社経費に混入している
- 会社と個人の不動産・車両・保険契約の関係が整理されていない
こうした状態では、金融機関から見たときに、会社のリスクと経営者個人のリスクを切り分けにくくなってしまいます。
財務基盤の強化
保証解除は、会社の返済能力と密接に結びついています。
- 営業利益が安定しているか
- キャッシュフローで返済できているか
- 過大な役員報酬や資金流出がないか
- 自己資本が極端に薄くないか
- 債務超過に陥っていないか
- 借入金が利益水準に比べて過大ではないか
- 返済条件変更中ではないか
- 承継後の投資・退職金・納税資金を織り込んでも資金繰りが回るか
事業承継税制によって納税負担を猶予できたとしても、会社の返済能力が弱いままであれば、保証解除はなかなか進みません。
適時・正確な情報開示
金融機関との関係においては、資料の提出と説明が大きな意味を持ちます。
決算書、税務申告書、試算表、資金繰り表、借入金明細、事業計画、承継計画、株主構成、担保一覧、保証人一覧。これらを整理し、定期的に説明できる体制を整えておくことが望まれます。
金融機関は、会社の状況が見えにくいほど、保証や担保に依存しがちになります。逆に、数字と計画を継続的に開示できる会社ほど、保証解除や条件変更の協議は進めやすくなります。
金融機関への説明は、承継の直前に一度だけ行えば足りるものではありません。後継者が経営を担う前から、先代・後継者・専門家が同席し、事業計画、財務改善、保証解除の方向性を共有しておくことが望ましいといえます。
事業承継特別保証制度の位置づけ
経営者保証を不要とする制度として、事業承継特別保証制度があります。
全国信用保証協会連合会は、事業承継特別保証について、経営者保証が不要であり、経営者保証ありの既存借入金も、借換えによって経営者保証を不要にできる保証制度だと説明しています。あわせて、専門家による確認を受けた場合には、保証料率が軽減される仕組みも用意されています。
同制度の対象者としては、3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人、または令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施し、その承継から3年を経過していない法人が挙げられています。さらに、資産超過であること、EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること、法人・個人が分離されていること、返済緩和中の借入金がないことなどが要件として示されています。
この制度は、後継者が個人保証を負わずに資金調達や借換えを進めていくための、有力な選択肢になり得ます。
もっとも、事業承継特別保証は、すべての会社が使える制度ではありません。財務内容、返済状況、法人・個人の分離状況などが問われます。ですから、保証解除を望むのであれば、承継の直前ではなく、数年前から貸借対照表と資金繰りを整えておく必要があります。
経営承継円滑化法の金融支援
経営承継円滑化法は、事業承継税制だけのための法律ではありません。
中小企業庁は、同法による支援として、税制支援の前提となる認定のほか、金融支援、中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫法等の特例、遺留分に関する民法の特例、所在不明株主に関する会社法の特例を挙げています。
このうち金融支援については、事業承継の際に代表者個人が必要とする資金の融資を受けられ、会社および個人事業主には、信用保証協会の通常保証枠とは別枠が用意されるとされています。
円滑化法に基づく金融支援には、中小企業信用保険法の特例と、日本政策金融公庫法・沖縄振興開発金融公庫法の特例があります。いずれも、株式や事業用資産の買取資金、贈与税・相続税の納税資金など、事業承継時に必要となる資金調達を支援することを趣旨とした制度です。
全国信用保証協会連合会も、経営承継関連保証の資金使途として、議決権株式の取得資金、事業用資産の取得資金、事業用資産等に係る相続税・贈与税の納税資金、遺産分割に伴う返済資金、遺留分侵害額請求に基づき支払う金銭などを挙げています。
つまり、事業承継時の資金調達は、「会社の通常運転資金」とは別の、承継特有の資金需要として、制度のうえでもきちんと位置づけられているわけです。
日本政策金融公庫の事業承継関連融資
日本政策金融公庫にも、事業承継に関連する融資制度があります。
日本政策金融公庫は、「事業承継・集約・活性化支援資金」について、事業の譲渡、株式の譲渡、合併などにより、経済的・社会的に有用な事業や企業を承継・集約する中小企業者等の、資金調達の円滑化を支援する制度だと説明しています。対象には、中期的な事業承継を計画し、現経営者と後継者が事業承継計画を策定している者、安定的な経営権の確保等によって事業承継・集約を行う者、経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者等が含まれます。
日本政策金融公庫の融資制度を使う場合も、制度名だけで判断してしまうのは禁物です。返済期間、金利、担保、保証、既存借入との関係、民間金融機関との協調、そして承継後の資金繰りへの影響まで、丁寧に確認しておく必要があります。
事業承継税制の適用、役員退職金、自己株式取得、納税資金、金融機関での借換えを同時に進めようとする場合には、制度融資をどこに組み込むかによって、資金繰りの安定性が大きく変わってきます。
承継時に金融機関へ説明すべきこと
金融機関に対しては、単に「代表者が変わります」と伝えるだけでは足りません。
金融機関が知りたいのは、承継後も会社が返済を続けられるのか、経営体制は安定するのか、保証や担保を外しても信用リスクが過大にならないのか、という点です。
説明すべき内容は、主に次のとおりです。
- 後継者の経歴、役割、代表就任時期
- 先代経営者の退任後の関与
- 株式承継の方法
- 議決権割合と株主構成
- 事業承継税制の利用有無
- 役員退職金や死亡退職金の支給予定
- 自己株式取得の有無
- 納税資金の調達方法
- 承継後の事業計画
- 資金繰り見通し
- 借入返済計画
- 保証人・担保の見直し方針
- 財務改善の取組み
- 後継者以外の相続人との合意状況
ここで大切なのは、税務上の説明と金融上の説明を、別々のものとして扱わないことです。
事業承継税制を使うための計画では、承継後の経営見通しや後継者体制が問われます。金融機関への説明においても、承継後の収益力、資金繰り、経営体制が問われます。問われる中身は重なっているのです。計画書、試算表、株価試算、借入金明細、保証・担保一覧を別々に作るのではなく、一つの「承継判断資料」として整合させておくことが重要になります。
個人担保・親族担保の整理も忘れてはいけない
経営者保証だけでなく、担保の整理も同じくらい重要です。
中小企業では、会社の借入に対して、先代経営者個人の不動産、配偶者名義の不動産、親族共有の土地建物などが担保に入っていることがあります。
この場合、後継者が代表者になっても、担保提供者は先代や親族のまま残ってしまうことがあります。
先代が存命のうちであれば、担保をいつ外すかを協議できます。一方、相続が発生した後であれば、担保不動産を誰が取得するのか、担保負担をどう評価するのか、他の相続人が納得できるのか、といった点が問題になってきます。
承継後に経営へ関与しない親族にとって、自分の不動産が会社借入の担保に残り続けることは、決して小さくない負担です。担保不動産の所有者が変わる場合には、金融機関の承諾、担保の差替え、借換え、根抵当権の整理が必要になることもあります。
会社の事業用不動産、先代個人の不動産、親族の担保提供財産。これらは相続税評価だけでなく、金融機関の保全、遺産分割、後継者の経営の自由度にまで影響していきます。
金融支援は「借りられるか」ではなく「返せるか」で判断する
事業承継時の金融支援は、たしかに有用です。
ただし、融資や保証制度を使えることと、会社が返済できることは、まったく別の話です。
- 後継者が自社株を買い取るために借りる
- 相続税や贈与税を納めるために借りる
- 遺留分対応や代償金支払のために借りる
- 先代保証を外すために借換える
- 経営者保証不要の保証制度に切り替える
- 役員退職金支給後の資金不足を補う
これらは、承継の場面ではいずれも合理的に見えることがあります。しかし、承継後の会社がその返済を負担できるのかを確かめておかなければ、結局は後継者の経営を圧迫することになりかねません。
承継後の資金繰りでは、次のような支出が重なりやすくなります。
- 既存借入の返済
- 承継関連借入の返済
- 役員退職金による資金流出
- 納税資金
- 設備投資
- 後継者の役員報酬
- 金融機関への返済条件維持
- 納税猶予取消時に備える資金
- 相続人間の代償金
- 自己株式取得資金
金融支援を使うかどうかは、「借入枠があるか」だけで判断してはいけません。承継後のキャッシュフローで返せるのか、金融機関に継続的に説明できるのか、会社の財務の安全性を損なわないのか。そこを見据えて判断することが大切です。
後継者が保証を引き受ける前に確認すべき事項
後継者が金融機関から保証を求められたときは、安易に応じてしまう前に、次の点を確認しておくべきです。
- 現在の借入総額はいくらか
- 保証対象はどの借入か
- 保証極度額はあるか
- 根保証になっていないか
- 保証期間はどうなっているか
- 先代保証は解除されるのか
- 二重保証になるのか
- 担保は何が入っているか
- 信用保証協会付きか、プロパーか
- 保証解除の条件は説明されているか
- 保証を不要とする代替手段は検討されたか
- 事業承継特別保証や経営承継借換関連保証は使えないか
- 金融機関から、保証が必要な理由と解除可能性について具体的な説明を受けたか
- 保証契約書、金銭消費貸借契約書、担保設定契約書を確認したか
後継者が保証を引き受けること自体が、常に不適切だというわけではありません。会社の信用力や財務状況によっては、一定の保証が求められることもあります。
ただし、保証を引き受けるのであれば、「なぜ必要なのか」「いつ見直せるのか」「何を改善すれば外せるのか」を、きちんと記録に残しておくべきです。
事業承継税制の適用後も、金融機関対応は続く
事業承継税制は、適用した後の管理こそが重要になります。
納税猶予を受けた後も、代表者要件、株式保有、継続届出、資産管理会社化のリスク、取消事由、組織再編、売却・廃業の可能性などを、継続的に確認していく必要があります。
金融機関対応も、これと同じです。
承継時に一度説明して終わり、ではありません。承継後も、決算説明、資金繰り説明、事業計画の進捗説明、保証・担保の見直し協議、借換え、設備投資資金の相談が続いていきます。
とりわけ、事業承継税制を使った会社では、後継者が株式を保有し続けることが前提になります。将来、会社を売却する、廃業する、組織再編する、代表を退く。こうした判断は、納税猶予と金融機関借入の双方に影響を及ぼします。
承継後の金融機関対応では、次の点が重要になります。
- 毎期の決算説明を行う
- 試算表と資金繰り表を定期的に提示する
- 役員貸付金・役員借入金を整理する
- 先代保証の解除時期を継続的に協議する
- 後継者保証の見直し条件を確認する
- 担保差替えや担保解除の可能性を確認する
- 承継後の設備投資と返済能力を同時に説明する
- 納税猶予の継続要件に影響する経営判断を、事前に確認する
- 金融機関向け説明資料と税務資料の整合性を保つ
専門家に相談する前に整理しておきたい資料
経営者保証・金融支援・借入対応を検討する場合、相談の前に次の資料を整理しておくと、その後の判断がぐっと早くなります。
- 直近3期分の決算書・法人税申告書
- 直近の試算表
- 資金繰り表
- 借入金明細
- 返済予定表
- 金融機関別残高一覧
- 信用保証協会付き借入の一覧
- 日本政策金融公庫・商工中金等の借入資料
- 金銭消費貸借契約書
- 保証契約書
- 担保設定契約書
- 不動産登記簿
- 担保提供者一覧
- 先代・後継者・親族の保証関係
- 株主名簿
- 自社株評価資料
- 事業承継税制の認定資料
- 特例承継計画
- 相続税・贈与税の試算資料
- 役員退職金・死亡退職金の検討資料
- 承継後の事業計画
- 金融機関へ過去に提出した資料
これらの資料がそろうと、税務、財務、会社法、金融機関対応を一体のものとして検討できるようになります。
逆に、借入金明細や保証契約書がないまま事業承継税制だけを検討してしまうと、後になって金融機関対応の場面で、大きな制約が判明することもあります。
まとめ|承継時の金融対応は、後継者を守るための設計である
事業承継税制は、後継者への自社株承継を支える、重要な制度です。
しかし、税負担を猶予できたとしても、会社の借入や経営者保証の問題が残ったままでは、後継者は安心して経営に専念することができません。
経営者保証は、後継者にとっての心理的な負担であると同時に、会社の財務体質、情報開示、法人・個人の分離、金融機関との信頼関係を映し出す鏡でもあります。保証を外せるかどうかは、制度の有無だけで決まるものではなく、会社がこれまでどのような財務管理を重ねてきたか、これからどのような経営計画を示せるかに大きく左右されます。
事業承継の場面では、次の順番で整理していくことが大切です。
- まず、借入金・保証・担保の全体像を把握する
- 次に、先代保証と後継者保証の扱いを金融機関と協議する
- そのうえで、事業承継税制、納税資金、役員退職金、自己株式取得、金融支援制度を一体で設計する
- 最後に、承継後も継続して、決算説明、資金繰り管理、保証見直しを行う
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用可否だけでなく、自社株評価、納税猶予額、借入金、経営者保証、担保、金融機関への説明、承継後の資金繰りまでを含めて、後からきちんと説明できる承継判断の整理を大切にしています。
後継者に保証を引き継がせるべきか、先代保証をどう解除するか、金融機関へどのような資料を提示すべきか、事業承継税制と金融支援をどう組み合わせるべきか。こうした点を整理したいときは、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。税額だけでなく、後継者が経営を続けていける財務基盤を守るという視点から、必要な検討事項を一緒に整理してまいります。
振り返り|この記事で押さえるべき重要事項
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 事業承継税制と借入 | 納税猶予を受けても、会社借入や経営者保証は別途整理が必要 |
| 経営者保証 | 代表者個人が会社借入を保証するもので、後継者の承継判断に大きく影響する |
| 先代保証 | 代表退任だけで自動的に解除されるわけではなく、金融機関との協議が必要 |
| 二重保証 | 先代と後継者の双方が保証人となる状態は、特則上も慎重な取扱いが求められる |
| 保証解除の前提 | 法人・個人の分離、財務基盤の強化、適時・正確な情報開示が重要 |
| 金融機関説明 | 代表交代だけでなく、株式承継、資金繰り、返済計画、保証・担保の見直し方針を説明する |
| 事業承継特別保証 | 一定要件を満たす法人では、経営者保証不要の保証制度や借換えを検討できる |
| 円滑化法の金融支援 | 信用保証協会の別枠保証や公庫融資の特例など、承継特有の資金需要に対応する制度がある |
| 日本政策金融公庫 | 事業承継・集約・活性化支援資金など、承継・集約に関する融資制度がある |
| 担保整理 | 先代や親族の個人不動産が担保に入っている場合、相続・遺産分割・金融機関対応に影響する |
| 後継者の確認事項 | 保証対象、保証極度額、先代保証の解除、担保、代替制度、解除条件を確認する |
| 判断の基本 | 「借りられるか」ではなく、承継後に会社が返せるか、説明できるかで判断する |
| 専門家相談 | 税務、財務、金融機関対応、相続人間調整を一体で整理することが重要 |