ヘッジ会計の実務では、どうしても「ヘッジ有効性を満たしているか」「ヘッジ非有効部分をどう測定するか」に目が向きがちです。ところが、実際につまずくのは、その手前の段階であることが少なくありません。すなわち、何をヘッジ対象に指定し、何をヘッジ手段に指定したのかが曖昧なまま処理を進めてしまう、というケースです。
IFRS第9号のヘッジ会計は、企業のリスク管理活動を財務報告に反映するための仕組みです。ですから、ヘッジ会計の指定は、デリバティブと対象取引を単にひも付ける作業ではありません。企業が管理しているリスク、そのリスクに晒されているエクスポージャー、リスクを低減するために用いている金融商品、そして財務諸表に反映すべき会計単位。これらを開始時点で公式に定義する作業です。
IFRS第9号では、ヘッジ対象として、認識済みの資産・負債、未認識の確定約定、予定取引、在外営業活動体に対する純投資、またはそれらの項目・項目グループの構成要素を指定できます。もっとも、ヘッジ対象は信頼性をもって測定可能でなければならず、予定取引を指定する場合には、その発生可能性が非常に高いことが求められます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
本稿では、IFRS第9号におけるヘッジ対象・ヘッジ手段の指定について、基準本文の要件を実務判断に落とし込みながら整理していきます。
本稿で扱う範囲
本稿の中心に据えるのは、ヘッジ関係の入口である「指定」です。
具体的には、次の論点を取り上げます。
- 適格なヘッジ対象とは何か
- 適格なヘッジ手段とは何か
- 予定取引をヘッジ対象に指定する場合の発生可能性と具体性
- 確定約定と予定取引の切り分け
- リスク要素をヘッジ対象に指定する場合の判断
- 非金融商品項目のリスク要素指定
- 名目金額の一部・階層要素の指定
- 項目グループと純額ポジションの指定
- グループ内取引を連結財務諸表でヘッジ対象にできる場合
- 合計エクスポージャーの指定
- ヘッジ手段の全体指定、一部指定、除外要素
- 監査対応と開示への接続
一方、ヘッジ有効性の評価方法、ヘッジ非有効部分の測定、リバランス、ヘッジ会計の中止、OCI・純損益・ベーシス・アジャストメントの詳細処理は、別記事で扱う領域です。本稿でこれらに触れる場合も、ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定との関係に限って述べることにします。
ヘッジ会計の指定で最初に問うべきこと
ヘッジ会計を適用するにあたって、最初に確認しておきたい問いが2つあります。
1つ目は、「企業はどのリスクを管理しているのか」です。
金利リスクなのか、為替リスクなのか、商品価格リスクなのか、あるいは特定のリスク要素なのか。在外営業活動体に対する純投資の為替リスクということもあるでしょう。ここが曖昧なままでは、ヘッジ対象もヘッジ手段も適切に指定できません。
2つ目は、「そのリスクに晒されている会計上の対象は何か」です。
認識済みの借入金なのか、未認識の確定約定なのか、予定取引なのか、在外営業活動体への純投資なのか。あるいは、その一部のリスク要素なのか。リスク管理上は同じように見えるエクスポージャーであっても、IFRS第9号上のヘッジ対象として適格かどうかは、別途検討が必要になります。
この2つの問いを曖昧にしたまま、「金利スワップを借入金に対応させる」「為替予約を輸出入取引に対応させる」といった処理へ進むと、監査上、次のような指摘を受けやすくなります。
- どのリスクがヘッジされているのか不明確である
- ヘッジ対象が会計上適格か確認されていない
- 予定取引の発生可能性が十分に証拠化されていない
- リスク要素が独立に識別可能か検討されていない
- ヘッジ手段の指定範囲が契約条件と整合していない
- 実際のリスク管理と会計上の指定が一致していない
- 開示で説明すべきリスク管理戦略と会計処理がつながっていない
ヘッジ会計の指定は、会計処理の開始点であると同時に、監査証拠と開示説明の出発点でもあるのです。
適格なヘッジ対象の基本構造
IFRS第9号上、ヘッジ対象になり得るものは、次の4類型に整理できます。
1つ目は、認識済みの資産または負債です。固定金利の貸付金、変動金利の借入金、外貨建債権債務などが典型でしょう。
2つ目は、未認識の確定約定です。将来一定価格で商品を購入する拘束力のある契約などが該当します。
3つ目は、予定取引です。発生可能性が非常に高い外貨建予定売上、予定仕入、予定借入などが考えられます。
4つ目は、在外営業活動体に対する純投資です。在外子会社等に対する純投資の為替リスクをヘッジする場面で問題になります。
これらは、単一項目として指定することもできますし、一定の要件を満たす項目グループとして、あるいはさらに構成要素として指定することも可能です。IFRS第9号は、ヘッジ対象として指定できる項目を広く認めています。とはいえ、リスク管理上ヘッジしているエクスポージャーのすべてが、当然に会計上のヘッジ対象になるわけではありません。
実務では、おおむね次の順序で検討していきます。
第一に、当該エクスポージャーがIFRS第9号上のヘッジ対象の類型に入るか。
第二に、そのエクスポージャーは信頼性をもって測定可能か。
第三に、予定取引であれば、発生可能性が非常に高いといえるか。
第四に、ヘッジ対象として指定する単位が、リスク管理目的と整合しているか。
第五に、ヘッジ手段との経済的関係を説明できる程度に、ヘッジ対象の内容が具体化されているか。
この順序を飛ばしてしまうと、後の有効性評価や非有効部分の測定で整合しない、という事態を招きやすくなります。
予定取引をヘッジ対象に指定する場合
予定取引をヘッジ対象に指定するとき、実務上もっとも重要になるのは、「発生可能性が非常に高いこと」と「十分な具体性」です。
予定取引とは、まだ契約として確定していない将来取引を指します。したがって、「来期も売上がある見込み」「一定量の仕入を行う予定」といった一般的な事業計画だけでは足りません。
IFRS第9号では、予定取引をヘッジ対象に指定する場合、その取引は発生可能性が非常に高くなければなりません。加えて、IFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定でも、予定取引の発生可能性を評価する際には取引の時期と規模の不確実性を考慮すること、そして取引が発生したときにそれがヘッジ対象取引であると識別できる程度に具体的に文書化することが示されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
たとえば外貨建予定売上のキャッシュ・フロー・ヘッジでは、次のような情報が必要になります。
- どの通貨建ての売上か
- どの期間に発生する予定か
- どの程度の金額または数量か
- どの製品・サービス・顧客群に関連するか
- 過去実績と比較して合理的な水準か
- 受注残、販売計画、製造計画、予算、契約交渉状況などにより裏付けられているか
- 取引発生時に、ヘッジ対象として指定した取引と照合できるか
「年間売上のうち一定割合」といった指定は、ヘッジ対象取引を発生時に識別できるかという観点から、慎重な検討を要します。実務上も、予定取引は、発生した場合にそれが指定したヘッジ対象であると把握できるよう、十分な具体性をもって識別・文書化しておく必要があります。
予定取引の指定で本質的に問われるのは、将来の事業活動を会計上予測することではありません。リスク管理上ヘッジしている将来取引が、財務報告上のヘッジ対象として識別可能であり、かつ、その発生可能性が非常に高いことを証拠化すること。ここに尽きます。
確定約定と予定取引の違い
確定約定と予定取引は、どちらも未認識の将来取引に関わりますが、実務判断は異なります。
確定約定は、通常、拘束力のある契約です。価格、数量、時期、相手方などが契約上定まっており、未認識ではあるものの、企業は契約上の権利義務を負っています。そのため、確定約定の公正価値変動リスクをヘッジする場合には、公正価値ヘッジとして整理されることが多くなります。ただし、外貨リスクについては、確定約定のヘッジを公正価値ヘッジまたはキャッシュ・フロー・ヘッジのいずれかとして会計処理することが認められています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
一方、予定取引は、まだ契約上の拘束力がない将来取引です。したがって、予定取引をヘッジ対象に指定する場合には、発生可能性が非常に高いことが重要な鍵になります。
この違いは、監査対応にも影響します。
確定約定であれば、契約書、発注書、取締役会承認、契約上の解約条項、違約金条項などが重要な証拠となります。予定取引であれば、予算、販売計画、購買計画、生産計画、過去実績、受注見込み、社内承認資料などが鍵になります。
つまり、同じ「将来取引」であっても、確定約定と予定取引とでは、ヘッジ対象としての証拠の性質そのものが違ってくるのです。
リスク要素をヘッジ対象に指定する場合
IFRS第9号では、項目全体ではなく、項目の構成要素をヘッジ対象に指定することができます。
構成要素として指定できるものは、主に次の3つです。
1つ目は、特定のリスクに起因するキャッシュ・フローまたは公正価値の変動部分、すなわちリスク要素です。
2つ目は、選択された1つまたは複数の契約上のキャッシュ・フローです。
3つ目は、名目金額部分、すなわち項目の金額の特定部分です。
IFRS第9号6.3.7は、項目全体または項目の構成要素をヘッジ対象に指定できることを定めています。そして、リスク要素については、特定の市場構造に照らして独立に識別可能であり、かつ信頼性をもって測定可能であることを求めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この「独立に識別可能」と「信頼性をもって測定可能」が、リスク要素指定の中心的な判断ポイントです。
たとえば、変動金利貸付金のLIBORまたは代替ベンチマーク金利部分、商品供給契約に含まれる特定のコモディティ価格要素、外貨建予定購入における為替リスクなどは、条件を満たせばリスク要素として指定できる余地があります。実務上も、金融商品項目に限らず非金融商品項目についても、リスク要素が独立に識別可能で信頼性をもって測定可能であれば、ヘッジ対象として指定できると整理されます。
ただし、注意したいのは、ヘッジ手段に存在するリスク要素を、そのままヘッジ対象にも存在するとみなすことはできない、という点です。リスク要素は、あくまでヘッジ対象側に存在していなければなりません。
たとえば、企業がコモディティ・デリバティブを使っているからといって、仕入契約の価格の中にそのコモディティ価格要素が独立に識別可能な形で存在しているとは限りません。契約価格が単一価格であり、価格決定メカニズムや市場構造から特定のリスク要素を抽出できない場合には、リスク要素指定が認められないこともあります。
リスク要素が契約上明示されているのであれば、識別可能性は比較的説明しやすくなります。反対に、契約上明示されていないリスク要素については、当該市場構造、価格形成の実務、市場参加者の行動、観察可能な価格情報などを踏まえた判断が求められます。IFRS第9号B6.3.8からB6.3.10は、リスク要素の適格性について、金融項目・非金融項目を問わず、当該市場構造と具体的な事実・状況に基づいて評価するよう求めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
非金融商品項目のリスク要素指定
IFRS第9号で実務上とりわけ重要なのは、非金融商品項目についても、リスク要素をヘッジ対象に指定できるという点です。
これにより、企業のリスク管理実務に近い指定が可能になります。たとえば、企業が製品価格全体ではなく、原材料価格、燃料価格、特定品質のコモディティ価格、為替リスクなどを管理している場合、条件を満たせば、そのリスク要素をヘッジ対象として指定できる余地があります。
ただし、非金融商品項目では、価格全体が複数の要因から形成されることが多く、リスク要素を切り出す判断は難しくなります。
検討すべき事項は、少なくとも次のとおりです。
- 契約価格にリスク要素が明示されているか
- リスク要素に対応する市場価格が観察可能か
- 価格決定式や業界慣行により、その要素が独立した価格構成要素といえるか
- ヘッジ対象リスクの変動を信頼性をもって測定できるか
- ヘッジ手段の基礎数値とヘッジ対象のリスク要素が整合しているか
- リスク要素以外の価格変動要因を非有効部分として適切に把握できるか
非金融商品項目のリスク要素についても、独立に識別可能で信頼性をもって測定可能であることが必要です。契約上明示されていないリスク要素であれば、具体的な事実・状況に基づく判断が欠かせません。
ここで一つ、意識しておきたいことがあります。リスク管理上「この価格をヘッジしている」と言えることと、会計上「このリスク要素をヘッジ対象として指定できる」ことは、同じではないという点です。
ヘッジ対象としての指定には、財務報告上測定できるリスク要素であることが求められます。
片側リスクの指定
IFRS第9号では、一定の場合に、片側リスクをヘッジ対象として指定することもできます。
片側リスクとは、たとえば、特定価格を上回る部分、あるいは下回る部分のみのリスクを指定するような場合を指します。オプションを用いたリスク管理と関連することの多い論点です。
もっとも、片側リスクを指定する場合であっても、ヘッジ対象リスクが独立に識別可能で信頼性をもって測定可能であること、有効性評価や非有効部分の測定が可能であること、ヘッジ手段の指定範囲と整合していることが必要になります。
片側リスクの指定は、会計上の損益変動を都合よく切り取るためのものではありません。リスク管理上、上方リスクまたは下方リスクをどのように管理しているのか、そのリスクがヘッジ対象側に存在しているのかを、きちんと説明できることが前提です。
名目金額の一部・階層要素の指定
ヘッジ対象は、項目全体だけでなく、名目金額の一部として指定することもできます。
たとえば、100億円の借入金のうち50億円部分、一定量の予定購入のうち最初に発生する一定数量、あるいは底だまり部分・上層部分といった階層要素などが問題になります。
こうした指定は、実際のリスク管理と整合しやすい一方で、監査上は識別可能性と追跡可能性が重要になります。
とりわけ階層要素を指定する場合には、次の点が問われます。
- 指定された階層が独立に識別可能か
- 信頼性をもって測定可能か
- リスク管理目的が階層要素のヘッジであるか
- 階層の元となる全体集合を識別・追跡できるか
- 取引発生時に、どの取引がヘッジ対象階層に該当するか判定できるか
- 予定取引の場合、その階層の発生可能性が非常に高いことを証明できるか
予定取引で階層要素を指定するとき、単に全体の取引量が多いというだけでは十分とは限りません。指定した階層部分が発生する可能性が非常に高いこと、そして実際に取引が発生したときにヘッジ対象として識別できることが必要です。
2026年適用の自然依存電力契約に関する留意点
近年、再生可能エネルギーの電力購入契約、いわゆるPPAに関連して、ヘッジ会計上の指定が問題になる場面が増えています。
IASBは2024年12月に、自然依存電力契約に関するIFRS第9号およびIFRS第7号の限定的な改正を公表しました。この改正は、風力・太陽光など、天候等の制御不能な自然条件により発電量が変動する契約を対象とするものです。自己使用要件の明確化、これらの契約をヘッジ手段として用いる場合のヘッジ会計の許容、追加開示を含んでおり、年次報告期間が2026年1月1日以後に開始する事業年度から適用されます。早期適用も認められています。
出典:IFRS Foundation|IASB updates IFRS Accounting Standards for nature-dependent electricity contracts
IFRS第9号6.10では、自然依存電力を参照する契約を予定電力取引のヘッジ手段として指定する場合、一定の要件のもとで、発電設備から引き渡されると見込まれる変動数量に合わせた予定電力取引の変動名目金額を、ヘッジ対象として指定することが認められています。さらに、ヘッジ手段である自然依存電力契約のキャッシュ・フローが、指定された予定取引の発生を条件としている場合には、その予定取引はIFRS第9号6.3.3における発生可能性が非常に高いものと推定されます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この点は、予定取引の指定に関する一般原則を置き換えるものではありません。あくまで、自然依存電力契約という特定の契約類型について、変動数量の予定取引をどのようにヘッジ対象として指定するかに関する、限定的な対応です。実務では、契約が改正の対象となる自然依存電力契約に該当するか、自己使用目的の会計処理との関係、デリバティブ会計との関係、ヘッジ対象となる予定電力取引の識別、IFRS第7号の追加開示を、一体として検討する必要があります。
適格なヘッジ手段の基本構造
続いて、ヘッジ手段を整理します。
IFRS第9号では、原則として、FVTPLで測定されるデリバティブをヘッジ手段として指定できます。ただし、一部の売建オプションには制限があります。また、FVTPLで測定される非デリバティブ金融資産または非デリバティブ金融負債も、一定の場合にはヘッジ手段として指定できます。さらに、為替リスクのヘッジについては、非デリバティブ金融資産または金融負債の外貨リスク要素をヘッジ手段として指定できる場合があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
実務で典型的なヘッジ手段は、次のようなものです。
- 為替予約
- 通貨スワップ
- 金利スワップ
- 商品先物・先渡契約
- オプション
- 一定のFVTPL金融商品
- 為替リスクのヘッジに用いる外貨建非デリバティブ金融負債など
ただし、ヘッジ手段として指定できるかどうかは、契約名で決まるものではありません。
たとえば、デリバティブに見える契約であっても、IFRS第9号の範囲外で自己使用目的の非金融商品購入・販売契約として処理される場合には、通常、FVTPLで測定されるヘッジ手段にはなりません。実務上も、ヘッジ手段として適格なデリバティブは原則としてFVTPLで測定されるものに限られ、IFRS第9号の範囲外の自己使用契約などは、ヘッジ手段としての指定に慎重な検討を要します。
ヘッジ手段は外部当事者との契約でなければならない
ヘッジ手段について外せないのは、報告企業の外部当事者との契約でなければならない、という点です。
IFRS第9号6.2.3は、ヘッジ会計の目的上、報告企業の外部当事者との契約のみをヘッジ手段として指定できると定めています。連結財務諸表であればグループ外部との契約、個別財務諸表であれば当該個別企業の外部との契約であることが必要です。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
これは、グループ財務部門が内部デリバティブを使って子会社のリスクを集約し、外部金融機関と一括ヘッジするような実務で問題になります。
リスク管理上は、子会社がグループ財務部門との内部デリバティブでリスクを管理していることがあります。しかし、連結財務諸表上は、グループ内部のデリバティブは消去されます。そのため、連結上のヘッジ手段としては、最終的に外部金融機関との契約をどう指定するかを整理しておかなければなりません。
一方、個別財務諸表上では、当該個別企業から見て外部当事者との契約であれば、グループ会社との契約がヘッジ手段になる場合があります。したがって、連結財務諸表と個別財務諸表とで、ヘッジ手段の指定可能性が異なることがあるわけです。
ヘッジ手段は原則として全体指定する
IFRS第9号では、適格なヘッジ手段は、原則として全体を指定します。ただし、いくつかの例外があります。
代表的な例外は、次の3つです。
1つ目は、オプション契約の本源的価値と時間的価値を区分し、本源的価値の変動のみをヘッジ手段として指定する場合です。
2つ目は、先渡契約の直物要素と先渡要素を区分し、直物要素のみをヘッジ手段として指定する場合です。加えて、金融商品の外貨ベーシス・スプレッドを区分し、ヘッジ手段の指定から除外することもできます。
3つ目は、ヘッジ手段全体の一定割合、たとえば想定元本の50%を指定する場合です。ただし、ヘッジ手段が存続する期間のうち一部期間の公正価値変動だけを指定することはできません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この指定は、実務上の損益表示に大きく影響します。
たとえば、為替予約を用いたヘッジで、直物要素のみをヘッジ手段として指定し、先渡要素をヘッジコストとして別処理する場合には、ヘッジ対象リスク、有効性評価、非有効部分、OCI、純損益への組替が変わってきます。
また、オプションの時間的価値をヘッジ手段に含めるか除外するかによっても、ヘッジコストの会計処理と開示が変わります。
したがって、ヘッジ手段の指定範囲は、単なるテクニカルな選択ではありません。企業のリスク管理目的、ヘッジ対象リスク、評価方法、損益・OCIの表示、注記に一貫して影響する判断です。実務上も、先渡契約の直物要素のみをヘッジ手段に指定することや、外貨ベーシス・スプレッドを指定から除外することは認められますが、その際には貨幣の時間価値や市場構造を踏まえた慎重な検討が求められます。
売建オプションと組合せヘッジ手段
売建オプションは、ヘッジ手段としての指定に制限があります。
売建オプションは、リスクを低減するというより、企業が追加的なリスクを引き受ける性質を持つ場合があります。そのため、IFRS第9号では、一定の場合を除き、売建オプションをヘッジ手段として指定することは認められていません。
また、金利カラーのように、買建オプションと売建オプションを組み合わせたデリバティブについても、指定時点で実質的に純売建オプションとなっている場合には、ヘッジ手段として適格にならない可能性があります。IFRS第9号は、複数の金融商品またはその一部を組み合わせて共同でヘッジ手段に指定することを認めていますが、その組合せが指定時点で実質的に純売建オプションである場合には、制限を受けます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
オプションを用いるヘッジでは、経済的に下方リスクだけを防ぎたい、上方の便益は残したい、という目的があることが多いものです。その場合には、ヘッジ対象リスク、片側リスクの指定、オプションの本源的価値・時間的価値の区分、非有効部分の発生原因を、一体として整理しておく必要があります。
項目グループをヘッジ対象に指定する場合
企業が複数の項目をグループとして一括管理している場合、その項目グループをヘッジ対象として指定できることがあります。
IFRS第9号では、項目グループがヘッジ対象として適格となるために、グループを構成する各項目が個々に適格なヘッジ対象であること、そして各項目がリスク管理目的上グループとして一括管理されていることが必要です。さらに、キャッシュ・フロー・ヘッジで相殺し合うリスク・ポジションがある場合には、追加の要件があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
実務では、次のような検討が必要になります。
- グループを構成する各項目は、単独でもヘッジ対象として適格か
- 各項目は、同じリスク管理目的のもとで一括管理されているか
- グループ管理の事実を示す内部資料があるか
- グループの構成項目、数量、期間、リスクが識別されているか
- ヘッジ手段は、グループ全体のリスク管理目的と整合しているか
- グループ内の各項目が異なる損益科目に影響する場合、表示上の影響を把握しているか
IFRS第9号では、IAS第39号と異なり、一定の要件を満たす項目グループについて、グループ内の各項目が同じリスクをすべて共有することまでは要求されません。実務上も、個々に適格なヘッジ対象で構成され、リスク管理目的上グループとして一括管理されていることが要になります。
項目グループの指定は、企業の実際のリスク管理に近い指定を可能にします。しかし、グループとして管理しているという主張だけでは足りません。財務部門やリスク管理部門の管理資料、ヘッジ方針、承認資料、モニタリング資料により、グループ管理の事実を示せることが求められます。
純額ポジションをヘッジ対象に指定する場合
純額ポジションは、項目グループの中でも、とりわけ実務判断の難しい領域です。
たとえば、外貨建売上と外貨建仕入が同じ通貨で発生する場合、企業は純額の為替エクスポージャーだけをヘッジしていることがあります。こうしたリスク管理は経済的にはごく自然ですが、会計上の指定には制約が伴います。
IFRS第9号では、純額ポジションがヘッジ対象として適格となるためには、企業がリスク管理目的上、純額ベースでヘッジしている必要があります。これは事実の問題であり、単なる主張や文書化だけでは足りません。また、抽象的な純額金額だけを指定することはできず、純額ポジションを構成する総額ポジションを含む項目グループ全体を指定しなければなりません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この点は、実務上、非常に重要です。
「米ドルの純額エクスポージャー20百万ドル」とだけ指定することはできません。その純額が、どの予定売上、どの予定仕入、どの確定約定、どの期間の取引から構成されるのかを、特定する必要があります。
さらに、純額ポジションのキャッシュ・フロー・ヘッジには、追加の制約があります。
純額ポジションのキャッシュ・フロー・ヘッジが適格となるには、為替リスクのヘッジであること、そして予定取引が純損益に影響すると見込まれる報告期間、取引の内容および数量が、当初の指定・文書化において特定されていることが必要です。実務上も、純額ポジションをキャッシュ・フロー・ヘッジとして指定できるのは、為替リスクであり、かつ予定取引の報告期間・内容・数量が特定されている場合に限られると整理されます。
純額ポジションの指定でつまずきやすいのは、リスク管理上のネット管理と、会計上のヘッジ対象指定を混同してしまうことです。
リスク管理上、純額ベースで管理していることは、あくまで出発点にすぎません。会計上は、その純額を構成する総額項目を識別し、予定取引の発生期間、内容、数量、損益影響のタイミングを文書化しておく必要があります。
純額ポジションの表示への影響
純額ポジションのキャッシュ・フロー・ヘッジでは、表示にも注意が必要です。
ヘッジされたリスクが純損益計算書上の異なる表示科目に影響する場合、ヘッジ手段の利得または損失は、ヘッジ対象の影響を受ける表示科目とは別の、独立した表示科目に表示されます。IFRS第9号6.6.4も、純額ポジションのヘッジでヘッジ対象リスクが損益およびOCI計算書の異なる表示科目に影響する場合には、ヘッジ損益をヘッジ対象の表示科目とは別に表示することを求めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この表示上の取扱いは、収益や売上原価の金額をヘッジ損益で直接調整しない、という意味を持ちます。投資家や経営管理部門への説明にあたっては、ヘッジ会計の効果がどの表示科目に出るのかを、あらかじめ整理しておく必要があります。
グループ内取引をヘッジ対象に指定できる場合
IFRS第9号では、ヘッジ対象についても、原則として報告企業の外部当事者との取引であることが求められます。
そのため、グループ内取引は、通常、連結財務諸表上のヘッジ対象にはなりません。連結上、グループ内取引は消去されるためです。
ただし、ここにも例外があります。
IFRS第9号6.3.6は、グループ内の貨幣性項目の為替リスクについて、IAS第21号に従い連結上完全には消去されない為替差損益のエクスポージャーが生じる場合には、連結財務諸表上のヘッジ対象となり得るとしています。また、発生可能性が非常に高いグループ内予定取引の為替リスクについても、その取引が取引実施企業の機能通貨以外の通貨建てであり、為替リスクが連結純損益に影響する場合には、連結上のヘッジ対象となり得ます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
たとえば、異なる機能通貨を有する子会社間のグループ内貸付について、為替差損益が連結上完全には消去されない場合があります。この場合には、純投資や貨幣性項目の会計処理との関係を整理したうえで、ヘッジ対象としての適格性を検討します。
また、グループ内ロイヤルティ、管理料、利息支払などは、通常、連結上消去されます。しかし、それが外部販売などと一体となって連結純損益に影響する場合には、例外的にヘッジ対象となる可能性があります。実務上も、可能性が非常に高いグループ内予定取引の為替リスクは、取引通貨が機能通貨と異なり、為替リスクが連結純損益に影響する場合に、キャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ対象となり得ると整理されます。
グループ内取引の指定では、「個別財務諸表ではヘッジ対象になるが、連結では消去されるためヘッジ対象にならない」という場面がしばしば生じます。連結・個別のどちらの財務諸表におけるヘッジ会計なのかを、最初に明確にしておくことが不可欠です。
合計エクスポージャーの指定
IFRS第9号では、合計エクスポージャーをヘッジ対象として指定することもできます。
合計エクスポージャーとは、ヘッジ対象として適格なエクスポージャーとデリバティブを組み合わせたエクスポージャーを指します。たとえば、ある借入金と金利スワップを組み合わせた結果として残る為替リスクを、さらに通貨スワップでヘッジするような場合が考えられます。
IFRS第9号6.3.4は、ヘッジ対象として適格なエクスポージャーとデリバティブの組合せである合計エクスポージャーを、ヘッジ対象として指定できると定めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この指定は、段階的なリスク管理を財務報告に反映するうえで有用です。
ただし、合計エクスポージャーの指定にあたっては、最初のエクスポージャーとデリバティブの組合せが何を生み出しているのか、その結果として何のリスクが残っているのか、そして第二段階のヘッジ手段がそのリスクをどう低減しているのかを、説明できることが求められます。
単に複数の金融商品を組み合わせているだけでは、合計エクスポージャーの指定として十分とはいえません。リスク管理目的と会計上の指定が、段階ごとに整合していることが必要です。
ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定で迷いやすい実務論点
1. 取引全体を指定するか、リスク要素を指定するか
ヘッジ対象を取引全体として指定すると、ヘッジ手段がカバーしていない要素まで、非有効部分の測定に含まれる可能性があります。
一方、リスク要素を指定すると、企業のリスク管理に近い会計処理になることがありますが、独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能であることを証明しなければなりません。
したがって、取引全体を指定するか、リスク要素を指定するかは、非有効部分を小さく見せるための選択ではなく、実際のリスク管理目的と測定可能性に基づく判断です。
2. 予定取引の発生可能性をどの資料で裏付けるか
予定取引の発生可能性は、経営者の説明だけでは不十分です。
過去実績、受注残、販売計画、購買計画、資金繰り計画、設備投資計画、取締役会承認資料、予算管理資料、顧客との交渉状況など、複数の証拠を組み合わせて説明する必要があります。
とりわけ、新規事業、新製品、M&A後の統合計画、未進出市場における取引、長期の予定取引では、過去実績だけでは十分といえないことがあります。
3. ヘッジ手段の除外要素をどう扱うか
オプションの時間的価値、先渡契約の先渡要素、外貨ベーシス・スプレッドをヘッジ手段の指定から除外する場合には、その除外要素の会計処理と開示を整理しておく必要があります。
指定から除外したからといって、財務報告上、無視できるわけではありません。ヘッジコストとして資本に認識される場合、純損益へ認識される場合、ヘッジ対象の性質に応じて会計処理が変わる場合があります。
4. 純額ポジションを抽象的に指定していないか
純額ポジションは、会計上、抽象的な金額として指定することはできません。
実務資料では「USD net exposure」とだけ記載されていることがありますが、ヘッジ会計の文書としては不十分です。どの総額ポジションが純額を構成しているのか、予定取引の内容・数量・報告期間が特定されているかを、確認する必要があります。
5. グループ内取引を連結上のヘッジ対象にしていないか
グループ内取引は、個別財務諸表上は外部取引に見えても、連結上は消去されます。
連結上ヘッジ対象にできるのは、為替リスクが連結純損益に影響するなど、IFRS第9号の例外要件を満たす場合に限られます。連結と個別を混同すると、ヘッジ会計の適格性判断を誤りかねません。
監査対応で整理すべき資料
ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定は、監査上、文書化と証拠の一貫性が問われます。
少なくとも、次の資料を整理しておく必要があります。
- リスク管理方針
- ヘッジ方針
- ヘッジ対象リスクの特定資料
- ヘッジ対象の契約書または予定取引の根拠資料
- ヘッジ手段の契約書・約定確認書
- ヘッジ指定文書
- ヘッジ比率の決定根拠
- リスク要素の識別可能性・測定可能性の検討資料
- 予定取引の発生可能性を示す資料
- 項目グループ・純額ポジションの構成明細
- グループ内取引の場合、連結純損益への影響分析
- 評価モデル・インプット・時価資料
- 会計仕訳と注記ドラフト
- 監査人との協議記録
とりわけ、ヘッジ対象とヘッジ手段の指定範囲は、その後の有効性評価、非有効部分の測定、OCI処理、純損益への組替、開示へと連鎖していきます。開始時点の文書化が曖昧だと、決算時点で後から整合させるのは難しくなります。
開示との接続
ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定は、IFRS第7号の開示にも直接つながります。
IFRS第7号は、ヘッジ会計を適用しているリスク区分ごとに、リスク管理戦略を説明することを求めています。その説明には、リスクがどのように生じるか、企業がどのようにリスクを管理しているか、項目全体をヘッジしているのかリスク要素をヘッジしているのか、どの程度のリスク・エクスポージャーを管理しているのかが含まれます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 7 Financial Instruments: Disclosures
また、IFRS第7号22Bは、使用しているヘッジ手段とその使用方法、ヘッジ対象とヘッジ手段の経済的関係をどのように判断しているか、ヘッジ比率をどのように設定しているか、ヘッジ非有効部分の発生原因を説明することを求めています。さらに、リスク要素をヘッジ対象として指定している場合には、そのリスク要素をどのように決定したか、項目全体との関係を説明する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 7 Financial Instruments: Disclosures
つまり、ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定は、単なる内部会計資料ではなく、財務諸表利用者への説明に直結するものだということです。
開示で問われるのは、次のような内容です。
- どのリスクをヘッジしているか
- なぜその項目をヘッジ対象に指定したか
- なぜその金融商品をヘッジ手段に指定したか
- ヘッジ対象を全体指定したのか、リスク要素指定したのか
- ヘッジ手段を全体指定したのか、直物要素・本源的価値などに分けたのか
- ヘッジ比率は実際のリスク管理と整合しているか
- どのような非有効部分が生じ得るか
- 将来キャッシュ・フローの金額・時期・不確実性にどう影響するか
したがって、ヘッジ会計の指定段階から、開示で説明する言葉を意識しておくことが望まれます。
実務上の判断フレーム
ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定は、次の順序で検討していくと整理しやすくなります。
1. リスク管理目的を確認する
まず、企業が何を管理しているのかを確認します。
金利の固定化なのか、外貨キャッシュ・フローの円貨額確定なのか、商品価格の変動リスク抑制なのか、在外営業活動体への投資為替リスクの管理なのか。ここを明確にします。
2. ヘッジ対象候補を特定する
次に、リスクに晒されている項目を特定します。
認識済み資産・負債、確定約定、予定取引、純投資、項目グループ、構成要素のいずれに該当するかを確認します。
3. ヘッジ対象の適格性を確認する
ヘッジ対象が信頼性をもって測定可能かを確認します。予定取引であれば、発生可能性が非常に高いことを確認します。リスク要素であれば、独立に識別可能かつ信頼性をもって測定可能かを確認します。
4. ヘッジ手段候補を確認する
デリバティブまたは非デリバティブ金融商品がヘッジ手段として適格かを確認します。FVTPL測定か、売建オプションの制限に該当しないか、外部当事者との契約かを確認します。
5. 指定範囲を決める
ヘッジ対象を全体指定するのか、リスク要素・契約キャッシュ・フロー・名目金額部分として指定するのかを決めます。
ヘッジ手段についても、全体指定か、本源的価値、直物要素、一定割合などの指定かを決めます。
6. ヘッジ比率を設定する
実際にヘッジしているヘッジ対象の数量と、実際に使用しているヘッジ手段の数量から生じる比率を確認します。会計上都合のよい比率ではなく、実際のリスク管理を反映した比率でなければなりません。
7. 文書化する
ヘッジ関係の開始時点で、ヘッジ対象、ヘッジ手段、ヘッジされるリスク、リスク管理目的、ヘッジ比率、有効性評価方法、非有効部分の発生原因を文書化します。
8. 開示へ接続する
最後に、IFRS第7号の開示を見据え、リスク管理戦略、ヘッジ手段、経済的関係、ヘッジ比率、リスク要素、非有効部分の発生原因を説明できるようにしておきます。
専門家に相談する前に整理しておきたい事項
ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定について専門家に相談する場合、次の情報を準備しておくと、論点整理がスムーズに進みます。
- ヘッジしたいリスクの内容
- リスク管理方針・財務方針・ヘッジ方針
- ヘッジ対象候補の契約書または予定取引資料
- ヘッジ手段候補の契約書・約定確認書
- 予定取引の発生可能性を示す資料
- リスク要素を指定したい場合、その価格形成メカニズムや市場データ
- 項目グループまたは純額ポジションの構成明細
- 連結・個別のどちらでヘッジ会計を適用したいか
- グループ内取引の場合、連結純損益への影響分析
- ヘッジ比率の根拠
- 想定している会計処理
- 注記方針
- 監査人との協議状況
ヘッジ会計は、開始時点の指定が後から修正しにくい領域です。契約締結後や決算直前に検討するのではなく、ヘッジ取引を実行する前、あるいは少なくとも指定開始時点で、会計上の指定可能性を確認しておくことが望まれます。
まとめ
IFRS第9号におけるヘッジ対象・ヘッジ手段の指定は、ヘッジ会計の入口であり、実務上の成否を左右する論点です。
ヘッジ対象として指定できるのは、認識済み資産・負債、未認識の確定約定、予定取引、在外営業活動体に対する純投資、またはそれらの項目・項目グループの構成要素です。ただし、信頼性をもって測定可能であること、予定取引であれば発生可能性が非常に高いこと、リスク要素であれば独立に識別可能で信頼性をもって測定可能であることが必要です。
ヘッジ手段については、FVTPLで測定されるデリバティブが中心となりますが、一部の売建オプションには制限があります。また、一定の非デリバティブ金融商品をヘッジ手段として指定できる場合もあります。ヘッジ手段は、報告企業の外部当事者との契約でなければならず、原則として全体指定しますが、本源的価値、直物要素、外貨ベーシス・スプレッド、一定割合などの例外的な指定も認められます。
項目グループや純額ポジションの指定は、実際のリスク管理を財務報告に反映するうえで有用ですが、要件は厳格です。純額ポジションを抽象的な金額として指定することはできず、構成する総額ポジションを特定する必要があります。キャッシュ・フロー・ヘッジの純額ポジションについては、為替リスクに限定され、予定取引の報告期間、内容、数量の特定が求められます。
ヘッジ会計の指定は、会計処理のためだけの手続ではありません。リスク管理、契約条件、予定取引の証拠、評価方法、監査対応、IFRS第7号の開示説明を、一体で支える基礎です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに基づくヘッジ会計の適用可否、ヘッジ対象・ヘッジ手段の指定、予定取引やリスク要素の文書化、純額ポジションの整理、監査対応資料・開示資料の作成に関するご相談を承っております。ヘッジ会計の適用を検討している段階、既存のヘッジ指定の妥当性に不安がある段階、監査人から指定根拠やリスク要素の説明を求められている段階では、早期に論点を整理しておくことが重要です。ご相談をご希望の場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| ヘッジ対象の基本類型 | 認識済み資産・負債、未認識の確定約定、予定取引、在外営業活動体への純投資が候補となる |
| 信頼性ある測定 | ヘッジ対象は信頼性をもって測定可能でなければならない |
| 予定取引 | 発生可能性が非常に高く、時期・金額・内容を識別できる程度に具体化されている必要がある |
| 確定約定 | 契約上の拘束力、価格、数量、時期、相手方、解約条項などを確認する |
| リスク要素 | 独立に識別可能で信頼性をもって測定可能な場合に指定できる |
| 非金融商品項目 | 商品価格、為替リスクなどをリスク要素として指定できる場合があるが、市場構造と測定可能性の検討が必要 |
| 名目金額部分 | 金額の一定割合や階層要素を指定できる場合があるが、識別・追跡可能性が重要 |
| ヘッジ手段 | 原則としてFVTPLで測定されるデリバティブが中心となる |
| 非デリバティブ金融商品 | 一定の場合にヘッジ手段として指定可能だが、FVTPL測定や為替リスク指定の要件に注意する |
| 外部当事者要件 | 連結上はグループ外部との契約、個別上は当該個別企業の外部との契約であることが必要 |
| ヘッジ手段の一部指定 | 本源的価値、直物要素、外貨ベーシス・スプレッド、一定割合などの指定が認められる場合がある |
| 売建オプション | 原則として制限があり、実質的に純売建オプションとなる組合せにも注意する |
| 項目グループ | 各項目が個々に適格であり、リスク管理目的上グループとして一括管理されている必要がある |
| 純額ポジション | 抽象的な純額ではなく、構成する総額ポジションを含む項目グループとして指定する |
| 純額ポジションのCFヘッジ | 為替リスクに限定され、予定取引の報告期間・内容・数量を特定する必要がある |
| グループ内取引 | 連結上は原則としてヘッジ対象にならないが、為替リスクが連結純損益に影響する場合には例外がある |
| 合計エクスポージャー | 適格なエクスポージャーとデリバティブの組合せを、ヘッジ対象として指定できる場合がある |
| 自然依存電力契約 | 2026年適用の改正により、一定の自然依存電力契約について変動名目金額の予定電力取引指定が認められる場合がある |
| 監査対応 | 指定時点の文書化、契約条件、予定取引の証拠、リスク要素の測定根拠、開示方針を一貫させる |
| 開示 | IFRS第7号上、リスク管理戦略、ヘッジ手段、経済的関係、ヘッジ比率、リスク要素、非有効部分の発生原因の説明につながる |