社会保険料・生命保険料・地震保険料・小規模企業共済の控除|年末調整と確定申告で確認すべき判断軸

社会保険料、生命保険料、地震保険料、そして小規模企業共済やiDeCoの掛金は、年末調整や確定申告のたびに登場する、いわば定番の控除です。

給与所得者の方であれば、勤務先から渡される「給与所得者の保険料控除申告書」に控除証明書の内容を書き写せば終わり、という印象をお持ちかもしれません。個人事業者や不動産収入のある方でも、会計ソフトや確定申告書等作成コーナーに金額を入力すれば控除額が自動で計算されますから、制度そのものを深く確かめないまま処理してしまう、というケースは少なくありません。

ただ、実務の現場で先に立ち止まって確認したいのは、「どの控除に入れるか」よりも、むしろその手前にある次の点です。

  • その保険料や掛金は、誰が支払ったものなのか
  • その契約は、そもそも所得控除の対象になる契約なのか
  • 年末調整で既に反映されているのか、確定申告で追加すべきものなのか
  • 個人事業や不動産所得の必要経費と、個人の所得控除とを混同していないか
  • 控除証明書、領収書、給与天引き資料、口座振替資料は、後から説明できる状態にそろっているか
  • 保険金や共済金を将来受け取るときの課税関係まで見ているか

ここを確かめないまま「支払ったのだから控除できる」と処理してしまうと、控除漏れにとどまらず、控除の重複、支払者の取り違え、事業経費との混同、そして将来受け取る保険金・共済金の課税関係の見落としにつながっていきます。

この記事では、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除の四つについて、単なる入力の手順ではなく、確定申告全体のなかでどう整理していくべきかという視点から解説します。

目次

この記事で扱う範囲

ここで取り上げるのは、個人の所得税申告における代表的な、そして毎年繰り返し発生する控除です。

控除主な対象
社会保険料控除国民年金、国民健康保険、厚生年金、健康保険、介護保険、後期高齢者医療保険、国民年金基金など
生命保険料控除一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料
地震保険料控除居住用家屋や生活用動産に係る地震保険料等
小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済、iDeCo、企業型DCの加入者掛金、心身障害者扶養共済制度の掛金など

一方で、保険商品の比較、老後資金の運用提案、保険加入の営業判断、投資商品の選定といったテーマは、この記事では扱いません。

控除額の有利・不利はもちろん大切ですが、保険や共済を「税金が下がるから入るもの」と単純に割り切ってしまうのは考えものです。必要な保障、資金繰り、解約のリスク、将来受け取るときの課税、事業の継続、家族構成——そうした要素まで含めて判断していく必要があります。

まず押さえたい、四つの控除の全体像

この四つは、同じ「保険料控除申告書」に記載することが多いためひとくくりにされがちですが、控除の考え方はそれぞれかなり違います。

控除控除額の考え方主な注意点
社会保険料控除その年に実際に支払った金額、または給与・年金等から差し引かれた金額の全額誰が支払ったか、生計一親族分か、年金から特別徴収されたものか
生命保険料控除契約区分・支払額に応じて一定額。所得税では最高12万円新旧契約、一般・介護医療・個人年金の区分、受取人要件
地震保険料控除地震保険料は所得税で最高5万円火災保険料全体ではなく地震等損害部分。居住用か不動産所得用か
小規模企業共済等掛金控除その年に支払った対象掛金の全額本人名義・本人負担、必要経費との混同、将来受取時の課税

このうち社会保険料控除は、控除額そのものは比較的わかりやすいといえます。対象になる社会保険料であれば、原則としてその全額が控除されるからです。控除額についても、その年に実際に支払った金額、または給与や公的年金等から差し引かれた金額の全額とされています。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除

これに対して、生命保険料控除と地震保険料控除は、支払った額がそのまま全額控除になるわけではありません。契約の区分、締結した時期、控除証明書の表示、そして控除限度額を、一つずつ確かめていく必要があります。

小規模企業共済等掛金控除は、対象となる掛金であれば全額が控除されます。ただし、これを「個人事業の必要経費」ではなく「所得控除」として扱う——ここが大切なところです。

年末調整で済むものと、確定申告で見直すべきもの

給与所得者の場合、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、そして一定の社会保険料控除は、年末調整のなかで処理されるのが一般的です。給与所得者の保険料控除の申告は、年末調整で生命保険料や地震保険料などの控除を受けるための手続で、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに給与の支払者へ提出するものと整理されています。出典:国税庁|A2-3 給与所得者の保険料控除の申告

もっとも、年末調整で済むかどうかは、勤務先に提出したかどうかだけで決まるものではありません。

状況確認すべきこと
年末調整で控除証明書を提出済み源泉徴収票に反映されているか
年末調整後に国民年金保険料を支払った確定申告で追加できるか
転職・退職で年末調整を受けていない確定申告で控除を整理する
医療費控除や住宅ローン控除初年度で確定申告する保険料控除も含めて申告内容を再確認する
副業・不動産所得・資産売却がある控除だけでなく申告全体を整理する
控除証明書を勤務先に出し忘れた確定申告または還付申告を検討する
同じ控除を年末調整と確定申告で二重入力した控除重複がないか確認する

クラウド給与や年末調整システムを使う場合でも、控除証明書を単にスキャンすれば足りる、というわけではありません。電子年調や電子保存では、申告書データ、控除証明書データ、本人確認、そして給与計算・法定調書との連動までを、一体として確認していく必要があります。年末調整の電子化とは、紙を画像に置き換えることではなく、給与・社会保険・法定調書・証憑保存をつなげる実務設計の問題なのです。

社会保険料控除は「誰が支払ったか」が核心になる

社会保険料控除は、対象となる社会保険料を支払った場合に、その支払額を所得から差し引く制度です。

対象となる社会保険料としては、健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度の保険料、介護保険料、雇用保険の被保険者負担分、国民年金基金の掛金などが挙げられます。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除

この控除でまず確かめたいのは、支払額ではなく、支払った人が誰かという点です。

支払の状況控除できる人の考え方
自分の給与から健康保険料・厚生年金保険料が天引き原則として本人
自分で国民年金保険料を納付本人
自分で国民健康保険料を納付支払った本人
生計を一にする子の国民年金保険料を親が支払った支払った親が控除できる場合がある
妻の介護保険料が妻の年金から特別徴収妻が支払ったものとして扱う
後期高齢者医療保険料を本人の年金から特別徴収年金受給者本人
生計一親族の後期高齢者医療保険料を口座振替で支払った実際に口座振替で支払った人が控除できる場合がある

たとえば、生計を一にしている子どもの過去の国民年金保険料を親が本年中にまとめて支払った場合、その支払額は本年分の社会保険料控除の対象になります。また、生計を一にする親族に当たるかどうかは、国民年金保険料を支払った時点で判定して差し支えないとされています。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除|質疑応答

その一方で、配偶者の介護保険料などが配偶者本人の公的年金から特別徴収されている場合、その社会保険料を支払ったのは、あくまで配偶者本人ということになります。妻の公的年金から特別徴収される介護保険料は、夫が支払った社会保険料とはいえないため、夫の社会保険料控除の対象にはならないのです。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除|質疑応答

つまり社会保険料控除は、「扶養しているから控除できる」というものではありません。「自己または生計を一にする配偶者その他の親族が負担すべき社会保険料を、誰が実際に支払ったのか」を確かめることが、出発点になります。

国民年金保険料は、控除証明書の確認が欠かせない

社会保険料控除のうち、国民年金保険料や国民年金基金の掛金については、証明書の添付または提示が必要になります。これらの掛金に係る社会保険料控除を受けるには、その金額を証する書類を、確定申告書、または年末調整の際に提出する保険料控除申告書に添付するか、提示しなければなりません。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除

国民年金保険料は全額が社会保険料控除の対象であり、年末調整や確定申告で申告する際には、この控除証明書を使うことになります。出典:日本年金機構|令和7年分社会保険料(国民年金保険料)控除証明書の発行について

国民年金保険料では、前納や過年度分の支払が、どの年の控除になるのかという点でつまずきやすいところです。

支払パターン社会保険料控除の整理
本年分を本年中に支払った本年分の控除
過去の未納分を本年中に支払った本年中に支払ったものとして控除対象
1年以内の前納支払った年分の控除対象として扱える
2年前納全額を支払った年に控除する方法、各年分に対応させる方法を選択できる
家族分をまとめて支払った生計一・支払時点・支払者を確認

2年分の国民年金保険料を前納した場合には、前納した2年分の全額を支払った年分の社会保険料控除の対象として差し支えないとされる一方、各年分の保険料に相当する額をそれぞれの年に控除する方法を選ぶこともできます。出典:国税庁|No.1130 社会保険料控除|質疑応答

前納は、その年の税額だけでなく、翌年以降の控除額にも影響します。「今年控除できるから有利」と一面的に見るのではなく、所得の見込み、退職・転職の予定、事業所得の変動、扶養関係の変化まで見渡したうえで判断したいところです。

個人事業者は、社会保険料控除と必要経費を混同しない

個人事業者やフリーランスの方の場合、国民健康保険料、国民年金保険料、国民年金基金の掛金などを、事業用の口座から支払っているケースがあります。

こうした場合でも、事業主本人の社会保険料は、原則として事業所得の必要経費ではなく、個人の社会保険料控除として処理します。

支出事業所得での処理
事業主本人の国民年金保険料必要経費ではなく社会保険料控除
事業主本人の国民健康保険料必要経費ではなく社会保険料控除
事業主本人の国民年金基金掛金社会保険料控除
従業員の社会保険料の事業主負担分事業所得の必要経費となり得る
従業員給与から預かった社会保険料預り金等として整理
青色事業専従者の給与から控除した社会保険料給与・預り金・納付の整合を確認

会計ソフトでは、事業用口座から引き落とされた支払が自動で取り込まれると、そのまま経費科目に入ってしまうことがあります。ここを放置すると、所得控除と必要経費の二重処理、あるいは経費性のない支出の経費計上につながりかねません。

個人事業の確定申告では、事業の損益計算と、個人の所得控除とを、きちんと分けて整理しておくことが大切です。

生命保険料控除は、契約区分と受取人要件を確認する

生命保険料控除は、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に、一定額の所得控除が受けられる制度です。平成24年1月1日以後に締結した契約と、平成23年12月31日以前に締結した契約とでは取扱いが異なり、保険期間が5年未満の生命保険などのように、控除の対象とならないものもあります。出典:国税庁|No.1140 生命保険料控除

生命保険料控除では、まず次の3区分を確認します。

区分主な内容
一般生命保険料控除死亡保障などを中心とする生命保険契約等
介護医療保険料控除医療保険、介護保険など一定の契約
個人年金保険料控除一定の個人年金保険料税制適格特約等のある契約

そのうえで、契約日によって「新契約」と「旧契約」に分かれます。

契約区分所得税の控除限度額
新契約の一般生命保険料最高4万円
新契約の介護医療保険料最高4万円
新契約の個人年金保険料最高4万円
新契約合計最高12万円
旧契約の一般生命保険料最高5万円
旧契約の個人年金保険料最高5万円

新契約では、一般生命保険料、介護医療保険料、新個人年金保険料それぞれの控除額を計算し、その合計が12万円を超える場合には、生命保険料控除額を12万円とします。旧契約については、旧生命保険料と旧個人年金保険料のそれぞれに、最高5万円の控除額が定められています。出典:国税庁|No.1140 生命保険料控除

ここで大切なのは、保険会社から届く控除証明書の金額をただ足し合わせるのではなく、「一般」「介護医療」「個人年金」「新」「旧」という区分を一つずつ確かめることです。

同じ保険会社の証明書に、複数の区分がまとめて記載されていることもあります。証明書の見た目だけで判断せず、控除申告書のどの欄に入れるべきなのかを、丁寧に確認していきます。

生命保険料控除は、契約者よりも「誰が払ったか」と「受取人」が重要

生命保険料控除では、契約者の名義だけで判断しない、という点にも注意が必要です。

たとえば、妻が契約者である生命保険契約について、夫が保険料を支払っている場合を考えてみます。生命保険料控除の対象となる契約は、保険金等の受取人のすべてを、保険料を払い込む者またはその配偶者その他の親族とするものをいい、契約者が誰であるかは要件とされていません。そのため、要件を満たす限り、この保険料は夫の生命保険料控除の対象になります。出典:国税庁|No.1140 生命保険料控除|質疑応答

整理すると、次のようになります。

確認項目重要な理由
契約者形式上の契約名義。これだけで控除可否は決まらない
保険料負担者誰の控除にするかの中心
保険金等の受取人控除対象契約かどうかに影響
支払時点の現況離婚・受取人変更などがある場合に重要
控除証明書控除区分・支払額・契約内容の確認資料

とりわけ、離婚、再婚、受取人の変更、親族関係の変動があった場合には、支払った時点ごとに要件を確認しておく必要があります。離婚後に元妻を受取人としていた期間の保険料については、保険料を支払ったときの現況によって判定され、受取人が元妻である期間の保険料は控除の対象にならないとされています。出典:国税庁|No.1140 生命保険料控除|質疑応答

生命保険料控除は、家族関係や資金負担の実態と、密接に結びついています。家計の口座からまとめて支払っている場合でも、それが誰の負担した保険料なのか、どの申告に入れるべきものなのかを、あらためて確かめておきたいところです。

生命保険は、控除だけでなく将来受取時の課税も見ておく

生命保険料控除は、あくまで支払った時点での所得控除です。しかし生命保険は、将来、満期保険金、解約返戻金、個人年金、死亡保険金というかたちで戻ってくることがあります。

ですから、控除があるかどうかだけで保険契約を評価してしまうのは、少し危ういといえます。

生命保険契約の満期や解約によって保険金を受け取った場合には、保険料の負担者と保険金の受取人が誰であるかによって、所得税または贈与税の課税対象となります。保険料負担者と受取人が同じで、一時金として受け取る場合は一時所得、年金として受け取る場合は公的年金等以外の雑所得として課税される、と整理されています。出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき

また個人年金保険についても、保険料負担者と年金受取人が同一であれば、公的年金等以外の雑所得として所得税が課税され、年金額から対応する払込保険料等を差し引いて雑所得を計算します。出典:国税庁|No.1610 保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金

受取場面主な税務整理
満期保険金を一時金で受け取る一時所得となる場合がある
解約返戻金を受け取る一時所得となる場合がある
個人年金を年金で受け取る公的年金等以外の雑所得となる場合がある
保険料負担者と受取人が異なる贈与税の問題が出る場合がある
死亡保険金を受け取る契約者・被保険者・受取人関係により相続税・所得税・贈与税の整理が変わる

「控除証明書があるから有利」という見方だけでは、判断としては十分とはいえません。保険契約は、支払時の控除にとどまらず、保障内容、解約時、満期時、死亡時、さらには相続・贈与との接点まで含めて確かめておく必要があります。

地震保険料控除は、火災保険料全体ではない

地震保険料控除は、地震等損害部分に係る保険料や掛金を支払った場合に受けられる所得控除です。特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合に、一定の所得控除が受けられる、というものです。出典:国税庁|No.1145 地震保険料控除

所得税上の控除額は、次のように整理できます。

区分年間支払保険料控除額
地震保険料5万円以下支払金額の全額
地震保険料5万円超5万円
旧長期損害保険料1万円以下支払金額の全額
旧長期損害保険料1万円超2万円以下支払金額×1/2+5,000円
旧長期損害保険料2万円超1万5,000円
両方がある場合それぞれ計算合計最高5万円

なお、平成19年分から損害保険料控除は廃止されていますが、一定の旧長期損害保険契約については、経過措置として地震保険料控除の対象になります。具体的には、平成18年12月31日までに締結した一定の長期損害保険契約等で、保険期間が10年以上、満期返戻金等があり、平成19年1月1日以後に契約変更していないものなどが、その対象とされています。出典:国税庁|No.1145 地震保険料控除

気をつけたいのは、火災保険料の全体が地震保険料控除の対象になるわけではない、という点です。

対象となる金額は、保険会社から届く控除証明書で確認します。契約書や保険証券に記載された年間保険料の総額と、控除証明書に記載される控除対象額とが一致しないことも珍しくありません。

地震保険料控除は「居住用」かどうかを確認する

地震保険料控除の対象となる保険や共済の契約は、一定の資産を対象とするものに限られます。

その一定の資産とは、自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族が所有する家屋で常時居住の用に供するもの、あるいは、生活に通常必要な家具・じゅう器・衣服などの生活用動産を指します。出典:国税庁|No.1146 地震保険料控除の対象となる保険や共済の契約

このため、不動産収入のある方は特に注意しておきたいところです。

保険の対象主な整理
自宅の地震保険地震保険料控除の対象になり得る
自宅の家財に係る地震保険対象になり得る
賃貸アパート・貸家の地震保険不動産所得の必要経費として検討する領域
自宅兼賃貸物件居住部分と賃貸部分を区分して整理
事業用店舗・事務所の保険事業所得・不動産所得の必要経費として確認
別荘・通常生活に必要でない資産控除対象外となる可能性

たとえば、賃貸物件に係る火災保険・地震保険は、所得控除ではなく、不動産所得の必要経費として処理することになります。自宅兼賃貸、賃貸併用住宅、自宅兼事務所といったケースでは、保険料の対象、面積、利用の実態、契約の内容を確かめ、居住用の部分と賃貸・事業用の部分とを合理的に区分していきます。

「地震保険料控除証明書があるから全額所得控除」とは限りません。保険の対象資産と、その利用の実態を確かめることが欠かせません。

小規模企業共済等掛金控除は、全額控除だが必要経費ではない

小規模企業共済等掛金控除は、対象となる掛金を支払った場合に、その年に支払った金額を所得から控除できる制度です。

対象となるのは、独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ小規模企業共済契約の掛金、確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金、そして地方公共団体が実施する一定の心身障害者扶養共済制度の掛金などです。控除できるのは、その年に支払った掛金の全額です。出典:国税庁|No.1135 小規模企業共済等掛金控除

小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で設定できます。税法上は全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から控除できますが、共済契約者自身の収入のなかから納めるものであるため、事業上の損金や必要経費には算入できません。出典:中小機構|小規模企業共済の掛金

この「必要経費ではない」という点は、個人事業者にとって、とても重要な意味を持ちます。

支出正しい整理
個人事業主本人の小規模企業共済掛金小規模企業共済等掛金控除
事業用口座から引き落とされた掛金事業主貸等として処理し、所得控除へ
事業の仕入・外注・家賃必要経費
従業員の退職金共済等制度・契約内容に応じて必要経費を検討
iDeCo掛金小規模企業共済等掛金控除

小規模企業共済は、個人事業主や会社役員にとって、有効な退職金準備の制度になり得ます。ただし、控除の効果だけを見て掛金を増やしてしまうと、資金繰りに支障が出ることもあります。

とりわけ個人事業者は、所得税、住民税、個人事業税、国民健康保険、消費税、予定納税、そして事業資金までを同時に見ていかなければなりません。控除額だけでなく、手元の資金、納税のための資金、さらには廃業・法人成り・承継の予定まで含めて判断していくことが大切です。

iDeCoは小規模企業共済等掛金控除だが、家族分は控除できない

iDeCoの掛金も、小規模企業共済等掛金控除の対象です。iDeCoの掛金は全額が所得控除、すなわち小規模企業共済等掛金控除の対象になります。出典:iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ)のメリット

ただしiDeCoでは、社会保険料控除と同じ感覚で「家族の分を支払ったから控除できる」と考えてはいけません。

iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除として全額が所得控除の対象になりますが、配偶者等の掛金を控除することはできず、控除できるのは掛金を負担した本人名義分のみです。これに対して、国民年金基金の掛金は全額が社会保険料控除となり、配偶者等の掛金を負担した場合には、その分も所得控除の対象になり得る、と整理されています。出典:全国国民年金基金|国民年金基金とiDeCoとの違い

整理すると、次のようになります。

制度控除区分家族分の扱い
国民年金保険料社会保険料控除生計一親族分を支払った場合、控除できることがある
国民年金基金掛金社会保険料控除生計一親族分を負担した場合、対象となり得る
iDeCo掛金小規模企業共済等掛金控除本人名義分のみ
小規模企業共済掛金小規模企業共済等掛金控除共済契約者本人の掛金

この違いは、夫婦や親子で老後資金を準備している場合に、大きな意味を持ってきます。

「家計としてまとめて支払っている」という感覚と、税務上の控除対象者とは、必ずしも一致しません。控除を受ける人、名義、そして制度の区分を、その都度確かめておきたいところです。

小規模企業共済は、受取時の課税も見ておく

小規模企業共済は、掛金を支払うときには全額が所得控除の対象となりますが、将来、共済金や解約手当金を受け取るときには、課税関係が生じます。

共済金および解約手当金については、受け取る際の年齢や、一括か分割かといった受取方法によって、税法上の取扱いが変わってきます。たとえば、共済金を一括で受け取る場合は退職所得扱い、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得扱い、一定の任意解約では一時所得扱いとなる場合があります。出典:中小機構|共済金等請求・解約

受取場面主な税務上の取扱い
廃業・退職等により共済金を一括で受け取る退職所得扱いとなる場合
共済金を分割で受け取る公的年金等の雑所得扱いとなる場合
一括・分割併用一括分は退職所得、分割分は公的年金等の雑所得扱いとなる場合
遺族が共済金を受け取る相続税法上のみなし相続財産となる場合
一定の任意解約年齢・事由により退職所得または一時所得となる場合

小規模企業共済は、加入するときだけでなく、出口となる廃業、法人成り、役員退任、相続、事業承継の時期にも影響してきます。

掛金を増やす前に、いつまで事業を続けるのか、法人成りの予定はあるのか、退職所得として受け取れる見込みがあるのか、任意解約のリスクはないのか——こうした点を確かめておきたいところです。

保険料・掛金控除で起きやすい誤り

これらの控除で生じやすい誤りは、計算のミスばかりではありません。むしろ、前提の整理を誤ってしまうケースのほうが目立ちます。

誤り問題点
年末調整済みの控除を確定申告で重複入力控除の二重計上
控除証明書ではなく通帳引落額だけで入力控除対象額・区分を誤る可能性
妻の年金から特別徴収された介護保険料を夫の控除にした支払者の誤り
生計を別にした子の国民年金保険料を全額親の控除にした支払時点の生計一判定を誤る可能性
iDeCoの配偶者分を自分の控除にした本人名義分のみである点の誤り
小規模企業共済掛金を事業経費にした所得控除と必要経費の混同
賃貸物件の地震保険料を所得控除にした不動産所得の必要経費との混同
火災保険料全体を地震保険料控除に入れた地震等損害部分以外を含めてしまう
生命保険の受取人が要件を満たさない期間も控除した受取人要件の確認漏れ
解約返戻金や満期保険金の課税を見ていない将来の所得区分・贈与税を見落とす

確定申告では、控除額を増やすことそのものよりも、その控除の根拠をきちんと説明できることのほうが、はるかに重要です。

確定申告前に整理しておきたい資料

控除を申告する前に、次のような資料をそろえておくと、判断がずいぶん進めやすくなります。

控除整理すべき資料
社会保険料控除源泉徴収票、国民年金控除証明書、国民健康保険料の納付済額通知、領収書、口座振替記録、公的年金等の源泉徴収票
生命保険料控除生命保険料控除証明書、保険証券、契約者・被保険者・受取人の情報、解約・受取の有無
地震保険料控除地震保険料控除証明書、保険証券、対象建物・家財、居住用か賃貸用かの資料
小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済掛金払込証明書、iDeCoの小規模企業共済等掛金払込証明書、掛金引落口座、加入者名義
年末調整確認源泉徴収票、保険料控除申告書控え、勤務先への提出資料
個人事業・不動産所得との関係事業用口座明細、会計ソフト仕訳、必要経費に入れていないかの確認
将来受取との関係保険金・年金・共済金の受取見込、解約返戻金、退職・廃業・法人成り予定

資料が手元にそろっていることと、税務上正しく整理されていることとは、別の話です。

たとえば、通帳に「保険料」と記載されていたとしても、それが生命保険料控除の対象なのか、地震保険料控除の対象なのか、事業経費なのか、あるいは家計の支出なのかは、あらためて確かめる必要があります。

個人事業・不動産収入がある人は、控除より前に所得計算を整える

個人事業や不動産収入がある方の場合、控除だけを確認しても、申告全体は整いません。

所得控除は、所得の金額が計算された後に差し引くものです。ですから、事業所得、不動産所得、雑所得、譲渡所得といった所得の金額が正しく整理されていなければ、控除を正しく入れたとしても、申告全体としての説明可能性は不十分なままになってしまいます。

所得の状況控除前に確認すべきこと
個人事業がある売上、必要経費、家事関連費、事業主貸・事業主借
副業がある事業所得か雑所得か、住民税申告の要否
不動産収入がある賃料収入、減価償却、借入金利子、保険料、固定資産税
自宅兼事務所保険料や社会保険料を経費に混ぜていないか
賃貸併用住宅地震保険料を居住部分と賃貸部分で整理しているか
株式・不動産売却がある所得控除だけでなく課税方式・住民税への影響を確認
退職・転職がある年末調整未了、社会保険料、源泉徴収票の整合性を確認

控除は、税額を下げるための大切な仕組みではありますが、所得区分や必要経費の判断を補うものではありません。

控除漏れに気づいた場合

過去の年末調整や確定申告で、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を入れ忘れていた場合には、還付申告や更正の請求を検討します。

状況対応の方向性
確定申告をしていない給与所得者が控除を入れ忘れた還付申告を検討
既に確定申告をしたが控除漏れがあった更正の請求を検討
年末調整で出し忘れたが確定申告はしていない還付申告を検討
控除証明書を紛失した保険会社・年金機構・中小機構等に再発行や証明方法を確認
控除を重複していた修正申告等が必要か確認
住民税・国保にも影響する可能性がある所得税だけでなく自治体側の反映も確認

控除漏れは、早めに気づくことができれば、適切な手続で修正できることがあります。一方で、控除の重複や対象外の控除を後から見つけた場合には、税額が増える方向での修正が必要になることもあります。

「控除を増やす」ことだけでなく、「誤って入れてしまった控除を正す」こともまた、説明できる申告のためには欠かせません。

専門家に相談した方がよい場面

これらの控除だけであれば、ご自身で年末調整や確定申告を進められる方も多いと思います。

ただし、次のような場合には、単純な控除の入力にとどまらず、申告全体を整理していく必要があります。

状況相談した方がよい理由
副業・個人事業がある所得区分、必要経費、事業主貸との整理が必要
不動産収入がある保険料を所得控除にするか、不動産所得の経費にするか確認が必要
自宅兼事務所・賃貸併用住宅がある居住用部分と事業・賃貸部分の区分が必要
年末調整後に追加で保険料や国民年金を支払った確定申告で追加控除できるか確認
退職・転職がある年末調整未了、社会保険料、源泉徴収票の整合性確認が必要
家族分の社会保険料を支払っている生計一、支払者、特別徴収・口座振替の確認が必要
iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済を併用している控除区分、名義、限度額、将来受取を整理する必要
保険金・解約返戻金・個人年金を受け取った一時所得、雑所得、贈与税等の確認が必要
控除漏れや重複に気づいた還付申告、更正の請求、修正申告を整理する必要
相続・贈与・事業承継を見据えて保険を使っている受取人、保険料負担者、相続税との接点確認が必要

控除は、申告書のうえでは数行の入力で終わってしまうかもしれません。しかしその数行の背後には、支払者、契約、家族関係、事業との線引き、将来の受取、そして資料の保存という、いくつもの判断が含まれています。

社会保険料・保険料控除で不安がある方へ

社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除は、毎年発生するだけに、慣れてくるとつい確認が雑になりやすい控除でもあります。

しかし、退職・転職、副業の開始、個人事業の拡大、不動産収入、賃貸併用住宅、家族分の社会保険料の負担、iDeCoや小規模企業共済への加入、保険金の受取——こうした出来事があった年は、年末調整だけでは整理しきれないことが少なくありません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、控除証明書を書き写すことにとどまらず、所得区分、必要経費、家計との線引き、証憑の保存、そして将来の保険金・共済金の課税関係まで含めて、きちんと説明できる確定申告を大切にしています。

「年末調整で出し忘れてしまった」「個人事業の経費と控除が混ざってしまっている」「不動産収入と地震保険料の扱いがよくわからない」「家族分の社会保険料を、誰の控除にすればよいのか不安だ」「小規模企業共済やiDeCoをどう整理すればよいのか確かめたい」——このようにお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、どうぞお気軽にご相談ください。

振り返り

重要事項確認すべきポイント
社会保険料控除対象社会保険料であれば、原則として支払額全額を控除する
支払者の確認誰が実際に支払ったかが重要
家族分の社会保険料生計を一にする親族分を支払った場合、控除できることがある
年金からの特別徴収年金受給者本人が支払ったものとして扱う
国民年金保険料控除証明書や領収書を確認する
前納保険料1年以内前納、2年前納で控除時期の整理が必要
個人事業者の社会保険料原則として必要経費ではなく所得控除
生命保険料控除一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に区分する
新契約・旧契約契約日により控除額計算が変わる
生命保険の支払者契約者名義だけでなく、実際の保険料負担者と受取人を確認する
離婚・受取人変更支払時点の現況で控除対象か確認する
生命保険の将来課税満期、解約、年金、死亡時の課税関係を確認する
地震保険料控除火災保険料全体ではなく、地震等損害部分が対象
地震保険の対象資産居住用家屋・生活用動産か、不動産所得用資産か確認する
賃貸物件の保険料所得控除ではなく不動産所得の必要経費として整理する場合がある
小規模企業共済等掛金控除対象掛金は全額所得控除
小規模企業共済掛金事業上の必要経費ではなく、個人の所得控除
iDeCo小規模企業共済等掛金控除だが、配偶者等の掛金は控除できない
受取時の課税小規模企業共済や保険は、出口で退職所得・雑所得・一時所得等の確認が必要
年末調整との関係年末調整済みか、確定申告で追加・修正するか確認する
控除漏れ還付申告や更正の請求を検討する
説明可能性控除証明書、領収書、契約書、口座振替記録を保存する
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