個人事業者の確定申告というと、まず頭に浮かぶのは所得税ではないでしょうか。
売上はいくらか、必要経費はどこまで認められるか、青色申告特別控除を使えるか、事業所得なのか雑所得なのか、それとも不動産所得か。こうした論点は、たしかに申告の中心にあります。
ところが、個人事業を営む方や不動産収入のある方が意外と見落としてしまうのが、消費税です。
所得税で問われるのは「利益」です。一方、消費税でまず問われるのは「取引」そのものです。
ここが混同されやすいところで、所得税が赤字だから消費税も関係ない、所得税を申告しているから消費税も整理できている、売上が少ないから消費税は必ず不要──こうした判断はいずれも成り立ちません。
消費税は、所得税の所得区分とはまったく別の仕組みで、事業者が行う課税取引を対象とする税目です。個人事業者は、同じ一人の個人でありながら「事業者としての立場」と「生活者としての立場」を併せ持っています。そのため、どの取引が事業として行われたものなのかを、あらためて整理する必要があるのです。
出典:国税庁|No.6105 課税の対象
この記事では、申告書の具体的な書き方に踏み込む前に、個人事業者がまず押さえておきたい消費税の全体像を整理してみたいと思います。
消費税は「利益にかかる税金」ではない
所得税は、原則として、収入から必要経費などを差し引いた所得に課税されます。個人事業であれば、売上、必要経費、青色申告特別控除などを積み上げ、最終的な所得金額を計算していきます。
これに対して消費税は、事業者が国内で事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供などを、基本的な課税の対象とします。
ですから消費税では、所得税とは少し違う目線が求められます。
「この収入は所得税で何所得になるか」だけではなく、「この取引は消費税の課税対象か」「課税売上か、非課税売上か、それとも不課税取引か」「仕入税額控除の対象になる支出か」「インボイスや帳簿の保存要件を満たしているか」「そもそもその年に消費税の申告義務があるのか」といった確認が必要になるのです。
たとえば、所得税では必要経費になる支出であっても、消費税では仕入税額控除の対象にならないものがあります。給与、租税公課、保険料、住宅家賃、一定の非課税取引などは、所得税上の経費性と消費税上の取扱いを、それぞれ分けて考えなければなりません。
逆に、所得税の計算ではあまり意識していなかった事業用資産の売却が、消費税では課税売上に含まれてくることもあります。
消費税の基本は、売上に係る消費税額から、仕入れや経費等に係る消費税額を差し引いて納付税額を計算する仕組みです。この差し引く仕組みが、いわゆる「仕入税額控除」にあたります。
出典:国税庁|消費税のしくみ
個人事業者は「事業者」と「生活者」の両方の立場を持つ
個人事業者の消費税を考えるうえで、最初に意識しておきたいのは、同じ個人が行う取引であっても、そのすべてが消費税の対象になるわけではない、という点です。
個人事業者が事業として商品を販売する、サービスを提供する、店舗や事務所を貸す、事業用資産を売却する。こうした取引は、消費税の課税対象になる可能性があります。
一方で、家庭で使っていた私物を売る、生活者として所有していた資産を処分する、といった取引は、通常、事業として行う取引とは区別されます。
国税庁も、個人事業者は事業者の立場と消費者の立場を兼ねているため、事業者の立場で行う取引が「事業として」に該当し、消費者の立場で行う家事用資産の売却などは「事業として」に該当しない、という考え方を示しています。
出典:国税庁|消費税のあらまし 2 どんな取引が課税対象?
ここで大切なのは、「自分は個人だから消費税は関係ない」と早合点しないことです。
消費税法上の事業者には、法人だけでなく、事業を行う個人も含まれます。したがって、フリーランス、個人商店、士業、コンサルタント、デザイナー、あるいは医療・美容・教育・IT・不動産賃貸など、個人名義で事業を行っている方であれば、いずれも消費税の判断対象になり得るのです。
消費税の課税対象になる4つの要件
消費税の課税対象となる国内取引は、基本的に次の要件を満たす取引です。
- 国内において行われる取引であること
- 事業者が事業として行う取引であること
- 対価を得て行う取引であること
- 資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供に当たること
このいずれかが欠ける場合は、消費税の課税対象にならない、いわゆる不課税取引となる可能性があります。国税庁も、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供は課税対象となり、国外取引や資産の譲渡等に該当しない取引は課税対象にならない、という整理を示しています。
出典:国税庁|No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例
この4要件は、個人事業者の消費税を考えるうえで、非常に重要な起点になります。
たとえば、補助金、寄附金、損害賠償金、保険金などの入金があった場合、それが所得税上課税されるかどうかとは切り離して、消費税では「対価性」があるかどうかを確認します。
また、国外取引や海外向けサービス、プラットフォームを通じた取引、デジタルサービス、輸出入がある場合には、国内取引か国外取引か、あるいは輸出免税やリバースチャージの検討が必要になることもあります。
この記事では国際取引の詳細までは扱いませんが、オンラインで仕事を受けている個人事業者ほど、「これは日本国内の売上か」「相手先は国内か国外か」「役務提供の場所はどこか」という確認を、軽く見ないことが大切だと感じています。
「課税取引」「非課税取引」「不課税取引」を混同しない
消費税で特に混乱しやすいのが、課税取引、非課税取引、不課税取引の違いです。
課税取引とは、消費税の課税対象となる取引です。標準税率10%、または軽減税率8%の対象になる取引が、ここに含まれます。
非課税取引とは、本来は課税対象となる要件を満たしているものの、消費税の性格や社会政策的な配慮から、課税しないこととされている取引です。代表的なものとしては、土地の譲渡・貸付け、住宅の貸付け、一定の医療、社会保険診療、有価証券の譲渡などが挙げられます。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
不課税取引とは、そもそも消費税の課税対象に入らない取引です。国外取引、給与、寄附金、補助金、損害賠償金のうち対価性のないもの、家庭用資産の売却などが、ここで問題になります。
この違いは、単に「消費税がかからない」というだけの話では終わりません。
非課税取引と不課税取引とでは、課税売上割合の計算における扱いが異なります。国税庁は、非課税取引は原則として課税売上割合の分母に算入される一方、不課税取引は消費税の適用対象ではないため、分母にも分子にも算入しない、と説明しています。
出典:国税庁|No.6209 非課税と不課税の違い
ですから、不動産賃貸、医療、保険、金融取引、補助金、家事用資産の売却などがある場合には、「消費税がかからない」と一括りにするのではなく、どの区分に該当するのかを一つずつ確認していく必要があります。
課税売上は、所得税の「売上」と一致するとは限らない
消費税の納税義務や税額計算では、「課税売上高」が重要な鍵になります。
ここで注意しておきたいのは、課税売上高が、所得税の青色申告決算書や収支内訳書に記載される売上金額と、常に一致するとは限らないという点です。
たとえば、次のようなものは、慎重に整理しておく必要があります。
- 事業として行う商品の販売やサービス提供は、通常、課税売上になります。
- 事業用固定資産の売却も、事業に付随して行われる取引として、課税売上に含まれることがあります。
- 事務所や店舗の賃貸収入、駐車場収入などは、課税売上になる場合があります。
- 一方で、住宅の貸付けは、原則として非課税取引です。
- 土地の譲渡や貸付けも、一定の場合を除き、非課税取引として扱われます。
- 補助金や損害賠償金などは、対価性がなければ、不課税取引になる可能性があります。
このように、所得税では「収入」としてまとめて集計していても、消費税では課税売上、非課税売上、不課税収入へと分解しなければならないのです。
とりわけ不動産収入がある場合は、住宅家賃、事務所家賃、駐車場、土地、設備使用料、共益費などの性質を、契約書と入金の実態から一つずつ確認する必要があります。所得税で不動産所得として一括りに整理していても、消費税では同じ扱いにならないことがあるためです。
免税事業者でも、消費税の確認は必要
消費税には、一定の小規模事業者について、納税義務を免除する制度があります。
個人事業者の場合、原則として、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば、その年の消費税の納税義務が免除される可能性があります。ただし、特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合などには、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、免税にならないことがあります。個人事業者の特定期間は、原則としてその年の前年1月1日から6月30日までの期間です。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除
この判定でポイントになるのは、「売上高が1,000万円以下か」ではなく、「課税売上高がどう計算されるか」です。
たとえば、非課税売上や不課税収入が多い場合には、所得税上の総収入金額と、消費税上の課税売上高とが食い違ってくることがあります。
また、事業用資産の売却、委託販売、軽減税率対象取引、課税売上と非課税売上が混在する取引などがある場合、課税売上高の集計方法を誤ると、課税事業者になるかどうかの判定そのものを間違えてしまうおそれがあります。
さらに、インボイス発行事業者の登録を受けている場合は、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録を受けている課税期間については消費税の申告が必要になります。国税庁の確定申告Q&Aでも、令和7年分の消費税申告が必要な方として、インボイス発行事業者の登録を受けている方、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える方、課税事業者選択届出書を提出している方、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える方などが整理されています。
出典:国税庁|消費税及び地方消費税の申告等
したがって、「免税事業者だから消費税の記帳は不要」と考えるのは、少し危うい発想です。
免税事業者であっても、将来の課税事業者判定、インボイス登録の検討、取引先との価格交渉、設備投資、法人成り、不動産の取得・売却などを見据えるうえでは、課税売上を把握しておくことが欠かせません。
インボイス登録は「消費税を納める立場になる」判断でもある
インボイス制度が始まってから、個人事業者にとって消費税の判断は、いっそう重みを増しました。
免税事業者であっても、取引先との関係を踏まえて、インボイス発行事業者の登録を検討することがあります。ただし、インボイス発行事業者として登録されると、原則として消費税の課税事業者になります。
ここで確認しておきたいのは、「登録した方が売上を維持しやすいか」という点だけではありません。
登録すれば、消費税の申告が必要になります。あわせて、請求書の記載、税率区分、帳簿保存、仕入税額控除、そして納税資金の管理も求められます。
一方で、免税事業者のままでいる場合には、取引先が仕入税額控除を受けにくくなるため、取引条件や価格交渉に影響が及ぶことがあります。
インボイス制度には、免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者向けの負担軽減措置として、いわゆる2割特例が設けられています。国税庁は、この2割特例を、消費税の納付税額を売上税額の2割とすることができる制度として案内しており、適用期間や要件についても公表しています。
出典:国税庁|2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)
また、令和8年度税制改正により、個人事業者について、令和9年分・令和10年分の申告で納付税額を売上税額の3割とすることができる3割特例も公表されています。適用の可否や対象期間は、今後の申告年分ごとに、必ず最新情報を確認していただきたいところです。
出典:国税庁|令和8年度税制改正特集
インボイス登録は、単に登録番号を取得するだけの手続きではありません。消費税を申告し、納税し、請求書・帳簿・証憑を整える立場になる、という一つの判断なのです。
消費税の計算方法は大きく分けて3つの視点で整理する
個人事業者が消費税を申告する場合、税額計算の方法は、まず次の3つの視点で整理できます。
原則課税
原則課税では、課税売上に係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を控除して、納付税額を計算します。
この方法では、売上側の税率区分だけでなく、仕入れ・経費側の取引区分も正しく整理しておく必要があります。特にインボイス制度の下では、仕入税額控除を受けるために、原則として一定の事項を記載した適格請求書等の保存と、帳簿の保存が重要になります。
原則課税は、実態に即した計算ができる反面、取引ごとの消費税区分、インボイスの有無、共通対応仕入れ、非課税売上がある場合の課税売上割合など、確認すべき事項が多くなるのが特徴です。
簡易課税
簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であり、所定の届出をしている事業者について、実際の仕入税額を集計する代わりに、事業区分ごとのみなし仕入率を用いて納付税額を計算する制度です。国税庁は、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合、その課税期間について簡易課税制度は適用できない、としています。
出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度
簡易課税は、経費や仕入れのインボイスを一つひとつ税額計算に反映させる必要がないため、事務負担を抑えやすい制度です。
ただし、必ず有利になるとは限りません。設備投資が多い場合には、原則課税の方が有利になることもあります。逆に、仕入れや経費が少ない事業では、簡易課税の方が納税額を抑えられることもあります。
さらに、簡易課税では届出期限が重要です。消費税の届出は、提出の時期を誤ると、希望する課税期間から適用できないことがあります。消費税においては、届出の有無とそのタイミングが、税額に大きく響いてくるのです。
2割特例・3割特例
インボイス制度に伴う経過措置として、免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者については、一定の要件のもとで、売上税額を基準に簡便に納付税額を計算できる特例があります。
ただし、これらの特例は、適用期間、対象者、過去の課税事業者選択の有無、基準期間の課税売上高などによって、適用できるかどうかが変わってきます。
そのため、「インボイス登録をしたから自動的に2割特例が使える」「売上が少ないから必ず特例を使える」と考えるのではなく、各年分の状況を一つずつ確認していく必要があります。
所得税の経費と消費税の仕入税額控除は同じではない
個人事業者の消費税で、実務上よく起こる誤解があります。所得税の必要経費と、消費税の仕入税額控除とを、同じものと考えてしまうことです。
所得税では、事業に必要な支出であれば、一定の範囲で必要経費になる可能性があります。
しかし消費税では、その支出が課税仕入れに当たるのか、非課税取引か、不課税取引か、そしてインボイスの保存要件を満たしているか、といった点を確認します。
たとえば、従業員給与や専従者給与は、所得税上は必要経費になる場合がありますが、消費税の課税仕入れにはあたりません。租税公課の中にも、消費税の課税仕入れに当たらないものがあります。住宅家賃や土地の賃料など、非課税取引に該当する支出もあります。保険料や借入金利息なども、消費税上の扱いを分けて確認しておく必要があります。
一方で、外注費、業務委託費、広告費、通信費、消耗品費、修繕費、設備購入費などは、取引内容によっては課税仕入れとなる可能性があります。
この違いを整理しないまま、所得税の経費一覧をそのまま消費税申告に流用すると、税額計算を誤ることがあります。
また、原則課税で仕入税額控除を受けるには、請求書・領収書・契約書・帳簿などの保存が重要です。インボイス制度の下では、相手先がインボイス発行事業者かどうか、登録番号があるか、税率ごとの消費税額が記載されているか、といった確認も必要になります。
出典:国税庁|インボイス制度に関するQ&A目次一覧
消費税は納税資金の管理が重要になる
消費税は、所得税以上に、納税資金の管理が重要になることがあります。
個人事業者の場合、売上代金に消費税相当額を含めて受け取っていても、その全額が自由に使える資金とは限りません。課税事業者であれば、売上税額から仕入税額控除等を差し引いた金額を、後日、納付しなければならないからです。
特に、次のような場合には注意が必要です。
- 売上が増えて課税事業者になった場合
- インボイス登録により課税事業者になった場合
- 免税事業者時代の価格設定のまま、消費税申告が必要になった場合
- 入金サイトが長く、仕入れや外注費の支払いが先行する場合
- 非課税売上が多く、仕入税額控除が制限される場合
- 設備投資や不動産取得を行う場合
消費税の申告・納付は、所得税の確定申告とは期限が異なる点にも注意が必要です。個人事業者の消費税及び地方消費税の確定申告・納付期限は、原則として翌年3月31日です。各年分の期限や、振替納税の振替日については、国税庁が公表する最新情報で確認してください。
出典:国税庁|主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日
所得税の納税資金だけを準備していると、消費税の納付時期になって資金が足りなくなる、ということが起こりがちです。
消費税は、利益が出たら払う税金というよりも、課税取引の積み重ねによって発生する税金です。売上は伸びているのに手元に資金が残らない、納付の時期になって慌てる──こうした状況は、事業の資金管理という観点からも、できるだけ避けたいところです。
不動産収入がある個人は、所得税と消費税を分けて見る
不動産収入がある方の場合、消費税の判断は、とりわけ慎重に行う必要があります。
所得税では、不動産の貸付けによる収入は、不動産所得として整理されることが多いでしょう。
しかし消費税では、同じ不動産収入であっても、住宅の貸付けか、事務所・店舗の貸付けか、駐車場か、土地の貸付けか、あるいは設備利用料を含むかによって、扱いが変わってきます。
住宅の貸付けは、原則として非課税取引です。一方、事務所や店舗の賃貸、駐車場の貸付けなどは、課税取引となる場合があります。
また、共有不動産、相続直後の賃料収入、管理会社を通じた収入、サブリース、民泊、レンタル収納、太陽光発電設備などが絡んでくると、所得税の所得区分と消費税の取引区分とを、それぞれ別々に整理していく必要があります。
不動産収入がある方は、所得税の不動産所得の計算だけでなく、物件ごとの用途、契約内容、借主、請求書、入金明細、課税・非課税の区分までを、あわせて確認しておくことが重要です。
消費税でよくある判断ミス
個人事業者の消費税では、次のようなミスが起こりやすいものです。
- 所得税の売上金額だけを見て、課税売上高を判定してしまう
- 住宅家賃、事務所家賃、駐車場収入を区分せずに集計している
- 補助金や保険金などの入金を、課税売上かどうか確認していない
- 事業用資産の売却を、課税売上から漏らしてしまう
- インボイス登録をした後も、免税事業者の感覚のまま消費税申告を準備していない
- 原則課税と簡易課税、2割特例の違いを理解しないまま申告している
- 簡易課税制度選択届出書や課税事業者選択届出書の期限を確認していない
- 所得税の経費を、そのまま消費税の課税仕入れとして扱っている
- インボイスや帳簿の保存要件を確認していない
- 消費税の納税資金を、売上入金の時点で分けて管理していない
これらは、単なる入力ミスではありません。
その多くは、所得税と消費税の判断構造を混同してしまうところから生じています。
消費税では、取引内容、契約、請求書、入金、支出、相手先、用途、保存資料を確認しなければ、正確な判断はできません。
消費税を整理するために、まず確認すべき事項
個人事業者が消費税の全体像を把握するためには、少なくとも次の事項を整理しておく必要があります。
1. 過去の課税売上高
基準期間の課税売上高、特定期間の課税売上高、給与等支払額を確認します。単に総収入を見るのではなく、課税売上、非課税売上、不課税収入を分けて捉えることが大切です。
2. インボイス登録の有無
登録済みか、登録予定か、あるいは登録取消しを検討しているかを確認します。登録している場合は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、消費税申告が必要になる可能性があります。
3. 売上の税率区分
標準税率10%、軽減税率8%、非課税、不課税、免税取引を分けて整理します。飲食料品、新聞、輸出取引、不動産賃貸、医療、補助金などがある場合は、特に注意が必要です。
4. 仕入れ・経費の消費税区分
所得税上の経費を、消費税上の課税仕入れ、非課税仕入れ、不課税支出に分けます。給与、保険料、税金、借入金利子、地代家賃、外注費、設備投資などは、取引内容ごとに確認します。
5. 請求書・領収書・帳簿の保存状況
原則課税では、仕入税額控除の根拠資料が重要になります。インボイス制度の下では、相手方の登録番号、税率ごとの消費税額、取引内容、そして保存資料の整合性も確認します。
6. 税額計算方法の選択
原則課税、簡易課税、2割特例・3割特例の適用可否を確認します。ただし、有利か不利かだけでなく、届出期限、継続適用、設備投資、非課税売上、事務負担、将来の事業計画までを含めて判断します。
7. 納税資金
消費税の納付予定額を、所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料とは別に管理します。売上が増えた年、インボイス登録をした年、設備投資をした年、不動産収入が変化した年は、特に早めの試算が欠かせません。
消費税は、所得税申告の「付属作業」ではない
個人事業者の消費税は、所得税の確定申告のついでに少し確認すれば済む、というものではありません。
所得税では、所得区分と所得金額を整理します。消費税では、取引の課税関係と納税義務を整理します。
所得税では、必要経費になるかどうかを確認します。消費税では、仕入税額控除の対象になるかどうかを確認します。
所得税では、青色申告決算書を作成します。消費税では、課税売上、非課税売上、課税仕入れ、インボイス、課税売上割合、届出、特例を確認します。
両者は重なる部分もありますが、判断の軸そのものが異なるのです。
特に、事業を拡大している方、不動産収入がある方、インボイス登録をしている方、設備投資を予定している方、課税売上と非課税売上が混在している方は、消費税を単なる申告作業として扱わない方がよいでしょう。
消費税の整理は、将来の納税資金、取引価格、資料保存、税務調査への対応、法人成り、不動産活用の判断にまでつながっていくものだからです。
相談前に整理しておきたい資料
消費税について専門家に相談する際は、次の資料を整理しておくと、判断がぐっと具体的になります。
- 過去2年分以上の所得税確定申告書、青色申告決算書または収支内訳書
- 売上先ごとの売上明細、請求書、入金明細
- 不動産収入がある場合は、物件別の契約書、家賃明細、用途、借主情報
- インボイス登録通知書、登録申請状況、登録番号
- 主要な仕入先・外注先の請求書、領収書、契約書
- 会計ソフトの消費税区分、税率区分の設定状況
- 設備投資、不動産取得、車両購入、固定資産売却の資料
- 補助金、保険金、損害賠償金、助成金などの入金資料
- 簡易課税制度選択届出書、課税事業者選択届出書など、過去に提出した消費税関係の届出書
消費税の相談では、「消費税がいくらになるか」だけでなく、「そもそも何を課税売上として集計すべきか」「どの計算方法を選べるか」「どの資料が不足しているか」を確認していくことが重要です。
消費税の不安を、申告期限直前に持ち越さない
個人事業者の消費税は、申告期限の直前になって初めて手をつけると、どうしても判断が難しくなります。
インボイス登録をするかどうか。簡易課税を選択するかどうか。設備投資をいつ行うか。不動産収入をどう区分するか。売上に消費税をどう転嫁するか。納税資金をどのように確保するか。
これらはいずれも、申告書を作る段階ではなく、事業を進める段階で検討しておきたい論点です。
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こうした不安をお持ちの場合は、申告期限の直前ではなく、早めに取引内容と資料を整理しておくことをおすすめします。
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この記事の振り返り
| 項目 | 重要な整理 |
|---|---|
| 消費税の基本 | 所得税のように利益だけを見る税金ではなく、事業者が行う課税取引を対象にする |
| 個人事業者の特徴 | 同じ個人でも、事業者としての取引と生活者としての取引を分けて考える |
| 課税対象の判断 | 国内、事業者、事業として、対価を得て、資産の譲渡・貸付け・役務提供に当たるかを確認する |
| 取引区分 | 課税取引、非課税取引、不課税取引を混同しない |
| 課税売上高 | 所得税の売上金額と一致するとは限らず、納税義務判定の基礎になる |
| 納税義務 | 基準期間、特定期間、インボイス登録、課税事業者選択届出を確認する |
| 計算方法 | 原則課税、簡易課税、2割特例・3割特例の適用可否を整理する |
| 仕入税額控除 | 所得税の必要経費と同じではなく、課税仕入れ、インボイス、帳簿保存を確認する |
| 不動産収入 | 住宅、事務所、駐車場、土地、設備利用料などを用途・契約ごとに分ける |
| 納税資金 | 消費税は申告後に資金負担が出やすいため、売上入金時から管理する |
| 相談前整理 | 過年度申告書、売上明細、契約書、インボイス登録状況、届出書、主要経費資料を準備する |
主な出典・参照情報
- 出典:国税庁|消費税のしくみ
- 出典:国税庁|No.6105 課税の対象
- 出典:国税庁|No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例
- 出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
- 出典:国税庁|No.6209 非課税と不課税の違い
- 出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除
- 出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度
- 出典:国税庁|消費税及び地方消費税の申告等
- 出典:国税庁|インボイス制度特設サイト
- 出典:国税庁|令和8年度税制改正特集