IFRSの任意適用は、「日本基準ではなくIFRSで連結財務諸表を作成できる」という制度上の選択肢にとどまるものではありません。
実務の現場では、財務報告の前提そのものが動きます。日本基準を中心とした決算プロセスから、IFRSに基づく認識・測定・表示・開示・見積り・判断の体系へと、報告の土台そのものを移していく作業だからです。
ですから、IFRS任意適用を理解しようとするときは、制度の枠組みだけを追っても十分ではありません。次のような実務上の問いを、あわせて考えておく必要があります。
- どの企業がIFRSを任意適用できるのか
- 日本企業が適用する「IFRS」とは、IASBが公表するIFRSそのものなのか
- 金融商品取引法上の連結財務諸表と会社法上の連結計算書類は、どう関係するのか
- IFRS任意適用は、会計方針、連結決算、注記、内部統制、監査対応にどのような影響を与えるのか
- IFRSを適用することは、経営管理や資本市場への説明にとってどのような意味を持つのか
本稿では、個別基準の差異や初度適用の詳細に入る前段として、日本企業におけるIFRS任意適用制度の全体像を整理します。
IFRS任意適用制度は「連結財務諸表の作成基準の選択」である
日本におけるIFRS任意適用制度は、まず金融商品取引法に基づく連結財務諸表の作成基準の選択として理解するのが出発点です。
上場会社等が有価証券報告書を提出する場合、連結財務諸表をどの会計基準で作成するかは、投資者向け開示の根幹に関わります。日本では、一定の要件を満たす会社について、連結財務諸表を「指定国際会計基準」に従って作成することが認められています。
ここで押さえておきたいのは、任意適用の対象が、まずは連結財務諸表だという点です。
「IFRS任意適用」という言葉だけを見ると、会社のすべての会計処理が一律にIFRSへ置き換わるように受け取られがちです。しかし実務上は、金融商品取引法上の連結財務諸表、会社法上の連結計算書類、単体財務諸表、税務申告、社内管理資料が、それぞれ別の制度目的を持って併存しています。
したがって検討にあたっては、次の点を切り分けておくことが欠かせません。どの財務諸表にIFRSを適用するのか。単体決算や税務申告との関係をどう整理するのか。連結決算上の調整をどこで管理するのか。
日本のIFRS任意適用制度は、連結財務諸表規則における指定国際会計基準の特例を中心に設計されています。同規則では、指定国際会計基準特定会社が提出する連結財務諸表等について、指定国際会計基準に従うことができる旨が定められています。
出典:e-Gov法令検索|連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則
日本企業が適用するのは「指定国際会計基準」である
日本企業が任意適用するIFRSは、制度上は「指定国際会計基準」として扱われます。
指定国際会計基準とは、IASBが公表したIFRS会計基準のうち、金融庁長官が指定したものを指します。ですから、日本企業が有価証券報告書上の連結財務諸表でIFRSを任意適用するといっても、「海外で使われているIFRSをそのまま任意に参照する」という関係ではありません。日本の開示制度のなかで、指定国際会計基準として取り込まれたIFRSを適用する、という構造になっています。
もっとも、指定国際会計基準が、IASBの公表するIFRS会計基準と大きく乖離して運用されているわけではありません。日本ではFSA長官が指定したIFRSが用いられ、これまでIFRS会計基準は発効日前に指定されてきた、という経緯があります。
出典:IFRS Foundation|Use of IFRS Standards by jurisdiction: Japan
この点は、実務のうえでかなり重要です。
IFRS任意適用会社が財務諸表の注記で「IFRSに準拠して作成している」と説明する場合、その前提には、どのIFRS基準が日本の指定国際会計基準として取り込まれているかという制度上の確認があります。
また、新基準や改訂基準がIASBから公表されたときには、それが日本の指定国際会計基準としてどのように指定されるかを、継続的に確認していく必要があります。たとえば2026年7月10日には、金融庁が、IASBが令和8年6月30日までに公表した基準を指定国際会計基準とする告示改正案について、パブリックコメントを実施しています。ここではIFRS第20号「規制資産及び規制負債」の新設などが対象とされています。
出典:金融庁|連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件に対するパブリックコメントの実施について
つまりIFRS任意適用会社にとっては、IFRS基準本文を読むだけでは足りません。金融庁による指定状況、新基準の発効日、経過措置、開示への反映時期まで、あわせて管理していくことが求められます。
IFRS任意適用は2010年から認められ、現在は相応の実務蓄積がある
日本では、2010年3月期から、一定の要件を満たす会社について、連結財務諸表へのIFRS任意適用が認められています。日本においては2010年3月から、一定の要件を満たす会社による連結財務諸表へのIFRS任意適用が認められてきました。
出典:IFRS Foundation|Use of IFRS Standards by jurisdiction: Japan
制度が始まった当初は、IFRS任意適用はごく一部のグローバル企業に限られる、という印象が強くありました。しかしその後、任意適用要件の見直しや、上場会社における会計基準選択の開示実務の蓄積が進みます。いまでは、IFRS任意適用は特殊な制度ではなく、上場会社の財務報告における現実的な選択肢として定着しています。
JPXによれば、2026年6月末現在、IFRS適用済会社数は295社、IFRS適用決定会社数は20社、合計315社とされています。
出典:日本取引所グループ|IFRS適用済・適用決定会社一覧
この数字をどう評価するかは、目的によって変わってきます。
上場会社全体から見れば、IFRS任意適用会社はまだ多数派ではありません。一方で、海外投資家への説明、グローバルM&A、海外子会社管理、国際的な資金調達、同業海外企業との比較可能性を重視する企業にとっては、IFRSはすでに十分に実務上の選択肢となっています。
監査法人や会計アドバイザリーの現場でも、IFRS任意適用会社の増加は、単なる基準知識の問題としては現れません。移行支援、会計方針設計、注記レビュー、監査証拠の整理、グループ決算体制の構築といった、実務対応の増加という形で立ち上がってきます。
任意適用できるかどうかは「体制」と「開示」が重要になる
IFRS任意適用制度を考えるとき、「上場会社だから適用できる」「海外取引があるから適用できる」と単純に捉えるのは正確ではありません。
現在の制度では、日本において指定国際会計基準に従って連結財務諸表を作成するために、次の点が要件とされています。指定国際会計基準に従って連結財務諸表を作成するための具体的な取組みを有価証券報告書で開示すること。そして、指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員または使用人を置き、適正に作成できる体制を整備していることです。
出典:IFRS Foundation|Use of IFRS Standards by jurisdiction: Japan
ここで問われているのは、単なる意思表明ではありません。
IFRSを適用するには、基準を読める人材がいるだけでは足りません。IFRSに基づく連結財務諸表を、適正に作成できる体制そのものが必要になります。具体的には、次のような領域が実務上の確認対象になってきます。
- IFRS会計方針を整備しているか
- 日本基準からIFRSへの調整項目を、継続的に把握できるか
- 連結パッケージや子会社報告体制が、IFRSに対応しているか
- 収益、リース、金融商品、減損、企業結合、税効果などの主要論点について、必要な情報を収集できるか
- 会計上の見積りについて、経営者の仮定、事業計画、外部証拠を説明できるか
- 注記情報を作成するための基礎データを、決算スケジュール内で収集できるか
- 監査人との論点協議を、適切な時期に行えるか
IFRS任意適用は、制度上の選択であると同時に、決算プロセス、内部統制、会計人材、システム、子会社管理、監査対応の整備状況を問うものでもあります。
その意味で、任意適用の可否判断は、「IFRSを適用したいか」という問いではありません。「IFRSに基づく財務報告を、継続的に、説明可能な形で作成できるか」という問いに置き換えて考える必要があります。
2013年の要件見直しにより、任意適用の対象は広がった
IFRS任意適用制度を理解するうえで、2013年の制度見直しは大きな意味を持ちます。
当初の制度では、任意適用には、上場していることや、国際的な財務・事業活動を行っていることなどの要件がありました。その後、2013年の金融庁による見直しを経て、任意適用の対象は大きく広がります。
このとき金融庁は、IFRSに基づく連結財務諸表の適正性確保への取組・体制整備の要件は維持しつつ、「上場企業」および「国際的な財務活動・事業活動」の要件は撤廃すべきである、という方針を示しました。
出典:金融庁|国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針
この見直しが持つ意味は、IFRS任意適用が、特定の大規模グローバル企業だけの制度ではなくなった、という点にあります。
ただし、対象が広がったからといって、すべての会社にとってIFRS任意適用が適切とは限りません。IFRSを導入すれば、初度適用、会計方針設計、システム対応、内部統制、注記作成、監査対応に、相応の負荷が生じます。
ですから任意適用の検討では、制度上の適用可能性と、経営上・実務上の適用合理性とを、分けて考えておくことが大切です。
会社法上の連結計算書類との関係
IFRS任意適用を検討する場合、金融商品取引法上の連結財務諸表だけでなく、会社法上の連結計算書類との関係も確認しておく必要があります。
会社計算規則では、一定の場合に、連結計算書類を指定国際会計基準に従って作成できる旨が定められています。
出典:e-Gov法令検索|会社計算規則
もっとも、会社法上の開示と金融商品取引法上の開示とでは、提出先、目的、時期、監査・会計監査人対応、株主総会との関係が異なります。
実務上は、次の点を確認しておきたいところです。
- 有価証券報告書のIFRS連結財務諸表と、会社法連結計算書類を、同じ基準で作成するのか
- 会社法上の連結計算書類で省略可能な項目がある場合、その注記をどう整理するのか
- 株主総会スケジュールと有価証券報告書提出スケジュールのなかで、IFRS注記作成と監査対応をどう組み込むのか
- 単体計算書類や税務申告に日本基準・税法上の処理が残る場合、連結調整をどのように管理するのか
IFRS任意適用は、一見すると投資者向け開示だけの問題に見えます。しかし実際には、会社法決算、会計監査人監査、取締役会・監査役等への説明、株主総会実務にまで影響が及びます。
だからこそ、制度理解の段階から、金融商品取引法と会社法を分けて整理しておくことが重要になります。
IFRS任意適用は「会計基準の変更」ではなく「財務報告体制の変更」である
IFRS任意適用を、日本基準からIFRSへの会計処理差異の反映としてだけ捉えると、実務上の影響を過小評価しやすくなります。
たしかに、移行時には日本基準とIFRSの差異調整が重要な作業になります。収益認識、リース、金融商品、減損、企業結合、外貨換算、税効果、引当金、株式報酬など、多くの領域で会計処理や表示・開示が変わり得ます。
しかし、IFRS任意適用の本質は、単発の差異調整にはありません。
IFRSでは、取引実態、契約条件、経営者の判断、見積りの前提、将来キャッシュ・フロー、リスク管理、開示目的などを踏まえた判断が求められます。したがって移行後も、毎期の決算で継続的に論点を発見し、判断し、文書化し、監査人に説明し、開示に反映する体制が必要になります。
具体的には、次のような変化が起こります。
会計方針の設計が重要になる
IFRSでは、原則主義的な基準体系のもとで、企業固有の取引実態を踏まえた会計方針の設計が重要になります。
他社の開示例を参考にするだけでは、十分とはいえません。自社グループの事業、契約、販売形態、リース契約、金融商品、M&A、海外子会社、税務ポジションを踏まえて、なぜその会計方針が適切なのかを、自らの言葉で説明できる必要があります。
見積りと判断の証拠化が重くなる
IFRSでは、減損、金融資産の予想信用損失、公正価値測定、繰延税金資産、引当金、企業結合におけるPPAなど、見積りを伴う領域が数多くあります。
これらは、計算結果だけを示せば足りるものではありません。事業計画、割引率、将来予測、契約条件、外部データ、経営者の判断過程を整理し、監査上の説明に耐える形で文書化しておく必要があります。
注記作成が決算の最終工程ではなくなる
IFRSでは、注記は単なる補足情報ではありません。財務諸表利用者に重要な判断やリスクを伝えるための、主要な情報として位置づけられます。
そのため、注記作成を決算の最後に形式的に済ませようとすると、必要な情報が集まらない、判断過程が説明できない、注記間の整合性が取れない、といった問題が生じます。
IFRS任意適用会社では、会計処理を検討する段階から、どの情報を注記する必要があるかを意識しておくことが求められます。
連結子会社の情報収集が変わる
IFRS任意適用は、親会社の経理部門だけで完結するものではありません。
海外子会社、国内子会社、事業部門、法務、財務、税務、人事、経営企画、M&A担当部門から、IFRS判断に必要な情報を集めていく必要があります。
とくに、収益契約、リース契約、金融商品、税務ポジション、引当金、減損兆候、企業結合、株式報酬などは、経理部門だけでは事実関係を把握しきれないことが多い領域です。
任意適用を検討する企業で整理すべき主な観点
IFRS任意適用を検討する際には、制度上の可否だけでなく、実務上の目的と影響を整理しておく必要があります。
資本市場への説明を重視するか
IFRSを適用する理由としては、海外投資家への説明可能性、海外同業他社との比較可能性、グローバルな資本市場対応などが挙げられます。
ただし、IFRSを適用すれば自動的に投資家からの評価が高まる、というわけではありません。大切なのは、IFRSに基づく財務情報を、事業実態、経営戦略、リスク、見積りの前提と整合的に説明できることです。
グループ管理と会計方針を統一できるか
海外子会社が多い企業では、IFRSをグループ共通の会計言語として活用する、という考え方があります。
一方で、子会社の所在地国における会計基準、税務、法定決算、ERP、現地監査との関係は残ります。そのため、IFRS連結パッケージの設計、子会社教育、決算スケジュールの調整が必要になります。
M&A・組織再編への影響を見込むか
IFRSでは、企業結合、PPA、のれん、条件付対価、非支配持分、共通支配下取引などの論点に、日本基準とは異なる考え方が含まれます。
M&Aを積極的に行う企業では、IFRS適用によって、取得時の会計処理、取得後の減損テスト、開示、経営者への説明にどのような影響が生じるかを、事前に把握しておくことが重要です。
監査対応と内部統制を運用できるか
IFRSは、判断の余地があるからこそ、判断過程の説明が重要になります。
監査対応の場面では、結論だけでなく、事実関係、適用基準、判断過程、代替的な考え方、見積りの根拠、開示への反映まで整理した資料が求められます。
また、毎期同じ水準でIFRS決算を続けるには、内部統制として、誰が、いつ、どの情報を収集し、誰がレビューし、どのように承認するかを、明確にしておく必要があります。
IFRS任意適用会社にとっての開示上の意味
IFRS任意適用は、会計処理の変更であると同時に、開示姿勢の変更でもあります。
IFRSでは、財務諸表利用者が企業の財政状態、経営成績、キャッシュ・フロー、リスク、見積りの不確実性を理解できるように、注記による説明が重視されます。
とくに重要になるのは、次のような開示です。
- IFRSへの準拠に関する記載
- 重要な会計方針
- 会計方針適用上の重要な判断
- 見積りの不確実性
- 各基準に基づく注記
- 金融リスク、公正価値、収益、リース、企業結合、減損、税効果などの定量・定性情報
- 初度適用時の調整表や移行影響の説明
IFRS任意適用会社の開示では、項目を埋めることが目的ではありません。財務諸表利用者が、その企業の事業とリスクを理解できる情報になっているかが問われます。
この点は、IFRS任意適用制度の実務上の意味を考えるうえで見逃せません。制度上IFRSを選択できることと、IFRSに基づく財務報告を投資家・監査人・取締役会・社内関係者に対して説明できることは、同じではないからです。
IFRS任意適用は「導入時」よりも「導入後」の運用で差が出る
IFRS任意適用の検討では、初度適用時の調整や導入プロジェクトに注目が集まりがちです。
もちろん、初度適用では、開始財政状態計算書、免除規定、遡及適用の禁止、調整表、比較情報、移行注記など、論点は数多くあります。これらは別稿で詳しく整理します。
しかし実務上は、導入後の運用のほうが重くなることも少なくありません。
IFRS適用後は、新しい取引が発生するたびに、IFRS上の論点を検討していくことになります。新規契約、M&A、ファイナンス、株式報酬、海外子会社の設立、事業撤退、減損兆候、税制改正、新基準の公表。こうした事象が起きるたびに、会計処理と開示への影響を確認していく必要があります。
さらに、IFRS基準自体も改訂されます。指定国際会計基準の更新状況、未発効基準、経過措置、早期適用の可否、比較情報への影響を、継続的に確認していかなければなりません。
したがってIFRS任意適用は、導入プロジェクトで完了するものではありません。継続的な会計方針管理と、財務報告体制の運用として捉える必要があります。
任意適用を検討する段階で確認すべき論点
IFRS任意適用を検討する段階では、少なくとも次の観点を整理しておくと役立ちます。
1. 適用目的
まず、なぜIFRSを適用するのかを明確にしておく必要があります。
海外投資家対応なのか、グローバル管理なのか、M&A戦略なのか、同業他社比較なのか、あるいはIPOや市場変更を見据えたものなのか。目的によって、重視すべき論点は変わってきます。
目的が曖昧なまま導入を進めると、会計方針、開示方針、システム対応、監査対応の優先順位が定まりにくくなります。
2. 主要差異
次に、日本基準とIFRSの主要差異を把握します。
ただし、差異一覧を作るだけでは足りません。どの差異が、財務数値、KPI、契約条項、資金調達、経営管理、税務、監査対応、開示に影響するのかを整理しておくことが重要です。
3. データとシステム
IFRSの会計処理や注記に必要な情報が、現在の基幹システム、会計システム、連結システム、子会社報告パッケージで取得できるかを確認します。
とくに、リース、収益、金融商品、公正価値、減損、税効果、企業結合、株式報酬は、既存システムだけでは必要な情報を十分に取れないことがあります。
4. 子会社対応
IFRS任意適用では、親会社だけでなく、子会社の情報収集体制が重要になります。
海外子会社が現地基準で決算している場合、IFRS連結上の調整をどのように行うか。国内子会社が日本基準で単体決算を行う場合、連結パッケージでどの情報を追加収集するか。こうした設計が必要になります。
5. 監査人との協議
IFRS任意適用では、監査人との早期協議が欠かせません。
論点ごとに、会社の判断、根拠資料、見積り前提、開示方針を整理し、監査人と認識を合わせておく必要があります。とくに、初度適用時の免除規定、企業結合、減損、公正価値、税効果、収益、リースなどは、後から修正すると影響が大きくなりやすい領域です。
6. 開示方針
IFRS任意適用では、注記の分量が増えるだけではありません。注記の考え方そのものが変わります。
企業固有の判断や見積りをどこまで説明するか。重要性に基づき、どの情報を集約または省略するか。他社の開示例をどこまで参考にするか。財務諸表利用者にどのように理解してもらうか。これらを検討しておく必要があります。
IFRS任意適用制度を理解する際の注意点
IFRS任意適用制度については、次のような誤解が生じやすいところです。
「IFRSを適用すれば国際比較が容易になる」とは限らない
IFRSは、国際比較可能性を高めるための重要な基盤です。
しかし、IFRSを適用していても、会計方針の選択、見積りの前提、事業構造、開示の粒度、非GAAP指標、セグメント情報が異なれば、単純な比較はできません。
比較可能性を高めるには、IFRSを適用するだけでなく、財務諸表利用者に対して、企業固有の判断を明確に説明することが必要です。
「日本基準との差異調整だけで済む」とは限らない
IFRS移行では、日本基準との差異調整が必要です。
しかし実務上は、差異調整よりも、IFRSに基づく将来の決算運用のほうが重くなります。IFRS会計方針、連結パッケージ、注記データ、決算スケジュール、内部統制、監査対応を整えなければ、移行後の決算は安定しません。
「任意適用なので柔軟に選べる」とは限らない
「任意適用」という言葉からは、会社が自由に、都合よくIFRSを選べるように見えることがあります。
しかし、指定国際会計基準を適用する以上、必要な基準を選択的に除外することはできません。基準に基づいて、認識、測定、表示、開示を一貫して行う必要があります。
「導入すれば終わり」ではない
IFRSは、継続的に改訂されます。
IFRS第18号、IFRS第19号、IFRS第20号のような新基準・新しい開示要求の動きも踏まえると、任意適用後も、会計方針、表示、注記、システム、内部統制を継続的に更新していく必要があります。
IFRS任意適用は、説明可能な財務報告を作るための制度選択である
日本企業におけるIFRS任意適用制度は、会計基準の選択肢の一つです。
しかし実務上は、その選択によって、企業の財務報告体制全体が問われることになります。
IFRSを適用するということは、日本基準との差異を調整することにとどまりません。取引や事象をどのように認識し、どのように測定し、どのように表示し、どのように注記し、どのように監査人や財務諸表利用者に説明するかを、IFRSの考え方に基づいて再設計することです。
任意適用制度を理解する段階では、まず次のように整理しておくとよいでしょう。
- 制度上は、指定国際会計基準に基づく連結財務諸表の作成が中心である
- 適用できるかどうかは、体制整備と開示の観点から確認する必要がある
- 実務上は、会計方針、連結決算、注記、内部統制、監査対応が一体で変わる
- IFRS導入の目的を、資本市場対応、グループ管理、M&A、海外展開、経営管理と接続して整理する必要がある
- 導入後も、新基準対応、見積り、開示、監査対応を継続的に管理する必要がある
IFRS任意適用は、会計基準を変えるだけの話ではありません。
企業が、自社グループの取引、契約、リスク、経営判断を、国際的な財務報告の枠組みのなかでどのように説明するか。その意味で、財務報告上の意思決定そのものだといえます。
IFRS任意適用の検討・制度整理でお困りの場合
IFRS任意適用を検討する際には、制度上の適用可否だけでなく、主要差異、初度適用、会計方針、連結パッケージ、注記、監査対応、内部統制、導入後の運用までを、一体で整理していく必要があります。
とくに、すでにIFRS適用を検討している会社、IFRS適用会社の監査・レビューに関与している専門職、M&Aや海外子会社管理を背景にIFRS論点が生じている会社では、早い段階で論点を構造化しておくことが重要になります。
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重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上のポイント |
|---|---|
| IFRS任意適用制度の位置づけ | 主として金融商品取引法上の連結財務諸表における会計基準選択として理解する |
| 適用する基準 | 日本企業が制度上適用するのは、金融庁長官が指定する「指定国際会計基準」 |
| 任意適用の要件 | IFRSに関する十分な知識を有する人材と、適正に連結財務諸表を作成できる体制が重要 |
| 適用企業数 | JPXによれば、2026年6月末現在、IFRS適用済・適用決定会社は合計315社 |
| 会社法との関係 | 一定の場合、会社法上の連結計算書類も指定国際会計基準に従って作成できる |
| 実務上の本質 | 会計基準の変更ではなく、会計方針、連結決算、注記、内部統制、監査対応を含む財務報告体制の変更 |
| 検討時の注意点 | 目的、主要差異、データ、子会社対応、監査人協議、開示方針を早期に整理する |
| 導入後の課題 | 新基準対応、見積り判断、注記更新、監査対応を継続的に運用する必要がある |