IFRS第16号における貸手会計・サブリース・セール・アンド・リースバック|複合リース取引を「説明できる判断」にする

IFRS第16号のリース実務では、どうしても借手の使用権資産やリース負債に関心が集まりがちです。しかし実際に判断が難しくなるのは、貸手会計、サブリース、そしてセール・アンド・リースバックの領域です。契約構造が複雑になるほど、なぜその会計処理を選んだのかを言葉で説明することが難しくなっていきます。

貸手は、借手と違って、すべてのリースを一つのモデルで処理するわけではありません。IFRS第16号のもとでは、貸手は個々のリースをファイナンス・リースかオペレーティング・リースかに分類します。その分かれ目は、原資産の所有に伴うリスクと経済価値のほとんどすべてが借手側へ移転しているかどうかにあります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

さらにサブリースになると、中間に立つ貸手が「ヘッドリースの借手」であると同時に「サブリースの貸手」でもあります。つまり、同じ契約群のなかで借手会計と貸手会計が重なり合うのです。

セール・アンド・リースバックも同様に、資産の売却とリースバックを別々に眺めれば足りる、という単純な取引ではありません。そもそも売却が成立しているのか、売却価格やリース料は市場条件といえるのか、売手である借手が保持し続けている使用権に対応する損益まで認識してしまっていないか。こうした点を一つずつ確かめていく必要があります。

本稿では、5-5「貸手会計・サブリース・セール・アンド・リースバック」として、IFRS第16号のリーステーマを締めくくる応用論点を取り上げます。会計処理、契約分析、表示・開示、監査対応、そして経営判断への影響までを、一続きの流れとして整理していきます。

目次

貸手会計の出発点は「分類」にある

借手会計では、短期リースや少額資産リースなどの例外を除き、使用権資産とリース負債を認識する単一の会計モデルが採用されています。ところが貸手会計には、従来のIAS第17号型の分類の考え方が、なお色濃く残っています。

貸手はまず、そのリースがファイナンス・リースなのかオペレーティング・リースなのかを判定します。ファイナンス・リースとは、原資産の所有に伴うリスクと経済価値のほとんどすべてを移転するリースです。オペレーティング・リースは、それに当たらないリースを指します。

分類は契約の形式ではなく、取引の実質に基づいて行います。所有権の移転、割安購入オプション、リース期間、リース料の現在価値、原資産の特殊性などが、その判断の手がかりになります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ここで気をつけたいのは、これらの手がかりが機械的なチェックリストではない、ということです。たとえばリース期間が経済的耐用年数の大部分を占めていても、残存価値リスクや変動リース料の構造次第では、リスクと経済価値の移転は限定的だと判断されることがあります。

逆に、所有権が移転しない契約であっても、リース料の現在価値や購入オプションの経済性から見れば、実質的には資金提供を伴う売却に近い取引と評価されることもあります。

貸手による分類は、契約開始時点の事実関係に基づいて行います。リースの条件変更がある場合を除き、見積りの変更や状況の変化だけを理由に再分類することはありません。だからこそ、分類の裏づけとなる資料は開始時点で揃えておくことが大切です。具体的には、そのとき入手できた契約条件、原資産の公正価値、耐用年数、残存価値、リース料、各種オプション、保証、解約条項といった情報です。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ファイナンス・リースの貸手会計|原資産から正味リース投資へ

リースをファイナンス・リースに分類した貸手は、原資産を通常の有形固定資産として保有し続けるわけではありません。リース開始日に、「正味リース投資」を債権として認識します。IFRS第16号は、ファイナンス・リースに供される資産を財政状態計算書に債権として表示し、その金額を正味リース投資とすることを求めています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

この正味リース投資は、単なるリース料の債権ではありません。リース料、無保証残存価値、未稼得金融収益、計算利子率、当初直接コストといった要素が関わってきます。貸手は、リースの計算利子率を用いて正味リース投資を測定します。

サブリースの場合には、サブリースの計算利子率を容易に算定できないことがあります。そのときには、中間に立つ貸手は、ヘッドリースに用いた割引率を、サブリースに係る当初直接コストに応じて調整したうえで用いることができます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ファイナンス・リースでは、貸手はリース期間にわたり、正味リース投資に対する一定の期間利回りを反映するパターンで金融収益を認識していきます。あわせて、正味リース投資にはIFRS第9号の認識中止および減損の要求事項が適用され、無保証残存価値も定期的に見直す必要があります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

こうして見ると、貸手会計は「売却処理か賃貸処理か」という表示上の問題にとどまりません。信用リスクの管理、残価リスクの管理、リース料の回収可能性、残存価値の見積り、そしてIFRS第9号の予想信用損失モデルとの接続まで、一体で考える必要があります。とりわけ車両、航空機、産業機械、不動産設備のように残価リスクの大きい資産では、リース分類と残存価値見積りの根拠を、監査の場で説明できる状態にしておくことをおすすめします。

製造業者・販売業者である貸手には、販売損益の論点が加わる

貸手が製造業者または販売業者である場合、そのファイナンス・リースは、単に金融収益を得る取引ではありません。実質的な販売取引としての性格を帯びます。

IFRS第16号は、製造業者または販売業者である貸手について、ファイナンス・リース開始日に、収益を原資産の公正価値と貸手に帰属するリース料現在価値のいずれか低い金額で認識し、あわせて売上原価を認識する取扱いを定めています。また、顧客誘引のために人為的に低い利率を提示した場合には、販売利益が過大にならないよう、市場金利を用いた場合の販売利益に制限します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

実務では、設備メーカー、車両販売会社、IT機器ベンダー、不動産開発会社などでこの論点が表面化します。販売とリースを選べる契約、メンテナンス込みの契約、買戻し条件付きの契約、残価保証付きの契約では、収益認識、リース分類、金融収益、サービス収益が一つの契約のなかに混在します。

こうした場合、契約全体を「リース」とひとまとめにするのではなく、要素ごとに分解して考えます。原資産の移転、金融要素、保守サービス、消耗品、保証、残価保証、買戻しオプション。それぞれについて、IFRS第15号、第16号、第9号、第13号のどの要求事項が適用されるのかを整理していきます。貸手の実務では、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース、条件変更、そして製造業者・販売業者である貸手の処理が、地続きの判断領域として現れてきます。

オペレーティング・リースの貸手会計|原資産を保有し続ける処理

オペレーティング・リースでは、貸手は原資産を財政状態計算書に残し、その性質に応じて表示します。リース料収益は、定額法か、あるいは原資産の使用による便益の減少パターンをより適切に表す他の規則的な方法で認識します。原資産に係る減価償却費や減損も、引き続き貸手側で認識していきます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

オペレーティング・リースは、一見すると従来型の賃貸借処理に近く見えます。とはいえ、判断が軽いわけではありません。

貸手は、原資産の減価償却方針、減損の兆候、投資不動産への該当性、変動リース料、リース・インセンティブ、当初直接コスト、解約不能期間、更新オプションといった論点を管理していく必要があります。オペレーティング・リース契約を獲得するための当初直接コストは、原資産の帳簿価額に加算し、リース収益と同じ基礎で費用として認識します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

たとえば不動産賃貸では、フリーレント、内装補助、段階賃料、市場賃料の改定、共益費、原状回復条項などが、損益認識と開示の両方に影響します。リース料を直線で配分することにばかり目を向けていると、貸手が抱え続ける残価リスクや空室リスク、将来の改修投資、減損リスクまでは説明しきれません。

貸手の条件変更|「新たなリース」か「金融資産の条件変更」か

貸手会計で実務上とりわけ迷いやすいのが、条件変更の取扱いです。

ファイナンス・リースの条件変更は、リースの範囲が広がり、その対価が増加部分の独立価格に見合う場合には、独立したリースとして処理します。独立したリースとして処理しない場合には、当初から変更後の条件であったならオペレーティング・リースに分類されていたか、それともファイナンス・リースに分類されていたかを検討します。オペレーティング・リースに分類されていたであろう場合には、条件変更日から新たなリースとして会計処理し、原資産の帳簿価額を条件変更直前の正味リース投資で測定します。それ以外の場合には、IFRS第9号を適用します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

オペレーティング・リースの条件変更は、条件変更日から新たなリースとして処理します。その際、変更前のリースに関する前払または未収のリース料は、新しいリースのリース料の一部として考慮します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ですから、賃料の減免、リース期間の延長、対象資産の追加、面積の変更、リース料の改定、残価保証の変更、解約条件の変更といった事象が生じても、「条件変更があった」という事実だけで会計処理が決まるわけではありません。その変更が範囲の追加なのか、価格の改定なのか、信用リスクへの対応なのか、あるいは資産の使用権の実質的な変更なのか。まずはそこを見きわめる必要があります。

とくにファイナンス・リースの条件変更がIFRS第9号の金融資産の条件変更へと接続する場合には、認識中止、実効金利、減損、信用リスクの再評価が論点になります。ここでリース担当部門と財務部門の判断が分断されてしまうと、正味リース投資の会計処理と信用リスク管理が噛み合わなくなるおそれがあります。

サブリースの本質|中間に立つ貸手は「使用権資産」を貸している

サブリースとは、借手である企業が、当初の貸手とのヘッドリースを維持したまま、原資産をさらに第三者へリースする取引です。中間に立つ貸手は、ヘッドリースでは借手、サブリースでは貸手という二つの立場を同時に持ちます。ヘッドリースの貸手から原資産を賃借し、そこから生じた使用権資産を、最終的な借手へリースしている——これがサブリースの基本的な関係です。

この構造を押さえておかないと、サブリースの分類を誤ってしまいます。

IFRS第16号では、ヘッドリースが短期リースとして借手側で免除処理されている場合、サブリースはオペレーティング・リースに分類されます。それ以外の場合、中間に立つ貸手は、原資産そのものではなく、ヘッドリースから生じた使用権資産を参照してサブリースを分類します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

たとえば、経済的耐用年数30年の建物を10年間リースし、そのうち8年間を第三者へサブリースするケースを考えてみます。ここで、原資産である建物の経済的耐用年数30年と、サブリース期間8年とを単純に比べるわけではありません。IFRSでは、ヘッドリースから生じる使用権資産を基礎に分類するため、サブリース期間8年がヘッドリース期間10年の大部分を占めるかどうかが重要になります。実務上も、IFRSではサブリースの分類にあたって原資産ではなくヘッドリースに係る使用権資産を参照するため、米国基準とは分類結果が異なる場合があります。

サブリースがファイナンス・リースとなる場合

サブリースがファイナンス・リースに分類される場合、中間に立つ貸手は、サブリースの対象となる使用権資産部分を認識中止し、サブリースに係る正味リース投資を認識します。

ここで見落としてはならないのは、ヘッドリース負債が消えるわけではない、という点です。中間に立つ貸手は、ヘッドリースの借手として、貸手に対するリース負債を引き続き認識します。その一方で、サブリースの貸手として、最終借手に対する正味リース投資を認識します。結果として、中間に立つ貸手の財政状態計算書には、ヘッドリース負債とサブリース債権が並んで存在することになります。

そのためサブリース取引は、単なる賃料収支の差額管理では済みません。金融資産とリース負債の両建て、信用リスク、流動性リスク、金利差、そして残存する使用権の減損までを管理する取引になります。

また、サブリースを開始する際に、ヘッドリースのリース期間を見直す必要が生じることもあります。たとえば、ヘッドリースに延長オプションがあり、当初は行使が合理的に確実ではないと判断していたとします。ところが、ヘッドリース期間を超えるサブリースを締結したとなると、それは借手の統制の及ぶ範囲内にある重大な事象に当たり、ヘッドリースのリース期間の見直しが必要となり得ます。

サブリースがオペレーティング・リースとなる場合

サブリースがオペレーティング・リースに分類される場合、中間に立つ貸手はヘッドリースに係る使用権資産を引き続き認識し、サブリース料収益をリース期間にわたって認識します。損益計算書には、ヘッドリースに係る使用権資産の減価償却費、ヘッドリース負債に係る利息費用、そしてサブリース収益が並ぶことになります。

このとき、損益の表示だけを眺めると、サブリース収益とヘッドリース費用の差額が、あたかもマージンのように見えます。しかし会計上は、使用権資産、リース負債、収益、償却費、利息費用を、それぞれ別個に管理しなければなりません。

なお、サブリース先が同一グループ内の会社である場合には、個別財務諸表ではリース取引が残る一方、連結財務諸表では内部取引として相殺消去されることがあります。サブリースの相手方が関連当事者であるときは、価格条件、使用の実態、グループの管理方針、そして関連当事者開示との整合まで確認しておきたいところです。

セール・アンド・リースバックは「売却の有無」から始まる

セール・アンド・リースバックでは、企業が資産を他の企業へ譲渡し、その資産を買手である貸手からリースバックします。IFRS第16号では、売手である借手と買手である貸手の双方が、資産の譲渡契約とリースを、IFRS第16号のセール・アンド・リースバック規定に従って会計処理します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

判断の出発点は、その資産の譲渡がIFRS第15号に基づき売却として会計処理されるかどうかです。IFRS第16号は、履行義務がいつ充足されるかに関するIFRS第15号の要求事項を適用して、譲渡が売却に該当するかを判定することを求めています。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ここで、法律上の所有権が移転したという一点だけを見て「売却あり」と判断してしまうのは、危うい進め方です。買手である貸手が資産の支配を取得しているか、売手である借手が資産の使用を実質的に支配し続けていないか、そして買戻し条件やコールオプション、プットオプション、リースバック期間、残価保証、価格条件が支配の移転を妨げていないか。こうした点を確かめていきます。

セール・アンド・リースバック取引の会計処理は、資産の売却が生じたかどうか、また売却とリースバックが市場条件かどうかによって変わってきます。そして、その検討では法的な形式だけでなく、経済的効果が同じになる他の形式もあわせて視野に入れます。

譲渡が売却である場合|保持した使用権に係る損益は認識しない

資産の譲渡がIFRS第15号に基づく売却に該当する場合、売手である借手は、リースバックから生じる使用権資産を、従前の資産帳簿価額のうち保持した使用権に対応する割合で測定します。その結果、売手である借手が認識する売却損益は、買手である貸手に移転された権利に対応する部分に限られます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

これこそが、セール・アンド・リースバック会計の中核をなす考え方です。

通常の資産売却であれば、帳簿価額と売却対価との差額が、そのまま売却損益になります。しかしセール・アンド・リースバックでは、売手である借手が資産の使用権を一定期間にわたって保持し続けます。そのため、売却益の全体を一括で認識してしまうと、実質的にはまだ手元に残っている使用権に対応する利益まで認識することになってしまいます。IFRS第16号は、これを防ぐために、売却損益を買手へ移転された権利部分に限定しているのです。

一方、買手である貸手は、資産の購入について適用される基準に従って会計処理し、リースについてはIFRS第16号の貸手会計を適用します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

ですから、同じ取引を売手側と買手側で切り離して検討するのではなく、支配移転、売却価格、公正価値、リースバック条件、市場賃料、リース期間、更新オプションを、整合的に分析していく必要があります。

市場条件でない場合|前払リース料または追加融資として調整する

セール・アンド・リースバックで売却が成立していても、売却対価が資産の公正価値と一致しない場合、あるいはリース料が市場条件でない場合には、売却対価を公正価値で測定するための調整が必要になります。

IFRS第16号では、売却対価の公正価値と資産の公正価値が一致しない場合、またはリース料が市場条件でない場合、低利・低賃料の条件はリース料の前払として、高利・高賃料の条件は買手である貸手から売手である借手への追加融資として会計処理します。調整額は、売却対価の公正価値と資産の公正価値との差額、または契約上のリース料現在価値と市場リース料現在価値との差額のうち、より容易に算定できる方を基礎に測定します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

この論点は、実務では非常に重みを持ちます。

資金調達を目的としたセール・アンド・リースバックでは、売却価格が高めに設定される代わりに、リース料も高くなることがあります。反対に、売却価格を低く抑え、リース料も低く設定するケースもあります。こうした取引を、表面上の売却対価と賃料だけで処理してしまうと、売却損益、使用権資産、リース負債、金融負債、利息費用のすべてが歪んでしまいます。

だからこそセール・アンド・リースバックでは、評価資料、市場価格、鑑定評価、入札条件、類似賃料、資金調達条件、社内の投資意思決定資料などを用いて、市場条件であることを説明できる状態にしておく必要があります。

譲渡が売却ではない場合|金融取引として処理する

資産の譲渡がIFRS第15号に基づく売却に該当しない場合、売手である借手は譲渡した資産を引き続き認識し、譲渡収入と同額の金融負債を認識します。買手である貸手は譲渡資産を認識せず、譲渡収入と同額の金融資産を認識します。いずれの場合もIFRS第9号を適用します。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

これは、法的には売買契約が交わされていても、会計上は売却ではなく担保付借入に近い処理になる、ということを意味します。

たとえば、売手が実質的に資産の使用を支配し続けている、買手が資産を自由に使用・売却できない、売手に買戻しの義務がある、リースバック条件によって買手の残価リスクがほとんど存在しない——このような場合には、売却処理が認められない可能性があります。

そしてこの判断は、財務諸表上の資産売却益、負債、総資産、EBITDA、ROA、さらには借入契約上の財務制限条項にまで、大きく影響します。経営の説明としては資産売却による資金調達と位置づけていても、IFRS上は金融取引として会計処理される場合があります。だからこそ、取引を実行する前の段階で会計への影響を検討しておくことが望まれます。

2022年修正後のセール・アンド・リースバック負債にも注意する

セール・アンド・リースバックについては、2022年9月にIFRS第16号の修正「Lease Liability in a Sale and Leaseback」が公表され、2024年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されています。この修正により、売手である借手は、リースバックに係るリース負債を事後測定する際、保持している使用権に係る利得または損失を認識しないように、リース料または改訂後のリース料を決定することが求められます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

この修正は、とくに変動リース料を含むセール・アンド・リースバックで意味を持ちます。売却時点で保持した使用権に対応する利益を認識しない、という考え方が、事後測定にまで一貫して貫かれるからです。リースバック負債の測定を、通常のリース負債と同じ感覚で処理してしまうと、保持している使用権に係る損益が、後の期間に不適切に認識されてしまうおそれがあります。

実務では、2024年以後に開始する年度の会計方針、リース管理システム、取引別の計算表、過年度取引への経過措置の適用状況を、あらためて確認しておく必要があります。セール・アンド・リースバックは、頻度こそ少ない企業であっても、1件あたりの金額が大きくなりがちです。それだけに、監査・開示・資本市場への説明という面で重要性が高くなりやすい論点だといえます。

貸手会計・サブリース・SLBの開示は、リスクの説明である

IFRS第16号の貸手開示は、リース収益や債権残高を一覧にすれば足りるものではありません。貸手の開示目的は、財政状態計算書、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の情報とあわせて、リースが貸手の財政状態、財務業績、キャッシュ・フローに与える影響を、財務諸表の利用者が評価できるようにすることにあります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

貸手は、ファイナンス・リースについて、販売損益、正味リース投資に係る金融収益、測定に含まれない変動リース料収益を開示します。オペレーティング・リースについては、リース収益と、指数またはレートに依存しない変動リース料収益を区分して開示します。あわせて、リース活動の性質や、原資産に保持している権利に関連するリスク管理戦略も説明します。残価リスクへの対応という観点からは、買戻契約、残価保証、使用限度の超過に係る変動リース料などが、開示上の論点になり得ます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

さらにファイナンス・リースでは、正味リース投資の帳簿価額に生じた重要な変動についての定性的・定量的な説明や、受取リース料の満期分析が求められます。オペレーティング・リースでは、原資産に関するIAS第16号、第36号、第38号、第40号などの開示要求も接続してきます。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

サブリースでは、ヘッドリース負債とサブリース債権、あるいはサブリース収益が、財務諸表にどのように反映されているかを説明する必要があります。セール・アンド・リースバックでは、その取引を行った理由、主要な契約条件、リース負債の測定に含まれていない支払、報告期間のキャッシュ・フローへの影響が、利用者への説明という点で重要な情報になります。
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases

日本基準との接続|新リース会計基準の導入も視野に入れる

IFRSを適用する企業では、IFRS第16号が直接の判断基準になります。もっとも実務では、日本基準の新リース会計基準との接続も見過ごせません。

ASBJは企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を公表しています。同基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。また、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から、早期適用することも可能です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

同基準では、リースに関する注記として、借手・貸手それぞれについて、リース特有の取引に関する情報や、当期および翌期以降のリース金額を理解するための情報が求められます。ただし、開示目的に照らして重要性に乏しい注記事項は、記載しないことができるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

IFRS適用企業のグループ内に日本基準の子会社がある場合には、IFRS連結パッケージと日本基準の単体決算の双方を見据えておく必要があります。契約台帳、リース分類、サブリース管理、セール・アンド・リースバック取引、注記情報を、あらかじめ整えておくことが望まれます。

監査対応で問われる資料

貸手会計・サブリース・セール・アンド・リースバックでは、監査の場で問われるのは、結論そのものよりも、その結論に至るまでの判断の過程です。

とりわけ、次の資料は整えておきたいところです。

  • 契約書、覚書、変更契約、更新通知、解約通知
  • 原資産の公正価値、帳簿価額、耐用年数、残存価値の見積り
  • リース料支払表、変動リース料の条件、残価保証、購入・解約・更新の各オプション
  • 貸手分類の判定資料
  • 正味リース投資の計算表
  • リースの計算利子率の算定資料
  • 無保証残存価値の見直し資料
  • IFRS第9号に基づくリース債権の減損検討資料
  • サブリース契約とヘッドリース契約の対応表
  • ヘッドリース期間の見直しの要否に関する検討
  • セール・アンド・リースバックの支配移転判定資料
  • 売却価格・リース料の市場条件性に関する検討資料
  • 売却損益の按分計算表
  • 2022年修正後のリースバック負債の事後測定資料
  • 開示ドラフトと、その数値の根拠

会計上の見積りには、経営者の仮定や見積りの不確実性が含まれます。財務諸表への影響が大きい場合には、監査の場でも詳細な説明が求められます。リースの領域では、残存価値、リース期間、支配移転、市場条件、信用リスクといった見積りや判断が幾重にも重なります。だからこそ、契約部門、財務部門、不動産部門、事業部門、税務担当、そして監査人が、同じ前提を共有しておくことが何よりも大切です。

実務上の判断フロー

貸手会計・サブリース・セール・アンド・リースバックを検討するときは、次の順序で整理していくと、論点の抜け漏れを防ぎやすくなります。

はじめに、その契約にリースが含まれるかどうかを確認します。

続いて、リース構成部分と非リース構成部分に分解します。

貸手取引であれば、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかを分類します。

ファイナンス・リースであれば、正味リース投資、金融収益、IFRS第9号の減損、無保証残存価値を検討します。

オペレーティング・リースであれば、原資産の表示、リース収益、減価償却、減損、当初直接コストを検討します。

サブリースであれば、中間に立つ貸手として、ヘッドリースの使用権資産を参照して分類し、ヘッドリース負債との関係を整理します。

セール・アンド・リースバックであれば、IFRS第15号に基づいて売却の有無を判定したうえで、市場条件性、売却損益、リースバック負債の測定を検討します。

そして最後に、表示・開示、監査証拠、内部統制、経営指標への影響を整理します。

この流れを外してしまうと、実務では次のような不整合が起こりがちです。リース分類は正しいのに開示が不十分、売却処理は行ったのに支配移転の証拠が足りない、サブリース債権は認識したのにヘッドリース期間の見直しを失念していた——こうしたずれです。

まとめ

IFRS第16号における貸手会計は、借手会計のような単一モデルではありません。貸手は、リースごとにファイナンス・リースかオペレーティング・リースかを分類し、原資産のリスクと経済価値がどの程度移転しているのかを、言葉で説明できるようにしておく必要があります。

サブリースでは、中間に立つ貸手が、ヘッドリースから生じる使用権資産を第三者へリースしている——この構造をしっかり押さえておくことが要になります。分類は原資産そのものではなく、原則としてヘッドリースに係る使用権資産を参照して行います。

セール・アンド・リースバックでは、まずIFRS第15号に基づいて売却が成立しているかどうかを判定します。売却が成立している場合でも、売手である借手が保持した使用権に係る損益は認識せず、移転された権利に対応する損益だけを認識します。売却が成立していないのであれば、金融取引として処理します。

これらの論点は、契約の形式だけでは判断がつきません。支配移転、リスクと経済価値、残存価値、信用リスク、市場条件、資金調達目的、グループ内取引、そして開示上の説明までを、一体として整理していく必要があります。

貸手分類、サブリース、セール・アンド・リースバック、条件変更、開示・監査対応について、契約書のレビューから論点整理資料の作成まで検討が必要な場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページよりご相談ください。リース取引の経済実態を財務報告上どのように説明するか、監査対応・経営判断・開示資料化までを見据えて整理いたします。

出典

出典:IFRS Foundation|IFRS 16 Leases
出典:IFRS Foundation|International Financial Reporting Standard 16 Leases
出典:IFRS Foundation|Lease Liability in a Sale and Leaseback
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

重要事項の振り返り

論点判断の要点実務上の注意点
貸手分類ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかを判定する契約形式ではなく、リスクと経済価値の移転に基づく
ファイナンス・リース原資産を認識中止し、正味リース投資を債権として認識する金融収益、IFRS第9号の減損、無保証残存価値の見直しが必要
オペレーティング・リース原資産を貸手が保持し、リース収益を期間配分する減価償却、減損、当初直接コスト、変動リース料の管理が必要
製造業者・販売業者である貸手ファイナンス・リース開始日に販売損益を認識する人為的に低い金利による販売益の過大計上に注意する
貸手の条件変更独立したリース、新たなリース、IFRS第9号処理のいずれかを判断する変更内容、範囲の増加、価格条件、当初分類との関係を整理する
サブリース中間に立つ貸手が、ヘッドリースの使用権資産を第三者にリースする原資産ではなく使用権資産を参照して分類するのが原則
ファイナンス・サブリース使用権資産の一部を認識中止し、正味リース投資を認識するヘッドリース負債は残るため、債権・負債の両建て管理が必要
オペレーティング・サブリース使用権資産を保持し、サブリース収益を認識するヘッドリース費用、利息費用、サブリース収益の対応を確認する
ヘッドリース期間の見直しサブリースの締結が重大な事象となる場合がある延長オプションの行使が合理的に確実か再評価する
セール・アンド・リースバックIFRS第15号に基づき売却の有無を判定する法的所有権の移転だけでなく、支配の移転を確認する
売却が成立するSLB売手は保持した使用権に対応する損益を認識しない売却益は買手に移転された権利部分に限定する
市場条件でないSLB売却対価・リース料を市場条件へ調整する前払リース料または追加融資として処理する場合がある
売却が成立しないSLB金融取引として処理する売手は資産を継続認識し、買手は金融資産を認識する
2022年修正リースバック負債の事後測定で、保持使用権に係る損益を認識しない2024年1月1日以後開始年度からの適用状況を確認する
開示リース収益、金融収益、変動リース料、満期分析、残価リスク管理を説明する数値表だけでなく、リース活動の性質とリスク管理を説明する
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