IAS第36号の減損テストにおいて、実務上もっとも判断が難しく、監査でも議論になりやすいのが、「どの単位で減損テストを行うか」という問題です。
減損の兆候があるかどうか、回収可能価額をどう測定するか、割引率をどう設定するか。いずれも重要な論点ですが、これらはすべて「減損テストの単位」が適切に決まっていることを前提としています。
この単位設定が過度に大きければ、不採算の資産や事業が黒字の資産・事業に吸収され、減損が見えにくくなります。反対に過度に小さければ、本来は一体でキャッシュ・フローを生み出している資産群を不自然に分解することになり、事業の実態と合わない減損テストになりかねません。
IAS第36号では、この減損テストの単位として、資金生成単位(Cash-generating unit、CGU) という概念を用います。CGUは、単なる管理会計上の部門でも、法的な会社単位でもありません。ある資産、あるいは資産グループが、他の資産または資産グループからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生み出す、最小の識別可能な単位を指します。IAS第36号は、CGUを「他の資産または資産グループからのキャッシュ・インフローからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生み出す、最小の識別可能な資産グループ」と定義しています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
本稿では、IAS第36号におけるCGUの識別、共用資産・全社資産の配分、のれんの配分、事業セグメントとの関係、そして監査対応上の整理ポイントを、実務判断の流れに沿って解説します。
減損テスト単位を誤ると、減損会計全体が崩れる
IAS第36号の減損会計は、帳簿価額と回収可能価額を比較する手続です。ただし、比較の対象となる帳簿価額と回収可能価額は、同じ単位で対応していなければ意味を持ちません。
たとえば、帳簿価額にはある事業で使用する資産だけを含めているのに、回収可能価額には別の事業のキャッシュ・フローまで含めているとしたら、その比較は成立しません。逆に、回収可能価額には特定の資産群が生み出すキャッシュ・フローだけを含めているのに、帳簿価額には本社資産や他事業の資産まで含めていれば、減損損失を過大に認識してしまうおそれがあります。
IAS第36号は、CGUの帳簿価額を、回収可能価額の算定方法と整合する基礎で決定しなければならないとしています。そして、CGUの帳簿価額に含めるのは、当該CGUに直接帰属する資産、または合理的かつ首尾一貫した基準で配分でき、使用価値の算定に用いる将来キャッシュ・インフローを生み出す資産に限られます。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
つまり減損テストでは、「どの資産を含めるか」と「どのキャッシュ・フローを含めるか」を、同時に設計する必要があります。CGUの設定は単なる前処理ではなく、減損損失の有無と金額を左右する、中核的な判断なのです。
CGUは「独立したキャッシュ・インフロー」で識別する
CGUを識別する際の出発点は、独立したキャッシュ・インフロー です。IAS第36号では、個別資産の回収可能価額を見積れない場合、その資産を含み、かつ他の資産または資産グループからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生み出す、最小の資産グループを識別することとされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
ここで注意したいのは、CGUは「独立した損益」や「独立した営業利益」で識別するものではない、という点です。IAS第36号が焦点を当てているのは、あくまでキャッシュ・インフローです。
内部管理上、店舗別・製品別・地域別に利益を管理していたとしても、それだけで直ちにCGUが決まるわけではありません。内部管理報告は重要な証拠にはなりますが、決定的な要因ではないからです。実際にキャッシュ・インフローがどの単位で独立しているかを、あらためて確認する必要があります。私自身の実務感覚としても、内部管理報告はCGUの識別に深く関わる材料でありながら、それ単独で結論が決まるものではなく、キャッシュ・インフローの独立性を示す事実関係と合わせて検討すべきものだと考えています。
実務では、次のような観点からCGUを検討していきます。
- 製品、サービス、店舗、拠点、地域、事業ラインごとに、外部収入があるか
- 経営者が事業をどの単位でモニタリングしているか
- 資産の継続使用・処分の意思決定を、どの単位で行っているか
- 価格決定、顧客関係、販売チャネルが、どの単位で独立しているか
- ある資産群のアウトプットについて、活発な市場が存在するか
- 内部振替価格が、外部市場価格を反映しているか
- 複数の資産群が一体でなければ、外部キャッシュ・インフローを生み出せないか
たとえば、複数の製造工程が内部的に連続していても、中間製品に活発な市場があり、そのアウトプットを外部に販売できる場合には、その工程単位がCGUとなる可能性があります。IAS第36号も、資産または資産グループが生み出すアウトプットに活発な市場が存在するときは、そのアウトプットの一部または全部を内部で使用していても、当該資産または資産グループをCGUとして識別するとしています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
このように、CGUの識別は「社内でどう呼んでいるか」ではなく、「外部からキャッシュ・インフローをどの単位で獲得しているか」によって検討するものだと押さえておいてください。
内部管理単位は重要だが、それだけでは足りない
IAS第36号は、キャッシュ・インフローの独立性を判断するにあたり、経営者が事業をどのようにモニタリングしているか、また資産や事業の継続・処分をどのように意思決定しているかを考慮するとしています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
このため、内部管理単位はCGU識別の重要な手掛かりになります。事業部別、地域別、店舗別、製品ライン別、顧客群別といった経営管理上の区分は、キャッシュ・インフローの独立性を説明するうえで、有力な証拠になり得ます。
ただし、内部管理単位をそのままCGUとすることには慎重であるべきです。
内部管理単位は、企業の管理目的によって設定されるものです。業績評価、責任会計、予算管理、人員管理、販売管理、投資管理など、複数の目的が混在していることも珍しくありません。そのため、内部管理単位が必ずしもキャッシュ・インフローの独立性を表しているとは限らないのです。
たとえば、管理会計上は地域単位で損益を管理していても、主要顧客との契約、価格決定、ブランド、販売チャネル、在庫供給が全国一体で運営されているなら、地域単位で独立したキャッシュ・インフローを生み出しているとはいえない可能性があります。反対に、会計上は一つの事業部として表示されていても、実態としては各拠点が独立して顧客を獲得し、価格を決定し、収入を生み出しているのであれば、より小さい単位でCGUを識別すべき場合もあります。
CGUの識別では、内部管理単位を出発点としつつ、キャッシュ・インフローの独立性、外部市場、顧客関係、価格決定権限、処分の意思決定単位を重ねて確認していくことが大切です。
CGUは継続的に識別し、恣意的な変更を避ける
IAS第36号では、同一の資産または同一種類の資産について、CGUは期を通じて首尾一貫して識別しなければならず、変更には正当な理由が必要とされています。また、資産が前期と異なるCGUに属すると判断した場合や、CGUに含める資産の種類を変更した場合には、減損損失または戻入れを認識したときに関連する開示が求められます。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
これは、CGUの変更が減損テストの結果に大きく影響するためです。CGUを大きくすれば、不採算資産が他の収益性の高い資産に吸収され、減損が生じにくくなります。反対に小さくすれば、個別の不採算が顕在化しやすくなります。
したがって、CGUを変更する場合には、少なくとも次のような事実関係を整理しておく必要があります。
- 組織再編、事業再編、管理体制の変更が、実際に生じているか
- キャッシュ・インフローの獲得単位が変わったか
- 顧客契約、価格決定、販売チャネル、操業体制が変わったか
- 内部報告や経営者の意思決定単位が変わったか
- 変更後の単位が、より実態に即した最小単位といえるか
- 減損回避を目的とした、恣意的な集約・分解に見えないか
単に当期の減損を避けるためにCGUを統合したように見えてしまうと、監査上の説明は難しくなります。一方で、事業再編によって実際に経営管理単位やキャッシュ・インフローの獲得単位が変わっているのであれば、CGUの変更が必要になることもあります。その場合でも、変更理由、変更前後の単位、財務影響を説明できる資料を備えておくことが欠かせません。
CGUの帳簿価額には何を含めるか
CGUを識別したら、次に比較対象となる帳簿価額を決定します。IAS第36号では、CGUの帳簿価額は回収可能価額の算定方法と整合する基礎で決定し、そこに含めるのは、当該CGUに直接帰属する資産、または合理的かつ首尾一貫した基準で配分でき、将来キャッシュ・インフローを生み出す資産に限るとされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
ここでのポイントは、帳簿価額とキャッシュ・フローの対応関係です。
たとえば、使用価値の算定において特定の設備から生じるキャッシュ・フローを含めているのであれば、その設備の帳簿価額もCGUに含めなければなりません。逆に、売掛金、金融資産、認識済み負債、年金負債、引当金などを回収可能価額の算定に含めていないにもかかわらず、帳簿価額だけを含めてしまえば、比較は歪んでしまいます。
IAS第36号は、CGUの回収可能価額を算定するために認識済み負債を考慮する必要がある場合を除き、CGUの帳簿価額に認識済み負債を含めないとしています。ただし、CGUの処分にあたって買手が負債を引き受けるような場合には、意味のある比較を行うために、当該負債の帳簿価額をCGUの帳簿価額と使用価値の双方から控除するという考え方が示されています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
資産除去債務や原状回復義務を伴う資産では、この対応関係がとりわけ重要になります。資産除去債務は固定資産の取得原価や負債測定とも関係するため、減損テストにおいても、帳簿価額と使用価値の双方で整合的に扱う必要があります。
共用資産・全社資産とは何か
CGUの実務判断を難しくする代表的な要素が、共用資産・全社資産です。
IAS第36号では、Corporate assets(全社資産) を、のれん以外の資産のうち、検討対象のCGUと他のCGUの双方の将来キャッシュ・フローに寄与する資産と定義しています。典型的には、本社建物、事業部本部の建物、情報処理設備、研究センターなどがこれに含まれます。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
全社資産の特徴は、単独では独立したキャッシュ・インフローを生み出さず、その帳簿価額を検討対象のCGUに完全には帰属させられない点にあります。IAS第36号も、全社資産は他の資産または資産グループから独立してキャッシュ・インフローを生み出さず、その帳簿価額を検討対象のCGUに完全には帰属できないと説明しています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
日本基準でいう「共用資産」に近い概念ですが、IFRSでは「合理的かつ首尾一貫した基準で配分できるか」に応じて、減損テストの手続がはっきりと分かれます。実務の感覚としても、全社資産はのれん以外で複数のCGUの将来キャッシュ・フローに寄与する資産であり、合理的かつ首尾一貫した配分ができるならCGUへ配分し、できないなら最小のCGUグループでテストする、という切り分けを明確に意識しておくことが大切だと感じています。
全社資産を配分できる場合
全社資産の帳簿価額の一部を、合理的かつ首尾一貫した基準で特定のCGUに配分できる場合には、その配分額をCGUの帳簿価額に含め、当該CGUの回収可能価額と比較します。IAS第36号も、全社資産を合理的かつ首尾一貫した基準でCGUに配分できる場合には、その配分額を含めたCGUの帳簿価額を回収可能価額と比較するとしています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
ここでいう「合理的かつ首尾一貫した基準」とは、形式的な配賦表を作れば足りるという意味ではありません。配分基準は、全社資産が各CGUのキャッシュ・フロー創出にどのように貢献しているかを反映したものである必要があります。
配分基準として検討されることが多いのは、次のようなものです。
- 使用面積
- 利用人数
- 処理件数
- 利用時間
- 売上高
- 資産規模
- 生産量
- 研究開発テーマとの関連性
- ITシステムの利用実態
- サービス提供量
ただし、売上高や資産規模による配分は、簡便ではあるものの、全社資産の利用実態を反映していないことがあります。たとえば本社のITシステムであれば、売上高よりも、ユーザー数、処理件数、利用機能、対象業務の範囲のほうが適切な場合があります。研究センターであれば、各事業への研究成果の帰属、研究テーマ、開発パイプライン、技術の利用範囲まで踏み込んで検討する必要があるでしょう。
配分基準は、会計上の都合で決めるものではありません。事業実態、管理実態、資産の利用実態、そして将来キャッシュ・フローへの貢献関係から説明できるものでなければならないのです。
全社資産を配分できない場合
全社資産を個別CGUに合理的かつ首尾一貫して配分できない場合、IAS第36号は二段階の検討を求めています。
第一に、全社資産を除いた当該CGUの帳簿価額と回収可能価額を比較し、必要に応じて減損損失を認識します。
第二に、検討対象のCGUを含み、かつ全社資産の帳簿価額の一部を合理的かつ首尾一貫した基準で配分できる、最小のCGUグループを識別します。そのうえで、配分された全社資産を含めたCGUグループの帳簿価額と回収可能価額を比較します。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
この手続は、全社資産を無理に個別CGUへ配分して恣意的な結果を生じさせることを避けつつ、全社資産の回収可能性を減損テストから外さないための仕組みだといえます。
実務上は、全社資産を配分できないと判断する場合でも、「配分できない」とだけ記載して終わりにするのでは不十分です。なぜ個別CGUに配分できないのか、どのCGUグループなら配分できるのか、そしてそのCGUグループが最小単位といえるのかまで、説明できるようにしておく必要があります。
のれんは単独でテストしない
のれんは、CGUの議論のなかでも特に重要です。
企業結合で認識されるのれんは、個別に識別して認識できない将来の経済的便益を表す資産です。のれんは通常、単独ではキャッシュ・フローを生み出しません。そのためIAS第36号では、のれんを単独でテストするのではなく、企業結合のシナジーから便益を得ると見込まれる取得企業のCGUまたはCGUグループに配分して、減損テストを行うこととしています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
ここでの実務感覚として押さえておきたいのは、企業結合で取得したのれんは、企業結合のシナジーから便益を得ると見込まれる取得企業のCGUまたはCGUグループに配分されるものであり、被取得企業のその他の資産・負債がその単位に配分されているかどうかは問われない、という点です。
これは非常に重要です。のれんの配分先は、被取得企業そのものとは限りません。取得によって期待されるシナジーが、取得企業の既存事業や複数の事業に及ぶ場合には、のれんはその便益を受けるCGUまたはCGUグループに配分されます。
たとえば、企業結合により取得したブランド、技術、人材、販売チャネル、顧客基盤が、取得企業の既存事業の売上拡大やコスト削減にも貢献する場合、のれんの配分は被取得事業だけに閉じるものではありません。逆に、買収後も被取得事業が独立した事業として運営され、シナジーも主にその事業内で実現するのであれば、被取得事業に対応するCGUまたはCGUグループが配分先になる可能性があります。
のれんの配分単位には上限がある
IAS第36号は、のれんを配分するCGUまたはCGUグループについて、二つの要件を定めています。
一つ目は、内部管理目的でのれんがモニターされている企業内の最小レベルであること。二つ目は、IFRS第8号「事業セグメント」で定義される事業セグメントより大きくないことです。IAS第36号は、のれんが配分されるCGUまたはCGUグループについて、内部管理目的でのれんがモニターされる最小レベルを表し、かつIFRS第8号上の事業セグメントより大きくならないことを求めています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
この要件の趣旨は、のれんを過度に大きな単位に配分し、減損を認識しにくくすることを防ぐ点にあります。言い換えれば、IAS第36号第80項がめざしているのは、のれんを恣意的に配分せず、かつ減損テストのためだけに不要な追加の報告システムを開発しなくてもよい範囲で、可能なかぎり最小の単位にのれんを配分することだと理解できます。
ここでいう事業セグメントは、集約後の報告セグメントではなく、IFRS第8号上の事業セグメントです。したがって、外部開示上の報告セグメントが複数の事業セグメントを集約したものである場合、のれんの減損テスト単位を報告セグメントまで大きくすることが、常に認められるわけではありません。
実務では、次のような問いを立てておく必要があります。
- のれんは、内部管理上どの単位でモニターされているか
- その単位は、企業結合から期待されるシナジーと対応しているか
- その単位は、IFRS第8号の事業セグメントより大きくないか
- 報告セグメントに集約されている場合、集約前の事業セグメントとの関係を整理しているか
- のれんを、過度に大きな単位でテストしていないか
- のれんを、形式的に被取得企業単位へ配分していないか
この検討を怠ると、のれんの減損テストが、実際のシナジー管理やセグメント管理と整合しないものになってしまいます。
のれんの当初配分の期限
IAS第36号では、企業結合により取得したのれんの当初配分を、企業結合が生じた年度末までに完了できない場合には、取得日後に開始する最初の事業年度末までに完了しなければならないとされています。また、IFRS第3号では、企業結合の当初の会計処理を期末までに確定できない場合、測定期間内に暫定金額を修正する処理が認められますが、その測定期間は取得日から12か月を超えないとされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
実務では、PPAの進捗、取得原価の配分、識別可能無形資産の評価、繰延税金の検討、事業統合計画、シナジー計画と連動させながら、のれんの配分先を検討していくことになります。PPAにおける無形資産の識別は、のれんと区分して買収の目的や実態を財務諸表に反映する機能を持つため、のれん配分の議論とも密接に関わってきます。
のれんの当初配分は、決算直前に会計だけで決めるものではありません。買収目的、投資稟議、シナジー計画、統合後の管理体制、セグメント管理、評価資料、取締役会説明資料と整合したものである必要があります。
事業処分・組織再編がある場合ののれん再配分
のれんを配分したCGUの一部を処分する場合、処分損益を算定する際には、処分される事業に関連するのれんを、その帳簿価額に含めます。IAS第36号では、この場合、原則として処分される事業と残存部分の相対価値に基づいて、処分される事業に対応するのれんを測定するとされています。ただし、他の方法のほうがのれんとの関連をより適切に反映できることを示せる場合には、その方法を用いる余地も認められています。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
また、報告構造の組織再編により、のれんを配分したCGUの構成が変わる場合には、影響を受けるCGUにのれんを再配分します。この再配分も、原則として処分時と同様の相対価値アプローチによって行います。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
この論点は、M&A後のPMI、事業再編、グループ内の組織再編、セグメント変更、海外事業の統合・分割などで問題になります。
注意したいのは、組織再編後の新しい管理単位に合わせて機械的にのれんを再配分するのではなく、もともとののれんがどの経済的便益を表していたのか、そして再編後にその便益がどの単位へ移ったのかを説明できるようにしておく、という点です。
のれんが関連するCGUに未配分の場合
IAS第36号では、のれんがあるCGUに関連しているものの、まだそのCGUに配分されていない場合の取扱いも定めています。この場合、当該CGUに減損の兆候があるときは、のれんを除いた当該CGUの帳簿価額と回収可能価額を比較して、減損テストを行います。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
これは、のれん配分が未完了であることを理由に、CGU自体の減損テストを先送りしないための規定です。企業結合の直後やPPAが暫定的な段階では、のれんの配分が未了のこともあります。しかし、その間に被取得事業や関連する既存事業に減損の兆候が生じているのであれば、のれん配分の未了とは切り離して、対象CGUの回収可能性を検討する必要があります。
のれんを含むCGUの減損テストの順序
のれんを含むCGUの減損テストでは、順序が重要になります。
IAS第36号では、のれんが配分されたCGUをテストする時点で、そのCGU内の個別資産に減損の兆候がある場合には、まず当該個別資産をテストし、必要な減損損失を認識してから、のれんを含むCGU全体をテストします。また、のれんが配分されたCGUグループのなかに、減損の兆候がある個別CGUがある場合には、まず個別CGUをテストし、そのうえで、のれんが配分されたCGUグループをテストします。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
これは、個別資産や下位CGUに生じている減損を、のれんを含む大きな単位で吸収させないためです。実務上、のれんを含むCGUグループの回収可能価額だけを見て「全体として回収可能」と判断してしまうと、下位単位の減損を見落とすおそれがあります。
このため、のれんを含む減損テストでは、次の順序を意識しておく必要があります。
- 個別資産に減損の兆候があるかを確認する
- 必要に応じて、個別資産を先にテストする
- 下位CGUに減損の兆候があるかを確認する
- 必要に応じて、下位CGUを先にテストする
- のれんを含むCGUまたはCGUグループをテストする
- 減損損失がある場合、まずのれんに配分し、その後にその他の資産へ按分する
この順序を文書化しておくことは、監査対応の面でも重要です。
減損損失はまずのれんに配分する
CGUまたはCGUグループについて減損損失を認識する場合、IAS第36号では、まず当該CGUまたはCGUグループに配分されたのれんの帳簿価額を減額し、その後、残額をその他の資産に帳簿価額比で按分します。ただし、個別資産の帳簿価額は、処分コスト控除後の公正価値、使用価値、ゼロのうち最も高い金額を下回るまで減額してはなりません。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
これは、のれんが独立したキャッシュ・フローを生み出さず、CGUまたはCGUグループの回収可能性に依存する資産であるためです。そして、のれんの減損損失は、後の期間に戻し入れることができません。したがって、のれんを含むCGUの単位設定と配分方法は、損益への影響だけでなく、将来の戻入れ可能性にも関わってくるのです。
CGUと事業セグメントの関係
CGUと事業セグメントは、似ているようで、その目的が異なります。
CGUは、減損テストのために、独立したキャッシュ・インフローを基準として識別される単位です。一方の事業セグメントは、IFRS第8号に基づき、経営上の意思決定者が業績評価や資源配分のために定期的にレビューする構成単位です。
のれんの減損テストでは、IAS第36号上、のれんが配分される単位はIFRS第8号の事業セグメントより大きくなってはなりません。このため、のれんの配分にあたっては、CGU、CGUグループ、事業セグメント、報告セグメントの関係を整理しておく必要があります。
実務上は、次のような整理が有効です。
- 個別資産レベルで回収可能価額を見積れるか
- 見積れない場合、最小のCGUはどこか
- のれんのシナジーは、どのCGUまたはCGUグループに及ぶか
- のれんは、内部管理上どの単位でモニターされているか
- その単位は、IFRS第8号の事業セグメントより大きくないか
- 外部開示上の報告セグメントとの関係を、どう説明するか
この整理がないまま財務諸表注記だけを作成してしまうと、監査人や財務諸表利用者に対して、減損テスト単位の妥当性を説明しづらくなります。
CGU識別で実務上つまずきやすい論点
1. 管理会計上の区分をそのままCGUとしている
管理会計上の事業部や店舗単位は、CGU識別の重要な証拠になります。しかし、それが独立したキャッシュ・インフローを生み出しているかを確認しないかぎり、IAS第36号上のCGUとはいえません。
特に、共通ブランド、共通の価格政策、共通の販売チャネル、共通の顧客基盤、共通の生産機能が存在する場合には、管理単位とキャッシュ・インフローの独立性が一致しているかどうかを、慎重に確認する必要があります。
2. 不採算事業を大きな単位に含めている
不採算の店舗、工場、事業ラインを、黒字の資産群と同じCGUに含める場合には、それらが本当に一体で独立したキャッシュ・インフローを生み出しているのかを説明する必要があります。
単に同じ事業部に属している、同じブランドを使っている、同じ管理者が見ている——こうした理由だけでは足りない場合があります。
3. 全社資産の配分基準が実態と合っていない
全社資産を売上高や資産額だけで配分している場合には、その基準が実態を反映しているかどうかを検討する必要があります。
たとえば、研究センター、基幹システム、本社建物、物流ネットワークなどは、単純な売上比率では貢献関係を表しきれないことがあります。配分基準は、使用実態、便益の享受、キャッシュ・フローへの貢献関係を踏まえて設計する必要があります。
4. のれんの配分が買収時の説明と整合していない
買収時の投資稟議や取締役会資料では複数事業へのシナジーを説明していたにもかかわらず、会計上は被取得会社単体にのれんを配分している場合、説明に一貫性を欠いている可能性があります。
反対に、買収時には被取得事業単体の収益力を前提としていたにもかかわらず、減損テストでは取得企業グループ全体の単位にのれんを配分している場合も、慎重な検討が必要です。
5. セグメント変更・組織再編後の再配分を失念している
組織再編やセグメント変更があった場合には、のれんを配分したCGUの構成が変わることがあります。その場合には、IAS第36号に基づき、影響を受けるCGUへ再配分する必要があります。
再配分は、減損を避けるための再設定ではなく、経済的便益の帰属が変化したことを反映する手続です。再編前後の事業単位、相対価値、シナジーの帰属を文書化しておくことが重要です。
監査対応上、整理しておくべき資料
CGU、全社資産、のれんの配分は、監査において、経営者の判断と見積りが集中する領域です。特に、のれんを含む減損テストでは、見積りの不確実性や経営者の仮定が財務諸表に大きな影響を与えるため、監査上の主要な検討事項になりやすい領域だといえます。会計上の見積りは、経営者の仮定次第で財務諸表への影響が大きく変わり得るため、監査でも重要論点として扱われることが多いのが実情です。
監査対応のためには、少なくとも次の資料を整理しておくことが望まれます。
- CGU一覧
- CGU識別の根拠
- 内部管理報告との関係
- 外部キャッシュ・インフローの獲得単位
- 顧客、契約、販売チャネル、価格決定の単位
- 事業継続・処分の意思決定単位
- CGU変更の有無と変更理由
- CGUの帳簿価額に含める資産・除外する資産の一覧
- 認識済み負債を含めるか除外するかの判断
- 全社資産の一覧
- 全社資産の配分可否
- 配分基準とその合理性
- のれんの発生原因
- 企業結合時の取得目的・シナジー説明
- PPA資料との整合性
- のれんの配分単位
- 事業セグメントとの関係
- 組織再編・事業処分時の再配分資料
- 減損テストの順序
- 減損損失の配分計算
- 開示案
重要なのは、会計処理の結論だけでなく、なぜその単位でテストするのか を説明できることです。減損テストの単位は、経理部門だけで決められるものではありません。事業部門、経営企画、M&A担当、税務、評価専門家、監査人との間で、事業実態と会計判断の接点を整理していく必要があります。
開示上の留意点
CGUやのれんの配分は、注記にも影響します。
IAS第36号では、重要な減損損失または戻入れを認識した場合、その損失または戻入れを生じさせた事象・状況、金額、資産またはCGUの内容、報告セグメント、回収可能価額、測定基礎などを開示します。また、のれんまたは耐用年数を確定できない無形資産が重要な金額で配分されているCGUまたはCGUグループについては、帳簿価額、回収可能価額の算定基礎、主要仮定、仮定の決定方法、予算期間、成長率、割引率、感応度などの開示が求められます。
出典:IFRS Foundation|IAS 36 Impairment of Assets
開示実務の観点からも、資産の減損は、有形固定資産、無形資産、投資不動産、リース、法人所得税、引当金、企業結合など複数の領域と関連しており、法定開示全体のなかで整理すべき項目だと位置づけられます。
注記では、単に「当社は管理会計上の区分に基づき資金生成単位を識別している」と書くだけでは、利用者に十分な情報を提供できない場合があります。重要なCGUについては、どの単位で資産をグルーピングしているのか、なぜその単位がキャッシュ・インフローの独立性を反映しているのか、のれんや全社資産をどのように配分しているのか、そして主要仮定がどの程度変動すると減損が生じるのかを、企業固有の状況に即して説明する必要があります。
最新動向としてのれん・減損プロジェクトにも留意する
現行の実務では、IAS第36号に従ってCGU、全社資産、のれん配分を判断しますが、あわせて、のれんと減損に関するIASBのプロジェクトにも留意しておく必要があります。IASBは、企業結合に関する開示、のれん、減損に関するプロジェクトを進めており、2024年3月には、IFRS第3号およびIAS第36号の改正案を含む公開草案を公表しています。現時点では現行基準に基づく処理が必要ですが、のれんを含むCGUの開示、企業結合後の業績説明、減損テストの実効性については、今後も基準改正の動向を確認していく必要があります。
出典:IFRS Foundation|Business Combinations—Disclosures, Goodwill and Impairment
CGU・全社資産・のれん配分は、財務報告上の「説明単位」を決める判断である
CGUの識別、全社資産の配分、のれんの配分は、単なる計算上の前提ではありません。それは、企業がどの単位で事業を運営し、どの単位で投資を回収し、どの単位でシナジーを管理し、どの単位で財務諸表利用者に説明するのかを決める判断です。
この判断が曖昧なまま減損テストを行うと、事業計画、セグメント情報、PPA、のれん、全社資産、使用価値、開示、監査対応が、それぞれ別々のロジックで作られてしまいます。そうなると、最終的な減損損失の有無や金額が正しいかどうか以前に、財務報告として説明に耐える状態とはいえなくなってしまいます。
IAS第36号の減損テストでは、次の問いに答えられることが重要です。
- その資産は、単独で回収可能価額を見積れるのか
- 見積れない場合、最小の独立キャッシュ・インフロー単位はどこか
- 内部管理単位とCGUの関係を、説明できるか
- 全社資産を配分できるか、できない場合はどのCGUグループでテストするか
- のれんは、どのシナジーから便益を受ける単位に配分されているか
- のれんの配分単位は、事業セグメントより大きくないか
- 組織再編や事業処分に伴う再配分を、検討しているか
- 帳簿価額と回収可能価額の範囲は、整合しているか
- 注記で、利用者に説明できるか
- 監査人に、判断過程と証拠を示せるか
CGUを適切に設定することは、減損損失を認識するかどうかにとどまらず、財務報告全体の信頼性に関わってくるのです。
IFRS減損テスト単位の整理でお困りの方へ
資金生成単位、全社資産、のれん配分は、IAS第36号のなかでも特に判断の幅が大きく、監査対応の面でも深く検討されやすい領域です。
買収後ののれんを、どの単位に配分すべきか。
全社資産を、どの基準でCGUへ配分すべきか。
管理会計上の単位とCGUが一致しない場合に、どう説明すべきか。
セグメント変更や組織再編に伴って、のれんを再配分すべきか。
減損テストの単位を、監査人や関係者に説明できる資料として、どう整理すべきか。
これらの論点は、基準本文だけを確認しても、企業ごとの事業実態、内部管理、M&Aの目的、シナジー、開示方針を踏まえなければ、結論を出しにくい領域です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに関する会計処理、減損テスト、のれん配分、PPA、開示、監査対応資料の整理について、事実関係と基準に基づき、説明可能な判断として整理するご支援を行っています。資金生成単位やのれん配分の判断にご不安がある場合は、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | IAS第36号における考え方 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| CGUの定義 | 独立したキャッシュ・インフローを生み出す最小の識別可能な資産グループ | 管理会計単位ではなく、外部キャッシュ・インフローの独立性を確認する |
| 内部管理単位 | CGU識別の重要な証拠になる | 内部報告だけでなく、顧客・価格・販売チャネル・処分意思決定と整合させる |
| CGUの継続性 | 同一資産について首尾一貫して識別する | 組織再編や管理体制変更がある場合、変更理由を文書化する |
| 帳簿価額の範囲 | 回収可能価額の算定方法と整合させる | 含める資産・除外する資産・負債の扱いを整理する |
| 全社資産 | 複数CGUのキャッシュ・フローに寄与する、のれん以外の資産 | 配分できるか、できない場合は最小CGUグループでテストする |
| 全社資産の配分 | 合理的かつ首尾一貫した基準で配分できる場合はCGUに含める | 売上比率等が実態を反映しているか確認する |
| のれんの配分 | 企業結合のシナジーから便益を得るCGUまたはCGUグループへ配分 | 被取得企業単体ではなく、シナジーの帰属先を検討する |
| のれん配分単位の上限 | 内部管理上の最小単位で、かつIFRS第8号の事業セグメントより大きくない | 報告セグメントではなく、集約前の事業セグメントとの関係を確認する |
| のれんの再配分 | 事業処分や組織再編時に必要となる場合がある | 相対価値アプローチを基本に、経済的便益の移転を説明する |
| 減損テストの順序 | 個別資産・下位CGUを先にテストし、その後にのれんを含む単位をテストする | 大きな単位で下位の減損を吸収していないか確認する |
| 減損損失の配分 | まずのれん、その後にその他資産へ按分する | 個別資産の下限、戻入れ可否、開示への影響を確認する |
| 開示 | 重要なCGU、主要仮定、感応度、回収可能価額の基礎等を説明する | ボイラープレートではなく、企業固有の判断を示す |