自社株の承継を検討するとき、多くの会社では「先代経営者から後継者へ株式を移す」ことが議論の中心になります。
ただ、実際の非上場会社では、先代経営者だけが株式を持っているとは限りません。たとえば、次のようなケースは決して珍しくありません。
- 創業時に親族が出資している
- 配偶者や兄弟姉妹が一部の株式を持っている
- 過去の経緯から、役員や従業員に株式を持たせている
- 従業員持株会、取引先、古くからの協力者に株式が残っている
- 先代経営者の相続を経て、株式が複数の相続人に分散している
- 株主名簿には株主の名前があるが、実質的な所有者がはっきりしない
このような会社では、後継者が先代経営者から株式を受け継いだだけでは、経営権が安定しないことがあります。たとえ後継者が代表者になっても、議決権が分散したままであれば、役員選任や定款変更、組織再編、自己株式の取得、将来のM&Aや廃業の判断などに支障が出かねません。
法人版事業承継税制の特例措置では、先代経営者以外の株主から後継者への株式承継も、一定の範囲で制度の対象になり得ます。従来、対象は先代経営者一人から後継者一人への贈与・相続に限られていました。これが特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者最大3人への贈与・相続まで広がっています。
もっとも、「先代経営者以外の株主からも承継できる」という言葉だけで判断するのは禁物です。
この論点は、単なる株式の集約ではありません。第二種特例贈与・第二種特例相続、後継者要件、議決権要件、贈与者ごとの株式数要件、移転の時期、税務申告、担保提供、そして承継後の管理まで、いくつもの実務論点が連なる難所です。
本記事では、先代経営者以外の株主から後継者へ株式を移す場合に、事業承継税制上どこを確認すべきかを整理していきます。なお、少数株主からの強制取得手続、株式併合、全部取得条項付種類株式、株式等売渡請求といった手続の詳細については、本記事では触れません。
「先代経営者以外の株主からの承継」は、第二種の承継として整理する
法人版事業承継税制の特例措置では、先代経営者から後継者への基幹的な承継と、先代経営者以外の株主から後継者への随伴的な承継を、分けて考える必要があります。
実務上、贈与の場合には、先代経営者から後継者への贈与を「第一種特例贈与」、先代経営者以外の株主等から後継者への贈与を「第二種特例贈与」と整理します。
ここで押さえておきたいのは、第二種特例贈与は、先代経営者からの承継と並べて自由に使える制度ではない、という点です。
第二種特例贈与の認定を受けるには、その前提として、対象会社がすでに第一種特例贈与または相続の認定を受けていること、そして第二種特例贈与を受ける時点で、その会社の代表者が株式について第一種特例贈与または相続を受けていることが、対象会社の要件とされています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
つまり、先代経営者以外の株主からの承継は、原則として「先代経営者から後継者への承継が先に成立していること」を前提に検討することになります。
たとえば、父が先代経営者、母が株主、長男が後継者である会社を考えてみます。この場合は、まず父から長男へ第一種特例贈与または相続による承継を行い、そのうえで母から長男へ第二種特例贈与または相続を検討する、という順序が基本になります。
この順序を取り違えると、制度の対象になると思っていた株式の移転が、第二種特例贈与として整理できなくなるおそれがあります。
先代経営者以外の株主には、代表経験や同族筆頭要件は求められない
先代経営者以外の株主からの承継では、その贈与者について、先代経営者と同じ要件が求められるわけではありません。
申請マニュアルでは、先代経営者以外の株主等からの贈与について、次の要件は不要と整理されています。
- 過去に代表権を持っていた者であること
- 同族で議決権の過半数を有していたこと
- 同族内で最も多くの議決権数を有していたこと
- 特例承継計画に記載された特例代表者であること
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
この点は、株式が配偶者、兄弟姉妹、親族、役員、従業員などに分散している会社にとって、見落とせないポイントです。
先代経営者以外の株主は、過去の代表者である必要も、同族内の筆頭株主である必要も、特例承継計画上の特例代表者である必要もありません。
ただし、これは「誰からでも無条件に制度を適用できる」という意味ではありません。第二種特例贈与には、贈与者側にもまた別の要件があります。
先代経営者以外の株主側で確認すべき要件
第二種特例贈与における贈与者、つまり先代経営者以外の株主等については、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
まず、先代経営者からの贈与または相続以後に贈与を行う者であることが必要です。加えて、その贈与にかかる贈与税の申告期限が、先代経営者からの贈与または相続にかかる認定の有効期限までに到来する場合に限られます。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
さらに、その贈与者には、贈与時点で会社の代表者でないこと、すでに特例措置の適用にかかる贈与をしていないこと、一定数以上の株式等を贈与することも求められます。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
実務では、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。
ひとつ目は、その株主が本当に「先代経営者以外の株主等」に当たるかどうかです。先代経営者本人なのか、過去に代表者だった別の親族なのか、それとも現在の代表者なのか。立場によって、要件の整理は変わってきます。
ふたつ目は、その株主が個人株主なのか、法人株主なのかです。後ほど触れるとおり、法人から後継者個人への贈与は、贈与税ではなく所得税等の問題になり得るため、事業承継税制の贈与税猶予の枠組みと合わないことがあります。
みっつ目は、その株主が過去に特例措置の適用にかかる贈与をしていないかどうかです。先代経営者以外の株主が、都合のよいタイミングで何度かに分けて少しずつ特例対象贈与を行う、といった設計はできない可能性があります。
よっつ目は、贈与する株式数が要件を満たすかどうかです。少額の株式を一部だけ後継者へ移せばよい、という制度ではありません。
後継者側の要件を満たさなければ、先代以外からの承継は機能しない
先代経営者以外の株主からの承継では、贈与者側だけでなく、後継者側の要件確認がきわめて重要になります。
第二種特例贈与における後継者要件としては、贈与時に後継者とその親族などで総議決権数の過半数を保有していること、後継者が1人の場合には同族関係者の中で最も多くの議決権数を有していること、後継者が複数の場合には各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ各後継者が同族関係者のうちいずれの者の議決権数も下回らないことが示されています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
あわせて、後継者は、贈与時に18歳以上であり、代表者であること、贈与の直前において役員であること、贈与により取得した株式等を継続して保有していること、特例承継計画に記載された後継者であることなども確認が必要です。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
ここでの難しさは、後継者要件が「後継者本人だけ」を見れば足りるものではない、という点にあります。
議決権割合は、後継者本人だけでなく、同族関係者、他の後継者、贈与者、種類株式、自己株式、名義株、相互保有株式などの影響を受けます。
特に後継者が複数いる場合は注意が必要です。最大3人まで後継者を設定できることは、制度上の柔軟性を高める一方で、経営権の安定性を損なう可能性もあります。兄弟姉妹や親族外の役員を複数の後継者にする場合には、税制上の10%要件や議決権順位だけでなく、将来の意思決定、代表者の関係、役員構成、金融機関への説明、さらに次世代への承継までを見据えて検討すべきです。
「税制上は複数後継者にできる」ことと、「経営上も複数後継者にすべき」ことは、同じではありません。
贈与する株式数は、贈与者ごとに判定する
先代経営者以外の株主からの承継でよくある誤解が、「最終的に後継者が多くの株式を持てばよい」というものです。
第二種特例贈与では、贈与者ごとに、一定数以上の株式等を贈与する必要があります。
後継者が1人の場合、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせて総議決権数の3分の2以上であるときは、贈与後の後継者の議決権数が3分の2以上となるように贈与しなければなりません。一方、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせても総議決権数の3分の2未満である場合には、贈与者が保有する議決権株式等のすべてを贈与する必要があります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
後継者が2人または3人の場合には、贈与後にそれぞれの後継者の議決権数が10%以上であり、かつ、最後の贈与の後に後継者が贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与する必要があります。贈与者と後継者が同率であることは認められません。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
このため、先代経営者以外の株主から一部だけを贈与しても、制度の要件を満たさないことがあります。
たとえば、後継者がすでに60%の議決権を持ち、母が20%の議決権を持っている場合を考えてみます。母から後継者へ5%だけ贈与すれば後継者は65%になりますが、3分の2には届きません。このケースでは、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせると3分の2以上ですから、贈与後に後継者が3分の2以上となるように贈与する設計が必要になります。
一方、後継者と贈与者を合わせても3分の2未満の場合には、贈与者が保有する議決権株式等のすべてを贈与しなければなりません。「少しだけ移して様子を見る」という設計は、制度に合わない可能性があります。
対象になるのは、基本的に議決権に制限のない株式である
事業承継税制では、どの株式を移しても同じというわけではありません。
法人版事業承継税制の特例措置について、対象株数は全株式とされていますが、その対象は議決権に制限のない株式等に限られます。
出典:国税庁|No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
特例措置における贈与税の納税猶予制度についても、後継者が贈与により取得した株式等のうち、議決権を行使することができない株式を除いた株式等にかかる贈与税の100%が猶予されると説明されています。
したがって、先代経営者以外の株主から承継する場合には、株式数だけでなく、議決権数で整理しなければなりません。
次のような株式・権利関係がある場合には、特に慎重な確認が必要です。
- 議決権制限株式
- 拒否権付株式、いわゆる黄金株
- 種類株式
- 自己株式
- 相互保有株式
- 単元未満株式
- 株券発行会社における株券の所在
- 名義株
- 信託された株式
- 従業員持株会が保有する株式
なかでも拒否権付株式については、後継者以外の者が保有していると、制度の適用上、問題となる場合があります。第二種特例贈与の認定では、特例措置の適用を受ける後継者以外の者が拒否権付株式を保有していないことが、対象会社の要件として示されています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
先代経営者以外の株主から承継する場合は、「その株式は何株か」よりも先に、「その株式にどの議決権があるか」を確認すべきです。
株式移転の時期は、第一種承継との関係で決まる
先代経営者以外の株主からの承継では、株式移転の時期を誤ると、制度の適用に影響します。
先代経営者以外の株主等からの贈与は、第一種特例贈与または第一種特例相続と同日であっても適用が可能です。ただし、先代経営者からの贈与・相続が先に行われている必要があります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
ここは、実務上の事故が起きやすいところです。
同じ日に複数の贈与契約を締結する場合でも、書類上、議事録上、そして認定申請上で、先代経営者からの第一種承継が先行していることを明確にしておく必要があります。
また、第二種特例贈与を行う場合には、都道府県知事への認定申請と、税務署への贈与税申告を、それぞれ別に管理しなければなりません。
具体的には、贈与認定申請基準日から贈与日の属する年の翌年1月15日までの間に、本社所在地の都道府県庁へ認定申請を行います。そのうえで、贈与日の属する年の翌年3月15日までに所轄税務署へ贈与税申告を行い、納税が猶予される贈与税額および利子税額に見合う担保を提供する必要があります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
制度の適用は、贈与契約だけで完結するものではありません。都道府県の認定、税務申告、担保提供、そして承継後の報告・届出まで含めて、はじめて実務として成立します。
特例承継計画の段階で、先代以外の株主も洗い出しておく
特例措置を使う場合には、特例承継計画の提出期限と承継実行期限を確認する必要があります。
法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日までとされています。そして、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに、贈与・相続により会社の株式を取得した経営者が対象になります。
また、特例承継計画には、後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営の見通し、承継後5年間の事業計画などを記載し、認定経営革新等支援機関による指導・助言を受ける必要があります。
先代経営者以外の株主からの承継を検討している場合には、特例承継計画の作成段階で、次の点を整理しておくべきです。
- 現在の株主名簿上の株主
- 実質的な株主
- 各株主の保有株式数と議決権数
- 先代経営者に該当する者
- 先代経営者以外の株主に該当する者
- 個人株主、法人株主、持株会、信託の区分
- 後継者1人に集中させるのか、複数後継者にするのか
- 第二種特例贈与または第二種特例相続を使う可能性
- 贈与ではなく、売買・自己株式取得で整理すべき株式
- 後継者以外の相続人への説明方針
- 金融機関に説明できる承継後の株主構成
特例承継計画は、単なる提出書類ではありません。
特に先代経営者以外の株主がいる会社では、後継者へ経営権を集中させるための設計図として機能させる必要があります。
法人株主から後継者への移転は、贈与税猶予の枠組みと合わないことがある
先代経営者以外の株主といっても、その株主が個人とは限りません。
関連会社、持株会社、取引先の法人、従業員持株会、一般社団法人などが株式を保有しているケースもあります。こうした場合、後継者個人への移転を「第二種特例贈与」として扱えるかどうかは、慎重に検討する必要があります。
後継者が法人からの贈与により株式等を取得した場合、後継者には所得税が課され、贈与税は課されません。そのため、要件を満たさないことになると説明されています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
したがって、法人株主から後継者へ株式を移す場合には、事業承継税制の贈与税猶予ではなく、別の税務整理が必要になることがあります。
たとえば、法人から個人への低額譲渡、時価譲渡、発行会社による自己株式の取得、グループ内再編、持株会社の整理などを検討する場合には、それぞれ所得税、法人税、みなし配当、受贈益、低額譲渡、時価評価、財源規制といった論点が出てきます。
「先代経営者以外の株主」と一括りにせず、個人株主、法人株主、持株会、信託、名義株を分けて整理することが大切です。
売買で取得した株式は、贈与税猶予の対象にはならない
第二種特例贈与は、あくまで贈与により株式を取得する制度です。
株式等については贈与により取得していることが要件とされ、売買で取得した場合には要件を満たさないと説明されています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第2章 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者
これは実務上、重要な意味を持ちます。
先代経営者以外の株主が、無償で株式を移すことに応じてくれるとは限りません。むしろ、親族関係が薄い株主、元役員、従業員、外部株主、相続人である株主などは、対価を求めることがあります。
その場合は、売買で株式を移す方法も検討の対象になります。ただし、それは事業承継税制の第二種特例贈与とは、別の整理になります。
また、親族間や同族関係者間で、時価より低い価額により売買した場合には、みなし贈与や譲渡所得の問題が生じる可能性があります。法人が関係する場合には、法人税、所得税、受贈益、寄附金、役員給与、みなし配当などに波及することもあります。
そのため、先代経営者以外の株主からの承継では、最初に「贈与で移す株式」と「売買で移す株式」を分けて考える必要があります。
譲渡制限株式では、会社法上の手続も必要になる
非上場会社の多くは、譲渡制限株式を発行しています。
会社法上、株主は原則としてその有する株式を譲渡することができますが、譲渡制限株式については、定款に基づく会社の承認手続が問題になります。また、株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができないとされています。
この点は、売買だけでなく、贈与による株式移転であっても、実務上の確認が欠かせません。
税務上の認定要件を満たしていても、会社法上の譲渡承認手続、株主名簿の書換、株券発行会社であれば株券の確認などが不十分であれば、株式移転の有効性や対抗関係が問題になりかねません。
特に、先代経営者以外の株主から後継者へ株式を移す場合には、贈与者が複数になることがあります。各贈与者について、贈与契約、譲渡承認、株主名簿の書換、議事録、税務申告、認定申請の整合性を取っておく必要があります。
実際、次のような食い違いは起こり得ます。
- 税務申告書では後継者が取得したことになっているが、会社の株主名簿が更新されていない
- 株主名簿は更新されているが、譲渡承認の手続が残っている
- 贈与契約書の日付と、認定申請上の贈与日がずれている
- 株券発行会社であるにもかかわらず、株券の交付・所在を確認していない
こうした状態は、後日の税務調査、株主間の紛争、金融機関への説明、M&A検討時のデューデリジェンスの場面で、問題として表面化しやすくなります。
名義株を放置したまま、先代以外からの承継を進めてはいけない
株式が分散している会社では、名義株の問題が潜んでいることがあります。
名義株とは、一般に、他人名義で株式の引受けや払込みが行われ、株主名簿上の名義人と、実質的な保有者とが一致しない株式をいいます。
名義株がある状態のまま、先代経営者以外の株主からの承継を進めると、次のような問題が生じます。
- そもそも、誰が贈与者なのかを確定できない
- 後継者の議決権割合を正しく判定できない
- 先代経営者の同族過半・筆頭株主要件に影響する
- 第二種特例贈与の贈与者要件を誤る
- 贈与契約書の当事者を誤る
- 株主名簿の書換が、実質と異なってしまう
- 相続発生後に、株式の帰属をめぐって争いになる
- 税務調査で、制度適用の前提が崩れる
特に、事業承継税制は議決権割合を多くの場面で使います。株主名簿上の数字だけで要件判定を行い、実質株主を確認していないと、後から名義株が認定された際に、制度適用の入口要件が崩れる可能性があります。
先代経営者以外の株主から承継する場合は、株主名簿、設立時の出資資料、増資資料、株券の有無、配当の支払実績、議決権の行使実績、同族会社等の判定資料、相続関係資料を確認し、実質株主を整理しておくことが重要です。
少数株主対策と第二種特例贈与は同じではない
先代経営者以外の株主から後継者へ株式を集めたい場合、第二種特例贈与だけで問題が解決するとは限りません。
第二種特例贈与は、あくまで一定の要件を満たす贈与・相続による承継について、贈与税・相続税の納税猶予を認める制度です。
一方、少数株主対策は、株式の分散をどう整理し、会社の意思決定をどう安定させるかという、会社法・経営実務の問題です。
先代経営者以外の株主が贈与に応じてくれるのであれば、第二種特例贈与を検討する余地があります。しかし、贈与に応じない株主、対価を求める株主、所在が不明な株主、株式の帰属を争う株主がいる場合には、売買、自己株式の取得、相続人等に対する売渡請求、株主間契約、種類株式、信託、スクイーズアウトなど、別の論点になっていきます。
ここで気をつけたいのは、「事業承継税制を使える株式」と「経営権の安定のために整理すべき株式」とが、完全には一致しないことです。
後継者の経営権を安定させるには、制度の対象外となる株式も含めて、最終的な株主構成を設計する必要があります。
先代以外の株主からの承継で作るべき整理表
先代経営者以外の株主からの承継を検討する場合は、まず株主ごとの整理表を作成することをおすすめします。
最低限、次の項目を整理しておきます。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 株主名 | 株主名簿上の氏名・名称 |
| 実質株主 | 名義株の可能性、出資資金の拠出者、配当の受領者 |
| 株主区分 | 先代経営者、先代経営者以外の個人株主、法人株主、持株会、信託等 |
| 保有株式数 | 普通株式、種類株式、議決権制限株式の内訳 |
| 議決権数 | 自己株式、相互保有株式、議決権制限株式を考慮した実質議決権 |
| 移転方法 | 贈与、相続、売買、自己株式取得、その他 |
| 税制区分 | 第一種特例贈与、第二種特例贈与、第一種特例相続、第二種特例相続、制度対象外 |
| 贈与者要件 | 代表者でないか、過去に特例措置の贈与をしていないか |
| 後継者要件 | 代表者、役員、18歳以上、特例承継計画への記載、議決権要件 |
| 株式数要件 | 後継者1人・複数に応じた必要株式数 |
| 手続 | 贈与契約、譲渡承認、株主名簿書換、都道府県認定、税務申告、担保提供 |
| 関係者説明 | 他の相続人、株主、金融機関、役員への説明資料 |
この表を作ると、制度を使える株式、制度を使わずに整理すべき株式、まだ事実確認が必要な株式が、はっきりと分かれてきます。
先代経営者以外の株主からの承継では、いきなり贈与契約や申請書に進むのではなく、株主構成の棚卸しから始めるべきです。
関係者間の合意形成を軽視しない
先代経営者以外の株主から後継者へ株式を集めると、後継者の経営権は強くなります。
しかし、それは同時に、他の親族や株主から見れば、後継者への財産の集中が進むことを意味します。
たとえば、母や兄弟姉妹が保有する株式を後継者へ贈与する場合には、贈与者自身の相続、他の相続人の遺留分、特別受益、代償財産、生活資金、納税資金に影響することがあります。
また、親族外の役員や従業員が保有する株式を後継者へ集める場合には、会社への貢献、取得時の経緯、退職時の取扱い、買取価格、今後の関係性を整理しておく必要があります。
制度上の要件を満たしていても、関係者が納得していなければ、承継後に株主間のトラブルや親族間の紛争が生じることがあります。
先代経営者以外の株主からの承継では、「後継者に集中させる理由」を説明できることが大切です。
説明資料には、少なくとも次の内容を含めておくべきです。
- 現状の株主構成
- 承継後の株主構成
- 後継者に議決権を集中させる理由
- 会社経営上の必要性
- 他の株主・相続人への影響
- 納税猶予制度の仕組み
- 取消リスクと承継後の管理
- 贈与者側の相続・資金面への影響
- 代替案との比較
後から説明できない承継は、実務上のリスクを残します。
適用後も、株式を動かせば取消リスクにつながる
事業承継税制は、適用して終わりという制度ではありません。
特例認定の後は、都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を提出する必要があります。税務申告後5年以内は毎年、6年目以後は税務署にのみ、3年に一度の頻度で継続届出書を提出する流れになります。
また、贈与税の納税猶予制度については、認定後の報告期間中は代表者として経営を行うなどの要件を満たす必要があり、その後も後継者が対象株式等を継続して保有することなどが求められます。
先代経営者以外の株主から取得した株式も、納税猶予の対象となる以上、制度適用後の管理の対象になります。
承継の後に、後継者が株式を譲渡する、代表を退任する、議決権要件を失う、会社が資産管理会社化する、届出を怠る、組織再編を行う、廃業・売却を検討する、といった場面では、猶予税額の取消・一部取消・納付が問題になる可能性があります。
したがって、先代経営者以外の株主からの承継を行う場合には、「取得時点の節税効果」だけでなく、「取得した後に、その株式をどのように保有し続けるか」までを検討する必要があります。
先代経営者以外の株主からの承継で専門家へ相談すべき場面
次のような会社では、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 先代経営者以外に親族株主がいる
- 配偶者、兄弟姉妹、子、孫が株式を持っている
- 役員・従業員・元従業員が株式を持っている
- 法人株主や従業員持株会がある
- 名義株や所在不明株主の可能性がある
- 後継者が複数いる
- 後継者に議決権をどこまで集中させるべきか迷っている
- 先代経営者以外の株主から贈与を受けたい
- 売買と贈与のどちらで整理すべきか分からない
- 自己株式取得もあわせて検討したい
- 特例承継計画の提出後に株主構成が変わった
- 贈与契約、譲渡承認、認定申請、税務申告を一体で管理したい
- 制度適用後の継続届出・取消リスクまで把握したい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、先代経営者からの承継だけでなく、先代経営者以外の株主が保有する株式についても、株主構成、議決権割合、贈与者要件、後継者要件、第二種特例贈与・相続の可否、売買・自己株式取得との切り分け、承継後の管理までを整理します。
先代経営者以外の株主からの承継は、単に「制度の対象になるか」だけの問題ではありません。「誰から、どの順番で、どの株式を、どの方法で移すべきか」を判断していく領域です。
自社株が先代経営者以外にも分散している場合は、株主名簿、定款、登記簿、決算書、申告書、株式の移動履歴、贈与・譲渡の過去資料を整理したうえで、早い段階でご相談ください。後から説明できる株主構成と、承継後も維持できる制度設計を、一緒に確認していくことが大切です。
振り返り|先代経営者以外の株主から承継する場合の確認ポイント
| 論点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 制度上の位置づけ | 先代経営者以外の株主からの贈与は、第二種特例贈与として整理する |
| 第一種承継との関係 | 第二種特例贈与は、先代経営者からの第一種特例贈与または相続が先行していることが前提 |
| 贈与者の範囲 | 代表経験、同族過半、同族内筆頭、特例承継計画上の特例代表者であることは求められない |
| 贈与者側の要件 | 会社の代表者でないこと、すでに特例措置の贈与をしていないこと、一定数以上の株式を贈与すること |
| 後継者要件 | 代表者、役員、18歳以上、同族過半、筆頭株主要件または複数後継者要件を確認する |
| 議決権 | 対象は議決権に制限のない株式等が中心であり、種類株式・拒否権付株式に注意する |
| 株式数要件 | 後継者が1人か複数かで、必要な贈与株式数が異なる |
| 移転時期 | 第一種承継が先行し、認定有効期限や贈与税申告期限との関係を確認する |
| 法人株主 | 法人から後継者への贈与は、贈与税猶予の枠組みと合わない場合がある |
| 売買との違い | 売買で取得した株式は、第二種特例贈与の対象にならない |
| 会社法手続 | 譲渡制限、譲渡承認、株主名簿書換、株券の有無を確認する |
| 名義株 | 実質株主を確認しないまま要件判定をすると、後から前提が崩れる可能性がある |
| 少数株主対策 | 第二種特例贈与は少数株主対策そのものではなく、売買・自己株式取得等との切り分けが必要 |
| 合意形成 | 贈与者、後継者、他の相続人、金融機関に説明できる資料を整える |
| 承継後管理 | 年次報告、継続届出、株式保有、代表者要件、取消事由を継続して管理する |