修繕費と資本的支出の判断|修理・改装費を全額経費にできるか

決算を前に、建物や機械、車両、内装、システムなどの修理・改装を検討するとき、経営者の方が最初に気にされるのは、たいてい「これは全額経費になるのか」という一点です。

確かに、修繕費として処理できれば、その事業年度の損金に算入できます。一方で、資本的支出に該当すれば固定資産として計上し、減価償却を通じて複数年にわたって費用化していくことになります。

同じ300万円の支出でも、修繕費であれば当期の利益を大きく押し下げます。資本的支出であれば、当期に損金算入できる金額は減価償却限度額にとどまります。決算対策という視点から見ると、この差はかなり大きく映るはずです。

ただ、ここで押さえておきたいのは、判断を決めるのは支出の「名称」ではない、という点です。

請求書に「修理費」と書いてあるか。「改修工事」と書いてあるか。「メンテナンス費」として振り込んだか。あるいは、帳簿上「修繕費」の勘定科目で処理したか。

これらはいずれも判断の入口にはなりますが、結論そのものを決めるものではありません。

税務上問われるのは、その支出によって対象資産が元の状態に戻っただけなのか、それとも価値が高まったのか、使用できる期間が延びたのか、用途や機能が変わったのか、という点です。

つまり、修繕費と資本的支出の判断は、いわゆる節税テクニックの話ではありません。会社が実際に行った工事や修理の実態を、会計処理と税務処理へ正しく反映できているかどうか、という問題なのです。

目次

修繕費と資本的支出は、何が違うのか

まず、基本的な考え方を整理しておきます。

修繕費とは、固定資産について、通常の維持管理のため、あるいは壊れた部分を原状回復するために支出した費用を指します。

たとえば、故障した部品を同等品に交換する、老朽化した箇所を補修する、雨漏り部分を直す、定期的な塗装を行う、通常の使用で傷んだ箇所を元に戻す。こうした支出が典型例です。

これに対して資本的支出とは、固定資産の価値を高める、あるいは耐久性を増す部分に対応する支出をいいます。国税庁の法人税基本通達では、建物への避難階段の取付け、用途変更のための模様替え・改造・改装、高性能部品への取替えのうち通常の取替費を超える部分などが、資本的支出の例として挙げられています。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

同じ通達では、通常の維持管理や、毀損した固定資産の原状回復のために要した部分は修繕費になるとされています。たとえば、一定の機械装置の移設費、地盤沈下した土地を沈下前の状態に戻す地盛り、現に使用している土地の水はけを良くするための砂利・砕石の敷設などが、修繕費の例として掲げられています。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

要するに、判断の中心にあるのは次の違いです。

区分基本的な性質税務上の処理
修繕費通常の維持管理、原状回復原則として支出事業年度の損金
資本的支出価値増加、耐久性向上、使用可能期間の延長、用途変更・機能向上固定資産として計上し、減価償却

ここで誤解しやすいのは、「修理だから修繕費」「改装だから資本的支出」と、単語だけで決まるわけではない、ということです。

大規模な工事であっても、定期的な維持管理や原状回復であれば修繕費になることがあります。反対に、一見すると少額の工事でも、用途変更や機能追加を伴うものであれば資本的支出になることがあります。

「全額経費になるか」ではなく「何のための支出か」を見る

修繕費と資本的支出を判断するときは、まず「この支出によって何が変わったのか」を確認します。

見るべき観点は、主に次の5つです。

1つ目は、壊れたものを元に戻しただけかどうか。故障、摩耗、破損、劣化があり、その部分を通常の状態に戻したのであれば、修繕費に近づきます。

2つ目は、性能が上がったかどうか。同じ機能の部品を同等品に交換しただけなら修繕費に近いのですが、従来より高性能な部品に替えた場合には、通常の取替費を超える部分が資本的支出になり得ます。

3つ目は、用途が変わったかどうか。倉庫を店舗にする、和室を洋室に変更する、事務所をショールーム化するなど、用途変更のための改装は、資本的支出として見られやすい支出です。

4つ目は、使用できる期間が延びたかどうか。単なる補修ではなく、資産の耐久性を高めて通常より長く使える状態にした場合には、資本的支出に該当する可能性があります。

5つ目は、新たな機能が追加されたかどうか。監視機能、遠隔操作機能、省エネ機能、自動制御機能など、従来なかった機能を付け加えた場合には、原状回復ではなく価値増加と見られやすくなります。

この判断は、税務調査でも重視されます。とりわけ「修繕費」として処理した支出のうち20万円以上のものについては、対象資産の使用可能期間を延長させる支出、あるいは価値を増加させる支出に該当していないかが、確認されやすいところです。

判断を難しくするのは、一つの工事に両方が混ざること

実務でいちばん多いのは、修繕費か資本的支出かがきれいに分かれないケースです。

たとえば、屋上防水工事で、傷んだコンクリート部分を補修すると同時に、従来なかった特殊な撥水加工を新たに施工した場合を考えてみます。

毀損部分の補修は、原状回復として修繕費に近い支出です。一方、新たな特殊加工は、機能追加・価値増加として資本的支出に近い支出になります。

このとき、請求書が「屋上補修工事一式 250万円」となっているだけでは、正しい判断はできません。見積書、工事内訳書、施工内容、工事前後の写真、使用材料、施工範囲などを確認したうえで、修繕費部分と資本的支出部分を合理的に区分する必要があります。

不動産賃貸業の調査事例でも、賃借人退去後の壁紙・ふすま・網戸の張替えは通常の維持管理・原状回復として修繕費に該当する一方、和室から洋室への変更は用途変更・価値増加として資本的支出に該当する、という整理が示されています。

システムキッチンへの入替えについても同様で、旧設備の廃棄に対応する部分と、新たな設備の設置に対応する部分とを分けて考える必要があります。旧設備の廃棄部分や、旧設備に対応する残存価額を合理的に把握できる場合には、その部分は当期の損金処理を検討できますが、新設部分は建物等に対する資本的支出となることがあります。

大切なのは、「工事一式」でひとまとめに処理しないことです。

工事の中に、原状回復部分、機能向上部分、用途変更部分、撤去・廃棄部分、新設部分が混在している場合には、それぞれの性質に応じて分けて考えます。

20万円未満・3年以内周期なら修繕費にできる場合がある

法人税基本通達には、少額または周期の短い修理・改良について、修繕費として損金経理できる取扱いがあります。

一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理・改良等が、次のいずれかに該当する場合には、修繕費として損金経理することができます。

  • その修理・改良等のために要した費用の額が20万円未満である場合
  • その修理・改良等が、おおむね3年以内の周期で行われることが、過去の実績その他の事情から明らかな場合

出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

ここで注意しておきたいのが、「一の修理、改良等」という単位です。

これは、請求書を分ければ20万円未満になる、という考え方ではありません。同一の計画に基づき、同一の固定資産について行う一連の修理・改良であれば、まとめて判定します。

たとえば同じ機械の一連の修理について、部品代、工賃、出張費、調整費が複数の請求書に分かれていたとしても、それが一つの修理計画に基づくものであれば、全体で判定する必要があります。

あわせて、固定資産の単位にも注意が必要です。国税庁は、一つの設備が複数の資産で構成される場合にはその個々の資産を、送配管・送配電線・伝導装置等のように一定規模でなければ機能を発揮できないものは合理的に区分した最小規模を基準にする、との考え方を示しています。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

したがって、20万円基準を使う場合であっても、請求書の金額だけを見て判断するのではなく、どの資産に対する、どの計画の支出なのかを整理しておく必要があります。

60万円未満・取得価額10%以下の形式基準は「不明な場合」の基準

次に、60万円未満、または取得価額10%以下という基準があります。

一つの修理・改良等の費用のうち、資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費として損金経理することができます。

  • その金額が60万円未満である場合
  • その金額が、その修理・改良等に係る固定資産の前期末取得価額の、おおむね10%相当額以下である場合

出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

この基準は、実務でもよく使われます。ただし、一つ非常に重要な制限があります。

それは、あくまで「資本的支出か修繕費かが明らかでない金額」に使う基準だ、という点です。

明らかに資産価値を高める支出、明らかに用途変更のための改装、明らかに新たな機能を追加する支出について、「60万円未満だから修繕費でよい」と機械的に判断してしまうのは危険です。

たとえば50万円の工事であっても、従来なかった機能を追加する設備工事であれば、形式基準だけで修繕費と断定するのは適切ではありません。反対に500万円の工事であっても、10年ごとに実施している通常の外壁塗装で、維持管理のための支出だと説明できるのであれば、修繕費として整理できる余地があります。

国税庁のタックスアンサーでも、資本的支出か修繕費かが明らかでない金額について、60万円未満、または前事業年度終了時の取得価額のおおむね10%以下である場合に、修繕費とすることができる旨が示されています。
出典:国税庁|No.5402 修繕費とならないものの判定

「60万円未満なら何でも経費」ではない、ということです。あくまで「明らかでないものについて、一定の形式基準で処理できる」という制度の位置づけを、取り違えないことが大切です。

30%・10%基準は、継続適用が前提になる

資本的支出か修繕費かが明らかでない金額については、さらに区分の特例があります。

法人が継続して、その金額の30%相当額と、その固定資産の前期末取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出としている場合には、その処理が認められます。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

この特例も、判断が難しい工事で実務上使われることがあります。ただし、ポイントはあくまで「継続して」という部分にあります。

ある年は税金を減らしたいから修繕費を多くし、別の年は利益を見せたいから資本的支出を多くする。こうした使い方は適切ではありません。会社として、同種の支出をどのような基準で処理するのかを定め、それを継続的に適用していく必要があります。

この基準を使う場合には、少なくとも次の資料を残しておくべきです。

  • 対象資産の前期末取得価額
  • 今回の修理・改良等の総額
  • 資本的支出か修繕費かが明らかでない理由
  • 30%相当額の計算
  • 前期末取得価額10%相当額の計算
  • 修繕費と資本的支出の区分計算
  • 同種支出について継続適用していることが分かる資料

形式基準や特例は、判断を簡便にするための取扱いです。資料がなくても自由に選べる、という意味ではありません。

見積書の「一式」は、税務上の説明を難しくする

修繕費と資本的支出で争点になりやすい会社には、共通点があります。それは、見積書や請求書が粗い、という点です。

「改修工事一式」「修理工事一式」「内装工事一式」「設備更新工事一式」「原状回復工事一式」。

こうした記載だけでは、どの部分が原状回復で、どの部分が機能向上で、どの部分が新設で、どの部分が撤去費なのかが分かりません。

税務調査で確認されるのは、勘定科目ではなく工事の実態です。だからこそ、工事の段階から次のような資料をそろえておく必要があります。

  • 工事前の状態が分かる写真
  • 故障、毀損、劣化の状況が分かる資料
  • 工事の目的を記載した稟議書・発注理由書
  • 見積書の詳細内訳
  • 工事内容ごとの金額内訳
  • 使用材料の仕様書
  • 交換前後の性能比較資料
  • 施工図面
  • 工事完了報告書
  • 工事後の写真
  • 固定資産台帳との対応関係

業者に依頼する段階で、見積書を「修繕部分」「更新部分」「機能追加部分」「撤去・処分部分」に分けてもらう。それだけでも、後日の説明力は大きく変わります。

税務処理は、決算のときに帳簿の上だけで整えるものではありません。工事を発注する段階から、後で説明できるよう資料を設計しておくことが重要です。

資産単位を誤ると、判断も誤る

修繕費と資本的支出の判断では、「どの資産に対する支出なのか」も重要になります。

たとえば工場について、全体を一つの資産として見るのか、建物、電気設備、空調設備、機械装置、配管設備を分けて見るのか。この捉え方によって、判断が変わることがあります。

機械装置についても、ライン全体で見なければ機能しないもの、個別機械ごとに独立して機能するもの、制御装置と本体が一体で機能するものがあります。

国税庁の通達でも、「同一の固定資産」について、一つの設備が複数資産で構成される場合や、一定規模でなければ機能を発揮できないものについての考え方が示されています。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

実務上は、固定資産台帳の登録単位、減価償却資産の種類、工事対象の範囲、機能単位を照らし合わせて判断します。

とくに複数資産にまたがる工事では、次のような問題が起こりがちです。

  • 建物修繕費として処理しているが、実際には建物附属設備の更新が含まれている
  • 機械装置の修理として処理しているが、実態は生産ラインの再構築に近い
  • 内装工事として処理しているが、用途変更のための造作が含まれている
  • システム保守費として処理しているが、新機能開発が含まれている
  • 車両修理費として処理しているが、架装・改造が含まれている

資産単位が曖昧なまま修繕費処理をすると、税務調査で「どの資産の、どの部分を直したのか」を説明できなくなります。

機械装置の移設費は、目的によって処理が変わる

機械装置の移設費も、実務で誤りやすい項目です。

法人税基本通達では、一定の機械装置の移設に要した費用は修繕費に該当する例として示されています。ただし、集中生産を行う等のための機械装置の移設については別の取扱いがある点に、注意が必要です。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

単にレイアウト変更や通常の移転に伴って機械を動かしただけであれば、修繕費に近い処理になることがあります。

一方で、集中生産体制を構築する、製造効率を高める、生産ラインを再編する、より高い稼働能力を実現する。こうした目的の移設であれば、資本的支出として扱うべき場合があります。

さらに気をつけたいのは、外部業者への支払いだけでなく、社内で発生した費用も含めて判断する場合がある、という点です。機械装置の移設プロジェクトにおいて、社員が中心となって物理的移転・据付けを行い、外部委託費用だけを修繕費処理していた事例では、社内プロジェクト費用も含めた移設費全体で資本的支出該当性を判断すべき、と整理されています。

「請求書が来た部分だけが税務判断の対象」ではありません。会社が実際にどのような目的で、どのような工事・移設・改良を行ったのかが問われます。

ソフトウェアの改修も、修繕費と資本的支出の判断が必要

修繕費と資本的支出の問題は、建物や機械に限りません。ソフトウェアでも生じます。

既存システムの不具合修正、法令改正に伴う必要な修正、既存機能の維持のための改修であれば、修繕費に近い処理になります。

一方、新機能の追加、処理能力の向上、利用範囲の拡大、業務フローを大きく変える仕様変更などは、資本的支出に該当する可能性があります。

国税庁の法人税基本通達でも、ソフトウェアについて、プログラムの機能上の障害の除去や現状の効用の維持等に該当する修正は修繕費、新たな機能の追加や機能向上等に該当する修正は資本的支出に該当する旨が示されています。
出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費

システム関連費用は、「保守費」「改修費」「開発費」「設定費」「カスタマイズ費」など、名称が混在しやすい項目です。

税務上は、次のように分けて確認していきます。

  • 障害対応か
  • 既存機能の維持か
  • 法令対応など不可避の修正か
  • 新機能追加か
  • 処理速度・処理能力の向上か
  • 利用部門・利用範囲の拡大か
  • 新しい業務システムの構築か
  • 研究開発費に該当する部分があるか

システム会社の請求書だけでは判断できないことが多いため、仕様書、要件定義書、改修前後の機能一覧、テスト結果、リリースノートを保存しておくことが重要です。

修繕費処理は、利益・資金繰り・金融機関対応にも影響する

修繕費として全額損金にできるかどうかは、法人税だけの問題ではありません。

修繕費にすれば、当期の利益は小さくなります。税金は減るかもしれませんが、金融機関に提出する決算書では利益水準が下がります。借入を予定している会社、金融機関との関係を重視する会社、M&Aや事業承継を見据えている会社では、当期利益の見え方も無視できません。

一方、資本的支出として固定資産に計上すれば、当期の費用は減価償却費に限られます。利益は修繕費処理より大きく見えますが、税負担は増える可能性があります。将来の減価償却費として費用化されるため、税効果は将来に配分されていきます。

つまり、修繕費か資本的支出かの判断は、単に「税金が少なくなる処理を選ぶ」という話ではないのです。

  • 当期の税額
  • 手元資金
  • 翌期以降の減価償却費
  • 金融機関に示す利益水準
  • 固定資産台帳の整合性
  • 将来の売却・除却時の処理
  • 税務調査での説明可能性

これらを分けて見ていく必要があります。

とくに、決算前に大きな修繕工事を行う場合、「税金が減るから前倒しで工事する」という発想だけで進めるのは危険です。工事の必要性、資金繰り、施工時期、完成時期、資料の保存、翌期以降の修繕計画まで含めて判断すべきです。

税務調査で見られるのは、請求書の名称ではなく工事の実態

税務調査では、修繕費の勘定科目に計上された高額支出が、確認されやすい項目です。

調査官は、おおむね次のような観点で確認します。

  • 前年と比べて修繕費が急増していないか
  • 決算前に大きな修繕費が計上されていないか
  • 20万円以上、60万円以上の修繕費がないか
  • 請求書が「工事一式」になっていないか
  • 固定資産台帳に対応する資産があるか
  • 工事内容が用途変更や機能追加を含んでいないか
  • 同種の工事が毎年どのように処理されているか
  • 業者への反面確認で工事内容が一致するか
  • 社内稟議や写真と、請求書の内容が整合しているか

エレベーター更新工事の例では、巻上機・ロープ・制御盤が主要な駆動装置であり、その交換によりエレベーター自体の耐久性が増すと考えられること、さらにリモート監視モニターの設置は新機能の付加であることから、資本的支出に該当すると整理されています。

ここで重要なのは、交換前と同種の部品であっても、資産全体の耐久性を増す主要部品の交換であれば、単なる修繕費とは限らない、という点です。

「同じものに替えただけ」という説明で足りるかどうかは、部品の性質、資産全体に占める重要性、更新による効果、工事範囲、費用規模を見て判断されます。

修繕費として処理する前に確認すべき実務チェック

修繕費として処理する前には、少なくとも次の順番で確認してみてください。

1. 何を直したのか

対象資産を特定します。建物なのか、建物附属設備なのか、機械装置なのか、車両なのか、ソフトウェアなのか。固定資産台帳と対応させます。

2. なぜ工事が必要だったのか

故障、毀損、劣化、定期保守、法令対応、用途変更、機能追加など、支出の原因を整理します。

3. 工事前後で何が変わったのか

性能、機能、用途、耐久性、面積、構造、材料、処理能力、利用範囲を比較します。

4. 原状回復部分と改良部分を分けられるか

一つの工事に両方が混在している場合は、見積書や工事内訳を使って合理的に区分します。

5. 形式基準を使えるか

20万円未満、3年以内周期、60万円未満、取得価額10%以下、30%・10%特例のどれに該当するかを確認します。ただし、形式基準が使えるのは、その前提を満たす場合に限られます。

6. 継続性はあるか

同じ種類の支出について、毎期の処理がぶれていないかを確認します。

7. 資料で説明できるか

工事前後の写真、見積書、仕様書、稟議書、請求書、完了報告書、固定資産台帳、減価償却明細を保存します。

この流れで確認していくと、「全額経費にしたい」という発想から、「どの部分を、どの根拠で損金にするのか」という判断へと変わっていきます。

修繕費と資本的支出で残すべき資料

修繕費として処理する場合も、資本的支出として処理する場合も、資料の保存が重要です。

とくに次の資料は、税務調査で説明する際に有効です。

資料残す目的
工事前写真破損・劣化・毀損の状況を示す
工事後写真原状回復か、機能追加かを比較する
見積書工事項目ごとの内容と金額を示す
工事内訳書修繕部分と改良部分を区分する
仕様書・カタログ交換前後の性能差を確認する
稟議書・発注理由書事業目的、修理理由、意思決定過程を示す
契約書・注文書工事範囲と発注内容を確認する
請求書支払金額と取引先を確認する
完了報告書工事完了日、施工内容を確認する
保守記録・点検記録定期的な維持管理かどうかを示す
固定資産台帳対象資産と取得価額を確認する
減価償却明細資本的支出部分の償却処理を確認する
社内処理メモ判断根拠を後から説明できるようにする

「税理士に聞いたから大丈夫」というだけでは、税務調査での説明資料にはなりません。専門家との検討内容についても、どの資料を前提に、どの工事内容をどう判断したのかが分かる形で残しておくことが望ましいといえます。

修繕費と資本的支出の判断で避けるべき処理

修繕費を使った節税で避けるべき処理としては、次のようなものが挙げられます。

  • 請求書の名称だけを「修繕費」にしてもらう
  • 本当は改装工事なのに「修理工事一式」と記載してもらう
  • 一つの工事を複数の請求書に分けて、20万円未満に見せる
  • 用途変更や機能追加を含むのに、全額を修繕費にする
  • 工事前後の写真や仕様書を残さない
  • 固定資産台帳と対象資産を対応させない
  • 過年度と異なる基準で処理する
  • 決算直前に、工事完了の実態がないのに費用処理する
  • 資本的支出部分を区分できるのに、全額を修繕費にする
  • 業者への説明と社内資料の内容が食い違っている

こうした処理は、単なる判断ミスにとどまりません。資料の改変や事実と異なる説明を伴う場合には、重加算税のリスクにもつながります。

大切なのは、修繕費として処理できるものを過度に怖がることではありません。修繕費にできないものを、形式だけ整えて修繕費に見せる処理との間に、きちんと線を引くことです。

修繕費と資本的支出の判断は、決算前ではなく発注前に行う

この論点は、決算のときに初めて検討し始めると、間に合わないことがあります。

工事が終わった後になって、請求書は「工事一式」、写真もなく、仕様書もなく、社内稟議もなく、業者も詳細な内訳を出せない。そんな状態では、税務上の判断が難しくなってしまいます。

本来は、発注前に次のことを確認しておくべきです。

  • 今回の工事目的は、原状回復か、改良か
  • 対象資産は何か
  • 工事内容は、修繕部分と改良部分に分けられるか
  • 見積書で内訳を分けられるか
  • 工事前の写真を残すか
  • 工事後の性能や用途は変わるか
  • 資本的支出になる部分がある場合、減価償却への影響はどうなるか
  • 当期利益、税額、資金繰り、金融機関対応への影響はどうなるか

修繕費と資本的支出は、処理の問題であると同時に、工事発注・資料保存・資金計画の問題でもあります。

「決算のときに税務処理を決める」のではなく、「工事を発注する段階で、税務上の説明可能性まで設計しておく」。この姿勢が、後からでも守れる処理につながっていきます。

主な出典

出典:国税庁|第8節 資本的支出と修繕費
出典:国税庁|No.5402 修繕費とならないものの判定
出典:国税庁|資本的支出と修繕費等

修繕費・資本的支出の判断に不安がある方へ

修理費や改装費を全額経費にできるかどうかは、金額だけでも、請求書の名称だけでも、勘定科目だけでも判断できません。

工事の目的、対象資産、工事前後の状態、見積書の内訳、使用材料、機能追加の有無、取得価額との関係、過年度処理との継続性まで、ひととおり整理する必要があります。

とくに、次のような場合は、実行前または決算前に確認しておくことをおすすめします。

  • 数十万円から数百万円以上の修理・改装工事を予定している
  • 決算前に大きな修繕費を計上したい
  • 請求書が「工事一式」になっている
  • 修繕部分と改良部分が混在している
  • 設備更新、内装変更、機械移設、システム改修を行った
  • 固定資産台帳との対応が不明確である
  • 税務調査で説明できる資料が十分か不安がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、修繕費と資本的支出の区分について、工事内容、資料、税務処理、資金繰り、税務調査対応まで含めて整理いたします。

「全額経費にできるか」だけではなく、「その処理を後から説明できるか」「資料で守れるか」「将来の決算や金融機関対応に無理がないか」まで確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点誤りやすい判断実務上の確認ポイント
基本判断修理費という名称なら修繕費にできる通常の維持管理・原状回復か、価値増加・耐用年数の延長かを見る
資本的支出改装費でも少額なら全額経費にできる用途変更、機能追加、高性能化、耐久性向上がないか確認する
20万円基準請求書を分ければ20万円未満にできる一の計画・同一資産に対する支出全体で判定する
3年以内周期定期的と言えば修繕費になる過去の実績、保守契約、点検記録などで周期性を説明する
60万円基準60万円未満なら無条件に修繕費資本的支出か修繕費か明らかでない場合の形式基準である
10%基準取得価額の10%以下なら自由に費用化できる前期末取得価額、資本的支出を含む取得価額、対象資産を確認する
30%・10%特例年度ごとに都合よく選べる継続適用が前提。処理方針と計算資料を残す
工事一式請求書があれば十分見積内訳、工事内容、写真、仕様書、完了報告書を保存する
混在工事全体を修繕費か資本的支出のどちらかにする原状回復部分、改良部分、撤去部分、新設部分に分けて判断する
機械移設移設費は常に修繕費通常移設か、生産効率向上・集中生産のための移設かを確認する
ソフトウェア改修保守費名目なら修繕費障害除去・現状維持か、新機能追加・機能向上かを確認する
税務調査対応勘定科目で説明できる工事の目的、前後比較、資産単位、金額区分を資料で説明する

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