不動産所得の赤字と損益通算制限|給与所得と相殺できる赤字・できない赤字の判断軸

不動産所得が赤字になったとき、「給与所得と相殺できるのか」「所得税が還付されるのか」「不動産投資の節税効果として考えてよいのか」と気にされる方は少なくありません。

たしかに、不動産所得は損益通算の対象となる所得の一つです。国税庁も、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得を、一定の損失が生じた場合に損益通算の対象となる所得として整理しています。出典:国税庁|No.2250 損益通算

ただ、不動産所得の赤字であれば常に給与所得や事業所得と相殺できる、というわけではありません。

特に注意したいのが、赤字の中に「土地等を取得するために要した借入金利子」が含まれているケースです。この場合、その利子に相当する部分は損益通算の対象から外されます。ほかにも、別荘等のような生活に通常必要でない資産の貸付け、一定の組合・信託を通じた不動産所得、国外中古建物に係る一定の減価償却費由来の損失についても、制限が設けられています。

不動産所得の赤字は、「家賃収入より経費が多い」という表面的な数字だけで判断できるものではありません。赤字の原因は何か、その赤字は税務上きちんと説明できるものか、損益通算できない部分が含まれていないか、そして翌年以降の資金繰りや税務調査に耐えられる資料が整っているか。こうした点を一つずつ確認していく必要があります。

目次

不動産所得の赤字は、まず所得区分と計算構造から確認する

不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸付け、借地権など不動産の上に存する権利の設定・貸付け、船舶や航空機の貸付けによる所得をいいます。ただし、事業所得または譲渡所得に該当するものは、不動産所得から除かれます。出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

不動産所得の金額は、次の式で計算します。

不動産所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費

総収入金額に含まれるのは、賃貸料収入だけではありません。名義書換料、承諾料、更新料、頭金、返還を要しない敷金・保証金、さらには共益費名目で受け取る電気代・水道代・掃除代なども対象となります。

一方の必要経費は、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものが含まれます。代表的なものとしては、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが挙げられます。出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

ここで押さえておきたいのは、不動産所得の赤字は「現金収支の赤字」とは一致しない、という点です。

借入金の元本返済は、通常、不動産所得の必要経費にはなりません。逆に、減価償却費は、その年に実際の現金が出ていかなくても必要経費として計上されることがあります。そのため、不動産所得は赤字でも手元資金は残っている場合もあれば、所得は黒字なのに借入返済や修繕資金で現金が足りなくなる場合もあるのです。

不動産オーナーの実務では、家賃収入があるように見えても、固定資産税、修繕費、借入返済、空室、管理費などで資金繰りに追われることが珍しくありません。不動産活用は「収入があるか」だけでなく、税金・借入返済・空室・修繕・承継まで含めて見ていく必要があります。

不動産所得の赤字は、原則として損益通算の対象になり得る

不動産所得の金額を計算した結果、損失、つまり赤字が生じた場合、その赤字は原則として他の黒字の所得金額から差し引くことができます。これが損益通算です。

国税庁も、不動産所得の損失があるときは他の黒字の所得金額から差し引くことができるとしています。ただし、その損失のうち一定の部分は、損益通算の対象になりません。出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

たとえば、給与所得者が賃貸用不動産を保有していて、不動産所得が赤字になったとします。この場合、赤字のうち損益通算が認められる部分については、給与所得など他の所得と通算できる可能性があります。

ただし、ここで「不動産所得が赤字なら給与と相殺できる」と単純化してはいけません。実務上は、少なくとも次の順番で確認していきます。

  1. その収入が本当に不動産所得に該当するか
  2. 収入計上に漏れや時期の誤りがないか
  3. 必要経費に家事費や資産計上すべき支出が混入していないか
  4. 減価償却費の計算が適切か
  5. 借入金利子のうち、土地等の取得に係る部分が含まれていないか
  6. 別荘等、組合・信託、国外中古建物などの制限対象に該当しないか
  7. 青色申告決算書または収支内訳書の記載が整合しているか

損益通算は、赤字を税額に反映させる制度です。だからこそ、赤字の中身をきちんと説明できることが前提になります。

最大の注意点は「土地等を取得するために要した借入金利子」

不動産所得の赤字をめぐって最も誤解されやすいのが、土地等を取得するために要した借入金利子です。

不動産所得の損失のうち、必要経費に算入した「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する部分は、損益通算の対象になりません。国税庁のタックスアンサーでも、この部分は不動産所得の赤字であっても他の所得との通算対象から除かれるとされています。出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

ここでいう「土地等」には、土地そのものだけでなく、土地の上に存する権利も含まれます。建物の取得に係る借入金利子とは扱いが異なりますので、土地と建物を一括で取得している場合には、借入金が土地部分と建物部分にどう対応しているのかを整理しておく必要があります。

国税庁の法令解釈通達では、建物と土地等をともに取得した場合の土地等に係る負債利子の計算方法が示されています。建物および土地等を取得するために要した負債利子に、これらの資産を取得するために要した負債のうち土地等の取得対価に充てられたものとされる負債の割合を乗じて計算する、という考え方です。出典:国税庁|第41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)関係

実務的には、次のように順を追って考えます。

不動産所得の赤字がある
→ その赤字の中に借入金利子が含まれている
→ 借入金利子のうち土地等の取得に対応する部分を区分する
→ その土地等対応部分は、給与所得など他の所得との損益通算から除外する
→ それを超える赤字部分があって、初めて損益通算の対象になり得る

つまり、同じ「不動産所得の赤字」であっても、その原因が建物の減価償却費なのか、修繕費なのか、固定資産税なのか、あるいは土地借入金利子なのかによって、給与所得等と相殺できる金額は変わってくるのです。

青色申告決算書でも、土地等借入金利子の記載が求められる

土地等を取得するために要した負債の利子は、単なる理論上の論点にとどまりません。申告書類の上でも、明示的に確認される項目です。

令和7年分の青色申告決算書(不動産所得用)の書き方では、不動産所得が赤字で、必要経費に算入した金額の中に土地等を取得するために要した負債の利子がある場合、その負債の利子の額を記入することとされています。さらに、赤字額と土地等に係る負債利子の額の関係によって、申告書第一表の不動産所得欄の記入方法も変わってきます。出典:国税庁|令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方

この記載欄は、不動産所得の赤字に土地等に係る借入金利子が含まれていないかを確認するための、重要なポイントになります。

にもかかわらず、実務では次のような処理が見受けられます。

  • 借入金利子をすべて必要経費に入れたまま、損益通算の調整をしていない
  • 土地と建物の取得価額を区分していない
  • 借入金の使途が取得資金、諸費用、修繕資金、運転資金で混在している
  • 借入金返済予定表はあるが、元本と利息の区分を確認していない
  • 土地部分に対応する借入金利子を把握していない
  • 青色申告決算書の該当欄を空欄にしている

これらはいずれも、税務調査や申告内容の確認で問題になりやすい部分です。とりわけ、不動産所得の赤字を給与所得と通算して還付を受ける場合には、赤字の内訳を説明できる状態にしておくことが欠かせません。

借入金利子は「必要経費になるか」と「損益通算できるか」を分けて考える

土地等に係る借入金利子について誤解しやすいのは、これが「必要経費にならない」という話ではない、という点です。

業務の用に使用する資産の取得のための借入金利子は、その業務に係る各種所得の計算上、必要経費になるのが基本です。ただし、資産の使用開始日までの期間に対応する部分については、その資産の取得費に含める取扱いがあります。出典:国税庁|No.3264 借入金の利子が取得費になるとき

つまり、借入金利子については、次の二段階で判断することになります。

第一に、不動産所得の必要経費になるか。
第二に、必要経費に算入した結果として生じた赤字を、他の所得と損益通算できるか。

土地等の取得に係る借入金利子は、不動産所得の必要経費に算入される場合があります。しかし、その金額が不動産所得の赤字を構成しているときは、その土地等借入金利子に相当する部分が損益通算から除外されるのです。

必要経費性と損益通算の可否を混同すると、「経費に入れたのだから給与所得と相殺できるはず」と考えてしまいがちです。ここは、不動産所得の赤字を判断するうえで最も重要な分岐点だといえます。

減価償却費による赤字は、別途計算の正確性が問われる

不動産所得の赤字の大きな要因になりやすいのが、建物の減価償却費です。

土地は減価償却できませんが、建物や建物附属設備などは、取得価額、耐用年数、償却方法に基づいて減価償却費を計算します。減価償却費は実際の現金支出を伴わないため、不動産所得を赤字にしやすい項目でもあります。

ただし、減価償却費は自由に大きく計上できるものではありません。

確認すべき事項は、少なくとも次のとおりです。

  • 土地と建物の取得価額を合理的に区分しているか
  • 建物、建物附属設備、構築物などに区分しているか
  • 取得時の仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、固定資産税清算金などの処理が適切か
  • 耐用年数の選定が適切か
  • 中古資産について耐用年数の計算根拠があるか
  • 資本的支出と修繕費を区分しているか
  • 賃貸開始前の支出を必要経費にしていないか
  • 固定資産台帳で取得価額、償却累計額、期末帳簿価額を管理しているか

帳簿書類を整理する際には、現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳、借入帳、固定資産台帳、損益計算書、貸借対照表、契約書、領収書などを、体系的に把握しておく必要があります。クラウド会計や電子帳簿保存法への対応を進めている場合でも、固定資産台帳や借入金台帳まで含めて帳簿書類を洗い出す視点が大切です。

不動産所得の赤字を損益通算するとき、減価償却費が正しいかどうかは税額に直接影響します。取得価額の配分や耐用年数を安易に設定してしまうと、赤字の根拠そのものが崩れかねません。

国外中古建物の損失には、減価償却費由来の通算制限がある

国外不動産、とりわけ国外中古建物を活用した不動産所得の赤字については、別途の注意が必要です。

令和3年以後、国外中古建物の不動産所得について、その年分の計算上損失が生じた場合、耐用年数を簡便法等により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の損失は、生じなかったものとみなされます。そのため、国内不動産との所得内通算も、不動産所得以外の所得との損益通算もできません。出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

この制度は、国外中古建物について短い耐用年数を用いた多額の減価償却費を計上し、不動産所得の損失を給与所得や事業所得と通算することで税負担を軽減する、という手法を制限するものとして整理されています。

国外不動産の場合は、さらに次のような論点も重なってきます。

  • 日本の居住者として全世界所得課税の対象になるか
  • 現地での課税と日本での申告の関係
  • 外貨建て収入・経費の換算
  • 外国税額控除
  • 国外財産調書
  • 将来売却時の取得費計算
  • 相続・贈与との接点

国内不動産と同じ感覚で「赤字を給与と通算できる」と考えるのは危険です。国外不動産は、投資利回りだけでなく、所得税、外国税、為替、資料保存、売却時課税まで含めて判断していく必要があります。

別荘等のような生活に通常必要でない資産の貸付けは通算制限がある

不動産所得の赤字であっても、生活に通常必要でない資産に係る損失については、損益通算できない場合があります。

国税庁は、生活に通常必要でない資産として、主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産などを挙げています。そのうえで、不動産所得の損失のうち、別荘等の生活に通常必要でない資産の貸付けに係るものは、他の各種所得の金額から控除できないとしています。出典:国税庁|No.2250 損益通算

ここでは、「貸しているから不動産所得」と形式的に見るのではなく、その不動産の保有目的、利用実態、貸付実態、収益性、利用頻度などを一つずつ確認していくことになります。

たとえば、保養目的で所有している不動産を一時的に貸しているだけなのか、それとも継続的な賃貸事業として管理・運用しているのか。この違いによって、判断の前提そのものが変わってきます。

読者にとって都合のよい結論を急ぐのではなく、保有目的と貸付実態を資料で説明できるかどうかが重要です。

特定組合員・信託の不動産所得にも通算制限がある

不動産所得が組合や信託を通じて生じる場合にも、損益通算には制限があります。

国税庁は、不動産所得を生ずべき事業を行う民法組合等の特定組合員、または信託の受益者である個人について、組合事業または信託から生じた不動産所得の損失は生じなかったものとみなされるとしています。したがって、他の不動産所得の黒字から差し引くことも、損益通算の対象にすることもできません。出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

この制限は、いわゆる不動産投資スキームや、匿名性の高い投資、組合・信託を利用した投資に関係してくることがあります。

確認しておきたいのは、次のような点です。

  • 不動産を直接所有しているのか、組合・信託を通じているのか
  • 重要な業務執行の決定に関与しているか
  • 契約締結の交渉等を自ら執行しているか
  • 組合事業ごと、信託ごとの明細書が整っているか
  • 所得内通算も制限される対象か
  • 不動産投資商品の説明資料だけに依拠していないか

不動産所得の赤字を活用できるかどうかは、投資商品の名称ではなく、法的な保有形態と税務上の位置づけによって判断します。

事業的規模かどうかは、損失処理や青色申告にも影響する

不動産所得は、不動産貸付けが事業として行われているかどうかによって、所得計算上の扱いが変わります。

国税庁は、不動産貸付けが事業として行われているかどうかについて、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断するとしています。建物の貸付けについては、貸間・アパート等で独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けでおおむね5棟以上であれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

事業的規模かどうかは、損益通算そのものの可否だけでなく、次のような論点にも影響します。

  • 賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失をどこまで必要経費にできるか
  • 賃貸料等の貸倒損失をどの年の必要経費にするか
  • 青色事業専従者給与や白色申告の事業専従者控除を使えるか
  • 青色申告特別控除の控除額がどうなるか

国税庁は、賃貸用固定資産の取壊し・除却などの資産損失について、不動産貸付けが事業として行われている場合は全額を必要経費に算入する一方、それ以外の場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入するとしています。青色申告特別控除についても、事業的規模の場合は一定要件のもと最高55万円、電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告により65万円、それ以外の場合は最高10万円と整理されています。出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

令和7年分の青色申告決算書(不動産所得用)の書き方でも、事業的規模でない不動産貸付けによる不動産所得については、他に事業所得がある場合を除き、55万円または65万円の青色申告特別控除は適用されないとされています。出典:国税庁|令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方

不動産所得の赤字を判断するときは、「赤字が通算できるか」だけでなく、「その貸付けが事業的規模か」「青色申告の特典をどこまで使えるか」まで確認しておくべきです。

不動産所得の赤字を確認する実務上の順番

不動産所得が赤字になった場合は、次の順番で確認していくと、判断が整理しやすくなります。

1. 不動産所得の収入を確認する

家賃、地代、共益費、更新料、礼金、返還不要の敷金・保証金、駐車場収入、付帯設備利用料などを確認します。

入金額だけを見て判断すると、未収家賃、前受家賃、管理会社控除後の入金、保証金償却、共益費精算などを見落としてしまうことがあります。賃貸借契約書、管理会社の精算書、通帳、請求明細を突き合わせておく必要があります。

2. 必要経費を確認する

固定資産税、都市計画税、損害保険料、管理委託料、修繕費、減価償却費、借入金利子、税理士報酬、広告費、通信費などを確認します。

ただし、あくまで不動産収入を得るために直接必要な費用であり、家事上の経費と明確に区分できることが前提です。自宅兼賃貸、賃貸併用住宅、親族利用、空き家活用などのケースでは、按分の根拠が重要になります。

3. 資産計上と修繕費を区分する

大規模修繕、リフォーム、設備交換、外壁工事、屋根工事、間取り変更などは、修繕費として一括で経費にできるとは限りません。

価値を増加させる支出、耐用年数を延長する支出、用途変更に近い支出は、資本的支出として資産計上し、減価償却で処理する必要があります。

4. 減価償却費を確認する

土地と建物を区分したうえで、建物・建物附属設備・構築物の取得価額、耐用年数、償却方法を確認します。

中古建物、相続取得不動産、贈与取得不動産、過去資料が不足している物件などでは、減価償却費の計算根拠が不明確になりやすいため、特に注意が必要です。

5. 借入金利子を確認する

借入金返済予定表を確認し、元本返済と利息を区分します。

そのうえで、借入金が土地、建物、諸費用、修繕、借換え、運転資金のどれに対応するのかを整理します。不動産所得が赤字の場合、土地等の取得に係る借入金利子は損益通算制限の対象になりますので、申告書類上の記載にも注意が必要です。

6. 通算制限を確認する

不動産所得の赤字があっても、次の部分は損益通算の対象外となる可能性があります。

  • 別荘等の生活に通常必要でない資産の貸付けに係る損失
  • 土地等の取得に係る負債利子に相当する部分
  • 一定の組合契約等に基づく事業から生じた特定組合員等の損失
  • 国外中古建物に係る一定の減価償却費相当額

7. 青色申告・事業的規模・資料保存を確認する

青色申告の承認、帳簿保存、青色申告決算書、固定資産台帳、借入金台帳、賃貸借契約書、管理明細、修繕資料、登記事項証明書、売買契約書などを確認します。

不動産所得の赤字は、税務署だけでなく金融機関に対しても説明される数字です。赤字の原因を説明できなければ、節税どころか、信用判断や将来の融資にまで影響しかねません。

不動産所得の赤字を「節税効果」とだけ見ることの危うさ

不動産投資では、「減価償却費を使って給与所得と相殺できる」「赤字で所得税が戻る」といった説明を受けることがあります。

しかし、不動産所得の赤字を節税効果としてだけ見るのでは、十分とはいえません。

不動産所得の赤字は、次のような要因で発生します。

  • 空室による収入減少
  • 修繕費や原状回復費の増加
  • 減価償却費の計上
  • 借入金利子の負担
  • 固定資産税や保険料の負担
  • 取得初年度の諸費用
  • 資産計上と経費処理の判断
  • 家事関連費の按分
  • 土地等借入金利子の通算制限

このうち、税務上有効に扱える赤字もあれば、損益通算が制限される赤字もあります。さらに、税務上は赤字でも、借入元本返済、修繕積立、空室対応、固定資産税の支払いによって、手元資金が不足してしまうこともあります。

不動産所得の赤字を考えるときは、「所得税が戻るか」だけでなく、「赤字の原因は何か」「翌年以降の資金繰りはどうなるか」「物件ごとの採算はどうか」「税務署・金融機関に説明できるか」まで確認しておくべきです。

税務調査で確認されやすいポイント

不動産所得の赤字を損益通算している場合、税務調査や申告内容の確認では、次のような点が見られやすくなります。

  • 家賃収入の計上漏れ
  • 更新料、礼金、返還不要の敷金・保証金の計上漏れ
  • 管理会社の精算書と通帳入金額の不一致
  • 必要経費に私的支出が混入していないか
  • 自宅兼賃貸や賃貸併用住宅の按分根拠
  • 修繕費と資本的支出の区分
  • 減価償却費の取得価額、耐用年数、償却方法
  • 借入金利子のうち土地等対応部分の有無
  • 借入金元本を経費化していないか
  • 事業的規模の判定
  • 青色申告特別控除の要件
  • 共有不動産や相続直後の賃料収入の帰属
  • 国外中古建物の損益通算制限
  • 消費税の課税・非課税区分

税務調査では、帳簿や資料を提示できるかどうかが重要になります。青色申告者が税務調査において帳簿書類の提示要求を正当な理由なく拒否した場合、青色申告承認取消しが問題となり得ることも、裁判例上整理されています。

不動産所得の赤字を申告する場合には、赤字の金額だけでなく、その構成要素まで説明できる資料が必要です。

相談前に整理しておきたい資料

不動産所得の赤字と損益通算について専門家に相談される際は、次の資料を整理しておくと、判断が早くなります。

  • 物件ごとの一覧
  • 売買契約書、重要事項説明書、登記事項証明書
  • 土地・建物の取得価額が分かる資料
  • 固定資産税評価明細、固定資産税・都市計画税納税通知書
  • 賃貸借契約書
  • 管理会社の年間精算書、月次明細
  • 家賃入金口座の通帳・入出金明細
  • 敷金、保証金、礼金、更新料の契約条項
  • 修繕工事の見積書、請求書、領収書、工事内容の分かる資料
  • 借入金返済予定表、金銭消費貸借契約書
  • 借入金の使途が分かる資料
  • 減価償却資産台帳
  • 過年度の確定申告書、青色申告決算書、収支内訳書
  • 青色申告承認申請書
  • 共有者がいる場合の持分、収入分配、経費負担資料
  • 国外不動産の場合の現地申告書、外貨換算資料、外国税額控除資料

不動産所得の赤字は、申告書だけを見ても判断できません。物件ごとの取得、保有、賃貸、修繕、借入、資金の流れを、一体で確認していく必要があります。

不動産所得の赤字を専門家に相談すべき場面

次のような場合は、申告期限の直前に処理するのではなく、早い段階で専門家に相談された方がよいと考えられます。

  • 給与所得と不動産所得の赤字を損益通算したい
  • 不動産所得の赤字の大部分が借入金利子である
  • 土地と建物の取得価額の区分が分からない
  • 借入金が土地・建物・諸費用・修繕費で混在している
  • 減価償却費の計算に不安がある
  • 修繕費か資本的支出か判断できない支出がある
  • 事業的規模に該当するか分からない
  • 青色申告特別控除の金額に迷っている
  • 共有不動産や相続直後の賃料収入がある
  • 国外中古建物を保有している
  • 不動産投資商品の損失を通算できると言われた
  • 税務署や金融機関に説明できる資料が整っていない

不動産所得の赤字は、単に税金を下げるための数字ではありません。物件ごとの収益性、借入返済、将来の修繕、空室リスク、固定資産税、売却時の譲渡所得、そして相続・承継までつながっていく判断材料です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産所得の赤字について、損益通算の可否だけでなく、土地等借入金利子の制限、減価償却、青色申告、事業的規模、物件別収支、資料保存、将来の納税資金まで含めて、後から説明できる形に整理することを大切にしています。

不動産所得の赤字を給与所得と相殺できるのか、土地等借入金利子をどう扱うべきか、あるいは減価償却や修繕費の判断に不安がある場合は、申告書を作る前に、物件資料と資金の流れを整理してご相談ください。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談は、当事務所ホームページのお問い合わせページから受け付けています。

主な出典・参考情報

出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
出典:国税庁|No.2250 損益通算
出典:国税庁|No.3264 借入金の利子が取得費になるとき
出典:国税庁|第41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)関係
出典:国税庁|令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方

振り返り

確認事項判断のポイント注意点
不動産所得の範囲土地・建物等の貸付けによる所得か事業所得・譲渡所得に該当するものは除かれる
赤字の計算総収入金額から必要経費を差し引く入金額だけで収入を判断しない
必要経費不動産収入を得るために直接必要な費用か家事上の経費と明確に区分する必要がある
損益通算の原則不動産所得の赤字は原則として通算対象になり得る赤字全額が通算できるとは限らない
土地等借入金利子土地等取得に係る負債利子相当部分は通算対象外借入金利子を土地部分・建物部分に区分する
減価償却費建物等は減価償却により必要経費になる土地は減価償却できない
修繕費・資本的支出維持回復か価値増加・耐用年数延長か大規模工事は一括経費にできない場合がある
別荘等趣味・娯楽・保養目的の不動産か生活に通常必要でない資産の損失は通算制限あり
特定組合員・信託組合・信託を通じた不動産所得か所得内通算も制限される場合がある
国外中古建物簡便法等による減価償却費由来の損失か国内不動産との内部通算も制限される
事業的規模社会通念上事業といえる規模か青色申告特別控除、専従者給与、資産損失に影響する
青色申告帳簿・決算書・申告要件を満たすか事業的規模でない場合は控除額に制限がある
税務調査対応赤字の原因を資料で説明できるか契約書、管理明細、借入金資料、固定資産台帳が重要
資金繰り税務上の赤字と現金収支を分けて見る借入元本返済は通常必要経費ではない
専門家相談通算制限・減価償却・借入金利子に不安があるか申告期限直前ではなく早めに整理する
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