事業所得の赤字・純損失・繰越控除|赤字の年こそ確認すべき青色申告と翌年以降の税務判断

個人事業で赤字が出たとき、多くの方がまず気にされるのは「今年の所得税がどれだけ減るのか」という点ではないでしょうか。

ただ、事業所得の赤字は、その年の税額だけで話が終わるものではありません。

その赤字が、税務上の「事業所得の損失」といえるのか。給与所得や不動産所得といった他の所得と損益通算できるのか。損益通算してもなお控除しきれない損失、いわゆる純損失を、翌年以後へ繰り越せるのか。あるいは前年に繰り戻して所得税の還付を受ける道があるのか。そして、その赤字について、税務署や金融機関にきちんと説明できる帳簿・証憑が手元に残っているのか。

こうした点を整理しないまま、「赤字だから税金が減る」「青色申告だから繰り越せる」と早合点してしまうと、後になって所得区分や必要経費、帳簿保存、損失申告の手続の場面で思わぬつまずきが生じることがあります。

この記事では、個人事業の赤字について、事業所得の所得計算、損益通算、純損失、青色申告、繰越控除、繰戻し還付、資料保存という順に、一つずつ整理していきます。

目次

事業所得の赤字は、まず「本当に事業所得の赤字か」を確認する

事業所得の赤字を考えるうえでの出発点は、その活動が税務上「事業所得」として整理できるかどうかにあります。

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営む方が、その事業から得る所得を指します。その金額は「総収入金額-必要経費」で計算します。
出典:国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)

ここで気をつけたいのは、「本人が事業のつもりでいるかどうか」だけで判断しないことです。

とりわけ、副業、業務委託、ネット収入、原稿料、講演料、コンテンツ販売、単発的なサービス提供といった収入は、事業所得ではなく雑所得として整理される可能性があります。所得税基本通達では、事業所得と認められるかどうかは、その活動が社会通念上、事業と称する程度で行われているかどうかによって判定するものとされています。加えて、帳簿書類の保存がない場合には、一定の場合を除き、業務に係る雑所得に該当する点に留意すべきとされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係

つまり、赤字の扱いを考える前に、次のような事実を確認しておく必要があります。

  • 継続的、反復的に収入を得ている活動か
  • 独立して、自己の計算と危険において行っているか
  • 営利性があるか
  • 売上を得るための営業、制作、提供、管理の実態があるか
  • 帳簿、契約書、請求書、入金記録、経費資料が整っているか
  • 事業用と家計用の支出を区分できているか
  • 赤字の原因を説明できるか

こうした点を曖昧にしたまま、赤字を事業所得として申告してしまうと、損益通算や純損失の繰越にたどり着く前に、所得区分そのものが問われることになります。

「赤字」は、会計ソフト上のマイナスではなく税務上の損失として確認する

事業所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。ただし、会計ソフト上の損益が、そのまま税務上の赤字になるとは限りません。

総収入金額には、通常の売上だけでなく、金銭以外の経済的利益、商品の自家消費、棚卸資産に関する保険金や損害賠償金、作業くずの売却代金、仕入割引やリベート収入なども含まれます。
出典:国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)

一方、必要経費に算入できるのは、総収入金額に対応する売上原価その他その収入を得るために直接要した費用と、その年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用です。算入する時期は、原則としてその年に債務が確定した金額であり、単に支払ったかどうかだけで決まるわけではありません。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

赤字を確認するときには、少なくとも次の点を見直しておきたいところです。

  • 売上計上漏れがないか
  • 入金ベースだけで売上を判断していないか
  • 未収入金、前受金、売掛金の整理ができているか
  • 棚卸資産、仕掛品、在庫の処理が適切か
  • 資産計上すべき支出を一括で経費にしていないか
  • 減価償却費の計算が正しいか
  • 家事費や生活費が必要経費に紛れ込んでいないか
  • 自宅、車両、通信費などの家事関連費を合理的に区分しているか
  • 生計を一にする親族への支払を安易に経費化していないか
  • 証憑が不足している支出を経費に入れていないか

家事上の費用は必要経費になりません。他方、家事関連費については、取引記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合に限り、その区分できる金額が必要経費になります。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

事業所得の赤字を翌年以降へ活かしていくには、まず、それが「税務上、説明できる赤字」であることが前提になります。

事業所得の赤字は、損益通算の対象になり得る

事業所得の損失は、損益通算の対象となる所得の一つです。

損益通算の対象となる所得は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得です。一方で、配当所得、給与所得、一時所得、雑所得の損失は、他の各種所得から控除できません。
出典:国税庁|No.2250 損益通算

したがって、事業所得で税務上の赤字が生じた場合、その赤字は、一定の順序に従って、給与所得や不動産所得、雑所得といった他の黒字所得と通算できる可能性があります。

ただ、ここで押さえておきたいのは、損益通算できるのはあくまで「事業所得の赤字」であって、「事業っぽい活動の赤字」ではない、ということです。

たとえば副業の赤字を給与所得と相殺したい場合、税務上はまず、その副業が事業所得といえるかどうかが問われます。帳簿がなく、収入も不安定で、支出の多くが生活費や趣味的な支出に近いようなケースでは、雑所得と判断される、あるいはそもそも必要経費性に疑問が残ると判断される可能性があります。

赤字が大きいほど、損益通算による税額への影響も大きくなります。だからこそ、所得区分、必要経費、帳簿保存、そして事業実態を説明できるかどうかが、いっそう重要になってきます。

損益通算しても控除しきれない部分が「純損失」

事業所得の赤字を他の所得と損益通算しても、なお控除しきれない金額が残ることがあります。この、損益通算後に残る一定の損失が、純損失の金額です。

純損失の金額とは、事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得という4つの所得の損失のうち、損益通算をしてもなお控除しきれない金額を指します。
出典:国税庁|令和6年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)

ここでいう純損失は、単なる「事業所得の赤字額」そのものではありません。

流れとしては、次のように考えていきます。

  1. 事業所得の金額を計算する
  2. 事業所得に赤字があるかを確認する
  3. 他の所得との損益通算を行う
  4. 損益通算しても控除しきれない損失が残るかを確認する
  5. 一定の要件を満たす場合、その金額が純損失として、翌年以後の繰越控除や前年への繰戻し還付の対象になる

このように、「事業所得が赤字だった」というだけで、繰越控除の金額が直ちに決まるわけではありません。他の所得との通算を経てもなお残る金額があるかどうかを、確認しておく必要があります。

青色申告者は、純損失を翌年以後3年間繰り越せる可能性がある

青色申告者については、事業所得などに損失が生じ、損益通算してもなお控除しきれない純損失が残った場合に、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除する制度があります。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

たとえば、開業初年度に大きな設備投資や広告費、人件費、準備費用が重なり、事業所得が赤字になったとします。この場合でも、その赤字を適切に純損失として申告しておけば、翌年以降の黒字から控除できる可能性があります。

とはいえ、これは「赤字なら自動的に3年間使える」という制度ではありません。

損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出することが求められます。純損失等を繰り越す場合には、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、かつ、その後も連続して確定申告書を提出することが必要とされています。
出典:国税庁|令和6年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)

また、申告書第四表、いわゆる損失申告用の申告書を使う場面もあります。申告書第四表を提出する方は、第四表とあわせて申告書第一表・第二表も提出することとされ、特定非常災害の被災者の方は、一定の付表も併せて提出することとされています。
出典:国税庁|令和7年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)

赤字の年に「納税額がないのだから申告しなくてもよい」と考えてしまうと、翌年以降に損失を使えなくなる可能性があります。赤字の年こそ、申告する意味を慎重に見極める必要があります。

特定非常災害による損失は、繰越期間が5年に延長される場合がある

青色申告者の純損失の繰越控除期間は、通常は3年間です。

ただし、令和5年4月1日以後に特定非常災害の指定を受けた災害によって生じた一定の純損失については、繰越控除期間が3年から5年へ延長される場合があります。青色申告者について、保有する事業用資産のうち特定非常災害による損失の割合が10%以上であるときは、その年に発生した純損失の金額などの繰越控除期間が5年に延長されます。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

必要経費に関する解説でも、令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害により事業用資産などに被害を受けた個人事業者について、棚卸資産や事業用資産等に生じた一定の損失に係る繰越控除期間を5年に延長する特例が設けられています。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

この特例が問題になる場面では、単に「災害で損をした」というだけでなく、次の点を確認しておく必要があります。

  • 特定非常災害として指定された災害か
  • 損失が事業用資産や棚卸資産に関するものか
  • 保険金や損害賠償金で補填される金額があるか
  • 被災事業用資産の損失割合が基準に該当するか
  • 通常の純損失と被災純損失を区分できているか
  • 申告書第四表や必要な付表を提出しているか

災害による損失は、資金繰りにも直結します。税務上の損失処理だけでなく、保険金、補助金、固定資産の除却、再取得、融資、消費税、そして事業再開計画まで含めて、一体で整理すべき論点だといえます。

青色申告者は、前年への繰戻し還付を選べる場合がある

青色申告者には、純損失を翌年以後に繰り越すだけでなく、前年に繰り戻して所得税の還付を受けるという選択肢もあります。

前年も青色申告をしている場合には、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得金額に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることができます。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

繰戻し還付は、将来の黒字を待つのではなく、前年に納めた所得税の一部を還付してもらう制度です。資金繰りが厳しい事業者にとっては、翌年以降の節税効果よりも、早期に資金を回収できることのほうが大きな意味を持つ場合があります。

ただし、繰戻し還付には手続上の要件があります。

純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求の対象となるのは、前年分等の青色申告書を提出しており、純損失の繰戻し還付請求をしようとする青色申告者です。提出時期は確定申告期限内で、請求額を計算するために用いた計算明細書等がある場合には、その書類も提出する必要があります。
出典:国税庁|A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続

繰戻し還付を検討するときは、次の点を確認しておきましょう。

  • 損失が生じた年が青色申告か
  • 前年も青色申告書を提出しているか
  • 前年に所得税額が発生しているか
  • 繰戻し還付と翌年以後の繰越控除の、どちらが資金繰り上有利か
  • 申告期限内に還付請求書を提出できるか
  • 還付請求額の根拠となる資料を整理できているか
  • 住民税、個人事業税、国民健康保険料など、所得税以外への影響を別途確認しているか

繰戻し還付は有利な制度になり得ますが、その分、損失金額の正確性がより強く問われる場面でもあります。赤字の根拠資料が曖昧なまま還付請求に踏み切ることは、避けるべきです。

青色申告は「特典」ではなく、帳簿を前提にした制度

青色申告というと、青色申告特別控除や純損失の繰越控除など、税務上有利な制度として受け止められがちです。

もちろん、それらは重要です。青色申告者については、所得金額から55万円、一定の要件を満たす場合は65万円、または10万円を控除する青色申告特別控除が設けられています。55万円控除の要件としては、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること、正規の簿記の原則によって記帳していること、貸借対照表・損益計算書等を期限内申告書に添付することなどが挙げられます。
出典:国税庁|No.2072 青色申告特別控除

ただ、青色申告は、単に税額を下げるための制度ではありません。

実務の立場からいえば、正確な記帳と帳簿保存によって所得金額や税額を適正に計算し、申告納税制度を支えるための制度だと理解しておくべきものです。青色申告制度は、正確な記帳を促し、帳簿等に基づく適正な課税標準・税額の計算と申告を担保する趣旨を持っています。純損失の繰越控除などの特典は、その趣旨の中に位置づけられるものです。

青色申告の承認を受けるには、原則として、青色申告をしようとする年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出する必要があります。その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合には、事業開始日から2か月以内の提出が必要です。
出典:国税庁|A1-8 所得税の青色申告承認申請手続

つまり、赤字が出た年になってから「青色申告にして繰越控除を使いたい」と考えても、過去にさかのぼって青色申告に切り替えることは、通常できません。事業を始める段階、あるいは事業が本格化する段階で、帳簿体制と届出期限を整えておくことが大切になります。

白色申告では、通常の事業赤字を広く繰り越せるわけではない

青色申告者であれば、一定の要件のもとで純損失を翌年以後へ繰り越せます。

一方、白色申告者の場合は、通常の事業赤字を青色申告者と同じように広く繰り越せるわけではありません。損失が生じた年分について青色申告をしていない場合に繰り越せる損失は、変動所得の損失額、被災事業用資産の損失額、雑損失の金額に限られます。
出典:国税庁|令和6年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)

この違いは、個人事業者にとって、決して小さなものではありません。

赤字が出た年に所得税額がなくても、青色申告者であれば、将来の黒字と通算するために損失を繰り越しておく意味があります。ところが白色申告者の場合、通常の事業赤字については、そのような活用ができない場面が多くなります。

ですから、事業を続けていく予定があるのなら、青色申告は単なる控除額の問題ではなく、赤字が出た年の税務処理と、翌年以降の資金計画にまで関わる制度として検討しておくべきものだといえます。

赤字の年に確認すべき資料

事業所得の赤字、純損失、繰越控除を適切に扱うためには、申告書の数字だけでなく、その数字を支える根拠資料を整えておく必要があります。

とりわけ確認しておきたい資料は、次のとおりです。

  • 売上に関する契約書、注文書、請求書、納品書、入金明細
  • 売掛金、未収入金、前受金の一覧
  • 仕入、外注費、経費の請求書、領収書、カード明細、振込記録
  • 事業用口座、プライベート口座、カード利用明細の区分
  • 棚卸表、在庫管理資料、廃棄・評価損に関する資料
  • 固定資産台帳、減価償却計算資料、購入契約書
  • 自宅、車両、通信費などの按分根拠
  • 家族への給与、外注費、専従者給与に関する届出・勤務実態資料
  • 青色申告承認申請書、青色事業専従者給与に関する届出書
  • 過年度の確定申告書、青色申告決算書、損失申告用第四表
  • 繰戻し還付を検討する場合の前年分申告書と納税額資料

税務調査の場面では、帳簿書類の備付け・記録・保存が正しく行われているかが問われます。青色申告者が帳簿書類の提示要求に正当な理由なく応じない場合には、青色申告承認の取消しという問題が生じ得ます。これは、裁判例でも取り上げられてきた点です。

また、青色申告者は、所得金額を正確に計算できるよう、資産・負債・資本に影響を及ぼす一切の取引を、正規の簿記の原則に従って整然かつ明瞭に記録することが求められます。

赤字の年ほど、数字の説明が重みを増します。黒字で税金を納める年よりも、赤字を通算したり繰り越したりする年のほうが、税務上の説明責任はむしろ重くなる。そう考えておくべきでしょう。

赤字の原因を分解しなければ、翌年以降の判断に使えない

事業所得の赤字は、同じ「赤字」でも、その意味合いは一つひとつ異なります。

開業初期の投資による赤字なのか。一時的な売上減少による赤字なのか。家事関連費や生活費が紛れ込んでいる赤字なのか。棚卸や減価償却の処理から生じた赤字なのか。あるいは、資金繰りは苦しいのに税務上は黒字なのか、逆に、税務上は赤字でも現金収支はそこまで悪くないのか。

こうした分解をしておかないと、繰越控除を使うべきか、繰戻し還付を検討すべきか、翌年以降の予定納税や資金繰りをどう考えるか、事業を続けるべきか、価格設定や固定費を見直すべきか、といった判断ができません。

赤字は、単なる「税金が少なくなる年」ではありません。事業の収益構造、資金繰り、資料管理、税務リスクが一度に表面化する年でもあります。

とりわけ、次のような赤字は、慎重に確認しておく必要があります。

  • 給与所得との通算を前提に組み立てられた副業赤字
  • 売上規模に比べて経費が極端に大きい赤字
  • 毎年続いているが、黒字化の見通しを説明しにくい赤字
  • 家計支出との区分が不明確な赤字
  • 帳簿がなく、領収書やカード明細だけで組み立てた赤字
  • 減価償却や棚卸処理を理解しないまま作られた赤字
  • 還付請求を目的に、申告期限直前で急いで整理した赤字

こうしたケースでは、事業所得としての妥当性、必要経費性、損益通算、青色申告の要件、さらには調査対応まで含めて確認しておく必要があります。

繰越控除を使う年にも確認が必要になる

純損失の繰越控除は、損失が出た年だけで完結するものではありません。

翌年以降に黒字が出たとき、過去から繰り越してきた純損失を控除していくことになります。そのため、損失が出た年の申告書だけでなく、繰越控除を使う年の申告書においても、過去の損失額、すでに控除した金額、残っている繰越額を正しく管理していく必要があります。

確認しておきたい点は、次のとおりです。

  • 損失が生じた年分の確定申告書を提出しているか
  • その後、連続して確定申告書を提出しているか
  • 繰越控除額の残高管理ができているか
  • 前年以前に一部控除済みの金額を、二重に使っていないか
  • 繰戻し還付の計算基礎にした金額を、再び繰り越していないか
  • 青色申告決算書と申告書第四表の数字が整合しているか
  • 事業所得以外の所得、分離課税所得、住民税・国保への影響を確認しているか

繰越控除は「使える権利」ではありますが、金額の管理を誤ると、後から修正が必要になることもあります。

事業所得の赤字は、税務署だけでなく金融機関にも説明される

個人事業者が融資を受ける際には、金融機関が確定申告書や青色申告決算書を確認します。

赤字であること自体が、直ちに問題視されるわけではありません。開業初期、設備投資、広告投資、災害、取引先の事情など、合理的に説明できる赤字もあります。

一方で、次のような申告書は、金融機関に対しても説明が難しくなります。

  • 売上と経費の対応関係が見えない
  • 事業用資産と家計支出の区分が曖昧
  • 通帳残高と帳簿残高が合っていない
  • 減価償却や借入返済の説明ができない
  • 毎年赤字だが、事業継続の根拠が見えない
  • 過去の繰越損失の管理が不明確

税務上の赤字は、税額計算にとどまらず、事業の信用、融資、将来の法人化、事業承継、廃業の判断にまで影響します。

「税金を減らすための赤字」ではなく、「事業の実態を正しく表した結果としての赤字」でなければ、将来の判断材料にはなり得ないのです。

事業所得の赤字を整理する実務上の順番

事業所得の赤字が出た場合は、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。

まず、所得区分を確認します。副業や業務委託収入が事業所得といえるのか、雑所得ではないのかを見極めます。

次に、総収入金額を確認します。売上計上漏れ、未収入金、現物収入、自家消費、保険金、リベート収入などを洗い出します。

続いて、必要経費を確認します。事業関連性、債務確定、家事関連費、資産計上、減価償却、棚卸、親族への支払を整理していきます。

そのうえで、事業所得の赤字が税務上成立するかを確認します。帳簿と証憑によって、赤字の原因を説明できる状態にしておきます。

次に、他の所得との損益通算を行います。通算してもなお損失が残る場合には、それが純損失に該当するかを確認します。

さらに、青色申告者であれば、翌年以後3年間の繰越控除、特定非常災害の場合の5年延長、前年への繰戻し還付を検討します。

最後に、申告手続、第四表、還付請求書、連続申告、翌年以降の損失残高管理、そして住民税・個人事業税・国民健康保険料への影響を確認します。

この流れで整理していくと、「赤字だからどうするか」ではなく、「どの制度を、どの根拠で、どの年に使うか」を判断できるようになります。

事業所得の赤字を専門家に相談すべき場面

事業所得の赤字は、ご自身で申告できる場合もあります。

ただ、次のようなケースでは、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

  • 副業収入を事業所得として申告するか迷っている
  • 給与所得との損益通算を予定している
  • 赤字額が大きく、還付や繰越控除の影響が大きい
  • 青色申告の承認申請や届出期限に不安がある
  • 前年への繰戻し還付を検討している
  • 過去の損失申告や連続申告の状況が分からない
  • 会計ソフトの数字と通帳残高が合っていない
  • 家事関連費や親族への支払が多い
  • 税務調査で説明できるか不安がある
  • 将来的に融資、法人成り、事業承継、廃業を検討している

事業所得の赤字は、単に「今年の税金が少ない」という話にとどまりません。赤字の根拠、青色申告、純損失、繰越控除、繰戻し還付、資料保存、資金繰り、そして翌年以降の申告までを、一体のものとして考える必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、申告書を作成するだけでなく、所得区分、必要経費、帳簿、証憑、赤字の原因、損益通算、純損失の繰越、翌年以降の税務判断までを含めて、後から説明できる形に整えることを大切にしています。

事業所得の赤字について、「この赤字は他の所得と通算できるのか」「純損失として翌年以降に繰り越せるのか」「繰戻し還付を使うべきか」「この帳簿と資料で説明できるのか」といった不安を感じておられるなら、申告期限の直前に数字を合わせる前に、まずは資料と事実関係を整理したうえでご相談ください。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談は、当事務所ホームページのお問い合わせページから承っております。

主な出典・参考情報

出典:国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識
出典:国税庁|No.2250 損益通算
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度
出典:国税庁|No.2072 青色申告特別控除
出典:国税庁|A1-8 所得税の青色申告承認申請手続
出典:国税庁|A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続
出典:国税庁|所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係
出典:国税庁|令和6年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)
出典:国税庁|令和7年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き(損失申告用)

振り返り

確認事項判断のポイント注意点
事業所得かどうか社会通念上、事業といえる実態があるか副業赤字は雑所得と判断される可能性がある
税務上の赤字か総収入金額と必要経費を正しく計算しているか会計ソフト上の赤字がそのまま税務上の赤字とは限らない
必要経費収入獲得との関連性、債務確定、証憑を確認する家事費や生活費の混入に注意
家事関連費業務上必要な部分を合理的に区分できるか按分根拠を記録で説明できる必要がある
損益通算事業所得の赤字は損益通算の対象になり得る雑所得の赤字は原則として他所得と通算できない
純損失損益通算しても控除しきれない損失か事業所得の赤字額そのものとは限らない
青色申告の繰越控除純損失を翌年以後3年間繰り越せる可能性がある損失年分とその後の連続申告が重要
特定非常災害一定の損失は5年繰越になる場合がある被災事業用資産の損失額や割合の確認が必要
繰戻し還付前年も青色申告なら前年所得へ繰り戻せる場合がある確定申告期限内の還付請求手続が必要
白色申告通常の事業赤字を広く繰り越せるわけではない変動所得や被災事業用資産などに限定される
帳簿保存赤字の根拠を帳簿・証憑で説明できるか青色申告の特典は帳簿保存が前提
将来への影響翌年以降の黒字、資金繰り、融資判断に影響する税額だけでなく、事業判断の材料として整理する

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