回収可能価額・使用価値・割引率の実務判断|IAS第36号における減損テストの測定論点

IAS第36号の減損テストでは、資産または資金生成単位(CGU)の帳簿価額が、回収可能価額を上回っていないかを検討します。

ただ、実務で本当に難しいのは、「計算式を知っているかどうか」ではありません。

難しいのは、その先です。どのキャッシュ・フローを使うのか。どの事業計画を基礎に置くのか。どの成長率を採用し、どの割引率で割り引くのか。そして、その判断を、監査人・経営者・財務諸表利用者にどう説明するのか。ここに実務の重さがあります。

回収可能価額の測定は、単なるDCF計算ではありません。事業計画、経営者の仮定、外部証拠、市場参加者の視点、税金、外貨、リスク、感応度、開示——これらが交差する、IFRS減損会計の中核的な見積り領域です。

本稿では、IAS第36号における回収可能価額、使用価値、処分コスト控除後の公正価値、将来キャッシュ・フロー、そして割引率について、実務判断の観点から整理していきます。

目次

回収可能価額は「高い方」だが、測定基礎はまったく異なる

IAS第36号では、回収可能価額は、資産またはCGUの処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額とされています。どちらか一方が帳簿価額を上回ることが明らかであれば、もう一方をあえて見積る必要はありません。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この「高い方をとる」という考え方は、一見すると単純です。しかし、処分コスト控除後の公正価値と使用価値では、そもそも測定の思想が異なります。

処分コスト控除後の公正価値は、市場参加者がその資産またはCGUをどう価格付けするか、という市場ベースの測定です。IFRS第13号において公正価値は、測定日に市場参加者間の秩序ある取引で資産を売却する際に受け取る価格、または負債を移転する際に支払う価格として定義されます。出典:IFRS Foundation|IFRS 13 Fair Value Measurement

一方の使用価値は、企業が資産またはCGUを継続して使用し、最終的に処分することで得られると見込む将来キャッシュ・フローの現在価値です。IAS第36号は、使用価値の計算に、将来キャッシュ・フロー、その金額や時期の変動可能性、貨幣の時間価値、資産固有の不確実性に対する価格、非流動性といった要素を反映するとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

したがって、回収可能価額を検討するときは、まず次の問いを分けて考える必要があります。

  • 市場参加者に売却するとした場合の価値を測るのか
  • 企業が現在の資産を使い続けることによる価値を測るのか
  • どちらの測定基礎が、対象資産またはCGUの回収可能性をより適切に表すのか
  • 片方だけで帳簿価額の超過を確認できるのか
  • 両方を算定すべき状況なのか

「とりあえずDCFを作ればよい」という整理では、不十分です。同じDCFを用いる場合でも、それが市場参加者ベースの処分コスト控除後の公正価値なのか、企業固有の使用価値なのかによって、置くべき仮定そのものが変わってきます。

処分コスト控除後の公正価値と使用価値を混同しない

処分コスト控除後の公正価値は、あくまで市場参加者の仮定を反映する測定です。そのため、企業固有のシナジー、企業固有の税務便益、特定の所有者だけが享受できる法的権利などは、市場参加者にも利用可能でない限り、公正価値には反映しません。IAS第36号も、公正価値は市場参加者の仮定を反映し、使用価値は企業固有の要因を反映するという点で、両者は異なると整理しています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

これに対して使用価値は、企業が現在の資産またはCGUを使い続けることを前提に、企業固有のキャッシュ・フローを見積ります。ですから、現在の事業運営、既存の顧客関係、既存の生産体制、社内で実現可能なシナジーなどが、IAS第36号の範囲内で反映されることになります。

実務でつまずきやすいのは、市場参加者ベースであるはずの公正価値に、企業固有の事業計画やシナジーを無意識のうちに混ぜ込んでしまう場面です。逆に、使用価値を測定しているつもりで、市場参加者の期待に基づく倍率や市場取引価格だけを機械的にあてはめてしまうこともあります。

測定基礎ごとの違いを整理すると、次のようになります。

測定基礎主な視点実務上の中心論点
処分コスト控除後の公正価値市場参加者の視点市場取引、類似会社・類似取引、評価技法、処分コスト、公正価値ヒエラルキー
使用価値企業固有の継続使用の視点事業計画、将来CF、ターミナル価値、割引率、税引前・税引後、外貨、感応度

ここで大切なのは、どちらが「都合よく高いか」ではありません。どちらの測定基礎が、対象資産またはCGUの回収可能性を説明するうえで適切であり、その仮定が会計基準と整合しているか、という点です。

使用価値は「現在の状態」に基づいて測る

IAS第36号における使用価値は、資産またはCGUの現在の状態を前提として算定します。将来キャッシュ・フローには、資産の継続使用から生じるキャッシュ・インフロー、そのインフローを生み出すために必要なアウトフロー、そして耐用年数終了時の処分に伴う正味キャッシュ・フローを含めます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この「現在の状態」という制約は、実務上とても重要です。

たとえば、将来の大型投資によって生産能力を増強する計画があるとします。しかし、その増強投資から生じる追加キャッシュ・フローを、現時点の使用価値に含めることはできません。IAS第36号は、まだコミットしていない将来のリストラクチャリングや、資産の性能を改善・拡張することから生じる将来キャッシュ・インフロー・アウトフローを、使用価値の将来キャッシュ・フローには含めないとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

そのため、事業計画をそのまま使用価値へ流し込む処理は危険です。事業計画には、経営上必要な投資計画、成長戦略、組織再編、コスト削減、設備増強、新製品投入などが盛り込まれています。しかし、IAS第36号上の使用価値に含められるものと含められないものは、会計上、きちんと切り分けなければなりません。

検討にあたっては、少なくとも次の区分が必要になります。

  • 現在の資産の能力を維持するための支出
  • 現在の資産の性能を改善・拡張するための支出
  • すでにコミットしたリストラクチャリング
  • まだコミットしていない将来のリストラクチャリング
  • 現在の操業状態から生じるキャッシュ・フロー
  • 将来の新規投資・新規事業から生じるキャッシュ・フロー

実務では、使用価値の算定にあたって、将来キャッシュ・フローの基礎、構成要素、現在価値技法、運転資本、税金、外貨、リストラクチャリング、改善支出、割引率を、それぞれ切り分けながら検討していくことになります。

事業計画はそのまま使うのではなく、IAS第36号用に調整する

IAS第36号は、使用価値を測定する際、将来キャッシュ・フローを合理的かつ裏付け可能な仮定に基づかせること、経営者が見積る残存耐用年数にわたる経済状況の最善の見積りを反映すること、そして外部証拠により大きな重みを置くことを求めています。基礎とするのは直近の経営者承認済みの予算・予測ですが、その予測期間は、より長い期間を正当化できる場合を除き、最長5年とされています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

ここで見落としてはならないのは、IAS第36号が「経営者の予算を使う」としながらも、同時に「合理的かつ裏付け可能」「外部証拠を重視」「原則5年以内」という制約を設けている点です。

そのため、使用価値に用いる事業計画は、次の観点から検証する必要があります。

  • 取締役会または権限ある経営者によって承認されているか
  • 減損テスト日と整合する最新の情報に基づいているか
  • 過去の予算達成率と照らして、過度に楽観的になっていないか
  • 市場成長率、価格、数量、粗利率、原材料費、人件費、為替、金利などの外部情報と整合しているか
  • まだコミットしていない再編効果や改善投資効果を含んでいないか
  • CGUの帳簿価額に含まれる資産と、キャッシュ・フローの対象範囲が対応しているか
  • 税引前・税引後、名目・実質、外貨・機能通貨の前提が一貫しているか
  • ターミナル価値の成長率が長期市場成長率を超えていないか、超える場合に合理的な根拠があるか

日本基準では、中長期計画の最長期間についてIFRSほど明示的な5年制限があるわけではありません。そのため、IFRS適用企業が国内実務の感覚で長期事業計画をそのまま使用価値に用いると、IAS第36号との整合性が問題になることがあります。経営者の予算・予測に基づくキャッシュ・フロー予測を原則として最長5年とする点は、日本基準との実務上の差異として意識しておきたいところです。

予算期間後の成長率は「説明可能性」が問われる

使用価値の算定では、詳細な予算・予測期間を超える部分について、キャッシュ・フローを外挿する必要があります。IAS第36号は、予算・予測期間を超えるキャッシュ・フローについて、逓増率を正当化できる場合を除き、一定または逓減する成長率を用いるとしています。そして、その成長率は、対象製品、産業、国、市場の長期平均成長率を超えてはならないとしています。ただし、より高い成長率を正当化できる場合は、例外です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この規定は、減損テストにおける楽観的なターミナル価値を抑制する役割を担っています。

実務では、ターミナル価値が使用価値の大部分を占めることも少なくありません。その場合、詳細予測期間の数値以上に、予測期間後の成長率が減損判定を大きく左右します。だからこそ、成長率は「前期もこの率だった」「経営者がそう見込んでいる」という説明だけでは足りないのです。

成長率を設定する際には、次のような証拠を確認します。

  • 対象市場の長期成長率
  • 国・地域の長期GDP成長率、インフレ率
  • 業界の成熟度
  • 競争環境
  • 価格転嫁力
  • 市場シェアの維持可能性
  • 技術陳腐化リスク
  • 規制環境
  • 過去の実績と予算達成状況
  • 経営者の中期経営計画との整合性

とりわけ、予測期間後に詳細予測期間を上回る成長率を置く場合には、慎重な説明が求められます。実務上、ターミナル・バリューは正式な予算期間を超えたキャッシュ・フローの正味現在価値として算定されるのが一般的です。そして、成長率と割引率の関係が、使用価値に大きく影響してきます。

キャッシュ・フローと帳簿価額は「同じ範囲」で比較する

減損テストでは、CGUの帳簿価額と回収可能価額を比較します。このとき、帳簿価額に含める資産と、キャッシュ・フローに含める項目の範囲が整合していなければ、その比較は意味を持ちません。

IAS第36号は、将来キャッシュ・フローに、対象資産から概ね独立したキャッシュ・インフローを生み出す資産からのインフローや、すでに負債として認識されている債務に関連するキャッシュ・アウトフローを含めないとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この整合性は、運転資本の扱いでとりわけ問題になります。

たとえば、CGUの帳簿価額に売掛金や棚卸資産を含めるかどうか、使用価値のキャッシュ・フローに運転資本の増減を含めるかどうかで、結果は変わってきます。ここで重要なのは、運転資本を含めるか含めないかそのものではありません。帳簿価額とキャッシュ・フローが、同じ条件で比較されているかどうかです。運転資本残高を含める場合でも含めない場合でも、同じ条件で比較しさえすれば、結果は整合します。

同じことは、引当金、年金負債、リース負債、資産除去債務、税効果についても言えます。帳簿価額側に含めるのであれば、回収可能価額側のキャッシュ・フローにも整合的に反映しなければなりません。逆に、キャッシュ・フロー側で考慮しないのであれば、帳簿価額側にも含めない。これが基本になります。

この「同じ範囲で比較する」という考え方は、減損テストの信頼性を支える土台です。計算モデルがどれほど精緻でも、比較対象の範囲がずれていれば、結論は説明できません。

税引前・税引後の混在は、減損テストを大きく歪める

IAS第36号は、使用価値の割引率を税引前の利率とし、将来キャッシュ・フローも税引前で見積ることを求めています。将来キャッシュ・フローと割引率は、税金の扱いについて整合していなければなりません。IAS第36号は、割引率が税引前で決定されるため、将来キャッシュ・フローも税引前で見積るとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

ところが実務では、資本市場データから得られるWACCは、税引後ベースであるのが一般的です。そのため使用価値の算定では、税引後キャッシュ・フローを税引後割引率で割り引き、その結果と同じ使用価値を税引前キャッシュ・フローから導く税引前割引率を、反復計算で求めることがあります。

ここで注意したいのは、税引後WACCを単純に税率で割り戻せば税引前割引率になる、とは限らないことです。税務上の減価償却、繰延税金、欠損金、税額控除、地域別税率、投資税制などの影響により、税引前と税引後の関係は単純ではありません。税引後割引率から税引前割引率を導く際には、税引後キャッシュ・フローを税引後割引率で割り引いた使用価値と同じ結果をもたらす税引前割引率を、反復計算によって求めることになります。

税引前・税引後の論点では、次のような誤りが起こりがちです。

  • 税引前キャッシュ・フローに税引後WACCを適用している
  • 税引後キャッシュ・フローに税引前割引率を適用している
  • 税引前割引率を単純なグロスアップで算定している
  • 繰延税金資産・負債の影響を別途考慮しながら、キャッシュ・フローにも税効果を含めている
  • CGU単位の税率とグループ全体の税率が混在している
  • 開示上の税引前割引率と、モデル内で実際に使った割引率との関係を説明できない

税金の扱いは、減損テストのなかでも監査上とりわけ確認されやすい論点です。単に「税引前割引率を算定した」で終えるのではなく、税引後データから税引前情報へどのように変換したのかを、きちんと説明できることが求められます。

割引率は企業の借入利率ではなく、資産・CGUのリスクを反映する

IAS第36号は、使用価値に用いる割引率について、貨幣の時間価値と、将来キャッシュ・フローの見積りに反映されていない資産固有のリスクに関する現在の市場評価を反映した、税引前の利率であるとしています。また、割引率は、同様の資産に関する市場取引に内在する利率、あるいはサービス能力・リスクが類似する単一資産または資産ポートフォリオを有する上場企業の加重平均資本コストなどから見積るとされています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

ここでの割引率は、企業の資金調達コストそのものではありません。IAS第36号の適用指針は、割引率が企業の資本構成や資産購入の資金調達方法から独立しているとしています。資産から生じる将来キャッシュ・フローは、その資産をどう資金調達したかによって決まるものではないからです。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

実務では、グループ全体のWACCを出発点にすることがあります。ただし、それをそのまま使えるとは限りません。対象CGUの事業リスク、国リスク、通貨リスク、価格リスク、規制リスク、レバレッジ、成長段階、キャッシュ・フローの安定性が、グループ全体と異なるのであれば、調整が必要になります。

IAS第36号の適用指針でも、資産固有の利率が市場から直接入手できない場合には、WACC、追加借入利子率、その他の市場借入利率を出発点とすることが示されています。そのうえで、対象資産のキャッシュ・フローに関連する特定リスクを市場がどう評価するかを反映し、すでにキャッシュ・フローに反映したリスクや、対象資産に関係しないリスクは除外します。国リスク、通貨リスク、価格リスクも、考慮の対象です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

リスクはキャッシュ・フローか割引率のどちらかに反映する

減損テストでよくある誤りが、リスクを二重に反映してしまうことです。

IAS第36号は、将来キャッシュ・フローの金額や時期の変動可能性、資産固有の不確実性、非流動性といった要素を、キャッシュ・フローの調整または割引率の調整のいずれかで反映できるとしています。ただし、どちらの方法をとっても、期待現在価値、すなわち起こり得る結果の確率加重平均を反映することが求められます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

さらにIAS第36号は、割引率が、将来キャッシュ・フローの見積りですでに調整済みのリスクを、再び反映してはならないとしています。そうしなければ、同じ仮定の影響を二重に数えることになるためです。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

たとえば、需要減少リスクをすでに将来販売数量へ保守的に織り込んでいるとします。それにもかかわらず、同じ需要減少リスクを割引率にも上乗せすれば、リスクを二重に反映することになります。反対に、キャッシュ・フローが最善見積りとしてリスク調整されておらず、しかも割引率にもリスクを反映していなければ、今度はリスクを過小評価してしまいます。

実務上は、次の整理が欠かせません。

  • どのリスクをキャッシュ・フローに反映したか
  • どのリスクを割引率に反映したか
  • どのリスクは、すでに市場データに含まれているか
  • どのリスクを、対象CGU固有の調整として追加したか
  • 同じリスクを二重に反映していないか
  • 重要なリスクを、どちらにも反映しないまま残していないか

割引率をめぐる議論は、WACCの計算ロジックを説明することにとどまりません。キャッシュ・フローと割引率のあいだで、リスクをどう配分したのかを説明することにこそ、本質があります。

名目・実質、インフレ、価格上昇の整合性を確認する

IAS第36号は、将来キャッシュ・フローと割引率について、一般的なインフレによる価格上昇の仮定を整合させることを求めています。割引率が一般インフレの影響を含む場合には、将来キャッシュ・フローを名目ベースで見積ります。割引率が一般インフレを含まない場合には、将来キャッシュ・フローを実質ベースで見積りつつ、特定の価格上昇・下落については反映します。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この論点は、インフレ環境下、海外事業、長期契約、公共料金、資源価格、賃金上昇、原材料価格の変動が大きい業種で、とりわけ重要になります。

よくあるのは、キャッシュ・フローでは販売価格やコストにインフレを織り込んでいるのに、割引率は実質ベースに近いものを使ってしまうケースです。反対に、割引率には名目金利を用いているのに、キャッシュ・フローは実質ベースのまま据え置かれていることもあります。

この不整合は、使用価値を大きく歪めます。事業計画上の価格上昇率、コスト上昇率、賃金上昇率、設備更新単価、ターミナル成長率、割引率が、名目・実質の観点で整合しているかどうか。ここは丁寧に確認しておく必要があります。

外貨キャッシュ・フローは、通貨ごとに測定する

海外事業や外貨建取引を含むCGUでは、外貨キャッシュ・フローの扱いが重要になります。

IAS第36号は、将来キャッシュ・フローをそれが発生する通貨で見積り、その通貨に適切な割引率で割り引いたうえで、使用価値の計算日における直物為替レートで現在価値を換算するとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

つまり、外貨キャッシュ・フローを先に機能通貨へ換算し、そのあとで親会社通貨ベースの割引率で割り引くような処理は、通貨リスクや金利環境の整合性を損なうおそれがあります。

外貨建キャッシュ・フローの実務では、次の点を確認します。

  • キャッシュ・フローがどの通貨で発生するか
  • 各通貨に対応する割引率を用いているか
  • 直物レートで現在価値を換算しているか
  • 為替リスクを、キャッシュ・フローと割引率のどちらに反映しているか
  • ヘッジ取引がある場合、減損テストにどう反映するか
  • 機能通貨、表示通貨、キャッシュ・フロー通貨を混同していないか

外貨建ての将来キャッシュ・フローは、為替レートの変動によって、換算後の金額が大きく動くことがあります。日本基準の実務でも、外貨建ての将来キャッシュ・フローを減損判定・測定時点の為替レートで換算する場合には、為替レートの変動が減損処理に影響し得ます。

IFRSでは、これがさらにIAS第21号の機能通貨の考え方とも接続します。外貨建取引、機能通貨、表示通貨、在外営業活動体の換算は、減損テストの外貨キャッシュ・フローと無関係ではありません。IFRSにおける外貨建取引では、機能通貨の決定、機能通貨への換算、表示通貨への換算が、IAS第21号の基本的な枠組みとなります。

処分コスト控除後の公正価値を使う場合の実務論点

処分コスト控除後の公正価値を用いる場合、測定の中心は「市場参加者がどう価格付けするか」にあります。

市場価格が存在するなら、その価格を出発点にできます。しかし、多くの非金融資産やCGUでは、活発な市場における同一資産の価格は存在しません。その場合は、類似取引、類似会社、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチなどを組み合わせ、IFRS第13号の公正価値測定の考え方に従って評価することになります。

IAS第36号も、同一資産について活発な市場における相場価格がなくても、処分コスト控除後の公正価値を測定できる場合があるとしています。その一方で、現在の市場条件のもとで秩序ある取引による売却価格を信頼性をもって見積る基礎がない場合には、使用価値を回収可能価額として用いることができるとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

処分コスト控除後の公正価値を使う場合には、次の点が重要になります。

  • 評価対象は個別資産かCGUか
  • 市場参加者が想定する資産の用途は何か
  • 主要な市場、または最も有利な市場はどこか
  • 類似会社・類似取引の選定に合理性があるか
  • EBITDA倍率、売上倍率、DCFなどの評価技法が、対象資産に適しているか
  • 支配プレミアム、非流動性ディスカウント、少数持分ディスカウントの扱いが適切か
  • 処分コストの範囲が明確か
  • 使用価値と同じ事業計画を使っている場合、その仮定が市場参加者ベースに調整されているか

市場参加者ベースの評価でありながら、経営者固有のシナジーや社内計画をそのまま反映してしまうと、処分コスト控除後の公正価値としての説明が難しくなります。公正価値の測定にあたっては、測定対象、評価前提、市場、評価技法、インプットを、順を追って整理していくことが欠かせません。

使用価値モデルで監査上確認されやすい事項

使用価値は、経営者の仮定に基づく見積りです。そのため監査上は、計算式そのものよりも、仮定の根拠と証拠が問われます。

とりわけ確認されやすいのは、次の事項です。

  • 減損テスト日現在の最新情報を反映しているか
  • 予算・予測が経営者に正式承認されているか
  • 過去の予算と実績の乖離を検証しているか
  • 主要仮定が外部情報と整合しているか
  • 収益成長率、粗利率、営業利益率、設備投資、運転資本、為替、原材料価格に一貫性があるか
  • 予測期間が原則5年以内か、超える場合に正当化できるか
  • 予測期間後の成長率が長期平均成長率を超えていないか
  • 未コミットの再編効果や改善投資効果を含んでいないか
  • 割引率が対象CGUのリスクを反映しているか
  • キャッシュ・フローと割引率でリスクを二重計上していないか
  • 税引前・税引後の整合性があるか
  • 外貨キャッシュ・フローと割引率の通貨が対応しているか
  • 感応度分析により、どの仮定が結論に影響するかを把握しているか

会計上の見積りは、将来事象の結果に依存するために金額が確定できない項目を、期末時点で見積るものです。経営者の仮定によって財務諸表に大きな影響を与え得るため、監査上も重要な論点になりやすい領域だといえます。減損は、その代表例です。

したがって、使用価値モデルを作成する際には、モデルだけでなく、その前提を説明する資料が必要になります。監査対応を見据えるなら、Excelモデル、事業計画、承認資料、外部市場データ、過年度予実比較、感応度分析、割引率算定資料、開示ドラフトを、一体で整備しておくべきです。

感応度分析は「念のため」ではなく、説明責任の中心である

減損テストでは、結論がわずかな仮定変更で覆ることがあります。とりわけ、のれんや耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUでは、使用価値の主要仮定に対する感応度が重要になります。

IAS第36号は、のれんまたは耐用年数を確定できない無形資産が配分されたCGUについて、主要仮定、その値の決定方法、過去の経験や外部情報との整合性、キャッシュ・フローの予測期間、成長率、割引率などの開示を求めています。加えて、合理的に起こり得る主要仮定の変動によってCGUの帳簿価額が回収可能価額を上回る場合には、回収可能価額が帳簿価額を上回る金額、主要仮定の値、そしてその仮定がどれだけ変動すれば帳簿価額と回収可能価額が一致するかを開示します。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

この開示要求は、感応度分析が単なる内部検討ではなく、財務諸表利用者への説明に関わるものであることを示しています。

実務上は、次のような仮定について感応度を検討することが多くなります。

  • 売上成長率
  • 販売数量
  • 販売単価
  • 粗利率
  • 原材料価格
  • 人件費
  • 為替レート
  • 設備投資
  • 運転資本
  • ターミナル成長率
  • 割引率
  • カントリーリスク
  • 顧客解約率
  • 稼働率
  • 規制価格

感応度分析は、「減損にならない範囲」を探すためだけの手続ではありません。どの仮定が回収可能価額を大きく左右するのか、どの仮定の不確実性が高いのか、どの仮定について追加の証拠が必要なのか——それを把握するための手続です。

開示では「主要仮定」を企業固有に説明する

IAS第36号では、減損損失または戻入れを認識した資産またはCGUについて、その認識・戻入れに至った事象や状況、金額、CGUの記述、回収可能価額、そして回収可能価額が処分コスト控除後の公正価値なのか使用価値なのかを開示します。使用価値による場合には、現在および過去の見積りに用いた割引率も、開示の対象です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 36 Impairment of Assets

開示でありがちなのが、主要仮定の記述が一般的すぎる、という問題です。たとえば「将来の売上成長率、営業利益率、割引率を主要仮定としている」とだけ記載しても、財務諸表利用者にとって十分とは限りません。

大切なのは、企業固有の見積りリスクを説明することです。

たとえば、対象CGUの回収可能価額が、特定の市場成長率、価格改定、主要顧客との契約継続、原材料価格、為替、規制料金、設備稼働率に敏感であるなら、それらを主要仮定として検討する必要があります。主要仮定の開示は、規制当局が特に注目する領域です。CGUについて集約した開示ではなく、より踏み込んだ開示が求められる傾向にあります。

使用価値モデルのなかでは重要な仮定として扱っているにもかかわらず、注記では一般的な表現に薄めてしまう。これでは、財務報告としての説明力が落ちてしまいます。逆に、注記に記載した主要仮定が、モデルや内部資料に反映されていなければ、今度は開示と測定の整合性が問われることになります。

回収可能価額の測定で実務上つまずきやすい論点

1. 事業計画が会計上の使用価値に調整されていない

経営計画には、将来の改善投資、リストラクチャリング、新規事業、能力増強が含まれることがあります。しかし、使用価値に含められるのは、現在の資産の状態に基づくキャッシュ・フローです。事業計画をIAS第36号用に調整しないままだと、使用価値が過大になるおそれがあります。

2. ターミナル価値が過大になっている

ターミナル価値は、使用価値の大部分を占めることがあります。長期成長率が市場・産業・国の長期平均成長率を上回る場合には、強い説明が必要です。割引率との差が小さいほど、ターミナル価値は大きくふくらみます。

3. 割引率がグループWACCのままになっている

グループWACCを出発点にすることはあります。しかし、対象CGUの国、通貨、事業リスク、規制、価格変動、成長段階が異なるのであれば、そのまま使うことは難しくなります。対象CGUのリスクと、キャッシュ・フローのリスクが対応しているかを確認する必要があります。

4. 税引前・税引後が混在している

IAS第36号では、使用価値は税引前キャッシュ・フローと税引前割引率で整理します。税引後WACCを使う場合には、税引前割引率への変換過程を説明できなければなりません。単純なグロスアップでは不十分なことがあります。

5. 外貨キャッシュ・フローと割引率の通貨が一致していない

外貨で生じるキャッシュ・フローは、その通貨で見積り、その通貨に対応する割引率で割り引いたうえで、使用価値計算日の直物為替レートで換算します。通貨の不整合は、割引率や為替リスクの二重計上・過少計上につながります。

6. 主要仮定と感応度が開示に反映されていない

減損テストで重要な仮定を用いているにもかかわらず、注記では一般的な表現にとどまってしまうことがあります。とりわけ、のれんや耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUでは、主要仮定、その決定方法、外部証拠、感応度の説明が重要になります。

実務で整備すべき資料

回収可能価額・使用価値・割引率の検討では、次の資料を整えておくと、監査対応や内部レビューで説明しやすくなります。

  • 減損テスト対象資産・CGUの一覧
  • CGU識別資料
  • 帳簿価額に含めた資産・負債の一覧
  • 回収可能価額の測定基礎の選択理由
  • 処分コスト控除後の公正価値を用いる場合の評価資料
  • 使用価値モデル
  • 経営者承認済みの予算・事業計画
  • 事業計画からIAS第36号用キャッシュ・フローへの調整表
  • 過年度予算と実績の比較
  • 外部市場データ
  • 価格、数量、粗利率、原材料費、人件費、為替などの主要仮定資料
  • ターミナル成長率の根拠資料
  • 割引率算定資料
  • 税引後WACCから税引前割引率への変換資料
  • 外貨キャッシュ・フローの通貨別整理
  • 感応度分析
  • 経営者による承認資料
  • 監査人への説明メモ
  • 注記ドラフト

ここで大切なのは、モデルと資料を別々に作らないことです。使用価値モデル、事業計画、割引率、感応度、開示は、一体として説明できる状態にしておく必要があります。

回収可能価額の測定は、経営計画を財務報告に変換する判断である

IAS第36号における回収可能価額の測定は、単なる評価計算ではありません。

それは、経営者の事業計画を、IFRSの測定ルールに照らして財務報告上説明可能な見積りへと変換する作業です。事業計画の数字をそのままDCFに入れるのではなく、現在の資産状態、合理的で裏付け可能な仮定、外部証拠、リスクの反映方法、税金、通貨、成長率、割引率、そして開示との整合性を確認していく。そうした判断の積み重ねが求められます。

とりわけ、のれん、無形資産、海外事業、M&A後のCGU、業績悪化事業、長期契約、規制産業、設備集約型事業では、回収可能価額の測定が財務諸表に大きな影響を及ぼすことがあります。

減損テストで問われるのは、「計算結果が帳簿価額を上回ったかどうか」だけではありません。

  • なぜその測定基礎を選んだのか
  • 事業計画はIAS第36号に合わせて調整されているか
  • 将来キャッシュ・フローは合理的か
  • 成長率は外部環境と整合しているか
  • 割引率は対象CGUのリスクを反映しているか
  • 税引前・税引後の扱いは整合しているか
  • 外貨キャッシュ・フローは適切に処理されているか
  • 感応度分析によってリスクを説明できるか
  • 注記で財務諸表利用者に伝えられるか
  • 監査人に判断過程と証拠を示せるか

これらに答えられて初めて、減損テストは「説明に耐える財務報告判断」となります。

IFRS減損テストの回収可能価額・使用価値・割引率でお困りの方へ

回収可能価額、使用価値、割引率の検討は、IFRS減損会計のなかでも、とりわけ専門的な判断を要する領域です。

事業計画をどのようにIAS第36号用へ調整すべきか。税引後WACCから税引前割引率をどう整理すべきか。ターミナル成長率や感応度分析をどう説明すべきか。海外CGUの外貨キャッシュ・フローを、どの通貨・どの割引率で扱うべきか。監査人に提出する減損テスト資料を、どの粒度で作成すべきか。

これらは、基準本文を確認するだけでは整理しきれない論点です。個別企業の事業実態、経営計画、CGU構造、M&Aの経緯、外部市場環境、そして監査上の論点を踏まえて、初めて筋道が見えてきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに関する減損テスト、使用価値の算定、割引率、のれん・無形資産、PPA、開示、監査対応資料の整理について、事実関係と基準に基づいて、説明可能な判断として整理する支援を行っています。回収可能価額や使用価値の測定に不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。

重要事項の振り返り

論点実務上の考え方確認すべきポイント
回収可能価額処分コスト控除後の公正価値と使用価値の高い方どちらの測定基礎を用いるか、片方で足りるか
処分コスト控除後の公正価値市場参加者ベースの出口価格市場データ、評価技法、処分コスト、公正価値ヒエラルキー
使用価値企業固有の継続使用による現在価値現在の資産状態、事業計画、将来CF、割引率
事業計画経営者承認済み予算を基礎にするが、IAS第36号用に調整が必要未コミット再編、改善投資、能力増強を含めていないか
予測期間原則として最長5年5年超の場合の正当化理由
ターミナル成長率一定または逓減が原則長期市場成長率との整合性
キャッシュ・フローの範囲帳簿価額と同じ範囲で比較する運転資本、負債、金融資産、引当金の扱い
税金使用価値は税引前CF・税引前割引率が基本税引後WACCから税引前割引率への変換過程
割引率貨幣の時間価値と資産固有リスクを反映グループWACCをそのまま使っていないか
リスク反映CFまたは割引率のどちらかに反映二重計上・過少計上の有無
インフレ名目・実質の整合が必要価格上昇率、コスト上昇率、割引率の整合
外貨CF発生通貨で見積り、当該通貨の割引率で割引使用価値計算日の直物為替レートで換算
感応度分析主要仮定の変動影響を把握する手続どの仮定が結論を左右するか
開示主要仮定、成長率、割引率、感応度を企業固有に説明ボイラープレート化していないか
監査対応モデルだけでなく、判断過程と証拠を整備する承認資料、外部証拠、予実比較、開示ドラフト
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