事業承継税制は、しばしば「最終的には免除される制度」と紹介されます。
確かに、法人版の事業承継税制は、一定の要件のもとで非上場株式等にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡などによって、その猶予税額の納付が免除される制度です。国税庁も、贈与税・相続税のいずれについて、後継者の死亡等により猶予されている税額の納付が免除される、という整理を示しています。
出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制) 出典:国税庁|No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
ただし、ここでいう「免除」は、制度から完全に解放されることを常に意味するわけではありません。
たとえば先代経営者が亡くなった場合、贈与税の納税猶予は免除されても、その株式は今度は相続税の課税関係へと移っていきます。後継者が亡くなった場合も、猶予税額そのものは免除され得ますが、ここからは後継者自身の相続として、株式の承継、議決権、納税資金、次の経営体制が問題になります。
つまり免除事由とは、「税金が消えてそれで終わり」という場面ではありません。むしろ「制度上のひとつの区切り」と「次の承継問題の入口」が、同時にやってくる場面なのです。
なお、法人版の特例措置については、特例承継計画を令和9年9月30日までに都道府県へ提出し、令和9年12月31日までに贈与・相続によって株式を取得する、という制度設計が示されています。対象株式数の上限撤廃、猶予割合100%、最大3人の後継者への承継など、通常の承継手法と比べて効果は大きいものです。とはいえその効果は、免除・取消・継続届出・相続税への切替えまできちんと管理できて、はじめて意味を持ちます。
本稿では、事業承継税制の免除事由のうち、先代の死亡、後継者の死亡、猶予継続贈与、倒産、一定の譲渡等を中心に、その税務上の意味と、実務判断上の注意点を整理していきます。なお、個別の相続税総額の計算、申告書の記載例、遺産分割協議書や贈与契約書の文案については、本稿では扱いません。
免除事由は「制度の出口」ではなく「次の課税関係への接続点」である
まず押さえておきたいのは、事業承継税制が非課税制度ではない、という点です。あくまで納税猶予の制度です。
制度を適用した時点では、贈与税または相続税の納付が猶予されているにすぎません。一定の免除事由が生じ、必要な届出や申請が適切に行われて、はじめて猶予税額の全部または一部について納付が免除されます。
実務上、免除事由として整理される代表的な場面は、次のとおりです。
- 先代経営者・贈与者の死亡
- 後継者の死亡
- 次の後継者への猶予継続贈与
- 会社の倒産
- 一定の事業継続困難事由が生じた後の譲渡・合併・株式交換・解散等
- 一定の災害等に伴う免除
ここで注意したいのが、免除事由と確定事由は、似ているようで実務上の意味がまったく異なる、ということです。
免除事由に該当すれば、所定の届出・申請を前提として、猶予税額の納付が免除される方向で処理が進みます。これに対し、代表者の退任、対象株式の譲渡、同族過半数・同族内筆頭株主要件の喪失、報告・届出の漏れといった事象は、原則として猶予税額の全部または一部の納付が必要になる、確定・取消の側の論点です。実際、先代経営者の死亡、後継者の死亡、猶予継続贈与、倒産、一定の譲渡・解散等が免除事由として整理される一方で、代表退任、株式譲渡、報告漏れなどは確定事由として明確に区別されています。
この区別を誤ると、「死亡したのだから何もしなくてよい」「三代目に贈与したのだから自動的に免除される」「倒産したのだから税金は当然なくなる」といった、危うい理解につながりかねません。免除事由は、手続と資料がそろって、はじめて実務上処理できるものなのです。
先代経営者が死亡した場合|贈与税猶予は免除されても、相続税へ移る
まず、生前贈与によって後継者が自社株を取得し、贈与税の納税猶予を受けていたケースを考えてみます。
その後、先代経営者、すなわち贈与者が亡くなった場合、後継者が受けていた贈与税の納税猶予については、一定の届出によって免除を受けることになります。
国税庁の案内によれば、先代経営者(贈与者)または後継者の死亡があった場合、免除届出書(死亡免除)を提出することで、その死亡時点で猶予されている贈与税または相続税の全部または一部について、納付が免除されます。提出時期は、先代経営者(贈与者)の死亡があった日から10か月以内、または後継者の死亡があった日から6か月以内とされています。
出典:国税庁|B1-67 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の免除届出(死亡免除)手続(特例措置)
ここで肝心なのは、贈与税が免除されたからといって、税務関係が完全に終了するわけではない、という点です。
先代経営者が亡くなると、贈与税の納税猶予の対象であった非上場株式等は、原則として、後継者が先代から相続または遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の課税関係へと接続します。したがって実務上は、贈与税猶予の「免除」と、みなし相続による「相続税課税」と、相続税納税猶予への「切替え」とを、それぞれ分けて整理しなければなりません。贈与者の死亡時には、贈与税猶予が免除される一方でみなし相続が発生し、後継者は通常どおり納付するか、みなし相続にかかる相続税の特例制度へ切り替えるかを選択する、という構造になります。
そのため、先代死亡時の実務は、次の三段階で考えるのが分かりやすいでしょう。
第1段階は、贈与税の免除届出です。先代経営者の死亡により、猶予されていた贈与税を免除するための届出が必要になります。
第2段階は、先代経営者の相続税申告です。後継者が生前贈与で取得していた自社株について、みなし相続財産として相続税の課税価格に算入されるのか、どの価額を用いるのか、他の相続財産・債務・相続人の構成とどう関係するのかを確認します。
第3段階は、相続税納税猶予への切替えの判断です。後継者が引き続き要件を満たすのであれば、相続税についても納税猶予を受ける選択肢があります。ただし、これは自動的に切り替わるものではありません。都道府県の手続、税務署への申告、担保、添付書類、そして期限管理が必要になります。国税庁も、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の報告手続については、相続税申告書の提出期限までに提出する必要がある、と案内しています。
出典:国税庁|B1-75 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の非上場株式等についての相続税の納税猶予の報告手続(特例措置)
先代の死亡は、贈与税猶予の終点であると同時に、相続税猶予の入口でもあります。この接続を理解しないまま生前贈与を進めてしまうと、いざ相続が発生したときに、「贈与税は免除されたものの、相続税申告・相続人への説明・納税資金・担保提供がまったく整理できていない」という事態になりかねません。
先代の死亡時に、実務上確認すべきこと
先代の死亡時には、単に免除届出書を提出すれば足りる、というわけではありません。会社・後継者・相続人の状況を、同時に確認していく必要があります。
まず確認したいのは、後継者が代表者要件、議決権要件、同族内筆頭株主要件、株式保有要件を維持しているか、という点です。贈与後に株式の異動、自己株式の取得、種類株式の発行、親族株主の相続、組織再編などがあった場合、当初の前提と状況が変わっている可能性があります。
次に、相続人間の説明です。後継者はすでに生前贈与によって自社株を取得しているため、他の相続人から見れば、「生前に大きな財産を受け取っている」と映ります。税務上は納税猶予・みなし相続・相続税猶予の問題であっても、相続法務の側では、遺留分、特別受益、代償財産、生命保険、退職金、遺言の内容と密接につながってきます。自社株の承継は、後継者の経営権確保だけでなく、相続人間の納得形成を伴う財産承継でもある、ということです。
さらに、納税資金の問題があります。相続税納税猶予を受けるとしても、すべての相続税が猶予されるわけではありません。自社株以外の財産、猶予の対象外となる部分、他の相続人の納税資金、そして後継者個人の資金繰りを確認しておく必要があります。内部留保の厚い「良い会社」ほど自社株の評価は高くなり、相続税の負担が個人だけでなく会社の資金や役員報酬・会社への貸付にまで波及し得る——これは、事業承継対策における典型的な失敗要因のひとつです。
後継者が死亡した場合|猶予税額は免除され得るが、会社の承継問題は残る
次に、後継者が亡くなった場合を考えます。
後継者が死亡した場合、その後継者が受けていた贈与税または相続税の納税猶予については、一定の届出によって免除を受けることができます。先に触れたとおり、国税庁の死亡免除手続では、後継者の死亡があった日から6か月以内に免除届出書を提出する必要があります。
出典:国税庁|B1-67 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の免除届出(死亡免除)手続(特例措置)
後継者の死亡は、制度上は強い免除事由です。適用後の取消事由の一覧でも、後継者が死亡した場合は、事業継続期間内であるか経過後であるかを問わず、免除として整理されています。
ただし、後継者の死亡によって解決するのは、あくまでその後継者が負っていた猶予税額の問題にすぎません。会社の承継問題は、むしろここから再び燃え上がります。
後継者が保有していた自社株は、後継者自身の相続財産になります。したがって、後継者の配偶者、子、親族、遺言の有無、遺産分割、遺留分、代償資金、株式の分散、次の代表者の選任が、あらためて問題になります。後継者に子が複数いる場合や、配偶者が会社経営に関与していない場合には、後継者の死亡後に議決権が分散し、会社の意思決定が不安定になる可能性があります。
また、後継者が亡くなった時点で、次の後継者候補が、代表者としての能力・意思・株式取得資金・相続税対応をすべて備えているとは限りません。後継者の死亡を免除事由としてだけ見ていると、「税金は免除されたのだから問題ない」と考えてしまいがちです。しかし実務上は、後継者の死亡こそ、次世代承継設計の弱点が露呈する場面なのです。
後継者の死亡時に確認すべき承継リスク
後継者の死亡時には、少なくとも次の事項を確認しておきたいところです。
まず、免除届出の提出者と期限です。後継者本人は亡くなっているため、相続人等が手続の主体になります。死亡から6か月という期限は、相続税申告期限の10か月よりも短く、相続実務の通常の感覚で動いていると、遅れてしまう可能性があります。
次に、株主名簿と議決権です。後継者の死亡によって株式が相続人の共有になるのか、遺言によって特定の承継者が取得するのか、それとも遺産分割協議が必要なのかを確認します。事業承継は、経営者の地位の承継だけでは完結しません。経営権を裏付ける株式・議決権の承継があって、はじめて完結します。所有と経営が分離していない中小企業では、議決権を掌握しないかぎり、後継者が安定して経営に専念することはできません。
さらに、会社法上の代表者選任です。後継者が代表取締役であった場合、会社は速やかに新たな代表者を選任しなければなりません。これは金融機関、主要取引先、許認可、経営者保証、役員退職金、死亡退職金、従業員への説明にも影響していきます。
加えて、後継者自身の相続税です。猶予されていた過去の贈与税・相続税が免除されても、後継者が死亡時点で保有していた自社株は、後継者の相続税の課税対象になります。会社の株価が上昇している場合には、後継者の相続人に、新たな相続税負担が生じる可能性があります。
後継者の死亡は、税務上は免除事由であっても、経営上は緊急の承継事由です。免除届出、相続税申告、株式承継、代表者選任、金融機関対応を、一体として進めていく必要があります。
猶予継続贈与|二代目から三代目へ移す場合の免除
事業承継税制は、一代限りで終わる制度ではありません。一定の要件を満たす場合には、後継者から次の後継者へ株式を贈与し、その次の後継者が事業承継税制の適用を受けることで、前の後継者にかかる猶予税額について免除を受けることができます。実務では「猶予継続贈与」「免除対象贈与」などと呼ばれる場面です。
国税庁は、特例措置について、制度の適用を受けた非上場株式等を次の贈与によって移転した場合、免除届出書(贈与による免除)を提出することで、猶予されている贈与税または相続税の全部または一部について納付が免除される、と案内しています。手続の対象者は、原則として特例経営(贈与・相続)承継期間の末日の翌日以後に、適用を受けている非上場株式等について一定の贈与をした者です。提出時期は、次の後継者が贈与税申告書を提出した日以後6か月以内とされています。
出典:国税庁|B1-68 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の免除届出(贈与による免除)手続(特例措置)
猶予継続贈与は、次世代への承継を制度上つなげていく、有効な手段です。ただし、「三代目に贈与すれば自動的に免除される」と理解してしまうのは危険です。
三代目が事業承継税制の要件を満たし、贈与税申告、認定、担保、届出を適切に行う必要があります。そのうえで、二代目の猶予税額について免除を受けるには、免除届出も欠かせません。二代目が一部の株式だけを贈与する場合には、贈与した部分と、引き続き保有する部分の扱いを分けて確認しておく必要があります。実際、二代目から三代目への贈与によって贈与分の免除手続を行う場合には、その贈与分が免除され、引き続き保有する株式については猶予が継続する、という構造で整理されています。
また、猶予継続贈与は、単なる税務手続ではありません。三代目が本当に経営を担えるのか、二代目はどの時点で代表を退くのか、株式・議決権をどの範囲で移すのか、他の相続人・親族株主が納得しているのか——こうした点を、あわせて確認しておく必要があります。
二代目の相続対策として、急いで三代目へ贈与するだけでは、三代目に過大な経営責任と長期の管理負担を移してしまうことになります。猶予継続贈与は、税務上の免除手段であると同時に、経営権をさらに一世代先へ移すという、重大な意思決定でもあるのです。
倒産による免除|「経営が苦しい」だけでは足りない
会社が倒産した場合も、一定の免除事由となり得ます。
国税庁は、一般措置について、申告期限後5年を経過した後に、制度の適用を受けている者および対象会社が一定の免除事由に該当した場合、一定の猶予中贈与税額または相続税額の免除を受けるための申請手続を案内しています。提出時期は、その免除事由に該当することとなった日から2か月以内とされています。
出典:国税庁|B1-82 会社が倒産等した場合の非上場株式等についての納税猶予の贈与税・相続税の免除申請手続(一般措置)
倒産は、後継者が自ら選んだ出口というより、会社の事業継続が困難となった結果として生じる出口です。破産手続開始決定や特別清算開始命令など、法的な倒産手続が関係する場合には、会社法・倒産法制・法人税・消費税・債権者対応・従業員対応も、並行して処理していかなければなりません。
ここで大切なのは、「業績が悪い」「資金繰りが厳しい」という状態だけで、ただちに免除が認められるわけではない、という点です。倒産等に基づく免除は、所定の事由に該当し、必要書類を添付して、税務署長に申請する手続です。申請型である以上、資料、事実関係、期限、対象税額、配当・過大役員給与等の有無を、あらかじめ整理しておく必要があります。
倒産は会社の終わりに近い局面ですが、納税猶予の管理は、その直前まで続きます。継続届出の漏れや年次報告の漏れが先に発生していれば、倒産による免除に至る前に、猶予期限が確定してしまうリスクもあります。国税庁も、継続届出書を期限までに提出しなかった場合には、その提出期限の翌日から2か月を経過する日に、納税猶予にかかる期限が確定する、と説明しています。
出典:国税庁|B1-66 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の継続届出手続(特例措置)
一定の譲渡・解散等による差額免除|特例措置の重要な出口
特例措置には、将来、事業の継続が困難となった場合の税負担を軽減する仕組みが用意されています。
中小企業庁は、特例措置のポイントとして、将来、事業を売却・廃業する際に株価が下落していた場合には、その株価をもとに納税額を再計算し、事業承継時の株価をもとに計算された納税額との差額を減免することで、経営環境の変化による将来の不安を軽減する、と説明しています。
国税庁も、事業の継続が困難な事由が生じた場合に、特例経営(贈与・相続)承継期間の末日の翌日以後、一定の免除事由に該当することとなったとき、猶予中贈与税額または相続税額の免除を受けるための差額免除申請手続を案内しています。
出典:国税庁|B1-76 事業の継続が困難な事由が生じた場合の非上場株式等についての納税猶予の贈与税・相続税の差額免除申請手続(特例措置)
この差額免除は、売却・M&A、合併、株式交換、解散などの出口に関係してきます。ただし、ここでも誤解してはいけません。
「売却すれば免除される」わけではありません。「廃業すれば免除される」わけでもありません。「株価が下がっていれば必ず免除される」わけでもないのです。
事業継続困難事由に該当しているか、特例経営承継期間を経過しているか、譲渡等の相手や内容、対価、時価、過去の配当・過大役員給与等、申請期限、添付資料——これらをひとつずつ確認していく必要があります。実務上も、譲渡・合併・株式交換完全子会社化・解散などにかかる特別な減免措置では、免除事由が発生した時点の時価、対価、当初の猶予税額、配当・過大役員給与等を比較したうえで、免除税額・継続猶予税額・確定税額を整理していくことになります。
この論点は、前稿「売却・M&Aへ移行する場合の税務上の境界」や「解散・清算・廃業と納税猶予」とも密接に関係します。本稿では、免除事由としての位置づけにとどめ、個別のM&Aスキーム設計や清算申告の詳細には立ち入りません。
免除届出と免除申請は違う
免除事由を整理するうえで、実務上とりわけ重要になるのが、「免除届出」と「免除申請」の違いです。
先代の死亡、後継者の死亡、猶予継続贈与といった一般的な免除事由では、原則として「免除届出書」によって処理します。提出すれば何でも認められるという意味ではありませんが、死亡や贈与という事実を前提に、所定の書類で届け出る、という性格が強い手続です。
一方、倒産、一定の譲渡、合併、株式交換、解散、事業継続困難時の差額免除などは、「免除申請」に近い性格を持ちます。税務署長による調査・審査、免除額の計算、却下のリスク、追加資料への対応などが問題になります。実務上も、一般的な免除事由にかかる「免除届出書」と、一定期間経過後の特別な減免措置にかかる「免除申請書」とでは、提出者・提出期限・添付書類が分けて整理されています。
この違いを理解していないと、会社が倒産した、売却した、解散した、という事実だけをもって、「免除届を出せばよい」と誤解してしまうおそれがあります。実際には、どの条文のどの免除事由に該当するのか、免除額は全部なのか一部なのか、再計算が必要か、利子税・延滞税・担保はどうなるのか——こうした点を、ひとつずつ確認していく必要があります。
免除後にも残る論点
猶予税額が免除されたとしても、それで承継実務がすべて終わる、というわけではありません。
先代の死亡の場合には、相続税申告、相続税猶予への切替え、他の相続人との調整が残ります。
後継者の死亡の場合には、後継者の相続、次の代表者の選任、株式の分散、遺産分割、相続税申告が残ります。
猶予継続贈与の場合には、三代目の贈与税猶予、三代目の代表者要件、二代目の相続対策、親族間の合意が残ります。
倒産の場合には、法人の破産・特別清算、債権者対応、従業員対応、保証債務、法人税・消費税の申告が残ります。
一定の譲渡・解散等の場合には、譲渡所得、法人税、みなし配当、清算所得、株式評価、対価の適正性、金融機関への説明が残ります。
とりわけ後継者の死亡と猶予継続贈与の場面では、税務上の免除だけでなく、次の世代へ経営権をどう渡すかが問題になります。議決権が分散してしまえば、事業承継税制を適用していても、経営権は安定しません。少数株主や相続人が複数いる会社では、株主名簿、遺言、種類株式、株主間契約、生命保険、代償財産を組み合わせて整理していく必要があります。
免除事由を見据えて、適用前に整理しておくべき資料
事業承継税制は、適用前の段階から、免除事由が生じた場合に備えて資料を整えておくことが大切です。
少なくとも、次の資料は継続的に管理しておきたいところです。
- 特例承継計画、認定書、認定申請書類
- 贈与税申告書・相続税申告書・添付書類
- 納税猶予税額、担保の内容、担保変更の履歴
- 株主名簿、議決権割合、種類株式の内容
- 年次報告書、継続届出書、それらの提出控え
- 代表者変更、役員変更、定款変更、組織再編に関する議事録
- 後継者・次の後継者の候補者情報
- 相続人関係図、遺言、遺留分対策の資料
- 会社の決算書、資金繰り表、金融機関借入、保証関係の資料
- 倒産・事業継続困難・売却・解散を検討した場合の判断メモ
事業承継税制は、申請時だけでなく、何年も後の死亡・贈与・売却・倒産・解散の場面で、過去の資料をもう一度確認することになる制度です。提出控えや判断メモが残っていなければ、免除事由に該当するかどうかを、あとから説明できなくなってしまいます。
税務実務では、期限の徒過、添付書類の漏れ、評価の誤り、継続届出の漏れ、依頼者との認識の不一致が、重大なトラブルにつながります。相続・贈与税の分野でも、土地や株式の評価誤り、特例の適用漏れ、資料の受領不足、依頼者への説明不足が、税賠リスクとして整理されています。
「免除されるから安心」と考えてはいけない場面
事業承継税制の適用を判断する際に、「最後は後継者が死亡すれば免除される」と説明されることがあります。この説明自体は、制度の一面としては誤りではありません。ただ、経営判断としては、それだけでは不十分です。
後継者の死亡による免除を前提に制度を使うということは、会社が次の緊急承継リスクを抱えることを意味します。後継者が若く健康であっても、事故、病気、急逝、認知症、経営意欲の低下、親族関係の変化は、いつでも起こり得ます。
また、先代の死亡による免除も、贈与税から相続税への切替えを伴います。後継者の死亡による免除も、後継者の相続税課税を消すものではありません。猶予継続贈与も、次の後継者に新たな長期管理負担を移します。倒産や譲渡による免除・差額免除も、申請、再計算、資金繰り、会社財務の整理を伴います。
ですから、事業承継税制を適用する前に、次のような問いを立てておくべきです。
- 先代が亡くなったとき、相続税猶予への切替えを行える資料・体制があるか
- 後継者が亡くなったとき、次の代表者と株式の承継先は決まっているか
- 三代目へ承継する場合、猶予継続贈与を実行できる後継者の体制があるか
- 会社が倒産・廃業・売却に向かう場合、免除申請に必要な資料を残せるか
- 他の相続人・少数株主・金融機関に、制度の適用と将来のリスクを説明できるか
- 免除事由が生じるまでの間、継続届出・年次報告を漏れなく管理できるか
これらを整理しないまま、税額軽減の効果だけで制度を使ってしまうと、いざ免除事由が生じたときに、税務・法務・資金・経営権の問題が、一気に表面化することになります。
まとめ
事業承継税制の免除事由は、単に「猶予税額が消える場面」ではありません。
先代の死亡は、贈与税猶予の免除と、相続税課税・相続税猶予への切替えが、同時に起こる場面です。
後継者の死亡は、猶予税額の免除と、後継者自身の相続・次の経営者の選任・株式分散リスクが、同時に起こる場面です。
猶予継続贈与は、二代目の猶予税額を免除しながら、三代目へ経営責任と長期の管理義務を移していく場面です。
倒産や一定の譲渡・解散等は、事業の継続が困難になった会社の出口として、免除・差額免除・再計算・申請手続が問題になる場面です。
事業承継税制は、入口で税負担を大きく軽減してくれる制度です。しかし、制度の本当の難所は、適用後の長期管理と、出口の処理にあります。免除事由を正しく理解することは、制度を安心して使うためというより、制度を使った後に、会社・後継者・相続人が説明のつかない状態に陥らないために、欠かせないことなのです。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上の意味 | 確認すべき事項 |
|---|---|---|
| 免除事由の位置づけ | 猶予税額の納付が免除される場面だが、次の課税関係や承継問題が残る | 免除か、期限確定か、相続税への切替えか |
| 先代経営者・贈与者の死亡 | 贈与税猶予は免除され得るが、みなし相続により相続税課税へ接続する | 死亡免除届出、相続税申告、相続税猶予への切替え |
| 先代死亡時の提出期限 | 死亡免除届出は、先代死亡日から10か月以内 | 相続税申告期限と同時に管理する |
| 後継者の死亡 | 猶予税額は免除され得るが、後継者自身の相続として株式承継が問題になる | 相続人、遺言、次の代表者、株式分散、相続税 |
| 後継者死亡時の提出期限 | 後継者死亡日から6か月以内 | 相続税申告期限の10か月より短い点に注意 |
| 猶予継続贈与 | 二代目から三代目へ株式を贈与し、三代目が制度適用を受けることで免除を受ける仕組み | 三代目の要件、贈与税申告、免除届出、議決権設計 |
| 猶予継続贈与の期限 | 次の後継者が贈与税申告書を提出した日以後6か月以内に免除届出が必要 | 贈与日ではなく申告書提出日を起算点として管理 |
| 倒産 | 一定の法的倒産等は免除申請の対象になり得る | 破産・特別清算等の事実、申請期限、添付資料 |
| 一定の譲渡・解散等 | 特例措置では事業継続困難時に差額免除を受ける余地がある | 事業継続困難事由、対価、時価、配当・役員給与、申請期限 |
| 免除届出と免除申請 | 死亡・猶予継続贈与は届出型、倒産・差額免除は申請・審査型の性格が強い | 書類名、提出者、期限、税務署長の審査 |
| 継続届出 | 免除事由が生じるまでの間、継続届出の漏れがあると猶予期限確定のリスクがある | 5年間は毎年、5年経過後は原則3年ごと |
| 相続人への説明 | 免除されても、自社株承継・遺留分・代償資金の問題は残る | 遺言、遺産分割、生命保険、退職金、親族への説明 |
| 金融機関対応 | 後継者死亡・倒産・譲渡時には借入・保証・担保が問題になる | 経営者保証、担保、資金繰り、代表者変更 |
| 事前準備 | 免除事由は突然発生するため、適用時からの資料保存が必要 | 認定資料、申告書、届出控え、株主名簿、判断メモ |
事業承継税制の免除事由は、制度の終点ではなく、次の相続・次世代承継・会社の出口対応へと進んでいく分岐点です。先代の死亡、後継者の死亡、猶予継続贈与、倒産、一定の譲渡等のいずれであっても、届出・申請・税額再計算・相続人への説明・会社財務を、同時に整理していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の適用判断だけでなく、適用後の免除事由が生じた際の対応、贈与税猶予から相続税猶予への切替え、後継者死亡時の株式承継、猶予継続贈与、倒産・譲渡・廃業時の出口整理まで含めて、検討を支援しています。
「先代が高齢で、贈与後の相続税への切替えまで見据えておきたい」「後継者に万一があった場合の株式承継が不安だ」「三代目への猶予継続贈与を検討したい」「免除事由に該当するか、事前に整理しておきたい」——そうした場合は、当事務所ホームページのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。