先代経営者・贈与者・被相続人の要件|法人版事業承継税制で「誰から株式を移すか」を誤らないために

法人版事業承継税制を検討するとき、まず目が向きやすいのは「後継者が要件を満たしているか」「自社が対象会社に該当するか」といった点でしょう。ところが、実務の出発点になるのは、むしろ「誰から株式を移すのか」というところです。

同じ会社の株式であっても、先代経営者から移すのか、それ以外の株主から移すのか。あるいは贈与で移すのか、相続・遺贈で移るのか。その違いによって、認定の類型も、確認すべき要件も、実行の順序も変わってきます。

法人版事業承継税制は、後継者が、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合に、その株式等にかかる贈与税・相続税の納税を一定の要件のもとで猶予し、後継者の死亡等によって免除する制度です。制度の中心は一見すると後継者にあるように映りますが、実際には、承継元である先代経営者・贈与者・被相続人の要件を満たしていなければ、そもそも入口で適用ができません。

出典:国税庁|法人版事業承継税制

本記事では、この税制のうち、承継元に関する要件を整理します。後継者要件、対象株式数・議決権要件、資産管理会社の判定、認定申請の手続きについては別の記事に譲り、ここでは「誰から株式を移すと制度の対象になるのか」という一点に絞って見ていきます。

目次

承継元は4つの類型で整理する

法人版事業承継税制の特例措置では、先代経営者1人から後継者1人への承継に限られません。親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者最大3人への贈与・相続が対象になります。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

とはいえ、これは「誰からでも、いつでも、好きな順番で株式を移してよい」という意味ではありません。実務では、次の4つの類型に分けて考える必要があります。

類型承継元承継方法実務上の呼び方
1先代経営者贈与第一種特例贈与
2先代経営者相続・遺贈第一種特例相続
3先代経営者以外の株主等贈与第二種特例贈与
4先代経営者以外の株主等相続・遺贈第二種特例相続

最初に確認したいのは、承継元が「先代経営者」に当たるのか、それとも「先代経営者以外の株主等」として扱われるのか、という区分です。

先代経営者に当たる方からの承継は、制度上の基幹となる承継です。これに対して、先代経営者以外の株主等からの承継は、先代経営者から後継者への承継が行われたあとに、分散している株式を後継者へ集約していくための承継だと捉えると、全体像が見えやすくなります。

先代経営者は「現在の代表者」ではなく「代表者であった者」

先代経営者の要件で、まず押さえておきたいのが「会社の代表者であったこと」です。

贈与の場合、第一種特例贈与の認定要件では、先代経営者について、会社の代表者であったこと、特例承継計画に記載された先代経営者であること、贈与時に代表者を退任していること、一定数以上の株式等を贈与することなどが求められます。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

ここで注意したいのは、求められているのが「贈与時点で代表者であること」ではない、という点です。むしろ贈与の場合は、贈与時に代表者を退任している必要があります。

つまり、先代が株式を持ったまま代表者にとどまり、後継者には株式だけを移す、という設計は、制度の要件と噛み合いません。後継者が代表者として経営を担うことを前提に、先代は代表権を手放しておく必要があるわけです。

これは税務上の形式要件であると同時に、経営判断としても小さくない意味を持ちます。株式は後継者に移したものの、実質的な意思決定はなお先代が握っている──そうした状態は、後継者の経営責任や、金融機関への説明、従業員・取引先へ向けた承継のメッセージと、しばしば矛盾します。

代表退任は、単なる登記上の変更ではありません。後継者が会社を引き受ける意思と体制が、本当に整っているのかを確かめる局面でもあります。

「代表権」は制限のない代表権として確認する

事業承継税制でいう代表権は、実質的に会社を代表する権限を前提に考える必要があります。

国税庁の質疑応答でも、代表権については「制限が加えられた代表権を除く」と整理されています。納税猶予の適用後の後継者についても、制限のない代表権を有しなくなった場合には、猶予期限が到来することが示されています。

出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例関係

先代経営者の側でも、代表者であったかどうかを確かめるには、登記事項証明書、過去の役員変更登記、株主総会議事録、取締役会議事録、定款、そして代表権の制限の有無まで、あわせて見ていく必要があります。

とくに、複数代表、共同代表、支店・部門に限定された代表といった特殊な権限設計がある場合には、形式的な肩書きだけで判断しないことが肝心です。

先代経営者には同族過半数要件がある

先代経営者の要件として、次に重要になるのが同族過半数要件です。

第一種特例贈与では、先代経営者が代表者であった期間内のいずれかの時点、および贈与の直前において、先代経営者とその親族などで総議決権数の過半数を保有していることが求められます。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

ここで見るのは、株式数ではなく議決権です。

議決権制限株式、完全無議決権株式、自己株式、種類株式、名義株、相互保有株式などがある会社では、発行済株式数を単純に数えただけでは判定できません。

また、この要件は、先代経営者ひとりで過半数を保有していることを求めるものではありません。先代経営者と、親族などの関係者を合わせて過半数に達しているかどうかを見ます。

ですから、親族のあいだで株式が分散している会社では、株主名簿と親族関係を、同時に突き合わせて確認しておく必要があります。

先代経営者には同族内筆頭株主要件がある

先代経営者には、同族関係者のなかで最も多くの議決権を有する者であったことも求められます。

この判定では、特例の適用を受ける後継者を除いて考えます。複数後継者の場合には、第一種特例贈与では「一人目の贈与の直前」を基準とすることが示されています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

この要件は、実務でも誤解が生まれやすいところです。

これは、先代経営者が会社全体で最大株主でなければならない、という意味ではありません。仮に非同族の第三者株主がより多くの株式を持っていたとしても、先代経営者とその同族関係者で過半数を保有し、その同族関係者のなかで先代経営者が最も多くの議決権を有していれば、要件を満たす方向で検討できます。

一方で、親族の別の株主が先代経営者より多くの議決権を持っている場合には、先代経営者要件を満たさない可能性があります。このようなときは、どの株主を先代経営者と位置づけるのか、誰から先に株式を移すのか、事前の株式整理が必要かどうかを、あらためて検討しなければなりません。

贈与の場合、先代経営者は代表者を退任している必要がある

贈与による事業承継税制では、先代経営者が贈与時に代表者を退任していることが必要です。

この要件は、承継を実行する時期を左右します。

代表権を退くということは、後継者が代表者として外部に責任を負う立場になるということです。税務上の要件を満たすために、形ばかり代表者を交代させるだけでは不十分です。

実務上は、次のような点を確認しておく必要があります。

  • 後継者が代表者に就任しているか
  • 先代の代表退任登記が済んでいるか
  • 金融機関、主要取引先、許認可、契約上の代表者変更に支障がないか
  • 代表者変更後の社内権限規程、稟議、印章管理、金融機関届出が整っているか
  • 先代が代表権のない役員として関与する場合、その役割が明確になっているか

事業承継税制は、株式の承継だけでなく、経営者の交代を前提とする制度です。代表退任要件は、そのことを端的に物語る要件だといえます。

贈与では「一定数以上の株式等」を移す必要がある

先代経営者から後継者へ贈与する場合、一部の株式を贈与すればそれで足りる、というわけではありません。一定数以上の株式等を贈与する必要があります。

第一種特例贈与では、後継者が1人の場合、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせて総議決権数の3分の2以上であるときは、贈与後の後継者の議決権数が3分の2以上となるように贈与します。これに対して、合わせても3分の2未満であるときは、先代経営者が保有する議決権株式等のすべてを贈与する必要があります。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

後継者が2人または3人の場合には、贈与後にそれぞれの後継者の議決権数が10%以上であり、かつ最後の贈与後に後継者が贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与する必要があります。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

この要件は、税額だけでなく、支配権の設計に直結します。

「まずは少しだけ贈与して様子を見る」といった進め方では、制度の要件を満たさないことがあります。逆に、要件を満たすために大きく株式を移せば、先代の関与、親族間の公平感、後継者の責任、将来の売却・再編の可能性に影響が及びます。

そのため、贈与する株式数は、税制要件、議決権による支配、株価、相続財産の全体像、親族の合意といった要素を、同時に見渡しながら決めていく必要があります。

相続の場合、先代経営者は被相続人として要件を満たす必要がある

相続・遺贈による承継では、先代経営者が被相続人として要件を満たしているかを確認します。

第一種特例相続では、先代経営者が代表者であった期間内のいずれかの時点、および相続開始の直前において、先代経営者とその親族などで総議決権数の過半数を保有し、かつ、これらの者のなかで最も多くの議決権を有する者であったことが求められます。あわせて、会社の代表者であったこと、特例承継計画に記載された先代経営者であること、すでに特例措置の適用にかかる贈与をしていないことも要件として示されています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第2節 第一種特例相続認定中小企業者

相続の場合に難しいのは、その発生時期を自分でコントロールできないことです。

贈与であれば、代表退任、後継者の就任、株式数、認定申請のタイミングを、あらかじめ設計できます。ところが相続では、相続開始時点の株主構成、遺言の有無、遺産分割の進み具合、相続人どうしの関係によって、制度を適用できるかどうかが左右されてしまいます。

とくに重要なのは、認定申請の時までに、適用を受けようとする株式等について遺産分割が済んでいる必要がある、という点です。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第2節 第一種特例相続認定中小企業者

後継者に株式を集中させる設計が必要な会社では、遺言、遺留分、代償資金、相続人間の説明資料を前もって整えておくことが、税制適用の前提になります。

相続・遺贈には死因贈与も含まれる

特例措置では、相続または遺贈により取得した株式等が対象となります。そして、相続税の納税猶予制度の説明においては、遺贈には死因贈与が含まれるとされています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

もっとも、死因贈与を使えば、遺言や遺産分割をめぐる問題を簡単に避けられるわけではありません。

死因贈与契約の有効性、執行の可能性、撤回の可能性、遺留分、ほかの相続人との関係、そして認定申請時の添付書類との整合性まで、ひととおり確認しておく必要があります。

相続による承継を制度適用の前提に据える場合には、税務だけでなく、相続法務と会社法の確認が欠かせません。

先代経営者以外の株主からの承継は「第二種」として整理する

特例措置では、先代経営者以外の株主等から後継者への贈与・相続も、対象になり得ます。

これは、株式が先代経営者1人に集中していない会社にとって、重要な意味を持ちます。中小企業では、配偶者、兄弟姉妹、親族、役員、従業員持株会、過去の共同創業者などが株式を保有しているケースが少なくありません。

こうした株式を後継者に集約していかなければ、後継者が代表者になったとしても、経営権が安定しないことがあります。

ただし、先代経営者以外の株主からの贈与・相続は、先代経営者からの承継と同じ列に並べて扱うのではなく、第二種特例贈与・第二種特例相続として、その順序を管理していくことになります。

第二種特例贈与では、先代経営者からの承継が先に必要

第二種特例贈与では、先代経営者以外の株主等について、先代経営者からの贈与または相続のあとに贈与を行った者であること、会社の代表者でないこと、すでに特例措置の適用にかかる贈与をしていないこと、一定数以上の株式等を贈与することが、要件として示されています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者

この要件のなかで最も大切なのは、先代経営者からの贈与または相続が先にある、という点です。

たとえば、先代経営者以外の親族株主から先に後継者へ株式を贈与し、そのあとに先代経営者から株式を贈与する──こうした順序では、第二種特例贈与として整理できない可能性があります。

また、第二種特例贈与を行う株主は、贈与の時点で会社の代表者でないことが必要です。先代経営者以外の株主が現在の代表者である場合、そのままでは第二種特例贈与の承継元として要件を満たさないおそれがあります。

制度上、複数の株主からの承継が可能になったとはいえ、株式移転の順序と、役員・代表者の状態を整理しないまま実行してしまうと、認定要件を満たせない事態になりかねません。

第二種特例贈与でも一定数以上の株式等を移す必要がある

第二種特例贈与でも、贈与する株式数には要件があります。

後継者が1人の場合には、贈与者と後継者の保有議決権数を合わせて総議決権数の3分の2以上であるときは、贈与後の後継者の議決権数が3分の2以上となるように贈与します。3分の2未満であるときは、贈与者が保有する議決権株式等のすべてを贈与する必要があります。後継者が2人または3人の場合には、それぞれの後継者の議決権数が10%以上であり、最後の贈与後に後継者が贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与する必要があります。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第3節 第二種特例贈与認定中小企業者

この要件は、分散した株式を後継者へ整理していく場面で重要になります。

少数株主が保有する株式を、一部だけ移せばよいのか、それとも全部を移す必要があるのか。後継者の議決権割合がどう変わるのか。こうした点を、実行の前に試算しておく必要があります。

「税制の対象になる贈与」と「株主間で合意した贈与」とが、必ずしも一致するとは限りません。先に株主どうしで条件を決めてしまうのではなく、税制要件、会社法上の手続き、贈与税・所得税、株式評価を確認したうえで、実行の順序を組み立てるべきです。

第二種特例相続では、先代経営者以外の被相続人に代表者要件等はない

先代経営者以外の株主等からの相続・遺贈については、第二種特例相続として整理されます。

中小企業庁のマニュアルによれば、第二種特例相続における被相続人は、先代経営者からの贈与または相続のあとに相続が発生した者であることが要件とされています。そして、先代経営者からの相続との違いとして、その被相続人が代表権を持っていた者であること、同族で議決権の過半数を有していたこと、同族のなかで最も多くの議決権数を有していたこと、特例承継計画に記載された特例代表者であることは、いずれも要件とはされていません。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第4節 第二種特例相続認定中小企業者

これは、株式が複数の親族や関係者に分散している会社にとって、見逃せない点です。

先代経営者ではない株主が亡くなった場合でも、一定の要件を満たせば、その株式を後継者へ集約する承継の一部として、制度の対象にできる可能性があります。

ただし、第二種特例相続もまた、先代経営者からの贈与または相続が先に行われていることが前提です。中小企業庁のマニュアルでは、第一種特例贈与・第一種特例相続と第二種特例相続は同日でも適用可能としつつ、先代経営者からの贈与・相続が先に行われている必要があるとされています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第4節 第二種特例相続認定中小企業者

つまり、第二種特例相続は、分散した株式を整理するための有力な制度ではありますが、先代経営者からの基幹的な承継と切り離して、単独で使う制度ではないということです。

法人株主からの移転は、贈与税の納税猶予とは切り分ける

贈与税の納税猶予制度は、後継者が贈与により株式等を取得し、その贈与税について納税猶予を受ける制度です。

中小企業庁のマニュアルでは、後継者が法人からの贈与により株式等を取得した場合、後継者には所得税が課され、贈与税は課されないため、要件を満たさないと説明されています。

出典:中小企業庁|第2章 都道府県知事の認定について 第1節 第一種特例贈与認定中小企業者

グループ会社や資産管理会社、持株会社、親族法人が対象会社の株式を保有している場合には、この点に注意が必要です。

「株主である法人から後継者へ無償で移せばよい」という発想は、事業承継税制の贈与税納税猶予とは別の課税関係を生じさせる可能性があります。法人株主が関係する場合は、自己株式取得、株式譲渡、組織再編、配当、みなし配当、時価課税といった、別の論点として整理しておく必要があります。

承継元要件で見落としやすい実務論点

先代経営者・贈与者・被相続人の要件は、条文の上ではそれほど長い要件には見えません。しかし実務では、次のようなところで判断が難しくなります。

1. 代表者の履歴が整理されていない

長年経営してきた会社では、過去の代表者変更、役員改選、登記漏れ、議事録の不備などが残っていることがあります。

事業承継税制では、先代経営者が代表者であったことが重要な要件になります。代表者の履歴は、登記事項証明書だけでなく、株主総会議事録、取締役会議事録、定款、過去の登記申請資料まで遡って確認しておく必要があります。

2. 株主名簿と実質株主が一致していない

名義株や古い株主名簿が残っている場合、先代経営者の同族過半数要件や同族内筆頭株主要件に影響が及びます。

あとから名義株が問題になると、入口要件の判定そのものが崩れてしまいかねません。事業承継税制を検討する前に、誰が本当の株主なのか、議決権を実際に誰が持っているのかを確かめておくべきです。

3. 先代以外の株主から先に株式を移してしまう

特例措置では、先代経営者以外の株主からの承継も可能です。しかし、第二種特例贈与・第二種特例相続は、先代経営者からの贈与または相続が先に行われていることが前提になります。

株式の分散を解消しようとして、親族株主や役員株主から先に後継者へ株式を移してしまうと、事業承継税制の対象関係が崩れることがあります。

4. 贈与時に先代が代表者のままになっている

贈与による承継では、先代経営者が贈与時に代表者を退任している必要があります。

代表者の交代、登記、金融機関への対応、許認可の対応、取引先への説明を整えないまま、株式の贈与だけを進めてしまうと、税制要件と経営実態の両面で問題が生じます。

5. 相続で遺産分割がまとまらない

相続による承継では、認定申請の時までに、適用を受けようとする株式等について遺産分割が済んでいる必要があります。

後継者に株式を集中させる遺言がない場合、相続人間の協議がまとまらず、制度適用の期限に間に合わない可能性があります。

6. 複数後継者にする場合の議決権設計が曖昧

特例措置では最大3人の後継者が対象になりますが、複数の後継者を立てると、各後継者の議決権割合、10%要件、同族内での順位、将来の意思決定、後継者間の対立リスクといった問題が顔を出します。

税制上は可能だということと、経営上は安定するということは、別の話です。

相談前に整理しておくべき資料

先代経営者・贈与者・被相続人の要件を確認するには、次の資料をあらかじめ揃えておくと、検討がぐっと進めやすくなります。

資料確認する内容
株主名簿株主、保有株式数、議決権数、名義株の有無
定款種類株式、議決権制限、拒否権付株式、譲渡制限
登記事項証明書現在・過去の代表者、役員履歴、資本金、目的
株主総会議事録・取締役会議事録代表者選定、役員改選、株式発行・種類株式の履歴
親族関係資料同族関係者、相続人、後継者候補の関係
過去の株式移転資料贈与、売買、相続、自己株式取得、名義変更の履歴
特例承継計画先代経営者、後継者、承継予定時期の記載内容
遺言書・遺産分割協議書案相続承継時に後継者が株式を取得できるか
決算書・申告書株価評価、議決権判定、資産管理会社判定の前提
金融機関資料代表者交代、保証、借入、財務説明への影響

承継元の要件は、税制のチェックリストだけで確認しきれるものではありません。会社法上の議事録、登記、株主名簿、相続関係資料が揃ってはじめて、制度適用の入口を判断できます。

「誰から移すか」は、承継後の経営権を決める

先代経営者・贈与者・被相続人の要件は、単なる制度上の当事者確認ではありません。

誰から株式を移すかは、承継後の議決権構成、後継者の経営権、先代の関与、親族間の公平感、少数株主との関係、そして将来の組織再編や売却の可能性にまで、直接つながっていきます。

制度適用の可否だけを見るのであれば、ある株主からの贈与・相続が対象になるかどうかを確認すれば事足ります。しかし、実務判断としては、それだけでは足りません。

本当に確かめておきたいのは、次のような問いです。

  • 先代経営者と位置づけるべき人物は誰か
  • 先代経営者から先に移すべき株式はどれか
  • 先代以外の株主からの承継は第二種として整理できるか
  • 贈与と相続のどちらが、経営権と相続関係を安定させるか
  • 代表者交代のタイミングは、経営実態に合っているか
  • 株式移転後、後継者が説明可能な支配権を持てるか
  • 親族・少数株主・金融機関に説明できる承継順序になっているか

事業承継税制は、株式を移す制度であると同時に、経営権を次の世代へ移す制度でもあります。承継元の整理を誤ると、税制の適用だけでなく、承継後の経営の安定にも影響が及びます。

まとめ

法人版事業承継税制における先代経営者・贈与者・被相続人の要件では、まず承継元が先代経営者なのか、それとも先代経営者以外の株主等なのかを区分する必要があります。

先代経営者からの贈与では、代表者であったこと、同族過半数、同族内筆頭株主、特例承継計画への記載、代表退任、一定数以上の株式贈与が重要になります。

先代経営者からの相続では、代表者であったこと、相続開始直前の同族過半数・同族内筆頭株主要件、特例承継計画への記載、相続株式の取得関係、遺産分割の完了が重要になります。

先代経営者以外の株主からの承継では、第二種特例贈与・第二種特例相続として、先代経営者からの承継が先に行われていること、贈与者が代表者でないこと、一定数以上の株式を移すこと、認定有効期間との関係を整理する必要があります。

「誰から株式を移すか」は、税制上の入口であると同時に、後継者の経営権を設計する判断でもあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人版事業承継税制の適用可否だけでなく、先代経営者要件、株主構成、贈与・相続の順序、特例承継計画、自社株評価、承継後の議決権管理まで含めて、制度を使うべきかどうかの整理をご支援しています。先代以外の株主がいる、親族間で株式が分散している、相続で株式を承継させたいが遺産分割が不安だ──そうした場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点重要なポイント
承継元の分類先代経営者からの承継と、先代経営者以外の株主等からの承継を分けて考える
第一種特例贈与先代経営者から後継者への贈与。代表者経験、同族過半数、同族内筆頭、代表退任が重要
第一種特例相続先代経営者から後継者への相続・遺贈。相続開始直前の議決権関係と遺産分割が重要
第二種特例贈与先代経営者以外の株主からの贈与。先代経営者からの承継後に行う必要がある
第二種特例相続先代経営者以外の株主からの相続・遺贈。代表者要件等は不要だが、先代経営者からの承継が前提
代表退任贈与では先代経営者が贈与時に代表者を退任している必要がある
同族過半数先代経営者単独ではなく、親族などを含めた議決権で判定する
同族内筆頭特例適用を受ける後継者を除いて、同族関係者のなかで最も多くの議決権を有するか確認する
贈与株式数後継者1人か複数かにより必要な贈与株式数が変わる
相続時の注意点認定申請時までに対象株式の遺産分割が済んでいる必要がある
実務判断要件を満たすかだけでなく、後継者の経営権が安定する承継順序かを確認する
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