役員給与を節税策として考える前に知っておきたいこと|自由な利益調整に使えない理由

役員給与は、オーナー経営者にとって、もっとも身近な節税テーマのひとつです。

会社に利益が出そうなら、役員報酬を増やして法人税を抑えたい。反対に、会社に資金を残したいから役員報酬を下げたい。法人化した後、報酬をいくらに設定すれば、法人と個人を合わせた手取りが最も良くなるのかを知りたい。こうした発想そのものは、決して不自然なものではありません。役員給与は、会社の損益、個人の所得、社会保険料、資金繰りに直接影響する、税務・財務上の重要な意思決定だからです。

ただ、役員給与を「利益が出たら増やす」「税金を減らしたいから期末に未払計上する」「今期だけ賞与のように支給する」といった形で扱ってしまうと、税務上は大きな問題になります。

役員給与には、一般の従業員給与とは異なり、法人税法上、損金算入に強い制限が設けられています。法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金に算入されません。さらに、これらの類型に該当する場合でも、不相当に高額な部分は損金になりません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

つまり役員給与は、「会社から個人へお金を移す手段」であると同時に、「税務上、自由な利益調整には使えない支出」でもあるのです。ここを誤ると、法人税の節税どころか、損金不算入、源泉所得税、社会保険料、重加算税、金融機関への説明不全といった問題につながりかねません。

本記事では、定期同額給与や事前確定届出給与の細かな要件に入る前に、役員給与を節税策として考える際、必ず押さえておきたい基本的な考え方を整理します。

目次

役員給与は「法人税を減らす道具」ではなく、会社と個人の資金配分である

役員給与を増やすと、会社側では費用が増え、法人税の課税所得は減ります。ここだけを見れば、役員給与を増やすことは節税に映ります。

しかし、役員給与を受け取った個人側では、それが給与所得として所得税・住民税の対象になります。給与所得とは、使用人や役員に支払う俸給、給料、賃金、歳費、賞与のほか、これらの性質を持つ給与に係る所得をいいます。役員や使用人に支給する各種手当も、一定の非課税扱いとなるものを除き、原則として給与所得に含まれます。
出典:国税庁|No.2508 給与所得となるもの

役員給与は、社会保険料にも影響します。厚生年金保険料は、毎月の給与に係る標準報酬月額や、賞与に係る標準賞与額を基礎に計算され、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。厚生年金保険料率は18.3%で固定されている一方、健康保険料率は、加入する保険者や都道府県、年度などによって異なります。
出典:日本年金機構|厚生年金保険の保険料
出典:全国健康保険協会|令和8年度保険料額表

こうして見ると、役員給与を決めるうえで、法人税だけを見ていては不十分だとわかります。少なくとも、次のように観点を分けて考える必要があります。

見るべき観点確認すべきこと
法人側の税負担役員給与を損金にできるか、法人税等がどの程度変わるか
個人側の税負担所得税・住民税・給与所得控除後の手取りがどう変わるか
社会保険料会社負担分と本人負担分を合わせて、実質的な負担がどう変わるか
資金繰り会社に残す資金と個人に移す資金のバランスは適切か
金融機関対応借入、返済、自己資本、利益水準の説明に支障がないか
将来設計退職金、事業承継、相続、M&Aを見据えて不自然な設計にならないか

役員給与の節税判断で本当に重要なのは、「会社の税金が下がるか」ではなく、「会社と個人を合わせた資金の残り方が合理的か」という視点です。

法人税を下げるために役員給与を増やしても、個人課税や社会保険料まで含めれば、全体の手残りは思ったほど増えない、ということは珍しくありません。逆に、役員給与を抑えすぎれば、個人の生活資金が不足したり、会社に残った利益が将来の株価や承継コストに響いたりすることもあります。役員報酬は、税金と社会保険料を合わせて考える。これは、報酬を節税目的だけで増減させる発想に対する、大切な戒めだと考えています。

役員給与が自由な利益調整に使えない理由

では、なぜ役員給与には損金算入の制限があるのでしょうか。

理由は、オーナー会社では、役員給与の金額を決める側と受け取る側が、実質的に近い関係にあることが多いからです。利益が出た後に役員給与を増やせるとすれば、会社の所得を自由に圧縮できてしまいます。赤字のときだけ給与を下げ、黒字のときだけ期末に増額する。そうした処理を認めれば、法人税の課税所得が経営者側の判断ひとつで簡単に動いてしまうのです。

そこで法人税法は、役員給与について、事前に定められた職務執行の対価として支給されるものに限り、一定の範囲で損金算入を認めるという考え方を採っています。役員給与の損金算入制限は、法人税法34条を中心に整理され、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しない役員給与は、損金不算入とされます。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

損金算入が認められる中心的な類型は、次の三つです。

類型基本的な考え方
定期同額給与毎月など一定期間ごとに、原則として同額で支給される給与
事前確定届出給与所定の時期に確定額を支給する旨を事前に定め、原則として届出を行う給与
業績連動給与一定の業績指標等に基づき、客観的な算定方法・手続・開示等の要件を満たす給与

この三つは、単なる形式的な分類ではありません。いずれにも共通しているのは、支給時期や支給額、算定方法があらかじめ定められ、後から利益の状況を見て恣意的には動かしにくい、という点です。定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金に算入されない。この構造こそが、役員給与税務の出発点になると考えています。

ですから、役員給与を節税策として考えるときは、まず次の問いを立てるべきです。

  • この支給は、役員の職務執行の対価として、事前に合理的に定められたものと説明できるか。
  • 今期の利益を見た後に、帳尻合わせで決めたものではないか。
  • 株主総会議事録、取締役会議事録、給与台帳、源泉徴収簿、振込記録、社会保険手続に、食い違いはないか。

これらに答えられない役員給与は、税務上、節税ではなく利益調整と見られる可能性があります。

定期同額給与は「毎月払えばよい」という制度ではない

役員給与の最も基本となるのが、定期同額給与です。

定期同額給与とは、簡単にいえば、1か月以下の一定期間ごとに支給され、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与のことです。定期給与の改定については、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から一定期間内に行われる通常改定、職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更等による臨時改定、経営状況の著しい悪化等による減額改定などが認められています。ただし、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは、業績悪化改定事由には含まれません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

ここで注意したいのは、定期同額給与は「毎月支払っていればよい」という単純な制度ではない、ということです。

大切なのは、職務執行期間の開始時点で、役員の職務内容と報酬水準を決め、一定のルールに従って支給することです。利益が出た後になって「本当はもっと報酬を払う予定だった」として、過去に遡り未払計上するような処理は、税務調査で強く疑われます。

実際の調査でも、期末に代表者への未払給与を計上し、議事録上は過去に遡って増額したかのように処理した事案では、期末未払計上の正当性そのものが問われました。しかもその際、遡及増額部分だけでなく、本来なら定期同額給与として処理されたはずの部分まで含めて問題視され得ます。

役員給与の増額を検討すること自体は、何ら問題ではありません。問題は、その増額が「いつ、どの機関で、どの職務に対する対価として決められたのか」を説明できないことにあります。

期末になってから利益を見て役員給与を増やす。議事録の日付だけを過去に合わせる。実際には支払っていないのに未払給与として損金に入れる。こうした処理は、役員給与の制度趣旨から外れてしまいます。

役員給与を正しく設計するには、決算前ではなく、事業年度の早い段階で、次の事項を整理しておく必要があります。

確認事項実務上の意味
職務内容その役員が何を担うのか
報酬水準職務、会社の収益、従業員給与、類似法人との比較で不相当に高額でないか
決定手続定款、株主総会、取締役会等の決定手続が整っているか
支給時期毎月の支給日、改定時期が明確か
支給実態実際の振込、源泉徴収、社会保険処理と一致しているか
証拠資料議事録、給与台帳、源泉徴収簿、振込記録が残っているか

定期同額給与の詳細な要件は、別記事「4-2. 定期同額給与で失敗しないための判断軸」で改めて扱います。本記事ではまず、「役員給与は期末の利益調整に使うものではない」という基本姿勢を押さえておくことが大切です。

事前確定届出給与は「役員賞与を出すための抜け道」ではない

役員に賞与を支給したい場合、事前確定届出給与を検討することがあります。

事前確定届出給与とは、所定の時期に確定額を支給する旨をあらかじめ定め、原則として所轄税務署長に届出を行うことで、一定の要件のもと損金算入を認める制度です。届出の手続、提出時期、臨時改定事由がある場合の取扱いなども、あわせて定められています。
出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出

とはいえ、事前確定届出給与は、「届出さえ出せば役員賞与を自由に損金にできる制度」ではありません。

支給時期と支給額を事前に定め、そのとおりに支給することが大前提です。届出額と異なる金額を支給した場合の取扱いは、厳格です。たとえば、ある役員に届出書の記載額と異なる金額を支給したとしても、他の役員に対する届出どおりの支給まで当然に否認されるわけではありません。しかしこれは裏を返せば、支給を受けた本人については、届出内容との一致こそが重要である、ということを意味しています。
出典:国税庁|「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い

実務でも、届出書の記載額と同額を支給した他の役員の給与は損金算入できる一方、届出と異なる支給を受けた役員については、個々の役員ごとに判定されます。

さらに、支給回数が複数ある場合、一部だけを増額・減額すれば足りる、という発想も危険です。同一任期中の職務執行に対する対価として複数回の賞与が支給される場合、そのうち一回でも届出と異なる支給があれば、他の支給分まで含めて問題となる可能性があります。

事前確定届出給与を使う場合は、少なくとも次の点を事前に確認しておく必要があります。

確認事項実務上の注意点
支給対象者どの役員に支給するのか
職務執行期間どの期間の職務に対する給与なのか
支給日いつ支給するのか
支給額いくら支給するのか
決議株主総会等で適切に決めているか
届出提出期限、記載内容、変更届出の要否を確認しているか
実際の支給届出どおりに支払われているか

事前確定届出給与は、利益が出たときだけ後から支給するための制度ではありません。あくまで、あらかじめ確定させた職務対価を、税務上も損金として認めるための制度です。

業績連動給与は、オーナー会社が気軽に使える制度ではない

業績に応じて役員報酬を払いたい、というニーズもあります。経営者や幹部のインセンティブを設計するうえで、業績連動型の報酬は合理的に映ることがあります。

しかし、法人税法上の業績連動給与は、要件がかなり厳格です。業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標、売上高の状況を示す指標などを基礎として算定される給与などをいい、損金算入のためには、客観的な算定方法、適正な手続、一定の開示といった要件を満たす必要があります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

とりわけ同族会社の場合、業績連動給与を損金算入できる場面は限られます。多くの中小・中堅のオーナー会社では、「今期は業績が良かったから役員賞与を出す」という発想を、そのまま業績連動給与として損金算入することは、通常は困難です。

そのため、業績に応じた報酬設計を行う場合は、次のように分けて考えるべきです。

検討したいこと税務上の整理
毎月の役員報酬を設定したい定期同額給与として設計する
特定日に確定額を支給したい事前確定届出給与として検討する
上場会社等で客観的な業績指標に連動させたい業績連動給与の要件を検討する
後から利益を見て役員賞与を出したい損金不算入リスクが高い

インセンティブ設計としての役員報酬は、確かに重要です。ただし、税務上の損金算入と、経営管理上の報酬設計は、同じではありません。経営上は合理的に映る報酬でも、税務上の要件を満たさなければ損金にならないことがある。この点は、押さえておきたいところです。

役員給与には「経済的利益」も含まれる

役員給与というと、毎月の役員報酬や役員賞与を思い浮かべる方が多いかもしれません。

けれども税務上は、金銭で支給されるものだけが役員給与ではありません。役員が会社から受ける経済的利益もまた、実質的に役員給与として扱われることがあります。

たとえば、会社が役員の個人的な費用を負担する、会社資産を無償または低廉な対価で役員に利用させる、役員個人の債務を会社が肩代わりする、といった場合です。役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し得る一方、それ以外のものは定期同額給与に該当せず、損金には算入されません。経済的利益が不相当に高額である場合や、隠蔽・仮装して経理した場合も、損金算入は認められません。
出典:国税庁|No.5202 役員等に対する経済的利益

法人税法34条にいう給与には、債務免除による利益その他の経済的利益が含まれます。要するに、法人が役員に対して給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらすものが、問題になるということです。

この点は、オーナー会社ではとりわけ重要です。会社と個人の財布が実質的に近くなるほど、次のような支出が曖昧になりやすいからです。

支出・取引税務上問題になりやすい理由
役員個人の飲食・旅行・趣味的支出会社の事業関連性が説明できなければ、役員給与・認定賞与になり得る
役員個人が使う車両・不動産事業利用と私的利用の区分、経済的利益の評価が必要
役員個人の借入や債務の会社負担債務免除・経済的利益として給与課税が問題になり得る
親族への支払い実際の勤務実態、職務内容、金額水準が問われる
会社資産の低額利用通常支払うべき対価との差額が問題になり得る

役員給与の節税を判断するうえでは、「給与」という勘定科目だけを見ていては足りません。会社が役員にどのような経済的利益を与えているか。そこまで確認しておかなければ、後の税務調査で、認定賞与や源泉所得税の問題が生じることがあります。

会社法上の決定手続も、軽視できない

役員給与は、税法だけでなく、会社法上の手続とも関わります。

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益は、定款に定めがない場合、株主総会の決議によって定めることとされています。
出典:e-Gov法令検索|会社法

実務上は、株主総会で役員報酬の総額を決議し、その範囲内で、各人別の支給額の決定を取締役会や代表取締役等に委任することもあります。ただし、どのような方法をとるにせよ、会社法上の決定手続と、法人税法上の損金算入要件は、整合していなければなりません。役員報酬である以上、定款または株主総会決議によって定める必要がある。この会社法上の前提は、事前確定届出給与の実務でも問題になります。

ここで気をつけたいのは、議事録を作れば足りるわけではない、ということです。

税務調査で見られるのは、「議事録があるか」だけではありません。議事録の作成日、決議内容、実際の支給額、源泉徴収簿、年末調整、社会保険手続、預金の動きが、互いに整合しているか。そこが確認されます。

たとえば、議事録上は増額決議があったことになっているのに、実際の給与支給、源泉徴収、年末調整、社会保険の届出がそれに対応していない。そうであれば、後から作成した議事録ではないかと疑われても、不自然ではありません。

役員給与に関する資料は、単なる形式書類ではありません。会社がいつ、どのような理由で、どのような報酬を決めたのかを、後から説明するための証拠なのです。

役員給与を決めるときの、実務上の判断順序

役員給与を節税策として考える前に、まずは次の順序で整理することをおすすめします。

1. 会社にいくら資金を残すべきかを確認する

最初に見るべきは、税金ではなく資金繰りです。

会社には、仕入、外注費、人件費、借入返済、設備投資、納税資金、予備資金が必要です。役員給与を増やして会社から個人へ資金を移せば、そのぶん会社に残る資金は減ります。

法人税を減らすために役員給与を増やした結果、会社の運転資金や投資余力が不足してしまう。それでは、本末転倒です。

2. 個人側に必要な生活資金を確認する

次に、役員個人としてどれだけの資金が必要かを確認します。

生活費、住宅ローン、教育費、個人の税金、社会保険料、将来の資産形成。こうしたものを踏まえずに役員給与を下げれば、会社には資金が残っても、個人側で資金不足が生じます。

とくにオーナー経営者の場合、会社と個人の資金は心理的に一体化しがちです。しかし税務上は、両者は明確に区分されます。会社に資金があるからといって、個人が自由に使えるわけではありません。

3. 法人税・所得税・住民税・社会保険料を合わせて見る

役員給与を増やすと、会社側の法人税は下がる方向に働きます。一方で、個人側の所得税・住民税・社会保険料は、増える方向に働きます。

ですから役員給与の設計では、法人税だけでなく、個人側の負担と社会保険料まで含めた、全体の手残りを確認する必要があります。

ここで大切なのは、「役員給与を増やせば必ず有利」「下げれば必ず有利」という単純な結論はない、ということです。会社の利益水準、個人の所得状況、社会保険の加入状況、配当方針、将来の退職金設計。これらによって、結論は変わってきます。

4. 不相当に高額でないかを確認する

役員給与が定期同額給与などの形式要件を満たしていても、不相当に高額な部分は損金算入されません。

過大役員給与の判断では、形式基準と実質基準の両面が問われます。実質基準では、その役員の職務内容、会社の収益状況、使用人給与の支給状況、類似法人における役員給与の支給状況などが検討されます。

オーナー経営者の場合、「自分の会社なのだから、いくら払ってもよい」と考えてしまうことがあります。しかし税務上は、職務内容や会社規模に照らして説明できる水準であることが求められます。

5. 決定手続と支給実態を一致させる

役員給与は、決め方と支払い方の整合性が重要です。

株主総会や取締役会で決めた金額と、実際に支払った金額が一致しているか。給与台帳や源泉徴収簿に反映されているか。社会保険の標準報酬月額に適切に反映されているか。預金口座から実際に支払われているか。

この整合性が崩れると、税務調査での説明が難しくなります。

6. 将来の退職金・承継・相続への影響を見る

役員給与は、将来の役員退職給与にも影響します。

役員退職給与の適正額を考える際には、最終報酬月額、在任年数、功績、類似法人との比較などが問題になることがあります。ですから、役員給与を過度に低く設定していると、将来の退職金設計にまで影響しかねません。

また、会社に利益を残すことは、内部留保を厚くする一方で、非上場株式の評価や事業承継に影響することがあります。役員給与を下げて法人に利益を残すことが、将来の相続税・贈与税・株価対策のうえで、必ずしも有利とは限らないのです。

役員給与は、毎期の税金だけでなく、退職金、株価、承継、M&A、金融機関対応にまでつながる論点だといえます。

税務調査では、役員給与のどこを見られるのか

役員給与は、税務調査で確認されやすい項目です。

とくにオーナー会社では、役員給与を通じて利益調整や個人的支出の付替えが行われやすいと見られます。そのため調査官は、次のような点を確認します。

確認されやすい項目見られるポイント
株主総会議事録・取締役会議事録決議日、決議内容、支給開始時期が自然か
給与台帳・源泉徴収簿実際の支給額、源泉徴収、年末調整との整合性
預金通帳・振込記録決議どおりに支払われているか
未払金期末に不自然な未払役員給与がないか
社会保険手続標準報酬月額、賞与支払届との整合性
経済的利益役員個人の費用や資産利用が会社負担になっていないか
親族・関係者への支払い実際の職務、勤務実態、金額水準が説明できるか

実際の税務調査では、期末の未払役員給与、役員給与の遡及増額、事前確定届出給与の届出額と実支給額の相違、役員に対する経済的利益などが、問題になりやすい傾向があります。

ここで大切なのは、「税務調査で見つからなければよい」という発想ではありません。

正しい役員給与設計とは、税務調査で確認されても、会社の意思決定、職務内容、支給実態、資料が一貫して説明できる状態にしておくことです。

誤った役員給与の節税になりやすい考え方

役員給与をめぐって危ういのは、次のような考え方です。

利益が出た後に、期末で役員給与を増やす

今期の利益が見えてから役員給与を増やし、利益を減らす。この発想は、典型的に問題になります。

役員給与は、あらかじめ定められた職務執行の対価として支給されることが前提です。利益が出た後に、過去へ遡って増額することは、定期同額給与の考え方とは合いません。

未払計上すれば損金になると考える

従業員賞与であれば、一定の要件を満たす未払賞与が損金算入される場面があります。しかし役員給与については、一般の未払費用と同じ感覚で処理することはできません。

期末に未払役員給与を計上する場合、その支給決定、支給義務、源泉徴収、年末調整、社会保険、実際の支払いとの整合性が、厳しく見られます。ただ仕訳を入れればよい、というものではないのです。

会社のお金を役員個人の支出に使う

会社が役員の個人的支出を負担すると、経費ではなく、役員給与・認定賞与として扱われる可能性があります。

とくに飲食、旅行、車両、不動産、保険、借入返済、親族への支払いなどは、事業関連性と実態を確認しておく必要があります。

法人税だけを見て役員給与を決める

法人税を下げる目的で役員給与を増やしても、個人側の所得税・住民税・社会保険料まで含めれば、全体として有利にならないことがあります。

また、役員給与を下げて会社に利益を残す場合でも、将来の株価、退職金、承継、金融機関評価への影響を考える必要があります。

議事録だけ整えればよいと考える

税務上重要なのは、議事録の存在だけではありません。

議事録、支給実態、給与台帳、源泉徴収、社会保険、預金の動き、会社の資金繰り、職務内容。これらが整合していることが求められます。形式だけを整えた資料は、かえって不自然さを際立たせてしまうことがあります。

正しい役員給与設計は、税金を減らすことから始めない

役員給与を考えるとき、最初に「いくらにすれば税金が最も少なくなるか」と考えたくなるかもしれません。

しかし、正しい順序はそうではありません。

まず、会社に必要な資金を確認する。次に、役員個人に必要な資金を確認する。そのうえで、法人税、所得税、住民税、社会保険料を合わせた全体の負担を比較する。さらに、将来の退職金、事業承継、金融機関対応、税務調査対応までを見据える。

役員給与の設計は、単年度の節税ではなく、会社と経営者の資金配分を決める作業です。

とくにオーナー会社では、役員給与の金額が、次のような経営判断につながっていきます。

役員給与の設計が影響する領域具体的な影響
毎期の法人税会社の課税所得が変わる
個人の所得税・住民税経営者個人の税負担が変わる
社会保険料会社負担・本人負担が変わる
資金繰り会社に残る資金と個人に移る資金が変わる
金融機関対応利益水準、返済原資、役員報酬水準の説明が必要になる
役員退職給与将来の退職金設計に影響し得る
事業承継・相続会社の内部留保や株価に影響し得る
税務調査決定手続、支給実態、資料整合性が確認される

こうして見ていくと、役員給与は「節税策」ではなく、会社と経営者の財務設計そのものだといえます。

役員給与を決める前に整理しておきたい資料

役員給与を適切に設計するには、感覚だけで決めるのではなく、資料をもとに整理する必要があります。

少なくとも、次の資料は手元で確認しておきたいところです。

資料確認する目的
直近の決算書・試算表会社の利益水準、固定費、資金余力を確認する
資金繰り表役員給与支給後も資金が回るか確認する
借入金返済予定表返済原資と金融機関説明への影響を確認する
役員報酬の決議資料会社法上・税務上の決定手続を確認する
給与台帳・源泉徴収簿実際の支給と税務処理の整合性を確認する
社会保険料資料会社負担・本人負担の影響を確認する
個人の所得状況所得税・住民税・生活資金を確認する
将来の退職金・承継方針長期的な資金移転と株価への影響を確認する

これらを整理せずに役員給与だけを単独で決めてしまうと、税金は減ったように見えても、資金繰りや将来設計にひずみが生じることがあります。

専門家に相談すべき分岐点

役員給与の設定は、月額を決めるだけであれば、表面的にはそれほど難しく見えないかもしれません。

しかし、次のような場合は、実行前に専門家へ相談したほうがよい領域です。

相談を検討すべき状況理由
役員給与を大きく増減させたい定期同額給与、改定時期、社会保険、資金繰りを確認する必要がある
役員賞与を支給したい事前確定届出給与の要件・届出期限・支給実態を確認する必要がある
期末利益が大きく出そうである駆け込みの利益調整にならないよう、決算対策全体で整理する必要がある
役員個人の支出を会社で負担している経済的利益、認定賞与、源泉所得税の確認が必要になる
親族役員・非常勤役員がいる職務実態、金額水準、過大役員給与の確認が必要になる
将来、役員退職金を支給したい現在の役員給与水準が退職金設計に影響し得る
事業承継やM&Aを考えている会社に残す利益、株価、説明可能性を含めた設計が必要になる
税務調査で役員給与を指摘された事実関係、資料、主張方針を整理する必要がある

役員給与は、税額だけを見て決めると、判断を誤りやすい論点です。会社の資金繰り、個人の手取り、社会保険料、将来の退職金、承継、税務調査対応まで含めて整理して、はじめて「本当に有効な節税」かどうかを判断できます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

役員給与をいくらに設定するかは、法人税だけで決めるものではありません。

会社に資金を残すべきか。経営者個人へどの程度移すべきか。社会保険料を含めた手取りはどう変わるか。金融機関に説明しやすい利益水準になっているか。将来の役員退職金や事業承継に支障がないか。税務調査で、決定手続と支給実態を説明できるか。

こうした論点を整理しないまま役員給与を決めてしまうと、短期的には税金が下がったように見えても、後になって資金繰り、税務リスク、承継上の問題が表面化することがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、役員給与を単なる節税額としてではなく、会社と経営者の資金配分、月次管理、将来の退職金・承継・金融機関対応まで含めた経営判断として整理します。

役員給与の設定や見直しについて、「税金だけで決めてよいのか不安がある」「会社と個人を合わせた手取りを整理したい」「税務調査で説明できる形にしておきたい」といったお気持ちがある場合は、現在の決算書・試算表・役員報酬の決議資料・給与台帳などをもとに、早めに論点を整理しておくことをおすすめします。

ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。

この記事の振り返り

重要論点押さえるべきポイント
役員給与の本質法人税を下げる道具ではなく、会社と個人の資金配分である
法人税上の基本定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与に該当しないものは原則として損金不算入
定期同額給与毎月払えばよいのではなく、事前に定めた職務対価として同額支給されることが重要
事前確定届出給与役員賞与を自由に損金化する制度ではなく、支給時期・支給額・届出・実支給の一致が重要
業績連動給与要件が厳しく、オーナー会社が気軽に使える制度ではない
社会保険料法人税・所得税だけでなく、会社負担分・本人負担分を含めて見る必要がある
経済的利益役員個人の費用負担、会社資産の利用、債務免除なども役員給与として問題になり得る
決定手続株主総会・取締役会等の手続、議事録、給与台帳、源泉徴収、振込記録の整合性が重要
税務調査対応後から説明できる支給理由、職務内容、資料、資金の流れを整えておく必要がある
正しい判断順序税額ではなく、資金繰り、個人手取り、社会保険、将来設計、説明可能性から考える
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次