医療機関の採用基準と面接で確認すべきこと|ミスマッチを防ぐクリニック採用の実務

医療機関の採用でつまずく原因の多くは、「いい人そうだった」「経験がありそうだった」「急いでいたから採用した」といった判断から始まります。

もちろん、人柄や経験は大切です。ただ、クリニックや診療所、医療法人の採用では、それだけでは足りません。

採用したスタッフは、患者さんへの対応をはじめ、受付、会計、レセプト、診療補助、検査、看護、清掃、電話対応、予約管理、院内のコミュニケーション、個人情報の管理まで、日々の医療機関運営の一端を担うことになります。

だからこそ、採用のミスマッチは「人が合わなかった」だけでは済みません。患者満足度の低下、既存スタッフの離職、残業の増加、人件費の負担、院長の管理負荷、そして労務トラブルへと、静かに波及していきます。

医療機関の採用は、単なる人手の補充ではありません。自院の診療体制を保ち、患者さんへ安定した医療を届け、スタッフが長く働ける組織をつくるための、れっきとした経営判断です。

ですから、採用の前に決めておくべきは「どんな人が欲しいか」ではなく、「どの業務を、どの水準で、どの条件で任せるのか」だと、私は考えています。

目次

採用は「人柄」ではなく「役割」から考える

採用面接では、どうしても「明るい人」「感じのよい人」「長く働いてくれそうな人」といった印象に目が向きがちです。患者さんと接する仕事である以上、印象を軽んじることはできません。

しかし、印象だけで採用を決めると、入職後にこんなズレが生まれます。

たとえば、受付スタッフとして採用したのに、電話対応や会計、予約変更、患者さんからのクレーム対応、レセプト補助、清掃、備品管理まで任せることを事前に十分伝えていなかった。すると本人は、「受付だけの仕事だと思っていた」と感じてしまいます。

看護師にしても同じです。診療補助だけでなく、検査準備、物品管理、患者さんへの説明、感染対策、院内改善への参加まで求めるのであれば、その役割を採用前にはっきりさせておく必要があります。

医療機関の採用基準は、まず職務から逆算するのが基本です。

  • この職種には、どの業務を任せるのか
  • どの業務は必須で、どの業務は入職後に育てていくのか
  • 患者さんへの対応では、どのような行動を求めるのか
  • 院内ルールをどこまで守れる必要があるのか
  • 勤務日数、曜日、時間帯、残業、土曜勤務、繁忙期対応に無理はないか
  • 既存スタッフとの役割分担は明確か

ここが曖昧なまま面接に臨むと、面接官は応募者の雰囲気で判断するしかなくなります。その結果として、採用後に「思っていた人と違った」となりやすいのです。

採用の入口でまず必要なのは、応募者を見極めることではなく、自院が求める役割を言葉にしておくことです。

医療機関の採用基準は4つに分けて整理する

採用基準は、細かく作り込みすぎると現場で回らなくなります。かといって曖昧すぎれば、面接官の主観に流されてしまう。

実務では、次の4つに分けて整理すると判断しやすくなります。

1. 職務遂行に必要な基準

業務を行ううえで欠かせない、資格、経験、知識、スキルのことです。

看護師、歯科衛生士、診療放射線技師など資格が前提となる職種では、当然ながら資格の確認が出発点になります。医療事務であれば、レセプト経験、電子カルテの操作経験、電話対応、会計処理、予約管理、パソコン操作などが候補に挙がるでしょう。

ただし、これらをすべて「必須」にしてしまうと、採用できる対象がぐっと狭まります。採用基準は、「入職の時点で必要なもの」と「入職後に教育でカバーできるもの」に分けて考える必要があります。

たとえば、電子カルテの種類は医院によってさまざまです。特定のシステム経験を必須にするより、基本的な入力作業、患者情報の扱い、確認の習慣、ミスがあったときに報告できる姿勢を重視したほうが、結果的にうまくいくこともあります。

2. 勤務条件との適合

医療機関では、勤務条件のズレが離職に直結しやすいものです。

土曜勤務、午後診療、残業、早番・遅番、急な欠勤時の対応、扶養範囲内勤務、社会保険の加入、シフト変更の可否。これらは採用前に、丁寧に確認しておきたい点です。

ここで大切なのは、応募者に無理を言わせないことです。面接の場では、採用されたいという気持ちから、つい「大丈夫です」と答えてしまいやすい。けれど実際には、家庭の事情、通勤時間、育児、介護、体力との兼ね合いで、続けるのが難しいこともあります。

勤務条件は、採用時に曖昧にしないほうが、結局は双方にとって誠実なのです。

3. 院内ルール・行動基準との適合

医療機関では、個人の裁量だけで動かれると困る場面が少なくありません。

  • 患者情報を勝手に持ち出さない
  • 院内で知り得た個人情報を、外で口にしない
  • 会計ミスや入力ミスに気づいたら、隠さず報告する
  • 患者さんから強い言葉を向けられても、個人の判断で過度な約束をしない
  • 院長や事務長への報告ルートを守る
  • 感染対策、清掃、物品管理のルールを守る
  • 既存スタッフへの注意や指示を、権限なく行わない

こうした行動基準は、経験年数より重要になることがあります。とくに小規模クリニックでは、一人のスタッフの振る舞いが、院内の空気や患者さんへの対応に大きく響きます。

面接では「できるかどうか」だけでなく、「ルールを理解し、守り、必要なときに相談できるか」まで確認しておきたいところです。

4. 成長可能性とチーム適合

採用の時点で完璧な人材を求めすぎると、採用そのものが難しくなります。医療機関の採用では、いまの能力だけでなく、入職後に育つ余地も見ていきます。

ただし、ここでいう成長可能性とは、漠然とした「やる気」のことではありません。

  • 分からないことを、その場で確認できるか
  • 注意を受けたときに、改善できるか
  • 前職との違いを受け入れられるか
  • 患者さんへの対応で困ったとき、一人で抱え込まないか
  • 多職種と協力できるか
  • ミスを隠さず共有できるか

こうした行動が見て取れるかどうかが、判断の分かれ目になります。

求人票は「広告」ではなく「労働条件と役割の約束」である

採用のミスマッチは、面接よりも前、求人票の段階ですでに始まっていることがあります。

  • アットホームな職場です
  • 未経験歓迎
  • 簡単な受付業務
  • 残業ほぼなし
  • 丁寧に教えます

こうした表現そのものが、すぐに悪いわけではありません。ただ、実態とズレている場合には、応募者の期待を誤った方向へ導いてしまいます。

医療機関の求人票では、少なくとも次の内容を具体的にしておきたいものです。

業務内容:受付、電話、会計、レセプト、診療補助、清掃、物品管理、予約管理など、実際に担当する業務を、できるだけ具体的に書きます。

勤務場所:分院、訪問診療の拠点、近隣施設への移動がある場合は、その可能性も整理しておきます。

勤務時間:診療開始前後の準備や片付け、残業、土曜勤務、繁忙期対応の有無を、曖昧にしないことが大切です。

賃金:基本給、時給、各種手当、固定残業代の有無、賞与、昇給、交通費、社会保険の加入などを整理します。

契約期間:期間の定めがある場合は、更新の有無、更新の基準、更新上限の有無を明確にします。

試用期間:期間、条件、評価する内容、そして試用期間中に労働条件の違いがあるなら、その内容も明示します。

令和6年4月1日からは、募集時などに明示すべき労働条件として、従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項などが追加されました。求人票や採用ページを以前のまま使い続けている医療機関では、現行ルールに合っているか、一度確認しておくとよいでしょう。

出典:厚生労働省|令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます

出典:厚生労働省|令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます

また、インターネットやSNSを含む募集広告では、虚偽の表示や誤解を招く表示をしてはならず、募集情報を正確かつ最新の内容に保つことが求められています。

出典:厚生労働省|職業安定法に基づく周知・労働者の募集広告の表示について

求人票は、応募者を集めるためだけの文章ではありません。入職後に「聞いていなかった」と言われないための、最初の管理資料でもあるのです。

面接で確認すべきは「過去の行動」と「入職後の条件」

面接では、応募者の印象よりも、過去の具体的な行動に目を向けます。

「患者対応は得意ですか」と尋ねれば、多くの応募者は「得意です」と答えるでしょう。けれど、これでは判断材料になりません。

確認したいのは、たとえばこうした内容です。

  • 前職では、電話対応でどのような問い合わせが多かったか
  • 患者さんから強い口調で言われたとき、どう対応したか
  • 会計や入力のミスに気づいたとき、どう報告していたか
  • 複数の業務が重なったとき、何を優先していたか
  • 院内ルールが前職と違う場合、どう確認するか
  • 新しい業務を覚えるとき、どんなメモや確認をしていたか
  • これまで注意を受けて、改善した経験はあるか

ポイントは、応募者の性格を評価しようとするのではなく、実際の業務の場面でどう行動してきたかを確かめることです。

医療機関では、スキルだけでなく、報告・連絡・相談、確認の習慣、患者さんへの言葉遣い、守秘義務、チーム内の協調が、実務の成果に直結します。面接の質問は、こうした行動を確認するために設計します。

聞いてはいけない質問を、あらかじめ決めておく

医療機関の面接では、応募者との距離が近くなりやすいぶん、雑談の流れで不適切な質問が出てしまうことがあります。

厚生労働省は、公正な採用選考の基本として、応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力に基づいた基準で行うことを示しています。

出典:厚生労働省|公正な採用選考の基本

また、就職差別につながるおそれのある事項として、本籍・出生地、家族、住宅状況、生活環境、宗教、支持政党、人生観、思想、労働組合・学生運動などに関する把握、身元調査、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断などが挙げられています。

出典:厚生労働省|採用選考時に配慮すべき事項

とくに医療機関では、「家族は近くに住んでいますか」「お子さんが小さいと急に休むことがありますか」「健康状態に問題はありませんか」といった質問を、悪気なく口にしてしまうことがあります。しかし、採用選考で確認すべきなのは、あくまで職務の遂行に必要な勤務条件や対応可能性です。

たとえば、家庭の状況を尋ねるのではなく、次のように確認します。

  • 当院では月2回程度、土曜午前の勤務があります。勤務は可能でしょうか
  • 急なシフト変更をお願いする場合がありますが、どの範囲で対応可能でしょうか
  • 立ち仕事や患者さんの誘導が発生する職務です。業務内容として対応可能でしょうか
  • 個人情報を扱うため、院内外での情報管理ルールを守っていただく必要がありますが、問題ありませんか

聞くべきは、家庭や思想ではなく、職務と勤務条件への適合です。

男女雇用機会均等法は、募集・採用について性別にかかわりなく均等な機会を与えることを求めており、性別を理由とする差別的取扱いを禁じています。募集や採用時の表現、質問が、実質的に性別による差別につながっていないかも、あわせて確認しておきたいところです。

出典:厚生労働省|男女均等な採用選考ルール

出典:e-Gov法令検索|雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

応募者の個人情報は、採用選考に必要な範囲で扱う

採用では、履歴書、職務経歴書、資格証、連絡先、勤務可能な条件など、多くの個人情報を扱います。

医療機関は日ごろから患者情報を扱っているため、個人情報の管理に慣れているように見えます。けれど、採用応募者の情報管理は、それとは別の流れとして整理しておく必要があります。

  • 応募書類を、誰が閲覧できるのか
  • 面接メモを、どこに保管するのか
  • 不採用となった方の履歴書を返却するのか、一定期間の保管後に廃棄するのか
  • 採用ページで取得する情報の利用目的を、明示しているか
  • 健康情報や病歴など、要配慮個人情報を必要以上に取得していないか

個人情報保護委員会のガイドラインでは、要配慮個人情報の取得や第三者提供には、原則として本人の同意が必要であることが示されています。採用選考で健康情報や病歴に関わる情報を扱う場合には、職務上の必要性、取得する範囲、本人への説明、保管方法を、慎重に確認すべきでしょう。

出典:個人情報保護委員会|個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)

出典:e-Gov法令検索|個人情報の保護に関する法律

応募者情報の管理が甘い医院は、入職後の患者情報の管理にも不安を持たれます。採用段階の個人情報管理は、いわば医療機関の管理水準を映す鏡なのです。

試用期間は「自由に解雇できる期間」ではない

採用後のミスマッチに備えて、試用期間を設ける医療機関は多くあります。

試用期間を置くこと自体は、ごく一般的です。ただ、それは「合わなければ自由に辞めてもらえる期間」ではありません。

厚生労働省の労働条件ポータルサイトでは、試用期間について、適性を判断するために必要な合理的期間を超えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りで無効となる、という考え方が示されています。

出典:厚生労働省|確かめよう労働条件・試用期間

また、労働契約法第16条では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効とされています。

出典:e-Gov法令検索|労働契約法

さらに、解雇を行う場合には、合理的な理由があるときでも、少なくとも30日前の解雇予告、または解雇予告手当が問題になります。

出典:厚生労働省|労働契約の終了に関するルール

出典:厚生労働省|確かめよう労働条件・解雇予告期間は30日ですが、予告期間が足りない場合の対応は?

医療機関側がすべきは、試用期間を形だけ置くことではありません。試用期間中に何を確認するのかを決め、記録し、必要に応じて指導や改善の機会を設けることです。

たとえば、次のような評価項目を、あらかじめ整理しておきます。

  • 勤怠は安定しているか
  • 患者さんへの対応で、基本的な言葉遣いができているか
  • 個人情報の取扱いルールを守れているか
  • 指示を正しく理解し、不明点を確認できているか
  • 会計、予約、記録、物品管理などで、確認の習慣があるか
  • ミスがあったときに、報告できているか
  • 既存スタッフとの連携に、著しい支障がないか

試用期間中の評価は、感情的な印象ではなく、職務と行動にもとづいて行うべきです。

面接評価は、記録に残す

面接は、採用するためだけでなく、採用しない理由を整理するためにも重要です。

医療機関では、院長、事務長、看護師長、既存スタッフなど、複数の人が採用に関わることがあります。そのとき評価基準がないと、ある人は「明るいからよい」、別の人は「少し不安」といった印象論になり、判断がまとまりません。

面接評価では、次のような項目を簡単に記録しておきます。

  • 職務経験
  • 勤務条件との適合
  • 患者さんへの対応の姿勢
  • 報告・相談の姿勢
  • 院内ルールへの理解
  • チームで働く姿勢
  • 学習意欲
  • 懸念点
  • 追加で確認したい事項

記録を残す目的は、応募者を点数化して機械的に選ぶことではありません。採用の判断を、後から説明できる状態にしておくためです。

これは、医療機関の経営全体にも通じます。数字、資料、記録、判断の理由を残すことは、経営者の自由を縛るためではなく、後から説明できる経営を行うための土台になるのです。

採用は、人件費計画とセットで判断する

採用の現場では、つい「人が足りないから採る」という判断になりがちです。けれど医療機関の経営では、採用は人件費計画と一体で考える必要があります。

スタッフを一人採用すると、給与だけでなく、社会保険料、通勤手当、制服、研修の時間、教育担当者の負荷、採用広告費、求人媒体費、入職手続、退職時の引継ぎリスクなどが発生します。

その一方で、適切な採用は、患者さんへの対応の改善、待ち時間の短縮、診療効率の向上、既存スタッフの離職防止、院長の診療への集中、在宅医療や分院展開の基盤づくりにつながっていきます。

ですから、採用の判断では、次の数字を見ます。

  • 現在の人件費率
  • 職種別の人員数
  • 患者数、診療単価、診療時間
  • 残業時間
  • 採用後に増やせる診療枠
  • 既存スタッフの負荷
  • 教育期間中の生産性の低下
  • 採用後の固定費の増加
  • 資金繰りへの影響

採用は、短期的には費用です。しかし、適切な人材を適切な役割で採用できれば、医療機関の提供する価値を支える投資にもなります。

大切なのは、採用を「感覚」ではなく「計画」に組み込むことです。

医療機関で特に確認したい、面接質問の設計例

面接の質問は、職種ごとに変えるべきです。すべての応募者に同じ質問だけをぶつけても、職務への適合は見えてきません。

受付・医療事務の場合

ここで確認したいのは、患者さんへの対応、事務処理、確認の習慣、情報管理です。

  • 前職では、受付から会計までどの範囲を担当していましたか
  • 電話で予約変更やクレームを受けたとき、どのように対応していましたか
  • 会計金額や入力内容に違和感があった場合、どのように確認しますか
  • 個人情報を扱う際に、気をつけていたことはありますか
  • 忙しい時間帯に複数の患者さんから声をかけられた場合、どのように優先順位をつけますか

医療事務では、経験年数だけでなく、確認の丁寧さと報告の早さが重要になります。

看護師・医療専門職の場合

確認したいのは、臨床スキルだけではありません。クリニックでは、病院勤務の頃よりも少人数で、幅広い業務を担うことがあります。

  • これまで担当していた診療補助や検査業務を、具体的に教えてください
  • 患者さんへの説明で、意識していることはありますか
  • 院内の感染対策や物品管理で、担当していたことはありますか
  • 医師や他職種との連携で困った経験と、その対応を教えてください
  • 前職と当院で業務範囲が異なる場合、どのように覚えていきますか

医療専門職の場合、どうしても資格と経験に目が向きがちです。けれど、クリニックの運営に合うかどうかは、職務範囲への理解と、チームでの動き方に表れます。

全職種に共通して確認したいこと

職種にかかわらず、医療機関では次の質問が有効です。

  • 当院の求人内容で、特に確認しておきたい点はありますか
  • 勤務日数、曜日、時間帯について、継続的に対応できる範囲を教えてください
  • 入職後に不明点があった場合、どのように確認しますか
  • 前職で、仕事を続けやすかった点と、続けにくかった点を教えてください
  • ミスをしたとき、どのように報告していましたか

退職理由を尋ねる場合も、前職への批判を引き出すことが目的ではありません。自院でも同じミスマッチが起こらないかを確かめるために聞く、という姿勢が大切です。

採用前に、院内で整えておくべきもの

採用の成否は、応募者だけで決まるわけではありません。受け入れる側の準備不足によって、よい人材が定着しないこともあります。

採用の前には、少なくとも次のものを整えておきます。

  • 職務内容の整理
  • 求人票の内容
  • 勤務条件の一覧
  • 面接質問票
  • 面接評価シート
  • 内定通知・労働条件通知の流れ
  • 試用期間中の評価項目
  • 入職初日の説明事項
  • 教育担当者
  • 院内ルール
  • 個人情報管理ルール
  • 制服、名札、システムID、ロッカー等の準備

労働条件通知書は、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条にもとづき、労働条件を明示する重要な書面です。採用後のトラブルを防ぐためにも、求人票、面接時の説明、内定時の説明、労働条件通知書の内容に矛盾がないか、確認しておく必要があります。

出典:e-Gov法令検索|労働基準法

出典:e-Gov法令検索|労働基準法施行規則

出典:愛媛労働局|労働条件の明示について

採用前の準備は、単なる事務作業ではありません。採用した人材を定着させ、既存スタッフを疲弊させず、患者さんへの対応の質を落とさないための、経営管理そのものです。

「近くに住んでいる人」「長く働けそうな人」をどう考えるか

クリニックでは、「近くに住んでいる人のほうが通いやすい」「子育てが落ち着いている人のほうが長く働けそう」といった感覚が出てくることがあります。

通勤の可能性や継続勤務の見込みを確認すること自体は、採用実務のうえで重要です。しかし、それを家庭環境、家族構成、年齢、性別などに結びつけて判断するのは、適切ではありません。

確認すべきは、あくまで職務と勤務条件です。

  • 当院までの通勤は、継続可能ですか
  • 当院の勤務時間で、継続的に勤務できますか
  • 土曜勤務や午後勤務の条件に、対応できますか
  • 急な休みが必要な場合、どのような連絡を想定していますか

このように、職務の遂行と勤務条件に関係する形で尋ねれば、必要な情報を得ながら、不適切な質問を避けやすくなります。

採用ミスマッチは「退職時」ではなく「採用前」に防ぐ

スタッフが辞めると、院長や事務長は「なぜ辞めたのか」を考えます。けれど、本当に見るべきなのは、採用前に何を確認していなかったか、という点です。

  • 業務内容を、曖昧にしていなかったか
  • 勤務条件を、十分に説明していたか
  • 院内ルールを、事前に伝えていたか
  • 面接で、過去の行動を確認していたか
  • 試用期間中の評価を、記録していたか
  • 教育担当者を、決めていたか
  • 既存スタッフとの役割分担を、整理していたか
  • 採用を、人件費計画に織り込んでいたか

採用は、入口の設計でかなりの部分が決まります。人が足りなくなってから慌てて採るのではなく、経営計画、人件費、診療体制、患者数、将来の展開に合わせて、早めに採用基準を整えておくことが重要です。

採用基準は、医療機関の経営姿勢を表す

採用基準は、単に応募者を選ぶためのものではありません。自院がどのような医療機関でありたいのかを、スタッフに伝えるものでもあります。

  • 患者さんにどう接するのか
  • ミスが起きたとき、どう報告するのか
  • スタッフ同士が、どう連携するのか
  • 院内ルールを、どの程度重視するのか
  • 数字と現場を、どうつなげるのか
  • 成長のために、どのような人材を必要としているのか

ここが明確な医療機関は、採用後の教育もしやすくなります。逆に、採用基準が曖昧なままでは、入職後に「何を求められているのか」が、スタッフに伝わりません。

採用は、人を選ぶ手続であると同時に、医療機関の経営管理水準を整える機会でもあるのです。

採用に迷ったときのご相談について

医療機関の採用は、求人票や面接だけで完結するものではありません。人件費率、資金繰り、診療体制、スタッフの定着、就業規則、院内ルール、さらには将来の分院・在宅医療・承継の可能性まで含めて考える必要があります。

採用後の離職や労務トラブルが続いている場合、あるいは今後の成長に向けて人材計画を整えたい場合には、「誰を採るか」だけでなく、「自院にどのような役割が必要か」「その人件費を数字で説明できるか」「採用後に定着する仕組みがあるか」を整理することが重要になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次数字、資金繰り、人件費、事業計画、内部管理の視点から、採用判断の前提となる経営情報の整理を支援しています。採用を場当たり的な人員補充ではなく、医療機関を長く強くするための経営判断として整えたい方は、お問い合わせページよりご相談ください。

本記事の振り返り

論点確認すべきこと軽視した場合に起きやすい問題
採用基準職務、勤務条件、院内ルール、行動基準を分けて整理する印象採用になり、入職後のミスマッチが起きる
求人票業務内容、勤務場所、勤務時間、賃金、契約期間、試用期間を具体化する「聞いていなかった」という不満や早期離職につながる
面接質問過去の具体的な行動、患者さんへの対応、報告姿勢、確認習慣を聞く「感じがよい」だけで採用し、実務適性を見誤る
公正採用家族、本籍、思想、宗教、健康情報など不適切な質問を避ける就職差別や個人情報管理上の問題につながる
試用期間評価項目、指導記録、改善機会を整理する試用期間を理由に安易な解雇判断をして労務トラブルになる
人件費計画給与、社会保険、教育期間、採用後の生産性を数字で見る人手不足か過剰人員かを判断できず、資金繰りを圧迫する
受入体制教育担当者、初日説明、院内ルール、個人情報管理を整えるよい人材を採用しても定着しない
経営判断採用を診療体制、患者数、将来計画と接続する場当たり的な採用となり、組織づくりに結びつかない
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