IFRSにおける事業セグメント情報の実務判断|CODM・内部報告・報告セグメント・集約・調整表の考え方

事業セグメント情報は、単なる注記項目のひとつではありません。

IFRSにおけるセグメント情報とは、企業が外部の財務諸表利用者に対して、「経営者が企業をどの単位で見ているのか」「どの事業に資源を配分し、どの単位で業績を評価しているのか」を示すための開示です。売上や利益を事業別に並べただけの表ではなく、企業の経営管理構造そのものを財務報告に接続する情報として捉える必要があります。

IFRS第8号は、財務諸表利用者が、企業の事業活動の性質と財務的影響、そして企業が事業を行っている経済環境を評価できるようにする、という開示の基本原則を置いています。適用範囲についても定めがあり、公開市場で負債性金融商品または資本性金融商品が取引されている企業、あるいは公開市場で金融商品を発行する目的で財務諸表を規制当局等に提出している企業の個別財務諸表・連結財務諸表等に適用されます。連結財務諸表と親会社の個別財務諸表の双方が含まれる場合、セグメント情報が要求されるのは連結財務諸表に限られます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

実務で本当に難しいのは、IFRS第8号の文言を知っているかどうかではありません。

難しいのは、経営管理上の単位、取締役会・経営会議への報告単位、予算管理単位、責任者の単位、グループ会社の管理単位、製品・サービス別の管理、地域別の管理、投資意思決定の単位、これらが一致しない場面で、どの単位を事業セグメントとして外部開示に反映するかという判断です。

本稿では、IFRS第8号に基づく事業セグメント情報について、CODM、内部報告、事業セグメント、報告セグメント、集約、測定、調整表、企業全体の開示、監査対応を中心に整理していきます。管理会計制度そのものの設計や、社内KPI体系の構築そのものは扱いません。あくまで、IFRS財務諸表において説明可能なセグメント情報を、どのように判断し、開示し、監査に耐える形へ整えるかを対象とします。

目次

セグメント情報は「経営者の視点」を財務諸表に持ち込む開示である

IFRS第8号の中心にあるのは、マネジメント・アプローチという考え方です。

これは、外部開示のためにあらためて理想的な事業区分を作り直す、という発想ではありません。企業の最高経営意思決定者が、資源配分と業績評価のために実際に使っている内部報告を土台として、そのままセグメント情報を開示するという考え方です。実務の観点から整理すると、IFRS第8号は、日常的に経営者が利用している内部管理資料に基づいてセグメント別報告を行うマネジメント・アプローチを採用しており、CODMが資源配分と業績評価のために用いている報告と同じ基礎を使う、という点に集約できます。

そのため、セグメント情報は、財務諸表作成部門の中だけで完結する論点ではありません。

経理部門が事業別の売上表を作成している、というだけでは足りないのです。経営会議資料、取締役会資料、予算会議資料、事業責任者別の業績報告、投資判断資料、M&A後の管理資料、海外子会社のレポーティングパッケージなどを実際に確認し、経営者がどの単位で意思決定を下しているのかを見極める必要があります。

ここで注意したいのは、外部開示上「見せたい事業区分」と、内部管理上「実際に使っている事業区分」がずれている場合です。IFRS第8号は、経営者の実際の管理単位に近い情報を開示させることで、利用者が企業の将来業績やリスクを理解できるようにする基準といえます。ですから、投資家向け説明資料では細かい事業別KPIを示しているのに、財務諸表の注記では過度に集約されたセグメントしか開示していない、という状態であれば、その整合性は当然に検討の対象になります。

IFRS第8号の適用後レビューでも、この点は裏づけられています。セグメント情報、経営者による説明、アナリスト向け資料が整合していれば、投資家にとってより統合的で深い情報になる一方、これらの基礎が食い違っていると懸念が生じる、という指摘が示されています。
出典:IFRS Foundation|Post-implementation Review: IFRS 8 Operating Segments—Feedback Statement

CODMは肩書ではなく機能で判断する

事業セグメント情報の出発点は、CODMの識別にあります。

CODMとは、Chief Operating Decision Makerの略で、一般に「最高経営意思決定者」と訳されます。ただし、IFRS第8号にいうCODMは、特定の役職名を指すものではありません。IFRS第8号は、CODMを、企業の事業セグメントに資源を配分し、その業績を評価する「機能」として捉えています。多くの場合は最高経営責任者や最高業務責任者が該当し得ますが、取締役会、経営会議、執行役会といったグループが該当することもあります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

したがって、「社長がCODMである」と形式的に決めてしまうだけでは不十分です。実務では、次のような観点からCODMを確認していきます。

  • 誰が事業別の予算を承認しているか
  • 誰が事業別の業績を定期的にレビューしているか
  • 誰が投資、人員、撤退、M&A、設備投資、資金配分を決定しているか
  • どの会議体に事業別の財務情報が提出されているか
  • 事業責任者は誰に対して報告責任を負っているか
  • 業績評価と報酬・人事評価が、どの単位に連動しているか

形式上は取締役会が最終決定機関であっても、実質的には執行会議が資源配分と業績評価を担っている、という場合があります。逆に、経営会議が存在していても、実質的な意思決定は特定の経営者が行っているというケースもあります。CODMの判断にあたっては、社内規程上の権限だけを見るのではなく、実際の報告・意思決定・承認の流れそのものを確認しておく必要があります。

事業セグメントの3要件

IFRS第8号における事業セグメントとは、企業の構成単位のうち、次の3つを満たすものを指します。

第一に、その活動から収益を稼得し、費用を負担する事業活動に従事していること。この収益・費用には、同一企業内の他の構成単位との取引に関連するものも含まれます。

第二に、その経営成績がCODMによって定期的に検討され、当該セグメントに配分すべき資源に関する意思決定と業績評価に用いられていること。

第三に、その構成単位について、分離した財務情報を入手できること。

IFRS第8号は、収益をまだ稼得していない創業段階の事業活動であっても、他の要件を満たせば事業セグメントになり得るとしています。一方で、企業本社や一部の機能部門は、収益を稼得しない、または収益が企業活動に付随的なものにとどまる場合には、通常、事業セグメントには該当しません。退職後給付制度も、IFRS第8号上の事業セグメントにはなりません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

この3要件のうち、実務で最も判断に迷うのは、「CODMが定期的に検討しているか」と「分離した財務情報を入手できるか」の2つです。

たとえば、売上高だけが事業別に報告されているとしても、それだけで各事業がただちに事業セグメントになるわけではありません。CODMがその単位で業績を評価し、資源配分を決定できるだけの情報が提供されているかどうかを、確認する必要があります。具体的に、サービスライン別の収益だけが報告され、営業費用や資産は全体ベースでしか報告されていない、という状況を考えてみましょう。こうした場合には、個々のサービスラインを別個の事業セグメントとはいえない可能性がある、と整理できます。

反対に、外部顧客への売上がない内部供給部門や、研究開発段階の事業であっても、CODMがその単位の業績を評価し、資源配分を判断しているのであれば、事業セグメントに該当し得ます。収益の有無ではなく、経営管理上の意思決定単位であるかどうかが決め手になります。

複数の内部報告が存在する場合

企業が、ひとつの切り口だけで管理されているとは限りません。

製品別、地域別、顧客別、販売チャネル別、法人別、プロジェクト別、機能別など、複数の管理軸が同時に走っていることがあります。IFRS第8号も、企業が事業活動を複数の方法で表現した報告書を作成することを想定しています。CODMが複数のセグメント情報を使用している場合には、事業活動の性質、責任者の存在、取締役会に提出される情報などを踏まえて、どの構成単位の組合せが事業セグメントを構成するのかを判断します。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

とりわけマトリックス組織では、慎重な判断が求められます。

ある管理者は製品ライン別に責任を持ち、別の管理者は地域別に責任を持つ。CODMは製品別と地域別の双方の業績を見ていて、どちらにも分離した財務情報がある。こうした場合、IFRS第8号は、基本原則に照らして、どの構成単位を事業セグメントとするかを判断するよう求めています。

その判断は、外部開示上の都合だけで決めるべきものではありません。資源配分に実質的に使われている軸はどれか。責任者が業績責任を負っている単位はどれか。予算、投資、撤退、報酬、人員配置と連動している単位はどれか。こうした点を踏まえたうえで、財務諸表利用者が企業の事業活動の性質と財務的影響を理解できる単位を選び取っていくことになります。

報告セグメントの決定

事業セグメントを識別したからといって、そのすべてをそのまま報告セグメントとして開示するわけではありません。

IFRS第8号では、識別された事業セグメント、または一定の要件を満たして集約された事業セグメントのうち、量的基準を超えるものについて、個別に報告する必要があります。量的基準には、収益、損益、資産の3つがあります。

収益については、外部顧客への売上だけでなく、セグメント間の売上・振替も含めた報告収益が、すべての事業セグメントの合計収益の10%以上であるかを見ます。

損益については、報告利益または損失の絶対額が、利益を報告したセグメントの合計利益と、損失を報告したセグメントの合計損失の絶対額の、いずれか大きい方の10%以上であるかを見ます。

資産については、セグメント資産が、すべての事業セグメントの資産合計の10%以上であるかを見ます。

なお、これらの量的基準を満たさない事業セグメントであっても、経営者がその情報を財務諸表利用者にとって有用だと判断する場合には、報告セグメントとして個別に開示することが認められています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

さらに、外部顧客からの収益についても基準があります。報告セグメントに含まれる外部収益が企業全体の収益の75%未満である場合には、量的基準を満たさない事業セグメントであっても、少なくとも75%に達するまで、追加で報告セグメントを識別しなければなりません。報告セグメントに該当しないその他の事業活動や事業セグメントは、「その他のすべてのセグメント」として、調整項目とは区別して開示します。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

この75%テストは、実務上、見落とされやすい論点です。10%基準だけを機械的に当てはめていると、企業全体としては大きな収益が「その他」に埋もれてしまうことがあります。セグメント情報の目的は、重要な事業活動を外部利用者に理解してもらうことにあります。その目的に立ち返れば、10%基準を満たさないから開示しない、という判断だけで済ませるのは不十分だといえるでしょう。

集約は「開示を減らす手段」ではない

複数の事業セグメントを、1つの報告セグメントに集約できる場合があります。

ただし、集約は開示を簡素化するための便宜ではありません。IFRS第8号では、集約が基本原則と整合していること、集約される事業セグメントが類似した経済的特徴を有していること、さらに製品・サービスの性質、生産プロセス、顧客の種類、販売・提供方法、規制環境が類似していること、これらがそろって初めて認められます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

集約判断で問題になりやすいのは、「経済的特徴が類似している」と本当にいえるのか、という点です。

売上成長率、粗利率、営業利益率、資本集約度、顧客構造、価格決定メカニズム、規制の有無、為替・金利・資源価格への感応度、事業ライフサイクル。これらが大きく異なるのであれば、形式上は同じ製品群や同じ地域に属していたとしても、安易に集約することはできません。

逆に、法的な会社単位や組織図上の部門名が違っていても、経済的特徴と事業内容が実質的に似ていて、CODMの管理上も一体として評価されているのであれば、集約が検討の対象になります。

大切なのは、集約という結論そのものよりも、そこに至る判断の過程です。IFRS第8号は、報告セグメントを識別するために用いた要素に加えて、集約基準を適用する際に経営者が行った判断を開示するよう求めています。具体的には、集約された事業セグメントの概要や、類似した経済的特徴を有すると判断するにあたって評価した経済指標について、説明する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

この点は、監査上も見過ごせません。赤字事業を黒字事業と集約して見えにくくしていないか。成長事業と成熟事業を集約して、経済的特徴を曖昧にしていないか。規制環境の異なる事業を一括りにしていないか。投資家説明では別事業として語っているのに、財務諸表の注記では集約していないか。こうした問いが、集約判断の説明可能性を左右することになります。

セグメント測定はIFRS測定と一致するとは限らない

IFRS第8号では、報告セグメントに表示する金額を、CODMに報告されている測定値を基礎として算定します。

つまり、セグメント利益、セグメント資産、セグメント負債は、必ずしもIFRS財務諸表の測定基礎と一致するわけではありません。内部管理上、償却前利益、事業利益、調整後営業利益、税引前利益、EBITDA、管理会計ベースの利益、投資回収ベースの指標といったものが使われているのであれば、その測定値がセグメント情報の基礎になり得ます。

IFRS第8号は、各セグメント項目の金額について、CODMが資源配分と業績評価のために報告を受けている測定値を用いるよう求めています。連結財務諸表作成上の調整・消去や、収益・費用・利得・損失の配分についても、CODMが使用するセグメント損益の測定値に含まれている場合にのみ、セグメント損益に含めます。資産・負債についても同じ考え方で、CODMが使用するセグメント資産・負債の測定値に含まれているものだけを報告します。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

ここで実務上の悩みになりやすいのが、内部管理上の利益指標が複数存在するケースです。

CODMが営業利益、EBITDA、税引前利益、投下資本利益率など、いくつもの指標を見ている場合、そのうちどの測定値をセグメント損益として報告するのかを判断しなければなりません。IFRS第8号は、CODMが複数の測定値を使用しているときは、財務諸表上の対応する金額の測定原則と最も整合するものを、経営者が判断して報告するよう求めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

したがって、社内では「経営管理上はEBITDAが最重要だ」と説明しているのに、注記では別の利益指標をセグメント損益として開示する、という場合には、その理由を整理しておく必要があります。反対に、CODMが実質的に参照していないIFRSベースの営業利益を、外部開示のためだけにセグメント損益として表示するのも、マネジメント・アプローチとの整合という点で問題になりかねません。

調整表は「形式的な差額合わせ」ではない

セグメント情報では、内部管理ベースの数値とIFRS財務諸表の数値が食い違うことがあります。だからこそ、調整表が重要になります。

IFRS第8号は、報告セグメントの収益合計と企業全体の収益、報告セグメントの損益測定値合計と企業全体の税引前利益等、報告セグメント資産合計と企業全体の資産、報告セグメント負債合計と企業全体の負債、そのほか重要な開示項目について、対応する企業全体の金額への調整を求めています。あわせて、重要な調整項目は個別に識別し、その内容を説明する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

調整表で肝心なのは、差額を単に「調整額」として一括表示してしまわないことです。

調整項目には、たとえば次のようなものが含まれ得ます。

  • セグメント間取引の消去
  • 本社費・共通費の未配賦、または配賦差額
  • 内部管理上の会計方針とIFRS会計方針の差異
  • 減損損失、企業結合関連費用、株式報酬費用、リストラクチャリング費用などの扱いの差異
  • 非継続事業や売却目的保有資産に関する表示差異
  • 持分法投資損益、法人所得税、金融収益・金融費用の配分差異
  • グループ内取引、未実現利益、連結消去の影響
  • 為替換算や超インフレ会計に関する影響

これらをどの粒度で開示するかは、重要性と利用者の理解可能性を踏まえて判断していきます。調整表は、内部管理情報とIFRS財務諸表とをつなぐ橋のような存在です。調整の説明が弱いと、セグメント情報は、経営管理上の説明にも、財務諸表上の説明にも耐えにくいものになってしまいます。

セグメント損益に含まれる収益・費用の開示

IFRS第8号は、各報告セグメントについて、セグメント損益の測定値を開示するよう求めています。

あわせて、外部顧客からの収益、セグメント間収益、金利収益、金利費用、減価償却費・償却費、重要な収益・費用項目、持分法投資損益、法人所得税費用・収益、減価償却費・償却費以外の重要な非資金項目などについても、それらがCODMのレビューするセグメント損益に含まれている場合、またはCODMに定期的に提供されている場合には、開示が必要になります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

この点については、IFRS解釈指針委員会のアジェンダ決定も押さえておきたいところです。2024年7月に公表され、2026年1月にIFRS第18号への参照に更新されたアジェンダ決定では、IFRS第8号第23項の指定金額について、CODMがレビューするセグメント損益の測定値に含まれている場合、または、その測定値に含まれていなくてもCODMに定期的に提供されている場合には、各報告セグメントについて開示する必要がある、と整理されています。
出典:IFRS Foundation|Agenda Decision: Disclosure of Revenues and Expenses for Reportable Segments (IFRS 8)

さらに、重要な収益・費用項目については、IFRS第18号の重要性や、集約・分解の考え方との関係も意識しておく必要があります。このアジェンダ決定では、重要性は財務諸表全体の文脈で判断し、性質か金額か、あるいはその双方を考慮するとされています。その一方で、IFRS第8号第23項は、損益計算書や注記で表示・開示されるすべての収益・費用項目を、セグメント別に開示することまでは求めていません。セグメント別に何を開示するかは、あくまでIFRS第8号の基本原則を踏まえて判断していくことになります。
出典:IFRS Foundation|Agenda Decision: Disclosure of Revenues and Expenses for Reportable Segments (IFRS 8)

実務では、CODM向けの月次報告や四半期報告にどの費用項目が含まれているのか、別紙ではどの費用が提供されているのか、取締役会資料と経営会議資料とで粒度が異なるときはどちらを基礎とするのか、といった点を整理しておく必要があります。

企業全体の開示を軽視してはいけない

報告セグメントの情報だけで、IFRS第8号の開示が完結するわけではありません。

IFRS第8号は、すべての適用対象企業に対して、企業全体の開示として、製品・サービス別情報、地域別情報、主要顧客情報を求めています。これは、単一の報告セグメントしか持たない企業にも適用されます。報告セグメントが製品・サービス別や地域別に整理されていない場合であっても、製品・サービスや地域に関する外部収益等の情報を提供する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

製品・サービス別情報では、各製品・サービス、または類似する製品・サービスグループごとに、外部顧客からの収益を開示します。

地域別情報では、外部顧客からの収益について、企業の所在地国と外国全体とを区分し、重要な個別外国がある場合にはその国別収益を開示します。また、金融商品、繰延税金資産、退職後給付資産、保険契約から生じる権利等を除く非流動資産についても、所在地国と外国全体とを区分し、重要な個別外国があれば個別に開示します。

主要顧客情報では、単一の外部顧客との取引からの収益が企業収益の10%以上である場合に、その事実、当該顧客からの収益合計、そしてその収益を報告しているセグメントを開示します。ただし、顧客名そのものや、各セグメントがその顧客から得た収益額まで開示する必要はありません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

企業全体の開示は、セグメント情報の補足という位置づけではなく、利用者が事業リスクを理解するうえで欠かせない情報です。特定製品への依存、特定地域への依存、特定顧客への依存は、いずれも将来キャッシュ・フロー、減損、信用リスク、収益認識、資本市場での評価に影響します。とりわけ主要顧客の有無は、収益認識、信用リスク、契約資産、ECL、継続企業、事業計画の説明にまでつながっていきます。

セグメント変更と比較情報

企業の組織再編、M&A、事業売却、経営管理体制の変更、CODMの変更、地域統括会社の設置、事業責任者制への移行などによって、報告セグメントの構成が変わることがあります。

IFRS第8号は、内部組織構造の変更によって報告セグメントの構成が変わる場合、必要な情報が利用可能であり、かつ作成コストが過大でない限り、過去期間の対応情報を修正再表示するよう求めています。修正再表示しない場合には、変更年度において、旧基準と新基準の双方に基づく当期セグメント情報を開示しなければなりません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 8 Operating Segments

この論点は、決算実務の負荷が特に高い領域です。

セグメント変更は、経営管理上はごく自然な見直しであっても、財務諸表利用者にとってはトレンド情報の断絶を意味します。ですから、変更理由、変更前後の対応関係、過去期間情報の作成可能性、基幹システムや連結パッケージ上のデータ取得可能性、監査証拠の確保可能性を、早い段階で確認しておく必要があります。

組織再編を終えてから、決算作業のなかで初めて過年度セグメント情報の再作成を試みると、すでに必要なデータが失われている、ということも起こり得ます。セグメント変更を伴う組織再編やM&Aでは、会計処理そのものだけでなく、セグメント情報の比較開示まで見据えて、事前に検討しておくことが重要です。

IFRS第18号との接続

IFRS第18号は、2027年1月1日以後に開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められています。IFRS第18号はIAS第1号を置き換え、損益計算書の新たな小計、経営者定義業績指標、集約・分解の原則などを導入するものです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

セグメント情報との関係では、特に2つの点を意識しておきたいところです。

ひとつは、IFRS第18号によって損益計算書上の表示構造と、注記における集約・分解の考え方が変わるため、IFRS第8号第23項に基づく重要な収益・費用項目の開示にも影響が及ぶという点です。

もうひとつは、経営者定義業績指標、いわゆるMPMとセグメント損益指標との整合性です。セグメント損益はCODMが使用する測定値を基礎とします。一方、MPMは財務諸表外の公表コミュニケーションで用いられ、経営者の業績観を伝えるための指標です。両者は同じ概念ではありませんが、経営者が外部に示す業績指標と、セグメント注記で示す業績指標とが大きく食い違う場合には、その違いを説明できるようにしておく必要があります。

IFRS第18号への対応では、損益計算書の表示科目だけでなく、セグメント損益、調整表、注記、IR資料、取締役会資料の整合性まで確認しておくべきでしょう。

他のIFRS論点との接続

事業セグメント情報は、他のIFRS論点と切り離して考えることができません。

とりわけ重要なのが、のれんの減損との関係です。IAS第36号では、のれんを配分した資金生成単位または資金生成単位グループについて、内部管理目的でのれんが監視されている最小単位を反映し、かつ、集約前のIFRS第8号上の事業セグメントより大きくしてはならない、という考え方が置かれています。実務的に整理すると、のれんの減損テストを行う最大単位は、集約前の事業セグメント・レベルに制約されることになります。

つまり、セグメント情報は、単なる開示注記にとどまらず、減損テストの単位、のれん配分、事業計画、M&A後の管理、企業価値評価にまで影響を及ぼします。

収益認識との関係では、IFRS第15号の収益分解注記と、IFRS第8号の製品・サービス別情報や報告セグメント別収益との整合性が問題になります。

リースとの関係では、事業別のROU資産、リース負債、EBITDAへの影響が、内部管理上どの単位で見られているかが、セグメント資産・負債の開示に影響し得ます。

金融商品との関係では、金利収益・金利費用、市場リスク、信用リスク、金融負債の配分が、金融事業を含む企業のセグメント情報に影響します。

税効果との関係では、法人所得税費用をセグメントに配分しているかどうか、配分している場合の調整表の表示が論点になります。

このように、セグメント情報は、財務諸表全体を横断的にレビューすべき項目だといえます。

監査対応で確認されやすいポイント

事業セグメント情報の監査対応では、基準の要件だけでなく、実際の経営管理資料との整合が確認されます。

典型的には、次のような資料が確認の対象になります。

  • 取締役会資料
  • 経営会議資料
  • 月次業績報告資料
  • 予算・中期経営計画
  • 事業別KPI資料
  • 投資・撤退・M&Aの意思決定資料
  • 事業責任者別の業績評価資料
  • 連結パッケージ
  • IR説明資料、決算説明資料、統合報告書、任意開示資料
  • 組織図および権限規程
  • 内部管理上の会計方針、配賦ルール、共通費配分基準
  • 報告セグメントの集約判断メモ
  • セグメント損益とIFRS財務諸表数値の調整表

監査上の論点になりやすいのは、たとえば次のような場面です。

  • CODMの識別が形式的で、実際の意思決定資料と合っていない
  • 内部報告では複数事業に分けて管理しているのに、注記では単一セグメントとしている
  • 赤字事業や新規事業が「その他」に含まれ、利用者にとって重要な情報が見えにくくなっている
  • 集約判断の根拠が、類似した経済的特徴ではなく、開示を減らす目的に見える
  • セグメント損益が内部管理指標と異なり、なぜその測定値を開示したのか説明できない
  • 調整表の差額が大きいのに、調整内容が十分に説明されていない
  • 主要顧客、地域情報、製品・サービス別情報の作成基礎が曖昧である
  • IFRS第18号対応後の損益表示・MPM・セグメント損益の整合が取れていない

これらは、注記チェックリストで確認するだけでは、なかなか見つけにくい論点です。実務では、会計チーム、経営企画、IR、事業部門、海外子会社管理、内部統制担当者が連携し、セグメント情報の判断過程を文書として残しておくことが求められます。

実務上の整理手順

事業セグメント情報を整理するときは、次の順序で検討していくと、論点の漏れを防ぎやすくなります。

まず、IFRS第8号の適用対象を確認します。公開市場で取引される負債性金融商品または資本性金融商品があるか、上場準備等により規制当局へ財務諸表を提出しているか、連結財務諸表においてセグメント情報が必要か、という点を押さえます。

次に、CODMを識別します。役職名ではなく、資源配分と業績評価の機能を誰が担っているのかを、会議体、承認権限、内部報告資料から確認します。

続いて、CODMが定期的にレビューしている内部報告資料を特定します。月次、四半期、予算、中期計画、投資判断資料など、実際に意思決定に使われている資料を洗い出します。

そのうえで、事業セグメントを識別します。収益・費用の発生、CODMによる定期的レビュー、分離した財務情報の有無を検討していきます。

次に、報告セグメントを決定します。集約基準、10%基準、75%基準、その他のすべてのセグメントを整理します。

続いて、セグメント損益、セグメント資産、セグメント負債の測定基礎を整理します。CODMが使用する測定値、複数測定値の有無、IFRS財務諸表との違いを確認します。

次に、調整表を作成します。収益、損益、資産、負債、その他重要項目について、セグメント合計と財務諸表金額を調整し、重要な差額を個別に説明します。

そのうえで、企業全体の開示を確認します。製品・サービス別収益、地域別収益・非流動資産、主要顧客情報を整理します。

最後に、監査対応資料を作成します。CODM判断、内部報告資料、集約判断、測定基礎、調整表、比較情報、開示案を一体として説明できるように整えておきます。

まとめ

IFRSにおける事業セグメント情報は、企業の内部管理構造を外部開示へと接続する領域です。

ですから、売上高を事業別に分けるだけでは足りません。CODMが誰か、どの単位で業績を見ているか、どの単位で資源を配分しているか、どの内部報告資料が実際に使われているか、どの事業を集約してよいか、セグメント損益をどの測定値で示すか、財務諸表金額との調整をどう説明するか。これらを、実務に即して丁寧に整理していく必要があります。

セグメント情報は、企業の事業構造、将来業績、リスク、M&A後の統合状況、海外展開、主要顧客への依存、地域リスク、減損テスト、IR説明に直結します。注記の形式を整えるだけでなく、経営者の見方と、財務諸表利用者への説明とをつなぐ情報として設計していくことが重要です。

事業セグメント、報告セグメント、集約判断、CODM向け内部報告、調整表、主要顧客・地域情報、そしてIFRS第18号対応との整合について、監査対応や開示資料化まで含めて整理が必要な場合には、早い段階で内部報告資料と会計基準上の要求事項を突き合わせておくことが有効です。犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに関する会計処理、表示・開示、監査対応、論点整理資料の作成について、取引実態と経営管理実態に即した形で整理を支援しています。必要に応じて、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点実務上のポイント
セグメント情報の目的事業活動の性質、財務的影響、経済環境を財務諸表利用者が理解できるようにする。
マネジメント・アプローチ外部開示用の区分ではなく、CODMが実際に使用する内部報告を基礎にする。
CODM肩書ではなく、資源配分と業績評価を行う機能で判断する。
事業セグメント収益・費用を発生させる活動、CODMによる定期的レビュー、分離した財務情報の3要件を満たす構成単位。
未収益事業収益稼得前の新規事業でも、要件を満たせば事業セグメントになり得る。
複数の内部報告製品別、地域別、顧客別など複数軸がある場合、基本原則に照らして事業セグメントを判断する。
報告セグメント事業セグメントまたは集約後セグメントのうち、量的基準等を満たすものを個別開示する。
10%基準収益、損益、資産のいずれかの基準を満たす場合、個別報告が必要になる。
75%基準報告セグメントの外部収益が企業全体収益の75%未満の場合、追加セグメントの識別が必要になる。
集約判断類似した経済的特徴と、製品・サービス、生産プロセス、顧客、販売方法、規制環境の類似性を確認する。
セグメント測定CODMに報告される測定値を基礎とし、IFRS財務諸表測定と一致するとは限らない。
複数の利益指標CODMが複数指標を使う場合、財務諸表の対応金額と最も整合する測定値を判断する。
調整表セグメント合計と財務諸表金額の差異を、重要な調整項目ごとに説明する。
指定収益・費用項目CODMがレビューする測定値に含まれる、または定期的に提供される指定項目は開示対象となる。
企業全体の開示製品・サービス別、地域別、主要顧客情報は、単一報告セグメントの企業にも適用される。
セグメント変更組織変更により報告セグメントが変わる場合、比較情報の修正再表示や旧新両基準の開示を検討する。
IFRS第18号との関係重要な収益・費用項目、集約・分解、MPMとの整合性を確認する。
減損との関係のれんの減損テスト単位は、集約前のIFRS第8号上の事業セグメントより大きくできない点に注意する。
監査対応CODM資料、取締役会資料、IR資料、集約判断メモ、調整表を一体で説明できるようにする。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次