不動産オーナーの節税相談で、よく話題にのぼるのが不動産管理会社・資産管理会社の設立です。
個人で賃貸不動産を所有していると、家賃収入はどうしても個人に集中します。所得税は累進税率ですから、所得が増えるほど税負担は重くなっていきます。
さらに、借入金で建物を建てている場合は注意が必要です。年数が経つと減価償却費や支払利息が減っていくため、手元の資金は大きく増えていないのに、課税所得だけが膨らんでいくことがあります。賃貸物件の建築後にこうした構造で所得が上がり、税負担が増えていく——これは、不動産管理会社を検討し始める典型的な場面です。
ただ、率直に申し上げると、不動産管理会社は「設立すれば節税になる」ものではありません。
会社を作っても、実際の管理業務がなければ管理料は説明できません。親族に役員報酬を支払っても、勤務実態や職務内容が伴っていなければ否認リスクは残ります。建物を法人へ移せば所得分散効果は大きくなりますが、その代わりに、譲渡所得、消費税、登録免許税、不動産取得税、借地権認定課税、相続税評価、金融機関対応まで、ひととおり確認しておく必要があります。
本記事では、不動産管理会社・資産管理会社を設立する節税判断について、管理受託方式、サブリース方式、建物所有方式、土地建物所有方式の4つに分けて整理していきます。
なお、ここで扱うのは、不動産管理会社・資産管理会社に特化した法人化の判断です。一般事業の法人成り全体や、法人設立手続の細部、個別物件の投資判断、不動産評価通達6項の詳細計算までは対象としていません。
不動産管理会社は「所得を移す箱」ではなく「実際に機能する会社」である
不動産管理会社の節税効果は、大きくいえば、個人に集中していた不動産所得の一部を、法人や親族へ移していくことにあります。
ただ、税務の観点から本当に大切なのは、所得が「移ったように見えるか」ではなく、所得が「移るだけの実態があるか」です。
不動産管理会社が実際に何をしているのか。誰が管理業務を担っているのか。管理料やサブリース差額は、業務内容やリスクに見合っているのか。役員報酬は職務内容に見合っているのか。建物所有方式であれば、建物の売買、借入、地代、契約、届出がきちんと整っているか。そして将来、相続人や金融機関に説明できる設計になっているか。
こうした確認をしないまま会社だけを設立してしまうと、単なる所得移転、過大な管理料、実態のない親族給与、借地権認定課税、消費税の誤り、相続時の争点——といった問題につながりかねません。
不動産管理会社の設立は、節税策である前に、不動産経営の運営主体をどう設計するかという、経営判断そのものだと考えています。
不動産管理会社の4つの方式
不動産管理会社の方式は、大きく次の4つに分けられます。
| 方式 | 不動産の所有者 | 法人の役割 | 節税効果の中心 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 管理受託方式 | 個人 | 管理業務を受託する | 管理料相当額の所得分散 | 管理実態、管理料水準 |
| サブリース方式 | 個人 | 一括借上げ・転貸を行う | 転貸差額の所得分散 | 空室リスク、賃料保証リスク |
| 建物所有方式 | 建物は法人、土地は個人 | 建物所有者として賃貸する | 家賃収入の法人移転 | 建物譲渡、借地権、地代、消費税 |
| 土地建物所有方式 | 土地建物とも法人 | 不動産所有者として賃貸する | 所有・収益の法人集約 | 譲渡所得、資金負担、相続設計 |
整理すると、賃貸物件を個人所有のままにする管理受託方式・サブリース方式と、賃貸物件を法人所有にする建物所有方式・土地建物所有方式、という2つのグループに分かれます。
どの方式がよいかは、税率だけでは決まりません。不動産の収益性、借入状況、建物の簿価、土地の取得費、相続人の構成、後継者の有無、金融機関との関係、管理の実態、将来売却する可能性——こうした要素を総合的に見て判断していきます。
管理受託方式|最も導入しやすいが、効果もリスクも管理料に集中する
管理受託方式は、賃貸不動産の所有者を個人のままにして、法人が管理業務を受託する方式です。
オーナー個人が入居者と賃貸借契約を結び、家賃収入も個人に帰属します。そのうえで、法人が入居者募集、契約事務、家賃集金、清掃、修繕手配、クレーム対応、入退去管理などを担い、オーナー個人から管理料を受け取る、という形になります。
管理料は、こうした業務量に応じて検討すべきもので、形式的な料率だけで決めてよいものではありません。
この方式の利点は、建物や土地の所有権を移さないため、比較的導入しやすいことです。建物の売買を伴わないので、登録免許税や不動産取得税、譲渡所得、建物譲渡に係る消費税の負担を抑えやすい、という特徴があります。
一方で、節税効果は限定的です。法人へ移せる所得は、原則として「実際の管理業務に見合う管理料」に限られるからです。
ここで気をつけたいのが、実態がないのに高い管理料を設定してしまうケースです。たとえば、次のような状況です。
- 管理業務のほとんどを外部の管理会社が行っている
- 法人には電話応対や清掃といった実務がない
- 管理会社の役員である親族が、実際には勤務していない
- 契約書はあるが、業務報告書や作業記録が残っていない
- それでも管理料だけは毎月支払われている
こうした状態では、管理料の損金性や必要経費性、親族への給与の妥当性を説明しにくくなります。
管理受託方式では、「法人が何をしているのか」を具体的に残しておくことが欠かせません。管理委託契約書、業務範囲、管理報告書、清掃記録、修繕手配記録、入居者対応記録、家賃集金記録、外部業者とのやり取り、そして役員・従業員の勤務実態。こうしたものが、実態を裏づける材料になります。
節税のために会社を作るのではなく、管理業務を法人へ移し、その対価として合理的な管理料を支払う。この順序で考えることをおすすめします。
サブリース方式|差額を取るだけでなく、リスクを負っているかが問われる
サブリース方式は、個人所有の賃貸不動産を法人が一括で借り上げ、その法人が入居者へ転貸する方式です。
オーナー個人は法人から賃料を受け取り、法人は入居者から賃料を受け取ります。この差額が、法人の収益になります。
法人は入居者募集や管理を担うだけでなく、空室などのリスクも負う——ここがサブリース方式の要点です。家賃収入の一定割合で借り上げ、差額を法人所得とする形が紹介されることもありますが、料率そのものが安全基準になるわけではありません。
サブリース方式の中心的な論点は、法人が本当にリスクを負っているか、という一点に尽きます。
- 空室が出た場合でも、法人はオーナーへ一定の賃料を支払うのか
- 滞納が生じたとき、誰が損失を負担するのか
- 修繕費や原状回復費は誰が負担するのか
- 入居者募集や契約更新は誰が行うのか
- 賃料改定のルールは定まっているのか
- 外部のサブリース会社と比べて、条件が不自然になっていないか
法人がリスクを負わず、単に賃料の一部を抜いているだけであれば、サブリース差額の合理性は説明しにくくなります。
また、すでに外部のサブリース会社が一括借上げを行っている物件では、自社の不動産管理会社をさらにサブリース会社として重ねて入れる実益が乏しいこともあります。この場合、外部会社が行っていない清掃、見回り、軽微な修繕対応などを管理受託方式で担う余地はありますが、二重に管理料を取るような設計には注意が必要です。
サブリース方式は、管理受託方式より所得移転効果が大きくなることがあります。ただ、その分だけ、リスク負担、契約実態、賃料設定の合理性が、より厳しく問われることになります。
建物所有方式|効果は大きいが、借地権・消費税・相続評価の確認が不可欠
建物所有方式は、土地は個人が所有したまま、賃貸建物を法人へ移す方式です。
法人が建物を所有し、入居者と賃貸借契約を結び、家賃収入を受け取ります。個人は土地の所有者として、法人から地代を受け取ります。
この方式は、家賃収入そのものが法人に帰属するため、管理受託方式やサブリース方式よりも所得移転効果が大きくなりやすいのが特徴です。所得分散という点では強力ですが、その一方で、土地所有者は土地の無償返還に関する届出書や地代の問題を確認しておく必要があります。
ただし、建物所有方式は、単に建物の名義を法人へ移せばよい、という単純なものではありません。
建物の譲渡価額をどう決めるか
個人から法人へ建物を売却する場合、まず譲渡価額が問題になります。
建物の未償却残高を参考にすることはありますが、それが常に税務上の時価になるわけではありません。建物の状態、築年数、賃貸状況、収益性、固定資産税評価額、そして実勢価格との関係を確認しながら決めていく必要があります。
また、個人が課税事業者である場合、事業用建物や住宅賃貸用建物を売却すると、消費税の課税対象になります。事業に使用していた建物や、住宅賃貸用・店舗賃貸用の建物を売却した場合も、消費税の課税対象となる取扱いです。
出典:国税庁|No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税
土地の譲渡は消費税が非課税ですが、建物の譲渡は原則として課税対象です。そのため、土地建物を一括で移す場合には、土地部分と建物部分を合理的に区分することも大切になります。土地と建物を一括して譲渡した場合には、譲渡代金を土地部分と建物部分に合理的に区分することを前提に、仲介手数料の仕入税額控除を区分する、という考え方が示されています。
出典:国税庁|土地付建物の仲介手数料の仕入税額控除
借地権の認定課税を避ける設計が必要になる
建物所有方式では、個人所有の土地の上に、法人所有の建物が建っている状態になります。
このとき問題になるのが、借地権です。
法人が他人の土地を借りて建物を所有する場合、権利金を支払う慣行がある地域で権利金を支払わないと、借地権の認定課税が問題になることがあります。通常、権利金を収受する慣行があるにもかかわらず権利金を収受しないときは、原則として権利金の認定課税が行われる取扱いです。
ただし、相当の地代を収受している場合や、将来無償返還する旨を契約書に定めたうえで、土地の無償返還に関する届出書を提出している場合には、権利金の認定課税は行われません。
出典:国税庁|No.5730 権利金の認定課税について
なお、相当の地代は、原則として土地の更地価額のおおむね年6%程度とされています。相当の地代を採用する場合には、地代の改訂方法もあわせて確認しておく必要があります。
出典:国税庁|No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂
また、土地の無償返還に関する届出を行う場合には、契約書の写しや土地の価額計算の明細などが添付書類とされています。
出典:国税庁|C1-63 土地の無償返還に関する届出
建物所有方式を採るのであれば、土地賃貸借契約、地代、無償返還届、借地権評価、相続税評価を、一体のものとして整理しておくことが欠かせません。
短期的な相続税対策としては不向きな場合がある
建物所有方式は、長期的には所得分散や法人への財産蓄積に役立つことがあります。
ただ、短期的な相続税対策として見る場合には、注意が必要です。
個人が建物を所有している場合、土地は貸家建付地として評価されることがあります。ところが、建物を法人所有にし、土地を法人へ貸す形にすると、土地の評価関係が変わり、個人所有土地の相続税評価が想定より高くなってしまう場合があるのです。
建物所有方式などは借地権認定課税に注意が必要であるうえ、個人の土地評価が貸家建付地から更地評価に変わるなど、短期的な相続対策には不向きな場合がある、と整理できます。
相続が近い段階で建物所有方式を導入するときは、「所得分散効果」だけでなく、「相続税評価がどう変わるか」を必ず確認しておくべきです。
土地建物所有方式|強力だが、実行できる場面は限られる
土地建物所有方式は、土地も建物も、まとめて法人へ移す方式です。
法人が不動産全体を所有し、賃貸収入も法人に帰属します。収益・管理・資金繰りを法人へ集約できるため、設計次第では、資産管理会社としての機能を明確にしやすい方式だといえます。
ただし、実行上の負担は相応に大きくなります。
特に土地は、先代から引き継いだもので取得費が不明、あるいは低額であることが多く、個人から法人へ売却すると大きな譲渡所得税が発生することがあります。法人側でも、土地建物を購入する資金が必要になり、借入や資金繰りへの影響が無視できません。こうした譲渡所得税や法人側の購入資金の問題から、土地建物所有方式が実際に採られるケースは限定的です。
土地建物所有方式は、単なる節税策というより、不動産の保有主体そのものを法人へ移す、大きな資本・承継の設計だと捉えるべきものです。将来の売却、M&A、後継者への株式承継、金融機関からの借入、法人株式の評価、相続人間の公平まで含めて、じっくり検討する必要があります。
所得分散は「親族に給与を払えばよい」という話ではない
不動産管理会社を設立すると、法人から親族に役員報酬や給与を支払うことがあります。これは、所得分散の中心的な手段です。
ただし、親族に給与を支払えば自動的に節税になる、というわけではありません。
法人税では、役員給与の損金算入に制限が設けられています。定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与といった枠組みを満たさないものは、原則として損金に算入できません。また、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
不動産管理会社では、親族が役員に就いているものの、実際には業務をしていない、というケースが問題になりがちです。
役員報酬を支払うのであれば、少なくとも次の点を説明できる状態にしておく必要があります。
| 確認項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 職務内容 | 入居者対応、清掃、修繕手配、会計管理、金融機関対応などの実務があるか |
| 勤務実態 | 実際に業務に関与しているか |
| 報酬水準 | 職務内容、業務量、会社規模、収益に照らして過大でないか |
| 決定手続 | 株主総会議事録、取締役決定、報酬改定時期が整っているか |
| 支給実態 | 毎月の支払、源泉徴収、社会保険、年末調整等が整合しているか |
また、親族へ給与を支払うことで、所得税だけでなく社会保険料の負担が増えることもあります。節税額だけを見るのではなく、手残り、法人資金、社会保険、将来の年金、相続時の資金移転まで見渡したうえで判断することが大切です。
消費税は、不動産管理会社設立で見落とされやすい
不動産管理会社の設立では、消費税の確認も欠かせません。
不動産賃貸では、住宅家賃は原則として消費税が非課税です。一方で、事務所家賃や店舗家賃は課税対象になります。事務所などの建物貸付けの家賃は課税対象であり、住宅の貸付けは、貸付期間が1か月に満たない場合などを除いて非課税、という取扱いです。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
駐車場についても注意が必要です。土地の譲渡や貸付けは原則として非課税ですが、駐車場など施設の利用に伴って土地が使われる場合には、消費税が課されます。駐車車両の管理、地面の整備、フェンス・区画・建物の設置などによって駐車場として利用させる場合には、課税されることになります。
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など
不動産管理会社で特に問題になりやすい消費税の論点を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 消費税の確認点 |
|---|---|
| 管理受託方式 | 管理料は役務提供の対価として課税対象になり得る |
| サブリース方式 | 住宅転貸か事業用転貸かで課税区分が変わる |
| 建物所有方式 | 個人から法人への建物譲渡が課税対象になり得る |
| 土地建物一括譲渡 | 土地・建物の合理的区分が必要 |
| 駐車場収入 | 非課税の土地貸付けか、課税される駐車場利用料かを確認する |
| インボイス | 事業用賃貸・管理料・駐車場等で取引先の仕入税額控除に影響する |
住宅家賃が中心の不動産オーナーであっても、駐車場、店舗、事務所、看板設置料、携帯基地局、太陽光設備、管理料などが混在してくると、消費税の判断は一気に複雑になります。
「不動産賃貸は非課税だから消費税は関係ない」と考えてしまうのは、危険です。
不動産管理会社は、相続税対策としても万能ではない
不動産管理会社は、相続税対策として語られることがあります。
たしかに、オーナー個人に集中していた所得を法人へ移し、法人株式を後継者や親族に持たせることで、将来の個人財産の増加を抑える効果が期待できる場合はあります。建物所有方式であれば、法人に収益を蓄積させることで、長期的な資産承継の設計につながることもあります。
ただ、相続税対策として見る場合には、次の点を切り分けて考える必要があります。
個人財産は減っても、法人株式の価値が増える
法人に所得が蓄積されれば、個人の不動産所得は減るかもしれません。しかし、その分だけ、法人の株式価値は増加していきます。
後継者や親族が株式を持っていれば、その人の財産が増えます。オーナー本人が株式を持っていれば、結局はオーナーの相続財産になります。
「法人に移せば相続財産から外れる」と、単純に考えることはできないのです。
小規模宅地等の特例への影響を確認する
不動産管理会社の設計は、小規模宅地等の特例にも影響することがあります。
貸付事業用宅地等については、一定の要件を満たす場合に限り、限度面積の範囲で評価減を受けられます。貸付事業用宅地等がある場合の限度面積の計算や、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等の取扱いについては、あわせて確認しておく必要があります。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:国税庁|No.4124 質問と回答編
建物所有方式や、土地の貸付関係を変更すると、土地の利用状況や評価区分に影響する可能性があります。特に相続が近い場合には、長期的な所得分散効果よりも、短期的な相続税評価への影響のほうが大きくなることがあります。
争族防止・納税資金の視点も必要
相続対策では、税額の軽減だけでなく、争族の防止と納税資金の確保も重要です。相続税対策だけでなく、相続争いの防止や納税資金の確保を優先すべきという視点は、不動産オーナーの承継においても変わりません。
不動産管理会社を作ると、財産の形が「不動産」から「法人株式」へと一部変わります。これによって後継者へ株式を集約しやすくなる場合もありますが、株主構成を誤ると、相続人間の対立や少数株主問題を招くこともあります。
不動産管理会社は、相続税を下げる道具というより、不動産収益と承継の管理主体を整える仕組みとして考えるのが、現実的だと思います。
税務調査で見られるのは、契約書よりも実態である
不動産管理会社を設立するとき、契約書を整えることは、もちろん重要です。
しかし、契約書だけでは足りません。
税務調査では、契約書に書かれた業務が実際に行われているか、支払われた管理料や給与が実態に見合っているか、資金の流れが契約と一致しているか——こうした点が確認されます。
調査の実務では、帳簿や契約書だけでなく、原始資料、資金移動、相手先の情報、業務の実態などから事実認定が行われます。証拠の収集・保全と、的確な事実認定こそが、税務調査における重要な要素です。
不動産管理会社で残しておくべき資料を整理すると、次のとおりです。
| 資料 | 確認される内容 |
|---|---|
| 管理委託契約書 | 管理業務の範囲、報酬、責任分担 |
| サブリース契約書 | 借上賃料、転貸条件、空室・滞納リスク |
| 土地賃貸借契約書 | 地代、期間、無償返還、借地権関係 |
| 土地の無償返還に関する届出書 | 借地権認定課税の回避に関する整理 |
| 管理報告書 | 実際の管理業務の証拠 |
| 清掃・修繕・巡回記録 | 法人の業務実態 |
| 入居者対応記録 | クレーム、契約更新、退去対応 |
| 役員・従業員の勤務記録 | 親族給与・役員報酬の実態 |
| 議事録 | 報酬決定、建物取得、借入、重要契約の意思決定 |
| 資金移動記録 | 賃料、管理料、地代、給与、借入返済の整合性 |
| 評価資料 | 建物譲渡価額、地代、株式評価、相続評価の根拠 |
節税を守るために必要なのは、後から説明できる資料です。実行の時点で資料が整っていない処理は、あとで説明しようとしても、どうしても説得力が弱くなってしまいます。
不動産管理会社を設立すべきか判断する順序
不動産管理会社を設立すべきかどうかは、次の順序で整理していくと、判断しやすくなります。
1. 何を解決したいのかを明確にする
まず、目的を切り分けることから始めます。
所得税の負担を抑えたいのか。借入返済後の資金繰りを安定させたいのか。親族へ収益を移したいのか。後継者に管理を移したいのか。相続財産の増加を抑えたいのか。不動産を法人へ集約したいのか。金融機関対応を整理したいのか。
目的が曖昧なまま法人を作ると、方式の選択を誤ってしまいます。
2. 現在の不動産所得とキャッシュフローを確認する
所得税の負担だけでなく、現金の流れも確認します。
家賃収入、管理費、修繕費、固定資産税、借入返済、減価償却費、支払利息、所得税・住民税・事業税、消費税——これらを分けて整理していきます。
不動産所得は黒字でも、借入元本の返済によって手元資金が少ない、というケースは少なくありません。この場合は、節税策より先に、資金繰りの設計が必要です。
3. 4方式のどれが実態に合うかを検討する
- 管理業務を法人に移せるだけなら、管理受託方式
- 法人が空室リスクや転貸リスクを負えるなら、サブリース方式
- 長期的に収益を法人へ移したいなら、建物所有方式
- 不動産の保有主体そのものを法人へ集約する必要があるなら、土地建物所有方式
このように、実態と目的から方式を選んでいきます。税額だけで方式を選んではいけません。
4. 税務コストと実行コストを比較する
不動産管理会社には、会社設立費用、法人住民税の均等割、申告費用、会計処理、社会保険、役員報酬、登録免許税、不動産取得税、消費税、専門家報酬など、さまざまなコストがかかります。
法人設立には登録免許税、定款認証費用、司法書士報酬などの手間と費用がかかること、建物を法人名義に変更する場合には登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬などがかかること、そして建物の譲渡が消費税の課税売上に該当すること——これらは、あらかじめ押さえておきたい留意点です。
節税額だけでなく、維持コストと管理負担を差し引いたうえでの手残りで判断することが大切です。
5. 相続・承継への影響を確認する
法人株式を誰が持つのか。地代や管理料によって誰の財産が増えるのか。相続時の株価はどうなるのか。不動産を相続する人と、法人株式を相続する人が分かれてしまわないか。後継者はきちんと管理できるのか。他の相続人に説明できるのか。
不動産管理会社は、設立した時よりも、10年後、20年後、そして相続の時に問題が表面化することがあります。設立の時点から、出口まで見据えておく必要があります。
不動産管理会社の設立を急がないほうがよい場合
次のような場合は、会社の設立を急がないほうがよいことがあります。
| 状況 | 慎重にすべき理由 |
|---|---|
| 管理業務を法人で行う実態がない | 管理料や親族給与を説明しにくい |
| 不動産所得が少ない | 法人維持コストが節税効果を上回る可能性がある |
| 相続が近い | 相続税評価への短期的な影響を確認する必要がある |
| 借入条件が厳しい | 建物移転や法人借入に金融機関の承諾が必要になる |
| 土地の取得費が不明 | 土地建物所有方式で大きな譲渡所得が出る可能性がある |
| 親族間の関係が不安定 | 株式保有や役員報酬が争族の火種になることがある |
| 外部管理会社がすでに全面管理している | 自社管理会社の業務実態を作りにくい |
| 消費税区分が複雑 | 住宅、店舗、駐車場、管理料、建物譲渡の整理が必要 |
不動産管理会社は、効果のある場面では有効ですが、合わない場面では、管理コストと税務リスクだけが残ってしまいます。
専門家に相談すべき場面
次のような場合には、実行の前に専門家へ相談する価値が高いといえます。
| 相談すべき場面 | 確認すべき論点 |
|---|---|
| 個人の不動産所得が大きくなっている | 所得税、住民税、事業税、資金繰り、法人化効果 |
| 建物を法人へ売却したい | 建物時価、譲渡所得、消費税、登記費用、借入 |
| 親族に役員報酬を支払いたい | 勤務実態、職務内容、報酬水準、社会保険 |
| 管理料を設定したい | 管理業務の範囲、外部管理会社との役割分担、料率の合理性 |
| サブリース方式を採りたい | 空室リスク、滞納リスク、賃料保証、契約条件 |
| 建物所有方式を検討している | 借地権認定課税、相当の地代、無償返還届、土地評価 |
| 相続対策として法人を作りたい | 株式評価、小規模宅地等、争族防止、納税資金 |
| 消費税の課税区分が混在している | 住宅家賃、店舗家賃、駐車場、建物譲渡、インボイス |
| 将来の承継者が決まっていない | 株主構成、議決権、後継者、遺産分割 |
不動産管理会社は、税務だけでなく、不動産経営、家族の承継、金融機関対応にまで関わってきます。設立後に修正するより、設立前に方式・契約・資金・税務を整理しておくほうが、はるかに安全です。
まとめ:不動産管理会社は「節税会社」ではなく「説明できる運営主体」として設計する
不動産管理会社・資産管理会社は、正しく設計すれば、不動産所得の分散、賃貸経営の管理強化、長期的な相続・承継対策に役立つことがあります。
しかし、会社を作るだけでは節税にはなりません。
管理受託方式では、管理業務の実態と管理料の合理性が問われます。サブリース方式では、法人が本当にリスクを負っているかが問われます。建物所有方式では、建物譲渡、消費税、借地権認定課税、地代、相続税評価が問題になります。土地建物所有方式では、譲渡所得、資金調達、法人株式の承継まで含めた、大きな設計が必要になります。
不動産管理会社の設立を判断する際には、「税金が下がるか」だけでなく、「実態があるか」「資料が残るか」「資金繰りを悪化させないか」「相続人や金融機関に説明できるか」「将来の承継に耐えられるか」——こうした点を確認しておくべきです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産管理会社・資産管理会社の設立、不動産の法人化、建物所有方式、相続・事業承継を見据えた不動産整理について、税額だけでなく、管理実態、資金繰り、時価、借地権、消費税、相続税評価まで含めた論点整理を大切にしています。
不動産管理会社を設立すべきか、どの方式を選ぶべきか、管理料や役員報酬をどう設計すべきか、建物を法人へ移してよいか——こうした点を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 重要な判断軸 |
|---|---|
| 不動産管理会社の本質 | 所得を移す箱ではなく、実際に管理・運営する主体として設計する |
| 管理受託方式 | 管理業務の実態と管理料水準を説明できるか |
| サブリース方式 | 法人が空室・滞納・修繕等のリスクを負っているか |
| 建物所有方式 | 所得移転効果は大きいが、建物譲渡、消費税、借地権、地代を確認する |
| 土地建物所有方式 | 不動産保有主体を法人へ集約する大きな設計であり、資金負担が重い |
| 親族への給与 | 勤務実態、職務内容、報酬水準、決定手続が必要 |
| 消費税 | 住宅家賃、事務所家賃、駐車場、建物譲渡、管理料を区分する |
| 相続税対策 | 個人財産だけでなく法人株式の価値、小規模宅地等、争族防止を見る |
| 税務調査対応 | 契約書だけでなく、業務記録、資金移動、議事録、評価資料を残す |
| 相談のタイミング | 会社設立前、契約締結前、建物移転前に整理する |
主な出典
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
出典:国税庁|No.5730 権利金の認定課税について
出典:国税庁|No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂
出典:国税庁|C1-63 土地の無償返還に関する届出
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など
出典:国税庁|No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税
出典:国税庁|土地付建物の仲介手数料の仕入税額控除
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:国税庁|No.4124 質問と回答編