災害・盗難・損害があった場合の雑損控除と税務対応|保険金・損害額・災害減免法・証明資料の整理

災害や火災、盗難、横領などによって、住宅や家財、車両、現金、事業用資産、不動産に損害が生じることがあります。こうしたとき、確定申告の場面では、いくつもの判断を迫られます。雑損控除が使えるのか。保険金を受け取ったら課税されるのか。修繕費は経費になるのか。災害減免法とどちらを選べばよいのか。こうした見極めが必要になってきます。

この場面で最初に確認すべきなのは、単に「損害があったかどうか」ではありません。税務上は、少なくとも次の順番で整理していくことになります。

最初に確認することなぜ重要か
何が損害を受けたのか住宅・家財・車両・現金・棚卸資産・事業用固定資産・賃貸不動産などで取扱いが変わる
誰の資産なのか納税者本人の資産か、生計を一にする親族の資産かで雑損控除の対象判定が変わる
損害原因は何か災害、盗難、横領は対象になり得るが、詐欺・恐喝は雑損控除の対象外
生活用資産か事業用資産か生活用資産は雑損控除、事業用資産は事業所得・不動産所得等の計算で整理するのが基本
保険金・損害賠償金・見舞金を受け取ったか損害額から控除するのか、課税収入になるのか、非課税かを判断する必要がある
修繕・取壊し・除去・原状回復の支出があるか災害関連支出・必要経費・資本的支出の区分が問題になる
確定申告で控除しきれるか雑損失の繰越控除、特定非常災害の場合の繰越期間も確認する
証明資料が残っているか罹災証明書、盗難届、写真、見積書、領収書、保険金通知などが説明資料になる

災害や盗難の直後は、何よりもまず生活の立て直しが優先されます。ただ、税務上の救済を受けるためには、後から損害の内容や金額、保険金、支出内容を説明できる資料を残しておくことが欠かせません。

確定申告の時期になってから、「何が壊れたか」「いくらの損害だったか」「保険でいくら補填されたか」を思い出して計算しようとしても、資料が足りずに判断できない、ということが実際に起こります。

この記事では、災害・盗難・損害があった場合に、雑損控除、災害減免法、保険金・損害賠償金、事業用資産や不動産収入への影響、そして申告資料の整理をどう進めていくべきかを、実務判断の順番に沿って解説していきます。

目次

この記事で扱う範囲

ここで扱うのは、個人の確定申告における次の論点です。

扱う内容主な確認事項
雑損控除災害・盗難・横領による生活用資産の損害
災害減免法災害により住宅・家財に大きな損害を受けた場合の所得税軽減免除
損害額の計算時価、合理的な計算方法、災害関連支出、保険金控除
保険金・損害賠償金非課税、所得計算上の補填、必要経費との対応
証明資料罹災証明書、盗難届、修理見積書、領収書、保険金支払通知
事業用資産棚卸資産、事業用固定資産、必要経費、資産損失
不動産収入賃貸物件の修繕、取壊し、保険金、不動産所得への影響
繰越控除控除しきれない雑損失の翌年以後への繰越
申告後対応控除漏れ、更正の請求、保険金額の後日確定

一方で、保険会社への請求手続や災害見舞金制度の申請手続、自治体補助金の個別制度、建物修繕工事の法務・建築判断、損害賠償請求の交渉実務については、この記事では扱いません。

雑損控除は「損害があれば何でも使える控除」ではない

雑損控除は、災害、盗難、横領によって一定の資産に損害を受けた場合に、所得控除として所得金額から一定額を差し引ける制度です。

もっとも、対象となる損害原因と対象資産は、あらかじめ限定されています。制度上、雑損控除は、災害または盗難もしくは横領によって、一定の資産に損害を受けた場合に適用できる所得控除と位置づけられています。

これとは別に、所得金額の合計額が1,000万円以下の人が災害にあった場合には、災害減免法による所得税の軽減免除という制度もあり、納税者の選択によって有利な方法を選べることがあります。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

そこで、雑損控除を検討するときは、次の3つを分けて考えるのが出発点になります。

判断項目確認内容
損害原因災害、盗難、横領に該当するか
対象資産生活に通常必要な資産か
所有者納税者本人または一定の生計一親族の資産か

この3つのいずれかが欠けると、実際に損害が発生していても、雑損控除の対象にならない可能性があります。

雑損控除の対象になる損害原因

雑損控除の対象となる損害原因は、次のものに限られます。

損害原因雑損控除の対象可能性
震災対象になり得る
風水害対象になり得る
雪害・冷害・落雷対象になり得る
火災対象になり得る
火薬類の爆発など対象になり得る
害虫など生物による異常な災害対象になり得る
盗難対象になり得る
横領対象になり得る
詐欺対象外
恐喝対象外

対象となる損害原因は、自然現象の異変による災害、人為による異常な災害、生物による異常な災害、盗難、横領に限られており、詐欺や恐喝の場合には雑損控除を受けられません。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

この点は、実務でもよく誤解されるところです。たとえば、投資詐欺や暗号資産詐欺、振り込め詐欺、架空請求、悪質商法による損害は、被害としては重大であっても、雑損控除の対象になる「盗難」や「横領」と同じようには扱われません。

「お金を失った」という結果だけで判断するのではなく、損害が生じた原因が、税法上の雑損控除の対象原因に該当するかどうかを確認しておく必要があります。

雑損控除の対象になる資産・ならない資産

雑損控除の対象になるのは、生活に通常必要な資産です。

具体的には、自宅や家財、日常生活に使う車両、現金などが問題になります。反対に、棚卸資産や事業用固定資産、生活に通常必要でない資産は、雑損控除の対象から外れます。

資産の種類雑損控除での基本整理
自宅建物対象になり得る
家財対象になり得る
日常生活用の車両対象になり得る
現金盗難等で対象になり得る
事業用の商品・在庫雑損控除ではなく事業所得等で整理
事業用固定資産雑損控除ではなく事業所得等で整理
賃貸用不動産原則として不動産所得等の計算で整理
別荘生活に通常必要でない資産として対象外
ゴルフ会員権生活に通常必要でない資産として対象外
30万円超の貴金属・書画・骨董等生活に通常必要でない資産として対象外

対象資産は、棚卸資産、事業用固定資産等、生活に通常必要でない資産のいずれにも該当しない資産であることが要件です。生活に通常必要でない資産の例としては、別荘、趣味・娯楽・保養・鑑賞目的の不動産、ゴルフ会員権、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨董などが挙げられます。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

ここで押さえておきたいのは、同じ「火災による損害」であっても、資産の性質によって申告上の処理が変わる、という点です。

自宅の家財が燃えた場合は雑損控除を検討します。しかし、事業用の商品が燃えた場合は、事業所得の計算のなかで棚卸資産の損失として整理することになります。賃貸用建物が損壊した場合には、不動産所得の必要経費、資本的支出、資産損失、保険金収入との関係を確認していきます。

生計を一にする親族の資産も対象になる場合がある

雑損控除の対象資産は、納税者本人が所有する資産に限られるわけではありません。納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、一定の所得要件を満たす人が所有する資産も、対象になり得ます。

たとえば、同居している親の家財、学生である子どもの生活用資産、配偶者名義の自宅設備などについて、納税者が申告する雑損控除の対象になるかどうかが問題になることがあります。

ただし、ここでも「誰の資産か」「生計を一にしているか」「その親族の所得金額は要件を満たすか」を確認しなければなりません。令和7年分から適用関係が変わる所得要件もありますので、申告年分ごとに最新の情報を確認しておく必要があります。制度上は、令和7年12月1日に施行され令和7年分から適用される金額として、一定の親族の総所得金額等を58万円以下とする取扱いが示されています。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

名義だけで判断せず、生活の実態、家計の負担、資産の利用状況まで含めて整理しておくことが大切です。

雑損控除の計算方法

雑損控除の金額は、次の2つのうち、いずれか多い方の金額になります。

計算式内容
損害金額 + 災害等関連支出の金額 − 保険金等の額 − 総所得金額等 × 10%
災害関連支出の金額 − 保険金等の額 − 5万円

雑損控除額は、この2つの計算式のうち多い方となります。ここでいう損害金額とは、損害を受ける直前の時価を基にして計算した損害額のことです。また、災害等関連支出には、災害により滅失した住宅・家財などを取り壊し・除去するための支出や、盗難・横領によって損害を受けた資産の原状回復のための支出などが含まれます。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

この計算で混同しないようにしたいのが、次の3つです。

項目意味
損害金額資産そのものに生じた価値の減少額
災害等関連支出取壊し、除去、原状回復など損害に関連して支出した金額
保険金等の額災害・盗難等に関して受け取った保険金、損害賠償金など

たとえば、家屋の一部が損壊した場合、修理費をそのまま損害金額とするわけではありません。損害直前の時価、損壊割合、合理的な計算方法、原状回復費、保険金を、それぞれ分けて整理していく必要があります。

保険金等は損害額から差し引く

災害保険、火災保険、車両保険、損害賠償金などを受け取った場合、その金額は原則として損害額から差し引きます。

保険金等の額とは、災害などに関して受け取った保険金や損害賠償金などの金額を指します。これはまず損害金額から差し引き、保険金等の額が損害金額を超える場合には、災害等関連支出の金額から差し引くという順序になります。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

保険金を受け取ったときにありがちな誤りとしては、次のようなものがあります。

誤り正しい整理
修理費の全額を雑損控除に入れる保険金等で補填された部分を控除する
保険金の入金が翌年だから無視する損害に対応する保険金として整理し、必要に応じて後日調整する
保険金を雑収入として全額課税する生活用資産の損害補填は非課税・損害額控除の整理が必要
保険金通知書を保存していない支払保険金、支払日、対象損害を確認できる資料を保存する

保険金の扱いは、生活用資産か事業用資産かによっても変わってきます。生活用資産の損害補填であれば非課税性が問題になりますが、事業収入や必要経費を補填する性質を持つものは、事業所得等の収入金額になる場合があります。

損害賠償金・見舞金は「何を補填するものか」で変わる

損害賠償金や見舞金を受け取った場合も、「名称」だけで判断してはいけません。税務上は、その支払いが何を補填するものなのかを確認します。

心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料等、不法行為その他突発的な事故によって資産に加えられた損害について受ける損害賠償金等、社会通念上相当な見舞金については、非課税となる場合があります。他方で、棚卸資産の損害に対する損害賠償金や、必要経費に算入される金額を補填する損害賠償金は、非課税ではなく事業所得の収入金額となることがあります。
出典:国税庁|No.1700 加害者から治療費、慰謝料及び損害賠償金などを受け取ったとき

整理のポイントは、次のとおりです。

受取金の性質税務上の見方
身体の損害に対する慰謝料原則として非課税の可能性
生活用資産の損害補填原則として非課税の可能性。ただし雑損控除では損害額から控除
事業用商品の損害補填事業所得の収入金額になる場合がある
休業補償・収益補償収入金額に代わる性質として課税対象になる場合がある
仮店舗賃借料など必要経費の補填事業所得の収入金額になる場合がある
社会通念上相当な見舞金非課税の可能性。ただし収入補償・役務対価性があるものは注意

「保険金」「見舞金」「補償金」「損害賠償金」といった名称だけでなく、契約書、保険金支払通知、示談書、補償明細、支払者との合意内容まで確認しておく必要があります。

災害減免法との比較|雑損控除とどちらを選ぶか

災害で住宅や家財に大きな損害を受けた場合、雑損控除ではなく、災害減免法による所得税の軽減免除を選べることがあります。

災害減免法は、災害によって受けた住宅や家財の損害金額がその時価の2分の1以上であり、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下で、かつ、その災害による損失について雑損控除を受けない場合に適用される制度です。軽減または免除される金額は、所得金額の合計額に応じて、500万円以下であれば所得税額の全額、500万円超750万円以下であれば2分の1、750万円超1,000万円以下であれば4分の1とされています。
出典:国税庁|No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除

両者を比較すると、次のようになります。

項目雑損控除災害減免法
制度の性質所得控除所得税額の軽減・免除
対象原因災害、盗難、横領災害
対象資産生活に通常必要な資産住宅または家財
所得制限制度自体には災害減免法のような1,000万円要件はない所得金額の合計額が1,000万円以下
損害割合要件一律の2分の1要件ではない住宅・家財の損害額が価額の2分の1以上
繰越控除しきれない雑損失は繰越可能税額軽減・免除であり、雑損失の繰越とは異なる
選択災害減免法と重複適用不可雑損控除と重複適用不可

災害により住宅や家財などに損害を受けた場合、確定申告において、所得税法の雑損控除と災害減免法による税金の軽減免除のいずれか有利な方法を選べる場合があります。
出典:国税庁|Ⅲ‐1 所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除

実務では、所得金額、税額、損害額、保険金、災害関連支出、そして翌年以後の所得見込みまで含めて比較していきます。単年で見れば災害減免法が有利に見えても、控除しきれない雑損失を翌年以後に繰り越せる場合には、雑損控除の方が有利になることもあります。

雑損失は翌年以後に繰り越せる場合がある

雑損控除は、その年の所得金額から控除しきれないことがあります。損害が大きく、所得が少ない年には、控除額を使い切れない場合が出てくるためです。

損失額が大きく、その年の所得金額から控除しきれないときは、翌年以後3年間にわたって各年の所得金額から控除できます。さらに、東日本大震災、または令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害によって生じた損失額については、繰越期間が5年間となります。
出典:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)

損失の種類繰越期間
通常の雑損失翌年以後3年間
東日本大震災による一定の損失5年間
令和5年4月1日以後の特定非常災害による一定の損失5年間

特定非常災害による住宅や家財等の損失について、繰越期間が5年間になる点は、災害関連の資料でも示されています。
出典:国税庁|災害により被害を受けられた方へ(所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除)

繰越控除を使う場合には、最初の年だけでなく、翌年以後も申告が必要になります。災害の年だけ対応して終わり、というわけにはいきません。翌年以後の所得、住民税、資金繰りまで見通したうえで整理しておくことが重要です。

災害関連支出は「支払えば何でも対象」ではない

災害関連支出とは、災害に関連して支出した費用のうち、やむを得ないものを指します。代表的なものとしては、損壊した住宅・家財の取壊し、除去、原状回復に関する支出があります。

災害関連支出は、災害により滅失した住宅や家財などの取壊し、除去、原状回復費用など、災害に関連して支出したやむを得ない費用と位置づけられています。
出典:国税庁|Ⅲ‐1 所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除

ただし、次のような支出は、分けて考える必要があります。

支出内容税務上の整理
損壊部分の取壊し費用災害関連支出として検討
瓦礫・廃材の除去費用災害関連支出として検討
被災直前の状態に戻す修理原状回復費として検討
価値を高める改良工事原状回復費ではなく、資本的支出等の検討
生活再建のための家具購入家財の損害額・新規取得の区分を確認
仮住まい費用対象になるか個別確認
事業再開のための設備更新事業所得・不動産所得等で整理

「修理費用を支払ったのだから全額が雑損控除」という考え方は、危うさをはらんでいます。それが原状回復なのか価値増加なのか、生活用資産なのか事業用資産なのか——ここを確認しておく必要があります。

事業用資産・不動産所得の資産は雑損控除ではなく所得計算で整理する

個人事業者や不動産オーナーの場合、災害や盗難による損害は、雑損控除ではなく、事業所得・不動産所得等の所得計算に影響してくることがあります。

損害を受けた資産基本整理
商品・材料・棚卸資産売上原価、棚卸減耗、廃棄損等として整理
事業用備品除却損、修繕費、資本的支出、減価償却を確認
事業用車両資産損失、保険金、修繕費を整理
店舗・事務所修繕費、資本的支出、保険金収入を整理
賃貸建物不動産所得の必要経費、資本的支出、保険金を確認
貸付中の家財・設備不動産所得または事業所得との関連を確認

実務では、災害等で発生した損失や費用を、売上減少額や休業中の人件費とは切り分けて、棚卸資産・固定資産に生じた損失、廃棄損、消毒費用などとして、性質ごとに整理していく必要があります。

これは、感染症対応の場面と同じ考え方です。棚卸資産や固定資産の損失、感染の発生・拡大を防ぐための費用は、売上の減少や休業期間中の人件費とは別のものとして把握しておく。この整理の仕方は、災害損失欠損金を考えるうえでも土台になります。

個人事業者の場合、保険金や損害賠償金についても、「資産そのものの損害補填」なのか、「売上・収益の補填」なのか、「必要経費の補填」なのかによって、扱いが変わります。突発的な事故により資産に加えられた損害について受け取る損害賠償金は、個人であれば原則として非課税とされますが、個人事業者が受け取る収益補償や必要経費補填のための損害賠償金などは、課税対象になります。
出典:国税庁|No.2201 個人事業者が事業所得の必要経費を補てんするための損害賠償金を受け取ったとき

こうしたことから、個人事業や副業、不動産収入がある人は、雑損控除だけで判断せず、所得区分、必要経費、資産損失、保険金収入、さらには消費税への影響まで確認しておく必要があります。

盗難・横領の場合に必要な整理

盗難や横領の場合も、雑損控除の対象になり得ます。ただし、税務上は「本当に盗難・横領に該当するのか」「損害額はいくらか」「回収の可能性はあるか」「警察や関係機関への届出があるか」が確認されます。

確認事項必要な資料の例
被害発生日警察への届出、被害届、盗難届
被害内容盗まれた現金、物品、通帳、カード、車両等の一覧
損害金額購入資料、時価資料、通帳出金記録
回収・返還の有無返還記録、示談書、損害賠償金支払通知
保険金の有無保険金支払通知、保険契約書
被害原因盗難・横領と詐欺・恐喝の区分

とりわけ、現金・預金が絡む盗難・横領では、事実関係の説明が重要になります。家族間の資金移動、従業員による横領、第三者による盗難、投資詐欺、振込詐欺は、それぞれ法的にも税務的にも見方が異なるからです。

「お金が戻ってこない」という結果だけで雑損控除に入れるのではなく、盗難・横領に該当する事実を資料で示せるかどうかを確認しておく必要があります。

罹災証明書・写真・見積書は申告判断の基礎資料になる

災害があった場合、確定申告のためにまず残しておきたいのは、損害の事実と金額を説明する資料です。

資料役割
罹災証明書災害による被害の事実を示す
被災直後の写真損害箇所、損壊状況を示す
修理見積書原状回復に必要な費用を示す
修理請求書・領収書実際に支出した金額を示す
取壊し・除去費用の領収書災害関連支出を示す
保険金支払通知書補填額を示す
保険契約書保険対象資産、補償内容を確認
固定資産税課税明細書建物・土地の情報確認
購入時資料家財・車両等の取得価額確認
車両関係資料車検証、修理見積、廃車証明
盗難届・被害届盗難・横領の事実確認
通帳・カード明細被害額、保険金入金、修繕費支払を確認

災害後は、修理業者、保険会社、自治体、金融機関、税務署など、複数の関係者が登場します。資料をばらばらに保管していると、確定申告の段階で金額の整合性が取れなくなりがちです。

少なくとも、「損害発生日」「対象資産」「損害内容」「支出額」「保険金」「未補填額」を一覧にまとめておくことをおすすめします。

災害直後に作成しておきたい整理表

次のような表を作っておくと、確定申告のときの判断がぐっとしやすくなります。

項目記載内容
発生日令和○年○月○日
損害原因台風、地震、火災、盗難、横領など
資産区分自宅、家財、車両、事業用資産、賃貸建物など
所有者本人、配偶者、親族、事業主など
使用状況生活用、事業用、賃貸用、共用
被害内容屋根損壊、浸水、家具損壊、車両水没など
損害金額時価・合理的計算に基づく損害額
災害関連支出取壊し、除去、原状回復費用
保険金等火災保険、車両保険、損害賠償金、見舞金
自己負担額損害額・支出額から補填額を差し引いた金額
証明資料罹災証明書、写真、見積書、領収書、保険金通知
税務上の処理雑損控除、災害減免法、必要経費、資本的支出など
翌年以後への影響雑損失繰越、修繕計画、保険金後日確定など

この表を作る目的は、控除額を大きく見せることではありません。損害の事実、金額、補填、支出、資産の性質を、後から第三者に説明できる形にしておくことにあります。

生活用と事業用が混在する資産は按分が必要になる

自宅兼事務所、自宅兼賃貸、事業にも私用にも使う車両などでは、生活用の部分と事業用の部分を分けておく必要があります。

資産判断のポイント
自宅兼事務所居住部分と事業使用部分を面積・使用実態で区分
自宅兼賃貸自宅部分と賃貸部分を面積・契約・利用状況で区分
車両生活用、通勤用、事業用の利用割合を確認
PC・備品生活用か事業用か、事業用なら雑損控除ではなく所得計算へ
太陽光設備生活用設備か売電事業用資産かを確認
倉庫家財保管か事業用在庫保管かを確認

このような混在資産では、全額を安易に雑損控除へ入れることも、全額を事業経費にすることもできません。使用実態に応じて合理的に区分し、その区分の根拠を残しておく必要があります。

とくに個人事業者や不動産オーナーは、災害時に自宅と事業、生活と賃貸、家計と事業資金が混ざり合いやすくなります。通帳、保険契約、領収書、修繕契約、固定資産台帳を照らし合わせながら整理していくことが大切です。

災害・盗難があった年に確定申告が必要になる人

普段は年末調整だけで完結している給与所得者であっても、災害・盗難・横領によって雑損控除や災害減免法を適用する場合には、原則として確定申告が必要です。

状況確定申告の必要性
給与所得者が雑損控除を受ける確定申告が必要
災害減免法による軽減免除を受ける確定申告が必要
医療費控除や寄附金控除も併せて受ける確定申告でまとめて整理
副業収入がある他の所得も含めて申告要否を確認
不動産収入がある不動産所得の災害損失・修繕費も確認
事業所得がある事業用資産の損失、保険金、消費税も確認
株式・不動産売却がある申告選択や譲渡所得への影響も確認

給与所得者や公的年金等の受給者が災害による被害を受けた場合には、一定の手続によって、源泉所得税の徴収猶予や還付を受けられることもあります。
出典:国税庁|No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除

還付を受けたい場合はもちろんのこと、翌年以後に雑損失を繰り越す場合にも、申告が重要な意味を持ってきます。

控除漏れに気づいた場合の対応

災害や盗難があった年に、雑損控除や災害減免法を申告していなかった——後になって、そうした控除漏れに気づくことがあります。

この場合は、状況に応じて、還付申告や更正の請求を検討します。すでに確定申告をしているか、それともまだ申告していないか、期限内か期限後かによって、とるべき手続が変わってきます。

状況検討する手続
申告義務がなく、還付を受けるために初めて申告する還付申告
既に申告済みで、控除を入れ忘れた更正の請求
控除額を過大にしていた修正申告
保険金額が後日確定し、控除額が変わる修正申告または更正の請求を検討
翌年以後の繰越をしていなかった期限・過年度申告状況を確認

こうした場面では、早めに資料を集め直すことが大切です。罹災証明書、修理領収書、保険金支払通知、写真、盗難届などが残っていないと、控除額の再計算そのものが難しくなってしまいます。

災害・盗難・損害があった場合に専門家へ相談した方がよい場面

次のような場合は、自己判断で申告するよりも、専門家へ相談した方が安心です。

状況相談した方がよい理由
損害額が大きい雑損控除、災害減免法、繰越控除の比較が必要
保険金・損害賠償金を受け取った非課税、補填控除、収入計上の区分が必要
事業用資産にも損害がある雑損控除ではなく事業所得等で整理する必要
賃貸物件が被災した修繕費、資本的支出、不動産所得、保険金を確認
自宅兼事務所・賃貸併用住宅である生活用・事業用・賃貸用の按分が必要
盗難・横領・詐欺の区分が不明雑損控除の対象原因か慎重な判断が必要
過去の申告で控除漏れがある更正の請求・還付申告の期限確認が必要
翌年以後に雑損失を繰り越したい継続申告と所得見込みの整理が必要
災害後に事業を廃止・縮小した純損失、資産損失、廃業時処理も確認
消費税の課税事業者である修繕費・保険金・固定資産取得の消費税処理が必要

雑損控除は、一見すると単純な所得控除のように見えます。しかし実際には、資産の性質、損害原因、保険金、支出内容、所得区分、繰越控除、住民税、そして事業所得・不動産所得への波及まで、幅広く整理していく必要があるのです。

災害・盗難・損害があった場合の税務対応で不安がある方へ

災害や盗難に遭ったとき、まず必要になるのは、生活や事業の立て直しです。そのうえで税務上は、被害を受けた資産、損害原因、保険金、修繕費、事業用・生活用の区分、そして申告手続を、落ち着いて一つずつ整理していくことになります。

とくに、次のような不安をお持ちの場合は、早めに整理しておくことで、申告時の混乱を防ぐことができます。

  • 自宅と事業用資産の両方が被災した
  • 保険金を受け取ったが、雑損控除の計算にどう入れればよいか分からない
  • 賃貸物件の修繕費を、不動産所得の経費にしてよいか分からない
  • 盗難被害が雑損控除になるのか、詐欺被害として対象外なのか判断できない
  • 過去の申告で控除漏れに気づいた
  • 雑損控除と災害減免法のどちらが有利か比較したい

犬飼公認会計士・税理士事務所では、災害・盗難・損害に関する確定申告について、単に控除額を計算するだけでなく、損害の事実、資産の性質、保険金、支出資料、所得区分、翌年以後への影響までを整理し、後から説明できる申告内容に整えることを大切にしています。

災害・盗難・損害があった年の確定申告に不安がある方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、どうぞお気軽にご相談ください。

振り返り

重要事項確認すべきポイント
雑損控除の対象原因災害、盗難、横領。詐欺・恐喝は対象外
対象資産生活に通常必要な資産が対象
対象外資産棚卸資産、事業用固定資産、別荘、ゴルフ会員権、30万円超の貴金属・書画・骨董等
所有者本人または一定の生計一親族の資産か確認
損害金額損害直前の時価を基に計算
災害等関連支出取壊し、除去、原状回復などの支出
保険金等損害金額・関連支出から控除
雑損控除額2つの計算式のうち多い金額
災害減免法住宅・家財の損害が価額の2分の1以上、所得金額1,000万円以下などを確認
選択適用雑損控除と災害減免法は有利な方を選択
繰越控除控除しきれない雑損失は原則3年、一定の特定非常災害は5年
事業用資産雑損控除ではなく、事業所得等の所得計算で整理
不動産収入修繕費、資本的支出、保険金、不動産所得を確認
損害賠償金非課税か、事業収入か、必要経費補填かを確認
証明資料罹災証明書、写真、見積書、領収書、保険金通知、盗難届等を保存
控除漏れ還付申告、更正の請求、修正申告を状況に応じて検討
専門家相談生活用・事業用・不動産・保険金が混在する場合は早めに整理
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次