公正価値測定の現場でよく問題になるのは、「評価額がいくらか」だけではありません。
むしろ実務で説明を求められるのは、その公正価値測定がどのレベルに分類されるのか、なぜそのレベル分類が妥当なのか、という点です。レベル3に分類される場合には、どの観察不能インプットが重要なのか、そのインプットが変わったときに評価額はどの程度動き得るのか。監査人、経営管理部門、投資家、M&A関係者に向き合うと、こうした問いが次々に出てきます。
IFRS第13号は、公正価値測定の一貫性と比較可能性を高めるために、評価技法に用いるインプットを3つのレベルに区分する公正価値ヒエラルキーを定めています。最も高い優先順位が置かれるのは、企業が測定日にアクセスできる活発な市場における同一資産または同一負債の無調整の相場価格、すなわちレベル1インプットです。反対に、最も低い優先順位が置かれるのは、観察不能インプットであるレベル3インプットです。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
ここで押さえておきたいのは、公正価値ヒエラルキーが「評価技法のランキング」ではなく、「インプットの観察可能性に基づく分類」だという点です。DCF法を使ったからレベル3、マーケット・アプローチを使ったからレベル2、という単純な整理はできません。分類はあくまで、評価技法ではなく、その評価技法に用いたインプットに基づいて判断されます。IFRICのアジェンダ決定でも、第三者価格を用いる場合のレベル分類は、価格提供者が価格を導くために用いたインプットの評価に依存するとされ、価格算定方法そのものではなくインプットが優先されることが確認されています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
本稿では、前回の「10-3. 評価技法とインプットの選択」を前提に、公正価値ヒエラルキーとレベル3評価を、監査対応・開示・内部資料化まで含めて整理していきます。
公正価値ヒエラルキーは「評価の良し悪し」ではなく「インプットの観察可能性」を示す
公正価値ヒエラルキーを理解するうえで、最初に切り分けておきたい点があります。
レベル1が「良い評価」で、レベル3が「悪い評価」だという意味ではありません。レベル3とは、観察可能な市場データが乏しいために、観察不能インプットを用いる必要がある評価を指します。非上場株式、条件付対価、特殊なデリバティブ、企業結合で取得した無形資産、特殊な投資不動産といった場面では、レベル3評価が避けられないこともしばしばあります。
とはいえ、レベル3評価は主観性と不確実性が高くなりやすい領域です。だからこそ、評価技法、重要なインプット、評価プロセス、感応度、未実現損益、レベル間振替について、より厚い説明が求められます。IFRS第13号も、レベル3に区分される測定は不確実性と主観性が高いため、開示上のクラスをより細かく分ける必要がある場合があるとしています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
こうした事情を踏まえると、レベル分類の実務判断では、次の問いを順に確認していくことになります。
- 測定対象は何か
- 会計処理単位は何か
- どの市場を前提としているか
- どの評価技法を用いているか
- その評価技法に用いたインプットは何か
- 各インプットは観察可能か、観察不能か
- 観察不能インプットは全体の測定にとって重大か
- 重大なインプットのうち最も低いレベルはどれか
- その分類に応じた開示・監査証拠を整備しているか
公正価値ヒエラルキーは、評価結果を後からラベル付けする作業ではありません。評価技法とインプットを選ぶ段階から、どのレベルに分類される可能性があるかを意識して設計しておくべきものです。
レベル1・レベル2・レベル3の基本整理
IFRS第13号の公正価値ヒエラルキーは、次の3段階で構成されます。
| レベル | 基本的な内容 | 実務上の典型例 |
|---|---|---|
| レベル1 | 測定日に企業がアクセスできる活発な市場における、同一資産または同一負債の無調整の相場価格 | 上場株式、活発な市場で取引される同一の債券・金融商品 |
| レベル2 | レベル1に含まれる相場価格以外で、資産または負債について直接または間接に観察可能なインプット | 類似資産の相場価格、非活発市場の価格、観察可能な金利・イールドカーブ・信用スプレッド・インプライド・ボラティリティ |
| レベル3 | 資産または負債について観察不能なインプット | 非上場株式の成長率・利益率・割引率、条件付対価の達成確率、特殊資産のキャッシュ・フロー、流動性ディスカウント等 |
IFRS第13号では、レベル1インプットは、測定日に企業がアクセスできる活発な市場における同一資産または同一負債の無調整の相場価格とされています。レベル2インプットは、レベル1に含まれる相場価格以外で、資産または負債について直接または間接に観察可能なインプットです。そしてレベル3インプットは、資産または負債について観察不能なインプットを指します。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
実務上のポイントは、レベル分類が「資産の種類」だけで自動的に決まるわけではない、という点にあります。
同じ種類の金融商品であっても、活発な市場で同一商品の無調整価格を利用できるならレベル1になり得ます。一方で、同じ金融商品でも、類似商品の価格や観察可能なイールドカーブを使い、さらに重要な観察不能調整を加える場合には、レベル2またはレベル3になります。
レベル分類は「全体の測定にとって重大な最も低いレベルのインプット」で決まる
公正価値測定では、複数のインプットを組み合わせるのが一般的です。たとえばDCF法であれば、キャッシュ・フロー、割引率、成長率、信用リスク、流動性リスクなどが用いられます。オプション価格モデルであれば、株価、行使価格、満期、ボラティリティ、配当利回り、リスクフリーレートなどが用いられます。
そして、これらのインプットがすべて同じレベルに分類されるとは限りません。
IFRS第13号は、ある公正価値測定に用いられるインプットが異なるレベルに分類される場合、その測定全体を、全体の測定にとって重大な最も低いレベルのインプットと同じレベルに分類するとしています。特定のインプットが全体の測定にとって重大かどうかの判断には、資産または負債に固有の要因を考慮した判断が必要です。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
たとえば、評価にレベル2インプットとレベル3インプットの両方を使っている場合でも、レベル3インプットが全体の評価額にとって重大でなければ、必ずしも全体がレベル3になるわけではありません。逆に、観察可能な価格を出発点にしていても、観察不能な調整が評価額を大きく動かすのであれば、全体としてはレベル3に分類されます。実務でも、重大な観察不能インプットを含む測定はレベル3に区分される、という整理が要になります。
そのため、レベル分類の説明では、「どのインプットを使ったか」だけでなく、「そのインプットが評価額にどの程度影響するか」まで整理しておく必要があります。
レベル1評価|無調整の相場価格を使うことの意味
レベル1インプットは、最も高い優先順位を持つインプットです。
もっとも、レベル1に分類するためには、次の要件を丁寧に確認しておかなければなりません。
- 同一の資産または負債であること
- 活発な市場における相場価格であること
- 測定日に企業がその市場へアクセスできること
- 価格を無調整で使用できること
- 測定対象の会計処理単位と価格の対象が整合していること
IFRS第13号は、活発な市場における相場価格を公正価値の最も信頼性の高い証拠と位置づけ、利用可能な場合には、一定の例外を除き無調整で使用するとしています。また、活発な市場で取引される単一の資産または負債のポジションについては、企業が大量に保有しており、市場の通常の取引量ではその数量を吸収できない場合であっても、個別単価に保有数量を乗じてレベル1で測定するとしています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
この点は、実務上誤解されやすいところです。
たとえば、上場株式を大量に保有していて、一度に売却すれば市場価格に影響を与えると考えられる場合でも、その「保有数量の大きさ」に基づくブロッケージ要因は、通常、レベル1の公正価値測定には反映できません。公正価値測定で考慮するのは、あくまで資産または負債の特性であって、企業固有の保有規模や売却戦略ではないからです。
一方で、活発な市場の価格を調整する例外的な場合には、その調整によってレベルが下がることもあり得ます。たとえば、測定日前後の重要な事象によって、市場終値が測定日時点の公正価値を表していないようなケースです。ここで大切なのは、レベル1を維持したいから価格を無調整にするのではなく、IFRS第13号の枠組みに照らして、無調整価格が測定日時点の公正価値を表しているかどうかを判断する、という順序です。
レベル2評価|観察可能インプットを使うが、同一商品の活発市場価格ではない場合
レベル2は、実務上、非常に多くの金融商品・評価対象で問題になる領域です。
IFRS第13号は、レベル2インプットの例として、類似資産または類似負債の活発な市場価格、同一または類似の資産・負債について活発でない市場の価格、観察可能な金利・イールドカーブ・インプライド・ボラティリティ・信用スプレッド、市場で裏付けられたインプットを挙げています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
レベル2評価で重要になるのは、次の2点です。
第一に、インプットが観察可能であることです。ここでいう観察可能とは、単に外部から数値を入手したという意味ではありません。市場データ、実際の取引、公開情報などに基づき、市場参加者が価格付けに用いる仮定を反映していることが求められます。
第二に、調整の重要性です。レベル2インプットに対しては、資産の状態、所在地、比較可能性、取引量、市場活動の水準などを反映する調整を行う場合があります。この調整が観察不能であり、かつ全体の測定にとって重大であれば、測定全体はレベル3に分類される可能性が出てきます。
IFRS第13号も、レベル2インプットへの調整が全体の測定にとって重大であり、その調整が重大な観察不能インプットを用いる場合には、公正価値測定がレベル3に分類される可能性があるとしています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
たとえば、類似債券の市場価格を使って自社保有債券を評価する場合、信用格付け、残存期間、担保条件、流動性、発行体の信用リスクが異なれば、そのぶん調整が必要になります。その調整が市場データで裏付けられていればレベル2にとどまる可能性がありますが、重要な部分が内部仮定に依存するのであれば、レベル3分類を検討することになります。
レベル3評価|観察不能インプットを使う場合でも、市場参加者の仮定から離れてはいけない
レベル3評価は、観察不能インプットを用いる評価です。
ただし、観察不能インプットを使うからといって、企業固有の希望、経営者の楽観的な見通し、内部目標値をそのまま持ち込めるわけではありません。
IFRS第13号は、関連する観察可能インプットが入手できない範囲で観察不能インプットを使用することを認めています。しかし、公正価値測定の目的そのものは変わりません。すなわち、市場参加者の観点から、測定日時点の出口価格を見積もることにあります。したがって、観察不能インプットは、市場参加者が資産または負債を価格付けする際に用いる仮定を反映していなければなりません。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
また、企業が観察不能インプットを作成する際には、状況において利用可能な最善の情報を用います。自社データから出発すること自体は可能です。もっとも、合理的に利用可能な情報が、他の市場参加者なら異なるデータを使うことを示している場合や、企業固有のシナジーのように市場参加者には利用できない要素が含まれている場合には、調整が必要になります。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
この考え方は、レベル3評価の監査対応において、きわめて重要な意味を持ちます。
たとえば、非上場株式のDCF評価で経営者の中期計画を使う場合を考えてみます。その計画が内部目標として作成されたものなのか、取締役会承認済みの事業計画なのか、過去実績とどの程度整合しているのか、外部市場データと比べて過度に楽観的ではないか。こうした点を一つひとつ確認していく必要があります。
条件付対価であれば、業績目標達成確率、売上成長率、マイルストーン達成確率、割引率などが、市場参加者の仮定として合理的かどうかを確かめます。
特殊な無形資産であれば、顧客離脱率、ロイヤルティ料率、陳腐化率、売上予測、利益率、税率、割引率などについて、企業固有の期待と、市場参加者が想定する仮定とを切り分けていく必要があります。
レベル3評価は「内部データを使う評価」ではない
レベル3評価は、内部データを使うことが多い評価です。しかし、これを「内部データ評価」と理解してしまうと危うくなります。
IFRS第13号の考え方に照らせば、内部データはあくまで出発点にすぎません。最終的には、市場参加者が用いるであろう仮定に調整する必要があります。
実務上、レベル3評価で確認しておきたい主な事項は、次のとおりです。
- 観察可能インプットをどこまで探索したか
- なぜ観察可能インプットだけでは測定できないのか
- 内部データを使う場合、そのデータはどのように作成されたか
- 内部データは取締役会、投資委員会、経営会議等で承認されているか
- 過去の予算と実績の乖離はどうだったか
- 市場参加者なら同じ成長率・利益率・リスクを使うか
- 企業固有のシナジーや特殊な意図が含まれていないか
- 主要仮定が変動した場合、評価額にどの程度影響するか
- 評価額の変動が損益、OCI、資本、のれん、減損、税効果にどう影響するか
- 監査人に提示できる外部証拠があるか
会計上の見積りは、経営者の仮定や見積りの不確実性によって、財務諸表に大きな影響を与えることがあります。それだけに、監査上も詳細な説明を求められやすい領域です。とりわけ、見積額と実績とのあいだに乖離が生じた場合には、乖離そのものよりも、その原因が問われます。見積時点で入手可能な情報の不足だったのか、後発的な事象だったのか、あるいは当初の見積りに偏りがあったのか。ここが論点になります。
レベル3評価では、評価モデルの精緻さだけでは足りません。モデルに入力された仮定が、測定日時点で市場参加者の仮定として説明できるかどうか。そこが問われます。
「重大なインプット」の判断をどう整理するか
レベル分類では、「重大なインプット」の判断が中心になります。
IFRS第13号は、特定のインプットが全体の測定にとって重大かどうかを判断する際、資産または負債に固有の要因を考慮するとしています。ただし、数値的な一律基準を示しているわけではありません。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
そのため実務では、次のような観点から判断していくことになります。
- 当該インプットを合理的な範囲で変動させると、公正価値がどの程度変わるか
- その変動額は財務諸表全体、損益、OCI、純資産、主要KPIに対して重要か
- 複数の観察不能インプットが相互に関連しているか
- 当該インプットは評価モデルの中心的な仮定か、補助的な仮定か
- 当該インプットの不確実性は高いか
- 過去実績や外部データで十分に裏付けられるか
- 監査上の重要な見積りとして扱われる可能性があるか
たとえば、非上場株式のDCF評価で、売上成長率、EBITDAマージン、永久成長率、割引率を使っている場合を考えてみます。このとき、それぞれを個別に変動させた感応度を見るだけでは足りません。相互関係もあわせて確認しておく必要があります。高い成長率と低い割引率を同時に採用しているのであれば、それが市場参加者の価格付けとして一貫しているかを説明できなければなりません。
なお、「評価額に影響しないから重大ではない」と結論づける場合であっても、その判断過程を残しておくことが大切です。監査対応では、重大性の判断を行った証跡がないこと自体が問題になることがあります。
第三者価格・価格ベンダー・ブローカー価格を使う場合のレベル分類
公正価値測定では、価格ベンダー、ブローカー、評価機関、金融機関などから第三者価格を入手することがあります。
しかし、第三者価格を使ったからといって、自動的にレベル1またはレベル2になるわけではありません。IFRS第13号のアジェンダ決定では、第三者価格に基づく公正価値測定のヒエラルキー分類は、その第三者が価格を導くために用いたインプットの評価に依存するとされています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
実務上は、次の点を確認しておきます。
- 価格は実際の取引価格か、気配値か、モデル価格か
- 価格提供者は複数か、単一か
- 価格差はどの程度あるか
- 価格提供者が使用した評価技法を把握できるか
- 主要インプットは観察可能か
- 流動性調整、信用調整、担保調整などが含まれているか
- 価格が測定日時点の市場状況を反映しているか
- 価格提供者の価格を企業側で調整しているか
- その調整は観察可能か、観察不能か
- 調整が全体の測定にとって重大か
価格ベンダーの価格をそのまま使う場合でも、価格の性質を確認しておかなければ、レベル分類の根拠は弱くなってしまいます。とりわけ、非流動な債券、仕組債、店頭デリバティブ、証券化商品、非上場ファンド持分などでは、第三者価格の背後にあるインプットの観察可能性を確認しておくことが重要です。
レベル間振替|市場の変化か、評価方法の変化か、証拠の変化か
公正価値ヒエラルキーでは、レベル間振替も重要な論点です。
レベル間振替は、単に前期と当期で分類が変わったという表示上の問題にとどまりません。市場環境、取引量、価格情報の入手可能性、観察可能性、評価技法、インプット、会社の価格確認プロセス。これらのいずれかが変化したことを示している可能性があります。
IFRS第13号は、レベル間振替がいつ発生したとみなすかについての方針を開示し、一貫して適用することを求めています。その例としては、振替の原因となった事象または状況変化の日、報告期間の期首、報告期間の期末が挙げられています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
レベル間振替が生じる典型例としては、次のようなものがあります。
- 活発だった市場の取引量が著しく低下した
- 市場価格が入手できなくなった
- 新たに活発な市場価格が利用可能になった
- 価格ベンダーの価格の裏付け情報が変化した
- モデル価格から市場価格へ変更した
- 観察不能な調整が不要になった
- 観察不能な調整が重要になった
- 評価対象の契約条件や流動性が変化した
- 市場参加者が価格付けで重視するリスクが変化した
監査対応では、レベル間振替の発生理由を、単に「市場環境の変化」と書くだけでは不十分です。どの市場で、どの価格情報が、いつ、どの程度変化したのか。どのインプットが観察可能または観察不能になったのか。ここまで具体的に示す必要があります。
レベル3評価で求められる評価プロセス
レベル3評価では、評価額そのものよりも、評価プロセスの信頼性が問われます。
IFRS第13号は、レベル3に分類される経常的・非経常的な公正価値測定について、企業が用いた評価プロセスの説明を求めています。たとえば、企業が評価方針や評価手続をどのように決定し、期間ごとの公正価値測定の変動をどのように分析しているか、といった内容です。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
実務上、レベル3評価のプロセスとして整理しておきたい事項は、次のとおりです。
評価方針の管理
どの資産・負債を公正価値測定の対象とするか、どの評価技法を使うか、どのインプットを重要インプットとして管理するかを定めます。
責任分担
経理部門、財務部門、事業部門、M&A部門、リスク管理部門、評価専門家、税務担当、監査対応担当。それぞれの役割を明確にしておきます。
データ取得
市場データ、価格ベンダー情報、ブローカー価格、事業計画、契約条件、取締役会資料、外部経済指標など、それぞれの出所を明確にします。
評価モデルの検証
評価モデルのロジック、数式、前提、税前・税後、通貨、割引率、リスク調整、感応度を確認します。
経営者によるレビュー
評価結果が経営者の説明と整合しているか、事業計画やM&Aの投資判断と矛盾していないかを確認します。
期間比較
前期からの評価額の変動要因を、価格変動、キャッシュ・フロー更新、割引率変更、為替変動、信用リスク変動、取引発生・決済に分解します。
事後検証
過去の見積りと実績の乖離を確認し、見積りプロセスの改善点を把握します。
レベル3評価では、単に「外部評価書を取得した」というだけでは足りません。評価書の前提が、IFRS第13号の測定目的、会計処理単位、測定日、市場参加者の仮定、開示要求と整合しているか。ここを財務諸表作成者側で確認しておく必要があります。
レベル3評価の調整表|期首残高から期末残高への説明
レベル3に分類される経常的な公正価値測定では、期首残高から期末残高への調整表が重要になります。
IFRS第13号は、この調整表を開示し、期間中の変動を区分して示すことを求めています。区分の内訳は、純損益に認識された利得・損失、OCIに認識された利得・損失、購入・売却・発行・決済、レベル3への振替・レベル3からの振替などです。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
この調整表は、単なる注記作成作業ではありません。
財務諸表利用者は、レベル3評価額の変動が、実際の売買や決済によるものなのか、それとも評価モデル上の見積り変更によるものなのかを確認します。損益に影響しているのか、OCIに影響しているのか、という点も見ています。
とりわけ、純損益に認識されたレベル3評価損益のうち、報告期間末現在で保有している資産・負債に係る未実現損益は、利益の質や持続性を考えるうえで重要な情報です。IFRS第13号も、レベル3に分類される経常的公正価値測定について、期末時点で保有している資産・負債に関連する未実現損益の変動額と、その損益表示科目の開示を求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
実務では、レベル3調整表を作成するために、評価額の増減を次のように分解して管理しておきます。
- 期首公正価値
- 新規取得
- 売却
- 発行
- 決済
- 純損益に認識された評価差額
- OCIに認識された評価差額
- 為替換算差額
- レベル3への振替
- レベル3からの振替
- 期末公正価値
- 期末保有分に係る未実現損益
この分解ができていないと、開示作成だけでなく、監査対応、経営者説明、投資家説明の場面でも苦労することになります。レベル3評価は、評価時点だけでなく、期中の変動管理までが重要な領域です。
レベル3評価の感応度|「数字を動かす」だけでは不十分
レベル3評価では、感応度の説明も重要になります。
IFRS第13号は、レベル3に分類される経常的公正価値測定について、観察不能インプットの変動により公正価値測定が著しく高くまたは低くなる可能性がある場合、観察不能インプットの変動に対する感応度の記述的説明を求めています。加えて、観察不能インプット間に相互関係がある場合には、その相互関係が変動の影響を増幅または緩和し得ることについても説明が必要です。金融資産・金融負債については、合理的に考え得る代替的仮定への変更により公正価値が著しく変動する場合、その事実と影響額の開示が求められます。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
感応度分析でよく見られる不十分な対応は、主要インプットを機械的にプラス・マイナス1%動かして終わってしまうことです。
本来、押さえるべきなのは別の点です。その変動幅が合理的に考え得る代替的仮定なのか、市場参加者が想定する範囲なのか、他のインプットとの相互関係があるのか。こうした点を整理しておく必要があります。
たとえば、割引率を上げる場合には、同時に成長率やリスクプレミアムも変わる可能性があります。売上成長率を上げる場合には、利益率、運転資本、設備投資、リスクも変わり得ます。条件付対価でも、業績達成確率と割引率が独立しているとは限りません。
したがって、感応度分析では次の観点が必要になります。
- どのインプットを感応度対象にしたか
- なぜそのインプットが重要なのか
- 変動幅は合理的か
- 単一インプット感応度か、複数インプット感応度か
- インプット間の相互関係をどう扱ったか
- 損益、OCI、純資産、のれん、減損、KPIへの影響は何か
- 開示上、定性的説明で足りるか、定量的説明が必要か
感応度分析は、監査人に見せるための形式資料ではありません。経営者自身が、どの仮定が財務諸表に大きく影響するかを把握するための資料でもあります。
レベル3評価の典型論点
非上場株式
非上場株式では、観察可能な同一商品の活発市場価格がないため、レベル3となることが多くあります。類似上場会社倍率を使う場合でも、規模、成長性、収益性、流動性、支配の有無などについて重要な観察不能調整を行うのであれば、レベル3分類を検討することになります。
確認すべき主なインプットは、売上成長率、利益率、割引率、永久成長率、類似会社倍率、流動性ディスカウント、支配プレミアム、非支配持分ディスカウントなどです。
店頭デリバティブ
店頭デリバティブでは、金利、為替、ボラティリティ、信用スプレッドといった観察可能インプットを多く使います。その一方で、長期のボラティリティ、相関、信用評価調整、流動性調整などが観察不能となることがあります。
デリバティブ取引は、株式、債券、金利、外国為替などの金融商品から派生する金融派生商品であり、評価差額が損益に影響することがあります。そのため、評価技法とインプットの説明は、損益管理とも直結してきます。
条件付対価
企業結合における条件付対価は、将来業績やマイルストーン達成に応じて支払額が変動するため、レベル3評価になりやすい領域です。
主なインプットは、売上・利益見通し、達成確率、支払時期、割引率、契約条件、上限・下限、シナリオ確率などです。企業結合では、取得日における識別可能資産・負債の公正価値測定が、のれんやその後の損益に影響します。ここで、PPAと公正価値測定の接続が重要になってきます。
投資不動産・特殊資産
投資不動産や特殊資産では、取引事例や市場価格がある場合でも、対象不動産の立地、稼働率、賃料、空室率、修繕計画、割引率、キャップレートなどに、重要な観察不能インプットが含まれることがあります。
非金融資産では、最有効使用や現在の使用との関係も重要です。IFRS第13号は、非金融資産の最有効使用が現在の使用と異なる場合、その事実と理由の開示を求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
レベル3評価で陥りやすい実務上の誤り
レベル3評価では、次のような誤りが起こりやすいものです。
第一に、評価技法だけでレベル分類を決めてしまうことです。DCF法だからレベル3、取引事例法だからレベル2、という整理では不十分です。レベル分類は、評価技法ではなく、重要なインプットの観察可能性で判断します。
第二に、第三者評価書をそのままレベル分類の根拠にしてしまうことです。評価専門家が評価していても、インプットの観察可能性や重要性は、財務諸表作成者が確認する必要があります。
第三に、観察不能インプットを企業固有の計画値のまま使ってしまうことです。企業固有のシナジーや経営者の意図が市場参加者に利用できないものであれば、調整が欠かせません。
第四に、感応度分析が形式化してしまうことです。変動幅の合理性、インプット間の相互関係、損益・OCI・純資産への影響まで説明できなければ、開示や監査対応としては弱くなります。
第五に、レベル間振替の方針が曖昧なことです。振替をいつ認識するか、どの事象を振替原因とするか。これを一貫して適用しなければなりません。
第六に、未実現損益の管理が不十分なことです。レベル3評価損益のうち、期末保有分に係る未実現損益を識別できないと、開示作成や監査対応で問題になります。
第七に、内部統制が評価結果の承認だけに偏ってしまうことです。本来重要なのは、評価方針、データ取得、モデル検証、仮定レビュー、感応度分析、事後検証までを含むプロセス全体です。
監査対応で整えるべきレベル3評価資料
レベル3評価について監査人と協議する際には、次の資料を整えておくと、議論が進めやすくなります。
| 資料 | 整理すべき内容 |
|---|---|
| 評価対象一覧 | 資産・負債の名称、測定目的、関連基準、会計処理単位、測定日 |
| レベル分類メモ | 使用した評価技法、主要インプット、各インプットのレベル、重大性判断 |
| 観察不能インプット一覧 | インプット内容、数値、出所、設定理由、市場参加者仮定との整合性 |
| 外部データ整理 | 市場価格、類似取引、類似会社、金利、スプレッド、外部レポート等 |
| 評価モデル資料 | 算定ロジック、数式、キャッシュ・フロー、割引率、税率、通貨 |
| 感応度分析 | 主要仮定の変動幅、評価額への影響、相互関係、合理的代替仮定 |
| レベル3調整表 | 期首残高、取得、売却、発行、決済、損益、OCI、振替、期末残高 |
| 未実現損益資料 | 期末保有分に係る純損益の未実現利得・損失と表示科目 |
| 評価プロセス資料 | 評価方針、承認者、レビュー手続、専門家利用、事後検証 |
| 開示ドラフト | 評価技法、インプット、レベル分類、感応度、評価プロセスとの整合性 |
評価資料は、評価額を裏付けるだけのものではありません。なぜその評価額がIFRS第13号の公正価値測定として説明できるのかを示す資料である必要があります。
開示との接続|レベル3評価は「注記設計」まで見て判断する
レベル3評価では、会計処理の結論と注記とが密接に結びつきます。
IFRS第13号は、公正価値測定に関する開示について、財務諸表利用者が評価技法とインプットを評価できるようにすること、そして重要な観察不能インプットを用いる経常的なレベル3評価について、当期の純損益またはその他の包括利益への影響を評価できるようにすることを目的としています。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement
レベル3に分類される場合、開示では次の点がとりわけ重要になります。
- 評価技法とインプットの説明
- 重大な観察不能インプットに関する定量的情報
- 期首残高から期末残高への調整表
- 純損益に含まれる未実現損益
- 評価プロセスの説明
- 観察不能インプットの変動に対する感応度
- 金融資産・金融負債に関する合理的代替仮定への変更影響
- レベル3への振替・レベル3からの振替
- レベル間振替の認識時点に関する方針
実務整理の観点からも、レベル3のみに求められる開示項目として特に押さえておきたいのは、重大な観察不能インプットに関する定量的情報、期首残高から期末残高への調整表、未実現損益、評価プロセス、感応度です。
これらを注記作成の段階になってはじめて集めようとすると、評価担当者、経理担当者、事業部門、外部評価専門家、監査人のあいだで情報が分断されてしまいます。レベル3評価は、決算末に評価書を受け取るだけの作業ではありません。期中から情報取得と証跡管理を設計しておくべき領域です。
まとめ|レベル3評価は、見積りの不確実性を隠さず、説明可能な形に整える領域である
公正価値ヒエラルキーは、評価額の優劣を示すものではありません。評価技法に用いたインプットがどの程度観察可能かを示す枠組みです。
しかし、レベル3評価は観察不能インプットを使うため、見積りの不確実性と経営者判断が財務諸表に与える影響が大きくなります。だからこそ、評価技法、インプット、重大性判断、レベル分類、感応度、未実現損益、評価プロセス、開示を一体で整理しておく必要があります。
レベル3評価で忘れてはならないのは、「市場データがないから社内見積りでよい」と考えないことです。観察不能インプットであっても、市場参加者が価格付けに用いる仮定を反映しなければなりません。自社データを使う場合でも、市場参加者の観点に照らした調整が必要です。
公正価値測定は、評価モデルを回すだけの作業ではありません。財務報告として、なぜその金額が市場参加者ベースの出口価格として妥当なのかを説明できる状態にする。そこまでを含む作業です。
公正価値ヒエラルキー・レベル3評価でお悩みの場合
非上場株式、条件付対価、デリバティブ、投資不動産、企業結合に伴うPPA、識別可能無形資産などでは、レベル3評価が監査上の重要論点となることがあります。
評価額そのものは外部評価専門家が算定していても、それだけでは終わりません。IFRS第13号に基づくレベル分類、重大な観察不能インプット、感応度、レベル3調整表、未実現損益、注記開示、監査証拠までを財務報告上の判断として整理するには、会計とバリュエーションの双方を踏まえた検討が求められます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、公正価値ヒエラルキーの整理、レベル3評価の論点整理、評価専門家との連携、監査対応資料の作成、IFRS注記への反映まで、実務で説明できる形での支援を行っています。
レベル分類や観察不能インプットの説明に不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
本稿の振り返り
| 論点 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 公正価値ヒエラルキーの性質 | 評価技法ではなく、評価技法に用いるインプットの観察可能性に基づく分類である。 |
| レベル1 | 測定日にアクセスできる活発な市場における同一資産・負債の無調整の相場価格。 |
| レベル2 | レベル1以外で、直接または間接に観察可能なインプット。類似価格、金利、信用スプレッド等が含まれる。 |
| レベル3 | 観察不能インプット。市場参加者が価格付けに用いる仮定を反映する必要がある。 |
| レベル分類の決定 | 全体の測定にとって重大なインプットのうち、最も低いレベルに基づいて全体を分類する。 |
| 重大性判断 | 一律の数値基準ではなく、評価額への影響、損益・純資産への影響、資産・負債固有の要因を踏まえて判断する。 |
| 第三者価格 | 価格提供者を利用しても自動的にレベル1・2にはならない。背後のインプットを確認する。 |
| レベル間振替 | 市場活動、価格情報、観察可能性、評価技法、インプットの変化を理由づける。振替時点の方針を一貫適用する。 |
| レベル3調整表 | 期首から期末への増減を、損益、OCI、取得、売却、発行、決済、振替に分解する。 |
| 未実現損益 | 期末保有分に係る純損益の未実現利得・損失と表示科目を把握する。 |
| 感応度 | 観察不能インプットの変動が評価額に与える影響と、インプット間の相互関係を説明する。 |
| 評価プロセス | 評価方針、責任分担、データ取得、モデル検証、承認、事後検証を内部統制として整える。 |
| 監査対応 | 評価額だけでなく、評価技法、インプット、重大性判断、開示への反映まで資料化する。 |