IFRSにおける連結範囲の判断は、「議決権を過半数持っているか」「子会社株式として保有しているか」といった形式的な確認だけでは完結しません。
IFRS第10号「連結財務諸表」は、連結の基礎となる概念として「支配」を置いています。ある企業が他の企業を支配しているならば連結財務諸表を作成すること、その支配を連結の基礎とすること、そして投資者が投資先を支配しているかどうかを識別するための適用方法までを定めた基準です。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
支配の判定で問われるのは、投資先に対する権利、契約、意思決定の仕組み、リターンへの関与、他の投資者や管理者との関係を、全体として整合的に説明できるかどうかです。
ですから、IFRS第10号における支配の判定は、連結範囲を切り分けるための技術的な作業にとどまりません。企業結合、M&A、組織再編、ファンド、SPC、海外子会社、共同支配の取決め、持分法、IFRS第12号の開示、そして監査対応にまで及ぶ、財務報告上の重要な判断領域だと考えています。
IFRS第10号における支配の基本構造
IFRS第10号では、投資者が支配していると判断されるのは、次の状態がそろっているときです。投資先への関与から生じる変動リターンにさらされている、あるいはそのリターンに対する権利を有しており、なおかつ投資先に対するパワーを通じてそのリターンに影響を及ぼす能力を有している場合です。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
この定義を実務の言葉に置き換えると、支配の判定は、次の3要素をすべて満たすかどうかの検討に整理できます。
| 支配の構成要素 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 投資先に対するパワー | 投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動を指図する現在の能力を有しているか |
| 変動リターンへのエクスポージャーまたは権利 | 投資先の業績や価値変動によって、投資者のリターンが変動する可能性があるか |
| パワーを用いてリターンに影響を及ぼす能力 | 投資者が、他者のためではなく、自らのリターンに影響を与えるようにパワーを用いる立場にあるか |
この3要素は、いずれか1つを満たせばよいというものではありません。
議決権を持っていても、リターンにさらされていなければ支配とはいえません。逆に、リターンに大きくさらされていても、関連性のある活動を指図する権利がなければ、やはり支配にはなりません。意思決定権を握っていても、本人ではなく代理人として行使しているにすぎなければ、これも支配とはいえないのです。
IFRS第10号の支配判定は、こうした3要素の相互関係を丁寧に検討していく点に、その特徴があります。
まず確認すべきは「投資先の目的と設計」
支配を判定するとき、最初に見るべきは投資先の目的と設計です。
ここでいう目的と設計とは、定款上の事業目的や会社形態を確認するという意味ではありません。その投資先が、どのようなリスクを引き受けるために設計されているのか。どのようなリターンを生み出すことを予定しているのか。そのリターンに重要な影響を及ぼす活動は何か。そして、その活動を誰がどのように指図するのか。こうした点を把握することを指しています。
IFRS第10号の適用指針は、支配を評価する際に投資先の目的と設計を考慮するよう求めています。その上で、関連性のある活動、当該活動に関する意思決定の方法、その活動を指図する現在の能力を誰が有しているか、誰がリターンを受けるかを識別すべきものとされています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
通常の事業会社であれば、営業方針、価格設定、仕入・販売、投資、人事、資金調達などが、リターンを左右する活動になりやすいでしょう。
一方で、資産保有ビークル、証券化ビークル、不動産SPC、ファンド、単一資産を保有するビークルなどでは、事情が変わってきます。日常的な営業活動ではなく、資産の管理、資金調達、デフォルト発生時の対応、処分方針、契約上の決定権などが重要になる場面が少なくありません。
したがって、支配判定を始めるときに「何%持っているか」だけを見てしまうと、判断を誤ることがあります。先に見るべきなのは、その投資先が何によってリターンを生み、どの活動がそのリターンを左右しているのか、という点です。
パワーとは何か
IFRS第10号におけるパワーとは、投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動、すなわち関連性のある活動を指図する現在の能力を与える、既存の権利を有している状態をいいます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
ここで鍵になるのが「現在の能力」という言葉です。
将来、一定の条件が満たされれば権利を取得できる、というだけでは、直ちにパワーがあるとはいえません。反対に、権利をまだ行使していなくても、必要なときに実質的に行使できる現在の能力があるならば、それはパワーの根拠になり得ます。
また、パワーは議決権だけから生じるとは限りません。IFRS第10号は、パワーを生じさせ得る権利として、次のようなものを整理しています。議決権または潜在的議決権、主要な経営幹部を任命・解任する権利、関連性のある活動を指図する他の企業を任命・解任する権利、投資者の便益のために取引を指図または拒否する権利、そして管理契約等に定められた意思決定権などです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
実務では、次の順序で検討していくと整理しやすくなります。
| 検討項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 関連性のある活動 | 投資先のリターンに最も重要な影響を及ぼす活動は何か |
| 意思決定方法 | その活動は株主総会、取締役会、契約、管理者、スポンサー等のどこで決まるか |
| 権利の保有者 | その決定に関する権利を誰が持っているか |
| 権利の実質性 | その権利を実際に行使できるか、防御権にすぎないか |
| 他の当事者との関係 | 他の投資者、管理者、代理人、関連当事者との契約や関係が判断に影響するか |
関連性のある活動を特定しなければ、支配判定は始まらない
支配判定において最も重要な作業の一つが、関連性のある活動の特定です。
IFRS第10号は、関連性のある活動の例として、財・サービスの販売・購入、金融資産の管理、資産の選択・取得・処分、新製品・新プロセスの研究開発、資金調達構造の決定や資金調達などを挙げています。また、こうした活動に関する意思決定の例としては、営業上・資本上の意思決定、予算の決定、主要な経営幹部やサービス提供者の任命・報酬決定・解任などが示されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
ここで注意したいのは、すべての意思決定が同じ重みを持つわけではない、という点です。
投資先に複数の活動があるなら、どの活動がリターンに最も重要な影響を及ぼすかを見極める必要があります。たとえば、ある投資者が開発活動を指図し、別の投資者が製造・販売活動を指図するような取決めを考えてみます。このとき、「どちらも重要だ」と済ませるのではなく、投資先のリターンに最も重要な影響を及ぼす活動がどちらなのかを判断しなければなりません。
さらに、関連性のある活動は、時間の経過や特定の事象の発生によって移り変わることがあります。通常時は資産運用者が資産管理を担っていても、デフォルト発生後は債権者や別の管理者が回収方針を決める、といった場合です。このときは、どの時点のどの活動がリターンに最も重要な影響を及ぼすのかを、あらためて検討することになります。
ですから、実務上の論点整理では、「取締役会を誰が支配しているか」だけを問うのでは足りません。次の問いに答えられる状態にしておくことが大切です。
| 問い | 実務上の意味 |
|---|---|
| 投資先のリターンは何によって変動するか | 売上、資産価値、信用リスク、運用成績、資金調達条件など |
| そのリターンを左右する活動は何か | 営業、投資、資産管理、資金調達、処分、回収、開発など |
| その活動を誰が決定するか | 株主、取締役会、管理者、スポンサー、債権者、契約当事者など |
| 決定権は現在行使可能か | 将来権利か、条件付きか、実質的に行使できるか |
| 他の権利は防御的か実質的か | 拒否権、承認権、解任権、買戻権などの性質 |
議決権の過半数を持つ場合でも、常に支配するとは限らない
通常の事業会社では、普通株式に比例した議決権が営業・財務方針を決める仕組みになっています。この場合、過半数の議決権を保有する投資者が支配していると判断されることが多いといえます。IFRS第10号も、比例的な議決権を与える普通株式によって支配が明らかであり、追加的な取決めがなければ、過半数の議決権を有する投資者が支配するとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
とはいえ、議決権の過半数を持っていても、その議決権が関連性のある活動を指図する実質的な権利でなければ、パワーは生じません。
たとえば、関連性のある活動が政府、裁判所、管財人、清算人、規制当局等によって指図されている場合を考えてみます。このようなときは、議決権を過半数持っていても、その議決権が実質的なパワーを与えないことがあります。IFRS第10号も、議決権が実質的でない場合には、過半数の議決権を保有していてもパワーを有しないとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
この点は、再建局面、規制業種、倒産手続、強い債権者保護条項がある投資先、特定の契約によって意思決定が固定されているビークルなどで、とりわけ重要になります。
実務では、議決権の保有割合だけを見るのでは足りません。その議決権によって実際に何を決定できるのか、そしてその決定が投資先のリターンに重要な影響を及ぼすのかまで確認する必要があります。
議決権の過半数を持たない場合でも、支配することがある
IFRS第10号では、投資者が議決権の過半数を保有していなくても、パワーを有する場合があります。契約上の取決め、他の議決権保有者との合意、他の契約上の権利、投資者自身の議決権、潜在的議決権、あるいはこれらの組合せによって、関連性のある活動を指図する現在の能力を有している場合です。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
実務で判断に迷いやすいのは、形式上は過半数未満でありながら、他の株主が広く分散しているために、投資者が実質的に単独で関連性のある活動を指図できるようなケースです。
このような場合には、次の要素を検討していきます。
| 検討要素 | 内容 |
|---|---|
| 投資者の議決権割合 | 絶対的な保有割合がどの程度か |
| 他の株主との相対的な関係 | 他の保有者がどの程度分散しているか |
| 投資者を上回るために必要な協調 | 何人の株主が協調すれば投資者を阻止できるか |
| 過去の出席・投票状況 | 他の株主が実際に議決権を行使しているか |
| 契約上の権利 | 経営者の任免権、承認権、拒否権などがあるか |
| 潜在的議決権 | オプション、転換権、先渡契約等が実質的か |
IFRS第10号は、過半数未満の議決権でパワーを有するかを評価する際、すべての事実と状況を考慮するよう求めています。そこには、他の議決権保有者との相対的な関係、潜在的議決権、他の契約上の権利、過去の株主総会での投票パターンなどが含まれます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
ここで気をつけたいのは、「過半数未満だから連結しない」と短絡しないことです。
かといって、単に最大株主である、他の株主が分散している、経済的に重要な関係がある、といった事情だけで、直ちに支配すると断じることもできません。判断の中心にあるのは、あくまで、投資者が関連性のある活動を指図する現在の能力を有しているかどうかです。
潜在的議決権は、実質的かどうかを見る
オプション、転換権、先渡契約などの潜在的議決権も、支配の判定に影響します。
ただし、潜在的議決権が存在するというだけでは足りません。その権利が実質的であり、投資者に現在の能力を与えているかどうかまで検討する必要があります。
IFRS第10号は、権利が実質的であるためには、権利保有者がその権利を行使する実務上の能力を有していなければならないとしています。そして、実質的かどうかを判断する際には、すべての事実と状況を考慮するよう求めています。具体的には、行使を妨げる経済的・その他の障壁、行使価格、行使可能時期、権利行使に必要な情報へのアクセス、運用上の障害などです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
たとえば、転換権やコール・オプションが形式上は存在していても、実質的な権利とはいえない場合があります。行使価格が著しく不利である、行使に必要な承認が実質的に得られない、行使可能時期が関連性のある活動の意思決定に間に合わない、必要な情報を入手できない、といった事情があるときです。
反対に、潜在的議決権が短期間で行使可能であり、関連性のある活動に関する意思決定が行われる時点で投資者が実質的に指図できるならば、それは現在の能力を与える権利と判断されることがあります。IFRS第10号の設例でも、先渡契約や深いイン・ザ・マネーのオプションが、一定の状況では現在の能力を与える実質的権利となり得ることが示されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
防御権はパワーではない
支配の判定で誤りやすいのが、防御権とパワーの混同です。
防御権とは、権利保有者の利益を保護するための権利であって、投資先の関連性のある活動を指図する能力を与えるものではありません。たとえば、重要な資本的支出、追加借入、資産売却、定款変更などについて一定の拒否権を持っているとします。それでも、その拒否権が投資者の資金回収や信用保護のための防御的な権利にとどまるのであれば、パワーを与えるものではない可能性があります。
IFRS第10号は、パワーを評価する際には実質的な権利のみを考慮し、防御的権利はパワーを与える権利としては扱わないとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
もっとも、防御権なのか実質的な意思決定権なのかは、名称だけでは決まりません。
契約上は「承認権」「拒否権」「同意権」と呼ばれていても、その権利が日常的あるいは重要な関連性のある活動の方向性を左右するのであれば、実質的なパワーにつながる可能性があります。逆に、重要な変更や異常事態に限って投資者を保護するための権利であれば、防御権にとどまると考えられます。
実務では、権利の名称にとらわれず、その権利によって何を止められ、何を決められ、投資先のリターンにどの程度影響を与えられるのかを確認することが欠かせません。
変動リターンとは何か
支配の第2要素は、投資者が投資先への関与から生じる変動リターンにさらされている、または変動リターンに対する権利を有していることです。
変動リターンとは、投資先の業績によって変動する可能性のあるリターンをいいます。IFRS第10号では、この変動リターンは、プラスのみ、マイナスのみ、あるいはプラス・マイナス双方のいずれでもあり得るとされています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
ここでいうリターンは、配当や株式価値の変動に限られません。
IFRS第10号は、リターンの例として幅広いものを挙げています。配当その他の経済的便益、債券利息、投資価値の変動、資産・負債のサービスに対する報酬、信用補完・流動性支援による損失エクスポージャー、残余持分、税務上の便益、将来の流動性へのアクセス、他の資産と組み合わせることによるシナジーやコスト削減などです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
この点は、実務上とても重要です。
投資者が株式を保有していなくても、投資先の業績に連動するリターンにさらされている場合があります。管理報酬、業績報酬、劣後持分、保証、流動性供与、信用補完、購入・販売契約、税務上の便益、技術やブランドの利用、原材料調達、販売網の利用などを通じて生じるものです。
一方で、リターンへの大きなエクスポージャーがあるというだけでは、支配にはなりません。IFRS第10号は、リターンの変動性へのエクスポージャーが大きいほどパワーを取得するインセンティブが高まるため、パワーの存在を示す指標にはなり得るとしています。ただし、それ自体でパワーを決定するものではないとも述べています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
つまり、変動リターンは支配判定の必要条件ではありますが、十分条件ではないのです。
パワーとリターンの関連|本人か代理人か
支配の第3要素は、投資者が自らのリターンに影響を及ぼすように、投資先に対するパワーを用いる能力を有していることです。
この論点でとりわけ重要になるのが、意思決定者が本人か代理人かの判定です。
IFRS第10号では、意思決定権を有する投資者は、自らが本人なのか代理人なのかを判断しなければならないとされています。代理人とは、主として他の当事者のために行動する者を指します。ですから、代理人が委任された意思決定権を行使したとしても、それによって投資先を支配することにはなりません。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
ファンド・マネージャー、アセット・マネージャー、運用会社、管理会社、スポンサー、業務受託者などが関与する投資先では、この本人・代理人判定が実務上の中心論点になります。
IFRS第10号は、意思決定者が本人か代理人かを判断する際に、次の要素を考慮するとしています。意思決定権限の範囲、他の当事者が保有する権利、報酬、そして意思決定者が保有する他の関与から生じるリターンの変動性へのエクスポージャーです。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
実務では、次のように整理していきます。
| 判定要素 | 本人性を示し得る方向 | 代理人性を示し得る方向 |
|---|---|---|
| 意思決定権限の範囲 | 広範な裁量を有する | 限定された裁量にとどまる |
| 他の当事者の権利 | 実質的な解任権・承認権が弱い | 他の投資者が実質的に解任・制約できる |
| 報酬 | 通常のサービス報酬を超えて変動リターンに大きく連動 | サービス内容に見合う通常報酬 |
| 他の関与 | 劣後持分、保証、信用補完など重要な変動リターンを負う | 他の経済的関与が限定的 |
| 全体としての関係 | 自らのリターン最大化のためにパワーを用いる立場 | 他の投資者のために意思決定する立場 |
ここで大切なのは、単一の要素だけで機械的に判定しないことです。
報酬が市場水準だから代理人、劣後持分を持つから本人、解任権があるから代理人。こうした一面的な当てはめでは不十分です。意思決定者と投資先、他の投資者、スポンサー、債権者、サービス提供者との関係を、全体として評価する必要があります。
組成された企業・SPCでは、議決権以外の仕組みを見る
IFRS第10号の支配判定が特に難しくなるのは、議決権が投資先のリターンに重要な影響を及ぼさない場合です。
たとえば、SPC、証券化ビークル、不動産保有ビークル、単一資産ビークル、ファンド、投資ストラクチャーなどでは、議決権が事務的な事項にしか関係しないことがあります。関連性のある活動が、契約によってあらかじめ定められているようなケースです。
IFRS第10号は、議決権が管理上の事項にのみ関係し、関連性のある活動が契約上の取決めによって指図されるような場合には、投資者は契約上の取決めを評価する必要があるとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
このような投資先では、次の点が重要になります。
| 検討項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 投資先の設計目的 | どのリスクを引き受け、誰にリターンを移転するための設計か |
| 関連性のある活動 | 資産選定、資金調達、回収、処分、デフォルト対応、再リース等のどれが重要か |
| 契約上の決定権 | 管理契約、信託契約、ローン契約、投資契約、サービス契約上の権限 |
| リターンへの関与 | 劣後持分、残余リターン、保証、流動性補完、信用補完、報酬 |
| 他の当事者の権利 | 解任権、承認権、買戻権、清算権、保護条項 |
| サイロの有無 | 特定資産・特定負債がリングフェンスされているか |
IFRS第10号では、投資先の一部が実質的に他の部分から分離されている場合、その部分を「サイロ」として別個に支配判定する考え方も示されています。特定の資産・負債・持分が全体からリングフェンスされているならば、その deemed separate entity について、関連性のある活動、変動リターン、パワーを用いる能力を検討します。そして、支配していると判断された投資者が、その部分を連結することになります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
この領域では、形式的な株式保有割合よりも、契約設計とリスク・リターンの配分こそが判断の要になります。
経済的依存だけでは支配にならない
実務では、取引先や出資先が特定の企業に経済的に大きく依存していることがあります。主要顧客、主要仕入先、資金提供者、保証提供者、ブランド提供者、技術提供者などへの依存です。
しかし、経済的依存だけをもって支配があるとはいえません。
IFRS第10号は、他の権利がない場合、投資先が投資者に経済的に依存していること、たとえば主要顧客との関係に依存していることは、投資者が投資先に対するパワーを有することにはつながらないとしています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
もっとも、経済的依存がまったく無関係というわけでもありません。
たとえば、投資先の主要経営幹部が投資者の現職・元従業員である、投資先の事業運営が投資者の資金・保証・技術・ライセンス・商標・専門人材に依存している、投資先の活動の重要部分が投資者のために行われている、投資者が議決権割合を大きく超えるリターンにさらされている、といった事情です。これらは、他の権利と組み合わさることで、パワーの存在を示唆する可能性があります。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
したがって、経済的依存は「それだけで支配を生むもの」ではなく、「他の権利と組み合わせて、パワーの存在を補強し得る事情」として扱うのが適切です。
支配の判定は一度きりではない
支配の判定は、投資時点や契約締結時点だけで完了するものではありません。
IFRS第10号では、支配の3要素のうち1つ以上に変化があったことを示す事実や状況があるとき、投資者は投資先を支配しているかどうかを再評価しなければならないとされています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
再評価が必要になり得るのは、たとえば次のような場合です。
| 変化の種類 | 支配判定への影響 |
|---|---|
| 議決権比率の変化 | 取得、売却、希薄化、自己株式取得等によりパワーが変わる可能性 |
| 契約変更 | 株主間契約、管理契約、ローン契約、拒否権・承認権の変更 |
| 潜在的議決権の変化 | オプション、転換権、先渡契約の行使可能性や経済性の変化 |
| 関連性のある活動の変化 | 通常時からデフォルト時、開発段階から販売段階への移行 |
| 他の当事者の権利の失効・発生 | 解任権、承認権、防御権、規制当局の権限等の変化 |
| リターンへの関与の変化 | 報酬契約、保証、劣後持分、流動性補完、残余持分の変更 |
| 事業再編・M&A | 支配獲得日、支配喪失日、取得企業の識別に影響 |
IFRS第10号の適用指針でも、事実と状況が変化した場合には支配を再評価すべきこと、そして意思決定権の変化により、関連性のある活動が議決権ではなく契約によって指図されるようになる場合があることが示されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
こうした性質があるため、連結範囲の判断は、決算時のチェックリストだけで完結させるわけにはいきません。投資契約、株主間契約、融資契約、管理契約、資本政策、組織再編といった場面の変更管理と連動させておく必要があります。
支配判定と企業結合会計の関係
IFRS第10号の支配判定は、企業結合会計とも密接に関わります。
IFRS第3号「企業結合」は、企業結合を、取得企業が一つまたは複数の事業に対する支配を獲得する取引、あるいはその他の事象として定義しています。そして、この「支配」の意味については、IFRS第10号を参照する構造になっています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
このため、M&Aや組織再編では、支配判定が次の論点に直接影響します。
| 論点 | 支配判定との関係 |
|---|---|
| 企業結合か資産取得か | 事業に対する支配を獲得したかが出発点 |
| 取得企業の識別 | どの企業が支配を獲得したかを判断する |
| 取得日 | 支配を獲得した日が取得日となる |
| 連結開始日 | 支配獲得日から連結を開始する |
| 支配喪失 | 連結除外、残存持分の測定、損益認識に影響 |
| 共通支配・再編 | IFRS第3号の範囲外取引や会計方針選択と関係 |
とりわけ、段階取得、株式交換、逆取得、対価を伴わない企業結合、株主間契約による支配変更、投資先による自己株式取得、他の株主の権利変更などでは、法律上の取得者と会計上の支配獲得者が一致しないことがあります。
そのため、企業結合の論点整理では、IFRS第3号だけを見ていては足りません。IFRS第10号の支配判定を前提として、誰が、いつ、何に対する支配を獲得したのかを明確にする必要があります。IFRSの企業結合実務においても、支配の判定は、パワー、変動リターン、パワーを用いる能力の3要素を踏まえて整理すべき中核論点だと位置づけられます。
支配判定とIFRS第12号の開示
支配の判定は、連結するかどうかを決めて終わり、というものではありません。
IFRS第12号「他の企業への関与の開示」は、財務諸表利用者が、他の企業への関与の性質およびリスク、ならびに財政状態・財務業績・キャッシュ・フローへの影響を評価できるようにすることを目的として、一定の開示を求めています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 12 Disclosure of Interests in Other Entities
IFRS第12号では、他の企業に対する支配、共同支配、重要な影響力、共同支配の取決めの種類を決定する際に行った重要な判断および仮定を開示することが求められます。開示の対象としては、議決権の過半数を保有しているにもかかわらず支配していない場合、議決権の過半数を保有していないにもかかわらず支配している場合、本人か代理人かを判断した場合なども例示されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 12 Disclosure of Interests in Other Entities
このように、IFRS第10号の支配判定は、監査調書や社内メモにとどまらず、財務諸表の注記にまでつながっていきます。
実務では、支配判定の結論を、次のように開示へ接続できる状態にしておく必要があります。
| 支配判定上の論点 | 開示につながる観点 |
|---|---|
| 過半数未満で支配あり | どの権利・契約・事実により支配すると判断したか |
| 過半数超で支配なし | なぜ議決権が実質的なパワーを与えないのか |
| 本人・代理人判定 | 意思決定権限、報酬、解任権、変動リターンの判断 |
| 組成された企業 | 関与の性質、リスク、非連結の理由、財務影響 |
| 支配の変化 | どの事実変化により支配を獲得または喪失したか |
| 重要な制限 | 子会社資産や資金へのアクセス制限、配当制限等 |
注記は、単に結論を書き記す場所ではありません。支配判定に重要な判断が含まれるのであれば、財務諸表利用者がその判断の背景を理解できるよう、どのような事実と仮定に基づいて連結範囲を決めたのかを説明する必要があります。
監査対応で問われる支配判定の資料
IFRS第10号の支配判定は、監査においても深く検討されやすい領域です。
理由は明確です。連結するかどうかによって、資産、負債、収益、費用、キャッシュ・フロー、非支配持分、のれん、持分法、金融商品、公正価値測定、関連当事者開示など、財務諸表全体が大きく変わるからです。
とりわけ、次のような場合には、支配判定の根拠を丁寧に資料化しておく必要があります。
| 状況 | 監査上の主な確認事項 |
|---|---|
| 過半数未満で連結している | どの権利が現在の能力を与えているか |
| 過半数超で連結していない | 議決権が実質的でない理由、防御権の性質 |
| ファンド・SPCがある | 契約設計、リスク・リターン配分、本人・代理人判定 |
| 潜在的議決権がある | 実質性、行使可能性、経済的障壁、意思決定時点 |
| 株主間契約がある | 取締役任免権、拒否権、重要事項の承認権 |
| 管理契約がある | 管理者の裁量範囲、報酬、解任権、他の持分 |
| M&A・再編がある | 支配獲得日、支配喪失日、取得企業の識別 |
| 契約変更がある | 支配の継続評価、連結範囲変更の要否 |
支配判定メモには、結論だけでなく、少なくとも次の事項を整理しておくことが望まれます。
| 整理項目 | 内容 |
|---|---|
| 投資先の概要 | 目的、設計、事業内容、資本構成、主要契約 |
| 関連性のある活動 | リターンに重要な影響を及ぼす活動の特定 |
| 意思決定の仕組み | 株主総会、取締役会、契約、管理者、スポンサー等 |
| 投資者の権利 | 議決権、任免権、承認権、拒否権、潜在的議決権 |
| 権利の実質性 | 行使可能性、障壁、防御権か実質的権利か |
| 変動リターン | 配当、価値変動、報酬、保証、信用補完、シナジー等 |
| 本人・代理人 | 権限、報酬、解任権、他の経済的関与 |
| 結論と代替判断 | 支配あり・なし、共同支配・重要な影響力との切り分け |
| 開示への反映 | IFRS第12号に基づく重要な判断の開示要否 |
| 継続評価 | どの事実が変われば再評価が必要か |
こうした資料は、監査対応のためだけに作るものではありません。連結範囲を説明可能にしておくことは、M&A、組織再編、グループ管理、資本政策、投資家説明、金融機関対応にも生きてきます。
日本基準との差異をどう捉えるか
日本基準においても、連結範囲の判断には支配力基準が用いられます。ただし、IFRS第10号には特徴があります。パワー、変動リターン、パワーとリターンの関連という3要素を明示的に結びつけ、通常の事業会社だけでなく、組成された企業や契約によって設計された投資先にも、単一の支配モデルを適用する点です。
IFRS第10号は、IAS第27号とSIC第12号を置き換え、連結に関する単一のモデルを導入した基準です。IFRS財団の基準履歴でも、IFRS第10号は2011年5月にIAS第27号を置き換える形で公表され、SIC第12号およびSIC第33号のガイダンスを取り込んだと説明されています。
出典:IFRS Foundation|IFRS 10 Consolidated Financial Statements
このため、日本基準との差異を説明する場合も、「議決権基準か実質支配基準か」という単純な比較では不十分です。
IFRSでは、投資先の目的と設計、関連性のある活動、契約上の権利、変動リターン、本人・代理人関係を、より明示的に結びつけて検討する必要があります。とりわけ、ファンド、SPC、証券化、不動産ビークル、業務委託型の管理構造、議決権と経済的リターンが一致しない取引などでは、IFRS第10号に基づく文書化の水準が重要になります。
支配判定で実務上見落としやすい論点
IFRS第10号の支配判定で見落としやすいのは、次のような論点です。
| 見落としやすい点 | 実務上の注意 |
|---|---|
| 議決権比率だけで判断する | 目的と設計、関連性のある活動、契約上の権利を確認する |
| 拒否権をすべてパワーと見る | 防御権か、関連性のある活動を指図する権利かを分ける |
| 経済的依存だけで支配と見る | 経済的依存は単独ではパワーにならない |
| 潜在的議決権を形式的に除外する | 実質的で現在の能力を与えるかを確認する |
| 管理者を常に代理人と見る | 報酬、劣後持分、解任権、裁量範囲を総合評価する |
| 契約変更後も過去の結論を維持する | 事実と状況の変化があれば再評価する |
| 支配判定と開示を分断する | IFRS第12号の重要な判断開示まで接続する |
| M&A時だけ検討する | 期末ごとの継続評価、資本政策、契約変更も対象にする |
これらは、いずれも「形式ではなく実質を見る」という一言では片づきません。
実務で求められるのは、どの事実が支配の3要素のどこに効いているのかを、基準の構造に沿って整理していくことです。監査人やクライアントに説明する際も、「総合的に判断した」だけでは足りません。パワー、変動リターン、パワーとリターンの関連のそれぞれについて、判断の根拠を明確に示す必要があります。
IFRS第10号の支配判定は、連結範囲を決めるだけではない
IFRS第10号における支配判定は、連結範囲を決めるための会計処理上の入口です。しかし、その影響は連結範囲だけにとどまりません。
支配ありと判断すれば、投資先の資産・負債・収益・費用・キャッシュ・フローを、グループの財務諸表に取り込みます。支配なしと判断すれば、持分法、共同支配の取決め、金融商品、公正価値測定など、別の会計処理へと進むことになります。支配の獲得は企業結合会計の入口になり、支配の喪失は連結除外、残存持分の測定、損益認識に影響します。
さらに、支配判定に重要な判断が含まれる場合には、IFRS第12号の注記によって財務諸表利用者に説明する必要があります。こうして見ると、IFRS第10号の支配判定は、会計処理、開示、監査対応、M&A、グループ管理、資本市場への説明をつなぐ判断領域だといえます。
実務で大切なのは、結論を急ぐことではありません。
投資先の目的と設計を把握し、関連性のある活動を特定する。意思決定権の実質性を確認し、変動リターンへの関与を整理する。本人・代理人関係を評価し、必要に応じてIFRS第12号の開示に接続する。この一連の流れを、後からきちんと説明できる形で残しておくことが重要です。
IFRS第10号の支配判定について専門家に相談すべき場面
IFRS第10号の支配判定は、単純な議決権過半数のケースであれば、比較的整理しやすいこともあります。
一方で、次のような状況では、早い段階で論点を整理しておくことをお勧めします。
| 相談を検討すべき状況 | 理由 |
|---|---|
| 議決権の過半数未満で連結を検討している | 実質的なパワーの説明が必要 |
| 議決権の過半数超だが連結しない可能性がある | 議決権が実質的でない理由の整理が必要 |
| 株主間契約や拒否権・承認権がある | 防御権とパワーの切り分けが必要 |
| ファンド、SPC、信託、証券化ビークルがある | 契約設計とリスク・リターン分析が必要 |
| 管理会社・運用会社・スポンサーが関与している | 本人・代理人判定が必要 |
| 潜在的議決権や転換権がある | 実質的権利かどうかの判断が必要 |
| M&A・再編・自己株式取得がある | 支配獲得日、支配喪失日、取得企業の識別に影響 |
| IFRS第12号の重要な判断開示が必要 | 財務諸表利用者への説明が必要 |
| 監査人との見解調整が必要 | 判断根拠と証拠化が重要 |
支配判定は、後から連結範囲を修正すれば済む、という性質の論点ではありません。連結範囲の変更は、過年度財務諸表、企業結合、のれん、非支配持分、税効果、関連当事者、セグメント、監査意見にまで波及することがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSにおける支配判定、連結範囲、企業結合、M&A、グループ管理、開示・監査対応に関する論点整理を支援しています。
議決権比率だけでは判断しにくい投資先、ファンド・SPC、株主間契約、管理契約、潜在的議決権、そしてM&Aや組織再編を含むIFRS上の連結範囲について、事実関係と契約条件を踏まえて整理したい場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|IFRS第10号における支配判定の要点
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 支配の3要素 | パワー、変動リターン、パワーを用いてリターンに影響を及ぼす能力をすべて満たす必要がある |
| パワー | 関連性のある活動を指図する現在の能力を与える既存の権利が必要 |
| 関連性のある活動 | 投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動を特定することが出発点 |
| 議決権過半数 | 通常は支配の強い根拠になるが、議決権が実質的でない場合は支配しないこともある |
| 過半数未満の議決権 | 契約、他の株主の分散、潜在的議決権、過去の投票状況等により支配する場合がある |
| 実質的権利 | 権利保有者が実際に行使できる実務上の能力があるかを確認する |
| 防御権 | 権利保有者を保護する権利にすぎない場合、パワーにはならない |
| 変動リターン | 配当や株式価値だけでなく、報酬、保証、流動性支援、税務便益、シナジーも含まれ得る |
| 本人・代理人 | 意思決定者の権限、報酬、他の当事者の権利、変動リターンへの関与を総合評価する |
| 組成された企業 | 議決権ではなく契約設計、リスク・リターン配分、サイロの有無を重視する |
| 継続評価 | 事実と状況が変化すれば、支配判定を再評価する |
| 開示 | 重要な判断を伴う場合、IFRS第12号に基づく注記への接続が必要 |
| 監査対応 | 結論だけでなく、事実、契約、基準分析、代替判断、証拠を文書化することが重要 |